脳筋データキャラとかいうやつ   作:洛叉

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演算結果:(ルミナ)

 

 

 

 

「─────って、感じです。僕が言えるのは全部喋りました」

 

 丁度、最後の肉が鍋に入った時、マサムネは情報を全て話した。

 光の還(ルミナ・オルビス)。そこの代表である一人の神父と、何十人といる先生とやらで運営されている宗教団体…その構造は非常に複雑なのか、マサムネのような子どもが入れない部屋が多く、用途不明の部屋が大きい。

 

 シュタインは腕を組み、考え込むように眉をひそめ、隊長もまた静かにマサムネの言葉を噛みしめながら、手元の湯呑みを見つめている。

 

 

「まあ、子どもには内情を喋るわけがないか」

「ご、ごめんなさい……情報…データ?には全然足りないですよね?」

「いやいや、その歳でよく色々と話してくれた。十分だ」

 

 最後の肉をマサムネの取り皿に移したシュタインは、鍋の火を消した。湯呑みを飲み干した隊長は、ふとこんな事を言い出した。

 

 

「少年、君はさっき先生には()()が分かると言っていたような気がするのだが」

「え、うん。僕がこの街にいる限り、どこにいても見つかるって言われた。だから、どこかに監視の手があるんだと思うけど……」

「持ち物は?」

 

 隊長が問うと、マサムネはハッとした顔をしてから、ポケットを探る。だが、何も入っていない。

 ズボンのポケット、シャツの内側──念入りに確認するが、何も見つからなかった。

 

 

「そうだ僕、財布とか何も持ってない……持ち物も全部、施設に置いてきたから……」

「おかしいな」

 

 シュタインが低く呟く。

 

 

「監視の手段が外部にないなら、考えられるのは一つだ」

 

 隊長も同じ考えに至ったようで、腕を組んで静かに言う。

 

 

「……君の身体のどこかに仕掛けられている可能性が高い」

 

 マサムネの肩がピクリと揺れた。

 

 

「ぼ、僕の……身体に?」

「この街で誰かの行動を常に監視する方法は限られている。GPS機能を持つチップを埋め込むか、特定の信号を発する装置を身につけさせるか、だ」

 

 シュタインは冷静に分析しながら続ける。

 

 

「マサムネ少年が普段身につけていた服や持ち物には何も仕掛けがなかったと仮定すると、答えは自ずと決まる」

 

 自分の腕をぎゅっと握るマサムネ。

 

 

「……そ、そんな……」

 

 動揺するマサムネを落ち着かせるように、隊長は手を包み込み穏やかに言った。

 

 

「落ち着け。君の身体に何か埋め込まれているとしても、方法はいくらでもある。まずは確認しないことには話にならん」

「……確かめる、って……?」

「シュタイン」

「分かっています」

 

 シュタインはそう言うと、自分の腕時計型の端末をタップした。端末は電子音を奏でながら形を変え、テレビのリモコンのような長方形の箱になる。

 

 

「私の端末には簡易的なスキャン機能がある。電磁波を発する微小なデバイスが体内にあれば、ある程度の検出は可能だ」

 

 そう言って、シュタインは端末のスキャンモードを起動し、マサムネに向けた。

 

 

「じっとすればすぐ終わる」

 

 マサムネは緊張した面持ちで、小さく頷いた。

 

 端末が微かな電子音を立てながら、マサムネの身体をスキャンしていく。

 数秒後──

 

 

 

ピピッ──────

 

 

 

 端末が小さく反応音を発した。

 

 

反応あり(ビンゴ)

「位置は?」

 

 シュタインが端末を覗き込むと、隊長もそれを確認するために身を乗り出す。シュタインは端末を指で操作し、スキャン結果を拡大した。

 

 

「位置は……左の肩甲骨の辺り、皮下数ミリの深さ」

「そ、そんな………!?」

 

 驚愕し、自分の左肩を押さえるマサムネ。しかし、触っても何も違和感は感じない。そうしている内にマサムネの表情が変わる。

 

 

「何か心当たりがあるんだな?」

「うん……」

「昔、施設で『健康診断』って言われて、何回か注射されたことがあった……でも、僕たちはみんなそうだったから、気にしてなかったんだ」

「成程」

「健康診断という名目で、子どもたちにGPSチップを埋め込んでいたわけか。極めて合理的なやり方だ」

 

 

 隊長は険しい顔をしながら、深く息を吐いた。箸を取り皿の上に置き、机を軽く叩く。

 その衝撃で鍋の出汁が波紋を広げ、飛沫が机を濡らす。

 

 

「……その『先生』とやら、相当手慣れているな」

 

 マサムネは不安げに二人を見上げた。

 

 

「ど、どうしよう……僕、もう……逃げられない……」

 

 しかし、隊長は静かに頭を振った。

 

 

「この程度の問題なら、解決策はある。物理的にチップを取り除くか、信号を無効化するか、それだけだ」

「本当に?」

 

 シュタインは得意げに腕を組み、鼻を鳴らした。

 

 

「物理的な除去は医療設備が必要だが、信号の無効化なら、私の手持ちのジャマーで対応可能だ」

「ジャマー……?」

「要するに、電波を遮断してチップの機能を一時的に無効化する機械だ」

 

 シュタインは端末を操作し、ポケットから小型の装置を取り出した。

 まるで絆創膏のような形をしたそれをマサムネの肩に貼る。これで端末から何時でも電波を遮断出来るようになった。

 

 そうしている間に隊長は顎に手を当てながら、しばし天井を見つめながら思案した。

 そして、ふと何かを思いついたように口元を歪める。

 

 

「シュタイン、いい案がある」

「……はい、なんでしょう」

 

 隊長はマサムネを見つめながら、ゆっくりと頷く。

 

「奴らは、現在もおそらく少年のチップを使って、位置情報を追跡している……ならば、逆に利用できるんじゃないか?」

「利用……ああ、そういう事ですか」

「そうだ。今すぐチップの信号を遮断すれば、向こうは異常を察知するだろう。となれば、様子を探るために誰かを寄越す可能性が高い」

「例の先生とやらをおびき寄せるわけですね」

 

 その言葉に短く頷く隊長、既に話についていけていないマサムネは不安そうな顔をして、自分の肩を抑える。ただ、理解したのは自分に暴行を加えた先生を倒そうとしているという事だけだった。

 

 

「せ、先生たちはめっちゃ強いんだよ!?な、何か背中からいっぱいロボットみたいな腕生やしたり、火を出したりするんだよ!?幾ら、お姉さんとお兄さんでも………!!!」

 

 その言葉を言い終わるより先に隊長が少年の口を優しく抑え、シュタインは親指を立ててグットサインを見せる。

 

 

「気にしなくていい」「大丈夫だ少年」

 

「「慣れてる」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 肉菜庵の向かいのビルの陰。

 

 青空の中、隊長とシュタイン、そしてマサムネはひっそりと身を潜め、通りを見下ろしていた。マサムネは小型の双眼鏡を持たされ、見知った人物が視界に入ったら、即報告することになっている。

 

 マサムネは落ち着かない様子で双眼鏡を覗きながら、時折シュタインをちらりと見る。先ほどの鍋の席とは違い、シュタインは今、真剣な表情で手元の端末を操作していた。

 

 

 

「今回、残り隊員の何人かを動かそうとも考えた」

「しかし、隊員たちにも各々がしなければならない事がある」

「つまり、二人…いや、三人で何とかカルト宗教を叩く必要がある…と」

「そういう事だ」

 

 隊長は通りを見下ろしながら、シュタインの岩のように硬い肩を強く叩く。

 

 

「毎度の事ながら期待しているぞ」

「勿論、お任せ下さい」

「あっ、先生だっ!先生が来たッ!!!」

 

 マサムネの声が思わず裏返った。

 シュタインは早速手元の端末を操作する。ハッキングで外の防犯カメラの視点を動かし、端末に映る映像を拡大させる。

 

 

「一見はスーツ姿のサラリーマン……だが、様子がおかしい」

 

 画面に映る男は、確かにどこにでもいるビジネスマンのような出で立ちだった。しかし、その動きは異様だった。

 

 

「……挙動不審だな」

 ようやく、落ち着いた隊長が低く呟く。

 男は肉菜庵の前に立ち、店の中を覗き込むような素振りを見せる。しかし、その視線は妙に落ち着きがなく、時折振り返って周囲を警戒しているようにも見えた。

 

 

 

「マサムネ、君はここで待機だ」

「大丈夫だ。シュタインもここに残らせる」

「えっ……?じゃあ、お姉さんは?」

 

 マサムネが驚いて双眼鏡を下げる。

 

 

「私があの人と話してくる」

「でも………」

 

 不安そうに口を開きかけるが、隊長の静かな威圧感に飲み込まれる。

 渋々ながらも、マサムネは双眼鏡を握り直し、小さく頷いた。

 シュタインは端末を操作しながら、隊長の方をちらりと見た。

 

 

「……通信は繋いでおく」

 

 それだけを言い、ヘルメットを装着する隊長に対してシュタインには何も反論しなかった。

 隊長がヘルメットのバイザーを下げると、視界が暗くなり、一瞬の静寂が訪れる。

 そのまま無言で立ち上がると、ビルの影からゆっくりと離れ、目標の「先生」へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

(心臓の鼓動が速い)

(というか、痛い。これ以上早くなると、心臓が張り裂けちまいそうになる)

(これもあの童子(ガキ)が飛ぶような真似をするからだ)

 

 

 男は店の前で落ち着かない様子だった。

 細身のスーツを着ており、ぱっと見はただの会社員のようだ。

 しかし、彼の挙動はどう見ても普通ではない。

 ちらちらと店の中を伺いながら、何かを探すように視線をさまよわせる。ときどき額の汗を拭い、袖で無理やりこめかみを擦るような仕草も見せた。

 

 

(最後、マサムネのガキが入ったとされるこの高級しゃぶ屋)

(ついにお布施も払えなくなってきたアイツが、こんなしゃぶ屋に一人で入るのか?)

 

 様々な考えが頭を過ぎるが、今彼に必要なのは、マサムネがここを最後に信号が途切れたということだ。ここで何が起こったのか、マサムネの現在の位置を割り出さなくてはならない。

 

 そんな迷いが、その動きの端々から読み取れた。

 

 

 しかし、次の瞬間。

 

 

「──すみません」

 

 背後からかけられた声に、男は肩を大きく跳ね上げた。

 

 

「ひっ……!?」

 

 振り向くと、そこには黒い防護スーツに身を包んだ人間が立っていた。

 無表情のまま、ヘルメットのバイザー越しに男をじっと見つめる。

 

 

「すいません。私は特殊部隊のものです」

「具合が悪そうに見えたのでお声かけしたのですが…」

 

 特殊部隊を名乗った人物はごく自然、申し訳なさそうなトーンで男に話しかけるが、その顔は無表情のままだった。男は目を僅かに泳がせながらもぎこちない笑みを浮かべた。

 

 

「い、いや、別にどこ悪くないですよ。ただ、仕事に集中していたら、もうランチタイムを過ぎた事に気づきまして、いい加減何か食べようと物色していただけですので」

 

 男は一言でそれを言い切ると、一度大きな深呼吸をする。体調が悪いから声をかけただけなのに、聞いてもない事を話し出すこの男。頭の中は与えられた任務のことでいっぱいになっていた。

 

 

「…………そうですか」

 

 ヘルメットの人物は、そう呟くと男に背中を見せる。そして、空を見上げた後、こんな事を言った。

 

 

「お目当ての品に()()()といいですね」

 

 男の顔が一瞬で強張る。図星だった。

 呼吸が荒くなり、心臓の鼓動だけが聞こえるようになった。周囲の音が全く聞こえない。

 

 

(会える…だと?)

(………この目の前の野郎は俺の状況を知っているのか!?)

(成程、コイツがあのガキと接触した可能性がある)

(いつものように金を稼ぎに行くと言ったアイツが実は政府関係の組織と繋がりを築き上げてきたんだとすれば……?いや、別にガサ入れされてもきっと問題は無い()()()が証拠を残すような真似をするわけがない。問題なのは、あのガキを逃がした責任を誰が背負うのか。それは今日、ガキの監視を任されていた俺の責任だ)

((ヤキ)は嫌だ。ガキを躾けるのに何日も残るような痣を作る人たちだ。大人なら一生消えない傷とか、最悪は死───────)

 

 

 男の額には滝のような汗が滲んでいる。心臓の鼓動が更に早まる。

 

 

(痛い。痛い。痛い。こんな街の中で()()()()()()()()()だ)

(…いや、もうこの野郎は俺を狙っているんだ。ここで飛び出さずに身柄を押えられるくらいなら……いっそ…………出しちまうべきだ………)

(嗚呼、そうだ。仮に抑えられてもここ何人か救済()したらいい。そしたら、気分も晴れるだろ…きっとそうだ)

((ルミナ)を今ここに解き放とう)

 

 男はしばらく沈黙し始める。ぎゅっと拳を握った後に男に変化が起きた。

 

 突然、男の身体が膨張し始め、スーツを突き破った。

 そこから露出するのはまるでタコのような無数の触手。それが周囲を無差別に襲い始める。

 人々の動揺の声と叫び声が街中に木霊する。

 

 ヘルメットの人物……隊長は、ため息を吐きながら素手で迫り来る数本の触手の突進を受け流す。

 

 人々は逃げ惑い、車のクラクションと悲鳴が入り混じる。

 店の前にいた男──いや、既に「人」ではないソレは、無数の触手を四方八方に伸ばし、まるで暴れるタコのように辺りを薙ぎ払う。

 

 

「くっ……はは、もう隠せねぇ……!」

「どうせ終わりなら、巻き添えの一つくらい──!!」

 

 異形と化した男が叫び、触手が隊長へと襲いかかる。

 鋭く伸びた触手は、まるで槍のように街灯をへし折り、アスファルトに深い穴を穿つ。

 その破壊力を目の当たりにした人々は更に混乱し、悲鳴を上げながら逃げ惑う。

 

 

 だが。

 

 

「──────暴れるな」

 

 これまで以上に低く、静かな声が響いた瞬間。

 

 隊長の手元で、細身の剣が鈍く光る。

 愛用の武器──レイピアが、ゆっくりと抜かれる。

 

 異形の男の動きが、一瞬止まった。

 本能的な恐怖か、それとも直感的に理解したのか──隊長が自分とは「格」が違う相手であることを。

 

 

 

バシュッ──!!

 

 

 

 次の瞬間、空気を切り裂く鋭い音とともに、伸びていた触手の一本が宙を舞った。

 そして、隊長の姿が一瞬で消え──

 

 

「何処だァッ!!!」

「此処だ」

 

 隊長は既に、異形の男の背後に立っていた。

 

 男が振り向く前に、レイピアが閃く。

 細身の剣が風を切り、次々と触手を正確に切り落としていく。

 刃の軌跡は最小限、無駄のない動きで、しかし確実に急所を狙い続けた。

 

 

「ぐ、あ、あぁぁぁああッ!!!」

 

 男は苦痛に叫びながら暴れるが、隊長の動きは全く乱れない。

 

 

「……もう終わりだ」

 

 その言葉とともに、最後の一撃。

 

 

「ま、まま待てッ!待ってくれッ!!!」

 

 男の命乞いは届かず、無慈悲にレイピアの先端が、異形の男の中心部──変異した核のような部位を正確に貫いた。

 

 

「……っぐ、ああああああああああっっ!!!」

 

 男は大きく痙攣し、そのまま膝を突いた。

 異形の身体が崩れていき、膨張していた肉塊が徐々に縮小し、元の人間の姿へと戻っていく。意識は薄れ、もはや反抗する力も残されていない。そして、その顔は既に蒼白で、目には光がなかった。彼の皮膚には変異の痕跡が残り、異常に膨れた血管や変色した指先が、この男が完全な人間ではないことを物語っていた。

 

 

「ターゲット、捕獲完了」

「了解、こちらの準備も完了しています」

 

 短く通信を入れた隊長は、崩れ落ちた男を見下ろしながら、血の一滴も付いていないレイピアを鞘へと納めた。

 隊長はヘルメットに搭載されている無線機を機動し、冷静な声で指示を送る。

 

 隊長は辺りを一瞥した。まだ騒然としている通行人たち。警察のサイレンが遠くから聞こえてくる。すでにこのエリアは封鎖される手筈になっているだろう。

 

 ただ今は状況が悪い。

 この男から一刻も早く情報を得なければならないからだ。警察の手続きを踏んで話を聞く頃には、既に始末されている……なんてことはデウスでは珍しいことではない。

 隊長は倒れた男に膝をつき、冷たい声で囁いた。

 

 

「まだ意識はあるな。……これからお前には、いくつか答えてもらう」

 

 男は微かに目を開けたが、恐怖と痛みに顔を歪めるだけで何も言えなかった。

 

「安心しろ」

 

 隊長は淡々と告げ、男を片手で担ぎあげる。細い腕からは信じられないくらいの怪力に周りの野次馬から思わず拍手が鳴る。

 

 

「私の部下は優秀でな。すぐに情報を吐きたくなる尋問が待っているだろう」

「存分に味わっていけ」

 

 そう言い残し、隊長は男を連れて颯爽と現場を立ち去った。

 

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