脳筋データキャラとかいうやつ   作:洛叉

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演算結果:光臨(イルミナティオ)

 

 

 

 一瞬の間もなく、再び“救い主”が跳ぶ。

 

 弾丸のような加速。空気を切り裂く衝撃。

 狙いは変わらず、シュタイン──

 

 

「計算通りだ」

 

 瞬時に身を低く沈めた彼の腕が、さらに膨張する。

 肥大化した筋肉がバネのように撓み、力を溜めた次の瞬間──

 

 

 

ドゴォンッ!!!

 

 

 繰り出された拳が“救い主”の小さな拳と正面からぶつかった。

 空間が震え、衝撃波が周囲に広がる。

 床が割れ、壁が軋む。

 衝突の末に僅かに"救い主"が後退するが、即座に足を踏みしめ、再び跳躍体勢を取る。

 しかし、跳躍を取るよりも先にシュタインが前に出る。

 

 

「ならば、もう一撃」

 

 拳が引かれる。

 

 筋肉が弾け、今度は完璧に計算された一撃が放たれる。

 “救い主”が防御のために腕を交差する──

 

 

「お返しだ」

 

 

 

ドグシャァァァァンッ!!!!

 

 

 

 壁を突き破り、“救い主”が数十メートル先へと床を削りながら吹き飛ばされた。

 そして、その隙を狙うかのように、残りの二人が左右から突っ込んでくる。

 

 

(右側の個体は跳躍角度42度、速度87km/h、左側の個体は足の筋力差から若干遅れる……)

(─回避可能)

 

 

 シュタインはギリギリまで動かず、二人が拳を振るった瞬間に上半身をわずかに傾ける。

 

 

 

ヒュンッ

 

 

 

 髪の毛一筋の距離で、拳が彼の顔を掠める。

 そして、すれ違いざまに囁く。

 

 

「遅い」

 

 その声に反応する前に、二人の間をすり抜け、振り向く。

 

 

「隊長殿」

「心得た」

 

 シュタインの合図と同時に、隊長が動いた。

 銀光が閃く。

 

 

 

シャキンっ!!!

 

 

 

 レイピアの刃が、背後を取った“救い主”の肩を正確に貫く。

 その衝撃で“救い主”が、わずかに動きを止める。

 その一瞬の隙を見逃すシュタインではない。

 

 

「コンビネーションなら此方の方が上らしい」

 

 彼の拳が、まるで鉄槌のように振り下ろされる──

 

 

 

ドゴォォォンッ!!!

 

 

 大気を震わせる衝撃とともに、二人目の“救い主”が壁へと叩きつけられた。

 そして最後の一体が、獣のような低い姿勢で間合いを詰める。

 目にも留まらぬ速さで腕を突き出し、シュタインの胸を貫こうとする──

 

 

ガギィィィンッ!!!

 

 

 しかし、その一撃は寸前で止まった。

 シュタインの肥大化した片腕の筋肉が、まるで鋼鉄の壁のように“救い主”の腕を弾き返したのだ。

 

 

「──検証結果」

 

 シュタインは低く呟く。

 

 

「私の筋肉のほうが強い」

 

 直後、空気を裂くように手が伸びる。

 

 

 

ガシッ!!

 

 

 

 巨大な手が“救い主”の頭を掴んだ。

 

 

 

ドガァンッ!!!

 

 

 床が陥没するほどの勢いで、彼の頭を地面に叩きつけた。

 瓦礫が舞い、周囲に粉塵が広がる。

 シュタインは、倒れ伏す”救い主”の頭から手を離した。

 

 

「………すまない。痛かっただろう」

 

 隊長がすかさず動く。

 レイピアを構えながら、拘束具を取り出す。

 

 

「早く縛るぞ」

 

 そう言いながら、最後に倒した"救い主"に駆け寄った隊長。

 

 

 

ミシ…ミシミシ……

 

 

 

 嫌な音が響いた。

 

 その音が耳に入ったのと同時に二人はバックステップで距離を置き、三人の”救い主”が、まるで機械のように同時に身を起こす。

 抉れた肉がみるみる再生し、折れた骨すらも瞬時に復元されていく。

 

 

「……異常な回復力」

 

 シュタインはすでに次の計算を終えていた。

 

 

「そして、彼らには痛覚がない。故に攻撃の威力による怯みが期待できず、ダメージによる行動不能も起こらない」

 

 その言葉を聞いた隊長がレイピアを握り直す。怒りのあまりレイピアが小刻みに震える。

 

 

「つまり、戦闘の長期化は避けられない……か」

「……隊長殿、私に策があります」

 

 シュタインは視線を下へ向けた。そこには、先ほど”救い主"が現れた際に空いた人一人分が入れそうな大きな穴。

 

 

「私が時間を稼ぎます。その間に隊長殿は彼処の穴へ」

「データによれば、その穴の先には最深部へと続く通路、もくしは最深部そのものに繋がっている確率が92.4%」

「しかし、逆に突入する事を"神父"が想定してないとも思えません。罠の可能性も考えられます」

「その可能性は?」

「……………88.8%。ここで長期戦をしてから二人で最深部に行くか、それとも罠があるかもしれない穴を通って行くか。ご決断を」

 

 その言葉に隊長はレイピアを構えたまま、穴を一瞥する。

 

 

「……シュタイン、聞かなくも分かっているだろ」

 

 肩をすくめ、口元に薄く笑みを浮かべる。

 

 

「特戦は任務完了を最優先とする」

「そして私はな、罠なんか気にするほどのタマじゃない」

 

 隊長はレイピアを納め、シュタインを真っ直ぐに見据えた。そんな視線にシュタインは、僅かに眉毛を上げる。

 

 

「……そうでしたね。すいません、くだらない質問でした」

「構わん、私は先に行く。お前は好きに暴れろ」

「そして、すぐに合流しろよ(死ぬなよ)

「了解」

 

 隊長は踵を返し、躊躇なく穴へと飛び込んだ。

 シュタインはその姿を見送ると、ゆっくりと拳を握る。

 

 

「さて……時間稼ぎといこうか」

 

 前方の”救い主”たちは、完全に再生を終え、三方向から彼を包囲していた。

 シュタインは再度筋肉を隆起させ、唇の端を上げる。

 

 

「第二ラウンド開始だ」

 

 

ドンッ!!!!!

 

 

 激突の音が、地下通路に轟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 穴を抜け、軽やかに床へと着地する。

 着地時に生じた僅かな砂埃が、ゆっくりと宙に舞う。

 隊長はすぐに周囲を見渡した。

 

 そこに広がっていたのは、想像を超えるほどの巨大な空間。

 

 超巨大な円形のホール。

 天井は高く、まるで地下神殿のような厳かな雰囲気すら漂っていた。無数の柱が規則的に並び、果てしない奥行きを感じさせる。

 

 しかし、それ以上に異様だったのは床だった。

 

 足元には、計算式のような無数の文字列を綴った紙が乱雑に貼り付けられている。

 それはただの論文やメモではない。

 無秩序な理論の羅列。人智を超えた何かにすがるかのような、狂気じみた文字列。

 

 

(……罠はない。シュタインの予想が外れたな)

(それにしても……)

(ここが研究室なのだろうが、儀式場と言われた方が納得する内装だ)

 

 そんな疑問を抱いた瞬間だった。

 

 

 

パチンッ

 

 

 

 静寂を打ち破るように、指を鳴らす音が響く。それは一番奥の柱の陰から、ゆっくりと姿を現した。

 長いローブを纏った一人の男。

 

 

「……来たか」

 

 低く、静かな声。

 男は悠然と歩みを進めながら、両手を広げた。

 

 

「ようこそ、私の神殿へ」

(この男が”神父”か)

 

 その場に満ちる異様な空気、背筋を撫でるような薄ら寒さ。ただ立っているだけで、周囲の空間を支配する存在感。隊長の直感が目の前にいる男を"神父"だと伝える。

 隊長は一歩踏み出し、鋭い視線を向けた。

 

 

「……お前が”神父”だな?」

 

 男は口元に微笑を浮かべる。

 

 

「そう呼ばれることには、慣れているよ」

 

 そう言いながら、ゆっくりと手を後ろに組む。

 

 

「さて、“神の門”を叩いた巡礼者よ。貴方はここで何を求める?」

「貴様の身柄だ」

 

 隊長は即答し、部屋に静寂が走る。

 その言葉を聞いた“神父”は穏やかに笑った。

 

 

「成程」

 

 すると、隊長の背後で空気が歪んだ。

 異様な気配。

 そして、足音すらない静寂の中、確実に”それ”が迫る音。

 

 

(殺気ッ!)

 

 隊長は即座に床を蹴り、身を翻した。

 

 

 

ドサッ!

 

 

 

 巨大な影が降りかかる。

 

 人の形をしていない”何か”。

 腕とも脚とも判別できない肉塊が膨れ上がり、まるで獲物を包み込むように襲いかかる。

 

 隊長は地を滑るように後方へ跳ぶ。

 

 

 それと同じタイミングだった。

 

 

 

ドッカァァンッ!!!

 

 

 

 床が割れ、柱が大きく揺れる。隊長の背後で大爆発が起きた。それがあの肉塊が突如爆発したのだと瞬時に察しつつ、爆風に巻き込まれまいとすぐに低く身を構えながら、隊長は目を細めた。

 

 

(……今の、何だ?)

 

 ただの怪物ではない。

 攻撃の際に一切の予備動作がなかった。それはまるで─────

 

 

「ふむ」

 

 緩やかな足音が響く。

 爆煙の向こう、“神父”が手を組みながらこちらを見つめていた。

 

 

「残念だね。あれは“救い主”になれなかった者たちだよ」

 

 隊長の眉が僅かに動く。

 そこの言葉で気づいてしまった。いや、気づきたくなかった。頭の中では、さっきのが分かっている。それでも否定したい。

 息が僅かに乱れる。

 

 

「……どういうことだ」

 

 それでも隊長は尋ねる。“神父”はゆっくりと歩きながら、無数の計算式が書かれた紙を踏みしめる。

 

 

「我々の計画において、成功する者と失敗する者がいるのは必然」

「成功する者は“救い主”として生まれ変わり、神の意志を体現する存在となる」

「だが……成功しなかった者たちは、“ただの失敗作”として消えていく運命にある。ただ、さっきの子は脂肪を燃料に爆発する機能を搭載していてね。それを起爆させた」

 

 隊長の胸の奥が、冷たい怒りで満たされていくのを感じた。

 

 

「──子どもたちの命を、そんなふうに蔑ろにしたのか」

 

 低く鋭い声。

 隊長の瞳が怒りに燃える。

 息が荒く、身体が熱くなる。

 しかし、“神父”は微塵も動じなかった。

 

 

「蔑ろ? それは違う」

 

 むしろ愉快そうに微笑む。

 

 

「私は、行き場のない子供たちに”生物としての更なる姿”を与えているだけだ」

「生きる意味も持たずに捨てられた彼らが、進化の機会を得る。 それは素晴らしいことだろう?」

「この都市に生きる彼らに、神の祝福を授けているのだよ」

 

 

「ふざけるなッ!!!!!」

 

 隊長の怒りが頂点に達する。

 

 

「それが”祝福”だと? そんなのはただの人体実験の言い訳だろう!!」

 

 彼女は瞬時に距離を詰め、疾駆。

 レイピアが閃き、鋭い突きが”神父”の喉元を狙う。

 

 

 それに対して“神父”は、一歩。

 まるで彼女の動きをすべて知っていたかのように、最小限の動作で避けた。

 隊長の刃は虚空を貫く。

 

 

「激情に任せた攻撃では、私には届かないよ」

 

 “神父”はそのまま歩き続ける。

 

 

「それに、君も理解しているはずだ」

「この都市の底辺で生きる子どもたちが、どんな未来を持つのかを」

「彼らは何も得られず、何者にもなれず、ただ消えていく……」

「ならば、せめて”神の使徒”となる道を与えるべきだと思わないか?」

 

 その言葉を聞く度に隊長は歯を食いしばる。

 

 

「貴様の言葉には、“神”なんていない」

「あるのはただの、自己満足の虐殺だ!!」

 

 怒号と共に、再び突進。

 今度は直線ではなく、一度跳躍し、高所からの斬撃を繰り出す。

 だが、“神父”はやはり余裕の微笑を浮かべながら、静かに横へと歩く。

 

 まるで踊るように、全てを見切ったかのような動きで。

 

 

「はは……!虐殺かっ!ユニークな答えだね」

 

 “神父”が穏やかに笑う。

 

 

「どうした? それほど激情に駆られているのに、まだ私に触れることもできないのか?」

 

 隊長の視界に”神父”の姿が映る。

 悠然と動きながら、こちらを観察している。

 

 

(これまで私の突きを避けられたことは、今まで数えるほどしかない)

(それと比較しても、この男の動きは異常だ)

 

 隊長は即座に距離を取る。

 

 

(冷静になれ。考えろ)

(単純な身体能力の差ではない)

(アイツは私の動きを“先読み”しているのか……?)

 

 “神父”の動きは、ただの回避とは違う。

 一瞬前までいた空間を、まるで見透かしたかのように消える。

 

 隊長はゆっくりと息を整えた。

 

 

「ふむ、少し落ち着いたか?」

 

 “神父”が静かに微笑む。

 

 

「激情に駆られたままでは、君は何も掴めないよ」

 

  "神父"の言葉に反応することなく、隊長は軽く肩を回しながら意識を研ぎ澄ます。

 既に静かに息を整えた。

 呼吸の乱れを抑え、怒りを研ぎ澄まされた集中へと変換する。

 

 

「……アイツのやり方でも試してみるか」

 

 隊長の脳裏には、今も上で暴れているのであろう後輩の姿が映る。

 きっと、アイツが同じ状況ならどうするのか。

 

 

(……見透せるものなら、してみるといい)

(強行突破する)

 

 次の瞬間、彼女の身体が弾丸のように飛んだ。地面を何度も蹴り、加速し続け肉眼で追えるのも困難になったタイミングでレイピアを突き出した。

 

 ただの突きではない。

 全身の筋力と瞬発力を極限まで高め、軌道を一切読ませない完璧な一撃。

 

 "神父"の動きは速い。

 だが、“彼女の突き”は、それすらも超越する。

 

 

 

 

 

ズッ

 

 

 

 刃が、深く肉を貫いた。

 

 

「……ッ!!」

 

 "神父"の脇腹に、レイピアの鋭い切っ先が突き刺さっている。

 隊長は素早く腕を引き抜き、距離を取る。"神父"は傷口を押えながら僅かに目を細めた。

 

 

「素晴らしい」

 

 静かに、余裕を持った声。

 彼は苦痛の表情を浮かべることなく、ゆっくりと懐へと手を伸ばす。

 

 

カチッ

 

 

 彼の指が、小さなスイッチを押した。

 それは一本の注射器。

 中には、不気味な暗黒色の液体が詰められていた。

 

 

 

「君が上で見たであろう救い主(プレゼント)は、未完成な存在でね」

「そしてコレはまだ、"先生"にも見せていない……所謂ぶっつけ本番って奴だが」

「“救い主”の完成形を見せてあげよう」

 

 

 

ブシュッ

 

 

 

 違和感を察した隊長が踏み込む直前、注射器が神父の首筋へと突き刺さる。

 

 

 

 

 彼の全身が、黒く染まる。

 まるで影がその肉体を飲み込むように。

 

 筋肉が膨張し、皮膚が硬質化していく。

 だが──その変貌は、先ほどの“失敗作”、"未完成"とは決定的に異なっていた。

 

 人の形を維持したまま、黒き“怪物”へと進化していく。

 

 

「これは……ッ!」

 

 隊長は咄嗟に警戒態勢を取る。レイピアを下に向け、カウンターを構える。

 

 

ズバッ

 

 

 

 一陣の風が吹き荒れた。

 すると隊長の目の前から、神父の姿が消えていた。

 

 

(目は離してなかったっ!何処に─────)

 

 考えるよりも先に、背後からの殺気を感じた。咄嗟に先程と同じように後ろへと身を翻す。

 

 

 

ドンッ!!!

 

 

 

 衝撃。

 気づいた時には、隊長の身体が数メートル吹き飛ばされていた。

 まともに拳を受けたわけではない。

 僅かに掠っただけで、まるで車に跳ね飛ばされたかのような衝撃。あまり状況が理解出来ていないままでも、空中で回転しながら何とか着地する。

 

 

(速い!!)

 

 それだけではない。

 圧倒的な質量を伴う、異常なまでの膂力。

"神父"は、余裕の笑みを浮かべながらゆっくりと歩み寄る。

 

 

「これが、“救い主”の完成形だ」

 

 彼の声は、低く響く。

 先ほどまでの穏やかさとは違う、絶対的な支配者のような響き。

 これまで感じたことのない異質な敵を前に隊長は息を呑む。

 

 

 全身が漆黒に染まり、まるで影そのものが凝縮したような質感。顔の輪郭はほぼ変わらないが、瞳孔は完全に黒く染まり、目の奥に淡い光が揺らめいている。

 その異様な姿が見た者に本能的な恐怖を植え付ける。

 

 

「おお、素晴らしい。これまで光に導かれた子たちに感謝しよう」

 

 彼は手を開き、握りしめる。

 その動作だけで、まるで大気すらも震えるように感じた。

 

 

「さあ、名もなき巡礼者よ」

 

 黒く染まった瞳が、隊長を射抜く。

 

 

「君は、どこまで抗えるかな?」

 

 隊長は息を整えながら、怪物へ飛び出す。

 

 

(……これは、ヤバいな)

 

 彼女の直感が、危険信号を鳴らしていた。真の地獄はここからであると………

 

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