ウルトラギャラクシー 四人の姫と怪獣使い   作:幽明卿

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19話 VS フィンディッシュタイプビースト

 

 

「いけ――イズマエル!!

 

≪バトルナイザー モンスロード!≫

 

 フューネラルが掲げたネオバトルナイザーが、萌黄色の光を射出する。その塊は爆炎揺らめく戦場で閃光を放ち、彼女の切り札たる怪獣を顕現させる。

 

 銀灰色の体躯を持つ、二足歩行怪獣。その背中からは二本の捻じれた棘が伸び、肩、腕、胸、腹、脚、尾に至るまで、様々な怪獣の顔やパーツが確認できる。

 しかも、その全てがスペースビ―ストなのだった。フューネラルが宇宙各地から集めてきた十一体のスペースビ―スト。その祖となる「ザ・ワン」を素体として、すべての種を合成させたことで生まれたのが――この怪獣、イズマエルだった。

 

 初めて踏みしめる大地に歓喜しているのか――イズマエルは炎の中、天に向かって咆哮を轟かせた。

 

「ギャァァアアアアアッッ!!!」

 

フィンディッシュタイプビースト イズマエル  
体長:60メートル  体重:60,000トン  

 

「あれは……!」

 

 ダルヤは目を見開く。

 イズマエルの左肩。首の付け根のほうに、見覚えのある顔が見えたのだ。

 

 藍鼠色の体表と、六つの紅い瞳。それは紛れもなく、彼が所持していたリザリアスグローラーのものだった。

 

「そう。お兄さんからもらったリザリアスは、イズマエルのパーツにさせてもらったよ。――どんな気持ち? でもわたしは最愛の怪獣を殺されてるんだから、なにも文句はないよねえ?!」

 

 フューネラルがネオバトルナイザーを掲げる。それに伴って、イズマエルが始動する。

 炎を意に介さず、まるで雑草を踏み分けるかのように、その禍々しい巨体を進攻させる。

 

「いくぞ、ギガロガイザ!」

 

 ダルヤの掛け声が飛ぶ。ギガロガイザもまた高く鳴くと、敵の進攻を迎え撃った。

 60m級の巨体を持つ二体の怪獣が激突する。その衝撃が地面に亀裂を入れ、砂埃が高く舞い上がる。

 

「ギャルルルルォォオ!!」

「ギギャァアアッルルルルルッ!!」

 

 二体の怒声が交じり合い、響き合う。

 イズマエルの左腕は、ゴルゴレムというスペースビ―ストの頭部が鎌のような形状になって手を覆っている。振るわれたそれをギガロガイザは止め、逆に胴体を殴りつける。

 すると、今度はイズマエルの右腕が振りかぶられた。こちらはノスフェルの腕がそのまま移植されており、細長い爪を伸ばした五本指となっている。その鋭利な爪がギガロガイザの体表を裂き、火花を散らせた。

 

 両者とも、後退する。互いにその力を認め合い、気を抜くことができない強敵であることを認識する。

 眼光がぶつかる。物理的な衝突ではないのに、ただそれだけで鍔迫り合いが生まれているかのようだ。

 

 それぞれの主人であるレイオニクスの二人も同様だ。戦う動機は違えど、その体には凄まじい闘気が漲り、精神を針のように尖らせている。

 レイオニクスではない一般人がその場に踏み込めば、威圧感だけで気を失ってしまうだろう。戦場はそれほどまでの領域と化していた。レイオニクス同士が傷つけ合い、覇を競う――殺し合いの領域に。

 

 

 

「ダルヤ様……」

 

 爆発の余波がない場所まで避難していたゾルガウスは、再び1000m近辺まで戻っていた。

 フューネラルの宇宙船は撃墜されている。そのため、彼女たちはすでに逃げ出せる状態にあった。

 ただ、この惑星を脱出するときはダルヤも一緒だと決めていた。もし彼の身に危機が迫ろうものなら、このゾルガウスで援護をするとも。

 

 ディオーネは手を握り合わせて祈りを込める。

 他の三人も、モニターを見詰めながら彼の勝利を願っていた。

 

 

 

「ギャァァアアアアアッ!!」

 

 イズマエルの右肩に乗せられているメガフラシの触角が放電攻撃を放った。ギガロガイザは咄嗟に左腕を翳し、そこに纏われている甲殻を手甲代わりにして電撃を防ぐ。

 

 イズマエルは続けて尻尾を持ち上げる。それはグランテラと同様のものとなっており、先端には砲門が開いている。イズマエルはそこから火球を発射する。ギガロガイザは今度は右腕を翳し、それを防御する。

 

「ギャァァァアアアオオッ!!」

 

 しかし、さらなる追撃が襲いかかる。イズマエルの左肩にある、リザリアスグローラーの頭部。その口から熱線が放たれたのだ。

 同時に、右膝にあるペドレオンの顔面。そこからも火球が撃たれる。四か所同時の攻撃は流石に防ぎきれず、ギガロガイザは爆発の勢いで吹き飛ばされてしまう。

 

「ぐっ……! ギガロガイザ!」

 

「ルルルルルッ……!」

 

 すぐさま身を起こしたギガロガイザは、その口にエネルギーを溜める。

 紅と蒼の螺旋光線が放たれ、突き進む。だが――

 

「ギャァァアアアアアッ!!」

 

 イズマエルが叫ぶと同時に、その周囲にオーロラのような光がたなびいたのだ。

 ギガロガイザの光線は、そこに入ると同時に消滅する。目を見張るダルヤに対し、フューネラルは揚々と語り出した。

 

「イズちゃんは体を構成するすべてのビーストの能力を使うことができるんだよ。今のはメガフラシが持つ能力。この光の中では一定以上のエネルギーは拡散され、無力化される!」

「バケモノか……!」

 

 ダルヤは眉間に皺を寄せる。あらゆるエネルギーが無力化されるのであれば、ビーム系の攻撃は一切通じないということだ。

 とはいえ、突破口はある。恐らくイズマエルは、体表に現れている各ビーストのパーツからそれぞれの能力を発揮しているようだ。逆に言うと、そのパーツさえ破壊できれば能力を封じることができる。

 

「ギガロガイザ!」

 

「キシャアアッルルルルッ!!」

 

 ギガロガイザが身を浮かす。イズマエルが放つ放電や熱線を躱しながら飛び、相手の右肩から接近する。無論、邪魔なメガフラシのパーツを破壊するためだ。

 

「読めてるよ! そんな攻撃!」

 

 イズマエルの尻尾がギガロガイザに向く。その先端から放たれた火球を、ギガロガイザは身を傾けて躱す。そのまま攻撃しようとしたところで、彼の背中に衝撃が走った。

 火球はグランテラのものと同様、追尾性を伴っていたのだ。一度躱されても、ロックオンした敵はどこまでも追い続ける。その直撃を受けたギガロガイザは地面に墜とされてしまう。

 

「――アリゲラ!」

 

「キュァアッ!!」

 

 距離をとって待機していたアリゲラが、イズマエルの死角から攻め込む。

 しかしそれもフューネラルの想定内だった。イズマエルが左腕をアリゲラに向けると、その手が触手のように伸長した。これはゴルゴレムの口吻だ。イズマエルの左手はゴルゴレムの口と同様の形に変形しており、それが接近中のアリゲラの首に噛みついた。

 

 噛みついたまま腕を振り下ろし、アリゲラを地面に叩きつける。そのうえ、口吻から放った火球を浴びせる。アリゲラの体とその周囲が爆発に飲み込まれる。

 

「キュィィイイッ……!!」

「ギャァァアアアアアアッ!!」

 

 宇宙船を破壊された主人の恨みが乗り移ったように、イズマエルがアリゲラを思い切り蹴り飛ばす。ごろごろと転がるその体に向けて、口からの光線を浴びせる。アリゲラの甲殻でもこの威力は防ぎきれない。爆音と共に、高い悲鳴が響き渡った。

 

「ぐあぁあああ……ッ!! くッ! アリゲラ、戻れっ!!」

 

 ダメージを共に負いながら、ダルヤはバトルナイザーを差し出してアリゲラを戻した。

 フューネラルは面白くなさそうに「ふん」と鼻を鳴らす。だが、次の瞬間には冷酷な笑みを浮かべ、

 

「まっ、いいか。お兄さんにはもっと苦しんでもらわないと。あのザコを殺したダメージで死んでもらっても、わたしの気持ちがスッキリしないもんね!」

 

 ダルヤは歯噛みしつつ、「ギガロガイザ!」と声を張り上げた。

 

「キシャアアッルルルルッ!!」

 

 ギガロガイザがイズマエルにタックルを叩き込み、よろめかせたところで尻尾を振り抜いた。その先端には刃のような突起が存在する。それがメガフラシの頭部を薙ぎ、赤い眼球や触角を破壊した。

 

「ピシャァアアアオオオ……!」

 

「チッ……! イズちゃん!」

 

 追撃にかかろうとするギガロガイザにイズマエルが右手を向ける。その右手はノスフェルの手となっているが、それと一体化するようにラフレイアの花弁が開いている。ちょうど、花弁の中から手が出ているような形だ。

 その花弁から黄色い粉末が噴き出した。ラフレイアの花粉だ。顔面にそれを浴びせられ、ギガロガイザが悶える。そこへイズマエルのタックルが入り、ギガロガイザは突き飛ばされる。

 

「ギャァァァアアアオオッ!!」

 

 ゴルゴレムの口吻とペドレオンの顔面から火球を放つイズマエル。ギガロガイザは転がってその射線から逃れようとしたが、想定外のことが起きた。火球は彼に到達するよりも先に、数十メートル先で突如炸裂したのだ。

 先ほど浴びせられたラフレイアの花粉。あれは高い爆発性を持つ物質だった。それを吹きつけられたギガロガイザの周囲には花粉の粒子が飛び散っていた。それらが、飛んできた火球を引き金として連鎖爆発を巻き起こしたのだ。

 

「キシャアアッルルルル……ッ」

 

 ギガロガイザは爆発に吹き飛ばされ、倒れ込む。そこに歩み寄るイズマエルが彼の脇腹を蹴り飛ばす。さらに追い打ちをかけ、その体を踏みつける。

 

「ぐっ! ぐあっ!!」

 

 万全の状態であれば、その攻撃は躱せていただろう。しかし、今のギガロガイザにはダメージが蓄積しすぎている。そのせいで動きが鈍っているのだ。それでもまだ気力を奮い立たせているが、いつ力尽きても不思議ではない。

 ダルヤは重い痛みを感じながら、バトルナイザーに思念を込める。

 

「ギギャアアッルルルルッ!!」

 

 イズマエルの足の下で、ギガロガイザの体に電気が纏う。それを解き放ち、周囲に電撃を撒き散らす。

 たまらず後退するイズマエル。ギガロガイザはすっくと立ち上がり、相手の腹に頭突きを打ち込んだ。呻きながら怯むイズマエルの懐に潜り込む。その首を抱え、背負い投げの要領で投げ飛ばそうとするが――

 

「ギャァァアアアアアッ!!」

 

 ダメージの量はギガロガイザのほうが上だ。よって、イズマエルのほうがパワーを出せた。

 イズマエルの踏ん張る力で背負い投げが封じられる。さらに、その腕がギガロガイザの腰の下をがっちりとホールドする。二体の怪獣の叫びがこだまし、群青色の体躯が宙を舞う。イズマエルが上体を反らし、逆にギガロガイザを投げていた。

 

 相手が背負い投げを仕掛けてきたときに打つことのできる技――「裏投げ」だ。

 それにより、ギガロガイザは後頭部から地面に叩きつけられる。

 

「がッ――――!!」

 

 その衝撃に、ダルヤの意識が揺らぐ。目の前が真っ白となり、気を失いそうになる。

 だが、ここで倒れるわけにはいかない。最後の最後で踏みとどまり、気を持ち直す。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

 

「キシャアアッルルルルッ……」

 

 とはいえ、ギガロガイザのダメージも甚大だ。ダルヤは息を荒らげながら、突破口を見出そうとする。

 しかし――対するフューネラルは、そんな彼に冷たい目を注ぐのだった。

 

「これで終わりだよ」

 

 陽炎の中、イズマエルが口内にエネルギーを溜める。

 そして、全身に散らばるビーストの部位が、攻撃態勢を整える。

 

「ギガロガイザ……! 力を振り絞れ!」

 

「ギギャアアッルルルルッ!!」

 

 レイオニクスの意志に応じ、ギガロガイザが立つ。

 その全身に紅い光を迸らせ、螺旋光線のエネルギーを充填する。

 

 睨み合う二体の怪獣。その口が大きく開かれ、同時に光線が発射される。

 

 金色に輝くイズマエルの光線。そして、紅と蒼の螺旋を描くギガロガイザの光線。

 二つの光線が激突し、嵐のような衝撃波が吹きすさぶ。

 まるで、光線で鍔迫り合いをしているかのようだ。どちらも譲らず、勢いは拮抗する。より強い力を込めても、相手もまたそれに応じて力を強める。互いに全力を振り絞ったうえで、限界を超えた力を引き出す。

 

「キシャアアッルルルルルッ!!!」

「ギャァァアアアアアッ!!!」

 

 永遠に決着がつかないのではないかと思うほどの戦い――

 それに終止符を打ったのは、冷たい呟きだった。

 

「……バカみたい」

 

 フューネラルがネオバトルナイザーを掲げる。送られた指示に従い、イズマエルが尻尾と左手の口吻をギガロガイザに向ける。

 放たれる二発の火球。それらが、ギガロガイザの体を襲う。――螺旋光線の勢いが弱まる。

 

 さらに追撃がかかる。ペドレオンの火球。そして、リザリアスグローラーの熱線。ギガロガイザは光線に全エネルギーを集中させている一方で、イズマエルは体の各部位から同時に攻撃ができる。それへの対応ができないギガロガイザは、ダメージを受けるごとに光線の勢いを衰えさせてしまう。

 

「――終わりだよ」

 

 死刑宣告のように、フューネラルは冷たく言い放つ。

 イズマエルの光線の勢いがさらに強まる。――ギガロガイザに、それを押し返せるほどの体力は残っていなかった。

 

 金色の光線がギガロガイザを呑み込む。

 その全身を覆う爆発が、荒野の上で黒煙をあげた。

 

「ぐッ――――がはっ…………」

 

 崩れ落ちるダルヤ。煙の中から現れたギガロガイザもまた、力なく倒れ伏した。

 

 

 

「ダルヤ……!」

「ダルヤ様ぁっ!!」

 

 ゾルガウスでは絶望的な悲鳴があがっていた。ミクリアが操縦席のディスプレイに目を落とす。生命体センサーには、まだかろうじて反応があった。ダルヤもギガロガイザも生きてはいる。だが、虫の息であることに違いはない。

 

「……」

 

 リリアはひとり、瞑目していた。静かに何かを考えるようにし――それから、意を決したようにまぶたを開いた。

 

「みんな。船を降りましょう」

「リリア……?」

「ダルヤを援護するわ。でも、それはゾルガウスの自動操縦に任せたほうがいい。船内に私たちがいないほうが、ダルヤも戦いやすいでしょう」

 

 ミクリアは一瞬何か引っかかるものを感じたが、彼女の言い分はもっともだった。「分かったわ」と言い、妹たちにも視線を向ける。彼女たちも了解しているようで、強い頷きを返した。

 操縦をオートパイロットに移行してから、四人は船の出入り口まで急いだ。ゾルガウスには物理的なドアはなく、転送装置によって内外を行き来する。その部屋まで来ると、壁の装置を起動し、床に描かれているサークルの中に入った。転送が完了すれば、その内側の人や物が外に転送されるという仕組みだ。

 

 それぞれが逸る気を抑えながら、転送を待っていたときだった。

 リリアが、一歩前に出た。横一列に並ぶ妹たちを振り返り、「ごめんなさい」と呟いた。

 

「リリア……?」

 

 装置が作動し、目の前が白い光に満たされる。

 ミクリアたちは見た。その寸前に、リリアがサークルの外に出たのを。

 

「リリアお姉様!?」

 

 地上に降り立ったディオーネは周囲を見回した。だが、リリアの姿はない。その場にいるのは、ミクリア、フィオネ、ディオーネの三人だけだ。

 彼女たちは揃って上空を見上げる。そこに浮上していたゾルガウスがエンジンの光を噴かせていた。呆気にとられる三人の前で、船は戦場へ向けて飛び去っていった。

 

 

 

 ひとりブリッジに戻ってきたリリアは、船に搭載されたAIに訊ねた。

 以前、ミクリアが「新発見があった」と聞かせてくれた話――そして、彼女に頼んで皆には内緒にしてもらっていた話を。

 

「この船は、ギガロガイザとの合体機構があるのでしょう? それは今、起動可能かしら?」

 

 AIは、合成音声でその問いに答えた。

 

『存在はしています。ですが、起動は不可能です』

「それはどうして?」

『合体シークエンス初回起動時には膨大なエネルギーが必要となります。現在、ゾルガウスに貯蔵されているエネルギー量でそれをまかなうことはできません』

 

 そこまでは、ミクリアから聞いていて知っていた。

 リリアは、自分の胸だけに秘めていた考えをAIに語った。

 

「私の生命力をエネルギー貯蔵庫に与えれば、足りるかしら?」

『……』

 

 AIは一瞬沈黙した。ただ、それは躊躇いではない。単なる計算の時間だ。

 すぐに彼は返答する。『可能です』と。

 

『しかし――問題があります』

「……」

『初回起動に必要なエネルギー量を供給すれば、貴方は間違いなく命を落とします』

 

 リリアは即答した。

 

「――構わないわ」

 

 

 

 一方、戦場では――

 倒れ伏していたダルヤは、何かの音に気付き、意識を浮上させた。

 焼けるように痛む右腕を動かし、左手首に巻いた通信機を起動させる。聞こえていたのは、その通知音だった。

 

『ダルヤ! ダルヤ! お願い、聞いて! リリアが、リリアが――!』

『リリア姉さんが、ひとりでそちらに――!』

 

 霞む意識の中、その名がぼんやりと頭蓋に反響する。

 以前もこういうことがあった。夢か現かの気分で、何かを聞いた。そのときも、リリアに関係することだった――

 

(もし、私がいなくなったら……)

 

 その声が浮かび上がってくる。

 リリアと寝た夜に聞いた言葉だ。その声は優しく柔らかく、それでいて、決然とした意志を宿していて……。

 

(妹たちを、お願いしますね――)

 

 ダルヤの意識は覚醒した。痛みが残る体に鞭を打ち、弾かれたように立ち上がる。

 頭上から轟音が響いていた。ゾルガウスが、その黒翼で風を切っている。すると、その中から強いエネルギー反応を感じた。それを証明するように、機体から純白の光があふれだした。

 

「リリ、ア……?」

「ん?」

 

 フューネラルも気付いたのだろう。上空に目を向ける。

 

「まだなにか邪魔したいの? 無駄だよ!」

 

 イズマエルがゾルガウスに顔を向け、撃墜しようとする。

 しかしそのとき、その体が傾いた。ギガロガイザだ。イズマエルの両脚を抱えながらタックルする双手刈(もろてがり)で、その体を押し倒したのだ。それによって、撃墜しようとしていた光線は外れ、虚空へ消えていく。

 

「なっ……! この死にぞこないがッ!」

 

「ギャァァァアアアオオッ!!」

「ルルルルルッ……!」

 

 ペドレオンの顔から放つ火球でギガロガイザの拘束を解き、さらに蹴り飛ばす。よろよろと立ち上がるギガロガイザには目もくれず、再びゾルガウスに目を向ける。だが――

 それよりも先に、ダルヤのインカムに通信が入っていた。

 

『合体シークエンス、初回起動プロセス完了。これより――』

 

 ゾルガウスが高度を落としていく。

 地上に立つギガロガイザの頭上に位置取り、滞空する。

 

『〝Mode:Zor-Gigalogaiser〟に移行します』

 

 突如、その機体が割れた。怪獣の頭部のような形をした艦橋が外れ、残された両翼も左右に分割される。

 青い燐光を機体に走らせながら、三つのパーツがギガロガイザの体に装着される。

 

 左右に分けられたウィングは、首の付け根を挟むように合体する。そして艦橋は、まるで甲冑のようにギガロガイザの頭に被せられる。

 目元を覆うバイザーが蒼白く輝く。機体が有していたエネルギーが怪獣の体に流れ込み、その生命力を再び燃え上がらせる。

 

「な……なに? なんなの、こいつは……!」

 

 群青の体躯に黒鋼の機体を合体させた、ギガロガイザの最強形態。

 鳴き声と共に重々しい駆動音を響かせる、その怪獣の名は――

 

銀河要塞獣 ゾルギガロガイザ  
体長:70メートル  体重:63,000トン  

 

「ギギャァァルルルルッグォォオオオン!!!」

 

「……。リリア……」

 

 怪獣とは対照的に、ダルヤは呆然と呟く。

 今、ゾルガウスの中に生命反応は感じられなかった。そして、先ほど目にしたあの白光と照らし合わせれば――導き出される答えはひとつしかない。

 

「くっ……! イズマエルッ!」

 

「ギャァァァアアアオオッ!!!」

 

 フューネラルがネオバトルナイザーを掲げる。イズマエルが指令に応えて雄叫びをあげ、攻撃準備に入る。

 ダルヤは顔を上げ、心のままに叫んだ。そのやるせない昂ぶりを表すように。ゾルギガロガイザの絶叫もまた、高い空を衝いた。

 

「リリアぁぁぁああああ!!!」

 

「ギギャァァルルルルッグォォオオオン!!!」

 

 イズマエルの光線が発射される。同時に、全身の攻撃可能な部位からあらゆる攻撃が放たれる。

 光線、熱線、火球――それらが、ゾルギガロガイザのもとに向かっていく。

 

 バイザーを輝かせ、群青の機獣がそれを迎え撃つ。両肩に備わったゾルガウスの両ウィング。その正面には、ブラスターが蒼白く光っている。

 全身に纏わせた真紅のエネルギーを解き放つように、二門のブラスターから光線を撃つ。その二条の光線は平行に進むのではなく、ゾルギガロガイザの正面で激突する。その衝撃によって無数の細かい光線に分かれ、それらが矢のように突き進んだ。

 

 火球を打ち砕き、熱線を切り裂き、光線を押し返す。

 イズマエルの文字通り全身全霊の攻撃をすべて撥ね返したうえで、その体を串刺しにする。

 

「ピシャァアアアオオオ!!!」

 

「きゃぁぁぁあああ!!?」

 

 怪獣とレイオニクスの悲鳴が共鳴する。たじろいでいる隙に、ゾルギガロガイザが進攻する。

 イズマエルの胴に拳を叩き込む。その一撃が、フューネラルの体に重く響く。

 さらなる追撃。銀色の三本爪が、電撃を纏ってイズマエルを切り裂く。焼けるような痛みが胸を横断し、「がぁぁあ゛あ゛あ゛あ!!」と濁った声でフューネラルが絶叫する。

 

「そ、そんな……そんなこと、あるわけない……!」

 

 彼女はふらつきながら、半狂乱の様相で声を張り上げる。

 

「このわたしが負けるなんて! あるわけないでしょ!!」

 

 突撃するイズマエル。その重量と勢いが地響きをあげ、土埃を巻き上げる。

 それほどまでの突進であったのに――ゾルギガロガイザは手ひとつでそれを止める。イズマエルの喉元を掴み、締め上げる。イズマエルは爪や鎌を振るうが、ゾルギガロガイザは意に介さない。

 

「ピシャァアアアオオオ……!!」

 

「げッ、お゛、げぇ……ッ!! がはッ! げ、え゛っ、があ゛……ッ!!」

 

 首を絞められる苦痛で酸欠になるフューネラル。

 だが、それへの慈悲もなく、ゾルギガロガイザは敵の顔面を地面に叩きつけた。

 

「ぐ、ぐっ、ぅぅぅう゛う゛う゛……!!」

 

 怪獣と共に地面に伏すフューネラルは、血が滲むほど唇を噛んでいた。

 拳を握りしめ、立ち上がる。最後の力を振り絞り、イズマエルに指示を出す。

 

「わたしが……っ! まけるわけ、ない……ッ!!」

 

 金色の光線をイズマエルが放つ。凄まじい勢いで虚空を切り裂き、そして――

 ――ゾルギガロガイザの前方に展開された波紋状のバリアに、完全に防ぎ切られた。

 

「…………」

 

 フューネラルが目を見開く。その顔が絶望に染まる。

 ゾルギガロガイザのブラスターが、真紅の光を空間に撒き散らす。

 

 視界に広がるその光景が、ぼやけて滲んだ。

 

「……はっ、はっ、はっ……」

 

 その数秒後。地面に尻餅をつき、指一本動かせないフューネラルがいた。

 呆然としながらも、その頭には疑問符が浮かんでいる。先程までゾルギガロガイザは光線発射の態勢に入っていた。それが直撃すればイズマエルは砕け散り、彼女の敗北が決定的になる――はずだった。

 

 にもかかわらず、ゾルギガロガイザは攻撃をやめたのだった。その代わりに困憊するイズマエルに歩み寄り、その横面を殴り飛ばした。

 

「……」

 

 そのダメージは、彼女に伝わっていなかった。敗北を悟った彼女は、イズマエルとのリンクを切っていたのだ。

 それを確認したダルヤは、自身のバトルナイザーを掲げた。その先端から金色の光があふれ、イズマエルの全身を覆っていく。

 

「え――……」

「この星にスペースビ―ストの因子を蔓延させるわけにはいかない。それに……オレの怪獣も取り込まれてるみたいだしな」

 

 イズマエルの体は光の塊と化し、バトルナイザーの二番目の画面に宿った。

 

「そ……ん、な……」

 

 ハッと、フューネラルが顔を上げる。彼女のすぐそばに、ゾルギガロガイザが迫っていた。

 機械に覆われた顔からは表情が分からない。感じるのは、圧倒的強者からの威圧感。息ができなくなるほどの圧迫感。

 そして、恐怖。怪獣が足を持ち上げる。フューネラルのちっぽけな体を巨大な影が覆う。迫りくる死の実感が、彼女の体を震えさせ――その体の下に、水溜りを広げていた。

 

「――もういい」

 

 その足が彼女を踏み潰す寸前、ダルヤの声が差し挟まれた。

 ゾルギガロガイザが後退する。その背後から歩いてきたダルヤは、フューネラルの怯え切った顔を見て言った。

 

「どこへでもいけ」

「……え?」

「消えろ、って言ってるんだ」

 

 静かな口調だったが、その眼光は鋭かった。

 フューネラルは慌てふためいた様子で飛行用バックパックを起動し、どこかへ飛んでいった。

 

「……リリア」

 

 ゾルガウスが怪獣から分離し、再び宇宙船の形に戻る。着陸したそれに向かってダルヤは駆け出したが、胸中の絶望が裏切られることはなかった。

 

 彼が船内で発見したのは――

 呼吸もなく、脈拍もない、氷のように冷たいリリアの亡骸だった。

 

 


 

≪登場怪獣≫

 

■フィンディッシュタイプビースト イズマエル

体長:60メートル

体重:60,000トン

 

『ウルトラマンネクサス』第36話「決戦 -フェアウェル-」に登場。

 

地球に出現したスペースビ―ストの祖「ザ・ワン」と、すべてのビーストが合体して生まれた怪獣。

パーツとなったビーストの体の一部が全身に散りばめられており、そこから各ビーストの能力を使用できる。

 

本作ではフューネラルが生み出した合体怪獣として登場。

彼女のレイオニクスとしての高い技量により、引き出せるビーストの能力も強化されている。

ゾルギガロガイザによって倒されたのち、ダルヤの手に渡った。

 

 

■銀河要塞獣 ゾルギガロガイザ

体長:70メートル

体重:63,000トン

 

『ウルトラマンデッカー最終章 旅立ちの彼方へ…』に登場。

 

ギガロガイザに、ゾゾギガ星人の実験要塞艇「ゾルガウス」が合体した形態。

ゾルガウスの機能によって能力が強化されており、ブラスターから放つ光線や、あらゆる攻撃をシャットアウトするエネルギーシールドが使えるようになった。

また、ゾルガウスとの分離は自由に行えるため、状況によってはギガロガイザとの連携攻撃に移行することも可能。

 


 

――次回、最終回

 

 

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