「よいしょっと。缶詰はこれが最後だな」
「ありがとうございます。次は医薬品の箱ですので、慎重にお願いしますね」
「おう。わかった」
ダルヤが担いできた荷物の箱を台車に乗せ、フィオネとディオーネが手分けして運んでいく。チェックリストの確認をしたリリアは、その背中を見送る。ふたりの行く先には巨大な宇宙船が鎮座し、照明の光に照らされている。ゾゾギガ星人が遺した「ゾルガウス」だ。
ダルヤと四姉妹は数日前から、隠れ家の荷物をこの宇宙船に移していた。その理由はもちろん、ゾルガウスの起動方法が解明されたからだ。ミクリアが苦心の末、やり遂げたのだった。
今、五人がいるのはゾゾギガ星人の工房の最下層に位置する格納庫だ。ゾゾギガ星人は死の間際に工房を爆破したが、格納庫と発進路の設備は無事だった。彼本人の脱出手段なので、ここだけは守りが厚くなっていたのだろう。
隠れ家からの荷物の搬送には、姉妹たちの壊れた宇宙船を使うことにした。まず隠れ家の荷物を旧宇宙船に乗せ、工房までアリゲラに運んでもらう。そして工房の地下から地上を貫く穴を使って、ダルヤが荷物を下ろす。それを姉妹が地下で受け取り、ゾルガウスに運ぶという流れだ。
フィオネとディオーネが台車を押して歩いていると、船内の通路でミクリアと鉢合わせした。
「ミクリア姉さん、翻訳ソフトのインストールは上手くいきましたの?」
「うん。コンピューターも異常なし。音声認識も完璧よ」
「流石、ミクリアお姉様ですわ」とディオーネは上機嫌である。「えへへ、それほどでも~」とミクリアも笑う。二人に釣られて、フィオネの顔にも笑顔が咲いていた。
「これからは私も運ぶのを手伝うわ。リリアは外?」
「ええ。リストのチェックをしてもらっていますわ」
「オッケー。じゃあ、引き続きお願いね」
ミクリアは船外に出て、リリアと顔を合わせた。彼女の傍らには荷物の箱が並べられており、その中身のチェックをしている最中だった。ダルヤはちょうど地上に上がったタイミングのようだ。
妹たちにしたのと同じ報告をする。それから、「そういえば――」と思い出して言った。
「わざわざ音声認識を入れる必要はあったの? 操作なら私ができるけど……」
リリアは苦笑して答えた。
「それだと、貴方が風邪をひいても駆り出されるわよ。私たちも、貴方ひとりに全部を負わせたくないの。そういうことよ」
「そっか」とミクリアは笑った。「じゃあ、そのときはよろしくね。――この箱、中身のチェックは終わった? オッケー。じゃ、中に運ぶわね」
ようやく未来への希望が見えたきたことで、みな生き生きとしている。鼻歌でも歌いだしそうなほど上機嫌な妹の背中を見送って、リリアはひとり複雑そうな表情を浮かべた。
その翌日――朝から作業をおこなってきた甲斐あって、荷物の運搬は完了した。
ゾゾギガ星人が放った怪獣が跋扈する惑星ヘイスティ。また、母星の革命軍には居場所が割れているため、いつ追手が来てもおかしくない。この星そのものに罪はないが、一刻も早く去るべき場所になっていた。次の行き先は避難してから決めても遅くはない。姉妹たちはすぐさま宇宙船に乗り込み、ブリッジで発進の準備に取り掛かった。
「シールド残量、100%。武装のエネルギーチャージも完了。発進シークエンスの動作確認も完了。――よし! いつでも行けるわ!」
操縦席でコントロールパネルのディスプレイを確認してから、ミクリアが声をあげた。いよいよ発進だ。リリアの「行きましょう!」という声に、ブリッジ内の席に着いた全員が頷く。
エンジンが起動する。目を覚ました船が唸りをあげ、クルーの心臓を高鳴らせる。格納庫から発進路へのゲートが開かれ、誘導灯が明滅する。ミクリアは息を吸い込み、そして吐いた。正面モニターを見詰め、スラストレバーを握りしめた。
「ゾルガウス、発し――」
しかし、そのときだった。
ブリッジの警報ランプがアラートと共に赤い光を放ちはじめたのだ。
皆の間に緊張が走る。ミクリアはすぐさま、ゾルガウスのAIに問いかける。
「どうしたの!?」
『高度1000mに飛行物体確認。直径500mの円盤です』
「! それって――」
ダルヤは顔を上げる。目に映るのは機体の天井だけだが、遥か遠くにレイブラッドの因子が感じられた。その強力な威圧感は、忘れもしない、フューネラルのものだった。
『通信が入りました』
「通信……!?」
AIは『繋ぎますか?』と続けようとしたが、その声はノイズが入って聞こえなくなった。その代わりに、強制的に繋げられた通信で向こうの声が響く。同時に、正面モニターの映像が切り替わり、相手の顔が映し出された。
『おひさ~♡ フューちゃんだよ。お邪魔しちゃったかな?』
通信を受けているのはミクリアだ。彼女は顔を強張らせながら、気持ちを落ち着けて返答した。
「こちら、ミクリア・カイルライト。ご用件は?」
『あははっ、わかってるでしょ? フューちゃんの新しいおもちゃが完成したから、お兄さんと遊びたくって連絡しちゃった。おにーさーん、いるでしょー? 返事してよ~♡』
ミクリアはダルヤに視線を送る。ダルヤが頷いたのを見て、彼の席のスピーカーをオンにした。
「これまたすごいタイミングに現れたもんだな」
『お兄さんたち、脱出する寸前だったんだね? 前に約束したこと忘れちゃった?』
身に覚えがないと言いたかったが、傍若無人なフューネラルに何を言っても無駄だろう。「そいつは失礼した」とダルヤは答える。
「場所と日時が指定されてなかったんでな」
『フューちゃんがしたい場所で、したいときに、だよ。お兄さんはそれに付き合わなきゃ。だって、拒否権なんてないんだから』
「そのようだな。――だけどひとつ、頼みがあるんだが」
『頼み?』とフューネラルは意外そうな声を出す。
「勝負は受ける。だが、ここにいるみんなは俺たちの戦いには無関係だ。見逃してやってくれないか」
『う~ん……』と彼女は半笑いで考え込んだ。
『でもフューちゃん、ギャラリーがいないと燃えないんだよね~』
「私たちも、先に逃げ出すことはしないわ」
そう発言したのはミクリアだ。
「でも、観戦するなら宇宙船からが一番見晴らしがいいでしょう? とりあえず、この格納庫から外に出る許可はくれないかしら?」
『……ふうん』
フューネラルは何か訝しんでいる様子だったが、
『まあいいよ、それくらいは。フューちゃんは優しいからね』
その答えを聞いて、ダルヤは立ち上がった。
皆の顔を見渡す。それぞれ緊張を湛えていたが、それ以上に、彼の勝利を願い、信じている。その気持ちが伝わってきた。
「行ってらっしゃい」
「絶対勝ってね」
「ご帰還を待ってますわ」
「ダルヤ様。ご武運を……!」
姉妹たちの声援を受け、ダルヤは地上に上がった。
頭上には円盤が浮かび、直径500メートルの底面を見せている。ダルヤは移動し、その下に位置取った。
彼の背後では地面が割れて、格納庫から続く発進路が外に飛び出している。そこからゾルガウスが飛び出してくると同時に、ダルヤはバトルナイザーを掲げた。
「いけ! アリゲラ!」
≪バトルナイザー モンスロード!≫
「キュァアッ!」
| 宇宙有翼怪獣 アリゲラ | |
|---|---|
| 体長:55メートル | 体重:11,000トン |
呼び出されたアリゲラは、ゾルガウスを守るように寄り添って飛ぶ。
飛行用バックパックを背負って自身の宇宙船「コルテージ」から降りてきたフューネラルは、それを見て「傷つくなあ」と抗議するように言った。
「別に約束を破ったりなんかしないよ。フューちゃん、そんな酷い子に見えるかなあ?」
「念のためだ」
「そう。それじゃあ――」
フューネラルは勢いよくネオバトルナイザーを突き出し、声をあげた。
「いけ! グランドキングメガロス!」
≪バトルナイザー モンスロード!≫
宙を舞った萌黄色の光が弾け、装甲を纏った巨獣が出現する。
その降着は地面を揺らし、大気までも震撼させる。80mにも迫ろうかという巨体から醸し出される威圧感は、対峙するダルヤの脳裏に臨死の恐怖を否が応でも思い起こさせた。
| 超弩級怪獣 グランドキングメガロス | |
|---|---|
| 体長:78メートル | 体重:217,000トン |
「グオオオオオン――」
「さあ、出しなよ。まさかアリゲラで戦うってわけじゃないんでしょ?」
フューネラルは指をクイと動かして挑発する。
ダルヤの耳に通信が入る。ミクリアからだ。
『こちらゾルガウス。戦闘地域から1000m地点に到着。アリゲラも近くにいる。大丈夫よ』
「わかった」
ダルヤは通信を切り、深呼吸すると、バトルナイザーの三番目の画面を見詰めた。そこに映る怪獣の、群青色の体躯。蒼白い双眸。彼は「頼むぞ」と呟き、マシンを掲げあげた。
「いけ! ギガロガイザ!」
≪バトルナイザー モンスロード!≫
金色の光が飛翔し、ダルヤの前で怪獣の姿を形作る。
大地に降り立ったギガロガイザは、対峙する敵に怯むことなく威嚇の声をあげた。
「キシャアアッルルルルルッ!!!」
| 銀河皇獣 ギガロガイザ | |
|---|---|
| 体長:61メートル | 体重:48,000トン |
「それがお兄さんの切り札かあ。へえ〜……強そうじゃん」
そうは言うものの、その声音に恐れはない。
風が砂をさらい、荒野を吹き抜ける。
敵を睨むギガロガイザ。静かに受け流すグランドキング
静謐で張り詰めた戦場の中――
開戦の号砲となったのは、ダルヤの掛け声だった。
「いくぞ、ギガロガイザ!」
それに応じて、ギガロガイザが咆哮する。
大地を蹴り、グランドキングMに向けて突進する。
「グラちゃん! 受け止めて!」
「グオオオオン――」
重々しい鳴き声を出しながら、グランドキングMが両腕をクロスさせる。その腕は巨大な鋏と鉤爪だ。構えられたそれに向かって、ギガロガイザが体当たりをぶつける。
――ごうん、という音が震動となって地面と空気に伝わる。衝撃波が吹き荒れ、砂礫が弾丸のような速さで飛ばされていく。
「二体のパワーは……」
「――互角ですわ!」
ゾルガウスからその様子を見ていた姉妹たちが声をあげる。
ギガロガイザもグランドキングMも、どちらも少し後退しただけで、弾き飛ばされたりはしない。ギガロガイザはすぐさまグランドキングMの両腕を取り、押し込もうとする。しかし、その巨体は動かない。あちらもギガロガイザを押し返そうとしているのだ。両者の力が拮抗し、どちらも譲らない。まさしく互角の戦いだ。
「キシャアアッルルルルルッ!!」
「グオオオオン――」
「いいね! でも、これならどう!?」
フューネラルは喜悦の笑みを浮かべながら、右手で銃のポーズを取る。
グランドキングMの腹部に並ぶ五つの発光体。それぞれが赤色レーザー発射の構えに入る。
「ギガロガイザ!」
ダルヤの声が飛ぶ。ギガロガイザはグランドキングMの左腕を支えにしながら跳び、右手の鋏を蹴りつける。鉤爪に両手を乗せた状態で倒立したような体勢になったのと、赤色レーザーが発射されたのが同時だった。前方にすでにギガロガイザはいない。レーザーはすべて標的を失い、虚空へ消えていく。
「ギギャアアッルルルルッ!!」
ギガロガイザはそのまま、両脚をグランドキングMの首に絡ませる。そして、自身の胴体を捩じることで相手の体を引き倒す、ヘッドシザーズ・ホイップを放とうとする。
だがそれも、超重量級のグランドキングMの前では無意味だった。旋回の勢いを加えても相手は動じない。もちろん、ギガロガイザのパワー自体は伝わっているのだが、互角の膂力と21万tを超える重量で制されてしまうのだ。
「ギャオオオオン――」
グランドキングMが無機質な声を出す。その三本角が帯電し、自身に絡みつくギガロガイザに電撃攻撃を浴びせる。たまらず、ギガロガイザは地面に落下する。グランドキングMはその体を蹴り飛ばそうとするが、ギガロガイザは一瞬早く転がり、それを回避する。
60m級の巨体を持ちながらも素早い身のこなしを見せるギガロガイザに、フューネラルはにやりとした笑みを浮かべた。
「なるほどね。パワーは互角。スピードは圧倒的に上。――でも、その言葉はグラちゃんにも当てはまるよ。この
額の発射口から細かい緑色レーザーが連射される。粒のような見た目だが、一発一発が地表にクレーターを作る威力だ。ダルヤはすかさず、ギガロガイザを空中に退避させる。
「撃て! ギガロガイザ!」
「ギギャァアアッルルルルルッ!!」
ギガロガイザの口にエネルギーが漲り、全身から紅い光が迸る。発射された光線が、螺旋を描きながらグランドキングMに向かって突き進む。
「グオオオオオン――」
しかしそのとき、グランドキングMの背中の突起からエネルギーが分離し、四機の飛行ユニットとなった。
それらが体の前で十字のフォーメーションを組む。するとエネルギーシールドが形成され、ギガロガイザの光線を防ぎ切った。
「隙あり!」
飛行ユニットがギガロガイザに向き、それぞれが紫色のレーザーをギガロガイザに浴びせる。ギガロガイザは咄嗟に防御姿勢をとり、腕や足の甲殻でそれを防いだが、あくまでも生身だ。グランドキングMのように完全にシャットアウトできるわけではなく、ダメージそのものは発生する。
「くっ……!」
そのダメージは、『真のレイオニクスバトル』の効力によってダルヤにも伝わっていた。
(……サンキュな。ギガロガイザ)
防御姿勢をとったのはダルヤの指示ではない。ギガロガイザが自己判断でおこなったのだ。もし直撃していれば、彼のダメージは怪獣以上に大きかっただろう。
ダルヤは心の中で感謝したのち、次の指示を思念に込めた。
「キシャアアッルルルルッ!!」
ギガロガイザは空中に浮いたまま、グランドキングMの周囲を飛び回る。泳ぐように飛ぶ彼の後を飛行ユニットたちが追い始める。背後から放たれる紫色のレーザー、そして本体から放たれる電撃攻撃を、ギガロガイザは身軽に躱していく。
そしてギガロガイザは直角に飛び上がると、上空から放電攻撃を降らせた。飛行ユニットはエネルギー体であるため、耐久力は高くない。その攻撃を受けて破壊される。
だが、相変わらずグランドキングMには通じない。落雷が当たったようなのに、うるさそうにするだけだ。逆に角からの電流攻撃を放ち、ギガロガイザに回避を強いる。
「グオオオオオン――」
「ルルルルルッ……」
戦況は膠着状態だった。ギガロガイザの攻撃はグランドキングMに通じない。一方、グランドキングMの攻撃も身軽なギガロガイザに躱されてしまう。攻撃を当てやすくするためグランドキングMは接近を試みるが、ギガロガイザは敵の攻撃に即応できる距離を保っている。
(……まあ、いいけどね)
フューネラルは、この状況でも不安はない。何故なら、グランドキングMには圧倒的な防御力があるからだ。あちらの攻撃はこちらには通じない。しかし逆は違う。ギガロガイザはグランドキングMの攻撃を受ければダメージを負う。つまり、回避という神経が磨り減る行為を延々と続けなければならないのだ。
(グラちゃんのエネルギーは無尽蔵。消耗していくのはそっちのほうだよ。お兄さん)
彼女の眼差しの先には、目元を険しくするダルヤがいる。彼はその表情を崩さないまま、逃げ続けるギガロガイザを見詰めている。今はまだ、焦りや苛立ちは見られない。だけどじきにそうなる――フューネラルはにやつきながら、彼の顔を眺める。
(……もう少し)
一方、ダルヤのほうは――
その表情の下で、何かを考えていた。ギガロガイザを見詰めながら、ときおりグランドキングMにも目をやる。その視線は足元に向けられており、怪獣の位置を気にしているようだった。
(よし――!)
彼の表情が変わる。同時に、耳に装着されたインカムから通信が入った。
『こちらゾルガウス。グランドキングMが位置に来たわ!』
ダルヤは小さく頷き、声を張り上げた。
「今だ!」
「えっ――?」
突然彼の様子が変わったことで、フューネラルが息を呑む。
しかし、困惑は一瞬だった。――何故なら、その理由がすぐに判明したからだ。
それはダルヤと同様、通信によって知らされることとなった。彼女の傍らに浮かぶ、小型円盤ドローンからの報告だ。
『敵襲です!』
「え? なに?」
『コルテージに怪獣が接近中! ――アリゲラです!』
「アリゲラ!?」
フューネラルが顔を上げる。四姉妹の護衛についていたはずのアリゲラが、上空1000mの宇宙船に向けて突撃しているのが見えた。
「バカでしょ!? 防げないとでも思ってる!?」
無論、宇宙船の周りにはエネルギーシールドが張り巡らされている。アリゲラ程度であれば、武装を使わずともそれだけで撥ね返せるはずだ。
しかし、アリゲラがけたたましく鳴くと――そのシールドが消滅した。アリゲラのパルス孔から発される強力な電磁パルスが、宇宙船の電子機器の動作を止めたのだ。
EMP攻撃への対処も宇宙船は自動で行う。すぐさま復旧し、シールドを再展開する。
だが、超高速機動ができるアリゲラにとって、その隙はあまりにも大きかった。赤い体躯が懐に潜り込み――突進の勢いのまま、外壁を打ち砕いた。
「なっ……!」
『外壁突破されました! 動力部に接近中! ――リアクター、損傷!』
「は!? なっ、どういうことよ!」
フューネラルはダルヤに怒りの眼差しを向けるが、もちろん返答はない。
しかも、問い詰めるよりも先に次の報告が入る。
『コルテージ、浮上できません! 墜落します! 地表激突まで、残り15秒!』
「は……? は!?」
再び顔を上げる。船体のところどころに爆発が起き、外壁を破って火が噴き出ている。その状態のまま落下してきている。直径500mもの超巨大宇宙船が。
「グ、グラちゃん! ひとまず――」
混乱する頭を鎮めさせ、ネオバトルナイザーを差し出すフューネラル。しかしそこで、彼女は気付いた。ダルヤの真の目的に。
「お兄さん……ッ!!」
墜落まで15秒しかない。グランドキングMは高い防御力を持つが、そのぶん鈍重だ。わずか15秒の間に離脱できる俊敏さは持ち合わせていない。
そこで当然の選択となるのが、怪獣をネオバトルナイザーに戻すことだ。――しかしそうしてしまうと、フューネラルは完全に無防備となる。その選択をとった瞬間、ギガロガイザの螺旋光線が彼女を襲うだろう。そして、アリゲラとギガロガイザという機動力を持つダルヤは、すぐさま墜落地点から離脱できるのだ。
コルテージの総重量は、100万tを優に超える。超重量級であるグランドキングMの五倍以上もあるのだ。しかも、船内には数多の化学薬品や爆発物が存在している。墜落の衝撃で火の手が広がった途端、その爆発の連鎖は凄まじいものとなるのは想像に難くない。それは、グランドキングMの装甲ですら耐えられない。
ダルヤの狙いはこれだったのだ。宇宙船を撃墜することで、グランドキングMかフューネラルのどちらかを確実に始末すること。先程、ギガロガイザの動きでグランドキングMを誘導していたのは、落下時間15秒の間に逃げ出すことのできない位置に誘い込むためだったのだ。
(時間がない――!)
フューネラルは頭を回転させる。だが、致命的に時間が足りていない。自分の脱出時間も織り込まなくてはならないのだ。もう迷っている猶予は一秒たりともなかった。
「――グラちゃん!」
「グオオオオオン――!!」
グランドキングMの背中の突起から飛行ユニットが形成される。それらが十字のフォーメーションを形成し、フューネラルの近くに寄る。展開されたバリアに守られながら、彼女は飛行用バックパックで離脱する。
それを見てから、ダルヤはギガロガイザに連れられて脱出した。
決闘場だった場所にはグランドキングMだけが残される。その体よりも遥かに巨大な化け物が、唸り声のごとき轟音をあげながら迫っていた。
安全域ギリギリまで来て、フューネラルはネオバトルナイザーを突き出した。「グラちゃん、戻っ――」しかしその言葉が言い切られるより先に、彼女の脳天に凄まじい衝撃が走った。
今もまだ『真のレイオニクスバトル』の途中なのだ。宇宙船に潰されるグランドキングMの痛みが、主人である彼女にも伝わったのだった。
「ぐぅっ――!!」
次の瞬間、辺り一面が閃光に包まれた。
鼓膜をつんざく爆音と共に、衝撃波が放射状に広がっていく。
地表のあらゆるものを削り取り、大気中の塵ひとつまで暴風で吹き飛ばしていく。
安全域に退避していたはずのダルヤやゾルガウスでさえも、その余波を受ける。生身で浮いていたフューネラルはいわんやである。
爆心地には宇宙船の残骸が転がり、あらゆる場所で火の手が上がっていた。空を舐めるように噴き上がる炎が地獄絵図を作り出している。その只中には、黒焦げになった怪獣の姿があった。なおも二足で大地を踏みしめ、堂々と佇んでいる。しかし――
突如、その体がぼろぼろと崩れ落ちる。転がり落ち、周囲の残骸と一体となり――グランドキングメガロスは塵と化して滅び去った。
「……」
ダルヤは炎の中に立っていた。決着がついたのであれば戻ってくる必要はない。逆に言えば、戦いはまだ終わっていないのだった。
彼は感じていた。レイブラッドの因子を。この炎の中に。
「……はあ」
対峙するように、フューネラルが立っていた。ドレスはところどころが破れ、白い肌も傷が目立ったが、自分の足で歩けるくらいの軽傷だ。グランドキングMが潰される瞬間、彼とのリンクを切ったことで生き残ったのだろう。そしてグランドキングMは、最後の最後までシールドを張り続けたのだろう。自分の主人を守るために。
「お兄さんさあ。マジで最低だよ。ひとりの男としても、レイオニクスとしても」
口調こそ普段の減らず口だったが、彼女の醸す雰囲気は刺々しかった。最愛の相棒を失ったのだから当然だろう。
ダルヤはその殺気を感じつつ、怯むことなく答えた。
「なんとでも言ってくれ。オレは男として、あいつらを守る。そして――レイオニクスとして、
フューネラルの表情が大きく歪んだ。が、もう一度大きく溜め息を吐き落とした。落ち着こうとしたのだろうか。
「どうしても、『フューちゃん』って呼んでくれないんだね」
彼女の体がわななき始める。やはり、溜め息ひとつ程度では腹の虫は収まらないのだろう。
「やっぱ無理」と心中を吐露し、フューネラルはネオバトルナイザーを握りしめた。
「殺す」
刃物のように殺意が研ぎ澄まされる。彼女の漆黒の瞳が、憎悪の炎で燃える。
業火が激しくうねる只中で――フューネラルはネオバトルナイザーを掲げあげた。
「いけ――」
そして高らかに、その名を響かせた。
「――――イズマエル!!」
ネオバトルナイザーの二本角から光が放たれる。
炎の中でひとつの形を作り、その存在を顕現させる。
銀灰色の体躯を持ち、様々な怪獣のパーツを合成させた異形の怪獣。
まるで自身の誕生を祝うかのように、それは天に向かって咆哮を轟かせる。
「――ギャァァアアアアアッッ!!!」
| フィンディッシュタイプビースト イズマエル | |
|---|---|
| 体長:60メートル | 体重:60,000トン |
≪登場怪獣≫
■超弩級怪獣 グランドキングメガロス
体長:78メートル
体重:217,000トン
『ウルトラマンR/B』第20話「星屑の記憶」に登場。
レイオニクスとして目覚めたばかりのフューネラルが、手当たり次第に捕獲した怪獣たちの魂を「土」のエレメントを素体として合成したことで生まれた怪獣。
以来、彼女の最も信頼する相棒怪獣として戦ってきた。
機械めいた外見をしているが、感情自体は存在し、主人に対する忠誠も高かった模様。
(※本作独自の設定)