脳筋データキャラとかいうやつ   作:洛叉

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演算結果:救い主(サルヴァドール)

 

 

 

 デウスに数多くある廃墟の一室にて、二人の人物が一人の男を囲っていた。

 拘束された男は、浅い呼吸を繰り返している。

 額には汗が滲み、視線は定まらない。

 椅子の背もたれに縛り付けられた彼は、ただ目の前の二人を見つめることしかできなかった。

 

 

「さて───」

 

 シュタインが静かに口を開く。その手には端末が握られ、指先で軽く操作されるたび、どこかで電子音が鳴る。

 

 

「話してもらおうか、ルミナ・オルビスのことを」

「キチンと話せば、五体満足で返そう」

 

 男は唇を噛みしめた。

 答えれば何が起こるのか、答えなければどうなるのか──どちらも分かりきっていた。

 

 

「……知るかよ」

 

 搾り出すように呟く。

 だが、その返答を予想していたかのように、隊長が冷めた目で言った。

 

「……そうか」

 

 その短い言葉のあと、隊長はシュタインに目配せする。

 それだけで、次に何が起こるかは決まっていた。

 

 シュタインは無言のまま端末を操作した。

 ピッ──という短い電子音。

 直後、男の腕に繋がれた拘束具。そこに接続されていた細いチューブが微かに震えた。

 

 

「……ッ!?」

 

 男の呼吸が乱れる。

 体が熱くなり、脳の奥がじんじんと痺れる感覚。

 

 

「何を……した……?」

 

 掠れた声で問いかけると、シュタインは冷静に答えた。

 

 

「脳の情報処理を促進する薬だ」

「……ッ!」

「記憶の整理、思考の加速、そして何より──“誤魔化しがきかなくなる”」

 

 男の目が見開かれる。

 

 

「お前がどんなに嘘をつこうとしても、脳は正しい情報を思い出そうとする」

「安心してくれ。効果は数時間で切れるし、後遺症も残さない」

「ただ、薬の効果が切れるまで喋らないのは無理だ」

「我々が質問したら、君は快く口が開いてくれるだろう。ついお喋りがしたくなるはずだ」

 

 シュタインの指が端末を弾くたび、男の体は反応する。

 まるで自分の意思とは関係なく、頭の中の引き出しが勝手に開かれていくような──

 

 

「ッ……く、そ……!」

 

 無理やり目を閉じ、何かを振り払おうとするが無駄だった。

 

 

「お前が知っていることを、順番に思い出していけ」

 

 隊長が淡々と告げる。

 

 

「まずは──“神父”の正体からだ」

 

「ッ……!」

 

 男は歯を食いしばったが、脳内では既に答えが浮かび上がっていた。

 

 光の還(ルミナ・オルビス)の指導者、通称“神父”。

 子どもたちから懐かれ、信者たちからは崇められ、組織の象徴となっている男。

 だが、その実態は──

 

 

「……っ、し、知らな……」

 

 否定しようとした瞬間、シュタインの指が軽く端末を弾いた。

 

 

「……ッ!!」

 

 視界が揺れる。

 口を開けば、勝手に答えが出てしまう。

 

 

「言え」

 

 隊長の一言に、男はとうとう耐えきれなくなった。

 

 

 

「───“神父”は……元、軍の技術者だった……!」

 

 その言葉に、隊長とシュタインの目が細まる。

 

 

「……続けろ」

「軍の……兵器開発部門にいた……でも、倫理違反で処分を受けて……逃げるように組織を作った……!」

 

 その言葉に隊長は思い出したことがあるのか、ヘルメット越しから眉間を叩く。

 

 

「聞いたことがある。何十年も昔、無断で何百人にも及ぶ捕虜に人体実験をした″悪魔″がいると」

 

 その言葉に男は小さく頷く。

 

 

「そんな奴が牧師で、宗教の運営…………まさか……なら、光の導きとはなんだ」

 

 隊長の声に怒気が宿り、男の顔が強張る。

 喉の奥で何かを噛み殺すように震え、必死に言葉を押しとどめようとするが、無駄だった。

 

 

「……それは子どもだけに与えられる……救済の光……」

「子どもにだけだと?」

「孤児や……貧困層の子ども……何の後ろ盾もない……そういう連中を保護するフリをして……」

 

 そこで言葉が詰まる。これ以上は言ってはいけないと理性が必死に止めようとするが、喉の奥が焼けるように熱くなり、止めようとしていた言葉が流れ出す。

 

 

「生物兵器を……生み出す……ため……!」

 

 その言葉に、隊長の目が険しく細められる。

 

 

「純粋な肉体と精神を持つ……若い被験者の方が……改造や……実験の成功率が……高い……」

 

 男の瞳が虚ろになり、歯をガチガチと鳴らす。

 

 

「だから保護したガキを……地下の施設に監禁し……適応実験を……施す……」

「遺伝子操作……臓器強化……神経伝達の最適化……そして……生物兵器の……培養……」

「それを《救い主》……と呼んだ」

 

 男の口から、低い声が漏れた。

 その名を聞いた瞬間、隊長の眉間に深い皺が刻まれる。マサムネが言っていた神様の名前の一つが、そんな風に呼ばれていた事を思い出す。

 

 

「……説明しろ」

「導きとは……“選ばれた者”を“救い主”へと生まれ変わらせる……人体実験(儀式)……」

「幼い身体は……変異に適応しやすい……特定の強化遺伝子を組み込み……成長を促進し……兵器として……造り変える……」

「……ルミナ・オルビスは、子どもを“救い主”という名の怪物にしているということか?」

 

 隊長が静かに問いかけると、男は小さく頷いた。その瞬間、鈍い音を立てて壁を叩く隊長。廃墟の壁がボロボロと崩れ、亀裂が走る。

 

 

「クソが……!!」

 

 怒りを抑えきれないような声だった。

 そんな中でもシュタインは淡々と端末を操作しながら、さらに問いを投げかける。

 

 

「神父は何処にいる」

「………いつも…教会にいる…………」

「セキュリティは?」

 

 男は唇を震わせながら、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。

 

 

「……教会の防衛は……厳重だ……」

「どのくらいだ?」

 

 シュタインが端末を操作しながら尋ねる。

 男は荒い息をつきながら、何とか言葉にする。

 

「外周には……巡回する信者たち……見たこともない怪物を神様として崇め、信仰心の強い連中ばかりで、見知らぬやつを見ればすぐに警戒態勢に入る……」

「内部は?」

 

 男の顔が引きつる。

 

 

「俺みたいな…″先生″たちがいる……… 改造の専門家……神父の思想を実現するために……“救い主”の開発を助力している………」

「貴様みたいに改造してる奴らなのか?」

「……強化義体……知覚強化……神経改造……あらゆる改造を……自分の体で試してる……」

「他には?」

 

 シュタインが冷静に追及する。

 男の目が泳ぐが、薬の効果には抗えない。

 

 

「……生物兵器が……いる……」

「改造された……獣や……昆虫……人間の姿を……していないものも……」

「セキュリティシステムは?」

「……生きた“鍵”がいる……」

 

 男の声が震える。

 

 

「先生の中に……生体認証の役割を持たされた奴が多くいる……そいつらがいないと……地下には入れない……」

「もし認証せずに扉を開けたら……最深部…実験室は封鎖される……」

「成程な」

 

 シュタインが端末に情報を入力しながら呟く。

 隊長は怒りを抑えようと、何度も何度も深呼吸をする。

 

 

「……神父は教会のどこにいる?」

 

 シュタインの問いに、男は一瞬だけ抵抗しようとした。

 しかし、次の瞬間、端末の電子音が鳴る。

 

 

「……ッ……!」

 

 男はこらえきれず、絞り出すように答えた。

 

 

「普段は……教会の最深部……」

「夜になれば……必ずそこにいる……」

「そこで……“救い主”を管理してる……」

 

 その言葉に、隊長が低く息を吐く。

 シュタインが端末を閉じる。

 隊長は男を見下ろしながら、静かに告げた。

 

 

「……情報は十分だ」

 

 男はぐったりと項垂れた。

 隊長がヘルメット越しに僅かに目を細める。

 

 

「約束通り、五体満足で返す」

「ただし、貴様が自首するならばの話だ」

「今後、この街で貴様を見かけたら……その時は覚悟しておくことだな」

 

 

 最後に隊長はそう脅すと、男の拘束を解除する。もう、すっかり怯えてしまった男はおぼつかない足取りで廃墟から出ていく。

 

 

「あの様子じゃ、問題なさそうですね」

「……そうだな」

 

 隊長は廃墟の崩れた壁に寄りかかりながら、深く息を吐く。

 

 

「本来ならマサムネ(あの子)も警察に預け、捜査の結果に期待するべきなのだろうな」

 

 低く呟くその声には、僅かな諦念が滲んでいた。

 

 デウスの警察が、どこまで信用できるかは分からない。

 賄賂や圧力が横行するこの街で、人体実験を繰り返す組織が手を回していないはずがない。

 警察に情報を渡したところで、証拠が“都合よく”消え去り、関係者が一人残らず口を噤む可能性は十分にある。

 

──だからこそ、特殊部隊が存在する。

 腐敗しきった法の網を潜り抜ける連中を、暴力で制圧するために。

 

 

「我々が動かねば、連中は人体実験を繰り返す。そしてやがて…"救い主"が街に解き放たれる」

「それだけは避けなければならん……シュタイン。結論は出たか?」

「ええ、たった今」

 

 そう言いながら、シュタインが端末を閉じる。

 

 

「マサムネ少年と先生の証言からして、子どもの人数は13名。年齢などを考慮して、全員の脱出可能確率は81.3%」

「そして、証言を元にした架空の地図を生成。最深部までの複数のルートによる成功確率……一番高くて48.7%」

「それは子どもたちの安全確保の後に再度突入する必要がありますが、一番ベストかと」

「十分だ。その方法で行こう」

 

 

 そう二人で結論づけると、細い足音が廃墟の中に響いた。

 

 

「──何してたの?」

 

 幼い声が静寂を破る。

 

 隊長とシュタインが顔を上げると、そこには双眼鏡を片手にしたマサムネの姿があった。

 

 

「作戦会議さ」

 

 隊長が端的に答えると、マサムネは少し不満げに眉をひそめた。

 

 

「僕に隠れてコソコソやってたの?」

「すまない、大人同士でしか出来ない必要なことだったからね」

(マサムネ少年にとって色々とショックが多いのは、目に見えていたからな)

 

 隊長は断言し、壁から身を起こした。

 

 

「君と先生が教えてくれた情報をもとに、私たちは“神父”の居場所を突き止めた。次は、そこに突入し、少年の仲間を助け出す番だ」

 

 マサムネの目が大きく見開かれる。

 

 

「──ほんとに!?」

「ああ」

 

 隊長は頷き、マサムネの肩に手を置いた。

 

 

「だが、私たちだけでは手が足りん。少年の力が必要だ」

「僕の……?」

「子どもたちがいる部屋を知る者が案内してくれるなら、突入の成功率は格段に上がる」

 

 マサムネはしばらく黙っていたが、やがて唇を強く噛みしめると、小さく頷いた。

 

「……わかった。案内するよ」

「助かる」

 

 シュタインが端末を操作しながら、確認するように問いかける。

 

 

「教会の位置は?」

「ここの近くだよ。この辺の廃墟にたむろしてる子どもたちをよく先生たちが()()してるから」

 

 そう言って、マサムネはくるりと踵を返し、先頭に立って歩き出す。隊長とシュタインは無言のまま、彼の後ろに続く。

 月の光が廃墟の隙間から差し込み、三人の影を夜の闇に伸ばしていた。

 

 

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