ウルトラギャラクシー 四人の姫と怪獣使い   作:幽明卿

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第3章 レイオニクスバトル編
12話 VS 超古代尖兵怪獣


 

 

「ふぁあ~……」

 

 ダルヤの過去を聞かせてもらった翌日の朝――

 ディオーネはベッドにダルヤとフィオネを残して、ひとり廊下を歩いていた。今朝は彼女が朝食の当番なのである。

 

(はあ。こんな日に限って……)

(ダルヤ様とフィオネが起きたら、また愛し合うのかしら。わたくしも混ざりたかったですわ……)

 

 まずは地下三階の倉庫に下り、食料を持ってこなくてはならない。ディオーネは目元の涙をぬぐいながらリビングに出た。そこでエレベーターに乗るつもりだったのだが――

 直面した現実に、彼女は一瞬で意識を覚醒させた。同時に、全身に寒気が走った。驚愕が脳から全身に駆け巡っているのに、あまりのことに声が出ず、指先ひとつ動かせない。リビングと廊下の境目に立ち尽くし、ただただ目の前の光景を疑うことしかできなかった。

 

 リビングに置いてある長机。その席に、見知らぬ二人の女が腰を据えていたのだ。

 ひとりは緋色の髪、もうひとりは藍色の髪。どちらもサイドテールに髪をまとめており、緋色のほうは右側、藍色のほうは左側と、左右対称の髪型となっていた。

 

 装束もお揃いで、トップスは銀色のビスチェ、スカートは同色の超ミニ丈だ。惜しみなくさらけ出されているお腹は引き締まっており、美しいウエストラインを描いている。かと思えば、スカートから伸びる太腿は肉感的だ。それでいて贅肉の感はまるでなく、きめ細やかな白肌は瑞々しい張りに輝いている。

 

 胸も、四姉妹で一番大きいディオーネのMカップをさらに引き離すくらい大きい。ビスチェは伸縮性に富んだ生地のようだが、そのせいで肉鞠の輪郭がくっきりと浮き出ており、もはや衣装が内側からはち切れそうですらあった。

 

 アウターとしてはロングコートを羽織っており、その丈は踵までつきそうなほどだった。

 そして何より、その整った顔貌。ディオーネはフィオネを間近で見続けているため「美人」の基準が引き上げられているが、この二人はフィオネにも届かんとする美貌の持ち主だった。

 

 琥珀色の瞳を宿した切れ長の目は、怜悧さと艶やかさを相対する者にひしひしと感じさせる。少し時間が空いてディオーネの頭も落ち着いてきたというのに、未だ声もあげられないのはそのせいだ。「自分とは生きているステージが違う」――王宮育ちの彼女にすら、そう思わせてしまうほどの魅力がこの二人にはあった。

 

「おはよう」

 

 緋色の髪の女が、くすりと笑う。

 

「すごく勝手で申し訳ないのだけれど、ここにあったインスタントのコーヒーをいただいたわ。この星に到着したのは真夜中で、体がとても冷えてしまっていたの。ごめんなさいね」

 

「それを言うなら――」と、藍色の髪の女が破顔して言った。

 

「まずは不法侵入のことを詫びるべきじゃない? 一応、私たちは部外者なんだし?」

 

 一応、とはどういう意味だろうか? ディオーネはそれが気になった。

 それに、まだ頭に引っ掛かることがある。それは既視感のようなもので、具体的にどこにそれを感じたのかは判然としない。この二人の顔は知らないし、会ったこともない。それなのに――何故か知っている気がする。

 

 ディオーネは唇を震えさせながら、何とか言葉を紡ぎ出した。

 

「あ……あなた、たちは……?」

 

「そんなに怯えないでちょうだい」と、緋色の髪の女が腰をあげた。

 

「私はザミン。そこの子は、双子の妹のアスマ。私たちは別にあなたたちに危害を加えるつもりでここに来たのではないわ。敵ではないから、緊張しなくても大丈夫よ」

 

 ザミンと名乗る緋色の髪の女は、浮かなそうな表情をした。それは、本気で心配している表情に見えた。

 彼女に包容力のようなものを感じていると、アスマという藍色の髪の女は反対に小悪魔めいた表情をして、にんまりと目を細めた。

 

「敵ではない――ま、味方でもないけれど♪」

「アスマ。無闇に怖がらせないでちょうだい」

「だって、私はこの子たちに苛ついているんだもの。こんな子たちのそばにいたら、ますます弱くなってしまうわ。私たちのダルヤが」

 

「ダルヤ様……?!」とディオーネは声をあげた。「あなたたち、ダルヤ様の何ですの!?」

 

「その言葉、そっくりそのまま返すわ」

 

 アスマが藍色のサイドテールを揺らしながら、勢いよく立ち上がる。身長は大して変わらないのに、ディオーネは気圧される思いだった。それは、彼女が履いているハイヒールブーツのせいではないだろう。彼女が全身から発している冷気にも似た雰囲気が、ディオーネの柔肌をちくちくと刺しているのだ。

 

 だが、ザミンが横からアスマを制した。

 そして、諭すように――それでいて、毅然とした意志を込めた口調で、ディオーネに向かって言った。

 

「私たちはタビアット星のレイオニクス。ダルヤと同じ星で生まれ育った――彼の姉よ」

 

 その言葉を聞いて、ディオーネは驚きと同時に腑に落ちた。

 不可解な既視感の正体。この双子の顔つきは、どことなくダルヤに似ていた。そして、彼女たちの緋色と藍色の髪色は、彼の髪のツートンカラーと全く同一の色だった。

 

 

 

「アスマ、ザミン……」

「お久しぶり。ダルヤ」

 

 ディオーネが報告したことで、リビングにリリア以外の四人が集まった。「お姉様というのは本当ですの?」とフィオネが訊く。ダルヤは視線を双子姉妹に向けたまま、「ああ……」と苦々しく頷いた。

 

「どうやってここを突き止めた」

「訊かずとも分かっているでしょう? 私たちはあなたの『教育係』。弟がどこへ行こうとも、感覚で居場所が分かるようにできているのよ」

 

 ミクリアはダルヤの表情を見て不思議に思った。

 以前、彼の口から姉の存在を聞かされたことがある。弟である彼が友達とばかり遊ぶようになったせいで、姉が嫉妬するようになったという微笑ましいエピソードだった。その思い出を語っていた彼に嫌悪感のようなものは一切感じられなかった。それなのに、今の表情は何なのだろう?

 

「ダルヤ……?」

 

 その困惑はフィオネとディオーネも感じていた。昨夜、彼の過去を聞いたばかりだが、故郷のことについては触れられていなかった。この姉弟の関係が現在どうなっているのかは、知る由もないのだ。

 

「――はあ」

 

 王女姉妹の困惑を知ってか知らずか、アスマはわざとらしく大きな溜め息をついた。そして、厳しい目を弟に投げかけた。

 

「可愛い可愛い女の子たちに囲まれて、さぞ幸せだったんでしょうね。ダルヤ」

「……」

「それはそうでしょうね。戦う力を持たない女の子の目には、あなたはどれだけ頼もしく映ることか。そうやって信頼されて、好意を向けられれば、楽しくて仕方ないでしょう。――でも、それはレイオニクスとしての使命から逃げてまですることなの?」

 

「何度でも言う」アスマの嫌みったらしい口ぶりに対し、ダルヤは声を荒げる。「レイオニクスとしての使命なんてまっぴらごめんだ。レイブラッドの後継者? 全宇宙の支配? そんなことに興味はない。ましてや――」

 

 ダルヤはいったん言い淀んだ。その先の言葉は口にするのも忌まわしいといったように。

 だが、アスマの挑発的な視線に気づくと、彼の舌は火を吐くように続きを発していた。

 

「――()()()()()()()()()()()()()()なんて、毛頭興味はない!」

 

 リビングが静まり返る。三姉妹は目を剥いて双子の顔を見る。ダルヤの言葉を真っ向からぶつけられたアスマは、なおも余裕たっぷりの表情を崩さずにいる。ザミンのほうは無表情で、妹弟の口論を隣から眺めている。

 

 緊張感の走る空気に罅を入れたのは、ドアが開く音だった。廊下を振り返ると、ネグリジェ姿のリリアが部屋から出てきていた。思わずミクリアが駆け寄り、その体を支える。

 

「リリア、どうして」

「大丈夫よ。それより――」

 

 リリアがダルヤに目を向ける。彼は話を聞かれたと悟り、気まずそうに目を逸らした。

 

「……ふん」

 

 アスマはサイドテールを()()と手で払い、実の弟をねめつける。

 

「その言葉は聞き飽きたわ」

「そっくりそのまま返すよ。いい加減諦めてくれ」

 

 睨み合う両者。一触即発の様相を呈して空気が張り詰める。

 ……それを崩したのは、またしてもリリアだった。げほげほと咳き込む彼女を妹たちが心配しはじめたことで、結界が解かれるように空気が変わった。ザミンは興を削がれたように、ヒールを鳴らして背を向けた。

 

「表に出なさい。ダルヤ」

「断る」

「その子たちがどうなってもいいの?」

「……」

 

 階段を上り始めるアスマの後を、ダルヤは追った。

 

 

 

 リリアたちが隠れ家から出ると、かなり離れた場所でダルヤとアスマが対峙していた。ザミンは隠れ家の入口付近でそれを見守っている。流石にその隣に並ぶような気にはなれないため、姉妹たちは少し距離を置くことにした。

 ところがザミンは、そんな彼女たちに柔らかい微笑みを向けて言った。

 

「ごめんなさいね、怖がらせちゃって。アスマも本気であなたたちを攻撃しようと考えてたわけじゃないと思うわ。ああ言えばダルヤは断れないってだけだったと思うの」

 

 何と答えればよいか迷うところだったが――ディオーネが口火を切った。

 

「別に怖がってなどいませんわ。ただ、あなた方が気に入らないだけで」

「まあ。何故?」

「ダルヤ様は見ず知らずのわたくしたちを守ってくださいましたわ。世間知らずで、生意気なことを言ったこともあったのに。それでも、時には傷つきながら精一杯戦ってくださったのです。

 あの方は、レイオニクスとしての責任を全うされています。あなた方とは考え方が根本的に違うのですわ」

 

 ミクリアとフィオネも頷く。自分たちはダルヤの味方で、彼の意思を尊重している。たとえこの双子の怒りを買おうとも、その決意ははっきりと表明しておかなければならない。

 再び一触即発になることも覚悟の上での発言だった。しかし意に反して、ザミンはおっとりとした雰囲気を崩さなかった。眼差しも変わらず、春の日の太陽のような視線を四人に注いでいた。

 

「そうね。確かに、その通りだと思うわ」

 

 ただ、その優しさや温もりは、どこか冷然としたものを感じさせもした。

 赤ん坊を抱く母親。もしくは、ペットを可愛がる人間。そのような、対象との間に歴とした隔絶が存在するからこそ生じ得る優しさ。形容を探せば、そのようになると姉妹たちは思った。

 

 現にザミンは、ディオーネの言葉を肯定しつつも、それを聞き入れるつもりはないようだった。

 

「はじまりそうね」

 

 その視線の先では、二人のレイオニクスがバトルナイザーを構えていた。

 

 

 

「いけ! アリゲラ!

「天より来たれ! ゾイガー!

 

≪バトルナイザー モンスロード!≫

 

 掲げられた二つのバトルナイザーが、それぞれ光を放つ。

 ダルヤのものから放たれた金色の光は、アリゲラの姿と化した。

 

「キュァアッ!」

 

宇宙有翼怪獣 アリゲラ 
体長:55メートル 体重:11,000トン 

 

 一方、アスマのものから放たれた藍色の光も怪獣の形をとる。

 巨大な翼と嘴を持つ怪獣だ。鳥のような特徴を持つが、全体的なフォルムはかけ離れており、腕もある。小豆色の体表はごつごつとしており、顔から下腹部にかけては灰色の虫喰岩のような見た目になっている。翼の皮膜は、ある種の蛾や蝶のような眼状紋を有していた。

 

 相対するアリゲラの威嚇に対抗するように、その怪獣も高く啼く。

 

「ギャアアアアアッ!!」

 

超古代尖兵怪獣 ゾイガー 
体長:55メートル 体重:48,000トン 

 

 二体の怪獣は対峙したまま、間合いを測る。ある程度の距離を保ったまま、足を動かす。それにより、相手はどの程度の間合いを狙っているのか、相手の攻撃射程範囲はいかほどかを見極める。

 足元を一陣の風が吹き抜ける。荒野の地肌を撫でた風は砂をさらって埃を巻き上げる。

 瞬間、ゾイガーの主であるアスマは右腕を高く掲げ、天を指さした。

 

「ゾイガー! 飛びなさい!」

 

「ピギャアア!!」

 

 地上で間合いを測っていたのを嘲笑うように、ゾイガーが飛び立つ。

 だが、空中戦であればアリゲラも得意とするところだ。ダルヤが送った思念通りに、アリゲラも飛び立つ。背部のジェット器官から光を放ち、急激に加速してゾイガーを追う。

 

「キュァアアッ!!」

「ピギャアア!!」

 

 アリゲラのような飛行用器官を持たないのに、ゾイガーの速度は尋常ではなかった。アリゲラの速度を以てしても、ただ後を追うだけでは追いつけないくらいだ。

 アリゲラはパルス孔から光弾を放つ。背後から迫りくるそれらを察知し、ゾイガーは素早く身を躱す。さらに前方上方への宙返り(インサイドループ)を描く。後方から追跡してくるアリゲラの背後に回り、逆に追跡しようというのだ。

 

 アリゲラはあえてその後を追わず、そのまま直進する。ゾイガーがループを終えるまでの時間で十分距離を稼ぎ、そこでターンする。追跡を始めようとしていたゾイガーが正面から迫りくる。その速度は緩まない。アリゲラも臆さず、敵向けて猛進する。

 

「ギャアアアッ!!」

「キュァアアッ!!」

 

 二体の雄叫びが響く。ゾイガーの嘴が開かれ、口内から赤いエネルギー球体が三発発射された。

 アリゲラも同時に光弾を放つ。空中で両者のエネルギー弾が衝突する。遠距離攻撃が相殺されれば、残るは直接攻撃のみ。アリゲラとゾイガー、そのどちらもが一直線に突き進む。

 

 今にも激突しようかという、そのとき。二体は同時に身を90度傾けた。激突スレスレというところで回避される。この勢いでぶつかれば、自身も大ダメージを免れないとお互いが判断したのだろう。先程の接近は、要はチキンレースである。どちらが先に怖気づいて回避に出るかというところだったが、結果は同時だった。この二体の実力は互角。勝負は拮抗している。

 

 二体がターンする。再度の正面衝突かと思われたが、ゾイガーにとっては当てが外れる。アリゲラが進路をダウンの角度に取っていたからだ。

 ゾイガーの下に潜り、そこからジェット器官をフル稼働させて急上昇する。アリゲラの頭突きはゾイガーの腹を捉え、突き飛ばす。さらに、空中を飛ばされていくその体に向けて光弾を放ち、空中に爆炎を広げさせた。

 

「やるわね」

 

 上空からゾイガーが落下し、地響きが荒野をどよもす。アスマは一切それに動じず、豊満すぎる胸の下で腕を組んだ。

 

「思ったよりは強くなってるじゃない。だけど、これはどうかしら?」

 

 アリゲラはダルヤの側に降り立っていた。ゾイガーは軽快に大地を駆ける。迎え撃ったアリゲラの光弾をジャンプして躱し、そのままの勢いでドロップキックを放った。

 

「キュィイッ……!」

「ピギャァアアッ!!」

 

 後ずさるアリゲラに接近し、長く伸びた鋭利な二本の爪を振り下ろす。連続でヒットさせて火花を飛ばすと、すかさずジャンプと共に後ろ蹴りを放つ、ローリング・ソバットを繰り出した。

 

「アリゲラ、いったん下がれ!」

 

 バトルナイザーには戻さないまま、アリゲラを下がらせる。ゾイガーは意外なことに、近接格闘戦も得意なようだ。ならば、地上戦は別の怪獣に任せたほうがいいだろう。

 

「いけ! リザリアス!

 

≪バトルナイザー モンスロード!≫

 

 二体目のモンスロードは、藍鼠色の体躯を持った爬虫類型のスペースビ―スト。

 真紅の瞳に敵意を漲らせ、眼前のゾイガーに向かって咆哮する。

 

「グォオオオオオン!!」

 

レプタイルタイプビースト リザリアス  
体長:51メートル  体重:36,000トン  

 

 

 

「リザリアス……!? ダルヤは制御できてなかったはず……」

 

 上空で繰り広げられる超高速戦闘もザミンはおっとりと眺めていた。しかしここに来て、初めて彼女の表情が変わった。その驚きの顔に対し、ディオーネは胸を張って言い放つ。

 

「それが、できるようになりましてよ。ご存じでないかもしれませんけれど」

 

 ところが、ザミンは悔しがるどころか嬉しそうに笑った。

 

「ということは、あの子も成長しているのね。レイオニクスとして」

「……」

「ふふ。もしかすると、あなたたちを守るために頑張ったから、かしら? もしそうだとすると、あなたたちには感謝しなくちゃいけないわね」

 

 閉口するディオーネを尻目に、ザミンもまた腕を組み、巨大な胸をその上に乗せた。

 

「さあ。お手並み拝見」

 

 

 

「リザリアス!」

 

 リザリアスが突進する。ゾイガーは爪を振り下ろして迎え撃とうとするが、リザリアスは首を当ててその腕を払いのける。

 

「ギャォォオッ!!」

 

 続けて頭突きをお見舞いし、ゾイガーを後退させる。迎撃態勢が整わないうちに組み付き、ゾイガーの首を抱えて背負い、投げる。小豆色の巨体が宙に弧を描き、地面に叩きつけられた。

 

「ピギャァアアッ!!」

 

 だが、ゾイガーも負けてはいない。まるでブレイクダンスをするかのように低い体勢のまま回転し、足でリザリアスの足元を払う。

 たまらず、リザリアスは横転する。ゾイガーは立ち上がると、華麗な前方宙返りをしてから、その勢いを加えたボディ・プレスを浴びせた。

 

 内臓にまで響くダメージにリザリアスが呻く。ゾイガーはすかさずマウントポジションをとり、藍鼠色の体表を己の爪で切り裂いていく。

 

「ピギャァアッ!! ギャアアッ!!」

「グゴォォオ……!」

 

 リザリアスの動きを封じながら、ゾイガーは意気揚々と爪撃を繰り出し続ける。

 しかし、そのとき。彼の背中に爆発が起こった。ゾイガーが背後を振り返ると、パルス孔を向けるアリゲラの姿があった。

 

「ビャギャァアアオオン!!」

 

 ゾイガーの集中が緩んだところを狙って、リザリアスが身を起こす。ゾイガーを引きずり落とし、さらに尻尾で横面を薙ぐ。たたらを踏んでアスマのほうへ後退するゾイガーを見て、リザリアスは威勢よく咆哮をあげる。

 

「リザリアス!」その意志に応じ、ダルヤはバトルナイザーを掲げる。「解放しろ、力を!」

 

 リザリアスの体に紫色のオーラが纏われ、それが体内に収束する。その力を迸らせると、彼の姿はより禍々しく、悪魔的なものに変貌していた。

 カミソリデマーガとの戦いで覚醒した強化形態――リザリアスグローラーだ。

 

「ビャギャォォオオン!!!」

 

リザリアスグローラー 
体長:51メートル 体重:38,000トン 

 

 

 

「素晴らしいわ……!」

 

 そのパワーアップを見ていたザミンは、頬に手を当てながら興奮の声をあげる。その顔は恍惚に染まり、まるで実の弟に欲情でもしているかのようだ。先程までは彼女に噛みついていたディオーネも、その様子にはとうとう何も言えなくなっていた。

 

「スペースビ―ストの制御に、二体同時のモンスロード。さらには怪獣の覚醒まで……! 目覚ましい成長だわ。私たちがあれほど言っても聞かなかったのに」

 

 そこに、差し挟まれた声があった。

 

「あなたは、どうして――」

 

 ザミンが声の元を振り返る。ミクリアに支えられているリリアだった。

 

「どうして、弟が嫌がることを強いるのですか。それほど愛しているご様子なのに。他にも、『姉を殺して得られる力』とは、どういうことなのですか」

 

 ザミンは微笑みの表情に戻り、リリアの顔をじっと見詰めた。

 彼女はふいに、手のひらを翳す。すると、その手に緋色のオーラが纏われた。攻撃かと思ってフィオネとディオーネが間に入るが、そのオーラはすぐに消えてしまった。

 

「何を……?」

「いや、ね。あなたが何かに悩んでいそうだったから、少しだけ記憶を読ませてもらったわ」

 

「記憶を……!?」とミクリアが驚く。

 ザミンは「ええ」と頷き、再びリリアの目を見据える。

 

「あなたは後悔しているのね。故国の滅亡を止められなかったことを。父の怒りを買う覚悟で政治に進言したり、嫌がるミクリアを無理やりにでも教育して傑物にしていれば、また違う未来になったかもしれないのに……と。

 自分たちが生まれながらに備えていた地位や能力……それに伴う責任について、悩んでいるのね」

 

 妹たちが一斉にリリアの顔を見る。特に、名前が挙がっていたミクリアは顕著だった。姉がそんな思いを抱えていたことなんて、想像もしていなかったのだ。

 

「まず質問に答えるわ。『姉を殺して得られる力』とは、そのままの意味よ。レイオニクスには教育係がつく場合がある。その潜在能力を引き出し、より強く、より逞しく成長させるための存在ね。ダルヤの教育係は、実の姉である私たちがその役割を担うことになった。

 そして、レイオニクスは最終的に、教育係と『真のレイオニクスバトル』を行い、勝たなければならない。その潜在能力を目覚めさせるために」

 

『真のレイオニクスバトル』は、レイオニクス同士の命を賭けた戦い。それに勝つということは、つまるところ教育係の命を奪わなくてはならないということだ。

 

「ダルヤが反発するのも、無理もない話ですわ……」

「そうよ。ダルヤがそんなことするわけないじゃない!」

 

「そうよね」とザミンは首肯する。「あの子の優しさは、姉である私たちが一番よく知っているわ。そんな彼にとって、この試練は酷なことかもしれない。でもね――」

 

 すぅっと、彼女の目が細められる。

 

「レイオニクスは、常に戦いの中にある存在なのよ。それはあなたたちだって身をもって体感しているでしょう? ――その戦いの中で、彼の力を中途半端なままにしておける? そのせいで彼が命を落としたらどうするの? 私たちは、教育係()としての責任を果たそうとしているだけなのよ」

 

 そして、ザミンはリリアの目を見詰める。彼女の表情は温和だったが、それは睨むよりも効果的と言えた。覚悟ができている人間と、できていない人間。大人と子供。そのような不可逆の隔たりを感じさせながら、ザミンは説く。

 

「少なくとも、姉としての責任を果たさないまま最悪の結果を招いてしまったあなたには……私たちを非難する権利はないはずよね?」

「……っ!!」

 

 

 

「リザリアスグローラー!」

 

 一方、戦場ではリザリアス(グローラー)がゾイガーを圧倒していた。

 格闘戦では敵の爪などものともせず、殴りつけて転がす。その頭を何度も踏みつけたのち、リザリアスGは翼に手をかける。力を込めて引き千切ると、さながら斬首刑の執行人のように、敵の首に向けて何度もそれを打ち下ろした。

 

「キャウゥゥゥウ……!!」

 

「くっ……!」

 

 圧倒的実力差を見せつけられ、流石のアスマもたじろぐ。

 リザリアスGはゾイガーを蹴り飛ばした。荒野に轍を刻みながら後退したゾイガーは、よろよろと身を起こす。その翼の付け根からは、黄緑色の体液が痛ましく流れていた。

 

「トドメだ!」

 

「ビャギャァァアアオオオオオオン!!!」

 

 頭部と腹部にある二つの口から同時に熱線を放つ。二条の流星の如く虚空を裂き、砲丸さながらの衝撃をゾイガーに与える。熱線は正面から背中まで貫き、溢れんばかりのエネルギーがその全身を木っ端微塵に粉砕した。

 

「ゾイガー!」

 

 アスマは悔しそうな表情を浮かべる。相棒怪獣が完敗したのだ。曲がりなりにもレイオニクス、その反応は当然だろう。

 しかし彼女がひとつ深呼吸を挟むと、その顔は再び挑発的なものに戻っていた。

 

「予想以上だったわ。さすが、私のかわいい弟ね」

「……」

 

 ダルヤは無言だった。それはアスマに返事をしたくないという気持ちもあったが、それとは別の理由もあった。

 アスマは天を仰ぐ。切れ長の目を細め、薄青い空の向こうを見通す。

 

「あなたも感じているでしょう?」

「……」

「あなたはレイオニクス。レイブラッドの因子が作り出す渦は、戦いを引き寄せる。あなたは逃れられないのよ」

 

「そんなことはわかってる!」ダルヤが声を荒げる。「でも、それとこれとは話が別だ! オレはどんなことがあっても、姉貴たちを手にかけることはしない!」

 

「――そう」アスマは悲しそうに目を細めた。「次に会うときには、覚悟が決まっていることを願っているわ」

 

 いつの間にか、アスマの隣にザミンが立っていた。二人は並んでダルヤに視線を送ると、くるりと背を向けた。そして、揺らめく陽炎のようにその姿がぼやけ、荒野からいなくなっていた。

 

「……わかってないのは、姉貴たちだろ」

 

 ダルヤは独りごち、空を見上げた。

 彼の姉がしたように、目を細める。視覚には限界があるため、青空の向こうを見ることは叶わない。ただし、研ぎ澄まされた感覚は、大気圏外に浮遊する物体の存在を捉えていた。

 

 

   ★

 

 

『新たなビースト振動波を確認』

 

 薄暗い部屋に、合成音声のアナウンスが響く。

 部屋の中央にしつらえられた椅子には、ひとりの女が座っていた。

 

 女はモニターに映るダルヤを眺め――ぺろりと、舌なめずりをした。

 

 


 

≪登場怪獣≫

 

■超古代尖兵怪獣 ゾイガー

体長:55メートル

体重:48,000トン

 

『ウルトラマンティガ』第50話「もっと高く!~Take Me Higher!~」に登場。

 

邪神の尖兵たる超古代怪獣。

マッハ8.5を超える超高速飛行が可能であり、地上における格闘戦にも優れている。

武器は口から吐くエネルギー光弾。

 


 

≪登場人物≫

 

■アスマ

年齢:26歳

身長:165㎝

スリーサイズ:120(Q)-56-95

 

タビアット星のレイオニクスで、ダルヤの実姉。ザミンとは、双子(一卵性双生児)の妹。

藍色の髪を左側にまとめたサイドテール。瞳の色は琥珀色。切れ長の目。

 

ダルヤの「教育係」。

嫉妬心が強く、執念深い性格。

 

所持怪獣:ゾイガー、□□□□□

 

本編開始以前にはヘイレンやレギーラを所持していた。

ダルヤに倒されたため、現在は非所持。

 

 

■ザミン

年齢:26歳

身長:165㎝

スリーサイズ:120(Q)-56-95

 

タビアット星のレイオニクスで、ダルヤの実姉。アスマとは、双子(一卵性双生児)の姉。

緋色の髪を右側にまとめたサイドテール。瞳の色は琥珀色。切れ長の目。

 

ダルヤの「教育係」。

何事にも鷹揚で、穏やかな性格。

 

所持怪獣:□□□□□、□□□□□

 

本編開始以前にはギールやダイゲルンを所持していた。

ダルヤに倒されたため、現在は非所持。

 


 

≪用語≫

 

■レイオニクスの教育係

レイオニクスには教育係がつく場合がある。

その成長を促すのが目的であり、最終的には「真のレイオニクスバトル」を行うことで、教育対象の潜在能力を覚醒させる。

 

ダルヤの教育係には、実姉であるザミンとアスマがつくことになった。

教育係が辿る末路のことをダルヤは直に聞かされており、その未来を回避すべく、二人から逃げ回っている。

 

また、教育係のバトルナイザーは特殊な機能を有しており、怪獣の意思とは関係なく捕獲し、使役することが可能となっている。

これは、教育対象にとって大きな壁になるという、教育係としての役割を全うさせるため。

(※本作独自の設定)

 

また、原作ではあくまで試練を与えるまでが役割であり、覚醒は教育対象の資質によるところが大きいような描写だったが、本作では「『真のレイオニクスバトル』で戦い、教育係を倒す」までが覚醒条件という設定。

 

 

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