格闘型アンドロイドと槍持ちアンドロイドの2体を撃破したA班は、制御室の扉が静かに開く。
「……っと。拍子抜けッスね」
スパロウは銃を構えたまま、辺りを見渡した。
予想していたような戦闘はなく、A班はあっさりと中央制御室を制圧した。
「こちら、A班代表シュタイン。中央制御室の制圧を完了した」
シュタインは胸元の小型通信機で、各班と連絡を取り始める。真っ先に反応したのが、隊長率いるB班だった。
「こちらB班、
隊長の声が通信機から響く。
その背後では、銃撃戦の音が徐々に遠ざかっている。
「……そちらの状況は?」
シュタインが尋ねると、隊長は短く報告した。
「アンドロイドをたった今一体撃破した。格闘型だったが、そこまでの強敵ではなかった」
「やはり、其方もですか。こちらも三体のアンドロイドを処理済みです」
「……なら、そちらへ向かう。数分で到着する」
「了解。制御室の防衛態勢を整えておきます」
通信が切れ、A班の隊員たちはそれぞれ周囲の警戒を強める。
スパロウが肩をすくめながら呟く。
「B班も順調ッスね……なんか、今回の作戦、思ったより楽勝じゃないッスか?」
「気を抜くな。三度目はゲンコツだぞ」
シュタインが低い声で釘を刺す。
「デコピンしながら、言わないで欲しいッス……はい、すいません………」
頭を押えながら、痛みに耐えるスパロウ。またやらかしたと自身の学習能力の無さに反省する。
その時だった。
───ザーッ…ザー………
通信機から、雑音交じりの声が流れてきた。
誰かが必死に呼びかけている。
「……! こちら、C班……聞こえるか!?」
通信が繋がった瞬間、聞こえてきたのは荒い息と、遠くで鳴り響く銃声。
明らかに、B班やA班とは違う。
「……助けてくれ……! 奴が……奴が来る……!!」
呻くような声に、A班の隊員たちが顔を強張らせる。
シュタインが即座に応答する。
「C班、状況を報告しろ。敵の戦力は?」
「……たった……一体……」
「……一体だけで、俺たちは……」
通信の向こうから、突然、鋭い金属音と絶叫が響いた。
次の瞬間——
────プツッ
C班からの通信は、途切れた。
そのタイミングで、隊長たちB班も制御室の扉を開いてやってきた。
「シュタイン」
「分かっています。C班のことですよね」
隊長が一歩前に出て、鋭い目でシュタインを見据えた。
「たった一体のアンドロイドによって、C班は壊滅した。私ならそう判断します」
隊長の表情が険しくなる。周囲の隊員たちも緊張感を増し、互いに視線を交わした。
スパロウが眉をひそめながら呟く。
「……ありえないッスよ。一体で三十人以上とか、化け物じゃないッスか……」
「敵の正体が何なのか、今の時点では情報が不足している」
シュタインは冷静に分析を続ける。
「ただ、“たった一体”でここまでの被害を出す以上、通常のアンドロイドとは異なる高性能個体である可能性が高い。最悪の場合、単独で部隊を壊滅させる特殊戦仕様機——」
「“エリート”クラスか」
隊長が低く呟く。
その場の空気が重くなる。
——エリートクラス。
通常のアンドロイドとは比較にならない戦闘力を持つ、特殊設計の個体。
主に兵器としての運用がされ、装甲、火力、知能、あらゆる面で圧倒的な性能を誇り、量産型とは違い、個々の戦闘能力が極めて高い。
「……そんなのが制御室に向かってきたら、ヤバいんじゃ……?」
「だからこそ、B班はここに残って防衛に専念する」
隊長が断言する。
「制御室はこの施設の心臓部だ。ここを奪われれば、作戦全体が崩壊する。シュタイン、お前たちA班は金庫室へ向かえ」
シュタインは頷いた。
「B班の防衛が万全であれば、作成の成功率は79.4%になります。ご武運を」
「ああ、そっちもな。制御室のセキュリティ解除は任せろ。すぐにやる」
隊長が制御端末へ向かい、操作を開始する。
数秒後——
ピ───ガシャンッ!
施設のロックが解除され、金庫室へのアクセスが可能になった。
「A班、行け」
隊長の声に、シュタインは頷き、スパロウと共に制御室を後にする。
「……頼んだぞ」
※
制御室を飛び出してから三分が経過。
A班は足音を響かせながら金庫室へと続く廊下を進んでいた。
「シュタインさん」
スパロウは歩きながら何気なく話しかける。
「隊長とアンタ、前からの知り合いなんスか?」
「……なぜそう思う?」
シュタインは特に表情を変えずに応じた。
「いや、さっきのやりとりを聞いてて、なんかただの上司と部下って感じじゃなかったんで。昔のツレみたいな雰囲気あったっていうか」
「そもそも、シュタインさんの特戦初任務の時、隊長顔には出してなかったけど、嬉しそうな声出てたッスよ」
スパロウはシュタインの横を歩きながら顔を覗き込む。
だが、彼は視線を前に向けたまま、淡々とした口調で答えた。
「……昔の先輩後輩のようなものだ」
「へぇ? それってつまり、隊長のほうが先輩だったってことッスか?」
「ああ。私がまだ新米だった頃、基礎はあの人に仕込まれた」
「へぇー……シュタインさんにも新米時代なんてあったんスね」
「当たり前だ。あの人から理論だけでなく、実戦での動きも鍛えられた」
「ほほーってことは、筋トレの基礎も隊長仕込みだったり?」
「それは違う」
「即答ッスか」
スパロウが笑いながら肩をすくめる。
とはいえ、聞いてみてなんだが、シュタインが個人的なことを話すのは珍しい。
やはり、隊長とはそれなりに深い関係があるのだろうのと察した。
——昔の先輩後輩、ねぇ。
だが、スパロウはどこか腑に落ちないものを感じた。
シュタインの語り口には、どこか「それ以上は詮索するな」と言わんばかりの雰囲気があったからだ。
——それ以上は過去に触れないほうがいいのかもしれない。
スパロウはそう判断し、これ以上の追及はせずに会話を切り上げた。
──ピピッ
その時、シュタインの端末が小さな電子音を鳴らした。
施設の地図と現在位置を確認し、彼は言う。
「金庫室はすぐそこだ」
スパロウも顔を上げ、目の前の分厚い扉を見つめた。
——金庫室。
この作戦の最重要地点の一つ。
ここを制圧すれば、施設の支配権が完全に掌握でき、任務は完了となるだろう。
だが、スパロウは無意識のうちに手のひらに汗をかいているのを感じた。
理由はわからない。
「開けるぞ。構えろ」
シュタインが端末を操作し、金庫室のロック解除に取り掛かる。
各隊員たちが各々武器を構え、スパロウは改めて深呼吸しながら、銃を握り直した。
——嫌な予感がする。
そう思うのは、自分だけだろうか。
※
分厚い金庫室の扉が、ゆっくりとスライドしていく。
シュタインを先頭に、A班の隊員たちが慎重に中へ足を踏み入れた。
そこにいたのは——
「あっ、やっと来たんだねぇ」
金庫室の中央に立つ、一体のアンドロイド。
見た目はこれまでの個体と同じように人間とほとんど変わらない。
精巧な造形に整えられた顔立ち。肌の質感も自然で、機械特有の無機質さはほぼ感じられない。
ただ、背丈が以上に低いのが気になるが。
「珍しい」
「子どものアンドロイド……すか?」
——美形の幼児アンドロイド。
だが、その最大の異様さは「口調」だった。
「ねぇ、ボクと遊ぶつもりなんでしょ?」
子どものような無邪気な声色。
まるで戦闘を楽しむような調子で、アンドロイドは目を細めた。
「ずーと退屈してたんだーボクがこーどな解析能力?とかがあるから、みんなどっか行って遊びに行っちゃったし……」
「でも」
「殆どやられちゃったね」
——次の瞬間。
「「「撃てッ!」」」
隊員たちが引き金を引こうとした、その刹那——
「——ッ!?」
銃が作動しない。
電撃のような波動が空間に広がり、隊員の銃が一斉に沈黙する。
「
「でも、もうそれは────」
スパロウが驚きながらも、すぐにリボルバーを抜こうとする。
——だが、その時には、もう遅かった。
「……え?」
気がつけば、アンドロイドが目の前にいた。
——速いッ!!槍持ちよりもずっと………!!!
反応が遅れるスパロウ。
「ばいばいっ」
アンドロイドの腕が振り上げられ、スパロウに迫る——
───ドガァッッ!!
「ッ……!」
強烈な衝撃音が響き、アンドロイドの身体が弾かれる。
「……おっと?」
アンドロイドは数メートル後方へ飛ばされ、軽やかに着地した。
その視線の先にいたのは——
「データにない個体…実に興味深いな」
「た、たた助かったッス……」
シュタインだった。
拳を握ったまま、ゆっくりと構えを解く。
アンドロイドは興味深げにシュタインを見つめると、楽しそうに笑った。
「へぇ、へぇ! ボクの計算じゃ、この距離なら初撃は通るはずだったのになぁ……」
スパロウが眉をひそめる。
「もしかして、この子……?」
「そーだよ。お姉ちゃん。ボクはやられちゃった子たちのデータを見てるんだよ」
「だからね。お姉ちゃんがすっごいガンマンなことも、そこのメガネのおじさんがスーパーヒーローなのも知っているんだ」
「戦闘パターンを計算してた訳か」
その言葉に再び、にこりと笑うアンドロイド。
「ボクね、遊ぶのが大好き」
「でも、負けるの好きじゃないんだよねぇ」
「だからさ……勝てる遊びしか、しないことにしてるんだ」
その言葉に、シュタインの目が鋭くなる。
「きみつじょーほーってのを取るまで後ちょっとだしなぁ。このままやってもいいけどぉ」
「けど、息抜きも必要だよねぇ」
そう言うと、アンドロイドはゆっくりと両手を広げた。
「僕と遊ぼっ!」