モンハン世界を異世界に紹介する配信ちゃんねる! 作:クラウディ
ワイルズ発売ッ!
私のPCはスペック不足なのでできないッッ!!
悲しいッッッ!!!
「な、んだ、この映像は……!」
研究の休憩のために自室で紅茶を飲んでいた男は、突如として脳内に流れ込んできた情報に困惑する。
この世界において、研究者である彼は世界のほとんどを解き明かしていたと思っていた。
だがしかし、今の脳内に映る光景は彼が持っていた情報のどれにも合致しないものばかり。
細かく探せば一致するものもあるだろう、だがそれにしては何もかもが違い過ぎた。
広大な自然、大地を悠々と闊歩する巨大な生物――『モンスター』。
まるで時代が数百年以上さかのぼったかのような光景に、男の頭はおかしくなってしまいそうだった。
だがこれは夢じゃないぞ、と自身の理性が叫んでいる。
これは紛れもない現実なのだと。
――『クルファ』
脳内に流れ込んでくるこの映像を自身達に送りつけてきた張本人であり、自身達とは住む世界そのものが違うと言ってきた青年。
鈍く青く輝く鎧を身に纏い、身の丈はある巨大な武器を担いでおきながら、それをものともしていないハンターを名乗る人物である彼の語る言葉には、この男をして興味深いものが多く存在している。
「クルファ君……君は一体……」
そう零すように呟いた男は、流れ込んでくる映像に集中していくのであった。
「さて、私のことを知ってもらった上で、この世界についての話を続けていきましょう」
・やっと本題に入るのマジかよ……
・なんか既にお腹いっぱいな気がするんだが……
・でも、すごく気になってきたかも……!
「あはは……まぁ仕方ないですよ。この世界にはそれなりに詳しいと思っている私でも知らないような謎が多いので……」
装備の解説を軽くした後、私は歩みを進めながらこの配信に流れてくるコメントを捌いていく。
自身が先程まで滞在していたのは、ゲームで言うところの「古代林 エリア1」。
山から流れ込んできた豊かな水源が特徴のエリアで、リモセトス達も水を飲みにやってくる。
そこにはあまり大型モンスターも侵入してこず、休憩や風景を楽しむにはもってこいの場所。
そんな平和なエリアから歩みを進めて、私は「エリア6」に入る。
ここは先程よりも広いエリアで、高所に位置するからか風の吹く平原が続く場所。
そんなこのエリアもリモセトスの群れがちらほら見えており、一見すればのどかな場所と思えるだろう。
まぁ、今回受けた「クエスト」的にすぐにここは狩場になるんですけどね。
それはさておき、配信を視聴されている方々にこの世界の説明していこうと思う。
「まずこの世界には、皆様の世界にあるような「魔法」と呼ばれる技術はほとんどありません。まるで魔法のような代物は多く存在するのですが、それでも魔力を用いての技術というのは御伽噺くらいにしか存在していないです」
・えっ!!??
・魔法が、ない……!?
・え、もしかして火種を起こす魔法も!? 風を起こす魔法も使えないの!?
・ちょ、ちょっと待ってくれよ! じゃあなんでアンタは世界を越えて映像を送るような大魔法を使えているんだ!?
「まぁ、なんとなく予想はしていた反応でした。これに関しては世界の違いということしか言えませんね……私が今皆さんに映像を送る魔法を使えている理由に関しては、とある方にこのお守りを渡されたからです。なぜ出来たのかはわかりません。考えるだけ無駄でしょうから……」
・いやそこは分かっとけって! なに渡されてるか分かんないのに使ってるのかよ!?
・私達の世界でそんなのあったら普通に国宝どころか奇跡の度を越しているのに……!!
この世界には魔法がないと伝えると、一気にコメント欄がざわつき始める。
ルーツさんの言う通り、この配信に接続できているのは科学技術の発展した世界じゃなくて、魔法が存在する中世ファンタジーな世界なのだろう。
恐るべしルーツさん……! 流石は全ての祖ですね……!
なんでそれをただの人間である私に押し付けてくるんですかねぇ……
っとと、話がズレそうになっていたので再度話の流れを修正する。
「その代わりですが、この世界の生命体……我々のような『人族』も含めた生物達はそれぞれ独自の進化をしていきました。リモセトス達もあれほど巨大な体を持ち、私達人間も様々な環境に適応しています。そんな大自然が広がっているのがこの世界です。ほら、お食べ」
「…………」
「大丈夫、毒はないよ」
「~~♪」
そう言いながら、木の根元に生えている植物を手に取り、リモセトスの子供に食べさせようとする。
一瞬警戒するような動きを見せた親リモセトスに目配せを送りながら、嬉しそうな鳴き声を上げるリモセトスの子供が近づいてきて、旺盛な食欲で私が手に取った植物をむしゃむしゃと食べて行く。
そんな私の様子を見ているであろう視聴者の皆さんが次々にコメントを送ってきた。
・確かに……魔法が使えないとなるとそれ以外の力で生存競争に打ち勝たなければならない……私の世界の進化論としてもおおむね同意せざるを得ないな
・まぁ、そういうもんとして納得しておくわ。にしてもクル坊、お前さんすごい懐かれてんな
・リモセトスの子供可愛い~! 私も食べさせてあげた~い!
・飼いならされてる……訳じゃなさそうだからこれはクルファさんがすごいんだな。普通、野生の動物にこんなに警戒心なく近づかれるのって然う然うねぇだろうし
「子供の頃からいろいろな動物に懐かれやすい体質でして、まぁこれが私の才能ってやつですよ。ライダーの方が私にはあっていたのかなぁ……」
・ライダー……?
・それってどういうものなのクルファさん?
「あ、これはまたの機会に。これも話そうとすると情報量が大きくなってしまいますので……」
ライダーに関する話をしようとするとこれまた話が長くなりそうなんです……!
それはさておき、この世界についての話を再開します。
「リモセトス達のような草食性の種の中には、大型の肉食モンスターのような戦闘能力を持つモンスターも存在します。肉食のモンスターは言わずもがな。しかし彼らの大半も魔法は使えません。その代わりに肉体が非常に強靭です。魔法が使えないのなら肉体でそれを補っているというところでしょう。リモセトス達のような温厚なモンスターでも、その巨体から繰り出される体当たりとかは普通に痛いですし、当たり所が悪ければ頑丈な防具を着ていても病院送りなんてザラです」
・それほんとに草食か???
・どんなモンスターなのそれ……
「この世界は思っている以上に過酷です。人類が生存圏を確立させられた中心都市ならまだしも、辺境の土地では完全にモンスター達の領域ですね。もっぱら人が定住できるような土地はほとんどありません。モンスター達がいるということもそうですが、一番は環境です」
私はそう言いながら、リモセトスの子供の頭を撫でつつ話を続けていく。
「この古代林は温暖な気候をしており、雨季には雨も降ります。その為、安定した資源と生態系が築かれているのですが、それは人だけではなくモンスター達にとっても同じ。そして「食べたい」「寝たい」「次世代に繋ぎたい」……そんな欲求を持つ彼等もまた、この世界に『生きる』者達ですから」
・おぉ……
・なんか、すっごい深みがあるというか、あんまり考えたことがなかったというか……
・……確かにな、魔物だろうがモンスターだろうが、そいつらだって生きている。そして俺達も生きていたいから強くなっていくんだ
・なるほど……同じ研究者としても同意せざるを得ないね。命は巡り、回るものと
……持論だったけれど共感してもらえてよかった。
この世界――『モンハン世界』では命の巡りというのはとても激しいもので、今を生きるだけでも必死な人、モンスター達が多い。
だからこそ、時折忘れてしまいそうになるのだ。
彼等だって生きている者達なのだ、と。
それを忘れてしまえば……もはやただの獣になってしまうだろう。
今回の配信で少しだけ話題に上げてみたが、思った以上に効果はあったようだ。
「あはは……持論ですけど共感してもらえてうれしいです。さて、この世界がどのようなものか知ってもらった上で次は――っ!」
と、続きを話そうとしたところで、私は背筋に走る電流のようなものを感じた。
すぐさま背負っている武器――『砕光の盾斧』の柄に手をかけ、すぐにでも戦闘ができるようにする。
そろそろ腹を空かせて来るだろうとは思っていたが……タイミングを見誤ったか。
「…………!」
「……あっちに逃げていいよ。皆に知らせて」
「…………ブォオオオオオオオオオオオオ……!!」
自分が臨戦態勢に入ったのを見て、親のリモセトスが周囲を警戒する。
そんな彼らに逃げていい方向を指し示し、すぐさま避難させていく。
正直、自分と『これから現れるであろうモンスター』が暴れると、流れ弾で彼らに被害が行きかねない。
・ちょ、いきなり構えてなんかあったのかよ!? もしかして敵か!?
・あ、なんか映像越しだけど変にビリビリする感覚がががが!!??
・……へぇ……? いい目つきじゃねぇの
・リモセトス達が逃げていく……なるほど、捕食者が来たのか……
・あ、なんかすっごい足音とか聞こえて来た……!!
・足音の間隔からして、二足歩行……重量は相当だな……体格も大きい……少なくともワイバーンみたいなやつじゃねぇな
・逃げなくて大丈夫なのクルファさん!?
周囲に張り詰めた空気が漂い始めたことにコメント欄の方々もおおよそは察したようで、焦り始める人や冷静に分析する人のコメントが視界の端に見えた。
足音からして予想していた通りのモンスターが現れると推測し、すぐさま指笛を鳴らして自身の相棒を呼ぶ。
地面から飛び出してきたのは、二足歩行をしている猫と言った方が分かりやすい姿の生物――『アイルー』。
そんなアイルーの中でも、自身の頼れる相棒の一人である元気なオトモ――「キナコ」が自身の隣に並び立った。
「ハイにゃ! 呼ばれて飛び出てキナコ参上! ようやくボクの出番ですかにゃ!?」
・!!??
・なんかまた出てきた!? って、可愛い!
・もしかして、獣人族か?
・キナコっていうのか?
「そうですにゃ! はじめまして皆さま! 旦那様のお話に付き合ってくれてありがとうございますにゃ! 皆様のことは先程から見守っておりましたにゃ! よろしくお願いしますにゃ!」
「キナコ、君の方はどうだい?」
「はいにゃ! 目標は『エリア2』からこちらへ向けて移動を開始してますにゃ! ボクの鼻に狂いはないにゃ!」
「ありがとう。それじゃ、いつも通りに」
「了解にゃ!」
キナコの登場に沸き立つコメント欄に挨拶を返したキナコに尋ねると、今回のクエストの狩猟対象はこちらへと移動しているらしい。
あと数分もしないうちにこのエリアに入ってくるだろう。思っていた通りだ。
「皆さん、この世界においての『ハンター』という役職は、ただモンスターを狩るだけではなく、生態系のバランスを保つ『調停者』の役割も担っています。片方が崩れればそのバランスを人の手によって整える……まぁ、そんなものです」
・言ってる場合ですか!?
・おい! 本当に大丈夫なのかよクルファさん!?
・落ち着けよお前ら。クルファの奴さん、勝てる算段が付いてるからこんな余裕そうなんだよ
・……危険そうだったら早く避難するように。もっとも、余計なお世話かもしれんがね
「あはは……慣れっこですよ。――キナコ!」
「鬼人笛! いきますにゃ! ~♪」
信頼を背に私は武器を構えて相対するモンスターと視線を交差させる。
さて、せっかく初回の配信なのでここはあのセリフで行きましょうか。
「――ひと狩り、行きますッ!!!」
「グルルルッ……ゴァアアアアアアアアアアアアア!!!!」
そして私は、登場したモンスター――『ディノバルド』に向けて駆けだすのでした。
本格的な狩猟シーンは次回からです()