ここだけ茶番劇の時に 作:トリわか
・本編(コミカライズ版)の16話~17話辺りから始まり、24話の真断罪劇まで飛びます。
・本編・コミカライズ版からの引用があります。
「だよ…………えっ」
証拠集め、魔族製商品の流通と順調に進み、リリンの実が見つかった数日後のこと。領地へ赴き、つつがなく仕事を終えたわたくしに少し時間をくれないかとデイビッドが声をかけてきた。
どういった用件かは告げられなかったけれども、わたくしは既に彼がこれから行おうとしていることに見当が付いていた。
村が一望できる丘へ連れていかれ、想像していた通り、デイビッドはわたくしに愛の言葉を告げた。そして、その愛情をわたくしは瞳を潤ませ『エミのレミリア』の表情で受け入れた。
わたくしの返答にデイビッドは呆けている。夢と疑ったのだろう、己の頬をつねったかと思えば痛みに眉間に皺を寄せている。
「本当に……?本当に、俺でいいのか……?」
「ええ、デイビッド。あの時、わたくしを信じてくれたこと、ずっと味方でいてくれたこと、本当に嬉しかったの……貴方が良いの」
本当に馬鹿な男。どうして自分が選ばれないと思っていたのかしら。
まあ全く理解できないわけではないけれど。貴方はきっとわたくしはアンヘルと結ばれると思っていたのでしょう。仕事の割り振りの関係で何かとわたくしはアンヘルと過ごすことが多かった。それにその選択も一瞬頭をよぎったもの。
あの女が執着していた男で、あの愚か者達よりも遙かに格上の存在。だからあの女にもウィリアルドにも大きなダメージを与えられるだろうと。
でもエミは間違いなく貴方を選ぶ。『エミのレミリア』に追いつこうと剣聖の厳しい鍛錬を自ら願い、孤立していこうともエミを励まし続け、命を賭けてエミを守ろうとした貴方を、エミは愛していたのだから。
「……レミリアッ!」
「きゃっ」
「ずっとずっと、あの日から、お前が好きだった。だから、すごく嬉しい。レミリア、俺を選んでくれて、ありがとう。まだまだ未熟な俺だけど、いつか必ずお前に追いつくから」
突然、勢いよく抱き上げられた。性急すぎる振るまいに少しばかり怒りを覚える。
でもわたくしを見上げる彼はこの世の全ての幸福を詰め込んだかのような笑みを浮かべていて。喜び感極まった末の行動だと否が応でもわかってしまい、気が抜けた。
「――誓うよ。俺の生涯をかけて、レミリアへ惜しみない愛を捧ぐと」
この雰囲気に水を差すような真似はきっとエミはできないわね。……だから、今回だけは見逃してあげる。
*
罠として用意した香水についてアンヘルが指摘すると同時、わたくしの隣に控えていたデイビッドが飛び出し、あの女を拘束する。予想外の人物の登場に会場がざわついていた。驚いている理由はそれだけじゃないでしょうけど。
自分を押さえ込んだ男を確認したあの女は何を考えたのか目を輝かせる。
「デビー、痛い、やめて! アタシ、何も」
「…………」
「ちょっと、なんで無視するのよ、ッ痛い痛い!!」
デイビッドが自害したのはエミの潔白を示すため。そしてかつての親友達の目を覚ますためであった。彼は己の血と命で、親友達が正気に戻ることを願っていた。
だがそれほどまでに大切に思っていた親友達はあの有様だ。親友達を破滅へと導いたあの女への怒りにデイビッドは唇に血を滲ませている。
ただこのままでは痛みに喚くばかりで発言しないと判断したのだろう。デイビッドが最低限力を緩めると、あの女はここぞとばかりに言い訳をし始めた。
それにアンヘルは淡々と追求し、真実を引き出していく。薬に込められた悪意、ピナが知るアンヘルの嘘を見抜く瞳、そして。
「それで薬物を使うのか?レミリアとデイビッドが忠告してくれた通りだな」
「なん、で、アンヘル様があの女の名前を……?!」
「……デイビッド、そいつの口を塞いでおいてくれ。我が国を救ってくれた恩人を侮辱されて思わず縊り殺しそうになった。ああ、そういえば我が親友の決死の覚悟を貶めたのもお前の案だったな」
苛立ちすぎて、アンヘルのよそ行きの言葉はすっかり剥がれてしまっていた。
わたくしが登場するのを察したであろうエルハーシャ殿下の命で、あの女の拘束をデイビッドに代わりシルベストが請け負う。原作のようにわたくしを倒すほどの力を得ていたならまだしも、怠惰に浸りきった体では交代の際起こった一瞬の隙はなんの意味もなさなかった。
デイビッドがアンヘルの元へと立ち並んだのに合わせて、わたくしもデイビッドの隣へと歩んでいく。
「アンヘル、わたくし達のために声を荒げないで」
会場が騒然とする。その中でも三馬鹿達の驚きと絶望はリリン酒を飲んだ時の比じゃなかった。
そうでしょうね。わたくしとデイビッドが纏うのは揃いの聖鎧。神話を知らない者でも一目で並々ならぬ品と気付くに違いない。美しく輝く白金の清らかさは、虚飾まみれのあの女のドレスと良い対比になっていることだろう。
羨ましくてしかたないでしょうね。でも本来ならお前達の分も作っていたのよ。エミを裏切らなければ、ね。
本当であればとうに火の神の元へ返していた。だがわたくし達を結ばれたことを知ったアンヘルが、サラを通して火の神にこの日まで待ってもらえるよう願ったのだ。神から賜った聖鎧はわたくし達の潔白において何よりの証明になるだろうと。
あの女はわたくし達の装いの意味に気付いていないらしい。空気を読まず、あの薬を『おまじない』と弁解しはじめ、挙げ句の果てに狂ったとしか思えない提案を口にした。
理解の範疇を超えたらしいアンヘルはどうにか無表情を保とうとしているが、その奥には困惑が張り付いている。無理もない。この馬鹿げた提案は心の底からの本心で嘘がないのだ。
おぞましい願望をぶつけられたアンヘルにデイビッドは気の毒そうな顔をしている。哀れみを誘う二人の瞳、これにはさすがに助け船を出すことにした。
デイビッドの腕にそっと触れる。それでわたくしの意図を理解したのだろう。
国王の元へ向かい二人で臣下の礼を取る。先程のアンヘルの発言と魔国の勲章に、国王はわたくし達の現在の立場と関係を理解したようだ。同時にかつての処遇を思い出したのか、可能な限り穏便に事を済まそうと計算しているのが目に見える。
今ならば話を有利に進められるだろう。そこでわたくしは星の乙女を休ませるよう提案した。
改めて話合いの場を設けてよい。その提案に乗ろうとした王を遮り、予想通りピナは冤罪をふっかけてきた。人を殺せそうなほどの怒りをデイビッドとアンヘルが滲ませる。
続けざまに真実をねじ曲げながらアンヘルの瞳を乗り越えようとして、矮小な頭で考えぬいた末に吐き出された言葉はあまりにお粗末なものだった。それを聞いたアンヘルは更に怒りを強める。
これ以上は本当に取り返しが付かなくなると判断したのだろう。ピナを下がらせようとした国王を王妃様が拒む。
王妃様の整然とした当然の主張に国王は反論できるはずもなく。エミを貶めたもの達を地獄へと落とす門が開かれた。
「レミリア達は『悪意をもって嘘をつかれて冤罪で追いやられた』と言った、その言葉に嘘は無かった。お前は俺が嘘を見抜ける魔眼を持つと何故か知っているのなら、この言葉の意味がわかるだろう?」
「違います……その、レミリア様は罪を犯した自覚が無いだけで……デイビッドもレミリア様との関係を責められて自殺しただけで……あの時も最後まで認めようとなさらなくて……」
「ならば、『はい』か『いいえ』で答えるが良い。あの時、嘘を吐き、証拠を捏造し、買収した証人を使ってレミリアを冤罪で罰したのか?デイビッドへありもしない不貞の疑惑をかけ、潔白の証拠を握りつぶし、彼の命懸けの証明を自作自演の茶番として広めたのか?」
「……っ」
「俺の前で沈黙を選ぶのは肯定するのと同じだが」
ハッと鼻で笑うとアンヘルは不機嫌そうに顔を歪めた。顔面蒼白となったピナは唇をわななかせ、顔を伏せた前髪の隙間からわたくしにだけ見えるように睨みつけながらブツブツと何事か呟き出した。
ゲーム、バグ、ヒロイン……ぶつ切りで聞こえる単語を聞いている限り、理解はできずともロクでもない妄言であることは確かだ。
自分の思い通りにならないことがよほど気にくわなかったのか。ピナは身をよじって暴れだそうとするが、即座にシルベストに制圧される。
シルベストを罵倒するピナにデイビッドは怒りを滲ませ、爪が食い込むほど拳を握り込んでいた。それにわたくしは心配そうな目を彼に向けながら、彼の手へ自分の手を重ねた。剣呑な表情が少し和らぎ、声を出さずにデイビッドは「悪い」と唇を動かした。
わたくしを怖がらせてしまったと思ったのだろう。貴方の気持ちはよくわかるわ、大切な人をあのように言われていては黙っていられないもの。
「なあピナ……本当なのか?魔王陛下がおっしゃっていた通り、レミィに冤罪をかけたのか……?まさか、デイビッドのことも、全て……?」
「! 違うの!ウィル!本当にあたしレミリア様が怖くて、デイビッドも信じてくれなくて、ずっと追い詰められてて……!」
ピナ、お前は本当にエミのことが怖かったのでしょう。好感度上昇アイテムなんて頼らずとも、エミは彼らに心から好かれていた。揺らがぬほどの愛をデイビッドはエミに向けていた。自分が卑怯な手を使っている自覚があったからあそこまで焦ったのだ。
監視していて気付いたが、あのアイテムは少しでも好感を抱いている相手でないと効かないらしい。最初からピナに悪い印象しか持っていなかった者達は落とされることはなかったようだから。
ただ逆に言えば0でなければ強制的に増幅させられる。星の乙女との顔合わせの日、不安そうにしていたエミに男達は誤認した。エミからの嫉妬が嬉しいという感情と、ピナへの印象を混ぜてしまった。
それはデイビッドに関しても例外ではなく、彼の場合は叶わぬ恋だと抑圧していたから尚更効果が出てしまったんでしょうね。
だがすぐに彼は不穏な考えをすぐさま自分で振り払い、深く反省して何があろうともエミの味方であり続けた。
それでもリリン酒が完成するまでの長い間、あの女がアイテムで作り出した偽物の感情に、あの女へ僅かでも好意を持ってしまった苦しみと、一瞬でもエミを裏切る選択が脳裏をよぎった罪悪感で苦しんでいたのよ。
だというのにお前達は思考を停止させて、のうのうと自分の醜い欲望を正当化させていたわね。あのアイテムには洗脳するほどの力はないというのに。
「ではここで皆様に真の罪人の手口と証拠を明らかにすべく、真実を映し出す魔術『過去の水鏡』をご覧になっていただきたく存じます!」
騎士の礼を早々に終えると、王の前に歩み出たスフィアが高らかにわたくしが事前に用意していたトランクを掲げる。彼女の手の中のそれには「過去の水鏡」の映像を封じた魔晶石が標本のように綺麗に収めてある。
ピナは「何よ?!過去の水鏡って!!」とヒステリックな悲鳴を上げていたが、魔術の名前からおおよそどんなものか想像がついたのか途端に挙動不審となった。ええ、お前も間違いなく何度もお世話になってきたものよ。
エミのレミリアならばこの女にも慈悲をかける。だから「そんな、こんな場所ではピナさんが晒し者になってしまうわ」と悲痛な声で訴える。心にもない言葉だけれど、ただの事実の羅列だ。よってアンヘルの能力は反応しない。
スフィア、アンヘルが追撃し、そして王妃様からの助け船によって、会場の雰囲気は完全に『エミのレミリア』が望まない方向へと進んでいく。
「レミリア、こっちだ」
戸惑いうろたえている態度を取るわたくしに、アンヘルがデイビッドへ目配せする。それにデイビッドがわたくしの手を取り、人混みから少し離れる位置へエスコートされた。
こちらを睨み付けてくるピナの視線を遮るようにデイビッドが間に立つと、アンヘルが半透明の黒い障壁でわたくしとデイビッドを隔離してしまった。
「レミリアなら無理矢理壊せるだろうけど、そうなると俺も周囲も被害が出そうだな」障壁に触れながら困ったように笑うデイビッド。ええそうね。エミのレミリアなら誰かを危険に晒すぐらいなら力ずくで壊したりはしないわ。
だから、わたくしは途方に暮れた顔で、わざとらしく無い程度に限界までゆっくりと解除を始めた。
スフィアとアンヘルのナイスコンビネーションで、ひとつひとつ完膚なきまでに証拠と証人の嘘が暴かれていく。
これで全ての物証と目撃者がなくなったと冷静な魔王の仮面を被ったアンヘルがピナに詰め寄る。あれだけ騒いでいたのが嘘のようにあの女は何も話さず俯いたままだ。ウィリアルド達は最初こそ戸惑っているばかりであったが、今は距離を置いて遠巻きに嫌悪の視線を送るだけになっている。
偽証について映像で吊し上げを食らった者達は、真偽を改めて問われると流石に自分の罪を認める者が殆どだった。稀に捏造だと言い張る者もいたが、すかさずスフィアが別方向からの証拠品でその訴えを潰す。
本当の弟のように思っていたデイビッドを貶められたからだろう。スフィアは今回の件は本当に腹を据えかねていた。だからか過去の水鏡以外もデイビッドと同じく、騎士の伝手を使って個人的に証拠を集めていた。
彼女は最年少で王妃付になれるだけあって悪意と対抗手段を知っている。その点で言うとスフィアはエミよりよっぽど貴族に向いているのよね。
「これより未婚の女性には刺激が強い映像が流れます!どうかお嬢様方は耳を塞いで、後ろを向いていただきたく。……アンヘル様、こちらを」
「ロマノ・ドール・マルケロフ……レミリアの護衛だった男だ。護衛についていた令嬢の予定を求められるがまま漏らした事に加えて、この男は王太子の恋人と不義密通を行っていた」
障壁をとくフリはそのままに恥ずかしそうに頬を染めるわたくし、それと不義密通の言葉にどんな映像が流れるのか理解したのだろう。
慌てた様子でデイビッドが、どうにかして映像がわたくしの目に入らぬ位置に立とうと試行錯誤している。
デイビッドは告白の時こそ抱きついてきたが、それ以降は最低限の触れ合いしかいない。キスすら至っていなかった。どうやら婚約者の間柄になったとはいえ、結婚までは貞淑に過ごすつもりらしい。
じわりと顔を赤らめながら必死でわたくしの視界を遮ろうとする彼を可愛く思う。むしろこんな反応をする彼の方こそ耳を塞ぐべきじゃないかしら。
ちょうど映像の二人が半裸で抱き合い口付けるシーンが大写しになったところで障壁を消し、アンヘルを止めにかかる。エミならきっとあの女の尊厳も可能な限り配慮しただろうから。
あれだけの映像が流れたというのに、ピナはまだ捏造だと叫ぶ。だがほくろを理由にウィリアルドにばっさりとその訴え切り捨てられた。
更にウィリアルド達はピナへ嫌悪の視線を浴びせ、次々と好意を否定していく。ウィリアルド、クロード、ステファン、侍らせていた全ての男から拒絶され「あぁ……あ……」と言葉にならない呻き声を漏らし、ピナはうずくまった。
だが突然、跳ね起きるように身を起こし、醜い表情でわたくしに向かってピナは叫ぶ。
「なにアンタ、自分は何も悪くありませーんって顔してんのよ!!結局、お前がデイビッドと浮気してたのは事実じゃない!!ウィリアルドの婚約者だったくせに!!なのになんでアタシだけが責められてるのよ!!」
仲睦まじい様子のわたくしとデイビッドを見たからだろう。ピナはさも自分が正義だと言わんばかりの顔をしている、見たい物しか見ないこの女らしい発想だ。
そしてピナの発言にウィリアルド達はハッとした顔をする。何を見ていたの、お前達は。予想しなかったといえば嘘になるけれど、本当にお前は度し難い男達ね。
ただ悲しげに目を伏せるデイビッドとは対照的に、スフィアとアンヘルとシルベルトが殺気立つ。
けれど今はそれどころではないと気付いたのだろう。最後まで取っておいた映像をスフィア達が流し始めた。
エミ達が二人きりで過ごしているのを目撃したと証言したものが同席している姿。エミとピナに護衛を付けるよう頼むデイビッドを一蹴するウィリアルド。三人にピナから離れるよう懸命に訴えるデイビッド。
――そして、彼が自害へと至ったあの夜会の一部始終。
「デイビッドとレミリア様が二人で企てた茶番などと片付けられましたが、こちらの映像を見ていただけた以上、おわかりいただけたでしょう」
「王家の発表では大きな矛盾が生まれる。デイビッドはそこの男に求められ、自害を選んだ。これが計画的なものだと言うならば、この国の王太子も共犯でなければ成り立たない。違うか?」
国王の方を向き、責め立てるスフィアとアンヘル。その声には隠しきれない怒りが滲み出ている。
言葉に詰まる国王をよそに二人は続けて、ピナが国王とウィリアルドへデイビッドの自害を茶番劇ということにするよう勧める映像を流す。
デイビッドの自害については箝口令が敷かれた為、王家の言い分が通ってしまった。だけども会場にいた者は、駆けつけた者は皆知っている。
騎士の決死の忠誠を蔑ろにしたことで王家は騎士団を敵に回した。第一王子がいなければ間違いなくドミニッチ家は内乱を起こしていたことだろう。
アンヘルがこれほどまでに怒り狂っているのはデイビッドが彼と親友だからというのもあるが、きっと弟と重ねてしまったのだ。この世界では起こらなかったが、もしアンヘルが狂化を迎えたならばクリムトは迷わず命を捧げた。大切な弟と同じ、愛する人の為ならば死も厭わぬほどの忠誠心。それを蔑ろにされたことがどうしてもアンヘルは許せなかったのだろう。
潔白を証明された騎士に、かつての親友達が視線を向ける。デイビッドの頬に一筋の涙が伝った。
「俺の命ならくれてやるから、正気に戻ってくれって。レミリアを信じて、幸せにしろって。……ウィリアルド、クロード、ステファン、俺の願いはそれだけだったんだよ……」
静寂の中、届かなかった願いを悔やむ騎士の悲痛な声がただただ響いていた。
*
あの夜会を終え、今回の騒動が片付いた頃、わたくしは王城からの招聘がかかる予定だったらしい。
デイビッドが実家の伝手により、夜会以前に本当の星の乙女を知る精霊師からピナが偽物であるという情報を得ていて。夜会にてアンヘルによって、あの星の乙女は魂がすげ替えられたまがい物であると発表された。なお、偽物を封じ込める為、ピナは炭鉱にて死なぬ調整された上で生涯幽閉されることになっている。
それによりデイビッドと婚約しているとはいえ、様々な功績と祝福を持つわたくしが惜しくなったのだろう。非公式の謝罪の場と言いつつあわよくばウィリアルドとの復縁を願って、とのこと。
だが王家のあまりの愚行から、これ以上ドミニッチ家の不興を買わぬよう王妃様とエルハーシャ殿下が却下し、残りの二人についても連座で用意されぬ方向に決まったようだ。
そうしてすっかり日常へと戻っていったある日。わたくしは裏切り者達を使い魂の研究を進める傍ら、デイビッドが繋いでくれた精霊師によって、本物の星の乙女の居場所を突き止めることに成功した。
そこからまた様々な過程を経て、精霊との対話を可能としたわたくしは本物の星の乙女を我が子して迎える準備を整え、将来エミとの交流を約束させた。
「……もう聞き飽きただろうけどさ。誰かの為に泣ける、お人好しで優しいお前が。傷ついても困っている奴がいるなら、迷わず手を差し伸べられるお前が、ずっと、好きだった」
結婚式を終え、魔国に用意した新居にて夫となったデイビッドが呟く。何度聞いてもわたくしの心は喜びに溢れる。ずっと貴方は『エミのレミリア』を愛し続けている、わたくしの一番大切なところを抱きしめてくれる。それがどうしようもなく嬉しいの。
まるで壊れ物でも触れるかのように、彼の固い掌がわたくしの頬に触れた。
ウィリアルドの両親のように魔力量に差がある夫婦は子供ができにくいらしい。デイビッドも決して少ないわけではないけれど、わたくしが人間にしては規格外だから。
プロポーズの前にそれを知ったらしく「お前に子供を抱かせてやれないかもしれない」と悩んでいたデイビッドをわたくしは受け入れた。だって『エミのレミリア』も、きっとそうしたもの。
そう、本来であればわたくしとデイビッドも不妊に悩んでいた。けれども精霊の計らいによって、わたくしはこの夜、星の乙女の魂を持った男の子を授かる。
貴方はきっとそれに驚きながらも、あの告白の時のように心から喜んでくれるのでしょうね。だからなのかしら。わたくし、貴方と一緒に、エミのことを世界で一番幸せな女の子にしてあげたいと思っているの。
「愛してる、レミリア」
「わたくしも愛してるわ、デイビッド」
わたくしを心から愛し守ってくれたエミ、エミを命がけで愛し守ろうとしてくれたデイビッド、貴方達の為にもわたくしは最期までエミのレミリアであり続けるわ。