ウルトラギャラクシー 四人の姫と怪獣使い   作:幽明卿

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17話 VS 破壊暴竜

 

 

 ダルヤとザミンは、隠れ家の索敵レーダーに引っ掛からないくらいに離れてから相対した。

 50mほどの高さを持つ二つの崖にそれぞれが立つ。その合間に横たわる谷は200mほどの幅で、底には大小様々な岩石が転がっている。荒野の延長線上らしく、草木はほとんどない。殺風景なその場所は、怪獣が暴れる決闘場としては上々だった。

 

 ザミンが腰のホルスターからバトルナイザーを取り出す。その一方で、ダルヤは気が進まなかった。

 はっきり言って、この戦いには何の意味もないのだ。教育係が与える最後の試練は『真のレイオニクスバトル』によって執り行われるが、ダルヤにその覚悟がない以上、姉弟が行うバトルは常に普通のバトルだ。姉たちの目的は果たされず、弟の言い分も届かない。ただ怪獣たちの命がいたずらに失われていくだけの空疎な戦いでしかない。

 

(……とはいえ)

 

 億劫そうにバトルナイザーを取り出し、彼はそれを見詰める。

 空疎ではあるが、戦闘経験という意味では有意義ではある。単純に、レイオニクスと怪獣のどちらもレベルアップが見込める。特に今、ギガロガイザには経験を積ませておきたかった。姉の言う通り、守るためには力が必要なのだ。

 

 乗せられているようで癪ではあったが、他に道はない。ダルヤもバトルナイザーを胸の前に構えた。

 空を薄く覆っていた雲が流れ、蒼白い月が顔を出す。谷底に光が差し込んだと同時に、二人は腕を掲げた。

 

「いけ! ギガロガイザ!

「大地に轟け! デスドラゴ!

 

≪バトルナイザー モンスロード!≫

 

 二機のバトルナイザーから放たれた金色と緋色の光が、それぞれのサイドで二足歩行型怪獣の形に変わる。

 ダルヤのそばに立つのは、体躯を群青色に染めるギガロガイザ。以前のような臆病さは微塵も見せず、威勢のいい咆哮を渓谷に響かせる。

 

「キシャアアッルルルルルッ!!!」

 

銀河皇獣 ギガロガイザ 
体長:61メートル 体重:48,000トン 

 

 一方、ザミンのそばで実体化したのは、岩山を思わせる灰色の体表を持つデスドラゴ。口の脇から飛び出した大牙、鼻先から突き出る角、そして頭部の左右に広げられたヘラジカのような角が特徴の怪獣だ。

 左右の角は刺々しいものが幾重にも重なっており、迫力は満点だ。気性が荒い彼はギガロガイザの咆哮を威嚇と解したのか、こちらも雄叫びを轟かせた。

 

「ギギャァァァオオゴォォオ!!」

 

破壊暴竜 デスドラゴ 
体長:66メートル 体重:60,000トン 

 

「行きなさい、デスドラゴ!」

「迎え撃て、ギガロガイザ!」

 

 二体の怪獣が衝突し、組み合う。ギガロガイザは即座に相手の左手首を握り、引き込んだ。デスドラゴは体勢を崩されないよう、足を踏ん張る。

 しかし、ギガロガイザが急遽逆に切り返す。右手首を握って引っ張り込み、同時に左手首を離して脇を差す。その状態で投げを打つと、力の向きが両者で一致し、デスドラゴの体が宙を舞う。地響きを立て、地面に倒された。

 

「キシャアアッルルルルッ!!」

 

 仰向けのデスドラゴをギガロガイザが踏みつける。

 体表が凹むほどの圧迫感にデスドラゴは呻くが、相手の足を掴んで踏みつけを止めた。自身が立ち上がる勢いを利用してギガロガイザの足を持ち上げ、そのまま転倒させる。

 

「ギャルルッギャオオオオ!!」

 

 荒々しく吠えながら、倒れたギガロガイザに飛びつく。両手の二本爪を振り下ろし、連続で引っ掻いていく。

 だが、ギガロガイザも黙ってやられているわけではない。デスドラゴの腕を掴んで止める。そして体を転がすことで、体勢を逆転させる。今度はギガロガイザがマウントポジションとなり、デスドラゴに爪斬撃を繰り出す。

 

「デスドラゴ! 追い払って!」

 

「ギャァァア、キィィィイイ!!」

 

 ザミンの呼びかけに応じ、デスドラゴは口から電撃ブレスを放った。至近距離ゆえ、ギガロガイザは躱せない。上体をのけぞらせ、たまらずデスドラゴの上から離れる。

 デスドラゴは身を起こすと同時に体を回転させ、尻尾でギガロガイザの足を払おうとした。ギガロガイザは体勢を崩しかけながらも、踏ん張って堪える。そこへ続けざまに、デスドラゴがタックルを見舞った。「ルルルルッ……!!」と呻きながら、ギガロガイザは後退りを余儀なくされる。

 

「デスドラゴ! 今よ!」

 

「ギギャァァオオゴォォオ!!」

 

 デスドラゴの左右に広がる角が蒼白いスパークを帯びた。放電攻撃が夜闇を裂き、方々に撒き散らされる。ギガロガイザに命中するものもあれば、崖や地面に命中するものもある。地上に転がっている岩石はその衝撃で飛ばされ、ギガロガイザの体を襲った。

 

 爆発が立て続けに起こり、煙が群青色の体躯を覆い隠していく。デスドラゴは唸りながらそれが晴れるのを待っていたが――

 

「上よ!」

 

 いち早く気付いたザミンが声をあげた。

 デスドラゴが顔を上げる。丸い月を背にして、ギガロガイザが上空に浮かんでいた。

 

「ギャァァア、キィィィイイ!!」

 

 デスドラゴはすぐさま電撃ブレスを吐く。だがそれは、ギガロガイザが身を躱したことで虚空へと消えた。

 群青色の体躯が優雅に踊る。その長い尻尾が、ウミヘビのように身をくねらす。

 ――かと思うと、その巨体が急降下する。デスドラゴが迎撃する間もなく、ギガロガイザの腕がその首を捉える。ラリアットが決まり、デスドラゴは地面に引き倒される。

 

「ギガロガイザ!」

 

「キシャアアッルルルルルッ!!」

 

 デスドラゴの角を掴んで身を引き起こす。そして拳を握りしめ、正拳突きを叩き込む。デスドラゴの左の角が弾け飛んだ。

 

「ピギィィィィ……!」

 

 痛みに悶えるデスドラゴの首をギガロガイザが掴む。岩壁に押し付け、岩肌を削り取るように灰色の巨体を引きずる。悲鳴をあげるデスドラゴの横面を殴りつける。タックルして突き飛ばすと、デスドラゴは地面に倒れたまま動かなくなった。

 

 もはや勝負はついた。ダルヤはバトルナイザーを掲げ、ギガロガイザを戻した。

 

「……私の負けよ」

「ああ」

「アスマとの戦いを見たときも思ったけれど、強くなったわね」

 

 ダルヤは複雑そうな溜め息をついた。

 何かを守るために力をつけることはいいことだ。だが、それがレイオニクスとしての成長というのなら、素直に喜んでいいのか分からないところではある。

 

 そんな甘っちょろい考えの弟に釘を刺すように、ザミンは「でも」と続けた。

 

「あのフューネラルというレイオニクスには、まだ敵わない」

「……」

「ギガロガイザは強いわ。あなたも強くなってる。でも、あのレイオニクスが駆るグランドキングメガロスの体を貫けるほどじゃない。そして、あのレイオニクスにはまだ奥の手があるみたいだったわ」

「わかってる」

 

 ザミンは絶命したデスドラゴを一瞥してから、「それじゃあ」と言った。

 

「おやすみなさい」

「……おやすみ」

 

 靄がかかるようにしてザミンの姿は消え、その場にはダルヤがひとり残された。

 姉の言葉を反芻しながら帰路につく。荒野は時折吹く風しか音を立てず、ひっそりとしている。雲はいつの間にか晴れており、月の光は眩しいくらいだった。

 立ち止まり、その光を胸に沁み込ませる。彼の足元からは影が伸びている。その影を引きながら、歩みを再開する。黙々と歩いていると、頭の中は物思いで満ちていく。

 

(……)

 

 それは感傷的な思いだった。

 段々と、自分の護衛という役割に終わりが近づいているという事実。サタンモアの襲撃を別にすれば、最近身の回りで発生している戦いは自分の都合であり、四姉妹をそれに巻き込んでしまっている。役目を果たしたのなら、自分は彼女たちのもとから去らなければならないだろう。

 

 ミクリアは自分のことを家族と言ってくれた。ダルヤはそれを聞いて掛け値なしに嬉しかったし、彼だって仲間以上の感情を彼女たちに抱いていた。名残惜しくないと言ったら嘘になる。それほどまでに諦めのいい男であれば、彼は未だに惑星ファイローの恋人のことを引きずっていないだろう。

 

 そんなことを考えながら歩を進め、隠れ家に近づいてきたところだった。

 荒野の上に、人影が見えた。ネグリジェドレスに身を包み、純白のロングヘアーを夜風に靡かせている。

 彼女はダルヤに気付いていた。その瑠璃色の瞳が、穏やかに彼を見詰めていた。

 

 ダルヤは少しの驚きと共に、その名を口にした。

 

「リリア……」

 

 

 

 ダルヤとリリアは、隠れ家までの道のりを並んで歩いた。

 

「お姉様からのお呼び出し?」

「ああ。追い払ったから安心してくれ」

 

 すると、リリアは悪戯っぽい笑みをこぼした。誰の耳もないにもかかわらず、こそりと内緒話をするように言う。

 

「見てましたわ。お姉様とお楽しみのところを」

「……」

 

 ダルヤは気まずそうな息を吐いた。「分かっています」と、慰めるようにリリアは続けた。

 

「ダルヤにとってもお姉様にとっても……お互い、大切な姉弟なのでしょう」

「……ありがとう」

「以前、お聞きしました。三人が戦っているわけを」

 

 リリアは足を止める。それに気付き、ダルヤも三歩ほど先で止まった。

 透き通るような月光の下、二人は向かい合う。

 

「そのときに、あの方から賜った言葉があります。あなたは姉としての責任を果たさなかった、だから故国の滅亡を招いてしまった……と」

「リリア、それは――」

 

 リリアはかぶりを振り、彼の言葉を止めた。

 

「それは変わらない事実です。もちろん、以前貴方が仰ってくださったことも正しいと思います。本当に責任を果たしていなかったのは父のほうだと」

 

 それも正しい。だが、リリアが「父を止める」という責任を果たしていなかった事実も変わらない。そして王の暴政によって夥しい数の犠牲者が出ていた以上、彼女は何としてでも己の役割を全うしなければならなかった。

 以前の問答で、リリアはそう結論づけた。その考え自体は今も変わっていない。ただ――

 

「ですが……」と、今のリリアは続けた。

 

「サタンモアが隠れ家を襲った日、貴方はミクリアにこう仰っていましたね。『過去を悔やむことはあっても、それは自分を縛るためではなく、前へ進むためにするべきだ』と。

 私も、そう思います。私が過去を回顧するのは、あのとき果たせなかった『姉の責任』を、次こそは果たすためです。そして、『姉の責任』とは――」

 

 リリアは真っ直ぐにダルヤを見詰めて、言った。

 

「妹たちを、幸せにすることです」

 

 そして彼女は、毅然として続けた。

 

「もし、私がダルヤのお姉様なら――弟を悲しませることは絶対にいたしません。どんな障害が立ち塞がろうと、皆で幸せになれる道を探します」

「……」

 

 そう強く言ったあと、リリアは「もちろん――」と、語気を和らげて続けた。

 

「あの方が間違っているとは申しません。あの方もあの方なりに、責任を果たそうとお考えなのでしょうから。

 結局のところ、人それぞれに正解はあります。責任というものは、自分の為す言動に、自分なりの正しさを抱くことで果たされるものなのでしょう」

 

 その言葉を聞きながら、ダルヤは古い恋人のことを思い出していた。

 惑星ファイローで出会ったルキナ。ダルヤは彼女の、独立した強い精神性に惹かれた。そして今、目の前のリリアに感じているのも、同じ感情だった。

 

 リリアは一度目を閉じ、そしてゆっくりと開いた。

 

「この旅に出る前、私はフィオネとディオーネから憎まれているのではないかと思っていました」

 

 ダルヤは目を瞬かせる。その二人からそんな負の感情はひとかけらも感じられなかったし、リリアがそんな不安を抱えていたのも意外だった。

 

「確かに私たちは仲のいい四姉妹ではありましたが……やはり、母親が違います。しかも、私の母のせいで、あの子たちは窮屈な思いをさせられていました。見えない底の底に、そのわだかまりが眠っているのではないかと……そう考えていました。

 ですが、この旅で苦楽を共にしていくにつれ、そんな懸念も去りました。――それは貴方のおかげなんですよ。ダルヤ」

「リリア……」

 

 二人の視線が交錯する。リリアの瞳に吸い込まれるように、ダルヤは一歩、二歩と歩み寄る。

 しかし、そこでリリアが背を向けた。まるで拒むような仕草を意外に思ったが、彼女はまだ語ることを残しているようだった。

 

 リリアは背を向けたまま「ねえ、ダルヤ」と言う。その声はひどく不安定で、先程まで込められていた意志の強さがほどけてしまったかのようだった。

 

「私は……そう長くは生きられません」

「……」

 

 ――それは、薄々感づいていたことだった。

 ゾゾギガ星人の実験によって、リリアは生命力を吸い取られた。ダルヤたちが救出したとき、実験は50%以上進行していた。単純に考えれば、リリアの生命力の半分以上が奪われたということだ。

 彼女の寿命は著しく減っている。正確な余命は分からないにしろ、その事実は厳然として立ち塞がっていた。

 

「もちろん、今日明日、突然死ぬというわけではないでしょう。でも確実に、妹たちよりは短命です。私は残されたこの命を、あの子たちのために使いたい……」

「……リリア」

 

 その細く、今にも消えてしまいそうな体を、ダルヤは腕に包み込んだ。

 夜風で冷えたのだろう、その体は冷たかった。自分の熱を伝えるように、ダルヤは腕の力を強める。ガラスのように繊細な体を、抱き締め、愛おしむ。

 

「……ダルヤ」

 

 リリアは、ダルヤの手に自分の手を重ねた。

 骨ばった太い指と、白魚のようなたおやかな指が触れ合う。

 

「私のことも……愛してくださいますか」

 

 ダルヤは抱く力加減で、それに答えた。

 

 

 

 寝室で事を終えたのち、二人は素肌を寄り添わせながら瞼を下ろした。火照った体は心地よく脱力し、心の中は満ち足りていた。愛する人が隣にいるという安心感から、意識はすぐに暗闇へと滑り落ちていった。

 意識が完全に途切れる、その寸前のところで、ダルヤはリリアの声を聞いたような気がした。

 

「もし、私がいなくなったら……」

 

「妹たちを、お願いしますね――」

 

 

   ★

 

 

 惑星ヘイスティ、高度200km――

 星の衛星軌道上に、直径500mの超大型円盤が浮かんでいる。フューネラルの宇宙船兼移動拠点「コルテージ」である。

 

 その研究用ブロックの中心には、女船長が今最も熱心に取り組んでいる実験が行われている部屋があった。

 部屋には高さ70mほどのカプセルが十二個、円形に配置されている。カプセルには培養液が満たされており、その中にはそれぞれ異なる種の怪獣が眠っていた。

 

 ――その中には、ダルヤから奪ったリザリアスグローラーの姿もあった。

 

 十二のカプセルからはケーブルが伸びており、円の中央に置かれたひとつのカプセルに接続されている。他のものとは違い、そのカプセルには怪獣の姿はなかった。緑色の培養液がなみなみと注がれ、満ちているだけだ。

 

『全プロセス、完了しました。いつでも開始可能です』

 

 合成音声が部屋に響くと、隣接したコントロールルームにいたフューネラルは「おっけ」と答えた。

 

 手元の端末を操作する。すると、実験部屋のカプセルたちが妖しい光を纏い始めた。

 部屋全体が震動し、鳴動する。フューネラルは窓からその様子を見下ろし、不敵な笑みを浮かべた。

 

 


 

≪登場怪獣≫

 

■破壊暴竜 デスドラゴ

体長:66メートル

体重:60,000トン

 

『ウルトラマントリガー』第5話「アキトの約束」に登場。

 

岩肌のような灰色の体躯を持つ地球怪獣。

「暴竜」の名に相応しく、気性が荒い。

武器は、頭部の左右に生えた角からの強力な放電攻撃や、口から放つ電撃光線。

 

 

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