アサルトブレード   作:新田トニー

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第11話 強い女性には気をつけよう

 

 俺達は建物を飛び回り、まだ悪人を探していた。

 もう一人食ったんだから十分だろ。

 まだあのとぅるんとした脳髄の触感が気持ち悪すぎて忘れられない。

 

「おい、もういいだろ!?一人食ったんだからもうお腹いっぱいだろ?な?」

 

 ──あと一匹、あと一匹でイイ感じになる。あと少しで腹いっぱいになる。

 

 あんだけ食べてまだ腹減ってるのかよ!?人肉の大食い選手権でも目指しているのかこいつは。

 どの程度を以って大食いと定義するのかは分からんがヤクザを何人も食って今度はおつまみにコンビニ強盗を食ってまだ足りないのか?次は誰を喰う?生活保護不正受給者か?

 

 ──!大道、今の声聞こえたか!?

「聞こえませーん何も聞こえませーん」

 ──か弱き女が俺を呼ぶ声が聞こえた。

「それ幻聴だよ。恐らくお前が喰ってきた悪人の悲鳴だろ」

 ──こっちだ!助けに行こう!

「まずは俺を助けてくれよ」

 

 アサルトは俺の言う事は全く聞こえていないかのように振る舞い、勝手に俺の身体を動かして移動した。

 

ビルとビルの間を縫うように走ったり飛んだりしていると、確かに一人の女性が不審な人物に追いかけまわされている様子が見えた。

 

「なんでこんなぽんぽん見つかるんだよ。日本って治安良い国じゃなかったっけ?」

 ──どこにでも弱者を食い物にする悪人は存在する。俺達はそいつらを食い尽くす正義のグルメ家だ。

「ミシュランに応募したらどうだ?多分今すぐ採用してくれると思うぜ」

 アサルトは建物の上から様子を窺い、何かのタイミングを狙っていた。

「おい、何してんだ。助けるなら早く助けてとっとと家に帰ろうぜ、もう良い子は寝る時間だ」

 ──好きな女の食事の好み調べて食レポしてる奴が良い子なわけないだろ。

「お前人の記憶覗いてんじゃねぇよ!ていうかずるいぞお前は人の赤裸々な記憶覗き見して俺は出来ないなんて!」

 ──うるさい。俺は今一番最適な登場の機会を待っているんだ。

 

 そう言ってアサルトは目を細めて注意深く観察していた。

 まるで学芸発表会でガキが『今か?今出るべきか?』と体育館の檀上の垂れ幕から出演の機会を窺っているかの由奈浮足立った様子だった。

 

 ──あの女が捕まり、侵されそうになったその直前に俺が上から英雄的着地をしてこう言うんだ『その薄汚い手を放せ、悪しき魂の持ち主よ。俺がお前の悪行を精算してやろう』というかっこいい台詞を言うんだ。

 

 設定盛り過ぎだろ。中学生の授業中の妄想かよ。

 

「きゃあああ!やめて!来ないで!」

「い、いや違う!俺はただ──」

 

 女は悲鳴を上げ、追いかける男は女に更に近づく。

 

 ──今だ!

 

 アサルトはここだ!このタイミングだ!と言わんばかりに嬉々として跳躍し、宙を舞う。

 

「来るなっつってんだろが!」

「え?」

 

 女は突然立ち止まり、男に強烈な右フックを男の顔面にお見舞いした。

 

「ふぇみっ!」

 右フックは男の顔面に丁度良くぴったり嵌まるように完璧に決まり、ノックダウンさせる。

 

「女だからってどうにか出来ると思ったら大間違いよ!私仕事終わりはボクシングクラブに通ってるんだから!」

 

 なるほど道理で動きが完成されてた理想的なパンチだったわけだ。

 男は完全に伸びており。気絶している。

 そしてこの強烈な女を助けようとしたアサルトもまた固まって動けなくなっていた。

 

「え!?鎧武者!?なに?私を手籠めにする気!?言っとくけど私強いから!プロのボクサーも君の右腕には神が宿っていると言われたんだからね!」

「あ、ああ。いや、俺は君を助けようとしただけなんだ……まぁ、その必要はなかったわけだが」

 アサルトのその言葉に、女性はむっとし、顔を強張らせる。

「なに?私みたいな女性は全員守らなきゃいけない庇護の対象とでも思ってるってこと!?」

「いや、別にそんなことは無い。今の時代の女性はとても聡く、強いのだな」

「は?昔の女性は頭が弱くて虐げられるのが当然だったって言いたいわけ?あなた一体どういう価値観で生きてるわけ!?失礼にもほどがあるわよ!」

「……」

 

 あのアサルトが絶句して何も言い返せなくなっていた。俺はその姿を見て心底馬鹿にしてやりたかった。

 

「でもまぁ今のバカな男達が居る時代に暴漢に襲われた女性を助けようとするその精神は気に入ったわ。最近は芋引いて積極的に関わることが少ないからね。良い男じゃない、あなた」

 

 女性の言葉を聞いて嬉しかったのだろうか、アサルトは仮面越しに笑みを浮かべ気分を高揚させたのが俺にも伝わった。

 

「さてと、この男を警察に突き出して罪を自覚させてやらくちゃ……ん?」

 

 女性は倒れている男の身柄を漁っていると、何かを発見したのか、一瞬固まった。

 

「これ、私のハンカチじゃない。まさか……」

 

 途中まで言いかけて、女性は一つの答えに辿り着く。

 

「は、ハンカチ落としたのを見て……返しに、来たんです……」

 

 気絶していた男は意識を取り戻し、微笑んでそう言った。

 殴られた事で唇が切れたのか、口元をひくつかせて手で抑える。

 

「そ、そうだったの!?ごめんなさい私ったらてっきり暴漢かと……」

「いえ、僕も自己紹介もせずいきなり追いかけたのが悪いんです……」

「あ、あの…良かったらウチ寄ってきませんか?お礼と傷の手当しなきゃ……」

「え?いいんですか?」

「当然じゃない。怪我させたのは私なんだもの……それとも嫌かしら?」

「い、いえそんな!喜んでオトモさせていただきます!」

「ふふ、なによおともって。面白い人……」

 

 男性と女性は何か良い雰囲気になり、アサルトと俺は完全に蚊帳の外になる。

 

 ──……帰るか。

「どうした、食事はもう良いのか?

 ──食欲がなくなった。

 

 相手にされなくなったのか、それとも人間の女にガン詰めされて意気消沈したのか、アサルトの声はワントーン低くなっていた。上を見てみると、夜空の星々がより一層強く発光して輝いていた。

 

 今、俺は我が家へと向かっていた。

 別に遠くはないのであと少し歩けば直ぐに着く距離だった。

 

 ──どうだ、正義を貫くというのは。素晴らしいものだろう?

「バカバカしい。人助けなんか下らねぇ。他人なんか助けてなんか得あんのかよ。そもそもお前がやったことってただの人殺しじゃねぇか」

 ──違う。俺達が、やったんだ。俺達二人の手柄だ!

「やめろ!俺を巻き込むな!俺はなし崩し的に手を、いや身体を貸しただけだ!」

──だが結果的にはあのコンビニ店員を助けて俺の腹は多少は満たせた。あぁ、今日は楽しかった。

 

 満足そうに笑うアサルトに俺はため息交じりに

 

「なんだってヒーローごっこなんかやってんだ?お前の前のご主人様はもう死んだんだろ?だったらもう自分の好きなようにすればいいじゃねぇか」

 

 俺の思った感想を吐露した。

 

──いきなりどうした。悩みでもあるのか。

「純粋な疑問だよ」

 ──空腹のままお前の家に帰ったら家族が一人消えているかもしれないからな。

「冗談でもやめろよ。次そんなこと言ったら問答無用で出て行ってもらう」

 ──別に冗談じゃないのだが。

 

 アサルトの本心の言葉に俺は沈黙した。やっぱりあの強盗には悪いが、食われてもらって正解だったな。

 

 ──しかし、お前は家族にやけに過敏だな。そんなに好きなのか?

 

 アサルトは純粋な思いで疑問を口にした。

 悪意が無いが故に無為にも出来ず、俺は仕方なく答える。

 

「そんなの当たり前だろうが。家族は誰よりも大切だ。守らなくちゃいけない。いちいち見ず知らずの他人ばかり助けてたお前の前の飼い主の気持ちが分からないよ」

 

 まるで俺の親父みたいだな、と言おうとした言葉を飲み込んで腹に押し込んだ。

 

──いや、お前の言う通りだ。俺も最初はアイツは最高品質の阿呆だと思っていた。

 

 アサルトは意外な事に俺に同調した。

 千年も共に生きた男を馬鹿にされたらキレて襲い掛かってくるっだろうと高をくくっていたのに、見当外れの答えに俺はペースを崩される。

 

──俺と奴の、正道の関係は非常に複雑な関係だった。俺と奴との出会いは必然だった。

 

 アサルトははるか昔の記憶を追うかのようにしみじみと言う。

 

──お互い死にかけの状態でな、しかも敵に追われてたものだから俺達は手を組まざるを得なかった。良い関係だったよ。アイツは気に入らない悪人をぶった斬る、俺はその肉を食う。あの頃は今よりも命の価値が低く、飽食の時代だった。

 

 アサルトの前の相棒の名が今初めて出た。

正道、正しい道と書いて正道。確かに正義という言葉が大好きそうな名前を持った奴だ。

 本当にムカッ腹が立つぜ。

 

「まぁ今は法律も整備されてるし、監視カメラやSNSのインターネットの目が身近にある。今日だってヒヤヒヤしたぜ」

 

 俺は笑いながらそう言うとアサルトは「うぅむ」と悩まし気な声を上げた。

 

「なんだよ、なんか言いたいことでも?」

 ──お前は何故そこまで他人に関心がない?しかも正義という言葉を酷く毛嫌いしている。何故だ?

 

 アサルトは矢継ぎ早に俺に聞く。俺は心の中で舌打ちをした。本当は何があったかを知っている癖に、奴はどうしても俺の口から言わせたいのだ。

 

「俺の父親は刑事だった。犯罪を犯した人間だったら相手が権力者の息子だろうがヤクザだろうが狂人だろうが、意に介さずワッパをかける恐れ知らず。それも驚異の検挙率を誇る、超優秀な指折りの刑事だったよ」

 ──立派な父親じゃないか。不正を許さず悪を裁く、善人の鑑だろう?

「そのために家族をほったらかしにしてもか?」

 ──正義を貫くためには必要な犠牲じゃないか。何を気に病むことがある?

「家の外じゃ賞賛に値する人間かもしれないがな、家の中じゃ犯罪者も舌を巻くほどのウソつきだったぜ。俺は別にいい。だが忙しすぎて碌に会話すらできない母さん、遊園地に行く約束をしてたのに平然となかったことにされた葵。俺は母さんの悲しそうな顔や、構ってもらえなくて泣いてる葵の顔を見て思ったよ、このクソ野郎が父親じゃなけりゃ良かったのにってな。まぁ家族がいたことないお前には分からないだろうよ」

 

 しまった、いくらコイツでも今のは言い過ぎた、と頭の中で警鐘を鳴らす。アサルトは暫し黙り込んだ。だが、

 

──いいや、俺にも家族はいた。まぁ、殺し合いになって俺以外全員死んだが。

「え……わ、悪かったな。お前の事情も知らずに言って」

 

 俺は相手の気持ちを考えずに言ったことに深く反省していたのにケロッとしたなんともない様子でえげつない話を聞き、無性に胃が痛くなった。

 

 ──何をいきなり。俺の故郷じゃよくあることだ。おい、もう家に着いたぞ。

 

 奴の故郷の話が気になるが、それは後でにしよう。

 話に熱中していたせいか、気が付けばもう家の玄関扉まで来ていた。

 俺はインターホンを鳴らす。

 「はーい」と機械混じりの明るい声が聞こえる。インターホンや携帯越し特有の声だ。

 俺は帰ってきたこととドアを開けてもらうよう言う。

 すると母さんが玄関扉の鍵を開け、出迎えてくれた。

 

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