二日経って月曜日、俺はいつも通り学校に来ていた。
何故日曜日の出来事を飛ばしたのかというと、特に語るべきことが無かったからだ。
俺はあの戦いのあと、疲れがたまっていたのかぐっすりと寝ていた。
だが母さんや葵にちょっぴり叱られた。
俺が起きた途端デートの結果はどうだったと根掘り葉掘り聞かれたが、彼女が好きになのは俺ではなく、俺の頭の中に住んでる奴が好きだから振られたなんて言えず、のらりくらりと曖昧模糊な回答をして躱した。
だが俺の雰囲気、答え方で察したのか、義父さんも母さんも葵も何故か一日中俺に対して優しく接してた気がした。おそらく気のせいだろう。
──ククク、あの女は俺の虜だ、お前にはやらんぞ。
アサルトが勝ち誇ったような調子のいい声で囁いてきた。
「女性を物として扱うのはやめておいた方がいいぞ。今の世の中はそういうのにうるさいんだ」
俺は周囲には聞こえないようにぼそりと言った。
今俺は学校の教室内にいる。
昼休みの最中だった。
クラスメイト達はそれぞれの話題を持ち出し、楽しく談笑していた。
俺もその中に混ざりたかったが、俺がいつも輪に入ると雰囲気が微妙になってしまうため、中々馴染めないのだ。
そしてそれもそうなのだが、俺が間に入れないもう一つの理由がこれだ。
「すげーよな!一人で車でヤクザの組の事務所に突っ込むなんて!頭がおかしいぜ!」
「しかも刀でヤクザの親玉を殺したとか!」
「流石にデマだろ。ありえない」
クラスの話題は二日前のヤクザの組長殺しの件で溢れていた。
人は非日常に飢えているというが、あらゆる非日常を体験した俺からすれば、日常が恋しい。
俺も向こう側に戻れは……いや、元々俺に向こう側の居場所はない。さびしいがそれが現実だ。
花連の方をちらりと見てみると、相変わらず女子友と楽しそうに話していた。
話題はイケメンの芸能人やアイドル、服やアクセサリーが主だった。
花連はそれこそ微笑ましそうに話しているが、俺は彼女の本当の姿を知っている。
彼女は何よりも非現実的な刺激を愛しており、その中に身を投じるほどのネジが外れた人間だと、俺だけが知っている。
「そういえば花連さ、見た?ヤクザが殺されたニュース!」
花連の友達の一人が話題替えのために物騒な話を持ち出した。
なんてことだ、最近の中高生はそんな残虐な事すら話のタネにするなんて、ナンセンスではないか。
「えー、ちょっと!怖い話とかやめてよ。私苦手なの知ってるでしょ?」
と花連は猫を被って言う。
無免許でスーパーカーを乗り回してビルに突っ込んだ女とはとても思えない。
花連は「こわーい」と言って大げさな反応を見せる。
なんて女だ、表と裏の顔を完璧に使いこなしている。
「あまりうかつに話さないでよ。もしかしたらいるかもしれないんだよ?日本刀を持った侍がさ」
「えっ?侍?侍が殺したの?」
「さぁね。でも案外近くにいるかもしれないってことだよ」
俺が物思いに耽っていると、花連は俺を見た。
振られて、今は初めての彼女がいるというに、彼女の瞳を見て思わずドキリとしてしまう。
花連は俺に口パクで何か言いかけていた。
俺は読み取れず、目を細める。なになに?「み」「ぎ」「と」「な」「り」だと?どういう事だろう、と俺は彼女に言われた通り、右の隣を見てみる。
「……」
そこには血走った目で俺をゼロ距離から俺を睨む薫の姿があった。
「ぎゃあ!?」
俺は椅子から転げ落ちそうになるほど椅子を揺り動かした。
それもそのはず、薫は俺が気付かないほど影を消し存在を消しながら近づいていたのだ。
いや、それとも花連に見とれていたから気づけなかったのか。
「大道……今どこ見てたの……?」
薫は口から何の言語か分からない呪詛を吐き出しながら俺を睨んでいた。
なんだこれは、俺は今尋問されているのか?下手にごまかしても薫は全て知っている。
ウソをつくのはやめた方がよさそうだ。
「いや、花連の方を見てたんだ……ほら、俺ってやっぱ振られたんだなぁってさ」
俺はありのままの真実を話した。
すると薫は俺の思っていたことを知ってか知らずか、はぁ、とため息をつきながら「まぁそう言う事だろうと思った」と言い、薫はしゃがんで俺の机の前に顎を乗せる。
「でも心配しないで。私がアンタをあの子の事なんて考えられなくなるくらい、私に惚れさせてみせるんだから」
と自信満々に白い歯をニカリと見せ、顔をクシャッとさせて微笑んだ。
俺は、彼女のその笑顔に今まで彼女に対して抱いていた物とは違う感情を感じた。
安心するような、でも身体を中心部から一瞬で沸騰させて茹でダコにさせてしまうような、心臓が止まってしまうのではないかと思わせるくらいの美しい笑顔だった。
「綺麗だ……」
俺は心の中で最初に浮かんだ言葉を思わず口に出していた。
俺はそれに気づかず、薫の顔を見つめていると、薫は俺の言葉を正しくそのまま受け取り、顔を紅潮させる。
「バカ!そんなストレートに伝えられたらこっちが困るわ!もう!」
薫は怒ったり照れたり表情をころころと変えながらおろおろしていた。
その時花連の笑った声が聞こえた気がした。彼女は今もこの状況を楽しんでいるのだろうか。
「ていうか、大丈夫なの?」
薫は心配そうに俺に尋ねる。だが俺は何を心配されているのか分からなかった、なぜなら俺の心配事は千にも万にもなるからだ。
「何が?」
「何がって……アンタ、あのヤクザに何回も斬られてたじゃない。普通ならとっくに死んでもおかしくないほどの傷だったはず……」
なんだ、そんなことか、と俺は安堵した。
そのことについては心配ない。なぜなら──
「ウェポニアンは人間の心臓を喰えば傷ついた身体も癒せるわけだから心配はいらない」
アサルトが代表して言った。
だが俺達は先の戦いで本来持っていた数百年分の寿命をごっそり削られてしまった。
ウェポニアンと身体を共有している者は一心同体、心臓を食べなければ生きてはいけない。
だからすぐにでも燃料補給をするべきだ。
だが一般市民などもってのほかだ。
そして都合よく悪人は現れない。
「いや、悪人は必ず現れる。あの時と同じだ」
アサルトは確信しているかのように言う。
あの時とは、あれか、コンビニ強盗を喰った時か。
だがあれは偶然たまたま現れただけでそう簡単に犯罪は発生しない。
そう思い、俺はふと外を見てみる。
腰の悪そうなばあさんが歩道を歩いていた。
それだけだったが次の瞬間スクーターに乗った黒いヘルメットを被った奴がばあさんの腰掛けカバンを奪い去っていく姿があるではないか。
「…まじか」
「二度あることは三度あるとはまさにこのことだな」
「馬鹿か、これは二度目。三度目じゃない。お前本当に千年も生きてるのか?その割にはオツムが弱いぞ」
「そんなこと話してる場合か!早くしないと逃げられるぞ!」
アサルトは話を逸らし、俺の身体を無理やり窓の方へ動かす。
「えっ、ちょっと大道、何してるの?」
薫が不安げな表情で聞いて来る。
俺は俺の意志とは反対に、手が勝手に窓を開けた。
心地の良い風が俺の頬を撫でる。
だが俺のいる階は三階、普通の人間なら飛び降りれば当たり所が悪ければ死ぬ。
だが不思議と恐怖は全くない。
50階建ての高層ビルから地上まで叩き落されたからだろうか。
「まさか、悪人退治?」
「そういうことだ」
正確に言えば喰うけどな。
「早く帰ってきなさいよ。今日は……デートするんだから」
薫は言い淀みながらボソリと言った。
薫は照れながらい俺に言ったので、俺もそれに釣られて鼻がむず痒くなる。
「あ、ああ。直ぐ帰ってくるよ」
俺は三階の窓から飛び降りた。
幸いと言うべきかどうか、
俺を見ている人間は薫や花連を除いて一人もいなかったので騒ぎになることはなかった。
俺は三階から一気に地上に降りると、鎧を身体に纏わせ、先程の窃盗男を追いかけた。
俺はウサインボルトも悔し涙を流すほどの超人的スピードで追いかける。
最初は米粒サイズに見えるほど遠くに居た窃盗男は、次第に大きく見えるくらい近くまで追いつき、そして通せんぼをしてスクーターを素手で止めた。
「…!?ッ!?」
男はアクセルを吹かすがスクーターはこれ以上前には進まず、タイヤが空回りするだけだ。
「な、なんだお前!?」
男はヘルメット越しでもびっくり仰天顔で叫んだことが分かっていた。
そりゃあいきなり鎧武者が猛スピードで追いかけてきてスクーターを素手で止めに来たら誰だって同じ反応をするだろうな。
俺は男の頭を掴み、ヘルメットを無理やり外した。
「どうだ、アサルト。コイツはいい栄養分か?」
「まあまあだな。身体は細くも太くもないし、病気持ちでもない、及第点。心臓に期待だな」
俺とアサルトは品定めをするかのように男を見た。
「な、何をする気だお前……?」
男はスクーターに乗ったまま恐怖に支配された引きつった表情で俺を見る。
「まずお前は体の弱い婆から資産を奪った。だから俺達もお前から資産を奪う。まずはお前を今日まで生かしてきた心臓からだ。そのあとは今まで碌に使われなかった可哀想な脳味噌。さらにそのあとはお前の肉、臓器、全てを喰らってやる。そして骨をキャンディーみたいにしゃぶらせてもらおう」
俺からアサルトに変わり、恐ろしい脅し文句を男に言い聞かせた。
男は恐怖のあまり人見知りのチワワみたいに身体を震わせたまま動かせない。
「お、お前……い、一体なんなんだ……!?」
男はようやくその言葉だけ振り絞るように言葉にした。
「ん……?ああ、俺の名は──」
アサルトは一呼吸置いてニヤリと口角を上げて、
「アサルトだ」
笑ってソイツの頭に嚙みついた。
俺達の共生は、まだまだ続きそうだ。
ここまでご覧頂き誠にありがとうございました。この作品は公募兼息抜きがてら執筆した作品です。とりあえずちゃんと終わらせた作品はこれが初めてではありますが、機会があれば続編を書こうかなとも思いますし、再構成してまた別の作品として書き直すかもしれません。最初に言った通り、この作品は公募に応募したもののクセが強すぎて一次にも擦りはしませんでした。小説を書いてるといつも頭のどこかで「私の作品はクソだ。そして私はそのクソに集るハエだ」と思ってしまう時があります。しかし私の好きな映画監督がこう言っていました。「自分の感情や自己判断は無視して、とにかく書き続けること。たとえ駄作になったとしても、後から改良すればよいのだから問題ない、わざわざ気に病むな」と。ですので私もこれを見ている貴方も、何かに打ち込んでいる時、熱中している時、現状に不満や停滞を感じても進み続けるしかないのです。進んだ先に何があるかは分かりませんが、続ける限り何かしら得るものはあるはずです。それでは次の作品、もしくは連載中の作品でまた相見えましょう!