ウルトラギャラクシー 四人の姫と怪獣使い   作:幽明卿

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14話 VS 円盤生物

 

 

 ディオーネのベッドでダルヤは寝かされていた。戦闘後、気を失ってしまった彼を姉妹たちで運んできたのだ。彼のダメージは甚大で、二時間が経っても目を覚まさない。リリアも体調が思わしくなかったので自室で休んでおり、妹三人は黙り込んだまま、沈鬱とした空気に身を浸していた。

 

 突如姿を現わしたダルヤの姉二人。さらに続けて現れたフューネラルというレイオニクス。彼女はダルヤを圧倒し、リザリアスを奪ってしまった。その宇宙船は行方をくらましたものの、去り際の言葉からすると、ダルヤにトドメを刺すため再び訪れるつもりのようだ。

 アスマを倒したリザリアスは奪われてしまい、今のダルヤの手持ちはアリゲラとギガロガイザだけになっている。しかも、ギガロガイザが実戦で活躍できるかは未知数だ。

 

 リリアに続いてダルヤまで寝込むことになってしまい、妹三人は精神的支柱を失ったも同然だった。

 姉妹たちのすべきことを決めてくれたリリア。そして、レイオニクスとして皆を守ってくれたダルヤ。五人で作り上げた共同体は、今や「心」も「体」も欠落している。

 

 そんな中、ミクリアは意を決した表情でソファから立ち上がった。

 

「ミクリア姉さん?」

「コンピュータールームに行くわ。脱出の糸口を探さないと……」

 

「わたくしに手伝えることはありまして?」とディオーネが問う。その表情は心細そうで、姉がひとり場を離れることが不安なようだった。

 ズキリと胸の痛みを感じながら、ミクリアはかぶりを振った。

 

「大丈夫。二人はリリアとダルヤを見ててあげて」

 

 二人を置いて部屋を後にする。早足で廊下を進むミクリアの顔は強張っていた。

 

(私が……何とかしなきゃ……)

 

 

   ★

 

 

 翌日も隠れ家の空気は重いままだった。

 ダルヤは一度目を覚ましたが、すぐに気絶するように眠りに落ちてしまった。リリアは回復傾向にはあったものの、相変わらず起きていられる時間は短い。

 フィオネとディオーネは二人の枕元で無聊をかこち、ミクリアのほうはコンピュータールームと書庫を往復して解読作業に努めていた。

 

 そんな中、各部屋に備えられたスピーカーが警報を叫んだ。ミクリアが壁にかかっている大きなメインモニターを見上げると、隠れ家のレーダーが画面に映されていた。

 

「どうしたの?」

『北北西10㎞地点に巨大生物を捕捉。監視カメラの映像を拡大します』

 

 その作業が行われている間に、ミクリアは妹二人に通信機で連絡を送った。二人がコンピュータールームに到着した頃合いで、ちょうど監視カメラの映像がモニターに表示される。

 

「これは……」

 

 それを見て、フィオネが呟く。

 空を飛ぶ鳥のような生物だった。背中側は暗い緑青色で、腹側はくすんだ朱色をしている。銀色の嘴は刃物のように鋭い。両翼は、鳥というよりはグライダーのような形状だ。

 概して、鳥の形をしてはいるが、どこか無機物的な趣もあった。楕円体の胴体に首、翼、足、尾をくっつけたような見た目で、どこか宇宙船のようにも見える。

 

「もしかすると、円盤生物かもしれませんわ」

 

「円盤生物?」とディオーネが姉の顔を振り返る。

 

「ええ。円盤のような形状をした怪獣のことで……この個体は『サタンモア』だと思われますわ」

 

円盤生物 サタンモア 
全長:60メートル 体重:15,000トン 

 

 ミクリアは「もしかして――」と声をあげた。

 

「ダルヤのお姉様か、それともフューネラルがけしかけたのかしら」

「どうでしょう。あの三人は皆、わたくしたちには興味がなさそうでしたわ。ダルヤを狙うにしても、レイオニクスバトルで戦おうとするでしょうし……。恐らく、ゾゾギガ星人がこの星に放った怪獣の一体ではないでしょうか」

 

「ありそうですわね」と首肯したディオーネは、「で、どういたしますの?」とミクリアの顔を見た。

 フィオネもまた同じように姉の顔を見る。二人に視線を向けられて、ミクリアは虚を突かれた気持ちになった。

 

(そ、そうよね。今は私が決めなくちゃ。この三人の中では一番年上なんだから……)

 

「とりあえず――」とモニターのほうを振り向く。「この隠れ家には迎撃できるような兵器はないから、やり過ごすしかないと思うわ。表のシャッターだけは閉めておいて、どこかへ行ってしまうのを待ちましょう」

 

 コンピューターに指令を出して、隠れ家の入口をシャッターで閉め切る。レーダーの反応は真っ直ぐにこちらに向かっているが、下手に動かなければ大丈夫なはずだ。

 地下に隠れているにもかかわらず、三人は息を潜める。緊張した時間を過ごし、レーダーに表示される敵影の移動を見守る。

 

 十分ほどして、サタンモアの位置が隠れ家と重なる。ミクリアはごくりと唾を飲み込む。怪獣の影はそのまま進行し、隠れ家の先へと移動を始めた。

 ミクリアは()()と息をついた。フィオネとディオーネも同様に安堵の笑みを浮かべていた。

 

 しかし、もう一度レーダーに目を向けると、ミクリアは異変に気付いた。通り過ぎていったはずのサタンモアが進行をやめたのだ。隠れ家とほぼ同じ位置に陣取ったまま動かなくなる。

 

「え……?」

「――監視カメラの映像は!?」

 

 フィオネの声でコンピューターが作動し、モニターが映像に切り替わる。

 隠れ家付近のカメラだった。それが捉えたサタンモアは、カメラ側に頭を向けている。進行方向通りであれば、背中を向けているはずだ。にもかかわらず逆になっているということは、その場で反転したことを意味している。

 

「どうして……? 私たちは何もしてないのに……!」

 

 ミクリアが声を震わせる中、映像内に変化が起こる。

 サタンモアの胴体には二つの穴が空いていた。そこから小さな黒い影が飛び出してきたのだ。すると、再び部屋に警報が鳴り響く。『小型の飛行物体が高速で接近中』と合成音声が伝える。

 

 ――ガキン!

 

 そんな音が遠くから聞こえてくる。

 

 ――ガキン! ガキンッ!

 

 断続的に響いてくるその音は、金属に何かをぶつけた小気味のいい音だ。

 三人は顔を見合わせる。表のシャッターだ。そこに何かがぶつかっている――

 

 その正体について、フィオネはハッと思い出した。

 

「サタンモアの習性ですわ……! サタンモアは体内から『リトルモア』という小型の怪獣を出すことができるのでしたわ。きっと、それが表のシャッターを破ろうとして……!」

 

 その間も金属音は聞こえてくる。しかも、その音のリズムが速くなっている。リトルモアの数が増えているのだ。

 

「じきに地下に入ってきますわ! 何とかしないと……!」

 

 隠れ家の一階は玄関とエントランスで、エレベーターと階段の二通りで地下に降りることができる。シャッターが破られれば、リトルモアは階段の空間を通って、いとも容易く地下階に侵入してくるだろう。

 しかも、不都合なことに――

 

「リリア姉さんとダルヤが危険ですわ!」

 

 このコンピュータールームは地下二階。対して寝室は地下一階だ。もし怪獣たちが生物の居場所を探知できるのであれば、まず狙われるのはこの二人だ。

 

 フィオネの言葉を聞くや否や、ディオーネは腰のホルスターから銃を取り出した。

 

「わたくしが迎え撃ちますわ!」

 

 フィオネもそれに応える。

 

「わたくしも行きますわ!」

「ミクリアお姉様は――」

 

 と、姉に顔を向けたディオーネは、一瞬言葉を詰まらせた。しかし、そんな暇はないと思ったのか、すぐさま続きを口にした。

 

「――ここで隠れていてくださいまし!」

「ディオーネ、行きますわよ!」

「ええ!」

 

 銃を手に、二人がコンピュータールームを出ていく。

 扉が閉まる音がしたと同時に、ミクリアはへなへなと床に崩れ落ちた。

 

「……」

 

 ディオーネが言葉を詰まらせたのは、彼女の表情を見たからだった。

 その表情は、とても戦えるような精神状態を表してはいなかった。すぐ間近に迫りくる危機に対し、恐怖し、絶望している顔だった。

 そんな彼女を連れて行けるわけがない。ディオーネは即座に判断を下し、身を隠しているように言ったのだった。

 

 部屋に警報が鳴り響く。それとは逆に、積み上げられた本の山々は口を緘して語らない。

 ミクリアはその場で、震える体を自分で抱きしめた。

 

 

 

「来ましたわ!」

 

 地下一階に上がり、リビングから廊下まで下がったところで、シャッターが破られた音がした。同時に、怪獣の甲高い鳴き声が混沌とした響きを作り上げ、二人の鼓膜を震わせた。

 

「キュルルッルッルッルッルッ!!」

 

怪鳥円盤 リトルモア 
全長:30センチメートル 体重:8キログラム 

 

 リトルモアは想定通り、階段を通って降りてきた。すでに五、六体ほどが視界に入る。フィオネとディオーネは光線銃を構え、トリガーを引いた。

 

「キュルルッルッルルルッ!!」

 

 真正面から突っ込んでくる怪鳥に怖気づきそうになりながら、二人は勇気を奮い立たせる。後ろには臥せっているリリアとダルヤがいる。自分たちが戦わなければならない。

 虚空を裂いたビームはリトルモアを捉え、その体を貫く。もちろん、全弾を命中させられるほど腕は良くないが、それでも二人がかりで一体ずつ撃ち落としていく。

 

「キュルッルルルッルッルルッ!!」

 

 だが、リトルモアは群れを成して飛び込んできた。その絶叫が重なり、廊下に響く。

 撃ち漏らしたリトルモアが突っ込んでくる。ディオーネは咄嗟に顔を逸らす。鋭利な嘴が頬を掠め、真っ直ぐな線を痛みと共に刻み込む。

 

「……っ!」

 

 そのリトルモアは背後のドアに嘴を突き立てていた。リリアの部屋だ。まさか、とディオーネの脳裏に考えが去来する。

 

(この怪獣は、リリアお姉様の生命力を狙って……!?)

 

 リリアの特異体質は「生命力の譲渡」。ただし、より正確に言えば、彼女の生命エネルギー自体が他者とは違う性質を持っていた。

 それは本人の意思で譲渡できることもそうであったし、エネルギーの質にしてもそうだった。リリア本人は至って普通の人間であり、そのエネルギーを以て長時間全力疾走し続けられるとか、トラックを持ち上げられるとか、そういった超人的なことはできない。ただ、他者からするとそのエネルギーは膨大なのだった。

 

 サタンモアは、その怪獣的感覚によって地下のリリアの生命力を感知したのだろう。そしてリトルモアを放った。彼女を食えばそのエネルギーを我が物にできるとでも考えたのかもしれない。

 

「通しませんわ!」

「――ディオーネ、危ない!」

 

 ディオーネは振り返り、ドアを破ろうとしているリトルモアを撃ち落とす。しかし、彼女の背後からリトルモアが迫っていた。フィオネは彼女に飛びつき、共に床に伏せた。そしてすかさず、頭上を飛び交うリトルモアに光線を撃つ。悲鳴をあげて墜落する者もいれば、絶叫をあげて向かってくる者もいる。ディオーネも応戦し、迫りくる嘴を真正面から撃ち抜いた。

 

 それでも、二人だけでは手が足りない。イナゴの群れのように襲ってくるリトルモアの大群に圧されていく。やがて、その嘴がリリアの部屋のドアを壊してしまう。空いた穴にリトルモアが殺到し、次々と飛び込んでいく。

 

「やめなさいっ!」

「ディオーネ、行って!」

 

 フィオネがドアを開けてディオーネを部屋に入れ、すぐさま閉じる。扉の前に立って自分の体で穴を塞ぐ。当然、彼女に向けてリトルモアが飛び込む。邪魔者を排除すべく、威嚇の声をあげて嘴を向ける。

 

「リリアお姉様!」

 

 一方、部屋の中では。

 外の異変にリリアも気付いていたのだろう。ベッドから出ていたが、そこで体が動かなくなったようだ。床にうずくまっている。部屋に侵入してきたリトルモアはそんな彼女を狙って突撃する。

 

 銃口からビームが一閃する。怪鳥の悲鳴がけたたましく響き、リリアの体に至る前に床に墜とされる。

 ディオーネはすぐさま姉のそばに駆け寄り、リトルモアに立ち向かった。

 

「――っ!」

「ディオーネ……!?」

 

 だが、部屋内のリトルモアは十体はいた。廊下より広くなったことで密度が減ったとはいえ、それは逆に多角的な攻撃を許してしまうということでもある。それも、背後の姉を庇いながらでは十全に力を発揮することができない。飛来するリトルモアの嘴がディオーネの右腕に突き刺さり、その柔肌に穴を開ける。

 

「ぐぅっ……!」

 

 なおも銃を向けようとするディオーネだが、反対側の腕も刺される。そして、脇腹に鋭い痛みが走る。食い破られた肌から血が噴き出、瞬く間に服に染みを広げていく。

 そして、時を同じくして――

 

「きゃああああーーーーっ!!」

 

 ドアの外からフィオネの悲鳴がした。

 今の自分のようにリトルモアに襲われたのか――ディオーネの思考が真っ黒に塗り潰される。絶望した彼女に、リトルモアが一斉に飛びかかった。

 

「キュルルルルルルッ!!」

 

 

 

「うぅ……うぅぅぅ……!」

 

 一方、コンピュータールームでは――

 ミクリアは変わらずうずくまり、頭を抱え込んでいた。

 

 遠く、フィオネの悲鳴が響いて彼女の耳にも届いていた。まさかやられてしまったのか。リトルモアの嘴に肉を刺され、啄まれ、見るも無残な姿に変わってしまったのか。その想像が脳裏を支配すると、ミクリアは体を丸めて震え、歯の間から「うぅぅ」と呻き声を洩らした。

 

「フィオネ、ディオーネ……リリア……」

 

 可愛い妹と、憧れの姉。救いを求めるようにその名を呟いていると――

 

 ――ガンッ! ガンッ!!

 

「……!?」

 

 コンピュータールームの扉に何かがぶつかる音がした。ミクリアの全身に鳥肌が立つ。姉妹たちを殺した鳥がここまでやってきたのだ。

 どこか、机の下にでも隠れなければならない。だが体は思うように動かず、その場にうずくまっていることしかできない。そうしていても危機が去るわけではないのに。

 

 扉は簡単に破られた。角のところが破られ、そこからリトルモアが次々に飛び込んでくる。その眼はモニター前のミクリアを捉えていた。

 もはや悲鳴も出せない。何の躊躇もなく自分を殺しに来る怪鳥。その鋭利な嘴が、視界の中で大きくなって――

 

「……?」

 

 ミクリアは目を瞑り、体の前に腕を翳していた。そのため、鳥の嘴が腕に刺さり、激痛が走るはずだ。

 それなのに、何もなかった。一秒、二秒、三秒と経っても痛みはやってこない。何が起きているのか、ミクリアは瞼をゆっくり持ち上げて、それを確かめた。

 

 そこには、広い背中があった。紫色のオーラを纏っている男の背中。

 首がこちらを向く。その横顔は――紛れもなく、ダルヤのものだった。

 

「大丈夫か」

 

 頷くこともできず、ミクリアは彼の顔を見上げる。そうしていると――

 

「お姉様っ!」

「ミクリア姉さんは無事!?」

 

 続いて、フィオネとディオーネが入口から飛び込んできた。二人とも健在だ。しかも、フィオネの背中にはリリアが背負われている。

 

「まだリトルモアがいますわ! フィオネは下がって! わたくしとダルヤで受け持ちますわ!」

「お願い! ミクリア姉さんはダルヤのそばから離れないでくださいまし!」

 

「はああっ!!」とダルヤが喊声をあげる。彼の手にはリトルモアの嘴が握られていた。ミクリアが襲われる一瞬前、彼女の前に瞬間移動してきて、敵の突進を受け止めたのだ。

 彼は握ったリトルモアで、飛び込んでくる別個体を払いのけた。壁に叩きつけられた個体に対し、ディオーネが光線銃でトドメを刺す。二人の活躍によって、室内のリトルモアは瞬く間に殲滅された。

 

 

   ★

 

 

 時は少し遡り、廊下に残っていたフィオネが悲鳴をあげていた頃――

 

「きゃああああーーーーっ!!」

 

 鋭利な嘴を光らせながら飛び込んでくるリトルモアの群れ。しかし、それがフィオネに到達する前に、彼らは横手から襲ってきた突風に吹き飛ばされた。

 乱れた前髪を掻き分けながらフィオネがそちらを向く。そこにいたのはダルヤだった。これまでディオーネの部屋で眠っていたが、騒ぎを聞いて目を覚ましたのだ。

 

「ダ……ダルヤ……」

「大丈夫か!?」

「え、ええ。助かりましたわ……」

 

 安堵の表情を浮かべるフィオネ。一方、床に転がされたリトルモアの群れが身を起こそうとしていた。

 

「キュルルッルッルッルッ」

 

「……!」

 

 それをダルヤはひと睨みする。彼の周囲には紫色のオーラが炎のように揺らめいており、そのエネルギーが怪鳥たちに圧迫感を与える。

 さらに、彼の腰に提げられたバトルナイザー。その中からも強烈な闘気が放たれていた。それが怪獣によるのものだと察知したリトルモアたちは、背中を向けて逃げていった。

 

 

 

 時を同じくして、リリアの部屋では――

 負傷したディオーネに向かってリトルモアが殺到していた。ディオーネは銃を構えようとするが、痛みのせいで腕が持ち上がらない。

 

 ――と思っていた。しかし、その痛みが一瞬にして消えたのだ。

 まるで魔法のようだった。見れば、手や腕の傷が塞がっている。まさか、と背後を振り向く。

 

「ディオーネ!」

 

 リリアが手を翳していた。その手のひらには純白のオーラが纏われている。――彼女の生命力だ。それをディオーネに譲渡したことで、傷を癒したのだ。

 

「っ!」

 

 ディオーネは床を転がり、リトルモアたちの刺突を躱した。彼らは勢い余って床に激突し、嘴が刺さって動けなくなっている。ディオーネはすかさず光線銃を構え、その怪鳥を一体残らず射殺した。

 

「お姉様!」

 

 ディオーネはリリアのもとに駆け寄る。怪我はけっこう深手だった。それを治すとなると、かなりの生命力を消耗したに違いない。案の定、ぐったりと力が抜けて崩れ落ちそうになっていた。

 

「――大丈夫か!?」

 

 そこへ、ダルヤとフィオネが入ってきて――

 ひとまず先にダルヤが瞬間移動でミクリアの様子を見に行くことにし、姉妹たちはその後を追ったのだった。

 

 

   ★

 

 

「ミクリア。大丈夫か?」

 

 ダルヤが片膝を突き、目線を合わす。

 張り詰めた緊張感がほどけたせいで、ミクリアの目からは大粒の涙があふれてきた。

 そして彼女は、呂律の回らない声で「ごめんなさい……」と謝った。

 

「何を謝る必要がある」

「私……私……何の役にも立たなくて……」

「そんなわけないだろ。ミクリアはよくやってる」

 

 宥めるように言うダルヤの優しさをあえて振りほどくように、彼女は首を横に振った。

 

「違うの。違うの……。タンザナにいたときから、私がしっかりしてれば……! 私がちゃんと役目を果たしてれば、みんながこんな目に遭うことはなかったの! お父様もお母様も、フィオネたちのお母様も、国民のみんなも……。

 全部私のせいなの……私が嫌なことから逃げ続けて、全部リリアに押しつけてたから……! 甘やかされてることに、何の疑問も持たなかったから……!」

 

 ミクリアは床に額を擦りつけて、「ごめんなさい……ごめんなさい……」と謝り続けた。

 彼女は姉妹の中で最も明るく、活発な性格だ。こんなにも思い詰めて、追い詰められたような姿は、姉妹たちにとっても初めてだった。フィオネとディオーネはおろおろとする。慰めてやりたいとは切実に思うが、姉の苦悩が胸に染み込んできて、逆にこちらも泣き出してしまいそうだった。

 

「……ミクリア」

 

 ダルヤは彼女の肩に、そっと手を置いた。

 

「ここにいる誰も、お前を責めたりはしない」

「そんなことない……! だって、解読も全然できてなくて……ゾルガウスが動かせなかったら、みんなこの星に取り残されちゃうのに……! 私は何の役にも立ててなくて……」

 

「お姉様っ!」ディオーネがダルヤの後ろから飛び込んでくる。

 

「ミクリアお姉様ができなくたって、わたくしは責めたりも恨んだりもいたしませんわ。どうかご自分をお責めにならないで。『何の役にも立てていない』なんて、わたくしのセリフですわ」

 

 フィオネも、リリアをダルヤに預けてからミクリアに抱きついた。

 

「謝るのはわたくしたちのほうですわ。姉さんひとりに背負い込ませてしまったこと、謝罪いたします。姉さんに向いてるからと任せっきりで、姉さんの気持ちに寄り添えておりませんでしたわ」

 

 なおも「でも」と言おうとするミクリアを、フィオネは制した。

 

「姉さん。おひとりで抱え込まないでくださいまし。わたくしもディオーネも、リリア姉さんも同じ思いですわ。わたくしたちは、どんなお気持ちだって受け止めます。楽しい気持ちはもちろん、苦しい気持ちだって」

 

 ダルヤは()()と息を吐いた。「もうオレが言うことはないが――」と言いつつ、言葉を継いだ。

 

「ひとつ言えることがある。お前たち四人の絆は強い。互いを思いやり、それぞれが皆のために行動できる。――大人の思惑があっても、お前たちはその絆を崩さなかったんだ。二人の言葉に嘘がないってことは、ミクリア、お前が一番わかってるはずだ」

 

 ミクリアが顔を上げてダルヤを見る。

 涙で汚れた彼女としっかりと目を合わせて、彼は続ける。

 

「過去を悔やむことは避けられないかもしれない。でも、それは自分を縛るためじゃなく、前に進むためにするんだ。大切な家族を守るために。その途中でつまずいても、その家族が痛みを分かち合ってくれる。

 全部をひとりで背負い込むな。お前たちは、四人でひとつなんだ」

 

 フィオネとディオーネはダルヤの顔を見て頷いた。ミクリアも涙を拭い、そうした。

 そんなとき、またも警報が鳴った。「どうした?」とダルヤが訊くと、合成音声が答える。

 

『小型飛行物体が再度接近中。巨大生物の体内から生み出されている模様です』

「またか。痛い目見せてやったってのに」

 

「ダルヤ」フィオネが立ち上がって言う。「リトルモアは、主のサタンモアが倒されると全滅するはずでしたわ。――お願いできますか」

 

「もちろんだ」とダルヤは頷く。

 

「リトルモアはいったん吹き飛ばしておく。だがもし、それでも襲ってくるようなら……」

「お任せください。わたくしたちがお姉様を守りますわ」

 

 ディオーネが答える。それに追随して、ミクリアも腰の光線銃を引き抜いた。

 

「私も……戦うわ」

 

 四人は顔を見合わせ、行動を開始した。

 ダルヤが廊下を駆ける。地下二階まで降りてきたリトルモアの群れにオーラの波動を喰らわせ、吹き飛ばす。床に転がった彼らを踏みつけながら階段を駆け上がり、表に出るとバトルナイザーを掲げた。

 

「いけ! アリゲラ!

 

≪バトルナイザー モンスロード!≫

 

 バトルナイザーから放たれた光が、空中でアリゲラの姿に変わる。

 甲殻を纏った赤い両翼を広げながら、アリゲラはサタンモアに向けて突進する。

 

「時間がねえんだ。さっさとケリつけさせてもらうぜ!」

 

「キュァアアッ!!」

 

宇宙有翼怪獣 アリゲラ 
体長:55メートル 体重:11,000トン 

 

「クアアッ!!」

 

 サタンモアは雄叫びをあげ、目から怪光線を放った。真っ直ぐに猛進していたアリゲラは直撃を受けてしまうが、その勢いは止まらない。痛みがないというわけではないだろう。だが、彼もまた四姉妹が襲撃されたことに怒っていたのだ。

 

「キュァアッ!!」

 

 サタンモアの腹に頭突きを入れる。続けて飛行し、相手の上を取る。長い尻尾をサタンモアの首に巻き付け、拘束したままジェット器官を光らせる。アリゲラは器用に宙返りをし、尻尾を振り下ろすと共に拘束を解いた。当然、サタンモアは慣性に従って地表に叩きつけられる。

 

「クアアッ……!」

 

 地面に這いつくばるサタンモアは、首を上空に向ける。その視線の先には、突撃してくる赤い翼がある。

 サタンモアは嘴を開き、口内からミサイル弾を次々と発射した。

 

 火を噴いて宙を突っ切るミサイル。しかし、それがアリゲラに届くことはなかった。

 アリゲラは素早く舵を切り、ミサイルの射線から離れていた。反対に、パルス孔から光弾を放ってサタンモアを攻撃する。

 

 地面に巻き起こる爆発。それを突っ切るように、サタンモアが空中に踊り出す。

 針路はアリゲラとは逆の向きだった。とても敵わないと判断したのだろう。薄い両翼を広げ、サタンモアは全速力で逃亡を始める。

 

「逃がすか!」

 

「クアアッ!!」

「キュァアアッ!!」

 

 アリゲラのジェット器官が唸りをあげる。

 両者の速度は圧倒的にアリゲラのほうが上だった。虚空を突っ切り、両者の間をぐんぐんと詰めたアリゲラは、サタンモアの真後ろで体を90度傾けた。

 まるでエアロバティックチームのナイフエッジのように、その体勢のまま加速する。アリゲラの鋭利な翼は、サタンモアの尾から胴体、そして首、嘴に至るまで、その体を真っ二つに切り裂いた。

 

 クルミの殻のように二分割されたサタンモアの体は、傾きながら高度を落としていく。やがて、空中に彷徨ったまま爆発し、塵と化して吹き飛ばされていった。

 

 

 

「あ……」

 

 隠れ家で応戦していたミクリアたちは、突如リトルモアたちがバタバタと倒れたことでダルヤの勝利を悟った。

 コンピュータールームに急行してリリアを迎えに行く。すると、彼女は目を覚ましていた。力を込めて立ち上がる彼女に、「リリアぁーーっ!!」とミクリアが飛びつく。

 

「あらあら、どうしたの。怪我はない?」

「うん……大丈夫。リリアこそ、無理してない?」

「平気よ。……フィオネとディオーネも、頑張ってくれたわね。ありがとう」

 

 姉に甘えるミクリアを微笑ましく見守っていた二人だったが、その言葉に感極まった。二人もリリアに抱きつく。緊張の糸が切れたことで、目元に涙が滲む。二人とも、「よかったですわ」としみじみと口にした。

 

 一方ダルヤは、隠れ家の様子が気になって瞬間移動で戻ってきていた。姉妹たちは無事で、部屋の真ん中で抱き合っている。

 部屋の隅からその様子を眺める彼は、心の中で感慨深げに呟くのだった。

 

(……みんな、強くなったな)

 

 

   ★

 

 

 その夜――リリアの部屋での夕食が終わると、ミクリアはダルヤの腕をそっと掴んで耳打ちした。

 

「私の部屋……来ない?」

 

 ダルヤは誘われるまま彼女の部屋を訪問した。寝る前も解読作業を進めているのだろう、ベッド脇には分厚い本が積まれている。

「ごめんね、散らかってて――」というミクリアに、ダルヤは後ろから抱きついた。

 

「ひゃ……!?」

「ミクリアは、よくがんばってるよ」

「……」

「大丈夫だ。きっと、うまくいくさ」

「……うん」

 

 フィオネはダルヤのほうを向いて、その厚い胸板に顔を埋めた。

 ひとしきりそうした後、「……ね」と顔をあげる。その頬には桃色の火照りが萌しており、彼女の可愛らしい顔をさらに特別なものにしていた。

 

「私……ダルヤのことも、『大切な家族』と思ってる」

 

 ダルヤは虚を突かれる思いだった。

 故郷も家族も捨ててきたダルヤ。新しく居場所になりつつあった場所も去らねばならなかった。ミクリアのその言葉は、自分たちがダルヤの居場所になる――その魂を癒す場所になると、言ってくれているようなものだった。

 

「……ありがとう」

 

 ミクリアが瞼を下ろす。ダルヤは誘い込まれるように、彼女の唇に口づけを落とす。

 愛情に火照った二人の体は、次なる行為を求めていた。

 

 ダルヤとミクリアは、抱き合ったままベッドにもつれ込む。柔らかなマットレスに身を埋め、重なり合う。

 程なくして二人は、夜の静寂(しじま)に親密な調べを奏で始めた――

 

 


 

≪登場怪獣≫

 

■円盤生物 サタンモア

全長:60メートル

体重:15,000トン

 

『ウルトラマンレオ』第48話「大怪鳥円盤 日本列島を襲う!」に登場。

 

悪魔の惑星ブラックスターで造られた円盤生物。

鳥のような姿をしており、高速飛行が可能。

武器は目から放つ怪光線と、口から放つミサイル。

さらに、鋭利な嘴を相手に突き刺す攻撃も得意とする。

 

最大の特徴は、体内から「リトルモア」を生み出す能力。

リトルモアの全長は30センチメートルほどしかないものの、生み出される数は膨大で、広範囲に大規模な被害を発生させることが可能。

 

 

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