ビバ、カスみたいな春休み。
目を覚ますと俺は、見慣れぬ天井を見上げていた。
白に黒の斑点がぽつぽつと、なんだこれ無性に数えたくなるぞ。
一人で天井で暇を潰していると、部屋に黒衣の男が様子を窺うようにやってきた。
「“あ、起きました?その、身体大丈夫ですか?生身で銃弾を喰らって...“」
と、男は俺のことを心配する。
「心配するなら攻撃するなよ」と言いたいところだったが、そもそも喧嘩売ったのは自分だった。反省反省。
というか、この男は何を言っているんだ?こんだけ分厚い板金鎧着てる奴に「生身」って。持たざる者とか魔術師とか見たら泡吹いて倒れるんじゃねえか?こいつ。
てかジュウダン、ってなんだ?あの激痛が急に襲いかかってくる呪術か魔術か奇跡の類か?
「“えっと、どこか不味いところでもあったかい?“」
そう男は聞き返してくる。
おっと、俺としたことが質問を黙認するとは。YESかNOでしか基本返事をしない不死人あるまじき行為だったな。
「あぁ、特に別状ないさ。
ところでさっき貴公が言っていた、ジュウダンというものは一体?魔術か?それとも奇跡の類か?」
そう尋ねると、男はあんぐりと口を開け、ちょっと待っててね。とだけ伝えて部屋を後にする。
...あそこまで“愕然“を表情にすることが出来るものなのだな。
奇跡や魔術を知らないとは...
まさかあいつ
俺が一人で物思いに耽っていると、ガラリと再び扉が開かれる。
随分騒がしく、どうやら先ほどの男が俺をボコボコにしてくれた手下を呼んできたらしい、複数戦とは忌々しい。だが屈さんぞ!俺は!!
一人で勝手な勘違いをしていると、全力で騒ぎ立てる黒髪獣耳少女の声が俺の耳を劈く。
「だから!奇跡も魔法も無いんだよ!!」
と、全純魔と全アンバサがバチギレながら雷の杭とソウルの結晶槍をぶっ放してきそうな台詞が俺の耳に入る。
まぁ、俺も馬鹿ではない。大体先程の会話と、転送時点の風景で全てを察した。この世界、俺のいたロスリックとは常識が180°違う。
ギリガンも尻尾を巻いて逃げ出すレベルで、こっちの常識が通用しない。
...いや、分かってはいた、薄々。だが認めたくなかったのだ、俺が、ロスリックから追い出されたことを。
今頃ロスリックでは数多くの灰が強敵に挑み、そして散っていっているのだろう...ああ羨ましい。
まあ、俺が幾ら彼の地を羨望したとしてもこの世界に存在“してしまっている“現状は変わらない、切り替えていこう。切り替えは得意だ。
そうして切り替えた俺は、目の前の少女にこう告げる。
「奇跡も魔法も奇跡もあるんだよ。」
俺がそう言った途端、一瞬にして場の空気が凍る。
ビビった、あんな空気が凍ることってあるんだ。俺も
「えっと...なんか、ごめん。」
と、自分より一回り年下*2の少女に気を遣われ、またもや俺のメンタルに大ダメージ、辛いかも。
ここで奇跡なり魔術なりを詠唱して、自身の潔白を証明してもいいが、これで失敗してしまったら...考えたくもない。多分何処か遠いところに隔離されて終わりだ。
それにもう一つ理由がある、
故にこんなところでFPを消費するわけにはいかないのだ、俺自信FPが多い方ではないし...
兎に角、ここはロスリックで鍛えられた話術、話術...
話術...??
思い返せば、俺のロスリックの旅路は基本暴力と流されで成立していた。流され、殺して、流され...
この男、自分からコミュニケーションを取ったことがないのだ!!
「えっと、兎に角君が魔法を使えるのは分かったから、どうしておじさん達に襲いかかってきたの?」
と、ピンク髪が話を振ってくれる。
女神か、これが。まるで伝承にあるグウィネヴィアのようだ...と内心恍惚しながら、表面上は毅然と受け答えする。
「直感、というべきかな。貴公等は自身を安全と主張したが、そんな物騒な騒ぎを起こしている連中のことを易々と信頼できるか?」
と、我ながら100点満点のアンサーを叩き出した。
「双眼鏡で覗き見してた人間がそれを言っちゃうか...」
なんと、150点で返された。
分かった、降参だ。
何を言ってもこれ悪い方向にしか転ばねえ!そう気づいた俺は全てをゲロっちまうことにした。いや、全ては無理だな、部分的に。
「いや、分かった。正直に話す。俺はこことは違う世界で生まれ育ったんだ。勿論だからここの常識も分からないし、価値観も貴公等とは違う。突飛な話ではあるが、分かってくれ。俺が一番この状況に困惑しているんだ。」
と、早口で捲し立てる。
「いけたか...?」と少女等を見ると、「何言ってんだ?こいつ」という表情が丸出しだった。蛙の子は蛙だな...
「わかった、証拠が欲しいんだろ?分かったよ!」
と半ギレで貴重なFPを消費し、偶々記憶していた奇跡「雷の剣」を詠唱した。
すると、ただの長剣が雷を纏い、バチバチと弾ける音を立てた。
明らか少女達の視線が変わる、不審者を見るような目から、怪しい人を見るような目に変わった。やったな、進歩だぞ。
俺を見る目が変わったのは少女達だけではない、勿論男もだ。
だが、その男は少し、いやかなり少女達とは異なる反応を見せた。
「なにこれカッコいいーー!?!?」
テンションが2段階、いや8段階くらい昂っている。
だが「褒められる」という経験が著しく欠如していた俺は、ついその歓声に気持ちよさを見出してしまった。
自己顕示欲の芽生えである。
「フフ、そうだろう?貴公、だがこれは初歩に過ぎないぞ。」
とドヤ顔でいそいそと杖を取り出す。
「刮目せよ、魔術の粋を!!」
ソウルの奔流!!!
その奔流は、辺りを呑み込み、そして壁に大穴を開けながら空の彼方まで貫いていった。
流石にこれを見ると、少女達も「本物」だと信じてくれたのか。
「嘘...?本物の魔法使い...?」
「ん、手品にしては派手すぎる。」
「とても綺麗でしたね〜☆」
「いやぁ、何があるかわかんないもんだねぇ〜」
と口々に感嘆を漏らす。
男は、理解不能の言語を極度の興奮状態で喚き散らかしている。元気だな。
あぁ、満たされていく。ロスリックでは絶対得られなかった自己承認欲求...と俺がツヤツヤしていると。
扉の向こうから、明確な殺意を感じた。
思わず息を呑んでしまうレベルの殺意である。
そして、扉が音を立てずにスライドし、その奥には青筋を立てた眼鏡の少女が仁王立ちしていた。
「何を、しているのですか?」
そうピキピキしながら、俺に尋ねてきた。
俺は、愚かだった。自己承認欲求が満たされていく初めて経験する快感に溺れていたのだ。
何を血迷ったか俺は
「おっ、貴公も見たいのか、俺の魔術が。仕方がない、特別だぞ!!」
そう言いながら、「太陽の光の槍」をまだ穴の空いていない壁に、勢いよく叩き付けた。
岩のウロコをも貫くその槍は、ボロい建物の壁など易々と破壊し、もう一つ大穴が空いた。
「どうした、貴公?まさかこの奇跡に心奪われたか?残念貴公、これを使うには貴公は余りにも信仰がああああああ!?」
勢いよく、眼鏡の少女に〆られたのだ。
俺は窒息という新手の苦しみを味わいながら、意識を手放した。
(ロスリックよりこえーよ、ここ。)
自業自得である。