ウルトラギャラクシー 四人の姫と怪獣使い   作:幽明卿

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13話 VS クラスティシアンタイプビースト

 

 

「ダルヤ!」

「ダルヤ様!」

 

 アスマとの戦いが終わると、フィオネとディオーネはダルヤのもとに駆け寄った。

 彼は黙って天を仰いでいる。何か見えるのかと二人も同じようにしたが、青空には雲以外何も浮かんでいなかった。

 

「どうしたんですの?」

 

 フィオネが訊くと、ダルヤは「気をつけたほうがいい」と口にした。

 

「なにかが来る。とんでもない力を持った……レイオニクスが」

「え……?」

 

 しばらく空を見上げてみても、首が痛くなるだけで何も見えない。

 ――いや、違う。二人は、徐々に空が色を濃くしていくのに気付いた。まるで太陽が沈んで夜に染まっていくかのように。だが、彼女たちの頭上以外は色が変わらないままだ。

 

「……!」

 

 そして、二人は気付く。隠れ家の前に待機していたリリアとミクリアも同様に。

 いつの間にか頭上に何かが浮かんでいた。それが光学迷彩を解き、徐々にその姿を詳らかにしているのだ。

 

 超巨大な円盤だった。四姉妹が乗ってきたものや、故郷からの追手が乗っていた戦闘円盤とは比較にならないほどの大きさだ。視覚からスケール感を奪ってしまうほどで、正確なサイズは掴めない。実際のところは直径500mほどある。四姉妹の宇宙船の十倍だ。

 

 底面の中心にハッチがあり、そこが左右に開いた。そして、その奥から何かが飛び出した。最初は何か分からなかったが、徐々に掴めてくる。――女だ。落下している。萌黄色の長髪が逆立つように靡き、スカートも風圧のせいで捲られている。長く白い脚と、その付け根を隠しているシルク色の布が大っぴらにされている。

 

「――きゃあああああああ!!?!?」

 

 声の主は、その女だった。スカートを抑えるが、そのせいで体勢を崩したのか、頭と足の向きが逆転する。そして、そのまま――

 

 ――ドゴオオオオオオン!!!

 

 轟音を立てて、女は墜落した。

 

「……」

「……」

「……」

 

 心配や呆れよりも困惑が皆の心を満たす。気まずい視線の先――もくもくと立ち込める砂埃の中で、人影が身を起こす。「いったたたぁ~……」と、今にも泣きべそをかきそうな声がする。

 

『だから言ったではありませんか。転送装置を使えばいいと』

「でもぉ、どうせならかっこいい登場したいじゃん! せっかく七人もいるんだし」

『二名の反応はロストしました。現在、この場に残っているのは五名だけですね』

「ええ!? あ、ホントだ! あのきれいなお姉さんたち、もう帰っちゃったんだ。残念~」

 

 合成音声らしきものとの会話が聞こえてくる。

 砂埃が晴れていく。そこに立つ女の姿が、ダルヤたちの目の前で明らかとなる。

 これまでの口調や会話の内容とはかけ離れた、光彩奪目の美女だった。

 

 まっすぐに流れる萌黄色の長髪。おっとりとした垂れ目。眉も唇もほっそりとしており、肌の色は透き通る白。顔立ちだけなら儚さすら感じさせる。

 身長は180㎝にも届きそうなほどで、先程のアスマやザミン以上だった。その身に纏われた深緑のドレスはストラップレスで露出面積が非常に大きく、胸の長大な膨らみはほとんど隠れていなかった。

 

 彼女の傍らには小さな円盤状のドローンが浮かんでいた。先程の合成音声の主はこれだろう。

 

「――ねえ!」

 

 その女は突然、勢い込んで話しかけてきた。

 

「見た!?」

 

 ダルヤは気まずそうに「……なにを?」と問い返した。

 すると彼女は、端整な顔を真っ赤にしながらまくし立てた。

 

「なにって、その……フューちゃんの、スカートの中! 角度的には見えてたでしょ!?」

 

 ダルヤは無言で目を逸らした。

 

「あーっ! やっぱり見てたんだ! もーっ、最悪っ! なにが悲しくて初対面のお兄さんにパンツ見られなきゃいけないの?! もうお嫁に行けないよーっ!」

 

「あ……」ディオーネは困惑しながらも口を開いた。「あなたは……?」

 

「ん? わたしはフューネラル。長いからフューちゃんって呼んでね。こう見えて20歳。よく子供と間違えられちゃうんだよね~♡ そんなに若く見えるかな? えへへっ♡」

「……」

 

 若く美しいのは認めるが、どう見ても20歳は超えている。子供と間違えられるのは、その言動のせいだろう。さらに言うなら、間違えられているのではなく皮肉を言われているのだと思われる。

 ディオーネはツッコむか迷ったが、とりあえず黙っておくことにした。

 

「で……お兄さんの名前は? 歳はいくつ?」

「ダルヤ。24歳」

「へえ~♡ やっぱ年上かあ。背高いし、顔もけっこーかっこいいし、タイプかも♡ 結婚して、子供たくさんつくって、大きな家でみんな幸せに――」

 

 うっとりとした顔で虚空に妄想を浮かばせるフューネラルだったが、

 

「暮らしましたとさ――って、できてたかもしれないね♡ お兄さんが、レイオニクスじゃなければ」

 

 にわかに、彼女の纏う雰囲気が一変した。これまでの子供のような笑みから一転、艶やかな微笑に変わる。

 黒真珠の瞳が矢のような視線を飛ばす。それは捕食者の目だった。蝶を巣に捕えた蜘蛛、動けない鼠を見下ろす蛇、そういったものが連想される。そして、獲物の味に想いを馳せるように、フューネラルは真っ赤な舌で唇を舐めた。

 

 周囲の空気が張り詰め、ダルヤたちの間に緊張が走る。肌を押さえつけるような圧迫感に苛まれ、姉妹たちは息をするのもやっとになる。ダルヤもまた、じとっとした汗が背中に滲むのを感じた。

 

「じゃ、やろっか」

 

 フューネラルはベルトに提げていたマシンを手に取る。文脈から言ってそれはバトルナイザーのはずだった。しかし――

 その形状は、ダルヤのものとは全く別物だった。縦長の八角形で、頂点の角は分割されて二本角のようになっている。金色をベースに深緑の差し色が入っており、持ち主の雰囲気に合うようなカラーリングとなっていた。

 

「――ネオバトルナイザー」

 

 ダルヤの訝しげな視線に気付き、フューネラルは言う。

 

「お兄さんが辿り着けてない領域だよ。フューちゃんはレイブラッドの後継者になる器だから、簡単に辿り着けちゃったけど」

「お前は、レイブラッドの後継者となるために戦っているのか」

「そうだけど? ほかに理由なんてある? あと、『お前』じゃなくて『フューちゃん』ね」

 

 ダルヤは眉間に皺を寄せる。

 

「お前は宇宙を支配してどうしたいんだ? なんの目的があるんだ?」

「――ねえ」

 

 冷え切ったその声に、空気が凍てついた。

 

「わたし、お願いを聞けない人は嫌いなんだけど」

「……っ」

「ま、答えてあげる。フューちゃんは優しいからね。

 でも、大それた目的なんて特にないなぁ。政治とか統治とかよくわかんないし。広い宇宙を隅々まで管理するなんて無理じゃない?

 フューちゃん的には、何不自由なく楽しく暮らせればそれでいいかな~って。だったら、レイブラッドの後継者になるのが一番の近道だよね」

 

「なら――」とダルヤは口を挟む。「わざわざ後継者にならなくてもいいだろ。適当に遊んで暮らしたらいい。見たところ、レイオニクスとして高い実力を持っているようだし、不自由なこともないはずだ」

 

「あ~……それはそうかも。でもね、フューちゃん的には戦うのもけっこう好きなんだよね。だって、わたし強いし。相手をボコボコに叩きのめして自分の力を示すのって楽しいじゃん? お兄さんもレイオニクスならわかるよね?」

 

 分からない――とダルヤは答えたかった。

 だが、それは嘘になる。怪獣同士を戦わせるとき、神経が否応なく昂ってしまう。レイブラッドの血がそうさせるのだ。彼はそれを自覚していた。

 

 口を噤んだダルヤを見て、フューネラルは「おしゃべりはおしまいだよ」と言った。

 

「いけっ、グラちゃん2号!

 

≪バトルナイザー モンスロード!≫

 

 ネオバトルナイザーが掲げられる。二本角の間から射出された萌黄色の光が、赤茶けた大地の上に巨獣の輪郭を描き出す。

 

 二振りの鋏を持つ昆虫型怪獣だった。全身を纏うのは甲冑のような甲殻で、扁平な頭部もそれに覆われている。頭部の上には台座のような部位があり、長い尻尾がそこに乗せられている。

 三つの複眼は青緑色に光り、ダルヤの前に立つ二体の怪獣を見据えていた。

 

「ギイイイイ!!」

 

クラスティシアンタイプビースト グランテラ  
体長:53メートル  体重:43,000トン  

 

「こいつ……スペースビ―ストか」

「だいせーかい♡ ――さ、お兄さんはどっちで来る?」

 

 ダルヤはバトルナイザーを掲げ、二体同時に思念を送った。

 それを受け取ったアリゲラとリザリアス(グローラー)が、揃って雄叫びをあげる。

 

「キュァアアッ!!」

「ギャァァアアアア!!」

 

宇宙有翼怪獣 アリゲラ 
体長:55メートル 体重:11,000トン 

 

リザリアスグローラー 
体長:51メートル 体重:38,000トン 

 

「二体同時? ふーん、なりふり構ってられないって感じ? お兄さん、かわいい♡」

「……フィオネ、ディオーネ。リリアとミクリアのところまで下がってろ」

 

 煽り文句には付き合えない。ダルヤにその余裕はなかった。

 何故なら、フューネラルの強さはずっと肌に突き刺さっていたからだ。子供のような言動とは裏腹に、彼女の実力は別格だった。今まで戦ってきたどのレイオニクスよりも優れており、まさに格が違っている。言動の幼さも、その強さの裏付けがあれば、逆に天衣無縫という言葉で言い表せるのかもしれなかった。

 

「お兄さんからでいいよ。フューちゃんのほうが強いからね」

「――リザリアスグローラー!」

 

 号令を受けて、リザリアスGが突進する。そのショルダータックルを受けたグランテラは、強固な外骨格によって微動だにせず――

 

「がうあっ!?」

 

 ――ということはなく、普通に吹っ飛ばされた。

 それに連動して、フューネラルも後方へ転がる。その頭上にドローンが移動し、『警告します』と合成音声を発した。

 

『これは「真のレイオニクスバトル」です。怪獣のダメージはあなたに直結しています。真面目にやらないと死にますよ』

「忘れてただけ! フューちゃんはこんなもんじゃないから!」

 

「リザリアスグローラー!」ダルヤが畳みかける。「跳べ!」

 

「ビギャァアアアッ!!」

 

 リザリアスGの跳躍が大地を揺るがす。前方宙返りを決め、勢いを増したボディプレスを浴びせようとする。――だが。

 

「グラちゃん2号!」

 

「キュギイイイイ!!」

 

 フューネラルの声に応じたグランテラは素早く身を起こし、落下位置から逃れた。ボディプレスは不発に終わり、リザリアスGは地面に墜落してしまう。

 

「速い……!」

 

 その淀みない動きにダルヤは驚く。しかも、グランテラはそこで終わらなかった。頭部に収めていた尻尾を分離させ、鞭のように振るった。身を起こしているリザリアスGに襲いかかる。

 

「ビギャァァアア!!」

 

 ただ、リザリアスGも負けてはいない。その尻尾を掴む。グランテラは振り払おうとするが、尻尾は脇に挟むようにがっちりと掴まれており、リザリアスGは離れない。リザリアスGは逆に尻尾を引っ張り、ジャイアントスイングで敵を投げ飛ばした。

 

「ガギャアアア……」

 

 グランテラと同時に地面に倒れ込むフューネラル。ただ、すぐに立ち直り、「やるぅ」と不敵に笑った。

 

「アリゲラ! 追撃しろ!」

 

「キュァアアッ!!」

 

 横たわるグランテラを影が覆う。上空にあるのはアリゲラの姿。そのパルス孔が輝き、地上に向かって光弾の雨を降らせた。

 爆煙が巻き上がる。しかし、その中から青いプラズマ光弾が飛び出してきた。アリゲラは飛翔してそれを躱す。煙が晴れた後にはグランテラが健在の様子で立っていた。二振りの鋏の間に電流が迸り、プラズマ光弾が生成されている。

 

「グラちゃん2号の甲殻は堅いからね~! 軟弱な攻撃はぜーんぜん通さないよ!」

 

 フューネラルはネオバトルナイザーを掲げ、愉快そうな声をあげる。

 

「撃ち落としてあげるっ! いけーっ!」

 

 プラズマ光弾が発射されると同時に、アリゲラは身を翻して回避する。

 

「ピギイイイ!!」

 

 グランテラの嘶きが荒野に響く。

 すると、腹部を覆っていた外骨格が自動ドアのように左右に開かれた。中に収められていたのは六つの気門。それぞれにエネルギーが充填され、光を明滅させる。

 

 さらに、頭上に固定されている尻尾。その先端にも穴が開いており、気門と同様のエネルギー発射口となっていた。

 気門と尻尾を合わせて計七発の火球が放たれる。燃え盛るそれらが、空中を飛び回るアリゲラに向かって飛んでいく。

 

「キュァァアッ!!」

 

 アリゲラのジェット器官が唸りをあげ、その身を火球の軌道から逸らす。

 だが、それでは終わらなかった。火球は空中で曲がり、アリゲラを追尾しはじめたのだ。しかも、その軌道はそれぞれ異なっている。背後から、前方から、上から、下から、どこからでも飛んでくる。

 アリゲラはスピードを駆使して何とか躱すものの、火球の追尾は終わらない。

 

「アリゲラ! リザリアスグローラー!」

 

 ダルヤがバトルナイザーを構えながら叫ぶ。

 空を見上げたリザリアスGは熱線を放ち、首を振って宙を薙いだ。

 

 それはアリゲラを襲ってもおかしくない攻撃だ。だが、ダルヤは事前に指示を送っていた。リザリアスGには熱線の指示を、そしてアリゲラにはその射線から逸れるようなルート取りを。

 熱線が火球を撃ち落とし、七か所で爆発が起こる。閃光が地上に降り注ぎ、大気がびりびりと震動する。姉妹たちは目をつぶって顔を逸らすが、ダルヤはむしろ前のめりになって怪獣たちに呼びかける。

 

「今だ! いけ!」

 

「キュァアッ!!」

 

 アリゲラが光弾を放つ。ダメージが通らないのは分かっているが、狙いはそこではない。爆撃のように着弾したそれは、砂埃を巻き上げる。それに包まれたグランテラは視覚が利かない。

 

「ビギャァァアア!!」

 

 安全に接近していたリザリアスGが背後から攻める。

 尻尾を引き剥がして掴み、振り上げてグランテラの巨体を空中に浮かす。そして振り下ろして地面に叩きつける。倒れ伏したグランテラを踏みつけ、さらに鋏を引っ張って引き千切ろうとする。

 

「ガギャアアア!!」

 

 グランテラの悲鳴が鳴り響いた――そのときだった。

 その体が萌黄色の光に包まれ、融けるようにして球体となったのだ。リザリアスGの足元から離れ、空中を遊泳する。向かった先はフューネラルのネオバトルナイザーだった。

 

「……」

 

 ダルヤは訝しげに彼女を眺める。あれほどの自信家で、相応の実力もあり、ダルヤに対して啖呵を切っていたというのに、妙にあっさりと怪獣を戻した。彼女の表情も追い詰められているという印象を全く受けない。むしろ、背筋が凍るような艶笑を浮かべている。

 

「お兄さんの実力はよくわかったよ。まあまあがんばってたけど、二体がかりでグラちゃん2号に手こずってるようじゃダメダメかな」

「……」

 

 フューネラルは溜め息を吐いた。「もっと驚いてほしいな~」「なんの反応もないんじゃつまんなーい」などと愚痴をこぼしている。

 だが、ダルヤは今もまだ気を張り詰めさせている。意地悪で無視しているのではなく、その余裕が持てないだけなのだ。

 

「次は、フューちゃんの実力を教えてあげる。――本気でいくよ」

 

 フューネラルはネオバトルナイザーを掲げると、次なる怪獣の名を高らかに叫んだ。

 

「いけ! グランドキングメガロス!

 

≪バトルナイザー モンスロード!≫

 

 射出された光が宙を舞い、激しく爆ぜる。

 空中で実体化された巨躯が舞い降りると、地面が大きく揺れた。

 

「……っ!」

「きゃああ!?」

 

 その揺れは姉妹たちを引き倒し、ダルヤの体勢をも崩すほどだ。

 轟音が荒野を越えて地平線まで響き渡る。森の木々をざわめかせ、湖を波立たせ、山々の間にこだまする。

 アリゲラとリザリアスGに相対する巨躯は、金属質の体表を持っていた。胴体は深い銅色に染まり、正中線上に橙色の発光体が五つ並んでいる。一見してロボットのようにも見える怪獣は、その重々しさと、80メートルにも迫ろうかという体長で見る者すべてを圧倒していた。

 

 全体のフォルムは直立二足歩行の恐竜型。だが、前述のように生物感は薄く、機械めいた外見をしている。

 右腕はペンチのような形状の鋏で、左腕は三本の鉤爪。頭部には側頭部から水平方向に二本、額から垂直方向に一本、金色の角が生えている。背中から尻尾にかけては肋骨のような突起が二個一対で六対、立ち並んでいた。

 

 細長い眼が橙色に光る。重々しい金属音を響かせながら首を起こし、その眼で二体の怪獣を睥睨する。

 その威圧感は、否が応でも強大な力を感じさせる。瞠目していたダルヤは、ひとりでに体が震えそうになっていたことに気付く。奥歯を噛みしめながら自分を奮い立たせ、怪獣たちに向かって叫ぶ。

 

「進め! アリゲラ! リザリアスグローラー!」

 

「キュァアアッ!!」

「ビギャァァアア!!」

 

 アリゲラが上空を駆ける。リザリアスGが地響きをあげながら突き進む。

 二体に対しグランドキング(メガロス)は、その場に佇んだまま泰然と迎え撃った。

 

「グオオオオオオン――」

 

超弩級怪獣 グランドキングメガロス  
体長:78メートル  体重:217,000トン  

 

「キュァアッ!!」

 

 まずはアリゲラが光弾を降らせる。だが、グランドキングMの体表は装甲めいており、一発たりとも通さない。体を襲おうとした弾は全て弾かれ、地上で爆発を起こす。

 

「ビギャァァアアア!!」

 

 土埃を突っ切ったリザリアスGがグランドキングMに組み付く。その体を押し込もうとするが、グランドキングMはびくともしない。

 リザリアスGの横面が殴られる。グランドキングMの左腕に備わった鉤爪だった。難なく振ったように見えるそれも恐ろしい重量を有しており、リザリアスGの脳を揺らす。そして、その衝撃は――

 

「ぐぅ……っ!!」

 

 ――レイオニクスであるダルヤにも伝わる。

 たった一発だけで意識が持っていかれそうなダメージだった。焼けるような痛みが脳内に残り、嘔吐感が込み上げてくる。ダルヤはそれを堪えながら、リザリアスGに目を向ける。

 

「リザリアスグローラー……っ!!」

 

 リザリアスGは膝に力を込め、崩れそうだった体勢を立て直す。その力を利用して腰を捩じり、勢いをつけた正拳突きを繰り出した。

 しかし、グランドキングMの装甲には響かない。逆に、リザリアスGの骨が砕けてしまう。

 

「ビギィィィ……!」

 

「ぐっ、くっ……!」

 

 彼の苦悶の声を聞き、フューネラルは「ふふん」と鼻を鳴らした。

 

「無駄だよ。グラちゃんの装甲は誰にも破れない」

 

 片目を瞑った彼女は、手を銃の形にする。前方に向かって「ばーん♪」とポーズを取ると、

 

「グオオオオオオン――」

 

 グランドキングMの発光体が光線を放った。五条の強烈な赤色レーザーは至近距離からリザリアスGを襲い、50メートル級の巨体をまるで玩具のように吹き飛ばす。

 そこへアリゲラが助勢に入る。上空を旋回して加速を重ね、その翼を構えてグランドキングMへ突撃する。

 

 だが、それも通じない。首を斬ろうとした翼は装甲に弾かれ、アリゲラは大きく体勢を崩して墜落する。

 傷つけられたのはアリゲラの左翼。それに連動して、ダルヤの左腕も鋭く痛み、神経が痺れる。

 

「グオオオオオオン――」

 

 グランドキングMの三本角が帯電し、地に伏せるアリゲラに放電攻撃を浴びせる。「キュァアアア!!」と甲高い悲鳴が響くと共に、ダルヤも悶え苦しむ。

 間髪入れず、グランドキングMの額から緑色レーザーが連射される。アリゲラの降らした光弾の雨とは比較にならない衝撃が大地を襲い、着弾地点に次々とクレーターが刻まれていく。

 

「ア……アリ、ゲラ……! 戻れ……!」

 

 このまま無抵抗に嬲られればアリゲラが保たない。その判断を下し、ダルヤはアリゲラをバトルナイザーに戻した。

 だが、こうなると残るはリザリアスGの一体のみ。それも、全く手も足も出ない現状で、レイオニクスの体もダメージが大きい。

 

 何とか突破口を見出そうと、ダルヤは掠れる意識に鞭を打つ。だが、フューネラルがそれを許さない。愉快そうな表情で、彼の無駄な努力を一蹴する。

 

「ギャオオオオオン――」

 

 グランドキングMの背に並ぶ突起群が金色のエネルギーを纏う。すると、そのエネルギーが分離して飛行ユニットのように滞空した。

 四機のそれが飛び交い、リザリアスGにレーザーを浴びせる。足を貫き、腕を貫く。磔にされているかのような痛みが怪獣とその主人を襲い、抵抗する力をさらに奪っていく。

 

「ぐっ、う゛……!」

「お兄さん、だいじょぶそ~?♡ はやくリンク切らないと、死んじゃうよ~?♡」

 

 飛行ユニットが背中に戻っていく。リザリアスGはかろうじて立っているが、もはや一歩も動けない。熱線を吐く体力すら残されておらず、近づいてくるグランドキングMを茫洋とした眼で見ていることしかできない。

 

「グオオオオオオン――」

 

 グランドキングMの重い唸り声が、ダルヤの体を震わせる。高圧電流の音が鳴ったかと思うと、その右手の鋏にエネルギーが纏い、金色の剣が形成されていた。

 動けないリザリアスGの元に歩み寄ってくるグランドキングM。その剣は、相手を処刑するためのものだ。迫りくる死の感覚が、ダルヤの意識をクリアにする。脳細胞が急速に思考を回転させる。――それでも、打開策は浮かばない。

 

(リザリアスグローラー……)

 

 出会ったときは敵だった。しかも、彼が愛する人と引き裂かれる原因でもあった。

 そうでなくても、スペースビーストはこの上なく危険で忌むべき存在だ。ダルヤも最初は、リザリアスGへの恐れから制御ができなかった。

 ただ、四姉妹との旅の中で彼はそれを克服した。同時に、リザリアスGは頼れる相棒の一体となった。ゾゾギガ星人との戦いでは共に死力を尽くし、成長もした。――だが。

 

「グオオオオオオオオン――」

 

 グランドキングMが右腕を引く。剣先はリザリアスGを向いている。その腕が突き出されたとき、リザリアスGの体表は破られ、肉が抉られ、命が刈り取られる。それに伴って、ダルヤも命を落とす。

 そのときが迫りくる。グランドキングMは動きを止めない。無慈悲に、無情に、機械的に、その腕を動かす。刺突が、虚空を貫く――

 

「――くそッ!!」

 

 瞬間、ダルヤはバトルナイザーに思念を込めた。

 グランドキングMの剣が、今にもリザリアスGの体表を突き破ろうとしたとき――

 

「……?」

 

 グランドキングMは、その剣を寸前で止めていた。

 エネルギーが霧散し、元の鋏に戻る。怪獣は刺突の代わりにその鋏を横から叩きつけ、リザリアスGを横転させた。

 

「……なにをしている!」

 

 ――ダルヤが叫ぶ。その体は、今のダメージを負っていなかった。

 彼はリザリアスGとのリンクを断ったのだ。そのおかげで、ダメージの共有がなくなっていた。

 

 それを確かめると、フューネラルは「あははははっ♡」と上機嫌に笑った。

 

「リンクを切ってくれたね。ありがと♡ リンクを切ったってことは、怪獣の所有権を手放したってこと。つまり――」

 

 フューネラルがネオバトルナイザーを差し出す。先端の二本角から萌黄色の光が流れ出し、それがリザリアスGの全身を包んでいく。やがてリザリアスGは光の塊と化し、吸い込まれるように彼女の元へと飛んでいった。

 

「お前……まさか!」

 

 そう言った瞬間、ダルヤの目の前で爆発が起こった。「ぐあああっ!!」と彼が吹き飛ばされる。彼を見下ろすグランドキングMの角がエネルギーを纏っていた。

 

「『お前』じゃなくて『フューちゃん』ね? ――そう。わたしの目的は最初からリザリアスの捕獲だったの。もしかしたら盗まれたって思うかもだけど、所有権を放棄したのはお兄さん自身なんだから、文句は言わないでよね?」

 

 フューネラルは、リザリアスGの光を収めたネオバトルナイザーを振って見せびらかす。

 そして「グラちゃん、お疲れ」とそれを掲げ、グランドキングMも手元に収める。

 

「さて……じゃ、帰ろっか」

『トドメを刺さなくていいのですか?』

「いいよ。()()()が完成したら、その実験台になってもらうから」

 

 膝を突くダルヤを見下ろしながら、フューネラルは言う。

 

「お兄さん、もう一体怪獣持ってるでしょ? その子、ちゃんと使えるようにしといてね。お披露目の相手がザコだったらカッコつかないから」

 

 ドローンの底面がスポットライトのような光を落とすと、そこに飛行用バックパックが転送されてくる。フューネラルはそれを背負うと、ドローンと共に上空へと飛び去っていった。

 

「……く、そ……」

 

 ダルヤは険しい目でそれを見上げていたが、やがて力尽き、ばったりと倒れ伏した。

 

 


 

≪登場怪獣≫

 

■クラスティシアンタイプビースト グランテラ

体長:53メートル

体重:43,000トン

 

『ウルトラマンネクサス』第25話「予兆 -プロフェシー-」に登場。

 

昆虫型怪獣であり、スペースビーストの一種。

非常に硬い甲殻は生半可な攻撃を通さない。

主な攻撃手段は鋏の間から放つプラズマ光弾と、尻尾や気門から放つホーミング火球。

 

原典ではアンノウンハンドからのエネルギー供給によって強力な火球が使用可能となっていたが、本作では主であるフューネラルによってその能力が解禁されている。

 

 

■超弩級怪獣 グランドキングメガロス

体長:78メートル

体重:217,000トン

 

『ウルトラマンR/B』第20話「星屑の記憶」に登場。

 

「超合体怪獣 グランドキング」の亜種。姿かたちは、同じ亜種の「土ノ魔王獣 マガグランドキング」に酷似している。

体表は非常に堅牢で、弱点属性であるウルトラマンブルのアクアストリュームでも傷ひとつ付かないほど。

さらに、頭部の角、腹部の発光器官、背中の突起と、全身から様々な攻撃を放つことができ、攻守ともに隙がない。

 


 

≪登場人物≫

 

■フューネラル

年齢:20歳

身長;178㎝

スリーサイズ:118(P)-57-103

 

レイオニクスの一人。

萌黄色のストレートロング。瞳の色は黒。

 

出身星も生い立ちも不明で、人工知能と共に宇宙を旅している。

若くして優秀な技術者であり、その人工知能や、移動拠点の超巨大円盤は彼女の自作である。

それと同時に、レイオニクスとしても宇宙最強クラス。ある目的のため、現在はスペースビ―ストを求めて旅をしている。

 

大人っぽい風貌とは裏腹に、内面は成熟しておらず、自己中心的。

自身が優れた能力を持っていることから、たびたびそれを誇示し、他者を見下している。

レイオニクスとして戦う動機は宇宙征服のためだが、別に統治などには興味がなく、自分の人生を快楽で満たしたいだけである。

 

所持怪獣:グランテラ、グランドキングメガロス

 

 

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