ヒーローとヴィランが馴れ合うタイプの世界で、やさぐれ合法ロリTS魔法少女   作:ゴーローR

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ダスト・ブレイカーは価値観を壊される

 雪野シアは、ヒーローに憧れていた。

 レジェンドヒーロー、マスクド・ケンシ。

 当時現役最強戦隊と言われていた、プラネットゥーン。

 そしてトップオブトップヒーロー、マジェスタ☆ヒカル。

 

 数年前のシアは、そんなヒーロー達に憧れて、自分もヒーローになりたいと思いながら生きていた。

 無邪気に、未来のことなど何も知らず。

 

 そんなシアは、ある時とある災害に巻き込まれて死にかけた。

 誰もが絶望に暮れる中、燃え盛る災害の現場で、誰かを助けようとして――それは叶わなかった。

 シアには何の力もなかったのだ。

 ただの子どもが、人を救う力なんてあるわけない。

 奇跡は起きないのだと、思った。

 

 

「大丈夫? もう安心して、ヒーローが来たから」

 

 

 一人の少女が、すべての絶望を吹き飛ばして人々を助け出すその時までは。

 

 真知野ヒカル。

 魔法少女マジェスタ☆ヒカル。

 その名前を知らない人間は、そういないだろう。

 

 シアが助けられた時点で、十年近くヒーローとして活躍する魔法少女だ。

 一般的に、ヒーローの全盛期は一年、長くて三年と言われている。

 そんな中で、十年もの間全盛期を保ち、ヒーローを続けている彼女は間違いなく異端のヒーローだ。

 

 しかも、元は男性だったというのだから驚きだ。

 黒を基調とした、ナイトドレスのような魔法少女の衣装は彼女を非常に際立たせ。

 あんなにも可憐に、ヒカルを彩っているというのに。

 

 だが、そんな彼女がトップヒーローであることを、疑うものはいない。

 最初のうちは、男性から女性になった不可思議なヒーローとして話題になった。

 何かと彼女に対する物言いも増えたが、十二歳とは思えない対応でそれらを捌き切り。

 一年も経つ頃には、普通のヒーローとして受け入れられていた。

 

 そんな彼女が真の意味で注目を集め始めたのは、彼女がヒーローになってから五年ほど経った頃だ。

 全盛期が終わらない。

 身体的に成長しないから、魔法少女の衣装を未だに着られる。

 結果として彼女は、男性から女性になったヒーローという肩書以上の、特別なヒーローになった。

 

 そんな彼女が世間で大きな注目を集めたのは、彼女の起こしたとある運動が原因だ。

 

 ヒーローの当番制の導入である。

 

 当時から、ヒーローは世界中に数多くいた。

 そのうえで多くのヒーローは、正義感と責任感が強く無茶をしがちだ。

 相次ぐ過度な労働と、それによる疲弊。

 結果として、ヒーローは数多くいるはずなのに、結構なヒーローが過労でダウンしてしまうという。

 本末転倒なことが起きていたのだ。

 

 これを解決したのが、この当番制。

 各地の大きなヒーロー組織に掛け合って、数年をかけて完成したこのシステム。

 当番ではない日は()()()()()()()()()というルールを徹底し、もし出撃したら必ず代休を取らせるシステム。

 現場に居合わせたり、手が足りない時などは柔軟に対応できるよう様々な仕組みがなされ。

 多くのヒーローは、過労から解放された。

 そんな当番制の立役者こそが、ヒカルなのだ。

 

 しかし、そんなヒカルは「どうして当番制を考えたのか」と言う問いに対し。

 

「私が大手を振って休めるようにしたかったから」

 

 と答えた。

 多くの人々は思った。

 ――それでいいのか、ヒーロー。

 

 それから、ヒカルはとんでもヒーローとして認識されるようになる。

 何かと怠惰で、サボれる時は絶対にサボる。

 成人してからは、酒、タバコ、ギャンブルに明け暮れる。

 戦闘は常に初手浄化技ブッパ。

 やたらとギャグみたいな事件に巻き込まれやすい。

 などなど。

 

 理想のヒーロー像からかけ離れた姿に、一時は批判も集まったこともある。

 しかし、それとは別にヒカルはヒーローとして十年以上活動を続けた。

 結果として、ヒカルに救われた人間は多い。

 そんな彼らが、戦場でのヒカルは本物のヒーローだと、そう言ったのだ。

 

 雪野シアも、その一人だ。

 ヒーローに憧れ、ヒカルに助けられたシアは、ヒカルに憧れた。

 あの時、「大丈夫」と言ってくれたヒカルの姿は、シアの脳裏にこびりついているからだ。

 

 そんなシアがヒーローになったのが、今から半月ほど前。

 ダスト・ブレイカーという、メカ少女っぽい装備のヒーローになったのだ。

 そうしてシアは戦った。

 ダストを倒せるのは自分だけ、夢の中でそう言われて以来。

 ダストが現れれば、その場に駆けつけてそれを倒す。

 そんな生活を続けていた。

 日常生活を犠牲にして。

 

 元々災害現場から救助され、サバイバーズ・ギルトのような状態に陥っていたシアは、責任感が特に強かった。

 結果として戦闘の中で無茶を続け、「無茶をすればダストになってしまう」と言われていたにも関わらず。

 シアは暴走してしまったのだ。

 

 そんなシアを助けたのが、シアの憧れだったヒカルであったのは、果たして何の運命だったのか。

 目を覚ました時に、眼の前に最推しヒーローの顔面ドアップがあったときの衝撃を、シアは一生忘れないだろう。

 

 最初、シアはヒカルが自分のことを叱ると思っていた。

 ヒカルのようになりたいと無茶をして、挙げ句の果てには暴走だ。

 自分が間違ったことをしたという感覚は、シアが一番感じている。

 

 なのに、ヒカルはそんな素振りを一切見せず、どころかシアを本気で慰めてくれた。

 さらには知り合いに掛け合って、シアが抱えていた「ダストは自分しか倒せない」という問題を解決するよう動いてくれた。

 本人は、なんでもないことをしたかのように。

 

「自分を救えないヒーローは、ヒーロー失格だ」

 

 常々、ヒカルが口にしている彼女のモットーである。

 シアもそれは分かっているつもりだった。

 だが、実際にヒーローになるとそれはなかなかうまく行かないことに気がつく。

 最初のうちは、世界を守れた達成感がヒーローを鼓舞してくれる。

 しかし、やがて増えていく敵の襲撃と、大切な人を守れないのではないかという焦りが、視野を急速に狭めてしまうのだ。

 

 振り返ってみれば、最初のうちに感じていた達成感は言ってしまえば麻薬のようなもの。

 成功は常習するうちに感覚を麻痺させる。

 無茶を当然と思い込む。

 

 だからヒカルは語るのだ。

 周囲を頼れ、仲間を頼れ、と。

 ヒーローの当番制は、その集大成だろう。

 

「……はい、これ。ジュース、私の奢りね。味が合わなかったらごめん」

「え、いやそんな、悪いですよ!」

 

 ふと、ヒカルはなんでもない様子ですでに買ってあったジュースをシアに手渡す。

 当然シアは遠慮する。

 

「これも、周囲を頼ることの練習だよ。先輩ヒーローの厚意には甘えるものだ」

「……それは」

 

 確かに、そうなのかもしれないけれど。

 とはいえ、ヒカルはすでにシアへジュースを奢るつもりで、用意してある。

 断りづらくしているといえばその通りで、だからこそシアはヒカルの配慮を感じた。

 

「周りに頼るためには、まず自分の弱さを認めることが大事。強がって見せても、今のシアは弱ってるんだから」

「それは……」

「それに、今は全然そんな気がしないだろうけど、暴走してる時にメチャクチャな体の動かし方してるだろうから、明日は地獄だよ」

「うぇっ!?」

 

 筋肉痛でベッドから動けないかも、なんてヒカルはシアを脅かした。

 

「だからそういう時に、周りに助けてっていうのがヒーローとしての一種の責務なわけ」

「そう……ですね」

「甘えちゃえばいいんだよ、私だって、できることなら手伝うからさ」

 

 ああでも、あんまり長い間時間を使うのはだるいから、誘う前に相談してね。

 なんて、冗談なのか本気なのかわからないことをヒカルは言う。

 そんなヒカルに対して、今シアができるいちばんの「甘え」。

 少しだけシアは考えて、意を決して口を開いた。

 

「あ、あの! じゃあ、一つだけお願いしてもいいですか!?」

「ん? 言うだけ言ってみなよ。言うだけならタダだからさ」

 

 そしてシアは、端的に。

 

 

「せ、先輩って呼んでも! いいですか!?」

 

 

 一瞬、ヒカルは呆けた顔をした。

 それから、嬉しそうに、おかしそうに、笑みを浮かべる。

 

「あは、あはは! 先輩、先輩か。そんな呼ばれ方されたの、いつ以来だったかな! 最近はすっかり遠い人みたいに扱われてたから」

「だ、だめですか……?」

「ダメなわけないよ、むしろ大歓迎だ。そういう甘え方は、ヒーロー向いてると思うしね」

 

 距離を詰めてくるタイプだ、とヒカルは笑う。

 少しだけ、シアはそれに気恥ずかしさを覚えるけれど、

 

「そう言うことなら、よろしくシア後輩」

 

 その言葉を受けて、これでもかと表情を輝かせて叫ぶ。

 

 

「はい、先輩!」

 

 

 かくして、雪野シア。

 ダスト・ブレイカーという一人のヒーローの価値観は。

 いい意味で、木っ端微塵に粉々に壊されるのだった。




この後、電子タバコを後輩に断ってから吸おうとして、後輩に「ヒーローなのにタバコは吸うけど、周りに配慮して電子タバコな上にちゃんと断るんだなぁ」と苦笑されます。
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