「くぅ〜!これだから公用車は最高ッスね!」
スパロウは楽しげにハンドルを切り、車線を縫うように走る。対して、シュタインは冷静にデータを整理し、タブレットに表示された情報を一瞥した。
「スパロウ、現場に着いたらすぐに制圧戦に入るが、問題は敵の動きだ」
「アンドロイドって、やっぱり普通のギャングと違うんスか?」
「当たり前だ。彼らは完全にデータ主導の行動を取る。戦術を学習し、最適化された動きをする可能性が高い」
シュタインは指先で画面を操作し、銀行内部のレイアウトを投影する。
「中央金庫室は地下2階。既に防御システムは突破され、敵は完全に施設を制圧済みだ。だが、警備ログによると、アンドロイドたちは現場に長く留まっている」
「……ってことは、まだ仕事が終わってない?」
「その通りだ。つまり、今が襲撃のチャンスということだ」
「スパロウ、君の射撃の腕。信頼しているぞ」
その言葉にスパロウがニヤリと笑う。
「よっしゃ!じゃあ、バチっとやるッスよ!」
その瞬間、前方に銀行の巨大な建物が現れた。周囲には警察の封鎖線が張られ、武装した部隊が集結している。だが、彼らは突入できずにいた。
「お、もう包囲は完了してるッスね」
スパロウは車をスムーズに停車させ、二人はすぐさま降車。シュタインは拳を鳴らし、戦闘態勢に入った。
銀行正面の封鎖線の向こう、特殊部隊の指揮車両の前に立つのは、政府直属特殊部隊の隊長だった。
鋭い目つきと無骨な戦闘服、そして胸元には「FIELD COMMANDER」の識別バッジ。現場を統括する隊長が、シュタインたちの接近に気づくと、低く重い声で呼びかけた。
「待っていたぞ、シュタイン」
彼女は腕を組みながら、封鎖線の向こうを見つめる。赤と青の警告灯が銀行の外壁を照らし、無機質な光の反射が彼女の顔を横切る。
「隊長殿、データは既に用意し、ある程度、向こうの目的も推測しています」
「助かる。スパロウもご苦労だったな」
「えへへーそれほどでもありませんッスよぉー」
「ただ、緊急とはいえ危険な運転行為は認めていないからな」
「うっ……」
スパロウがばつの悪そうな顔で視線を逸らすのを横目に、シュタインは手早くタブレットを操作し、隊長へデータを転送した。
隊長はそれを受け取ると、ちらりと画面を確認しながら低く唸る。
「……なるほど。銀行のセキュリティは完全に突破され、内部の制圧も済んでいる。だが、アンドロイドどもは撤退の動きを見せていない、か」
「単なる強盗なら、侵入して金を奪い、さっさと消えるのが定石。だが、彼らは金庫を開けることにこだわり、予定以上の時間を費やしている」
隊長は顎に手を当て、しばし思案する。そして、決断したように頷いた。
「つまり、この状況は敵にとっても想定外……裏を返せば、やつらがまだ撤退できない理由があるということか」
「その可能性が高いかと。だからこそ、我々から強襲をかける価値がある」
「まったく、お前はいつも強気だな」
「根拠のない強気は愚かですが、計算された強気は戦術です」
そう言って拳を鳴らすシュタインを見て、隊長は苦笑しつつも頷く。
「お前の言う計算は既に完了しているんだな?」
「ええ、勿論。作戦成功率は64.3%です」
隊長はシュタインの言葉を聞くと、少し目を細めた。
「随分と慎重な数値だな。お前にしては低いんじゃないか?」
シュタインはタブレットの画面を指で弾きながら、静かに答えた。
「問題はアンドロイドの学習能力です。戦闘中にこちらの行動を分析し、最適化された対応を取る可能性がある。その変数を考慮すると、成功率はこれが限界かと」
隊長は少し考えた後、短く息をついて頷いた。
「ここからは実戦の中で確率を引き上げていくしかない、か」
「ええ。ですので——」
「私が力で
スパロウが横で苦笑しながら肩をすくめる。
「結局、シュタインさんが殴るの前提なんスね……」
※
隊長の号令とともに、特殊部隊の隊員たちが一斉に動いた。銃を構えた兵士たちが銀行のエントランスに展開し、突入準備を進める。
シュタインは一歩前に出ると、タブレットを手早く操作し、戦術プランを最終確認した。
「突入ルートは3つ。正面からはA班、屋上からはB班、そして地下駐車場からはC班が侵入する」
「シュタインさん、私たちはどこから入るんスか?」
「当然、正面だ」
スパロウが苦笑いを浮かべた。
「やっぱり正面突破ッスか……」
「私のデータでは、敵が最も火力を集中させているのは地下2階の金庫室周辺。だが、問題はそこに辿り着くには銀行の中央制御室が必要だ」
シュタインはタブレットをスワイプし、ビル内部のセキュリティシステムの詳細を表示した。
「中央制御室を確保しなければ、エレベーターもセキュリティドアも機能しない。まずはそこを落とす」
隊長が頷いた。
「シュタインらA班は中央制御室の制圧を最優先。B班とC班は地下2階への進入ルートを確保し、同時に敵の攪乱を行う。敵は6体とはいえアンドロイドだ。確実に始末しろ」
「突入準備、完了ッス!」
スパロウがマガジンを確認し、銃を構えた。隊員たちも次々に装備を整え、準備を終える。
シュタインは深く息を吸い込み、拳を鳴らした。
「よし——」
その瞬間、隊長が手を挙げ、鋭く指示を下した。
「突入!」
特戦隊員たちが一斉に動き出す。
A班の隊員たちが強化シールドを構えながら銀行内へと踏み込んだ瞬間、耳をつんざくような銃声が響いた。
──正面のホール、その中央に立つ一体のアンドロイド。
「敵戦力、確認。迎撃を開始する」
冷淡な電子音声と共に、その両腕が変形し、内部から銃口が展開される。
ガガガガガガガガガッ──!!
猛烈な弾幕が一斉に放たれ、隊員たちは咄嗟に強化シールドを構えた。
「くっ……! こいつ、両腕が完全に機関銃になってやがる!」
シールドに次々と弾丸が叩きつけられ、強化ポリマーの装甲が悲鳴をあげるように軋む。
「このままじゃ押し切られる!」
「遮蔽物に隠れるしか……」
「この弾幕内を動き回る方が危険だッ!!!」
すると、スパロウが動いた。シールドの隙間から銃を構え、鋭く狙いを定める。
「ッ……止まれッス!」
───パァン!
彼女の放った弾丸が正確にアンドロイドの右腕の関節部に命中した。
衝撃で機関銃の照準が一瞬ぶれ、その隙に隊員たちが素早く遮蔽物へと飛び込む。
アンドロイドはすぐに姿勢を立て直し、再び両腕の機関銃を構える。
「遅い」
低く、確信に満ちた声が響いたのと同時に銀行の大理石の床が砕けた。
「———ERROR」
そして気づいた時には、シュタインの拳がアンドロイドの胸部に突き刺さっていた。
圧倒的な衝撃が鋼鉄のボディを貫き、アンドロイドの胴体が弓なりに歪む。
シュタインは拳を引き抜くと同時に、もう一撃。今度は振り下ろした強化シールドがアンドロイドの肩を粉砕し、その場に沈めた。
アンドロイドの人工皮膚が裂け、内部の機械部品が剥き出しになる。スパロウが驚愕しながら声を上げた。
「うわっ、もう片付けたんスか!?」
「ああ、援護感謝だ」
「あ、いえいえーそれほどでもな───って、強化シールドにヒビ入ってるッスよ!?今、それで殴ったから!!!」
「問題ない」
「いやいや、シュタインさん……アンタは一応、一応ッスよ?後方支援なんスから強化シールドくらい持ってくれないと………」
スパロウがシュタインへ駆け寄ろうとした刹那、残骸になっていた筈のアンドロイドに変化が起こった。
「警告:戦闘データ解析完了。戦術演算、適用開始」
機械音声と共に、倒れたはずのアンドロイドの目が赤く点灯した。
次の瞬間、内部駆動音が急激に高まり、異音と共にボディの各部が変形し始める。
「まさか、自己修復機能まで……!」
スパロウが驚きの声を上げた。
だが、シュタインは微動だにせず、じっとアンドロイドを見据える。
「違う。これは単なる修復ではない──言うならば、戦闘モードの変更だ」
「えっ?」
するとアンドロイドの四肢が軋むように動き、両腕の銃口が消失。代わりに、腕部の装甲がスライドし、高出力プラズマブレードが展開される。
「近接戦仕様に切り替えた……!」
隊員たちが緊張し、銃を構え直す。しかし、シュタインは淡々と状況を分析し、静かに指示を出す。
「アレが状況に応じて、適切な変形を取ってくるのは想定内だ」
「スパロウ、距離を取れ。他の隊員たちは包囲陣形を維持しろ。敵は学習し、我々の戦術に適応している」
「つまり、こっちも対応を変える必要があるってことッスね!」
スパロウは即座に後方に跳び、別の射線を確保。隊員たちも彼女に続き、各自の位置を微調整する。
アンドロイドは一瞬、動きを止めたかと思うと──
「──敵戦術、再解析完了。行動パターン、変更」
その言葉と同時に、閃光のようなスピードでシュタインへ突撃した。床を砕く勢いで突進するアンドロイド。床を砕く勢いで迫る機械の刃が、シュタインの目前に迫る。
アンドロイドのプラズマブレードが唸りを上げながら振り下ろされる瞬間、彼は手にしていた強化シールドを即座に前方へ突き出した。
轟音とともに衝撃波が広がり、シールドとブレードが激しくぶつかり合う。だが、シュタインの腕は微動だにせず、彼の握るシールドはアンドロイドの刃を正確に受け止めていた。
「その行動は84.5%…既にデータにある」
シュタインの声は静かだったが、その瞳は鋭く、冷徹に計算された戦術の確信を宿していた。
アンドロイドの刃とシールドがぶつかり合うその瞬間、彼はすでに次の一手を決めていた。
「悪いがもう、
言葉と同時に、シュタインはシールドを押し上げ、敵の体勢を崩す。その動きを見越していたかのように、彼のもう片方の拳が正確にアンドロイドの腹部へ叩き込まれる。
ゴンッ──!
金属同士がぶつかる衝撃音とともに、アンドロイドのボディがたわみ、動きが一瞬鈍る。
だが——
「敵戦術、修正中……適応開始」
アンドロイドの瞳が赤く光を増し、瞬時に関節部が駆動。通常なら吹き飛ばされるはずの位置から、驚異的なバランス制御でその場に踏みとどまった。
「お、おいおい、シュタインの打撃が効いてねぇのか!?そもそも当たってたのか?」
「あの人の打撃を避けるのも耐えんのも無理だろ…!?」
「簡単な話だ」
シュタインは冷静に分析を続ける。
「コイツは私の攻撃を学習した。最初の私の攻撃だけで今の攻撃を想定し、最適な動きでダメージを
「じゃあ、どうするんスか!? こっちの攻撃がどんどん通じなくなるッスよ!」
「——ならば、それを超える速度で殴るだけだ」
その言葉が終わる前に、シュタインの動きが変わる。
「新たな敵攻撃パターン、再解析開始────」
彼は後方へ一歩下がると同時に、腰を低くし、足のバネを最大限に活かして急加速。
アンドロイドのセンサーが反応し、即座にプラズマブレードを構えるが——
シュタインの拳は、アンドロイドの予測を上回る速度で軌道を修正し、寸分の狂いもなく胴体へ叩き込まれた。
ドゴォッ!!!
金属が歪み、アンドロイドの身体が派手に吹き飛ぶ。壁に叩きつけられたアンドロイドは、一瞬の静止の後、そのまま動かなくなった。
シュタインはゆっくりと拳を引き、崩れ落ちたアンドロイドを見下ろした。
「私の
「優れた学習能力があろうと、データにない
そう言い放つと、彼は拳を軽く振り、手についた金属の破片を振り払った。
スパロウは呆れたように息をつく。
「結局、最初から最後まで力押しじゃないッスか……」
「最適解だ」
もう、アイツ一人でいいんじゃないかな。