ウルトラギャラクシー 四人の姫と怪獣使い   作:幽明卿

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9話 VS 宇宙捕獲メカ獣

 

 

 ネオザルス撃破後、ダルヤはバトルナイザーにアリゲラを戻そうとした。

 しかし、彼は気付く。アリゲラの様子がどこかおかしい。戦闘態勢を崩さないまま、何もない空間にじっと頭を向けている。

 

「キュァアッ!」

 

 それに留まらず、アリゲラは突然前方に向けて光弾を放った。

 空の彼方へ向かって消えていく――かと思われたが、その光弾は空中で何かに阻まれた。ダルヤたちは目を見張る。空中に張り巡らされた電磁シールド。その向こうに、工場のような建物が出現したからだ。

 

「あれは、一体……」

 

 リリアが不審そうに呟いたときだった。

 

『成程、流石はアリゲラ。目には見えずとも超音波で我が工房を探知したというわけか』

 

 辺り一帯に男の声が響いたのだ。ダルヤたちは周囲を見回すが、誰の姿も見えない。そもそも声は横や後ろから聞こえてくるのではなかった。どちらかと言うと、空から降ってくるように聞こえる。

 すると、ダルヤたちの前方にあたる空の一角が陽炎のように歪んだ。そして、その歪みがモニターの役割を果たし、映像が映し出される。

 

 白黒縞模様の体を持った人物だった。頭から胸にかけては兜や鎧にも似た赤い外骨格が纏われている。

 眼は鋭く、蒼白い。顔の真ん中には金色の発光体が縦長に存在している。同じ知的生命体ながらダルヤや四姉妹とは似ても似つかない姿をした、一目見てそれと分かる異星人だった。

 

「……貴方は?」

 

 リリアが空中のビジョンに向かって問いかける。

 

『私はゾゾギガ星人、プロフェッサー・アンサーニ。この惑星ヘイスティに住む者だ。そういう君は惑星タンザナのリリア王女ではないかね?』

 

 ミクリアたちは顔を見合わせる。まさかこんな星に自分たちのことを知っている者がいるとは思っていなかったのだ。

 リリアも言葉を詰まらせる。故郷から追われている身で、自分たちの素性を明かしていいものかと迷っているのだ。

 

 アンサーニは、彼女の内心を見透かしたように言った。

 

『故郷でいざこざがあったようだね。だが安心していい。私は別に、君たちの事情に深入りしたいとは思っていない。

 さっきは失礼したね。私はひっそりとここで研究をしている身だ。突然、侵入者が来て驚いてしまってね。追い返すだけのつもりだったのだが――』

 

 アンサーニはこめかみに指を当てて、ダルヤを一瞥する。

 

『思いの外、本格的な戦いになってしまった』

「……失礼いたしました」

『何、構わないよ。先に手を出したのは私のほうだからね』

 

 顔面の発光体を明滅させながら、アンサーニは続ける。

 

『出会い方は不幸な形となってしまったが……その詫びも兼ねて、我が工房に招待させてくれないかね? 私はしがない研究者でしかないが、科学力については自信がある。何かしら困っていることがあるなら、助けることもできるだろう。どうかね?』

 

 その言葉を聞いて、ミクリアたちは色めき立った。巨大な工房を完全に不可視にする光学迷彩、そして今、会話を可能にしている立体投影技術。それだけでも彼が高度な科学力を持っていることは証明されている。その助けを得られるのなら、この惑星からの脱出も叶えられるかもしれない。

 

「……怪しいな」

 

 しかし、そこへダルヤが口を挟んだ。

 

『怪しい? フフ、何を言うのかね』

「すっとぼけてんじゃねえ。お前はリリアの素性を知っていた。なら、どうして怪獣で襲ってきたんだ? よしんば最初はわかってなかったとしても、途中から怪獣を引っ込めることだってできたはずだ。どうして最後まで戦ってから姿を現わした?」

『……』

「なにか企んでるな。リリアを工房に連れ込み、そのまま誘拐でもするのか?」

 

 歓喜から一転、姉妹たちの間に緊張が走る。

 アンサーニは少しの間、口を噤んでいたが、やがて『フフ』と含み笑いを洩らして言った。

 

『成程。流石はレイオニクス。一筋縄ではいかないものだね』

「そういうお前もレイオニクスだろう。感じるぜ、レイブラッドの因子を」

『同じく。監視カメラが君たちの姿を捉えた時から、君のことは脅威だと思っていたよ』

 

『だが――』とアンサーニは言葉を継ぐ。

 

『私の目的のためにも、リリア王女、君の協力は必要不可欠なのだよ。君の身柄は確保させてもらう』

「させると思うか?」

『君こそ、この私を阻止できると?』

 

 そういう彼の手にはバトルナイザーが握られていた。それをダルヤたちのほうへ突き出すと、白銀の閃光が放たれた。同時に、荒野の工房の中から光の塊が飛んでくる。

 

『征け! ――Σ(シグマ)ズイグル!

 

 光がひときわ強い閃光を放つと、荒野には鋼鉄のボディを持った巨大ロボットが佇んでいた。

 正面から見ると三叉槍のようなシルエットをしている。頭部は横から見ると中央がくり抜かれたリング状であることが分かり、両肩に肩当てのように備わっている部分も同様の形状だ。

 肩当ての下のシャッターが開き、内部からアームが飛び出してくる。警戒するアリゲラにそれを向けると、五本指の先端はそれぞれ砲門となっていた。

 

「キュァアアッ!」

「PiPiPiPiPiPi...」

 

宇宙捕獲メカ獣 Σズイグル 
体長:75メートル 体重:105,000トン 

 

 不気味な電子音を鳴らすΣズイグルは、その赤い単眼をダルヤたちの方角へ向ける。

 すると、目の下に隠されていたシャッターが開いた。そこは正方形のスペースとなっており、内部に四基の砲門が口を開いていた。

 

 ダルヤがアリゲラに指示を出すより先に砲門がエネルギー弾を発射する。それはダルヤたちのほうへ向かっていったが、明らかに命中する軌道ではなかった。上空を通り過ぎるはずのように見える。

 しかし、それは彼らの頭上で突如破裂した。驚く皆の頭上から銀色の光が降り注ぎ――

 

「――リリア!?」

「リリア姉さん!」

 

 光が銀粉のような固形状と変わり、リリアの体を覆い尽くしたのだ。

 それはあっという間にひとつのオブジェクトを作り上げる。十字架の形をした棺桶とでも言うべきものだった。中央には窓が設けられており、中にリリアが閉じ込められているのが見える。棺の形に合うように、両腕を左右に広げさせられている。

 

「リリアお姉様!」

 

 ディオーネが駆け寄る。光線銃を取り出して構え――そして躊躇する。どこを撃てばリリアを傷つけずにこの棺が壊せるのか、分からなかったのだ。

 

「アリゲラ! そいつを止めろ!」

 

「キュァアッ!」

 

 Σズイグルに向けてアリゲラが突進する。しかし、Σズイグルは指先をアリゲラに向けて光弾を連射した。悲鳴と共に、アリゲラの姿が爆煙の中に消える。

 

「Trrrrrrrr...」

 

 Σズイグルの胴体にあった砲門は体内に格納され、代わりにシャッター内部には十字架状の凹みが現れていた。そこから青白い光線が放たれる。遠く離れたダルヤたちの元まで届き、リリアを収めた棺を宙に浮遊させた。

 

「みんな……!」

「お姉様ぁっ!」

 

 地上を離れた棺は、光線に吸い込まれるようにしてロボットの元へ飛んでいく。妹たちの悲痛な叫びも空しく、棺がΣズイグルの凹みに収められてしまう。

 身を起こして反撃に出ようとしたアリゲラを見て、ダルヤは制止の指示を出す。リリアが囚われている今、攻撃すると彼女の身が危ない。

 

『よし。Σズイグル、今すぐ王女を工房へ転送しろ!』

 

 このまま人質にされると戦いようがない。ダルヤがそう思っていたところ、アンサーニは意外にもその権利を手放す選択に出た。

 その理由は――上空の映像が途切れる間際に彼が口にした言葉が表していた。

 

『これで長年の努力が報われる……! 私が宇宙最高の存在となる時が来たのだ! フハハハハ!!』

「なに……?!」

 

 Σズイグルが工房のほうを向き、光線を放ってリリアを転送する。

 己の任務を終えた後も、Σズイグルはアリゲラのほうを振り向いて戦闘態勢をとる。主人のために時間稼ぎをするつもりのようだ。

 

「アリゲラっ!」

 

「キュィィイイイッ!!」

 

 アリゲラが高く叫ぶ。パルス孔から光弾を連射する。

 Σズイグルもまたそれに対抗する。両手をアリゲラに向け、十の砲門から光弾を放つ。

 

「キュァア!!」

「GUOOOOOOOOON...」

 

 互いの光弾が乱れ飛ぶ。一部は空中で相殺され、爆風を巻き起こす。その残りは互いに相手の体を捉える。甲殻に覆われたアリゲラの体を襲い、鋼鉄で造られたΣズイグルのボディを襲う。

 互いにノーガードの撃ちあい。しかしそうなれば、機械よりも生物が先に音を上げるのが道理だ。ただでさえネオザルス戦のダメージが残っていたアリゲラが光弾の勢いを弱めてしまう。

 

「くっ……!」

 

 次々と光弾が命中し、爆発を起こし、それが連鎖する。

 アリゲラの痛ましい声が響き渡る。やがて、巨大な爆発がその体躯を呑み込んだ――

 

「あぁ……っ!」

「アリゲラ……!」

 

 ミクリアとフィオネが声をあげる。

 一方、Σズイグルは「PiPiPiPiPiPi...」と探知音を鳴らす。

 爆煙が薄れていく。すると――

 

「――アリゲラ!」

 

 そこには、大地を踏みしめて立つアリゲラの姿があった。やや屈むようにし、そして体の前に両翼を翳している。アリゲラの翼は堅い甲殻を纏っており、なおかつ長大だ。それを盾代わりにして身を守ったのだ。

 

「いけ! そのまま突っ込め!」

 

「キュァアッ!!」

 

 アリゲラの進撃が大地を鳴動させる。

 翼を構えながらの盾突撃(シールドバッシュ)。迎撃するΣズイグルの光弾をものともせず突き進む。相手の鋼鉄のボディに翼を押し付ける。そのまま押そうとするが、相手は10万トンを超える重量の持ち主だ。重すぎてびくともしない。

 

「キュァアオオン……!」

 

「アリゲラ――!」

「頑張って! もう少しよー!!」

 

「――キュィィイイッ!!」

 

 姉妹たちの声がアリゲラの背を押す。

 背部のジェット器官がエネルギーを噴出する。その勢いを加え、Σズイグルの巨体を押す。Σズイグルの足が荒野の地に二本の深い轍を刻んでいく。

 

 そして、押していった先には――工房の前に張り巡らされている電磁シールドがあった。

 Σズイグルがそれに激突する。その鋼鉄のボディに高圧電流が流れ、体の至るところから火花が弾ける。Σズイグルはシールドを破って工房の敷地へと後退するが、その動作は覚束なく、明らかに回路に異常をきたしていた。

 

「とどめだ!」

 

「キュァアアッ!!」

 

 尻尾の先端に光球を形成する。身を翻すと共に尻尾を振り抜き、光球を投げつける。挙動がおかしくなっているΣズイグルのどてっぱらにクリーンヒットすれば、その機能は完全に停止する。ボディの全体に行き渡ったエネルギーが爆発を引き起こし、Σズイグルは木っ端微塵に砕け散った。

 

「よし……! よくやった、アリゲラ!」

 

 ダルヤはアリゲラをバトルナイザーに戻し、ミクリアたちに言った。

 

「急ぐぞ! リリアを助ける!」

「ええ! 行きましょう!」

 

 荒野を突っ切り、Σズイグルが開けた穴から敷地内に侵入する。正面に見えていたのは建物の側面だったようで、入口らしきものは見当たらない。が、ダルヤはオーラを纏った拳を叩きつけ、無理やり入口を作った。

 

 内部は何かしらの実験部屋になっていた。その部屋のドアから出ると、殺風景な廊下が左右に続いている。壁には多数のドアが立ち並んでおり、同じような実験部屋がたくさんあるのだろうと思われた。

 ミクリアは手分けして探すことを提案したが、「いや」とダルヤは首を横に振った。

 

「やみくもに探しても間に合わない。オレが奴のレイブラッド因子を探る」

 

 彼は膝を突き、床に手のひらを当てた。目を瞑って感覚を研ぎ澄ます。自分と同じ因子を建物内から探り当てようとする。しかし、少しして彼は「くそっ」と吐き捨てながら立ち上がった。

 

「建物は地下にかなりの規模で広がっているみたいだ。探り当てられない」

「そんな……! では、どういたしますの?!」

「一応、巨大な生命反応が感知できた。奴の怪獣だとしたら、奴もそこにいるかもしれない。まずはそこに行こう。地下に潜れば、接近できて探知できるかもしれないしな」

「でも、どうやって……?」

 

 首をひねるディオーネたちを下がらせ、ダルヤは床に拳を叩きつけた。大きな衝撃が走り、床材に亀裂が入る。次の瞬間、床が崩れ、ダルヤは階下の部屋に落下した。

 

「ダルヤ様!?」

「大丈夫だ! みんなも飛び降りてこい! 受け止める!」

 

 それを繰り返し、ダルヤたちは目的の場所まで近づいていく。

 生命反応がある部屋と同じ階まで降り立つと、四人は廊下を走った。その途中で、ダルヤは三人に疑問を投げかける。

 

「敵はリリアだけを狙っていた。そして、あいつの存在で研究が完成するようなことも言っていた。何故だ? 心当たりはあるか?」

「……それは」

 

 浮かない顔をしながら、ミクリアは答えた。

 

「たぶん、リリアの特異体質のことだと思う」

 

 

   ★

 

 

「一体、何を企んでいるのですか?」

 

 一方、リリアのほうは――

 建物の地下にあるアンサーニの実験室に連れ込まれていた。部屋の奥には大きなカプセルが立てられており、今はその前面の扉が開かれている。カプセルの上部と下部にはケーブルが接続されており、それは部屋中央にあるもうひとつのカプセルと繋がっている。その中には水色に透き通る、3メートルほどもある巨大な鉱石が収められていた。

 

 リリアは奥のカプセルに収められていた。もちろん身動きは許されておらず、十字架にかけられるような体勢で固定されている。カプセルの外側には下着もろとも着衣が放り出されており、雪花石膏と見紛うほどの美しい裸体がさらけ出されていた。

 

 そんな状態にありながらもリリアは毅然とした態度を崩さず、アンサーニを問いただす。

 忙しなく室内で作業していたアンサーニは、手と足を動かしたまま答えた。

 

「私が宇宙最高の存在になるための計画だよ。私の宇宙最高の頭脳と、私が創り出した宇宙最強の肉体を融合させる。つまるところ、怪獣との融合だ。私はそのために、こんな辺鄙な惑星まで来てこの工房を建てたのだ」

「一体、どうやって……」

「理論はすでに確立できている。ただ、そのためには莫大なエネルギーが必要でね。そこで、君の特殊能力を利用する。『生命力の譲渡』という能力をね」

 

 リリアは閉口する。何故、この男がそれを知っているのか。

 アンサーニは含み笑いを洩らしながら言う。

 

「惑星タンザナは異星人との交流があるだろう? 君たちが異星人から情報を仕入れているように、我々も情報を得ているのだよ。特に、カイルライト王家が代々持つ特異体質というのは興味を惹かれた」

「……では、貴方はこの星で私たちを待っていたと?」

「いいや。それは偶然に過ぎない。それも計画の内なら、今こうして準備に奔走してなどいないさ。フフ、本当に天から降ってきた僥倖だよ。君と出会えたのはね」

 

「本来の計画は――」アンサーニは部屋中央の鉱石に目を向ける。

 

「この惑星から採取できる鉱石『マーポワ』を利用するものだった。これは周囲にいる生物から生命エネルギーを吸収するという特殊な性質を有していてね。私はそれに目をつけた。この星に息づく生命はまだ小さく、か弱いものしかないが――そこに怪獣を放り込めば、マーポワは膨大なエネルギーを貯め込むことになるのではないか。そう考えたんだ。

 しかし、この計画には穴があってね。思ったよりマーポワのエネルギー吸収効率が悪かったんだ。たとえ怪獣が近くに棲息していたとしても、ほんの少しずつしかエネルギーを蓄積しない。これでは計画の完遂には気の遠くなる年月が必要だと計算された」

 

 リリアは目を見開く。

 

「では、マリキュラやクロノームは貴方がこの星に放った怪獣というわけですか」

「ん? ああ、数十体は解放したから仔細は覚えていないが……そんな奴らもいたかもしれないね」

「貴方は同じ怪獣使いと言っても、ダルヤとは全然違うようですね」

「あのレイオニクスのことか? まあ、どう思ってくれても構わないが――」

 

 アンサーニはリリアに近づき、顔の発光体を明滅させる。

 

「――あの男は本当に信頼できる存在なのかね?」

 

 リリアは眉を顰め、アンサーニを睨みつける。

 

「できます。彼は私たちを守り、助けてくれました。見返りもなしにです。己の持つ力の責任を果たし、弱い者を守る――彼の心は、そのような正義の心で澄んでいます。貴方とは違う」

 

「そうかそうか」とアンサーニは笑う。

 

「何がおかしいのですか」

「君は彼のことを何も分かっていない。――あの男はレイオニクス。かつて全宇宙を支配したレイブラッド星人の因子を受け継ぎ、その跡継ぎとなるべく戦う者。この宇宙を制し、至高の存在となろうとしている点で、彼も私と同類なのだよ」

 

 世迷言を――と、リリアは激語を飛ばしたかった。しかし、その言葉は喉の奥に引っ掛かり、唇を割ることはなかった。

 彼女はダルヤが何故怪獣を駆っているのか知らなかった。アンサーニの言葉を鵜呑みにするわけではないし、ダルヤへの信頼が揺らぐこともない。だが、相手の言葉を真っ向から否定できるほど、彼女は彼のことを知っているわけでもなかった。

 

「まあ、そんなことはどうでもいい。君はこれから死ぬのだから。この瑞々しい身体に満ちる生命力を、この私に献上してね」

 

 磔にされたリリアに近づいたアンサーニは、彼女の太腿に手を添わし、上に向けて撫でていった。彼女の背中にぞわりと悪寒が走る。恐怖と嫌悪感で歪んだその表情を愉快そうに眺めながら、アンサーニはリリアの胸を()()()()と揉みしだいた。丸く瑞々しく、マシュマロのように柔らかで豊満な肉鞠が、異星人の手の中で形を歪める。

 

「やっ……やめなさい……!」

「フフ。このまま君を辱めるのも興が乗りそうだが――」

 

 アンサーニは踵を返し、手に持ったリモコンを操作した。

 リリアを包んでいたカプセルの扉が閉められる。隙間が生じないように機械が駆動し、内部が密閉される。

 

「……!」

 

 リリアは息を呑む。不安そうに視線を巡らせる。カプセル内が青白い妖光で満たされ、重々しい機械の駆動音が焦燥を駆り立てる。

 次の瞬間、リリアの全身に激痛が走った。まるで、磔にされた体が外側に向けて引っ張られているかのようで、手足や首が引き千切れてしまいそうだと思った。彼女の喉は絶叫を放つが、分厚いカプセルの壁に阻まれて外には漏れない。

 

「あ゛ッ、が、あ゛、あ、ァアアアアアアアア――――ッッ!!!」

 

 その様子をアンサーニは満足そうに眺めている。

 カプセル内では、リリアから抽出された白色のエネルギーがケーブルを伝って鉱石「マーポワ」へと送り込まれていた。

 

「あああぁあああ!!! あッ、ぐ、ァああ!! あぁああっ!! ぅあああああああああっっ!!!」

 

 体が張り裂けてしまいそうな痛みなのに、固定されているせいで暴れることすらできない。勝手に溢れる絶叫は喉を潰してしまいそうな声量だが、その痛みが紛れるほど、全身の痛みは強烈だった。

 リリアの視界が涙で滲む。世界がぼやけていく中で、彼女の頭にはただひとつの願いが浮かぶ。

 

(ダ……ル、ヤ……)

(たす…………け……)

(…………………………て……………)

 

 それは、妹たちを守らなければならないという長女としての責務も忘れた、純粋で切実な願いだった。

 

 

   ★

 

 

「『生命力の譲渡』……?」

 

 時は少し遡って――

 ミクリアの口から出てきた言葉をダルヤは訊き返していた。

 

「リリアは自分の生命力を他のものに分け与えることができるの。例えば、枯れた花をまた咲かせたり、ペットの切り傷を治したりとか」

 

「子供の頃――」と、ディオーネが口を挟む。

 

「わたくしが高熱を出して生死の境を彷徨ったことがありましたわ。それをリリアお姉様が治してくださったのです。手を握ってくださって、そこから温かい何かが流れ込む感覚がして、気がついたら体のだるさや頭痛は全部消えていましたわ。ですが――」

 

 ミクリアがその後を継ぐ。

 

「『譲渡』……なのよね。代償もなしに扱える能力じゃなかったの。さっき言った、花を咲かせたりとかなら、寝て起きたら回復できるくらいなのだけど……」

「わたくしの病気を治してくださったときは、直後にお姉様のほうが倒れてしまって。一週間かけて回復はしましたけれど、その後も運動能力や臓器機能が低下していたと聞きましたわ」

 

 言いながら、ディオーネは心苦しそうに眉を曇らせていた。

 

「つまり、扱い方によっては寿命を削る危険もある能力だったの。だから、お父様からもお医者様からも能力の使用は厳禁と命じられていたわ。――もし、アンサーニっていうあの男がリリアの生命力を狙っているんだとしたら……」

 

 四人の間に沈黙が流れた。最悪の事態は口に出したくもないのだ。

 だが、心の中は一致している。絶対にそんなことはさせない。必ずリリアを見つけ出し、救い出す。その一心だ。

 

 そうしているうちに、ダルヤが生命反応を感知した部屋に辿り着いた。床をぶち抜く要領で、ロックされた扉を吹き飛ばす。踏み込んだ内部は――

 

「これは……!?」

 

 フィオネの声が高く響く。室内は100mはありそうなほど天井が高く、広々とした部屋になっていた。辺りにはコンピューターや何かしらの機器が並べられている。だが、最初に四人の目を引いたのはそれらではなかった。

 

「怪獣……」

 

 ディオーネが躊躇いがちに歩を進める。

 ――部屋の奥。その壁にもたれるようにして、巨大な怪獣の影があったのだ。

 

 鮮やかな群青色に染まった体表に、ところどころ赤の差し色が入った体躯。丸みを帯びた小さな頭部から太い首が続き、胴体や手足にはまるで鎧のように甲殻が纏われている。背には、中をくり抜いた三角形の背鰭が並び、刃を思わせる鋭さを帯びている。

 

 その怪獣の眼は開かれていたが、光を失っていた。ダルヤが生命反応を感知したのだから、生きてはいるだろう。眠っているのだろうか。ただし、寝息のようなものは聞こえてこない。まるで、死んだように黙している。

 

 そして、その首や手足、尻尾には厳重な拘束が施されていた。周囲の壁からアームが伸び、全身の至るところに手錠のような拘束具を巻きつけている。よく見ると、口にも猿轡がされていた。体を動かすことも、口を開けることも許されていないのだ。

 

 ダルヤ、フィオネ、ディオーネが怪獣を見上げる中、ミクリアはデスクの上に置かれてあったノート状の端末機器に気付いた。それを開くと、リアルなホログラムが紙の本のようにページを形成する。ミクリアはそれをぱらぱらとめくり、中身に目を通した。

 

「ギガロガイザ……」

 

 彼女の呟きに、三人が振り返る。

 

「この怪獣の名前みたい。銀河皇獣、ギガロガイザ――」

 

銀河皇獣 ギガロガイザ 
体長:61メートル 体重:48,000トン 

 

 


 

≪登場怪獣≫

 

■宇宙捕獲メカ獣 Σズイグル

体長:75メートル

体重:105,000トン

 

『ウルトラマンガイア』第41話「アグル復活」に登場。

 

鋼鉄のボディを持つロボット怪獣。

主な用途は人間の捕獲であり、胸のシャッター内に閉じ込めてしまう。

武器は指の砲門から放つ追尾弾と光弾。

ただし、捕獲特化であるためか戦闘力は控えめ。

 


 

≪登場人物≫

 

■ゾゾギガ星人 アンサーニ

ゾゾギガ星のレイオニクス。

惑星ヘイスティに存在する宇宙鉱石「マーポワ」に目をつけ、研究所兼工房を設立していた。

その目的はマーポワに怪獣の生命力を吸収させ、蓄積させたエネルギーによって怪獣との融合を果たすこと。

マーポワのエネルギー吸収効率が低かったため計画が難航していたところ、「生命力の譲渡」という能力を持つリリアが現れ、彼女を利用する方向へ計画を変更した。

 

所持怪獣:ネオザルス、Σズイグル、□□□□□□□□

 


 

≪用語≫

 

■リリアの特異体質

リリアの特異体質は「生命力の譲渡」。

自身が持つ生命エネルギーを他のものに分け与えることができる。

生命力は自身のものを消費しなければならない。枯れた花を再び咲かせる、小動物のちょっとした傷を治す程度なら、一日寝れば回復できるものの、人間の重い病を治すほどになれば、自身の寿命まで削ってしまう。

医者や父親からは危ぶまれ、能力の使用を禁じられていた。

 

 

■宇宙鉱石 マーポワ

生物から生命エネルギーを吸収する性質を持つ鉱石。

惑星ヘイスティに多く存在しており、ゾゾギガ星人アンサーニは怪獣を持ち込んでその膨大なエネルギーを吸収・蓄積させようとしていた。

 

アンサーニの計画が難航したのは、この鉱石のエネルギー吸収効率の悪さが原因だとされている。

ただし、彼が惑星に放った怪獣たちは、環境の劇的な変化や食料が枯渇しているといった理由で衰弱しており、怪獣の生命力がそもそも低下していたというのも計画が遅れた一因である。

 

 

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