ウルトラギャラクシー 四人の姫と怪獣使い   作:幽明卿

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3話 VS スペース・ジョーズ

 

 

 広大な宇宙空間に広がる暗黒――

 そこに漁火のような光が規則正しく並び、そのフォーメーションを維持したまま移動していた。

 光の正体は怪獣のコブである。つまり、この光の隊列は怪獣の群れなのだ。

 

「ビャァアア!!」

 

渡り鳥怪獣 バル 
体長:47メートル 体重:28,000トン 

 

 バル。翼を持ったトカゲといった出で立ちの怪獣だ。

 頭部に光るコブは、仲間に自分の所在を伝えるための器官なのかもしれない。

 そうして彼らは一糸乱れぬ動きで隊列を組み、飛行することが可能なのだ。

 

 しかし今、そのフォーメーションが崩れつつあった。

 最後尾に位置していた光のひとつが遅れ、群れから取り残される。

 やがてその光が消えると、群れの中の光がまたひとつ脱落するのだった。

 

「ビャァアア!!」

 

 バルの叫びがこだまする。一、二度、その叫びが続いたかと思われると、それがふっと途切れる。まるで声そのものがどこかへと吸い込まれてしまったかのように。

 声を吸い込んだのは死という闇だった。群れの最後尾に位置するバルが背後を振り返る。そこに追跡者の影があった。その者は群れを追い、バルを一匹ずつ食い殺していたのだ。暗黒の中で赤く光る眼は、振り返ったバルに照準を合わせていた。

 

「キーギャアアア!!!」

 

スペース・ジョーズ ザキラ 
体長:50メートル 体重:20,000トン 

 

 ザキラ。これが追跡者の名前だった。

 暗緑色の鱗を持つ爬虫類型怪獣である。頭部の後ろには扇状に棘が生えており、首の後ろから背中にかけてもびっしりと棘に覆われている。

 口には大きな牙が二本、外に鋭く飛び出ている。全体的に刺々しく、攻撃的な性質が一目で分かるフォルムだ。実際に、宇宙という途方もなく広大かつ過酷な環境で、ザキラは捕食者の地位に君臨している。中でもバルは気性が穏やかで狩りやすいうえに栄養価も高いため、絶好の標的となっていた。

 

 バルの群れは三々五々に逃げ惑うことはせず、フォーメーションを保ったまま飛行する。時折方向転換するといった工夫で振り切ろうとするが、知能も高いザキラ相手には通じなかった。次々と喰われながらも、パワー・スピード両面で上回るザキラを相手取ることはできない。その様は、食物連鎖という残酷な摂理を健気に表しているとも言えた。

 

 群れを半壊させ、バルの肉を腹に溜め込んだザキラは、なおも群れを追おうとする。――しかし、その眼が突然、群れとは別の方向に向けられた。必死で逃げていく群れには目もくれず、何もない空間にじっと顔を向けている。

 

 ザキラは感じたのだった。怪獣であるバル以上に強大なエネルギーを。しかもそれは生き物であり、バルとは比べ物にならないほど小柄だ。簡単に食うことができる。

 

「ギギャァアア!!」

 

 ザキラは歓喜の雄叫びをあげる。遠のいていく群れとは別方向に頭を向け、進行を開始した。

 

 

   ★

 

 

 カイルライト四姉妹の宇宙船――

 操縦と索敵をコンピューターに任せ、姉妹たちは食堂で朝食をとっていた。

 とはいえ故郷での朝食とは、環境を含めて大きく異なる。一家が住んでいた王宮と比べるとあまりにも窮屈な食堂。そして、味や見た目よりも保存性の高さを重視した宇宙食。

 

 宇宙に出てからというもの、姉妹たちの食事は朝昼晩すべてがこれだった。もちろんお姫様である彼女たちの口に合うものではなかったが、食わなければ死んでしまうのだから我慢している。

 流石に気が滅入っていたのか、部屋内に活気はない。みな黙々と、彩りに欠けるペースト状の食事を口に運んでいた。そこへ――

 

「おはよーっす……」

 

 自動ドアが開き、気だるげな声と共にダルヤが入ってくる。入口に背を向ける位置に座っていたフィオネは挨拶を返しながら振り返って、突然「きゃあっ!?」と悲鳴をあげた。

 

「ど、どどど、どんな格好をしていますの?! 服を着てくださいませ!」

「んー……?」

 

 フィオネが顔を手で覆うのも無理はない話で、ダルヤはパンツ以外何も身につけていなかった。胸も脚も、浅黒い肌を堂々と晒している。そのパンツにしたって肌にぴっちりと張りつくタイプなので、見ようによっては全裸も同然だった。

 フィオネと同じように、ミクリアも真っ赤になった顔を手で覆っていた。しかし指と指の隙間からこっそりと覗き見ているので、フィオネよりは興味が勝っているのかもしれない。

 

「でもよぉ、普段のかっこうとあんまり変わんなくねーか……?」

 

 ダルヤの普段着はベストとズボンだけである。上半身はインナーもなく肌を晒しているため、彼の言うことにも一理あった。

 紅茶を飲みながら一連の会話を聞いていたリリアは、微笑んだまま「ダルヤ」と口を挟んだ。

 

「食事は正装でお願いしますわ。あと、お顔もしっかり洗ってきてくださいな」

「……ふぁーい」

 

 ダルヤはあくびをしながら、ふらふらと食堂を出ていった。

 

「……」

 

 その背中を、ディオーネは疑わしい目つきで見ていた。

 

 

   ★

 

 

 身だしなみを整えたダルヤが遅れて朝食をとっている間も、姉妹たちは食堂にいた。自室に戻ってもとりたてて面白いことがあるわけではない。姉妹たちにとっては、こうして一堂に会しておしゃべりをするのが数少ない娯楽であると言えた。

 それでも、彼女らが故郷を離れて二週間は経つ。朝食の席でもそうだったように、会話を弾ませるのも難しくなっていた。――そんな時期に、船内に新たな変化が訪れた。それをもたらした者に対し、箱入り娘である王女たちは興味津々だった。

 

「ダルヤはどこの星の出身なんですの?」

 

 と、彼の横に座って話しかけるのはフィオネである。ミクリアも、テーブルを挟んで反対側の席から身を乗り出していた。リリアはティーカップを傾けながら、妹たちの様子をおっとりと眺めている。ディオーネは視線は向けないながら、皆の会話に耳を傾けていた。

 

「タビアット星ってところだな。海が星の90%以上を占めている惑星だ」

「90%以上? 惑星タンザナは陸地の割合のほうが大きいですから、まるで逆ですわね……」

「海が広大だから、そこで進化した生き物がすごく多いんだ。アリゲラもその一種だな」

「では、貴方の相棒のアリゲラも……?」

「ああ。故郷で出会った。オレが小さい頃からの友達だったんだ」

「怪獣と友達に? 未知の世界ですわ……」

 

 ミクリアが「タビアット星はどこの星系にあるの? 惑星タンザナからは遠い?」と訊くと、ダルヤは眉間に皺を寄せて難しい顔をした。

 

「詳しいことはわかんねえな……あてもなくふらついてるもんだから」

「ええ? じゃあ、里帰りするときはどうするの?」

「里帰りは――」

 

 そう言いかけたときだった。

 食堂の天井隅にあるランプが赤い光を放ち、警報が三秒ほど鳴った。

 

「どうした?」

『前方にアステロイド群を発見。航行速度を落とします』

 

 コンピューターの合成音声が状況を報告する。

 リリアが席を立ち、食堂を出ていく。その後を追って、ダルヤら四人もブリッジへと急いだ。

 

「確かに、すごい密度ね」

 

 いつものようにミクリアが操縦席につく。

 多機能ディスプレイのレーダーには、夥しい数のアステロイドが前方に示されていた。

 

「迂回するか?」

「ううん、大丈夫よ。オートパイロットで安全に通り抜けられるわ」

 

 宇宙船がアステロイド群に入っていく。暗黒に浮かぶ岩塊は、宇宙船を超える大きさのものがほとんどだった。それらが衝突して砕けた破片も浮遊していたが、ミクリアの言う通り、宇宙船は器用に間を縫って進んでいった。

 

 ごつごつとした岩の塊が無数に浮かんでいるという景色の威圧感が強いため、皆の間から緊張感が抜けることはなかった。とはいえ、そこまで心配するほどではない。ある種アトラクションのような気持ちでフロントのガラス窓を眺めていた――そのときだった。

 

「えっ!?」

 

 ミクリアが突然、声をあげた。レーダーに表示されていた左前方のアステロイド――そこから、何かしらの影が分離したのだ。

 顔を上げて窓に目を向ける。すると――

 

「キーギャァアアア!!!」

 

「なっ――」

「何だこいつは!?」

 

 鼓膜を裂くような叫び声と共に、岩陰から怪獣が躍り出てきた。

 クルーたちが驚きの声をあげる。しかし回避が間に合わない。怪獣が振り下ろした腕により、宇宙船が弾き飛ばされる。

 

「きゃあああああっ!?」

「……! バリア残量、20%……!?」

 

 ゲランダに襲われてからの五日間、宇宙船は航行のエネルギーをバリアの修復に一部割いており、その甲斐あって残量80%にまで回復していた。しかし、先程の打撃だけで何と60%も削られてしまったのだ。

 その恐るべき腕力の持ち主はザキラだった。十匹以上のバルを貪り、そのエネルギーを蓄えたことで、強大なパワーを揮えるようになったのだ。

 

「こ、後方にアステロイドが……!」

「ぶつかったら船が持ちませんわ!」

 

 ダルヤはホルスターからバトルナイザーを引き抜いた。

 

「いけ! アリゲラ!

 

≪バトルナイザー モンスロード!≫

 

 バトルナイザーから金色の光が放たれ、船の頭上でアリゲラの姿かたちと化す。

 後方へ吹っ飛ばされていく宇宙船を二枚の翼の間に挟んでキャッチする。船はすんでのところで激突を回避した。

 

「キュアアッ!!」

 

宇宙有翼怪獣 アリゲラ 
体長:55メートル 体重:11,000トン 

 

「た……助かりましたわ」とディオーネが息をつく。

 フィオネは真っ青な顔でへなへなと床にへたり込んでしまった。

 

 リリアは妹たちの無事を確認してから、隣のダルヤに顔を向けた。

 

「この怪獣……まるで私たちを待ち構えていたかのようですね」

「ああ。何を考えてんのかはわかんねえが……喧嘩したいってんなら、相手になるぜ!」

 

 ダルヤがバトルナイザーを掲げる。

 アリゲラは送られてきた思念に反応し、高く鳴きながらザキラへ突進した。

 

「ギギッ! ギギィィイッ!!」

 

 どてっぱらに頭突きを受け、ザキラが呻く。アリゲラはさらに勢いを増してザキラをアステロイドに叩きつけようとした。――しかし。

 

「ギギャァアア!!」

「キュァア!?」

 

 ザキラがアリゲラの首を左右から掴んだ。それでもアリゲラはジェット器官を緩めなかったのだが、その勢いが何故か削がれた。

 ザキラの双眸が血の色に光る。彼もまた宇宙空間を自在に飛行できる怪獣だ。体内からエネルギーを放出することで進行方向を変えたり、速度を上げたりする術は心得ている。今、ザキラは背中から何かしらのエネルギーを放出し、アリゲラの勢いを相殺したのだ。

 

「キーギャァアアア!!」

 

 ザキラはアリゲラの首を掴んだまま振り回す。近くにあったアステロイドの岩壁に叩きつける。その表面が砕け散り、ばらばらと無重力空間内に浮遊した。

 攻撃の手はまだやまない。ザキラは岩壁に足をつけ、またしてもアリゲラを振り回す。ジャイアントスイングしてから上方へと投げ上げた。その先には直径200メートルはある巨大なアステロイドが浮かんでいる。投げ飛ばされた勢いのまま、アリゲラはその表面に激突する。

 

「アリゲラが……!」

 

 窓の近くから戦況を見守っていたリリアが声をあげる。と、同時に気付く。真正面のザキラはすでにアリゲラに目を向けていなかった。宇宙船を真っ直ぐに見据え――中でも、窓を通してリリアを睨んでいるように見えた。

 

 しかし、そこへ――

 ザキラの上方から光弾の雨が降り注ぐ。ザキラが顔を上げると、立ち込める粉塵の中から光弾が飛び出していた。岩壁に叩きつけられたというのに、アリゲラの闘志はまだ消えていない。

 

「ギギィィイイ!!」

 

 足元の岩壁を蹴り、ザキラは上方のアステロイドに突撃する。光弾の雨をすいすいと躱し、粉塵の中に飛び込む。そこに立っていた巨体に飛びつき、二体でごろごろと地表を転がった。

 

「キュァアア!!」

「キーギャァアアア!!」

 

 二体が立ち上がる。巨大なアステロイドはそのぶん引力が強い。二体の怪獣は地面を踏みしめながら戦いを始める。

 

「ギギャァアア!!」

 

 ザキラは立ち上がってから即座に距離を詰め、アリゲラの胸に爪を振り下ろす。

 その痛みに負けず、アリゲラが翼を叩きつける。翼の内側には先端付近に三本の棘が並んでいる。それがザキラの体表を裂き、火花が飛び散る。

 

「キュァアッ!!」

 

 アリゲラは続けざまに尻尾を振り回し、鋭く尖った三又の先端を繰り出す。

 しかし、その攻撃はザキラに受け止められる。尻尾を両手で掴まれ、剛力によって引っ張られる。

 

「キュアァッ!?」

「キーギャァアアア!!」

 

 尻尾を上に振られると、その勢いでアリゲラの体が浮く。ザキラは尻尾を振り下ろし、浮いたアリゲラを地表へと叩きつけた。

 アリゲラは弱々しい呻き声を出すが、ザキラに容赦はない。再び尻尾を持ち上げ、ごつごつとした岩肌へアリゲラを叩きつける。アリゲラがジェット噴射で逃れようとするも、ザキラのパワーを上回ることはできない。アリゲラの体は引っ張られ、宙に弧を描くように振り回されて反対側へと叩きつけられた。

 

「キュァア……ッ!!」

 

「まずい……! こいつ、思ったより強い」

 

 ダルヤは珍しく焦った表情で、リリアら四姉妹の顔を見渡した。

 

「オレは近くから指示を出しにいく。みんなはこの宙域を脱出しろ!」

 

 そう言ったかと思うと、彼の姿は船内から消えていた。

「ダルヤ……」とフィオネの呟きがブリッジに小さく響いた。

 ミクリアはリリアの顔を見て、「どうする?」と訊いた。

 

「……バリア修復のエネルギーをレールキャノンに回して」

「リリアお姉様!?」

 

 それを聞いたディオーネが驚きの声をあげる。

 

「まさか、戦う気ですの? 彼は逃げるよう仰っていましたのに」

「……」

 

 リリアは少しばかり沈黙したが、妹たちの顔を見渡して口を開いた。

 

「あの怪獣はアリゲラより宇宙船を狙っていたわ。もしダルヤが負けるようなことがあれば、この船では逃げられない」

 

 決意の光を瞳に宿し、彼女は毅然と言い放った。

 

「私たちも戦わなくてはいけないわ。この宇宙は、ただ逃げるだけ、ただ守られるだけでは生き抜けない。私たちも最大限、できることをしなければ」

 

 

 

 一方、戦闘が繰り広げられているアステロイドの地表に降り立ったダルヤは、バトルナイザーを掲げ、相棒の怪獣に思念を送っていた。

 

「……キュァアッ!!」

 

 アリゲラの尻尾の先端にエネルギー光球が形成される。ザキラは尻尾の真ん中あたりを握っていたため、放たれた光球は背中に命中する。その爆発に怯んだザキラの手から力が抜ける。その隙に、アリゲラは拘束から逃れる。体勢を立て直し、再びザキラに相対する。

 

『いいぞ、アリゲラ! 撃て!』

 

「キュァアッ!!」

 

 二つのパルス孔にエネルギーが漲り、光弾が発射される。

 それが立て続けにザキラの体を襲う。だが彼はそれに怯まず、反撃に転じる。

 両眼から光線が発射される。蒼白くスパークする赤い光線だ。それがアリゲラの胸とパルス孔に一撃ずつ命中し、特にパルス孔へのダメージはかなり深刻なものになった。

 

「キュアァア……!」

 

 アリゲラが悲鳴をあげる。のしのしと歩を進めたザキラは、その頭部を殴りつける。右から左からと連続で殴打し、最後には首を肩に乗せ、一本背負いのようにしてアリゲラを地表に叩きつけた。

 

(――!)

 

 ザキラの足元に転がるアリゲラは見るからに満身創痍だった。

 ダルヤは思わずバトルナイザーに目を落とす。二番目の液晶にはアリゲラではないもう一体の所持怪獣が映っている。赤い瞳を持った藍鼠色の体躯――それを見詰め、彼は考える。

 

(こいつを出すか……? いや、だが……)

 

 そんな逡巡をしていたときだった。

 ザキラが突然、首を別方向へ向けたのだ。ダルヤもその視線の先を追う。そこには――

 

「ミクリア! 今よ!」

「りょーかい! プラズマレールキャノン、食らいなさいっ!!」

 

 ダルヤとは反対側、そこにリリアたちの宇宙船が浮かんでいた。彼女たちはザキラの目を掻い潜るルート取りをし、アステロイドの逆側に回っていたのだ。

 そして宇宙船の下部からは、格納されていたキャノン砲が展開されていた。金色に輝くビームが砲身から放たれる。宇宙空間を切り裂き、ザキラに向かっていく。

 

「ギギッ!! ギィイイイッ!!」

 

 ザキラは必死に身をよじった。発射の一瞬前に気付いたことで何とか反応ができた。ビームは彼の脇腹を僅かに抉ったのみで、虚空の彼方へと消えていく。

 

『――アリゲラ!』

 

「キュァアアッ!!」

 

 アリゲラが立ち上がる。その翼が振るわれると同時に白銀の剣光が閃いた。宇宙船のビームが作った傷に斬撃を重ねることで、その傷をさらに深くしたのだ。

 しかし、致命傷には至らない。ザキラは呻きながらもアリゲラに蹴りを入れ、突き飛ばす。だが、アリゲラはその勢いを利用して距離を空けた。ジェット器官を働かせ、垂直に飛び上がる。ザキラがそれを追って眼からの怪光線を放つが、紙一重で避けていく。

 

「ミクリア、今度は足元を狙って! 命中させなくてもいいわ。怪獣の視界を奪うのよ!」

「りょーかい! 行けぇーっ!!」

 

 宇宙船の砲身が二発目のビームを放つ。それはザキラの足元に着弾し、地表を砕いた。

 周辺に粉塵が巻き上がられ、無重力空間内でもくもくと立ち込める。それに包まれたザキラは、アリゲラの位置を視認できなくなる。

 

「キュァアアッ!!」

 

 だが、アリゲラには最初から視覚はない。マイクロ波によるレーダーで敵の位置を特定できる。

 アリゲラのジェット器官が唸りをあげる。死力を振り絞り、最高速で砂煙に飛び込む。不意を突かれ、反応できないザキラの脇腹に翼を食い込ませる。硬く鋭い甲殻の翼は傷口から肉を抉り、脇腹から反対側の脇腹までを一気に切り裂いた。

 

「ギギッ……! ギギィィイ……ッ!!」

 

 なおもザキラは赤い瞳に怒りの光を漲らせていたが――

 腹から血が吹きこぼれるにつれてその光が薄れた。やがて怪獣の体は力なく倒れ伏し、荒涼としたアステロイドの地表に爆発四散した。

 

「やったわ!」

 

 四姉妹はハイタッチして歓びを分かち合っていた。

 バトルナイザー内にアリゲラを戻したダルヤも船内に戻ってくる。笑みに満ちた姉妹たちとは裏腹に、彼だけ難しい顔をしていた。

 

「ダルヤ、どうかした?」

「……どうして逃げなかった?」

 

 きょとんとするミクリアに対し、ダルヤは溜め息をつきながら額に手を当てた。

「そうは言っても」と真っ先に答えたのはディオーネだった。最初は反対派だったのに何故か得意げである。豊満な胸の下に腕を組み、挑発的な視線でダルヤを見上げる。

 

「わたくしたちの援護がなければ、勝てなかったのではなくて?」

 

 ダルヤは瞼を下ろし、眉間に皺を寄せたが――

 やがて、観念したように溜め息を落とした。

 そして、姉妹たちの顔を見渡し、言った。

 

「助かったよ。サンキュ」

 

 年頃の少女らしくはしゃぐ彼女たちを眺めながら、ダルヤは心の中で呟くのだった。

 

(まったく……お転婆なお姫様たちだ)

 

 


 

≪登場怪獣≫

 

■渡り鳥怪獣 バル

体長:47メートル

体重:28,000トン

 

『ウルトラマン80』第28話「渡り鳥怪獣の子守歌」に登場。

 

宇宙空間で渡りをする宇宙怪獣。

群れを作り、フォーメーションを組んで飛行する。

気性は穏やかで、戦闘力も高くない。

 

 

■スペース・ジョーズ ザキラ

体長:50メートル

体重:20,000トン

 

『ウルトラマン80』第28話「渡り鳥怪獣の子守歌」に登場。

 

全体的に刺々しいフォルムをした宇宙怪獣。

棘に覆われた背中が外套のような形になっているのが特徴。

パワーとスピードに優れ、バルを捕食することでさらに力を増す。

武器は両眼から放つ赤い怪光線。

 


 

≪用語≫

 

■タビアット星

ダルヤの故郷の星。

表面の90%以上が海であり、海洋生物が数多く棲息している。

アリゲラもその一種であり、ダルヤの相棒のアリゲラは彼の子供の頃からの友達とのこと。

 

■惑星タンザナ

カイルライト四姉妹の故郷の星。

タビアット星とは逆に、陸地の割合のほうが大きい。

 

 

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