機装少女戦・フェアリーメイデン!~模型の国のプラスチック・プリンセス~   作:もにもに+マウンテンヘッド

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×本編 まとめ版×
第一話・俺に天使が舞い降りた!


 

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

Ⓒたたぽぽ氏

 

 

 

 

~fairy maiden~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あっ、はっ、」

 

 

 

 

…薄明かりの闇の中、少女の喘ぎが響いている。

 

 

 

 

「あっ、ぁっ、あっ…はっ、うぅん」

 

 

 

 

琥珀色の蜜のような、甘い声…ー

毎日、いっしょに深夜アニメを見てからのこの時間が、彼女にとっての〈 楽しみ 〉だった。

 

 

 

 

「はぁっ…ーあっ、はぁっ、あぁはぁっあ…っ、」

 

 

 

 

喘ぎに、水気が混じり始めた。

熱と上気によって少女の顔は桜色に息づき、夢中の身じろぎによって服の布が擦れる音が、掻き解かした髪の流れるしゅるり、という音が、求めるように唇をなぞる指先のしなりが、それからピンセットの先で掴んだ水転写デカールを、水鉢に張ったマークセッターの水溶液にぴしゃぴしゃと入没させる音が、それからそれから部屋の中の空気に揮発した溶剤分を排出する為の、窓の一部に取り付けた簡易換気扇が作動する音だけが、この部屋の中のすべてであった。

 

 

 

 

「はぁっ…ーあぁっ!!」

 

 

 

 

少女の快楽が、絶頂に達した!

 

…ーそれは、今この目の前の、とある年上の……便宜的に少年と呼ぶ……が手の中で作り上げた1/20傭兵軍SAFSスーツへの所属デカール貼りがなされた瞬間が、たった今だからに他ならなかった。

 

 

 

「うぅ~ん! やっぱり! コウスケさん! は! すごいです!」

 

 

 

ふがふがと鼻息を荒げながら、不健康な興奮で汗ばんだ己の顔を、ぐい、っとこちらに近づけてくる少女…だから、近いって、

 

 

かといって、不快ではない。

垢抜けている、というよりかはむしろ美少女なその色白の端正な顔立ち。金色の髪に、同じく金の瞳。邦内一般での知名度は低いが、とある洋物の高級シャンプーの匂い…こんななりだが、一応日本の国籍も持っている。

 

 

中学生というよりは小学生の外見だが、これでも中学一年生だ。

 

 

それでも、夜中の三時を下回っている今、どのみちこんな年齢の少女が異性の家に遊びに来ているなど、青少年健全育成条例違反には違いない。

 

それを、今、部屋の扉の横で控えている少女のメイドのカレンさん(27)が保護者代理として付き添うことで、(少女としては)アウアウ! おさわりまんこっちです! にはしていないつもりらしい。

 

 

まぁ、とにかく、

 

 

 

「これで、本番はいけるか?」

 

「バッチリですぅ! 生本番! イっちゃいます!」

 

 

 

なにか妙なイントネーションの置き方だった気もしなくはない。

まるでキュアサンシャイン…というか太陽のような、この上ない程の満面の笑みを浮かべた少女…アーノルド・栗田 有栖に、スタンドライトの光を反射させて遮られている眼鏡レンズの下の瞳を呆れたように細めさせたこの少年…鶴来、浩介。

 

 

 

高等部と中等部…自分とこの少女とは学校の先輩と後輩の関係だが、それ以外にも色々と浅くない縁があるので、こうやって有栖のわがままを聞いてあれこれ手伝っているのが、この少年の毎日であった。

 

 

 

まぁ、お互い不登校同然なので学校はあまり関係ないだろうけども、と浩介は思う。

 

 

 

振り回されているというか……このエンジンユニットの擬人化かの如き小娘にジェット推進させられている、という気分だったが、それでも、楽しくないか、と聞かれれば、YES、である。

 

 

 

だから断れないのだ。…ーと少年は嘆息した。

 

 

 

「かしてくださいっ」

 

 

 

まるで意中の相手への思いあまっての告白かのようにそれだけを発すると、彼女はコウスケの手から“サイコーにかっこいい洋式便器”ことSAFSをひったくり、コウスケ的には“ウォッシング”…ー汚し塗装…ーを加えていないので完成度80パーセント未満であるそれを、まるで無二の宝物であるかのように、有栖は丹念に視姦しはじめた。

 

 

 

「ほぉーぉおほっ」

 

 

 

まだ定着しきってないデカール貼付部には、少女は細心の注意を払っている…白魚の腹の身より細くてしなやかな、白い指。それで慎重に、張り付けてトップコートもしていない故にまだ定着が弱いデカール箇所を、触れないようにしているのだ…毎度、浩介の関心することの一つだった。

塗装、形状、各部の改修箇所…ーそれらをまじまじと観察/分析されると、なんだかこっちまで気恥ずかしくなってくる。顔の鼻の毛穴の数を数えられている気分、というか、

 

そして有栖はちらり、とそこの箇所に目が止まったようで、

 

 

 

「やっぱり、胸部側面のインディケーションランプのポッチを、クリアーの延ばしランナーにしたのがキいてますなぁ」

 

 

「だろ? ピンバイスで穴開けて、刺してカットしてからもっかい軽く炙って、そんで上からアクリジョンのクリアーカラーよ……でもよ、俺みてーな未成年が百均で使い捨てライター買おうとすると店員がジロ、ってみてくるの。

“電子タバコ全盛のこのご時世なイマドキに、どこぞの問題浮浪児界隈でもないのに、なんのヨコシマな使い道をするんだか”、

って言わんばかりにね。

だから、昔懐かしの棒線香でやったワケ。綺麗に炙れてるだろ?」

 

 

「そのプラモスピリット、10000を越えてます!」

 

 

 

いまなら天地大河にもなれます! と有栖はぴょんぴょん飛び跳ねながらほめてくれたのだが、どうせならサッキー竹田とかチョーダイおじさんとか村尾ゴジラさんらとかカスタム堀井やオギータ研究所の人だとかの方にコウスケはなりたかった。…のは蛇足。

 

 

 

ちなみに今回の“ウォーミング・アップ”としてパトロンに指定された依頼ブツであるSAFSを片づけたならば、次はホンバン…ライドアーマー・モスピーダ、その次がMADOXー01だ。

これというのも、半世紀前には考えられなかったようなシロモノである。

野心的商品展開をしている、あるメーカーから出ているそれらは、唸るほどビッグ・ボリュームのアイテム。

もっと詳説するならば、それぞれは1/10相当のスケールで……(そう! 完成した暁には、中に(それ)が乗りこんで、そのようなことが、そうできる、できてしまう……いうならば昔ながらの純然たる純プラモというよりかは、今どきの模型分野の事情の御多分に漏れず、半分、動力付きトイのような仕立てのキットなのだ)……の、2つのそれを一月かけて制作する。

まっこと、有り難い時代だ。だが……今のご時世キットがあるとはいえ、ほとんど全身に手を入れる…お手入れする…つもりなのだから、結構こっちだって必死だった。

なぜか? このキットは、半完成品の組み立て式トイに近しい形態故に、

細部のディテールや部品の成型品質が、大振りというか、少々甘かったり……。

モスピーダもマドックスも、何回かの流行りを経て、兼ねてより国内外にファンが多かったモチーフ。

そのキットらの発売からしばらくたって、現実/電網上問わずの“アリーナ”や“コロシアム”、“スタジアム”といった各ALEX対戦界隈では、専用部門が設けられるほどに、同機種使いの乱戦で入れ食い状態だ。

そして、今回の依頼者は、コウスケの仕上げた完成度の機体で、“魅力的な、つまるところの、映え”と“ただ素組して出場しているだけの他の選手には得ることができない、オンリーワンのスペシャリティ”を得たいと目論んでいるとのこと。

なので、前述のそこを“お手入れ”して、1/10というスケールにふさわしい、理想の出来栄えにしてやろう、さすれば、今どきの超解像度カメラによる映像撮影のされる試合であっても、その最中はもちろん勝利した後のヒーローインタビューでの超接写ショットだって!

……というのが浩介のその企みだったのだ。

 

 

「ぐへひひぃ、ほ、ほほ本番の時は、もっとすごくなっちゃうんだな?(ホムンクルスのグラトニー…ハガレン)」

 

 

「そらそうよ(猛虎弁)、なんつったって獲物が美プラのとおなじスケールだぜ? つまり!ってことさ。

やれることも、やりたいことも、たくさんある」

 

 

「やれちゃいますです?(妖精さん)」

 

 

「できらぁ!(ビッグ錠)」

 

 

 

 

「「………、」」

 

 

 

知的好奇心のシンクロナイズド・スイミング。

そして、「 「  あ ー っ はっはっ!  」」 と声高く神姫絶唱シンフォギアした二人であったが、

 

 

 

 

ー…うるさぃ!…ー

 

 

 

「………」「………」

 

 

がら、と窓を開けてからの、今日もきょうとて、隣家の二階のあいつからの罵声がその返事である。

 

犬のきゃんきゃん鳴く声がオクターブとなって残響する中、少年と少女は微妙な気持ちとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……… 機装少女戦・フェアリーメイデン ………

  ~模型の国のプラスチック・プリンセス~

 

 

 

 

 

 

 

「……ーーー………」

 

 

 

 

その、数時間後。…ーというか四時間後、

 

 

 

 

「………ーーーーー…………」

 

 

 

起きがけの譫言でオーバーテクノロジーの基幹技術情報を口に出す…ーなどというどこぞのカナメ・チドリ的な現象はついぞ起きず、今日もソウスケならぬコウスケは三年寝太郎を決め込もうとした。

 

 

 

春、四月の温度。

 

そんな中にあって、ふかふかふわふわの、己の体臭と汗の染み込んだ、なんとも心地の良い極上の万年床…その中にくるまり、ひきこもりらしい安心安全感を寝具という名のカノジョから得つつ、今日も浩介は、寝る。

 

 

 

「ん゛ーーーーー………」

 

 

 

有栖は、二時間前におねむになってきたので、帰した。完成したSAFSを土産に。

 

あの分だと、今日も学校は行かないだろう…もっとも、自分も少しアヤシイが、

 

親はどうしているんだ、と聞かれれば…ーなんというか、趣味の人なのだ。それも、両親ともに、子供やこちらとも、実にウマの合う、それ。

なので、こうやって完成したブツを土産に有栖を返しさえすれば、何も言わないどころか、むしろ大喜びなのだ。“制作代行に出さなくても済む!”と…ー

 

 

 

 

「う゛ーーーーーーん……………」

 

 

 

 

…チャァーーーーー…ちゃち゛ゃっ、ちゃ!

 

たった今、目覚ましにセットしていた“炎のさだめ”が織田哲郎の声で流れ始めた。

 

だが、

 

やはり、眠い。

春眠暁を得ず、とはいうが、寝坊助カエルの気分で、今は眠っていたかった。

 

 

 

 

〈お・き・て〉〈お・き・ろ〉

 

 

 

 

そんな所に聞こえてきた、悩ましい声…。AメロをBGMに。

しかし片方の麗しい御声のはともかく、片方の野郎の物は、しかししかし嫌いじゃなかった。だからこそこれに設定したのであるし、ハマシュート。

 

 

それから…

 

 

 

どさり、と布団がひったくられた。

 

 

 

〈起きなさい、コウスケ!〉〈起きるんだ、ボーイ〉

 

 

「ん…」

 

 

 

しかし、あくまでも…優しくて可愛くてたおやかな“幼馴染ちゃん”たちが、朝から淫楽のパライゾに誘ってくれているのか、というとそうではない。というか、浩介の知る本物の幼馴染というのは、極めて暴力的だ。あんなものは女の風上には置いといてはいけないとさえも、常々思うのだが、

 

 

 

 

 

がぢ、

 

 

 

 

「んぁーーーー…」

 

 

 

こいつらの口の歯で指先を噛まれるのも、もう慣れた感覚となっていた。

 

 

しかし、反応をしてやらないとこいつらは拗ねるので、せめて、身体を回して向き直ってやる。

 

 

もとのチクビ電球から変更し、光波・電波周囲観測視界センサ能力付き・マイクロホビー用マイクロライティングランプ:通称「レーザーサーチャー」をしこんだ、そいつがクリアーレッドで成形された目のパーツをピカピカ点滅させているのが、薄ぼんやりとした瞼の間を透けさせて自分に抗議を伝えさせていた。

同時にそいつの口にはさらにちょっと力が加えられて、少しばかりくすぐったさから痛みになってきたような気がする。

 

 

 

その口とは、

 

 

 

寸詰まりなワニのような顎、大規模土木機械の交換式ブレード端子のような形状の歯、それの集合…ー

 

 

 

もちろん、人間である筈がなかった。

 

 

 

「ん゛ーーーーーー……」

 

 

 

ゴジュラスだ。

 

 

ゾイダーという名のマニアたちの間でももう垂涎の貴重品の域に入る、半世紀以上前の1999年からの新世紀版のオリジナル・キットを改造してアレックス・オートマトンにした物と、後にメーカー元のT・T社がK社の協力によって正式に発売した、アレックスシステム対応型リニューアル・キット、その両方をコウスケは完成させていた(蛇足だが、気に入らないアレンジが入っていないという形状へのコダワリから自分で改造した方のを浩介は気に入っている)。

 

 

世の中で流行の“ALEX”(アレックス)というのは、つまりそういった物も示す。

 

 

この、経年によって多少飴色に退色してしまってはいるものの、其れはそれで歴戦の貫禄があって、よい。

そんな古びたトイプラモ特有の風合いの、

インジェクション成型プラスチック品故にウェルドのはいった銀メタ成形の外装でいて、そして目を覆うキャノピーがオレンジ色なのと……

外装がグレー基調のどこかしっとりした質感で、そしてキャノピーがスモークブラウンの、要するに“旧ゾイド版”…の一体づつ、計、二体が、この少年・鶴来浩介の数多いしもべの内に他ならなかった。

 

正確にはもう何体も、ゴジュラス型は、いて… ああでも、寝床でとぐろ巻いて寝てるわ。本当にあいつらはマイペースだな。

 ゾイドは何体あってもよいものだし、ゴジュラスは何頭いても、良い。…

 

 

 

〈おきなさい ごじゅらす …なんてね?〉〈気が重いのはわかるが、しかし、ジャパンのコーコーセーには、一日の任務があるだろう?〉

 

 

「任務、じゃなくて学校だよ、はぁ…ふわ、」

 

 

 

確かに、陰鬱だった。

 

 

 

しかし、起きなくてはならない。少なくとも、あの人間台風〈ヴァッシュ・ザ・スタンピード〉という天災がここを通過するまでには…ー

 

 

 

「あ?」

 

 

 

そして、それは今だった。

 

この家の門扉が開けられる音が聞こえ、それから、かちゃ、かちゃん、というこの家の扉が開けられる音。それから、がちゃ、という扉自体が開かれる音が連続し…ー

 

 

 

「ひぃ、」

 

 

 

とす、とす、とす、とす…ー

二階への階段を上ってくる音も聞こえたあたりで、今日も、少年は、青ざめた。

 

 

 

「ぜ、全軍退避ーっ!」

 

 

〈退避済みだ〉〈退避済みよ〉

 

 

「お、おまえらーっ!?」

 

 

 

奴はアイアンコングmk2の大型ビームキャノン並の威力があるのだ!

なんのはなしか? ゴジュちゃんでも貰えば致命傷になりかねない、ってことだ!

なので、ゴジュラス二匹は既に退避済み☆

 

その上、他のしもべたちも、無情なことに、浩介の事を置いておいて、それぞれ安全圏に退避を完了させてしまっている。

もはやしどろもどろでなにがなんだかニャンダー仮面、なのであったが、とにかく浩介は慌てた。

 

嗚呼、今日も洗礼が始まるのだ。そして…

 

 

 

「よっほい!」

 

 

 

ずん! という音によって部屋の扉が開け放たれ、射し込んだ初春の冷気と共に進入してきたその少女の…ー瑞々しい今朝の石鹸の香りが浩介の鼻腔をかすめた。

 

 

 

 

「おっはようコウスケ。きの~も、おたのしみ、だったみたいねぇッ!」

 

 

 

彼女の艶のある綺麗なポニーテールを確かめる暇もなく、続いて、どげ! っという蹴手繰りが! 今日も! 景気よく! おびえる浩介の腰に繰り出された。

命中した浩介は吹き飛ばされながら思うのだ。…何度確認しても、隣家に住むこの少女はじゃれ合いのつもりで悪意なくこうしてきているそうなのだが、しかし武道家の両親を持っていて、あまつさえ家が道場で、その上そこの黒色の帯をもっているのに、

 

 

 

 

加減というのをしてくれない。

 

 

(まるで往年の赤松健の漫画のように、白滝の帯のごとし涙を両目から流すしかない……)

 

 

「けふもおはやう、暴力女」

 

 

「ふぅむ、もう一発されたいと「おねがいしますやめてください本当にいたいんですしゃれにならないくらいにいたいんですぅん!」…ふーん?」

 

 

 

うーん、おかしいなぁ、とこの暴力少女は逡巡して、

 

 

 

「毎日こうしてやっていけば鍛えられてるはずだけど」

 

 

「どこのラノベの暴力家庭だよ!?」

 

 

「さっすが、もやし!」

 

 

ムカ、っとくる前に、

どこぞのアクセロリータ、みたいな呼び方やめてくれるゥ? みたいななんとか、なのだが、

 

 

 

「すん、すん、」

 

 

 

なんだよ、と言い掛ける間もなく、少女は枕詞に“美”が付くだろう…憎らしいことに、十分に可愛らしく端正で美人なその顔を近づけさせて、浩介の首元やら、その下の…とにかく全身を嗅いでいって、

 

 

 

「ふぅむ、ヤってはいない様ね」

 

 

「当然だ!?」

 

 

「あいつとは! これで今日も安心♪」

 

 

 

続きの台詞の意味はわからなかったが、これだから、こいつは! こいつを! ていうかおまえのせいだから! だから! 駄目なのだ! …ー浩介は慟哭した。

 

 

幼馴染だからというかなんだというか、妙に馴れ馴れしく気安く近寄ってくる。距離感というのを知らないのか、なんでもかんでもこっちのことに首を突っ込んできて…ーそれでいて、まともなことになった試しが一度もない。

 

こいつと出会ってから、つまり病院の病室で生まれたばかり同士が対面したあの時から、こちらは苦労を定めづけられたのだ…ーとさえも浩介は切実に思っていた。

 

 

 

「にっ」

 

 

 

それから、この浩介と同様に、“未体験”と聞く…というか聞いてもいないのに宣言している…幼馴染は、その顔を晴れがましい笑顔にしてから、

 

 

 

 

「ご飯、しよっか」

 

 

 

 

…さすがに、食欲には浩介は勝てなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………、」「~♪」

 

 

 

レンジのスイッチを投入した後、昨日の晩の洗い物なのか、流し場でがしゃがしゃと何かをしている幼馴染はともかく、今の浩介はNHK・おはよう日本、そしてBSNHKのニュースタイムのエアチェックに余念がない。

 

 

単に平和ぼけの裏返しなのだろうが…ー

 

 

というよりかは単に国際ニュースが目当てなのだが、なにか靄のようなものがかかったように感じられる国内ニュースとは違い、これであれば、“リアル”に触れているような感覚を得ることができた。

……中二病の背伸びと言われたらそれまでだけどね。

 

まあ、それにしても、厄いニュースばかりだし。

なにかにつけバイアスがかかっている気配は、確かになくはないフィーリングは、ある。

 

さもなきゃ朝から他のテレビではやっている、さいきんアチラさん連中の推したがっているのであろう感覚がある、件の 二次元文化廃絶化規制提唱論者 の、くっさいくっさい意見広告インタビューとか、流さねーだろ……

 

そうしながら、すこし見てはチャンネルを変え…

またすこししては、チャンネルを換え…

 

 

“ねー! なんか面白いやつでもあったのー?”

 

「“1ドルで楽しむべ、”だとよー……コージーコーナーのCMか。

 ほー…イチゴのショートケーk“えっ?!!” ちょいちょい……

 なになに? 往年のヒット映画フランチャイズ群とのコラボCM第○弾! そんで、ロボコップシリーズがリバイバルで再びホームメディア化かー」

 

 

後は、まちかど情報室。これはおすすめだ。なんつったって、天下のNHKがマイナーな企業商品の宣伝をするのである。

 テレ東のトレンドたまごと同格である。

これだけ見ていて愉快で痛快なものもない…と浩昴は一人で悦に浸っている。

 

 

 

あとは、Eテレにチャンネルを移して、みいつけた! だとか、シャキーン! だとか、後はピタゴラスイッチだ。

イマドキの若者のサガの通りにテレビ不要・未視聴論者を経て、一周回ってテレビを好きになれたのが、この番組たちの存在こそに他ならないからであった。

好みが子供じゃないのかって? 残念、15歳はまだ未成年だ。まだまだ子供でしてよアテクシは…とコウスケは囀る。

 

 

 

「できたよー」「おっ…」

 

 

 

お? と浩介は首を捻った。

 

確かに、この幼馴染の作る料理は、この当人のご両親の、その父親譲り(母親、ではない)で確かにオイシイ。

のだが、明らかにこの、漂ってくるこのかほりは、まちがいなく、そう、アレであって、………

 

 

 

(恋のウォーター・ルーならぬ恋のカレールー、男をオトすならこれでいちころ、だって! おかあさんが!)

 

 

 

この少女は、今日で何度目になるかわからない決意と覚悟と漢女〈おとめ〉らしい気合いを固めていたのだが、浩介はそんなこともつゆ知らず、

 

 

 

「朝からカレーとか、重ぇよ」

 

 

 

 

がーん!

 

 

 

と、この幼馴染…志津菜、悠里…は、かたまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

     * * *

 

 

 

 

 

 

「んでタコ殴りにされてほうほうの体で学校まで逃げてきたと、」

 

「そぶそぶ(そうそう)」

 

「災難だねぇ。」

 

 

都立・聖(ひじり)ヶ丘高校…ー

キリング・ゾーンと化した自宅から浩介が自分の通う学校になんとか脱出して避難してきた時、その自分の居場所の後ろ隣の席には、今日も悪友の姿があった。

 

 

 

「それはともかく、どうだ!? 今日のエリシアちゃんのコレ!」

 

 

「そうだなぁ…ー」

 

 

 

城嶋、という苗字である。

誰が呼んだかジョージ・マッケンジーの渾名。

 

 

 

ぱっと見はどこからどうみようと正真正銘のマジの不良というかぼんくらヤンキーなのだが、その左肩にはバカガラス…ならぬ、1/12相当のサイズの、美少女フィギュアが乗っかっている。

 

 

いや、フィギュアですらもない。

 

 

       ・・・・・・・・・・

たった今、そのカノジョは瞬きをして、手を振って挨拶をしたこちらに、器用にマッケンジーの肩につかまりながら、手を振りかえして満面の微笑みをかえしてくれた!

 

それから、鈴の鳴るような声で、

 

 

「おはようございますっコウスケさん!」

 

 

と、彼女の機構として内蔵された指向性スピーク機能の効用により明瞭な物として聞こえるような、その溌剌と返事を返してもくれる。

 

 

 

ーー俺のようなこんな喪男にこう接してくれるリアル女がいるか?

 

 

さぁ、リメンバー、だ。思い返してみよう。なにがいた? 暴力幼馴染に、重篤重度・末期患篤のオタク小娘(クォーター)、だいいち生物(なまもの)であるし、あいにくとも俺の属性はどちらでもない!

 

そしてそれ以前に、あんまりにも可愛らしい、エリシア嬢のその仕草一挙動の一々に、たまらず浩介は感動のため息を飽きることなく今日も吐いたほどであった。今ならチャムの作画に参加しまくったブッチャンの気持ちがよくわかる。そして…ーあと少しで自分もお迎えできたのに、ともー…

 

 コウスケはふたたび滝のように感涙していた。

 今度も哀しみによるものであったし、その上この件でも! あの暴力幼馴染が事情に関わっている……と来ている。

 本日二度目の今度のこれは、ゆうきまさみや椎名高志の漫画のテイストである。

 

そうなのだ、マッケンジーのこれは、よく動く、綺麗…ここまでならfigmaだろうが、その上、しゃべる。駆動する。しかも勝手に。何も指示命令操作をしなければ…ー

 

 

ーー萌えるポ~ジング、だって、例えばあなたがしょんぼりしている時、ちょっと落ち込んでいる時、勇気が欲しいとき、今晩のオカズがど~しても欲しいエアパスタな日の時、なんか軽く甘い何かをprpr したいとき、それから…etc。。。あなたがこの“妖精”を持っていたなら、はげまそうとして、してくれるかもしれない。

 

 

そのように、

自立して駆動し、自分で思考し、自主的に行動と会話が可能な、アレックスシステム:オートマトン 、 短縮して、アレックスロイド。

の…ーフェアリーメイデンだ。

 

 

 

その“妖精”は、今日はティエリア・アーデのコスプレだった。

 

 

 

「フン、」

 

 

 

浩介は、彼…というかオタクという生き物の性をよく熟知していないと侮蔑の一瞥とも受け止められかねない最上の賛辞を鼻を鳴らすことで表明し、

 

 

 

「昨日はチャム・ファウだったのに、なんでだ」

 

 

「俺、男装っ娘、好きなんだよ。知ってるだろ?」

 

 

「あいにくだが、俺もすきだ。…」

 

 

 

 

「「同士よ!」」  「きゃあきゃあ~!//////」

 

 

 

 

所でティエリアは無性だろJK、と腐のおねーたま方からクレームが来そうだが、そんなもん、男のリピドーの前には無力なのだよ!(声:池田秀一)

 

まぁ、とにかく、

がっし、と、白い歯を輝かして腕を酌み交わした高校生二人は、クラスメイトの友情というか、アッー! というか、薔薇かどうかは兎も角として花畑が咲く…というか、とりあえず、青春してんな…だった。

ブロマンス? うん。純情ロマンシス…

そしてその始終を妖精・エリシアは興奮した面持ちでバッチリ目撃していた。

もちろん、家電製品・フェアリーメイデンの高機能スマート端末としての.REC も忘れずに。これは彼女の個人的なライブラリに収蔵される…ー

 

 

 

 

 

 

 

通称・アレックスシステム。ないしはアレックスロイド。

 

ALive

Live/Loading

Ex

…アライブ・ライブ・ローディング・エクストラ…

日本語に訳して“拡張型・動的読み込み・読み出し”という、AIとしての作用特性とその特徴、この頭文字から取られて、名称はつけられている。

 

人間と同等の思考とコミュニケーションは少なくとも可能な、当時の……新世代型・準、高次軽量小型自立人工知能の利用物の規格化されたモノなど……の総称の事で、今の世間では、それをおもちゃのロボットだったりラジコンだったり、プラモデルだとかに仕込むのが流行っている。それが入っていればどんなものもALEX。

 

 

そしてフェアリーメイデンというのは、そのALEXの中でも、少女型だったり女性型だったりの外見をしたマイクロミニチュア・オートマトンのジャンルの事である。

 

 

 

ALEXの公表から30余年…ー2066の現代。

 

この日本ではホビーとしての利用が定着し、ガンプラバトルも、プラモシュミレーターも、ロボトルだってエンジェリックレイヤーだって、セッションゴー!だったりも、我が家の神姫との日常だって現実のものとなった。

 

(上述に於いて、云えるのも挙げられるのももっとあるだろう。なのでここではとりあえず……)

 

老舗名門新興野心派問わず群雄割拠の模型誌では、如何に付録のALEX対応パーツの企画を出すかに、年度ボーナスの増減配が掛かっている。…それが今のリアル。

 

 

 

そんな中、アマチュア・モデラーのはしくれと自認する浩介はというと、まだ今はアレックスシステムだけで、フェアリーメイデンをさわったことは、実はない。

 

 

これというのがどうにも!

今に至るまでになにかと不運ばかりで入手の機会を逃してばかりきていて、今の今まで期待し続けて、己の中にある渇望の欲求と情動が、怪物化してきている節もあろうのかと、浩介は自嘲する……のだが。

 

 

興味はある。死ぬほどある。何度だって夢に見た。なのだけれど…ー

 

 

 

「ところで、なに買うか、決めたか!?」

 

 

「えーと、なにの」

 

 

「トボケンナってっ! …ーフェアリーメイデンを、妖精をよぉ??」

 

 

「…はぁ、」

 

 

ため息つくなぁ! と激発したマッケンジーであるが、この悪友、少しはこちらの気持ちというのをご理解頂きたい。

 

 

こないだなんか、すごかった。三ヶ月前のことだった。

いつの間にか悠里の奴は、不正規ネット上の脱獄生成AIの吐いたコードのコピペではあったそうなのではあるが、それでも一端のハッカー並に実力をつけていて(汗くさい脳筋のくせに!)、“自分のパソコンが壊れたから貸して?(はぁと)”などという口実で、なんと浩介のPCにバックドアを仕掛けてくれやがっていた。

 

 

そうとは知らずに、浩介はようやく念願のフェアリーメイデン、HJ誌の特集で見て一目惚れした、立体物先行オリジナルコンテンツ企画というそのコンセプトブランド方式型・新作フェアリーメイデンの“機動少女黙示録・ヴォークトチャイカ”のチャイカ・ジュラーブリクたそ(スペシャルDXパッケージ版!!)の予約購入をした。そして念願の発送日の、その日…ー

 

 

 

「発動した志津菜ちゃんのトラップカード!じゃなかった、遠隔操作によって解約されてキャンセルに、高額受注生産品ゆえキャンセル料発生によって入れた筈の代金の四分の二は帰ってこず、人気商品につき再注文は不可。数少ないキャンセル分の追加受注も、その日の午前零時から三十分後に予約殺到につき締め切り、すべてを知ったのはその日の夕方…だったっけ?」

 

 

「もう! 女の子は! 信用しない! うぅ…っ」

 

 

「それがいい。なんかしんねーけど志津菜ちゃん“妖精”を目の敵にしてるもんな。エリシアちゃん以外の特にリアルの女子なんざ、クソクソの排便物、うんこちゃーぁんだぜぇっての!…ーあっ、そこのキミ、今日予定あるぅ?」

 

 

まだそう古くない古傷を大きく抉られたことによる、そんな浩介の惨状をよそに…あるいは満足した、という体で…マッケンジーのあんちくしょうはとおりかかりのクラスの女子、…ーにではなく、そのツレのフェアリーメイデンにコナをかけている最中であった。

まったく、こいつはポジティブだ。…と浩介は何回目かの嘆息をした。

 

 

このマッケンジー、“妖精”の事となれば見境がない。

 

中にはそういう目的でファッションとしての所持もしているという他の女子相手ならばともかく、平気で他人の所有物…というか所有妖精にまで…コナをかける…のだ。

 

 

理由はただひとつ、“妖精の魅力が自分の原動力だから”、

 

 

なんというか噂で聞くかぎりだが、それによって得たパワーの発露の結果が、どうこうとなって暴走族(という呼び方は浩介はせず珍走団という表現を使いたがる)や浮浪児界隈のトライブ同士で抗争が開始したのを、その対立を解決した…皆、妖精好きにしてやった、とマッケンジーは笑っていた…という話も、同じクラスというだけで耳に入ってくる程だった。

 

 

こちらの目的はこうだ。“妖精のすばらしさを世に広めるため”。

 

 

ただ、そんなアブナい橋をどうも実際に渡っているらしきこの目前のこいつも、自称が“フェアリーだいすきクラブ会長”というくらいなのだから、やってることもその通りであるし。

オラ、“ねこにこばん”つかえよコラ、っつー感じであるが。

ポケスペのポケモンだいすきクラブ会長よろしく、ニャースとペルシアンが現実に居たらお金持ちになれるよね。

 

…おカネがそんな簡単に、手に入ればなぁ…

 

 

「つまりは、だ、」

 

 

 

コイツはそうかぶりを振ってから、

 

 

 

「早く買って、俺とちゅっちゅさせろ!」

 

 

「それが本音かァ!!」

 

 

 

好きな同人作家にけそ氏の名前を挙げるこのマッケンジーのことだから油断ならない…

まぁ本気で怒鳴っておいたがこちらもマジという訳ではない。大概しっぱいしてるしナ。

 

 

はぁ、全く。

 

 

…ーしかし、こいつ、学内では一番にフェアリーメイデンを知るだろう、無二の人物でもあった。そうしてフェアリーメイデンに関するお困り相談なんてのも、コウスケはALEXオートマトン技術担当として時々手伝ったりもしているので浩介も承知のことだった。

 

 

 

密かに、偉大な友人、だとも思っている。

 

 

 

 

     * * *

 

 

 

 

 

 

 

鶴来浩介の所属とは…ー

 

首都圏内の地方都市、七未崎市。

そこに立地する、都立・聖ヶ丘高校(ひじりがおかこうこう)…ーのI年I組。出席番号26番。男。

 

 

 

平均的な中肉中背で、彼女はナシ、このまま三十路に達せれば魔法使いになれる…ーとだけ記しておく。

 

 

 

 

肩書きは、以下の通り。

 

 

 

第二模型部部員、兼、生徒会書記(幽霊)

 

 

 

説明をしよう。

 

第二模型部…アレックスシステム搭載模型等の遊競を目的とした聖ヶ丘学校の部活。

 

 

浩介は、自慢ではないが、そこのエースだ。数多くのコンテストやグランプリで勝ち残り、中学生の頃、東日本大会で総合三位に入賞したこともある。その戦果によって、出席日数ギリギリであっても、なんとか中等部から高等部へのエスカレーターに必要な必須単位を取れている。

 

 

 

しかし、それより以前は、なんと驚くことに武道少年であった。メガネなんかつけておらず、(幼馴染曰く)イケメン・フェイスを輝かして、今では毛嫌いしている悠里とその両親と共に道場で汗をかき、…ーそのせいで相手方たちからは、何やら執心されてしまっている様だが、申し訳ないが、それは今の自分には関係のないこと、だとも浩介は思っている。

 

 

 

幼稚園のころ、最初は戦隊モノのミニプラ、次に500円ゾイドのゴドスとステルスバイパー、そしてとどめがビルドファイターズのガンプラの、ジムスナイパーK9とパワードジムカーディガン…というステップで、順調にプラモデル模型の洗礼を果たした、鶴来浩介という少年。

 

 

 

 

 

彼が一度は離れかけていたプラモデルの世界にカムバックしたのは、両親の事故死が要因であった。

 

 

 

 

 

     * * *

 

 

 

 

ペット・ショップの展示ケージの様な透明ケースの中に、様々な種類の…アレックスロイドやフェアリーメイデン達が七体ほど投入されている。

多くは基本学習と教育研修を済んだ上でメーカーや卸から派遣されてきたエリートOLの“妖精”たちで、そんな彼女らはどうすれば自分の機種に魅力を感じてもらえるか、を熟知している為、店頭のお客様たちに向かっての愛嬌の出し方というのが大変に上手なのである。…ー思わず“おもちかえりぃ!”したくなる程に、

 

 

 

「…ぐっ、」

 

 

 

こらえろ、堪えるんだ、静まれ! 俺の利き腕…ーッ! なんてパントマイムを本気でやってたりもしているのだが。

 

さて、そんな訳だから…今日も今日とて、私鉄・聖蹟聖ヶ丘駅前のゆめがおか商店街南口側の中程一角に立つ、アレックスシステム関連商品専門店“チェシャ猫の木”の店頭は、老若男女…子供やティーン、ちょっとマニア系な傾奇者がやや多め…などで、その賑わいを呈している。そして、その人垣の中に鶴来浩介もいた。

 

 

夕暮れ時で人の往来がにわかに活気づく時分である。

今世紀に入って初めて日本の預かった、ALEX特需と呼ばれて久しい時代であったが、それでも長期的に及んだ不況の残滓を、まだこの国は脱し切れていない。

しかし比較的、世間でいう所の高級住宅地とされる、ここ、聖蹟聖ヶ丘は、所得や生活状況に余裕がある者が大勢を占めていた。

……春の季節だった。

街路樹の桜の花びらが、涼やかな風に誘われて、舞うように空中で散る。

花びらの踊る、賑わう街の通りを行き交う、聖が丘の市民たち……

初春の頃の様装に身を包んだ人々の賑わいは、皆それぞれの家族の事だとか、楽しいことだとかの…ハレの感情の思いで、その全てがなされていたといってもいい。

 

 

そしてこのチェシャ猫の木の軒先は、ALEXのフェアリーメイデン達のことを、家族や大切な存在と思って過ごしている人々のたまり場でもあった。

 

 

 

 

「ぐぇへへぇっ…~~この新作フェアリーメイデンの“ハーディッシュ・バニー”、モノをぶち込みたくなるくれぇに谷間の爆乳をギュウギュウに締め付ける胸元のカット、身体のレザー、パンキッシュな武装と網タイツとの絶対領域、…分かったセンスのコスデザじゃあねぇかァ…ッ…ー! ねぇユーノ君?」

 

 

「みてみて! この新しいMSGの、“ガトリング・ガンポッド”、超イケてね!?」「マヂマヂ! ぁたしこれ買ぅ! “NEW・FA用汎用フルアームズ・カスタム武器セット”! これでぅちの†澪音†を超武装ミサイルアーマーでマシマシageageアゲハにしてやってさ!」「まぢー!? ちょーイケてるじゃんひとみー!」「あけみもセンスばつぐん(へんかんできない)だっての! ギャハハハハハハ!」

 

 

「おぉお、わしの、わしの萌えキュンメイドは、アゾンの、AZONのネコミミ萌えキュンメイド・セットは、わしのみぃ子のための、予約は…」「じぃさんや、それは先月ここで引き替えたばかりでしょう?(本当はこっそりわたしのかわいいかわいいちぃ子のお誕生日会のおべべにしたのだがね)」

 

 

「あのー、あのディーラーさんの三角木馬と鞭責めロウソク責めのセットって、たしかありましたよねぇ?」

 

 

「お、俺の! 姉貴の! ピッチピッチのホット・パンツの! 真っ赤っかのォ! 押主!」

 

 

 

 

 

…ーそれが一般的に微笑ましいものかどうかは別として。

 

 

 

 

ちなみに、今の会話はそれぞれ、

 

 

①黄色い校帽からちょこんと飛び出たツインテールの可愛らしい小学三年生のちいさな女児

 

②近所のお嬢様女子校の花も華やぐ女子高生なかよし二人組

 

③都営聖ヶ丘団地に住まう定年退職してから十年が経つ老夫婦のおじいちゃんとおばあちゃん

 

④おっとりとした外見の雛菊のような可憐さの女子大学生

 

⑤近所の国立大学の体育会部活に所属する留年二年生のガチムチマッチョ(女)

 

 

 

…ーの順である。

 

 

 

そう、今週はニューモードの新作アイテムの発売発表日が密集した。

ネットはもちろん、アレックス専門やフェアリーメイデン専門なども含めた、ドール専門誌やホビー系各雑誌でいち早く情報をキャッチした彼ら彼女らが、このチェシャ猫の木に集うたいせつな日であったのだ。

 

 

 

 

…ー人知れず、浩介はこのチェシャ猫の木の事を、隔離病棟、と呼んでいた。いにしえの伝統に則ったまでだ。意味は伏せてもいない。

 

 

 

 

「…はぁ、」

 

 

 

ため息だって出ちゃう。だって、男の子だもん、…ーかはともかくとして、

 

 

 

 

 

 

 

 

財産管理人の弁護士から、今月の生活費として渡される金子は、果たして後五日ほど待たなくてはならなかった。

 

 

やさしいおじさんであったが、だからこそ、時には厳しい言葉で浩介を激励してくれてもいる。

 

 

そんな彼が心配しているのは、あの時のあのまま、浩介がもえかすの無気力人間になってしまう事…ーこないだ、本人から断りを入れた上で話された事だった。

 

 

 

だから、少し多めにお金は渡されているのだ。それこそ、ふつうのプラモデル程度やALEXシステムのパーツ程度ならば余裕で複数買いできる程の額を。

 

 

 

それでも…ー

 

 

 

 

(…たりない)

 

 

 

 

新品のフェアリーメイデン、……それも、浩介のほしい、フルパッケージ規格版のを……買うためには、心細い額ではあった。

 

 

 

フェアリーメイデン。この人工の妖精達は、ひとつが一昔前の安パソコン程度には価格の値が張るのである。

 

 

 

だから、チャイカを予約したときだって、辛抱と苦労を重ねた。

大昔のアルカイダ云々……ではないが、マッケンジーの友達の友達のその友達が口入れした怪しいバイト━━至極全うに、何体化のALEXプラモを仕上げを丁寧に作って郵送しただけだが、どうにも購入者が、ALEXアリーナやコロシアムといったALEX対戦系の界隈でもアングラ寄りのそっちの、そのスジの人の好き者だったのが原因だった━━にも手を出して、それで最終的には警察署の刑事さんに保護者…志津菜の親父さんとお袋さんに頭を下げて貰って、それで直後に半泣きの悠里の鉄拳を貰ったりもした。

 

 

これがとどめであったが、相当に日常の生活を切り詰めていたので、それで悠里には感づかれていたのかも知れない。

 

 

 

 

…とにかく、逃したチャンスというのは得てして大きな魚であった。

 

 

 

 

「はぁっ、」

 

 

 

 

あのアマ、警察からの補導を(親が)対応してくれたこちらの弱みにつけ込んで…ーかはわからないが、この件に関する被害届は出せていない。

それでいて、“弁済は、自分の身体でっ////////”などとほざいてくれやがったが意味がわからんかったし、そうならぶつ切りのバラバラ肉にして肉屋に売ってやろうか、と脅すと、尋常じゃなく、おびえられた。どうもジェイソンとかフレディだとかそういうのが苦手らしい事を、幼馴染歴十四年目にして初めて知ったのだったが…まぁ、ともかく、

 

 

 

 

 

 

帰りに、駅前のケーキ屋でショートケーキを買おう。

 

 

コージーコーナー、悠里の好物だ。それを二ピースほど、

 

 

 

…それくらいの余裕はまぁある。

 

 

 

 

 

 

 

 

ショーケースの中の妖精たちが、表情のない浩介の顔を、見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

     * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だから、自宅の玄関の扉の前に置かれたその小包を見たとき、最初はなんの事か分からなかった。

 

 

 

 

「? …ーへ、」

 

 

 

 

なんだろう、宛名は確かに自分の者で、宛先もこの家の住所だった。

 

だけど、それ以上に、呆然としてしまう文章がその伝票には記されていた。

 

 

 

なので、例えば今時、不在時の荷物対応でこんなやり方はない、だとか、宅急便の配達担当の名前が、ここの数となりの配達エリアの者で、この番地の担当のものではないことだとかに…ー浩介は気がつけなかった。

 

 

 

西側の特別機密を盗み出したソ連のスパイの様な用心深さで、浩介は素早く家の中に小包を運び込んだ。

 

 

 

 

 

なぜなら、その小包には…ー

 

 

 

 

 

 

 

 

…ー死んだ両親の名前で送り主の欄が記入されていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、」

 

 

 

自宅の、自分の部屋。

 

 

八畳ほどのまずまずの広さがあって、模型を作るための要塞と化している、コウスケの巣。

 

己の聖域へのこの小包の輸送作戦は極秘裏に成功を収めた。サイクロプス隊だって出し抜けた筈…ー少なからずとも、悠里に気づかれた、ということはないはずだ。

 

 

 

 

「………」

 

 

 

茶黄ばんだ薄手の再生ボール紙で、小包の全周は覆われている。

 

 

包装を押してみると、どうも玩具とかのブリスター・パッケージのそれらしき感触が、確かにあった。

 

 

 

「…………、」

 

 

 

決めた、開けてみよう。

 

 

 

いつまで待っても埒があかない、と判断したからだ。それに、中身が気になった。もしやもしやして、父と母の研究の、何者かに謀殺されるに至ったその重大な秘密がこの中に…ーだとかと思えればまだ良かった。

 

 

 

確かに両親は研究者だったが、事故死の理由は四連勤の夜勤明けの運転によるものだった。

 

 

 

それでも保険は降りて、遺族年金に、エースの研究員だったから研究所からの弔問金もけっこうな額が出て、…とまあ、保護者がいなくなった浩介が今後一人で生きていくのに、不自由しない金はある。

 

 

 

祖母祖父は、両親ともに既に他界。親戚の家に引き取られる、というのも選択肢だろうが、弁護士さんの“審査”で軒並み弾かれた。いうにからんや、という奴だ。あいにくとも“やったね、たえちゃん!”にはなりたくはない。

 

 

 

 

「…ーーーーー、」

 

 

 

机の上に常時スタンバイしてある工具箱の中から取り出したデザイン・ナイフのキャップを転がして、その刃先で小包のガムテープを切っていく。

 

 

 

中にあるのは極薄のプラスチック・フィルムの梱包ケーシングだ。うっかりでも刃の通りを深くすれば、その内包装の中身の何かを傷つけてしまう…冷静に、慎重に、

 

 

 

 

「ふうっ」

 

 

 

 

そうして分割が終わったならば、後はそれを開くだけ。ラップの中の女神様♡ というのはいわゆる薄い本というやつだろうが、このラッピングの中は女神様がいるのかどうか、はたして…ー

 

 

 

 

 

「!」

 

 

 

 

 

浩介は、開いた。包装を開けて、その中にあった物を目撃した。

 

 

 

 

 

 

「…あ、」

 

 

 

 

 

 

…ーそして、時が止まったように、それから目を離せなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

“Happy Birthday !”

 

 

 

 

 

 

ブリスターパッケージの上面に乗せられていた、ツリーと雪だるま…父は絵を描くのが上手だった…がポスカで描かれたクリスマス・カードには、若干ナイフの通りによって切り傷の入ってしまったそのカードには、見慣れていたはずの母の筆跡で、たしかにそう記されていた。

 

 

 

 

そうだ、これは、おそらくそうだ。あの年の誕生日プレゼントの、あの時の約束の…ー

 

 

 

 

 

「っ!」

 

 

 

 

 

だとしたら、この中の中身というのは、あれに違いない!

 

 

 

 

放り投げるように、しかし大切に、机の上の分かる場所にカードを移動させると、もう浩介のする事は一つだった。

 

 

 コウスケは、己の中のどこかの感情が分泌させているだろう涙が、己の涙腺から実際の涙液として滲みはじめていることにも気付かない熱中ぶりだった。

 

 

 熱くなった眼光のまま、開梱の作業をこなしていく……

 

 

……そうだ。欲しかった。ねだったりもした。そう、あの年のクリスマスプレゼントに、贈り物として、約束をしてくれた……

 

 

 フェアリーメイデンだ!

 

 

 

……そして、そのフェアリーメイデンの製品を包む内箱の包装と、対面をした。

 

 

 

 

「?」

 

 

 だが、浩介は、ここではた、と気づく。

 

 

 これは、……組み立て済み完成品版のフルパッケージ仕様じゃない。

 半完成品の、組み立て式キット版だ!

 しかも、どうも、武装パーツ部分が同梱しておらず、フェアリーメイデンの、素体部分本体のみ、その最低限のパッケージしか、目の前の包装には入っていないようだった。

 そんな? 俺の親父とカーチャンはガンダムとガンガルの区別がついてしまう人間だったぞ? 

 ついでに言えば、ノーマルのゴジュラスとゴジュラスMK2/ゴジュラスジ・オーガとの区別も。

 つまり、間違えて手に入れた、ということはなかっただろうはず……

 と、脳裏に疑念が過ぎる。

 

 

 だが、とコウスケは思い直した。

 よくよく考えれば、己の死んだ両親は結構試したがりな人たちだったなあ、思い返せば、あれやもこれやも、すぐ思い出せる物だけでも、エピソードには枚挙に暇がない。……ということでもあるし……

 それに一番大きなこととして、今の己ならば。

 どうあるモノであっても、それが少なくとも模型やキットの類なら、真っ向から取り組める、そして形にして、完成させられることのできる、……それだけの実力が、すでにある、と。

 

 

……武装が足りなければ、後で自分で、自在に用意すればいい。

 それこそ、ミキシングビルドや、スクラッチビルドで。

 

 

 

「にっ、」

 

 

 なぁんだ、なら。

……ヤレル。

 

 数年遅れのこの時季外れなクリスマス・プレゼントは、

 解くのはたやすいがそれ自体が非常に魅力的な過去問のようだ、と。

 

 

 コウスケは俄然、やる気になった。

 

 

……包装の、封を解く。そして、中身を取り出す。

 

 

……例を挙げるなら、武装神姫のパッケージの、箱の中身のブリスターパックを知るものはどれほどいるだろうか。

 

 

 

 

雛壇のように、折り詰めのように、重箱のように重ねられたそれを展開していき…ー

 

 

 

 

そして、そのような三段の包装ケースの中に、そのフェアリーメイデン本体・組み立てキットの全パーツは納められていたのである。

 

 

 

 

 

 

「…す、」

 

 

 

 

すげぇ、という言葉が漏れ出ていた。

 

 

 

目の前のそれが、まるで古代の伝説の王国の偉大なる遺産(オーパーツ)の、そのものに浩介には見えた。

 

 

 

 

 

 

「…な、」

 

 

 

 

なんと美しい!

 

 

 

 

 

ノン・パーティングライン、&ゲートレス出力成型されたペールオレンジの成型品。鮮やかな機械構成品の数々…ー

 

 

 

 

ごくり、と浩介は己の喉が鳴る瞬間を目撃した。いや、正確には見て確認した訳ではないが、それでも目撃だった。

 

 

 

しかし、まだ、この段階では完成品の予想が付かない。

たった今広げた取扱説明書のインストだって、あの埼玉県蕨市のマイクロエース社のプラモでさえもカラーCGなのが当たり前の今時にしては珍しい、不親切な二色刷りのそれだった。

 

 

 

当然、本来ならあったであろう化粧箱もなぜか目の前のこれにはないので、完成写真だなんて存在しない。

 

 

 

 

だが…

 

 

 

 

モデラーという人種は、ソソられるプラ・キットの中身を目にした時、目の前に据え膳として出された美少女の全裸にしゃぶりつきたくなるような、その衝動に襲われる。

 

 

 

 

つまり…ー

 

 

 

…ーだからこそ己の中に空前のヤル気が満ちあふれてくるのを、浩介は実感していた。

 

 

 

「………」

 

 

 

そんなただ中にあっても優秀なモデラーは、冷静に慌てずに、まず説明書の部品総覧とのチェック、続いて、この場合はブリスターのケースから構成各部品を摘出し、説明書通りに取り出したそれらを説明書通りに組み合わせていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ICM、インナー・チップ・モジュール。

 

 

作用と特性としては、ゾイドコアといえる。

なにがであろう?

ずばりである。

ぱっとしたみてくれは、どこかのお菓子会社が出しているような、チョコレート菓子とかのなにかの粒のような大きさと形をしている。

……但し、大きさだけは、少し小さい。

 

その上、これはチョコ菓子の色という訳ではないから、例えとしても怪しいのかもしれない。

ぱっと見では、金属系の色と質感である。

ただ、それは紛失時での発見をしやすくするため(アレックスやフェアリーメイデン本体とも同様に、ビーコン機能や発光信号の作用をすることも可能)、である。

これも漏れることなく、後述の、オリゼリマというこの現代における先端汎用素材で、構造と成型が行われている…

なんならば、このICMには、恐るべ……すばらしき特性がある、

対象のALEXにオリゼリマのエサを摂取させ与えて富養状態下にあるならば、その上で、実際に作用が可能な物を生成できるにはかなりの期間と時間を要する、という但し書き付きであるが、

現代型ICMの規格型は、

アレックスロイドやフェアリーメイデンの体内で自己生成することができるものであるのだ。

これは、体内自己補修生成機関…ジェネレータ…を装備しているALEX端末なら、さらに容易に行えるものだったりもする。

鳥が卵を身籠り、そして産むように、排出することができるのだ。

 

その上で、母胎から排出された子ICMを、工業製造されたアレックスロイドやフェアリーメイデンのシャシーボディなどで架装してやれば、

子や自己複製としての個体が、完成させることができてしまう。

そればかりか……実験分野的な事象での話になるが、

そのICMを高富養環境下に…容器を用意し、オリゼリマパウチピューレゼリーゲルなどの、〈培養液ゲル〉…などに入没させておけば、なんと、ここからアレックスやフェアリーメイデンは、魚や両生類の卵のように、身体を構成し、復活や誕生することも出来てしまう!

(流石にこれほどのことは、かなりの長期間の実的時間と実験室的環境の相乗により成し得ることのできる、研究レベルの話ではある……)

とはいえ、“卵”を産むことはできるのは確かな機能である。なので、この能力を用いて、

アレックスやフェアリーメイデンは、自己複製や単為生殖も可能であるし、あるいは、“パートナー”との間に、子……を設けることができる。

 そして、ここまでに肉体的・物質的にはこの通りのことであるが、

 アレックスやフェアリーメイデンは、コンピュータ上にも同様の事もできる……

 そうなのだ。AIとしての最小本体があるので、“肉体”があってもいいし、いわば“データ体”としての自己というのも、アレックス知性は可能としているのだ。

この場合には物理的身体はないのか?と思われるが、しかしそれについても、技術と想像のチカラが、世界をさらに飛躍させつつある、そのさなかに現代はある。……

 およそ、工業製品としての従来には考えられないシロモノであることは、確かだ。

 故にいまだ法制上での定義は不安定であるが、しかし、消耗した人類にとっては、(オリゼリマの原料分は勘定に入れない、として)食料消費もなく生物としての生命活動の費用の用さないこの存在は、この上ない便利なものといえるだろう。

 

 

製菓材料のアラザンのように輝きを放つ、厚さ0.85ミリの強化積層構造防殻によって全周密閉と対電磁対熱対水対塵シーリングがされている小さなチップ・バルーン状のこれこそが、ALEXマイクロ・オートマトンに於ける重要基幹部品の一つ。平和島通商電子(有限会社)製、工業製造仕様のSー11b規格型。外殻には、バージョンは10.8、そのチューンナップ版だろうEX-p型と記されている。

別部品のマイクロ・ホビー・リアクター━━仰々しい名前だが、要するに後述のキャップ式モーターを利用した、自己回転式ダイナモだ━━と同等に重要な、フェアリー・メイデンにとって欠かせない部品。

 

 

 

かつて、ALEXシステムの構築にはパソコン一台が要された時代があった。

その頃からパルムPC(手のひらに収まるサイズのマイクロパソコン、要するにミニPCの事だ)は存在していたが、しかしそれでも、とある目的を持つ者たちからすれば、大きすぎた。

 

 

それを、解決したのがこのICMである。

ALEXの稼働に必要十分な、CPU・メモリー・記憶領域・その他もろもろ、そのすべてがこの五ミリ四方にも満たない超高耐久性バルーン・チェンバーの中に内包されているのだ。

 

現代のマイクロ技術の粋を集めた代物だ。

 

おおもとを辿ると、規格と仕様の策定自体は半世紀前の“文化女中器”型・ヒューマノイド・オートマトンの世界的な開発競争ラッシュ時代に、性能と機能の高度化・高次化と引き換えに独自仕様化していった各社のそれぞれの製品群を、相互に補完し橋渡しできる、互換規格の一種として構想されたものであった…そしてその製品開発バブルが弾けたと共に、世界の人間たちからは忘れ去られていた物だった…が、

それを(機能・性能的には現代基準のレベルのものに引き上げた上で)そっくりそのまま、フェアリーメイデンの内部に仕込める程に極小レベルまでに小型化してのけたことに、当時の世界は、大変におったまげた。

 

当時、発売されたこれを目撃した外国人は、“ジャパン・マジック”とさえ呼んだと聞く。

 

 

 

 

とにかく、これの接触相当部分に非端子式接触型配線ハーネスを組み合わせられていることによって、身体本体へのデーターバスの構築がされる。

 

この小さな妖精の身体の、電子の神経…四肢に内蔵された高柔軟性・供給電可能型複合光ファイバー人工神経線によって、全身の関節アクチュエーターへの命令伝達はなされている。それへの接続をするのだ。

 

 

 

 

 

 

マガキ・モーター社製・GA-030オフシャフト・キャップ形状型式マイクロハイトルクモーター。

 

 

内径二ミリ、外径三ミリそれぞれちょうど。幅は二ミリ。

例えるなら、プラスチックストローのような薄手のオリゼリマー樹脂材…それその物というわけではない…で出来た、樹脂ベアリング系状、

ないしは、入れ子式に大小二つのカシメが組み合わさった見た目と構造をしているが、これも立派なモーターの一種である。

モーターの外周六カ所に固定ボスも兼ねた二つづつの固定穴・供給電・動作命令系統複合線との連接部があり、はんだ付け厳禁であるが、内部的には、ここにハーネス線が連接させる事で、部品の内径部分がモーターとして作動する。

 

 

贅沢にも高級グラフェン由来高耐久素材の使用により、最大瞬間トルク出力においては、十五センチのフェアリーメイデンの華奢な片腕で350グラムの大荷物を余裕で担がせる性能を与えるに至る。なので、たったこれ一つで百円の原価がする。

 

工夫のこらされた構造としたことで、

ステッピング・モーター程度の特性とすることができる。アレックスシステムなどの場合、CPUからの多数集中制御によって、疑似的にサーボモーターのような利用を可能としている。

 

 

 

これが、このフェアリーメイデンの関節となる。

 

 

 

 

 

 

 

大都技研社製・インジェクション成型疑似ボーン。

 

 

 

このフェアリーメイデンの、骨となるパーツ。

 

 

後述のオリゼリマー素材でこれも構成されているのであるが、故に通電の度合いにより超軟質~超高硬度、これらの自在な物性変化度を無段階に都度、設定可能

極めて軽量でありながら、同サイズ同寸法同形状の炭素繊維強化チタニウム合金よりも高い強度を持つ。

 

温度変化に対する耐候性が極めて強靱で、高電圧環境における電磁パルス・バーストへの抵抗性をも持つこの“骨”は、フェアリーメイデンの場合全身に高価なこれがインサートされているのではなく、脚や腰、肩胛骨、背骨…などの重要部位にのみ使用がされる。

 

 

それにより、フェアリーメイデンはコストパフォーマンスを維持しながら、高耐久性を得ているのだ。

 

 

 

 

 

北越化学工業製・ハイグレードオリゼリマ・エラストマー、

そして、それにより出来ている、オリザリマー製構成マイクロマシン

 

 

 

フェアリーメイデンの、肉と肌……それから、その他の全てにもなる(なりえる/なれる)素材。

 

オリゼリマーとは、原材料のひとつである米穀類から引用がされた意図としてのオリザニンというかつての用名と、物性を示す液晶性エラストマーポリマー、これらの由来意味を掛け合わせたカバン語である。

 

要するには、植物性素材由来の……プラントベースでの汎用用途新材料、ということだ。

 即ち原料素材の一例としては、米由来、サツマイモ由来、寒天由来、こんにゃく由来、味の素生成物由来、ノンアレルゲン模造人工卵隔膜由来物……プラントベースドグラフェン……

 細かい配合はその他にも類々存在するが、おおまかにはこれらからの生成物質による調合を多重に施し、加工したものである。

 

 現代において諸処種々数々ある先端材料素材の中でも、

 日本国の国内で揃う原料だけで製造が可能な事が、このオリゼリマーをユニークなモノとしている。

 

 現代日本国の誇る工業用核融合炉の高電力…

(と対外的には言っているが、実はレトルト食品の製造方法ノウハウをスピンオフさせた結果、パック式レトルトパウチによる高温高圧工程を調合配合チェンバー工程とすることで、調合としての素材は作れてしまえる)

 …で、物性操作組み換えをはかる。

 それ故に一回の製造では少量しか作り出すことができない為、このオリゼリマを、製造に手間のかかる高価な物としている。

 

 さらに、現代の日本国はこのオリゼリマーを戦略物資に位置付けており、

 国内向けの流通には、その利用物や派生品、関連分野や産業などにかなり高額な賦課金を設定することで、国家の収入財源としつつ、需給のバランスとしている……のであろうか。

 果たしてそうなのか?

 二次元コンテンツ分野というものにかつてない逆風が存在していた当時の国内気運の時勢と、先のノイエペスト・パンデミック、続いての「赤い鳥事件」からの復興と、当時の日本国政府の一連の“大盤振る舞い”の結果の莫大な累積赤字の補填を優先した結果、令和のこのご時世に復活してしまった物品税での取り扱いとして、これらは“ぜいたく品”として扱われることとなってしまった。

 結果フェアリーメイデンを始めとするアレックスロイドは、

 市場での販売時に35パーセントの物品税がかけられているのが今のところの現在であった。

 故にして、製造工場の工程に生産したアレックスロイドそのものを投入配置することで製造コストの人件費を抜本的にコストカットした結果、製造原価自体は(最盛期のフィギュアトイよりも安上がりな)1000円以下もしないにも関わらず、

 もろもろの多重課税と賦課金の徴収とさらにその上からの課税の結果として、フル組み立て済み完成品のフェアリーメイデンは、一庫数万円~台後半ほどの価格とならざるを得ないのである。

 故に、メーカーや業界の苦闘は続いている…たとえばいまこうして作っているイミテーション・エンジェリックシリーズ・エリス型の組み立てキットバージョンのように、パッケージ内の一部を組み立て式……武装部位をプラモデル形式のパッケージ内同梱ランナーからの切り出し/組み立て式によるものにしたり、

 単純に、素体部位を、手足四肢・頭・胴体、といったように、関節部位でモジュールとし切り離してあるだけで分解させてあるだけの状態のを、

 お手軽にモジュール同士をスナップフィットで組み合わせていくだけ!というのが大体のおおまかである。

 要するに、ブロックトイ的なアプローチによる、半完成品というやつである。

 小手先の策かもしれないがそうすることによって、税制法上の取り扱われ方は大分変り、(具体的には、“贅沢品”という区類から“駄玩具”という区類にすることができる)

 結果として、安くて1000円台、高くても数万円以内、といったように、

 総組み立て済み完成品のものよりも圧倒的廉価に販売流通させることが可能であった。

 だが、現在の日本国の国内政治の趨勢はそれらを悪質な課税逃れ行為と糾弾する構えとなりつつあり…機運を醸成せんとしている、不定形めいたそれの蠢きがある…、

 今次国会においても、完成品の場合に合わせる形で半完成品も同水準の課税割合とするべきが妥当であろう、という方向で、話は固まりつつあるのだ…

 迫りくる政治の奔流に、ホビーメーカー、プラモメーカー、おもちゃメーカーに、抵抗する余力はない!!

 

…それはともかく…

 

厳密には前時代でいうところのシリコンだとかエラストマー樹脂からさらに発展・進展した素材で、そして重要な事として、“バイオ原料由来の”

“(基本的に)生体適合性を得ることが可能な”“液晶性エラストマーポリマー”としての物性などを振る舞わせることができる。

 

そしてこのオリゼリマを先端3Dプリント工程やそれら精密加工に掛けることで、

マイクロメートル以下単位でフラクタル形状や多孔形状物にそれらの応用の自在変形格子、それからMEMS素子、ダイオードやトランジスタやキャパシタ、コンデンサーなどのマイクロデバイスとしての特性を与えることが可能である。

これによって構成されたマイクロマシンやその集合体をミクロレベル単位で集積・合体・連結・連鎖をさせていくことで、

前述までのALEXロイドやその機能構成部材、なによりもの、フェアリーメイデンのボディ! それらは構築されているのだ。

 

特にオリゼリマの活用部位とその範囲が広く大きく適用されているフェアリーメイデンの場合、そのICMからぷにぷにのスキン部位まで、大体のぜんぶが、このオリゼリマ由来のマイクロマシンによるものなのだ。

そのため、口さがない者には、これらオリゼリマ由来マイクロマシン製の物品を“人類世界とその歴史にとってのマイクロマシン製の巨大なガン腫瘍”などと侮蔑する手合いなどもいる……

まあ現代の実際には……というよりは……開発当初「いったい何に用いればいいのか分からない新材質」であったオリゼリマの活用/応用先として使われ始めたその初期の用途と発展として、

バイオ原料由来で生体適合性を担保出来うる、体内投与マイクロロボットやインプラントデバイスの原料として利用応用の方法が企図されたのも一因としてあり、

それによって実際の現実に治癒されたり回復したりしてきたのは、まさにそのガン患者や難病に苦しんできた大勢であったというのが、紛れの無い実績として、これまでにあるというのに……

 

それはさておき、

これ日本国内のとある中小レトルト食品会社が、廉価な栄養非常食の研究をしている過程でたまたま生まれた…というのは笑い話としつつ、

米タンパク由来タリンの成分を強化したりした配合の場合には、

軍用パワードスーツの対弾防御装甲材/構造材として使える事すらもDARPAは認め、米国域外の発明品にかかわらず、MILスペックのひとつとしてそのままが要目に採用されてもいる。

 

米や寒天、こんにゃく、サツマイモなどからのアレルゲン安全化抽出成分が原料になっているので、

マイクロマシンとして成型生成された後のものを直接代謝消化するのは難しいけども、よほどの機能特化型配合や特殊なマイクロデバイス化加工品でもない限り、オリゼリマペーストの段階時点であれば、十分食品としても用いることが可能である。

その為食品用途グレードならば、ニンゲンの食品としての利用も大分以前から始まっている…これにより、オリゼリマの生産ベースを拡大化し、スケールメリットを以て廉価化を果たさん、とするメーカー・産業界側の一連の取り組みの一端である…

それ以外にも、工業用グレード、医療用グレード、などなど、各種の括りもある。

 ともあれここで重要なのは、このオリゼリマーというのは、そのアレックスロイドや、ひいてはフェアリーメイデンの、その主・構成材料なのであることだ。

 

(先述の通り、オリゼリマーは、現代にて実用化し広く一般に普及している各種マイクロマシンの、その有力な原料にもすることができる。

 ノンアレルゲンで生体適合性がある液晶性エラストマーポリマーとして使用できるコレが、大々的に活用され用いられ、結果世界に広く普及に至った、重大な出来事があった。

 

 それが、かつての「“赤い鳥事件”」……

 極めて強毒化した変異性鳥インフルエンザがその原因の正体であったところの“ノイエペスト・パンデミック”の後も、逆にそれが要因となってさらにエスカレーションしていく形で尚続いていた、新冷戦の過熱の結果極度の緊張状態となった国際世界は、

 “最も費用と手間の掛からない、そして効果的な”核抑止力の新形態として、

 各核保有国が先鞭をつける形で、

 それぞれの仮想敵国の上空軌道に、「デリンジャー衛星」……

 その大質量によりミサイル防衛といった既存防衛手段では迎撃困難な、超質量・放射能物質搭載落下放出式静止衛星、

 それらの設置を行うことで、敵国に対するアドバンテージを得ようとしていた、そういう時代があった。

 だが……

 敵対する各国のデリンジャー衛星になぜか共通で用いられていたイスラエル製セントラルコンピュータに用いられていた韓国製RAMメモリに、韓国政府が極秘裏に、諜報行為のために設定していた、バックドア箇所、

 これが不正規ネット…ダークウェブ…の暇を持て余した犯罪者たち(ハッキーズ、と彼らは己らを自称していた)に、なぜかタイミングよく、ある時期に、集中してこの上ない遊びのおもちゃとしてそのセキュリティホールを突かれた結果、

 結果……史上最悪規模のサイバーテロとなった。

 各国が打ち上げたデリンジャー衛星が、その打ち上げた国自体や、

 或いは設定していた仮想敵の着弾ポイント座標に、一斉に降下し、落着。

 地球全域、世界は空前の規模の惨事と化し、

 先のノイエペストパンデミックに続き、今度こそ、人類は滅亡するかに思われた……

 

 だが、広範にばらまかれた核物質や放射能を、その頃には製品として開発が完了していたオリゼリマはもちろん、それ以外の普及品の液晶性エラストマーで作ったマイクロマシンにMEMS器官として核転換機能のデバイス形質を与えての元素変換の作用で、放射能を“緩解”させる技術を、かつてのフクシマをなんとかするべくため、細々とした研究の末の総決算の成果として、この時までに日本国は発明し、この事件に至るまでに、実用品として、すでに運用を開始していたのだった。

 ただ、これらの技術開発初期の頃に主流とされ有望であったのは石油由来生成物を原料としたマイクロマシンであり、

 それは環境への負荷性ももちろんであろうが、なによりも、暴走したデリンジャー衛星が数多く落下したのが地球上各地の天然資源産出諸国のその採掘地帯が多かったこともあり、原油の入手性が不安定になり、なにより精製加工プラントまで原料がとどかない、という事態が発生。

 これらの状況の積み重なりもあり、“日本国国内で入手可能な原料のみで生産製造が完結可能”というのが俄に着目のポイントとなる。

 こうしてまず、それまではむしろ世間の中で邪険にされることが多かったオリゼリマという物そのものに、俄に脚光が当たったのだった。

 

 続いてさらに、放射性降下物や放射能物質により被曝した、ニンゲンなどの生物についてである。

 これらには、生体適合性を得れるという特徴を持つオリゼリマ・マイクロマシンや作用性オリゼリマペーストを用いての、

 体内・体外両面から作用した上で、

 要するに細胞組織や細胞内のDNAやミトコンドリアが放射能により焼損することで物理的な破滅となるのだから、

 細胞組織一つ一つ単位の隅々まで……や、もっと粗い作用レイヤーにて、インプラントとしてや、傷ついた細胞組織の回復・治癒・修繕、保護、機能的補いやその代替、これらのその細胞生存を介入・介助する形での機能を持った、マイクロロボットマシンの開発ということにも、日本国の研究者達は挑戦していた。

 そしてそのチャレンジは成果として結実し、

 そうした機能作用を持たせたオリゼリマのマイクロマシンや、それと組み合わせることで用いるオリゼリマのピューレペースト塗布/投与材を、医療用途で十分以上に実用可能な物として、既に生み出すに至っていた。

 

 こうして、有効成分の含有・保持・注入・投与機能や作用機能をデバイスとして生成させての、かつてのコロナ騒動の際のECMOに範をとっての、

 いわば、細胞エクモ…ともいうべき技術も、ここまでに(無論、偶然ではあるが)、日本国は開発して獲得していたのだ。

 

 これらの研究成果を為し得た背景に、人材不足とマンアワー及び開発ペースの高回転化による短縮、それからスズメの涙ほどの研究費でもやりくりが効いた存在として、

 研究補助サポートドロイドとして現場裁量にて導入がされていた、“原初のALEXロイド”たる「ぼやき屋トミー」たちが大量に用いられて動員されていたのも、その成功の一因として、確かにあるものだった。

 

……当時の日本国は、その原初のALEXロイドを生み出したことを国際社会から「罪」として非難されていた時勢でもあった。

 だがそのALEXロイドがこの世に存在していたことにより、オリゼリマと放射能緩解マイクロマシン及び細胞エクモ技術は完成するに至ったのだ。

 そうして直に、デリンジャー衛星落着被災地域に、事態解決のための無人化機材として、ボヤキ屋トミーらに代表される初期のALEXロイドたちは、空前の規模の数が動員され、送り込まれる経過となる。

 すでに、この頃からALEX知性とその利用品の形態群は、人類に取って得難い活躍と成果の功績を、上げ始めてもいたのだ。

 

……話は前後して……事態を見るに、必要性は喫緊を要していた。

 斯くして、(政府権限でメーカーから召し上げたボヤキ屋トミーの開発設計情報も無償公開のおまけとした形で、)

 一連の新技術品のそれらのこれたちを、日本国は世界中に無償供与、技術情報の全面開示とその公開をする判断を採った。

 このことは、確かに、世界の復興の為のマイルストーンとはなった。

 そうして日の目を見たオリゼリマーとそのマイクロマシンの技術であったが、

 人間の食用可能なグレードの原材料を用いていることから、万人単位、都市ひとつ、国ひとつ……これらを何とかするべくには、あまりにもコストがかかり過ぎるのが根本的な難点であった。

 だが、生物相手ではない……もっとラフな非有機対象相手ならば、放射能緩解マイクロマシン自体は、今の人類の基礎科学力であれば、オリゼリマではなくとも、一般的な液晶性エラストマーで作成したマイクロマシンならば、十分に用に立つものを作ることは可能であった。

 その上で、より大規模に大量生産調達できるジャガイモやトウモロコシ、小麦のデンプンをベースに作ったのが、

 台湾・ウクライナ・インド・ベトナム・フィリピン・トルコ・他各国とが日本から供与された技術リソースとノウハウを活かし、合同の成果として発表し迅速にリリースした、

 “有事省力生産型デチューンバージョン”……

 その呼称は各国が自由にそれぞれ呼んでいたものであったが、

 通称「自由糖」「パーフェクライト」「フリーダマイト」etc……ということであった。

 

 各国で生産されたデチューンバージョンはデリンジャー衛星の落着に苦しむ世界の多数の地域にて普及し流通と積極的使用が図られ、

 最初は疑い混じりの試用のみであったのが効果が目覚ましいとわかるや、順次本格的な使用へと転換、状況は改善へと進展していった。

 結果として、通来の原子力災害では考えられなかった度合いでの、事態以前~事態下~事態後、の推移での弾力的回復作用と有効性を発揮。

 現実に地球各地にて除染が完了していくに至り、

 この枠組みは、やがてさらに多数の国家や企業体を巻き込んでの生産開発普及コンソーシアムとして発展し、

 そして後には、同じオリゼリマ応用物であるALEXオートマトンの需給や技術開発にも噛み合う形で、これらの共同体は、さらに発展していく運びとなっていった。

 

……大きく惨事に直面していた国が、この時、一つあった。

 事態が転がっていくことに味を占めたハッキーズの暗躍により、クラッキングと乗っ取りがされたことで、

 大陸中国では、同日同時刻に三峡ダムが暴走し、大水害が発生。

 これのタイミングに合わせる形で、その三峡ダム領域に自国のデリンジャー衛星が落着。

 水害をなんとかしたくても人民解放軍有志志願決死隊のコマンド兵ひとり物理的に入ることが出来なくなった状態で、

 さらに、下流域に存在する複数の原発施設も、

 ダム崩壊による水害で罹災、

 五つの原発が、原子力災害状況となった。

 

 もはや、どうにもならないものと思われた。絶望を神に呪った。

 だが、そこで救いの手を差し伸べたのが、……台湾である。

 大陸中国に長年圧力を掛けられてきていた台湾であったが、

「人道に則った見地を以て、台湾は、傷ついた大陸の皆に、援護と支援を、全力で惜しみなく援助する……」……

 台湾議会はその日のうちの発議により、日本国、ASEAN、米国、などに最大限の支援と協力を要請。

 前述の通りでもあったが、日本国は前述の放射能緩解技術と細胞エクモの技術を、無償供与・全面的に公開していたのであったが、今回これに当たって、より実践的な大規模大量製造の為の技術の共同開発も含めて、台湾に協力を約束し、それを実施。

 日本自身も韓国製の小型デリンジャー衛星が東京多摩地域に落着していたのも関わらず

 自国内の被害や自国民よりも優先して、世界を揺るがすこの空前の規模の、一連の惨事への対処に尽力したのだ。 

……このことは後に続く禍根を日本国内に残す……

 

 そうして…

 尽力の引き換えに、台湾は大陸中国と取引と協定を行い、当該の落着デリンジャー衛星のセントラルコンピュータ部位の現物を確保することに成功、これの解析を試みた。

 すると、先述のバックドアの存在が露見した、

 台湾はぶちぎれた……世界は顔が青ざめた。

 斯くして、ようやく事の解明はここに及ぶに至る……が、しかし妙な動きと話は加速する。

 この混乱と同時並行をして、「今回の惨事はすべて日本が黒幕だ」とする、今更この大災害の責任と罪を被りたくないが故の苦し紛れのハッキーズどもの繰り言も、それに同調し、脱獄AIでディープフェイク生成した怪情報をばらまいて疑心暗鬼をもたらさんとした一連の不穏国家の存在と、その連携同調国の各国と各団体組織個人の蠢きである。

 

 そして何より……それらと連携し、今回の件で起きていた、日本の多摩地域に自国の実験小型デリンジャー衛星がやけにタイミングよく、“事故”として落着し、そのデリンジャー衛星は多額の費用と税金を掛けたK-抑止力の成果物であり、その無駄撃ちをさせられたのだから今回の日本にもたらされるだろう総計上利益は全額以上が全て賠償と謝罪として韓国に渡されるべきであり、

 なんならば、細胞エクモマイクロマシン/補助塗布薬技術と放射能緩解マイクロマシンのパテントの権利と、“無償技術開示をしなかった場合の”総利益をさかのぼって請求し、その全額規模をも賠償としてよこすべき!とし、

 それを日本国が実施しなければ、R国・NK国・大陸中国・アメリカと連立して新・国連軍を編成し、日本へ懲罰的侵攻による懲罰的攻撃をかけるのだ! とやけにタイミングよく布告した当時の“覚醒的”超左派過激派であった韓国大統領・ムンム・ンジョンや、その政治的バックボーンであった韓国内の左派進歩的勢力の蠢きがあったのだ……が、

 なにせ、事態が事態であった。

 当の韓国国民は自国の南にも北にもデリンジャー衛星が一発も堕ちなかったことを奇跡だ幸運だとしつつ、状況の仔細が掴めてくると次第に不審がるようになり、

 そして事の真相が台湾により暴露され、

 ついでにRAMにバックドアを設定することを、政府内からも当の諜報部門からも反対されていたのに、“出身政党内の有力な指示者たち”の手引き通りに強行したムンム・ンジョンの肝煎りの指示であったことが関係者の白状により解明されるに至り、“早く何とかしなくては”……と、なった。

 結果として双方の内部での内戦寸前まで南北朝鮮両国内の政治局面は及んだが、

 結果として、“覚醒派”と自称する不穏勢力の排除/打破の実施まで及び、そのまま積弊をそっくり全部、撃破するための手掛かりを得れた。

(“覚醒派”とされるムンムを選ぶにいたったまでの当然とは言えない当時の韓国国内情勢のさなかであっても、流石に乖離を覚えた韓国国民は大多数であり、その市民らの総意と選択決定として韓国議会与野党の心ある有志と韓国軍・警察・検察は動き、

 ムンム・ンジョンは錯乱者として精神病院送りとなった……

 だが依然として多くも細かくも大小の謎は残り、どころかムンムの排除運動の一連というのは“指示者たち”の正体と指示系統の作用背景を隠すためのブラフであったのでは? という話として、世間の陰謀論の種ともなった。ただひとつ事実として、ここまでの出来事が起きたにもかかわらず、少なくとも南朝鮮は、国内に巣喰う赤派親和性勢力の根断ちは徹底しきれなかった。)

 とにかく、これら一連の騒動を通じて、日本の戦後以来の国是の信義と、その有言実行は改めて信頼に値する物とみなされ、

 当時推移が前後していた“トミックス・ショック”での国家的窮地と国際社会からの外交的処分とその追及はいったん保留とされ、

 助けられた側の大陸中国においては、

 今世紀初頭から当時までの永らくに渡って続いてきた対外膨張機運の、その矛と盾の戦略の“盾”としてのデリンジャー衛星導入がこんな結果を招いた事を自省するに国内情勢としては至り、

 中国国内の反日機運・対外拡張意欲は、ここにて、沈下して消え失せた。

 

 台湾は「信頼と実績と裏切り小細工無しのメイド・イン・タイワン」と改めて自己プロデュース、

 結果、懸念が大きくもたらされることとなった韓国製品のシェアを、大きく削ぐことに成功した。

 

 

 これら一連の経過の中、黎明期のアレックスロイドという存在は、初期の活躍の礎を静かに築いていっていた。

 デリンジャー衛星による汚染地帯の除染・緩解作業処理、また被曝した人間などを救護・看護・治療・施術・介助するための機械労働力としてである。

 そうして、“限界環境労働作業用途型・高度知能化無人機械”、として、今日までも続く巨大で強固な市場と産業が確立。

 一時は世界の宗教界・信条左右問わずの活動運動家・団体の走力によって抹殺されかけていたアレックスAI、アレックスロイドというのは、

 “不本意ではあるが、まあ、役に立つときは役に立つ”

 として、…されど、ラディカルアクティビストたちは次のタネの仕込みを始めていた。

 

 

 もとより、アレックスロイドを労働力とすることで、

 ほかの世界各国と同じように、大陸中国は人口年齢、労働力問題を解消しつつあっていた。

 これというのにより、

 内周部中国の経済は盛り立て直すことに成功し、外縁部中国の辺境地に過酷な待遇と労働を強いる必要は薄れ、

 さらにノイエペストの惨事により人口数にダメージを受けていた大陸中国であっても、各辺境の諸民族の地域性を十分担保として盛り込んだ上での、

 中国国民の人口数の回復とそれを可能とする政策的な各種前提要件の整備と実施と準備に、ようやく手が届くところまで来ていたのだ。

 

 つまるところ国内諸問題は大部分は解決してきていた訳であった。

 ……だが、

 それによって得た余力や余剰リソースというのをなにに注ぎ込み使ったかというのが、

 何を言わんや、イスラエルと合同で研究し作った中国独自のデリンジャー衛星「火鳥(フェニックス)」であったのだ…

 

……死と災厄と共に空から堕ちてきた不死鳥は、軌道上空からの断熱圧縮の熱で赤色の光を放ちながら地上へと降ってきた……

 そこから始まったこの世の地獄。

 

 されど……

 

 長年敵国として内外に宣撫していた日本という国も、ここまでやってくれたのだ。

 そして国際社会を動かしたのは、紛れもない台湾である。

 

 そもそもからして、

 今世紀の初頭、つまり数十年前の時勢からは前提と事情が変わっていた。

 今回の災厄が起きる前までに、国内問題はやれるところまで解決できていた。

 ならば、何のための国家運営か?

 覇権のための展望というのも、また話が変わってくるのでは。と。……

 

 大陸中国は後悔した。

 ならば、後悔なりに、身をあらためるべし、…と。

 

……それから四半世紀近くが経った、現代。

 ある程度復興したその途上で、アレックスロイドはトイとして普及し、

 その過程や今の現在にて、中国人に思い出させるものを感じさせた……

 かつてのトイのメッカ・香港や東莞といったその他関連都市も、

 メイド・イン・チャイナのアレックスロイドトイを生産し、

 これというのに、除染作業・被爆者介助医療行為用の労働力として、アレックスロイド……ひいてはフェアリーメイデンの需要がある、として、

 国内向けの莫大な特需というのがかみ合った結果として、

 これら中国の玩具産業は一気に活性化。

 

 

 アレックスもフェアリーメイデンも、ニーズにとてもうまくかみ合う。

 冗談ではなく、おもちゃによる平和の実現が、ここにもたらされていたのだ。

 

 

 かつてからの、日本・台湾・中国、そして周辺各国、これらを取り巻く緊張状態は、永久に解決が為され、今後は発生しえないとしたものとして、関係各国にて確認と合意がなされた。

 

……こうした朱い鳥事件の出来事はともかく、

 斯くして……これらの国々が主導する形で、世界でプラントベースド液晶性エラストマーとマイクロマシンによる放射能緩解/細胞エクモ用途マイクロマシン、これらの製造技術は、世界に手確立したのである。

 以上はその経緯であった。

 

 まあ、それもまた、とにかくのこととして、話は作業中の浩介へと戻す。

 マイクロマシンを積層して成型って、それって3Dプリンタってやつなんじゃね?

 でも全てを積層なりでやるには手間と時間がかかり過ぎるだろ?!

 というところで、またしてもハイテクによる解決をエロイ人たちは図っていた。

 オリゼリマナノマシンを含有するバインダー材に易排除性ハイドロゲルを用いた状態でそれによる射出成形を行う方式とすることで、土台となる形状を構成させるのだ。

 そうしてまずハイドロゲルの液質成分を分離排除し、

 そしてその上からオリゼリママイクロマシンをインクジェット塗布し、噴きつけ中に最終形状をナノマシンに指示指定させることで、

 バインダー材のハイドロゲルと余剰箇所分はサポートとして分離排除することで、完成形が速やかに製造可能とする。

 こうして従来の3Dプリント品とはまた異なる、各段に高速な量産性能を持たせることができたのだ。

 

 オリゼリマ製マイクロマシンの素肌……スキン部位。

 形状変化への高追従性とそこからの絶対的な原型維持の性能を持ち、

 対応用途にセッティングした状態ならば、1.5センチ厚の成型品で、標準的なアサルトライフル想定の5.56ミリNATO弾による連射直撃三発にも傷一つ付かず、ツンドラの大地で火焔放射器に炙られようが対戦車地雷の直撃を受けようが無事で、その上、十年間アリゾナ砂漠の直射紫外線に晒され続けても劣化の兆候一つ起こさない、絶対ともいえる高い防御性能を誇る。

 

 

なによりも基本技術からの発展として、自衛隊での35式倍力服のライセンス独自改良型国産の際に試行錯誤をした北越化学工業社の企業努力により、このフェアリーメイデンの外装材に最適配合のなされたTRH-60ならば、まるで人肌以上の…最高級のくずもちだとか、わらびもち…かのような感触を獲得しているのである。

 

 

 

 

 

 そして……

 

 

 

 

 

 

拍子抜けする事に、浩介のすることといえば、予めこれらが複合インサート成型…システム・インジェクション…されたコンポジット・ブロック・モジュールの四肢を、簡単おてがるにつなぎ合わせていくだけ、最低限の組み合わせのみ、なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、これというのが、さらなる悩ましさを浩介にもたらす。

 

 

 

 

 

ヒントは、手足、頭、胴、の各部品が、それぞれ一体成形されている事にある。

 

 

 

 

 

…一例としては、つまり、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嘘だろ、こうなってんのかよ!?

 

 

すげぇ、ここまで造られてんだ、…おぉっ、

 

 

 

 

 

 

 

 

うっ

 

 

 

 

 

 

 

…ふぅ。

 

 

 

 

 

 

 

ーーとにかく、妖精のスーツだとかタイツだとかが別部品になっている理由が、判った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピノコを組み立てるブラック・ジャックの気分であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今、オペは完了しようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…できた」

 

 

 

 

すべてのパーツをくみおえた状態の“妖精”が、今、カッティング・マットの方眼の上で完成していた。

 

 

 

アイ・カメラ…両の瞳を、長いまつげの瞼の裏に閉じた状態だ。

それが、緑色のマットの上で仰向けに横たわっていてスタンドライトに照らされているから、その白いボディー・スーツと脚のタイツをプラスチックの質感に輝かせている。

 

 

「…ははは、」

 

 

料理をし終わった後なのに、まな板の上の鯉、などという言葉が己に過ぎった。それから、南君の恋人、だとか、というのも思い出してしまう…ような。

 

 

しかし、一つ重大な差異がある。

 

あれは確か女子高校生だったとおもうが、この今目の前の“妖精”は、うーむ…ー中学生というか小学生高学年中学年というか…穏当にふさわしい言葉としては、実にフミカネ的な外見だった。初潮前、だとかと思った訳ではない。

 

 

 

クリーム色のセミショートジャギーの髪。

 

瞼に閉じられているが、その下には碧色の瞳。

 

白磁のように透き通る肌。

 

プラスチックの密着スーツ。

 

 

 

「ふふぅ、」

 

 

全て、コウスケの属性にジャストだ。

 

 

 

 

 

「よし、」

 

 

 

 

 

天国の父と母にこの上ない敬意と感謝を払いつつ、

 

後は、初期セットアップ…パソコンや手持ちのスマート端末のALEXとの認証…を済ますだけだ。

 

 

 

 

 

既に、愛用の松下レッツノート・パソコンとスマートフォンやら、自分の常に着用している“眼鏡”…東芝製LMー80スマートグラスなどは、全て電源を入れて机の上にそろえている。

 

 

 

 

まず最初に、このフェアリーメイデンのキットに付属のDVD-Rかネットのメーカーサイトから、対応のALEXダイバー・アプリケーションを落とす。

そしてそれらを各機器にダウンロードしてプログラムのインストールの完了を確認した後、説明書に記載されているシリアルNo・IDコードをそれぞれに登録。最後にフェアリーメイデン本体を起動させ、仕上げの認証を行う…ー

 

 

 

 

 

 

 

 

あと少しだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

あと少しで、妖精をこの手の中に目覚めさせることができる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なのだが、それはもしかしたら永遠に等しいことなのかもしれない、と浩介は思うに至った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なぜなら、

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…いつまで経っても起動しない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………、」

 

 

 

もしや、配線をしくじったか?

 

 

 

 

 

分解してからの再組み立ての必要もあるかもしれない。

 

 

 

 

 

そう思い、妖精の身体をつかんで確かめようとして、

不意に、体温のような物がそれに宿ったような、次の瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

「わ!?」

 

 

 

 

 

 

ぺろ、という感覚。自分の指の腹を撫でた、とても小さくて、なのにすごく愛おしいような、そんな感触の正体…ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                ・・

この“妖精”が、こいつ…ーいや、彼女を握る自分の指の腹を、小さな舌で舐めた瞬間だった。

 

 

 

「 /// 」

 

 

 

 四肢と胴体のモジュール分割線が、ぱちり、というスナップフィットな音と共に、

 電磁式密着ジッパーレスファスナー結合がなされ、

 外見からはその結合の境目が見えなくなったのが、その次のタイミングである。 

 

 エリス型、フェアリーメイデン。

 その人工の妖精天使の…起動…ブート…が完了したのだ。

 

 

 

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