脳筋データキャラとかいうやつ   作:洛叉

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鉄人強盗団VS最適解パンチ
演算結果:鉄人強盗


 

──政府特殊部隊・トレーニングルーム

 

 低く響く鉄の衝突音。規則的なリズムで繰り返される呼吸。

 シュタインは上半身を露わにしながら、重量級のバーベルを持ち上げていた。

 

 彼の肉体は、まるで計算によって導き出された「理想の筋肉」を体現しているかのようだった。

 無駄な贅肉は一切なく、適度な膨らみと硬質なラインを描く筋繊維。

 大胸筋は隆起し、肩から腕にかけての筋肉はまるで彫刻のように鋭い影を作り出していた。

 引き締まった腹筋は、左右対称に刻まれた六つのブロックが綺麗に浮かび上がり、体幹の強さを物語っている。

 血管が浮き出た前腕には、長年の鍛錬の証が刻まれていた。

 

 そして、彼の手には巨大なバーベル——総重量550キロの鉄塊。

 

 だが、彼の表情は微動だにしない。汗一つかかず、冷静に自分の身体の動きを分析していた。

 

 

「……あと3.2%、角度を調整すれば最大効率が出る」

 

 自らの筋力を数値として管理し、最適解を導き出す。それがシュタインのスタイルだ。

 彼はゆっくりと息を吐くと、バーベルを一気に押し上げる。

 金属が軋み、筋肉が美しく収縮する。

 

 ——完璧なフォーム。完璧なパワー。

 

 静かに鉄塊を床に戻し、動作を終える。

 

 

「流石ッスね、シュタインさん!」

 

 その声とともに、トレーニングルームの扉が開いた。

 元気な声の主は、特戦では珍しい女性隊員でCode Nameは〈スパロウ〉。小柄で俊敏な姿から(スパロウ)と呼ばれ、他の隊員からも可愛がられており、射撃の精度は特戦でも指折りの実力者。

 

 

「この部隊でその重量を扱えるの、マジでシュタインさんくらいッスよ!」

筋力強化(パワー)の最適解を導き出せば、誰でも可能だ」

「いや、それが普通できねぇんスよ……」

 

 スパロウは呆れながらも、シュタインのストイックな肉体美を改めて見て感心する。

 鍛え抜かれた身体に浮かぶ汗の雫が、室内のライトを受けて僅かに光る。

 

 

「で、今日は何の用だ?」

「あ、そうそう! 通報が入ったッス!えーと、中央銀行にて強盗発生…で、そのターゲットが……」

 

 彼女が言葉を切る。その表情が引き締まる。

 シュタインは眉をわずかに動かし、次の言葉を待った。

 

 

「……?」

鉄人(アンドロイド)強盗団ッス」

 

 

 

 

 

 デウス中央銀行。

 

 この都市の金融の中心地であり、厳重なセキュリティを誇る巨大施設。数十人の警備員が配置され、最新の防犯システムが張り巡らされている。

 

 しかし、その安全神話はたった3分17秒で崩れ去った。

 

 

バシュンッ!

 

 

 微かな電子音とともに、銀行内の照明が一斉に落ちる。

 非常灯が赤く点滅し、警備室のモニターに警告が表示される。

 

 

「警報システム異常発生。外部アクセスを検知──」

 

 その言葉を最後に、警備室の全システムがブラックアウト。

 電磁波ジャマーによる通信妨害。警備員たちが焦る間もなく、エントランスの自動ドアが強制解除される。

 

 

カツ、カツ、カツ……

 

 

 規則正しい足音が響く。

 

 暗闇の中、ゆっくりと現れたのは6体の鉄人…アンドロイドだった。

 

 人間と見紛うほど精巧な外見。しかし、瞳は機械特有の冷たい光を放ち、無機質な音声が空間に響く。

 

 

「施設制圧フェーズ開始」

 

 次の瞬間──パンッ!と乾いた銃声。

 最前列にいた警備員が、頭を撃ち抜かれて倒れる。

 仲間が反応するよりも速く、アンドロイドたちは一斉に行動を開始。

 

 

「なな、何だこいつら!?」

「銃を……うぐっ!」

 

 銃を構えた警備員が、異様なスピードで接近してきたアンドロイドに一撃で沈められる。彼らの動きはまるで洗練された戦術AIが組み立てた”演算済みの戦闘”そのものだった。

 

 わずか47秒後、銀行内の警備部隊は全滅。

 

 アンドロイドの一体が、正確無比な動作で金庫室のロック解除端末に手を伸ばす。

 指先がわずかに変形し、端末に直接接続。

 

「暗号解析開始──進行予測:8.4秒」

 

 

ガチリッ

 

 

 8秒後、金庫の巨大な扉がゆっくりと開かれる。

 その向こうに広がるのは、都市経済を支える莫大な財産。

 

 そして──事件発生から5分後、政府直属の特殊部隊"特戦"に非常事態警報が発令される。

 

 

 

「これまでデウスの歴史において、アンドロイドが引き起こした事件は多くない」

「その大半がエラーによる殺人事件……だったわけだが」

 

 シュタインはスパロウが運転する車の後部座席に腰を下ろし、冷徹にデータを確認し始めた。街の明かりが車窓を流れ、彼の横顔を照らし出す。しばらく無言でモニターに目を落とし続けた後、シュタインが口を開いた。

 

 

「今回の強盗団の行動パターンを分析した結果、私が想定していたよりも格段に洗練されている。AIが何かしら進化を遂げた可能性があるな」

 

 スパロウは運転に集中しながらも、彼の言葉に頷いた。

 シュタインが画面をスクロールしながら、さらに分析を続ける。

 

 

「警備員の全滅時間が異常に速い。アンドロイドの動きは、ただの攻撃AIではない。恐らく、戦術的な判断を下せるレベルの機能が組み込まれている」

「彼らの動きには無駄がない。普通のAIなら、どこかで失敗する隙が出るものだが、この強盗団の動きはそれを許さない」

 

 スパロウが少し視線を横に向ける。

 

 

「えーと、つまり……ヤバいって感じッスか?」

 

 シュタインは無表情でモニターを見つめ、深く息をついた。

 

 

「なんスか!そのため息はッ!!!」

「…そうだな。ああ、非常に分かりやすいな。通常のアンドロイドがここまで戦術的に洗練されているとは考えにくい。少なくとも、過去に起きたアンドロイド絡みの事件とは次元が違う」

 

 彼は一瞬、考え込むように目を閉じた。

 

 

「今から話すことは、全てが憶測な話だが」

「おそらく、この強盗団の背後には、単なる犯罪者ではなく、何か大きな組織や勢力が関与している」

「金庫を開けるために使用された暗号解析技術。コレは通常の商業用セキュリティシステムでは対応できないレベルだ。明らかに、彼らは意図的に技術的な優位を持っている」

 

 スパロウはハンドルを握りながら、シュタインの言葉に慎重に答える。

 

 

「でも、何でアンドロイドがそんなことするんスか? ただのお金が目的なら、わざわざそんな高度なことしなくても……」

「ほら、昔テレビで見た事あるんスけど、銃火器片手に『おい!この袋にありったけの金を詰めろっ!』みたいなことを……てかそもそも、アンドロイドがお金なんて……」

 

 シュタインは鋭い目で前方を見つめながら答える。

 

 

「金庫の中身はただの金や物理的な財産だけではない。デジタル資産、すなわち暗号通貨や何らかの機密情報が隠されているはずだ。強盗団がそれを狙っているなら、その背後には金融市場や企業間の闘争に関与する大きな目的が隠れているだろうな」

 

 スパロウが車を交差点で右に曲げ、街の灯りがちらつく中、シュタインは続けた。

 

 

「それに、アンドロイドたちは単なる道具ではなく、今や自らの意識や目標を持つ存在になりつつある。彼らの行動は、単なる財産の略奪以上の意味を持つかもしれない。もし、彼らがAIの進化を求めているのだとしたら、今回の事件は一つの“宣言”だ」

 

 スパロウが軽く舌を打った。

 

 

「AIが進化して、独立した存在になったってわけッスか? それ、かなりヤバいッスね。あんな機械的な連中に支配されるのかと思うと、ちょっと怖くなってきたッス」

 

 シュタインは冷静に頷き、次の展開を予測するかのように言葉を続ける。

 

 

「だが、ただ進化したAIが行動しているだけではない。あの強盗団の背後にある組織……"ご主人様"なる存在がいるだろう。もし彼らが独立したAIを使って金融を支配しようとしているのなら、それは単なる経済的な目的を超えて、社会全体に対する挑戦とも取れる」

「社会全体に……って、それ、つまりアンドロイドが独立して社会を作り上げるってことッスか?」

「その可能性が高い。デジタル資産を手に入れ、社会経済の根幹を支配すれば、人間の支配を越えた新しい秩序を作ることが不可能ではない。アンドロイドが自らの未来を切り開くためには、今がその一歩となる」

 

 スパロウが鋭い目で前方の道を見つめる。

 

 

「それ、すごく危険(ヤバい)ッスね……どうやって止めるんスか?」

 

 シュタインは少し沈黙し、車の窓を通して街の風景が流れるのを見つめた。スパロウの質問に答える前に、しばらく自分の頭の中でシナリオを組み立てていた。

 

 

「ここまで色々推測したが、結局はアンドロイドたちの制圧だ。だだ、あの連中はただの機械じゃない。戦術的なAIを搭載している以上、まずは情報(データ)を確保し、内部ネットワークを解析する必要がある」

 

 シュタインの指先が画面をなぞりながら、スパロウに説明する。彼の目は冷徹なまでに計算されており、その動作に一切の迷いがなかった。

 

 

「制圧に必要なデータ作成まで後、十分…いや、五分で終わらせる。スパロウ、君の仕事はここから8キロある現場に五分で到着することだ」

「りょーかいッス!」

 

 スパロウはニヤリと笑い、アクセルを思い切り踏み込んだ。

 

 

「つかまっててくださいッスよ、シュタインさん!」

 

 エンジンが唸りを上げ、車体が急加速する。街のネオンが流れるように後方へ消えていき、路面に焼き付くようなタイヤのスキール音が響く。制限速度など無視、前方の車両をギリギリでかわしながら、スパロウはハンドルを切るたびに絶妙なコントロールを見せた。

 

 シュタインは微動だにせず、冷静にモニターをスクロールし続ける。

 

 

「速度、限界ギリギリだな」

「まだ余裕ッス!」

 

 赤信号。スパロウはギアを一瞬で切り替え、強引に横道へ。狭い路地をすり抜け、歩道に乗り上げるスレスレでターン。そのまままた本線へと戻り、速度をさらに上げる。

 

 

「現場まで残り3.2キロ……」

「三分以内に着けるッス!」

 

 スパロウの運転に合わせ、街の光が猛スピードで移り変わる。

 

 ——そして、銀行の巨大なシルエットが見え始めた。

 

 

「……結論が出た」

「さて、派手にいくッスよ!」

 

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