ここだけ茶番劇の時に   作:トリわか

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・愛に溢れた公爵夫妻スレ(https://bbs.animanch.com/board/4452141/)のレミリア追放までの小話
・本編・コミカライズ版からの引用があります。
・公爵の弟がクロードパパという設定になってます。


愛には愛を、悪意には悪意を(愛に溢れた公爵夫妻ルート)

 心の底で憧れていた。けれど決して手に入ることのないとわかっていたから、存在自体を蔑むことで自分には必要の無いものだと言い聞かせるしかなかった。

 ずっと欲しがっていたくせ、頑なに認めようとしなかったそれを私に教えてくれたのは冷遇してきた娘だった。

 

*

 

 最初、私はレミリアに対し、何の関心も持っていなかった。妻も同じく。強いて言うならば、王家に取り入るための手駒ができたとほくそ笑んだくらいか。

 レミリアは幼い頃より聡明な子であった。そうして想定以上に優秀な娘に私達は次第に関心を向けるようになった。

 娘はうまく私達も利を得られるよう、協力を仰ぎ成果をあげる。初めこそ乗り気でなかった娘からの頼み事を心待ちにするようになったのはいつからだっただろう。

 そのうち周囲からの尊敬や賞賛に気をよくして、私は自ら積極的に娘へ協力を申し出た。きっと私が必要でない部分もあっただろう、けれどそれでも娘は私を頼ってくれた。いつの間にか、利益より娘からの感謝が嬉しいと思うようになっていた。

 この頃には妻との冷え切った関係は改善していた。私が知ろうとしなかっただけで、妻はレミリアと同じく情の深い女であったが為に。

 あれはレミリアが弟を救いに行く為、夜間の外出許可を望んだ時の事だ。本当に突然、断ろうとした私は気付いたのだ。手駒を失う危険性を考えてではなく、娘に危ない目にあってほしくないと思っている自分に。

 結局、あの子の必死の懇願に負けて許してしまったのだけれど。あれこそが娘への愛を自覚した瞬間だった。

 

 可愛い、可愛い、私達の宝物。私が命に代えても守ってやらねば――そう、思っていたのに。

 

*

 

 レミリアの様子がおかしい。

 久々に寮から帰省してきたレミリアは私達への態度こそいつも通りだったが、何か違和感があった。前の時と比べてやつれたように思う。

 何かあったのかい?と尋ねても、娘はただ大丈夫だと笑みを浮かべるだけ。

 妻も同じく娘の様子に感じるものがあったらしく心配していた。

 レミリアはああ言っていたが、気がかりだった私達はレミリアと共に戻ってきていた護衛達や、寮に残ったままのクロードにも確認したが、皆口を揃えて問題ないと。

 学園は生徒会による自治制度となっており、公爵という身分をもってしても部外者である私達は口を挟むことはできない。学園内のできごとについて知ることも難しい。

 ただ王家は別だ。だから陛下にそれとなく城からの護衛をレミリアに付けていただくようにお願いしたが……。それでも悪い予感は拭えなかった。

 あの時、レミリアに嫌われてでも聞き出していれば。

 

 比較的最近、交流を深めるようになった、とある伯爵家より侍女として引き取っている寄子の件で忠告された。

 他家の決定に口出しするのは大変失礼だと思いますが……そう言った彼は本当に私達の見る目のなさを心配してくれていた。

 それでもレミリアが心を砕いていた相手を無碍にはできず、むやみに新しく雇うことは止めたものの、今まで引き取った者についてはそのままにしてしまった。

 あの時、彼の忠告を聞き入れ雇用者達を見直していれば。

 

 クロードの手紙の返信がだんだん遅くなり、そのうち返ってこなくなった。

 一月経ってからようやく来たかと思えば、慇懃無礼に「忙しいからもう送ってくるな」という意味の短い返事だけ。

 息子がいつからか自分を見下しているのはわかっていた。だが事実、私は無能であり、クロードは弟に似て優秀だったこともあって、その態度に納得してしまっている自分がいた。

 あの時、これが反抗期かなどと呑気に様子見していなければ。

 

*

 

 ――娘があのような絶望を味わうことはなかったのに。

 

「レミリアッ!!――このっ離せ!離さんか!無礼者がッ!!!」

 

 目の前で繰り広げられる馬鹿げた茶番に思わず叫ぶ。娘の元へ飛び出そうとした私は一歩踏み出すと同時に騎士に押さえ込まれた。

 この様子からして最初から私は目を付けられていたのだろう。ひっと後ろから妻の悲鳴が聞こえる。おそらく立ちすくんでいた妻もまた剣を突きつけれ、拘束されているのだろう。

 ぎりぎりとねじられた腕が痛む。だとしても早くあの子の元に向かわねばならない、私達の可愛い娘を守らなければ!抵抗を続ける私の首に剣が宛がわれた。

 そんな私達の姿を見ていたレミリアの顔が絶望に染まる。

 

「いいえ、わたくしはわたくしの名において……レミリア・ローゼ・グラウプナーの犯していない罪を認めるなど、偽りを述べるわけにはまいりません」

 

 一瞬レミリアの体がふらつく。倒れてしまうのではないかと青ざめた私の心配とは裏腹に娘は凜とした姿で潔白を訴えた。

 あれほどの敵意の中、立っているのもやっとだろうに。最後まで娘は『本物の公爵令嬢レミリア』であり続けた。

 

*

 

「レミリア……私が弱かったばかりに、すまない……」

 

 娘を乗せた僻地へと向かう馬車を妻と共に窓から見送る。

 お父様達に迷惑をかけたくないからと籍を抜くよう頼まれ、公爵領の領民の為だとロイヤリティを渡すことも止められてしまった。

 あの夜会で明らかな敵意を見せたが為に王家に目を付けられ、しばらくは動くこともできそうにない。監視が緩くなっても僅かな支援が精一杯だろう。

 

「……絶対に許すものか」

 

 レミリアにありもしない罪を認めることを慈悲などとほざいた国王も。

 レミリアという素晴らしい婚約者がいながら、あのような醜悪な小娘に籠絡された王子も。

 レミリアからあれだけ気遣われておいて裏切った恩知らずどもも。

 レミリアを手に入れようと欲望のまま、義姉を傷つけ追い込んだ息子だった者も。

 

 怒りに震える私に妻が寄り添う。

 無能な私達にできることなど限られている。あの子の幸せを願う事と――愚か者どもへの復讐だけだ。

 あの子の為に優しい両親であり続ける。愛を教えてくれたお前に相応しくあるように。その上で愚か者どもは娘に知られぬよう、どんな手を使ってでも罪を償わせる。きっと優しいあの子は復讐など思いつきもしないだろうから。

 せいぜい無能だと侮っておけ。油断しきった貴様らに刻んでやろう、全てを失う覚悟を決めた者のおぞましさを。

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