ウルトラギャラクシー 四人の姫と怪獣使い   作:幽明卿

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2話 VS 宇宙スパーク大怪獣

 

 

「目的の星に到着するまで、この船の護衛をしてはいただけませんか?」

 

 宇宙船のクルー四人は惑星タンザナ、カイルライト王国の王女姉妹なのだという。

 彼女たちはある事情で別の惑星への旅をしている最中だと言うが……。

 

「まず、あんたらの『事情』ってのを聞かせてもらうことはできるかい?」

 

 妹三人は不安そうに顔を見合わせたが、リリアは毅然とした様子で答えた。

 

「いいでしょう。身内の恥を晒すことになりますが……。

 私たちの国、カイルライト王国では、現在内乱が起きているんです」

「内乱?」

「ええ。国内の反政府勢力がクーデターを起こして……。それが落ち着くまで別惑星に身を隠しておくよう、父に言いつけられました。それで、姉妹揃って故郷を脱出したというわけです」

「なるほどな……」

「もちろん、報酬はお渡しします。こんなものですが……」

 

 リリアはそう言うと、自身のネックレスを外して彼に差し出した。金色のチェーンの先に直径3㎝ほどの宝石が付けられているものだ。さらにその周囲にはきらびやかな透明の宝石が並び、全体を雪の結晶の形にしている。その数と、中央の宝石の澄んだ水色の美しさから、相当な値打ちのものだろうと思われた。

 実際、フィオネが慌てたように口を挟んだ。

 

「リリア姉さん! それはお父様が、姉さんの成人祝いにお作りしたものでしょう?! いくら何でも――」

「それで可愛い娘たちの安全が保障されるというなら、お父様もこれを作った甲斐があったというものよ」

 

 そしてダルヤを振り返って「それでも足りなければ……」と言い出したが、彼は手を振ってそれを制した。

 

「ネックレスも別にいいよ。護衛中、メシとベッドを提供してくれたらそれでいい」

「まあ。それだけでよろしいのですか?」

「ああ」

 

「では、せめて――」とリリアは微笑んだ。「温かいシャワーもお付けしますわ」

 

 

   ★

 

 

 その日からダルヤと四姉妹の共同生活が始まった。

 王族御用達の宇宙船ということもあってか、ダルヤにあてがわれた個室は広く豪華だった。ベッドも一般的に想像されるような宇宙船のものとは程遠く、人が三人寝転んでも余裕がありそうなキングサイズだった。船内には疑似重力発生装置が稼働しており、惑星上と同じような感覚で生活ができる。蛇口から出た水で顔を洗うことができ、シャワーも上から下へと流れていた。

 

 雇われた翌日、船内を歩き回っていたダルヤは倉庫を発見した。そこに保管されていたカードキーをブリッジのコントロールバネルにスキャンすると、船の武装がアンロックされた。腕時計のような形の通信デバイスと護身用の光線銃もあったので、それらを姉妹に配り、通信デバイスはダルヤも持っておくことにした。

 

「これまで丸腰で旅してたってことか? お気楽にもほどがあるだろ」

「仕方がありませんわ。急に姉妹だけで星の外に放り出されたのですから」

 

 呆れた顔をするダルヤに言葉を返したのは、四女のディオーネだった。

 豊満な胸の下に腕を組み、つんとそっぽを向く。

 

「ましてや、クーデター中の祖国にお母様たちを残したままなのですから。お気楽に船内探検なんて気分にはなりませんわ」

「その気持ちは察するが、宇宙にだって危険はごまんとある。これからは気を付けるようにしないとな」

 

 ディオーネはそれには答えず、ブリッジを出ていってしまった。

 すかさずミクリアが「ごめんなさいね」とフォローを入れる。

 

「ディオーネは少し気難しいの。まだ貴方に心を開いていないのかも」

「いいさ。オレこそ説教臭い言い方しちまったしな。それより……」

 

 ダルヤはコントロールバネルの上に放り出されている分厚い本を見やる。

 これは同じく倉庫に仕舞われていた操縦マニュアルだった。それをミクリアに渡すと、彼女は数分間ぺらぺらとページをめくって目を通しただけで、中身を全部覚えてしまったという。

 

「ほんとうに全部覚えちまったのか? すごいもんだな」

「えへへ、それほどでもないわよ~」

「ミクリアはすごく要領が良い子なんですよ。記憶力もさることながら、蓄えた知識を正しく理解する力にも優れているの。手先も器用で、裁縫の腕前は職人並なんです」

 

 リリアがべた褒めするので、さらに照れるミクリアである。

 仲のいい姉妹なんだな――とダルヤが感じ入っていると。

 

「!?」

 

 ――突然のことだった。天井の照明が消えたのだ。

 

「……どうした!?」

「わ、わからないわ……! 停電なら非常電源が機能するはず……。だとしたら、電気系統を制御してるコンピューターに異常が……!?」

「みんな、あれを!」

 

 リリアがブリッジのフロント全面に渡っているガラス窓を指さす。

 真っ暗になった室内は星々の明かりで何とか見通しが利くようになっている。その明かりを背景にして、飛行する影が正面に見えた。

 

 黄土色に染まった体躯は、胴体に比べて頭部が大きいという奇妙な姿をしている。頭部はハエトリグサを思わせる楕円形で、頭頂部から伸びた角には青い発光体が埋め込まれている。

 腹部の中心は円形に窄まっており、まるで別の生き物のようにひくひくと蠢いている。両腕には皮膜のような器官が備わっており、それをゆったりと羽ばたかせながら、宇宙空間を遊泳していた。

 そして、エメラルドグリーンに光る双眸。それらはまっすぐに、この宇宙船を見据えていた。

 

 フロントに駆け寄ったフィオネは、その姿を視界に収めた途端、声をあげた。

 

「あれは……バゾブですわ!」

 

宇宙スパーク大怪獣 バゾブ 
体長:65.5メートル 体重:72,400トン 

 

「体内に電気を蓄えている宇宙怪獣で……周囲数キロにわたって放出されている強力な電磁波のせいで、範囲内の電子機器が正常に作動しなくなる――」

 

 そこまで言ってからハッと我に返り、

 

「――と、文献で偶然目にしたことがありますわ」

 

 と、気まずそうに付け足した。

 

「すると、あいつを追い払うか、倒すかしないとこの宇宙船は動かないままか」

「それどころか、腹部にある捕食口に丸呑みにされてしまいかねませんわ……」

 

 リリアはダルヤのほうへ、その細い体を向けた。

 

「ダルヤ。お願いできますか?」

「ああ。任せとけ!」

 

 ダルヤが腰のホルスターからバトルナイザーを引き抜き、掲げる。

 

「いけ! アリゲラ!

 

≪バトルナイザー モンスロード!≫

 

 バトルナイザーの先端から金色の光が飛び出す。

 それはブリッジをすり抜けて宇宙空間に踊り出すと、怪獣の姿を形作った。

 

「キュァアアッ!!」

 

宇宙有翼怪獣 アリゲラ 
体長:55メートル 体重:11,000トン 

 

「ピシャァオオオン……!!」

 

 突如目の前に現れた怪獣に、バゾブは唸り声をあげる。

 アリゲラもまた、けたたましい雄叫びをあげ――両者はそのまま、正面から激突した。

 

「キィィイッ!!」

「ピシャァオオン……!!」

 

「オレは近くからアリゲラに指示を送る。みんなは船のコントロールが戻ったときに離脱できるよう、備えてくれ!」

「わ、わかったわ!」

 

 ミクリアは操縦席に向かい、リリアはダルヤの顔を見て力強く頷く。

 そうして、彼が体の前に両腕をクロスさせたとき――

 

「お待ちください!」

 

 そう言い、彼を止めたのはフィオネだった。

 頬を赤らめながら彼のもとに駆け寄り、「お耳を」と囁く。両者には30cm以上の身長差があるため、ダルヤは身を屈めて耳を近づけた。

 

 フィオネの唇が近づく。真っ白な手で耳元を隠すようにしながら、小声で囁く。

 そのたびに、彼女の涼やかな吐息がダルヤの耳をくすぐった。

 

「あの怪獣は……角の発光体から電気を放出します。あれを壊せば、大幅に弱体化されるはずですわ」

 

 別に、内緒話みたいに言わなくてもいいのに――とダルヤは苦笑する。

 でも、自分にはわからない事情があるのかもしれない。それが分からないのなら、無神経に突っ込むべきではないだろう。それこそ、先程のディオーネのように不興を買ってしまうかもしれない。

 

 ダルヤはただ「サンキュ」とだけ答え、白い歯を見せた。

 フィオネは安堵したように「ご武運を」と頷いた。

 

「――はっ!」

 

 腕をクロスさせて気を込めたダルヤの姿がブリッジから消える。その体は一瞬にして外に出ており、紫色のオーラが彼の全身を薄く纏っていた。ダルヤには瞬間移動能力があり、また、宇宙空間でも生きられる能力も有しているのだ。

 

「キュァアッ!!」

「シャオォォ……!」

 

 一方で、激突して互いにダメージを受けたアリゲラとバゾブは、接近戦を繰り広げていた。

 アリゲラが翼を叩きつける。それを払いのけ、バゾブが大きな頭部で頭突きをする。仕返しとばかりにアリゲラもまた頭突きを返す。

 

「ピシャォオォオン!!」

 

 バゾブの角に埋められた発光体が光る。そこから電撃が乱れ飛び、アリゲラの体を襲った。

 ダルヤはバトルナイザーを介してアリゲラに思念を送った。

 

『アリゲラ、いったん距離をとれ! 奴の電撃は危険だ!』

 

「キュァアアッ!!」

 

 身を翻して反対側に飛び、距離を開けるアリゲラ。しかし、その背中に向けてバゾブが電撃を放っていた。それを察知したアリゲラは直角に曲がって回避する。そのままバゾブと一定の距離を保ちながら飛び続け、電撃を躱し続ける。

 上手く回避できてはいる、しかし――とダルヤは考える。

 

(このままじゃ近づけねえ。あの角をどうにかしねえといけねえのに)

 

 持久戦ができる状況なら、打開策が出るまで逃げ続けるという選択肢も取れるだろう。

 しかし、今は王女姉妹を宇宙船に残している状態だ。一刻も早く決着をつけなければならない。

 

『アリゲラ、光弾でヤツの角を狙え!』

 

「キュァアッ!!」

 

 アリゲラが直角に飛び上がる。バゾブの上を取り、二つのパルス孔から光弾を連射する。

 しかし、その光弾の雨は一発も命中しなかった。バゾブの体に近づくと、あらぬ方向に曲がってしまったのだ。光弾は全弾、虚空の彼方へと消えていってしまう。

 

(そうか……! 奴の角を中心に磁界が発生してんだな……それで光弾が曲げられたってことか……)

 

「シャァオオオン!!」

 

 バゾブが再び電撃を放つ。アリゲラは全身でそれを受け、撥ね飛ばされてしまう。

 

『アリゲラ!』

 

「キィィ……!」

「ピシャァォオオン……!!」

 

 アリゲラのジェット器官が光を放つ。続けて放たれた電撃を辛くも躱すが、元の木阿弥だ。状況は何も好転していない。

 ならばと、ダルヤが指示を出す。アリゲラは速度を上げ、バゾブの周囲をぐるぐると回り始めた。その動きをバゾブは捉えることができない。きょろきょろしながら周囲を警戒している。

 

「キュァアアッ!!」

 

 バゾブの背後からアリゲラが突撃する。警戒されていたとはいえ、バゾブに振り返る時間はない。そして、アリゲラの速度を上回って回避することも不可能――なはずだった。

 

「シャオオッ!!」

 

『何!?』

 

 バゾブは正面を向いたまま、背中側へ向けて放電したのだ。背後から強襲しようとしていたアリゲラの体を的確に捉える。またしてもアリゲラは電撃の勢いに押され、撥ね飛ばされてしまう。

 

『く……っ! 隙がねえ……!』

 

 遠距離攻撃は磁界によって防がれ、近距離に持ち込もうとしても電撃によって近づかせてもらえない。しかも電撃の方向が自在であるため、不意を突こうとしても確実に迎撃されてしまう。

 アリゲラは何とか体勢を立て直したが、ダメージの蓄積は体を蝕んでいる。このままだと先に倒れるのはこちらのほうだろう。

 

(何かねえか……? 突破口が……)

 

 考えている間もバゾブが電撃を放ち、アリゲラはそれを回避し続けている。しかしバゾブもその動きに対応してきていた。電撃を枝分かれさせて進行方向に先回りし、命中させる。または、わざと隙を作ってアリゲラの突進を誘い、余裕をもって迎撃する。そうすることで、効率よくダメージを与えていく。アリゲラの速度も段々落ちてきているように見えた。

 

 ダルヤは自身の相棒怪獣の動きを心配そうに目で追う。すると、目に留まったものがあった。アリゲラの背から後方に伸びる尻尾だ。飛行に際して一直線にピンと張っており、その先端は三叉槍のような形状になっている。

 

『これだ! アリゲラ、撃て!』

 

 ダルヤはバトルナイザーを掲げ、思念を送った。

 

「キュァアアオン!!」

 

 アリゲラが力強い雄叫びをあげる。

 尾部を三叉槍で喩えると、穂先にあたる部分。三つのそれが指し示した交差点に、太陽のような見た目のエネルギー光球が形成される。アリゲラは尻尾をバゾブに向け、その光球を発射した。

 

「ピシャァァオオン……!」

 

 余裕綽々に迎えるバゾブである。その態度に間違いはなく、周囲に展開されている磁界の影響で光球が逸れる。空中を滑るようにして、バゾブの後方へ消えていく――

 ――かと思われた。しかし光球は突然カーブし、再びバゾブのほうへ向かったのだ。

 

「シャォォオン……!?」

 

 異変を察知して振り返るバゾブ。接近していた光球はまたもや逸れる。だが、再度カーブしてバゾブへと向かっていく。まるで意思を持っているかのように。

 このエネルギー光球は自動追尾の性質を持っている。その対象は、光球を形成する際にアリゲラが標的と定めた電磁波だ。つまり、バゾブが発している電磁波を感知する限り、この光球は何度でも標的へと飛んでいく。磁界でいくら弾かれようともだ。

 

「シャォォオオン……!」

 

 別に放っておいても命中することはない光球だ。しかし、バゾブにとっては周囲を飛び交うハエのようなものだろう。自身へ向かってくる光球へ顔を向け、角の発光体を光らせた。

 

『――今だ!』

 

「キュァアアアッ!!!」

 

 アリゲラのジェット器官がエネルギーを噴出する。バゾブは現在、横を向いている状態だ。アリゲラの突進は察知したようだが、迎撃が一瞬遅れる。アリゲラの飛行速度をもってすれば、その一瞬があれば十分だった。

 光球が真空内で撃ち落とされる。同時に、アリゲラの翼がバゾブの角を切断した。

 

「ピシャァァアオオン…………!!」

 

 角の先端が弾け飛び、バゾブが悶える。それを尻目にアリゲラは高く飛び上がっていた。十分な距離をとったのち、180度方向転換し、バゾブに向かって降下する。ジェット器官が唸りをあげ、甲殻に纏われた翼がギラリとした光を放った。

 

 刹那、アリゲラとバゾブが交錯する。アリゲラの強固な翼はバゾブの脳天を砕き、貫き、その体躯を真っ二つに切断していた。

 血と脳漿が真空にばら撒かれ、体内を流れていた電流が放散する。ふらりと降下するバゾブの体はそのエネルギーに耐えられず、大爆発の中に消えた。

 

『アリゲラ、よくやった……!』

 

「キュァアアアオン!!」

 

 勝利の凱歌を高らかに響かせるアリゲラ。

 その背中に乗って宇宙船のところへ戻ると、明かりのついた窓のそばに、リリア、ミクリア、フィオネが満面の笑みで手を振っていた。

 

 


 

≪登場怪獣≫

 

■宇宙スパーク大怪獣 バゾブ

体長:65.5メートル

体重:72,400トン

 

『ウルトラマンダイナ』第34話「決断の時」に登場。

 

ハエトリグサのような形状の巨大な頭部を持った、奇妙な姿の宇宙怪獣。

体内に膨大な量の電気を蓄えており、電流が半径3㎞圏内に磁界を形成している。

その影響で電子機器は機能しなくなり、ビーム系の攻撃は逸れてしまう。

また、口は腹部にあり、原典では宇宙発電所を丸呑みにしていた。

攻撃手段は、角の発光体から放つ電撃。

 


 

≪用語≫

 

■カイルライト王国

惑星タンザナにある王政国家。

リリアら四姉妹はこの国の王家。

現在、反政府勢力によって内乱が起きており、四姉妹は別惑星へ疎開するための旅に出ている。

 

成人年齢は20歳。

リリアのネックレスは、その祝いに父から贈られたもの。

 

 

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