脳筋データキャラとかいうやつ   作:洛叉

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演算結果:超常異常勝負(バトル)

 

 

 

ドォォォォォン!!!!

 

 

 凄まじい爆発が金庫室内を襲った。圧縮された衝撃波が空間を引き裂き、熱風が隊員たちの装甲スーツを焦がす。散乱する弾薬や金属片が炎を巻き上げ、破片となって飛び交った。

 

 それをも完璧に躱しつつ、シュタインは隊員たちを出来るだけ安全な位置に固めさせる。

 

 

「ッ……クソッ!」

 

 何とか回復したスパロウは、倒れている隊員の方へと滑り込む。爆風で吹き飛ばされた彼らを庇う形で転がり込み、すぐさま装甲シールドを展開した。

 シールドが閃光と熱を遮る。だが、それでも身体に響く振動と衝撃を防ぎきることはできない。

 

 

「チッ……無差別にもほどがあるッスよ……!」

 

 次々と炸裂する爆弾。金庫室内での爆発はまさに自滅行為だが、相手はアンドロイド。人間と違い、爆風や高温に耐えられる。

 

 

「ねぇねぇ、ちゃんと守れてる? それとも、もうボロボロ?」

 

 アンドロイドの声が、爆炎の向こうから響く。

 

 その時——

 

 

カラン

 

 何かが床に転がる音。

 

「ッ……マズい!」

 

 スパロウの視界に、すぐ足元に転がる新たな炸裂弾が映った。

 すぐさまシールドを構え直し、全身の力を込める。

 

 

ドガァァァァン!!

 

 

 至近距離で爆発した。

 防御シールド越しにも、衝撃が体を突き抜ける。シールドのエネルギーゲージが急速に低下していくのを感じる。もう何発か受ければ、完全に防御を突破されるだろう。

 内蔵が既にボロボロなスパロウには、シールドが突破された頃には死んでいると思うが。

 

 

「もう、やめろッ!!!」

 

 またもや、飛んでくる炸裂弾を今度は床に落ちる前に撃ち抜き、空中で爆発させる。

 

 

「つまんなーい」

「つまんないよお姉ちゃん。もっと、逃げ回ってよ」

 

 爆炎の向こうから、アンドロイドの声が響く。

 

 

「それとも限界?」

「ボクも飽きちゃったよ。じゃ、ばいばーい」

 

 次の瞬間、信じられない光景が広がった。

 無数の炸裂弾が一斉に射出される。

 天井、壁、床、四方八方。

 まるで悪夢のような光景だった。

 

 

 スパロウは即座に察する。

 これはもう防げない。

 全方位から爆撃を受ける。どんなにシールドを張ろうと、どうやっても生き残れない。

 

 一瞬で心が冷え切った。

 

 

(終わった……)

 

 本日二度目の死を悟る。こんな簡単に走馬灯を二度も見るとは思わなかった。

さっきのような異常行動(エラー)は期待できるわけがない。スパロウは短い人生から目を背けるようにそっと目を閉じた。

 

 

 

ゴウッ!!!

 

 

 凄まじい気流と衝撃が襲いかかる。

 爆風……否、これは——

 

 

「計算通りだ」

 

 聞き慣れた声。聞き慣れた台詞。

 

 

「……え?」

 

 スパロウが顔を上げると、そこにはシュタインが立っていた。お姫様抱っこで彼女を抱えて。

 

 

「な、な、な、なッ……!?」

 

 衝撃的な光景を前にスパロウの顔が一瞬で真っ赤に染まる。

 シュタインにお姫様抱っこされている──

 しかも戦場のど真ん中で。

 

 

「ちょ、ちょっと!? なんで抱えてるんスかッ!!??お姫様抱っこでッ!!!お姫様抱っこでッ!!!」

 

「計算の結果、これが最適解だ」

 

 さらっと言いながら、シュタインは躊躇なく動いた。

 炸裂弾の嵐の中、彼は信じられない速度で駆け出す。

 

 

ゴッ!

 

 

 

 飛んできた炸裂弾を蹴り飛ばし、壁へと弾く。

 

 

 

バシュッ!

 

 

 

 

 別の炸裂弾は拳で弾き、起動を逸らした。

 スパロウが呆然とする中、シュタインはさらに加速する。

 壁を蹴り、そのまま垂直に駆け上がった。

 

 

「 壁、走ってる!? いや、なんで普通に壁走れるんスか!!?」

「筋力が足りれば、壁も床と変わらん」

(変わるよッ!!)

 

 心の中でツッコミを入れる間にも、彼の動きは止まらない。

 炸裂弾を次々と殴り、蹴り、弾き飛ばしながら、壁を駆け抜ける。

 

——そして。

 

 

 

ドンッ!!!!

 

 

 

 信じられないことに、シュタインは天井へと飛び移った。

 

 

(いやいやいや、待って!? なんで天井走ってんの!!?)

 

 スパロウの脳内が混乱する中、シュタインは炸裂弾をすべて回避し、着地した。

 爆発音だけが背後に響く。

 何一つ喰らわず、完璧に回避していた。

 

 

「問題ない。全弾回避済みだ」

 

 そう言ってスパロウを安全な位置に降ろす。

 

 

「…………………………………プシュー」

 

 スパロウは、顔を真っ赤にしたまま言葉を失っていた。頭からものすごい湯気が漏れている。

 

 

「え?」

 

 爆炎の向こう側。

 

 シュタインの超人離れした動きを見ていた幼児型アンドロイドの瞳が、大きく見開かれる。

 先ほどまでの余裕に満ちた声音は消え、しばしの沈黙。

 

 

「……………… 何今の?」

 

(ボクの計算では、炸裂弾の嵐から生き残れるはずがない)

(全方位攻撃、避ける隙間ゼロ、絶対絶命)

(なのに、あのおじさんは全部避けた。壁を走って、天井を走って、殴って、蹴って………)

 

 

「意味わかんない」

 

 アンドロイドの表情こそ変わらないが、その声には確かにドン引きの色が滲んでいた。

 

 

「やば……何あれ……普通そういうの、無理なんだけど……」

「アンドロイドにそう言われるのは光栄だな」

「………いや、もうおじさんは終わりだよ」

「今、ここで確実に死ぬ(負ける)んだっ!!!!」

 

 そう言いながら、今度は炸裂弾だけでなく、閃光弾や音響弾を織り交ぜて撃ちこんだ。

 

——閃光弾が炸裂すれば、視界は完全に奪われる。

——音響弾が炸裂すれば、鼓膜が破れるほどの衝撃が襲う。

 

 人間なら、これで終わり。

 視覚と聴覚を奪われたら、いくら強かろうと反撃はできない。

 

 

「これなら、もう避けられないよね?」

 

 そう言いながら、幼児アンドロイドは口元を綻ばせた。

 

だが——

 

 

「甘いな」

 

——次の瞬間、信じられない光景が広がる。

 

 シュタインは、閃光弾の直撃を受けながらも、一歩も動きを止めなかった。

 

 

「!?」

 

 視界が奪われたはずなのに、まるで見えているかのように動く。

 音響弾の衝撃波が炸裂する。だが、まるで何事もないかのように拳を握り込む。

 

 

「……は? なんで??」

 

 想定外の事態に、幼児アンドロイドの演算回路が急速に過負荷を起こす。

 

 

「……ちょっと待って、何で普通に動けるの!? 見えないでしょ!? 聞こえないでしょ!??」

 

 すると、シュタインはふっと笑った。

 

 

「何を言ってるのか分からないが、凡そ理解出来るから答えてやろう」

「それはもう計算済みだ」

 

 その間にも、炸裂弾が壁や床で次々と爆発し、音響弾が衝撃波を撒き散らす。金庫室内がカオスと化していく。

 

 しかし——

 

 

「たかが光と音だ。筋力さえあれば問題ない」

 

 

 シュタインは、全てを正確に回避しながら前進していた。

 

 

 

ゴォッ!!

 

 

 

 炸裂弾が飛んでくる。だが、それをシュタインは拳で叩き落とす。

 

 

 

バンッ!!

 

 

 

 今度は音響弾。爆発と同時に空間を震わせる音が襲いかかるが——衝撃波を諸共せずに蹴り飛ばした。

 

 

(おかしい。これで避けられるはずがない)

(視覚と聴覚を奪えば、反応速度は大幅に低下する)

(なのに——)

「……ここは機密情報で溢れているというのに…貴様のような奴は許さん」

 

 シュタインは冷静に言い放つと、一気に間合いを詰める。

 

 

「ひっ……!」

 

 幼児型アンドロイドの表情こそ変わらないが、声がわずかに震えた。

 アンドロイドは必死に攻撃を続ける。

 炸裂弾、閃光弾、音響弾、さらには高周波ナイフを展開し、至近距離での接近戦を挑む。

 

 

「ボクの計算では……勝てるはず、勝てるはずなのに……!」

 

 だが——

 

 

ドンッ!!!!

 

 

 その小さな手が振るったナイフを、シュタインは片手で軽く受け止めた。

 

 

「甘い」

 

 

 そのまま、圧倒的な力でナイフをへし折る。鈍い破壊音と共に、握り潰された高周波ナイフの破片が床に散らばった。

 

 

「——————!!!!!」

 

 

 幼児型アンドロイドの瞳が揺らぐ。

 理解不能。演算回路が過負荷を起こし、思考がまともに回らない。

 

 その表情は、まるで——

 

 

(こ、こわい)

(ボク……負けるの?)

 

 

 プログラムされた感情ではなく、本当の『恐怖』が芽生えた瞬間だった。

 

 だが、それはもはや関係ない。

 シュタインは、一切の躊躇もなく拳を振りかぶった。

 

 

 

ドガァァァッ!!!

 

 

 

「—————ッ!!!!?」

 

 幼児型アンドロイドの顔が激しく揺れる。衝撃吸収機構が作動し、ダメージを吸収する。

 

 ……だが、次の瞬間——

 

 

 

ドガァッ!!!

 

 

 

 もう一発。

 顔面に容赦なく叩き込まれる拳。

 

 

ドガッ!ドガッ!!ドガッ!!!

 

 立て続けに、鉄拳が振り下ろされる。

 一発ごとにアンドロイドの頭部が激しく揺れ、センサーが悲鳴を上げる。

 

 

(……なに、これ……!?)

(こんな、計算……なかった……!!)

(ちょっと…ちょっと…削れば、こんなヤツ勝てたはずなのに………)

(ただのつまんない奴だと思っていたのに………)

 

 殴られるたびに、内部の回路が悲鳴を上げる。

 衝撃吸収機構が限界を超え、各部のセンサーが正常に機能しなくなっていく。

 

 

「ひっ……!! や、やめ——」

 

 

ドガァァァァァァッ!!!

 

 

 涙声の懇願も、拳の前では無意味だった。

 シュタインの鉄拳は止まらない。

 

 

「ボクは……負けるわけ、ない……負けるわけ……ない、のに……!!!」

 

 自分に言い聞かせるように、必死に言葉を紡ぐ。

 しかし、シュタインの拳は答えのように——

 

 

ドガァァァァァァァァァァァァ!!!!!

 

 

 最後の一撃が、顔面を撃ち抜いた。

 

 

 アンドロイドの体が大きくのけぞり、膝から崩れ落ちる。

 意識が——否、システムが急速にブラックアウトしていく。

 

 金庫室に重苦しい静寂が戻る。

 シュタインは拳を振り下ろしたまま、数秒間その場に立ち尽くしていた。

 

 

「……ふぅ」

 

 深く息を吐き、ゆっくりと拳を下ろす。

 光も音も戻っている。シュタインの視界は正常に回復し、耳にも遠く響く爆炎の音が戻ってきていた。

 

 

(よし、計算通りだ)

 

 無事に視覚と聴覚が復帰する時間も含めて計算済み。

 問題は——

 

 

「スパロウ、大丈夫か」

「……あ、は、はいッス……」

 

 返事は遅れた。

 シュタインがアンドロイドを粉砕するまで、完全に圧倒されていたスパロウの思考がようやく動き始める。

 

 

「……や、ヤバすぎるッス……シュタインさん……マジでなんなんスか……?」

 

 恐怖と尊敬と、そしてほんのわずかの羞恥が混じった声。

 スパロウの顔にはまだ赤みが残っている。

 

 

「俺はただの戦術アナリストだ」

 

 そう、当たり前のように言い放つシュタイン。

 「いや、それはそうなんスけど、そうじゃなくて」と、スパロウは反論しようとしたが、結局何も言えず、目をそらした。

 

 

「……とりあえず、報告を……」

 

 EMPが解除された事で、制御室の方にまで通信が届くようになった為、早速作動させる。

 が、その時だった——

 

 

カツ…カツ…カツ……

 

 

 足音。

 黒い靄のような何かが、金庫室の奥から現れる。それは全身を黒衣で隠す謎の存在。

 

 

「……ッ!!?」

 

 スパロウは即座にリボルバーを構え、警戒する。

 シュタインも動きを止め、冷静にその影を見つめる。

 

 黒衣の何者かは、ゆっくりと歩いてきた。

 顔は見えない。その身体すらもどこか曖昧に滲んでいるように見えた。

 

 

「……データにない。誰だ?」

 

 シュタインが鋭く問いかける。

 しかし、返答はない。

 代わりに、黒衣の何かは——

 

 

 

ブシュッ!!!!

 

 

 

突如、腕を振った。

そこから飛び散る黒い液体。

 

 

「ッ!?」

 

 シュタインとスパロウは即座に左右へ飛び退く。

 液体は彼らを狙ったものではなかった——

 

 

「あっ!!?」

 

 スパロウが目を見開いた。

 液体は、倒れていた幼児型アンドロイドの身体へと直撃する。

 

 

 

ジュゥゥゥゥ……

 

 

 

 白煙とともに、アンドロイドの身体がみるみる溶けていく。

 

 

「え、ちょ、ちょっと待って……!? 何してんのッスか!!?」

 

 突然の事態にスパロウがテンパりながらも叫ぶ。

 

 シャットダウンした筈の幼児アンドロイドの口が、まだかすかに動いていた。

 まるで何かを言おうとするかのように——

 しかし、黒い液体が広がるにつれ、その顔はぐちゃぐちゃに溶け、崩れ落ちた。

 

 

「…………なんて事をッ!!」

 

スパロウは唇を噛みしめ、復活したサブマシンガンとリボルバーの二丁邪構える。

 

 

「容赦なく殺るッス!!!!」

 

 スパロウは即座に引き金を引いた。

 サブマシンガンの銃口から、銃弾が連続して火を噴く。

 

 

 

ダダダダダダァァッ!!!!!

 

 

 

 彼女の射撃は正確だった。

 黒衣の何者かは輪郭こそ曖昧だが、人型であることは間違いない。

 心臓、頭部、関節……急所になりうる箇所へ、次々と銃弾を叩き込む。

 

 

——はずだった。

 

 

「ッ……!?」

 

 弾丸は、届かなかった。

 黒衣の何かが動くよりも早く、弾丸は空中で溶けた。

 

 それは、黒い液体。

 弾丸が触れた瞬間、ジュウッとあっという間に蒸発する。

 

 

「ちょ、なんで——ッ!」

 

 焦るスパロウ。

 リボルバーを抜き、今度は高威力の弾丸を撃ち込む。

 

 

 

バンッ!!バンッ!!

 

 

 しかし、結果は同じだった。

 黒衣の何者かから飛び散る黒い液体が、すべての弾丸を呑み込み、無効化する。

 

 

「……クソッ!!」

 

 スパロウは舌打ちしながら後退。

 ただの防弾装備ではない。

 あの黒い液体は、まるで——

 

 

「ッ!酸スか」

 

 それに気づいた時には、すでに黒衣の何かは動き出していた。

 背を向けて金庫室を去ろうとする。それをシュタインが逃がさない。

 

 

「——逃がすか」

 

 鋭く呟いた瞬間、シュタインの足が床を蹴った。

 

 

 

ドッ!!!!

 

 

 

 衝撃波すら生じるほどの踏み込み。

 筋肉(データ)と計算が生み出す、最適解の拳。

 

しかし——

 

 

 

シュウウウ……

 

 

 

 拳が届く寸前、黒衣の何者かは黒い靄となり、空間に溶けるように霧散した。

 

 

「……逃がした」

 

 シュタインは拳を止め、周囲を見渡す。

 すでに、黒衣の何者かの気配はどこにもなかった。

 

 

「……ッツ、何なんスか、あいつ……!!」

 

 スパロウが悔しげに歯噛みする。

 シュタインは金庫室の外に出て黒衣の何かを追おうとしたが、異常な光景に思わず足を止めた。

 

 

 金庫室を出た先の廊下。

 そこには、明らかに異常な痕跡が残されていた。

 

 天井が、斜めに溶け落ちている。

 

 まるで何かが壁や床ではなく、「天井」を移動していたかのように。

 黒い液体の影響で溶けた部分はまだジリジリと音を立て、煙を上げていた。

 

 

「……これ、さっきの黒い液体……スか?」

 

 スパロウもすぐに駆け寄り、眉をひそめる。

 彼女の視線の先、溶解した天井の向こうには、さらに奥へと続く不気味な影が残っていた。

 

 シュタインは無言で拳を握る。

 

 

(……成程 )

(溶かしながら進んだな)

 

 単なる酸性物質なら、重力に従って垂れるはず。

 だが、これはまるで意志を持っているかのように「道を作っていた」。

 

 

「……本当に興味深い」

 

 シュタインは天井を見上げたまま、低く呟く。

 こうして、A班は金庫室を取り戻したのだった。

 




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