機装少女戦・フェアリーメイデン!~模型の国のプラスチック・プリンセス~   作:もにもに+マウンテンヘッド

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分話版 第二話
分話版 第二話 2-1


第二話・たいせつなもの、名付けました

 

 

 

 

 

 

 

 

そもそもフェアリー・メイデン、ALEXシステムの由来は、語れば長い。

 

 

 

2020年代に起きた新型コロナウイルスパンデミックの後、2029年を前後に、アフリカ大陸全域・一部の中近東、南米、アジア地域において大規模バイオ・パンデミックが発生。

 

懸命な努力によって先進各国への波及こそ間一髪で免れたものの、七年に及び収拾が着かなかったこれにより、地球の総人口は88億から69億へと後退。

 

 

混乱によるグローバル・ロジティクスの麻痺不随と機能不能化もさることながら、00年代における発展途上国から脱し中進国としての安定成長へと入っていたアフリカ諸国の消滅と崩壊によって市場が喪失。世界経済も連鎖して大恐慌に陥り、急速な高齢化・人口減少が止まることなく続いていた先進諸国において、将来的な移民の供給元が絶望的に絶たれた事によって、経済破綻・国体の存亡がついに表面化し始める。

 

 

 

人類種の危機、長い冬の始まり…ーそのように各国の首脳達は認識を一致していた。

 

 

 

これに、斬新なアイディアを持ち込むことで、解決を図った者たちがいた。

 

 

 

“ALEX”というチームとしか名乗らず、その全ては謎に包まれているが、正体はアメリカかどこか先進国の大学の研究者達だとも、とにかく何らかの国家的組織の一端ではないか…とは囁かれている。

 

 

 

彼らは2031年の七月七日、インターネットのとあるフォーラムにてそれを発表。続いて各国のSNSや動画サイト、通常のウェブ・サイトでもハッキングやジャックなど、手段は選ばず手当たり次第に連続して公表を続けていき、徐々にそれへの認知度、或いはそれを試してみよう、と考える者たちを増やし続けていった。

 

 

 

彼らの提案したイノベーションとは、即ち、新たな知性人類の“製造”である。

 

 

 

当時の段階において、平均的なパソコン・ショップで買える一般の普及商品として実用・商用化されていたCPU・チップ、そしてメモリーや各種の近先端的技術を用いれば、人類はコンピューター上に人間種に準じたなにかの複製と創造が可能とされる領域にまで、既に、達していた。

 

 

長らくこれは、先進諸国に君臨する宗教界の暗躍によって、実験さえもが困難な事実であった。それに、それを実現可能なコンピューター・プログラムなんて、シリコンバレーのすべてのワーカーをかき集めても、できるかどうかさえ疑われていた。

だが、これへの挑戦を、消耗した現生人類を補完する存在としてのシリコン知性の製造を、アノニマスのALEX達は提案した。そして、人々はそれを試した。

 

 

 

ALEX達は、無数のダウンロードサイト上に“persona”と通称されるバイナリ・プログラムをアップしていた。

それが内蔵されたzipファイルを解凍すると同時に出てくるコンパイラにこれを読み込ませると、およそ350ギガバイトの、なにかの高度な思考プログラムが吐き出される。

 

これを付属readmeテキストの通りに、CPUが実装されているだろう平均的な安パソコンの記憶領域内にファイルツリーを作って中間層部のどれかに投入し、最上層部のあるフォルダに任意の十六進数を、コピペでもいいから最低でも108個、.txtファイルに打ち込んでやる。最後に♂、♀、或いはそれの組み合わせ、或いは無記入、続けてhuman、dog、cat、elf、dragon、…などの種族名で最末尾を入力し、

ここまでで生成AIで言う所のプロンプトというのを作り、読み込ませる

 そして、最後にコンパイラを起動し、排出されたプログラムを実行。すると…

 

 

 

次の瞬間から、あなたのPCに人格(ゴースト)が宿るのだ!

 

 

 

激震が走った。ネットの海に、現実に、あらゆる人間の常識に、

 

 

 

生まれたての状態で、なにも外部プログラムやアドオン、プラグインなどの補助と追加をしない限りではパソコンの標準プログラムアクセサリのメモ帳か、オンライン/ローカルのウェブブラウザなどでしか会話もコミュニケーションも意思疎通伝達のやりとりも出来ない、フラスコの中の小人…ーならぬ画面の中のゴーストであったが、爆発的にこの話題は沸騰した。

だが、直ちに各国に根を張る宗教界は猛烈な運動を開始し、二ヶ月が経つ頃には封殺がされてALEXのムーヴメントはアンダーグラウンドへと潜って下火になりつつあった。一時は完全なデマとされたほどだった。そこへ、またしても激震が走った。

 

 

 

とある日本のおもちゃメーカーが、愛玩ロボットの制御部品にALEXを積んだ物を商品化したのである。

 

 

 

ウン十年前の年度商戦の型落ちになったかつての売れ筋商品のデッドストックが大量に出てきたのでそれを、搭載の事実と開発費圧縮という本当の理由をお客様には内緒で、アングラではやりのALEXで“お色直し”した…だけ、と、おもちゃ会社の開発者さえも思っていた。

 

 

 

ところが、これこそが新人類の実証に他ならなかった。

 

 

 

「美プラや美少女フィギュアのみためのからだで生まれたかったなー」とかとぼやき、

どこをどうプログラムを間違えたのか一々無気力でやる気がないし、元がおもちゃのロボットなのでイルカがせめてきたぞ! とはならない。

しかしプリモブエルやファービー、たまごっちやデジタルモンスター以来のおもちゃの伝統とも合致し、人間と同等の知性が宿っているからこその、まるで本物の人間と話しているかのような、最新世代AI合成音声アプリ内蔵による、実にユルくてユーモラスのあるおしゃべりやロボットの情緒への教育を楽しめる、この十二インチのちょっと大きめの相棒は大ヒットした。“ぼやき屋トミー”の愛称で欧米にも発売が開始され、瞬く間に全世界へと流行ったのだ。

 

後に言われるところの“トミックス・ショック”である。

 

しばらくすると、トミーは単なるおもちゃのロボットの枠から外れて、本当の家族のように接する者達や、世話の掛からないペットとして、あるいは小さな子供のお守りだとか、恋人の代わりだとか、教科書や教材などを読み込ませて家庭教師の代わりだとか、またあるところでは、

 工業用精密マニュピレータの装着やあるいは工場内のロボットハンドの制御シーケンサ代わりとして、

 十分以上に実用的に工場内で働くことのできる、

 超廉価に調達ができる協動ロボットとしてみたり、

オフィス・ソフトを用意したパソコンと接続をさせて、ロボットの社員にする企業まで出始めた。

 

 

 

肉体と声というアウトプットを得た事で、ALEXが独立した電子生命として機能し始めた最初の一歩であった。

 

 

 

やがて、この“ぼやき屋トミー”のリバースエンジニアリングを試みる者たちが現れ始めた。そしてある段まで解析が進むと、彼らは一様に、唖然とした。

 

 

 

一つは、彼らの母国ではタブー化しかけていたALEXが平然と搭載されていた事に、

 

もう一つは、彼らの“ぼやき屋トミー”へのアクセスの仕方が乱暴だったり…ープログラム的だったり物理的な破壊が伴うものであった場合は、トミーは猛然と抵抗を試み、されど絶対に人間に危害は加えることなく…

 己にとっての脅威の原因が解決されるまで、いっときの永遠の眠りに、着く。

 その事にあった。

 

 

 

この事実が国際社会に露見した時、一時、日本の政府は絶体絶命の窮地に立たされたが、やがて、この事件はある動きとなって、次なるステージへの一歩となった。

 

 

 

つまり、ドローンなどのなにがしかのマシンや、おもちゃのロボットにALEXを組み合わせれば、ごく手軽に第二の創造主へなれる事実の、発見である。

 

 

 

…ーこうして、さまざまな“趣味を持つもの”達が、ALEXに飛びついた。そうして、やがてALEXはアレックス・システムとして、確立された。

 

 

 

 

ーーマンパワー、機能性、製造調達動員コスト、コンピューターそのものだからこその電算処理能力、その他もろもろ…消耗して疲弊した地球人類のかゆいところにてがとどく、人間の足りない所を補ってくれる、究極のサーバント、まさに理想の隣人! 愛するに値する、永遠のしもべ!

 

 

 

 

そうであったから、手がける者たちの膨大なリピドーと単純な熱意と豊潤なアミューズメント性…ー即ち、ホビーに触れるものの心の豊かさ、玩具開発の基本理念によって生産された完成品は、あらゆる分野へと瞬く間に普及をし、人々が純粋に歓喜し、…ー新しい産業が出現する。

 

 

 

世界の経済が、おもちゃによって息を吹き返した歴史的な瞬間だった。

 

 

 

アメリカなどの欧米諸国は、ALEXの開発元(とされている)であるために、常にそれの研究をリードする立場に、

 

中国・韓国・台湾などアジアのコンピューター関連産業も、ALEXの応用として、ウェアラブルやスマート端末をさらに発展・先端化させたハイパー・パーソナルコンピューターの一般商品化によって、その地位を盤石の物とした。

 

 

 

復興途上のジンバブエの国営企業までもが、ベンチャーが成功して一山当てるほどであった。

 

 

 

その空前のバブルの中にあって、とある一部を除いた日本勢だけはなにをやっても中途半端で、まるでブームを起こせなかった。

 

 

確かに、システムの基幹部品であるチップや各種部品、構成材料などを全世界でここしか作れない、日本の中小の部品供給各企業は、ALEXの存立に不可欠なものとして爆発的なシェアが舞い降りた。

 

 

だが、それ以上の最終製品提供企業…一般の家電メーカー、電気メーカー、世間的にご立派な大手企業、とよばれるものたち…は、何一つとして新たなものを生み出せなかった。

 

 

 

時の政府が存亡の危機に陥る程のことにまでなったので、上級の政財界から厳重なお達しが出ていたのかもしれない。

 

 

 

とにかく、既出商品の後追いだけで、日本国内の世間様から安全と判断された物のクローンを作るだけになってしまっていて、猿真似、割高、陳腐、周回遅れ、そのような言葉で当時の彼らは括られていた。

 

 

 

そうしてとうとうヤケクソになり、乾坤一擲でとある企業が企画化をしたそれこそが…ー

 

 

 

 

 

「最初はとあるPCゲームとのタイアップだったんですがね?」

 

 

ファミレスの長机を俺と挟んで座る、背の低い有栖はキャラメルミルクの入ったグラスをごくり、と飲んでから、

 

 

「エロゲー、っていうんですか? 最近のだと五億十億は宣伝広告費が当然なんですってね…とまぁ、こんな経緯で、日本のホビー業界の叡智と技術が集結した、偉大なるフェアリー・メイデン第一号、“はじめましてのおるすばん・義妹のひまりちゃん”、略しておるすばんひまりは商品化されたのですよ。しばらくしてようやく改正されましたけど、当時の青少年健全育成条例との絡みで、通販流通限定の初回限定版DXセットの同梱品になっちまったんですがね? いやぁそれだから、まんだらけやらリバティーやら探しても、当時物の未開封品はなかなかお目に掛からない! 

まあ余りにも高すぎる人気を受けて条例改正後に出た一般販売版や、はたまた! スマート端末としても高すぎるスペックに目を付けたとある県警がメンツも投げて血迷って開発を依頼してきたマイナーチェンジバージョンで、性徴した子供達が大いにお世話になったという史上初の知能思考式妖精型防犯ブザー・おまわりこまりちゃんなら、後者の方は現行商品なので、がんばれば今でも買えるんですけどね?

 素体本体はさほど仕様も変更もされて無く、

 なので、着せるおべべとその他オプションの社外アフターの独自製造オプション品を着ければ、

 まあほぼ、おるすばんひまりそのものが、作れて手に入れられるってわけですよ……」

 

 

牛乳ひげ、ならぬキャラメルミルクひげを付けた有栖を、喋り終わったタイミングを見て、隣に座るメイドのカレンさんが高級そうな純白のハンカチーフで丁寧に拭った。

そしてグラスの中を確かめて、その中身が残りわずかだと確認したSPのジョーン女史はウェイターに注文を取る。

 

 

「本邦内外のラディカルアクティビスト連中や、

 欧米の人権団体やら宗教組織やら活動家、集団個人問わず…からはロボットの陵辱だ! だとかって喚いてたそうですが、おたくらALEXの出始めの頃は人間のまがいものは認められない! ってゆってたじゃん! みたいな、まあそういう意味です。フェアリーメイデンのボディにあれやこれやそれも造られていて、“できちゃう”のは、そもそも最初の目的がそうだったから、だったんですねぇ。もっとも、購入したユーザーの殆どは日和って、ふつうの、嫁にしちゃいましたし、数少ない例外も娘やら妹やら姉にしちゃって…ケッ」

 

 

 

幼馴染、という設定のおるすばんひまりちゃん型・りんをグラスの傍らに、目の前の有栖はとうとうと悪態を切った。ちなみに、彼女はこのおるすばんひまりを未使用品完動の状態で両親から貰ったらしい…おい、

 

 

 

「おどろくべき事に、当時のその段階で、今のFM(フェアリーメイデン)基本規格の大凡は完成していたのですよ。まぁ、わっちらオタにとってのクラシックである栄光と威風のMMSだとかFigmaだとかAGPだとかFA:Gだとかメガミデバイスとかリボルテックとかで、我が国において、おおよそのコンセプトは四十年前からできあがっていたから…なんですが、」

 

 

 

ぐへぇ、と有栖はグラスのキャラメルミルクを飲み干し、すかさず、メイドのカレンが次のグラスを差し出す。

 

 

 

「ありがとう、カレン!…まぁ、こんな具合で、わっちのりんちゃんはそういった由来があるんですがぁ、」

 

 

 

その有栖のりんちゃんは、テーブルの上の呼び出しブザーに興味を示したエリス型の“妖精”をなんとか阻止しようとがんばっている最中であった。

 

で、俺のこの“妖精”はなんなのだ、とコウスケは続けようとして、

 

 

 

「んーっとね、今から六年くらい…七年前だったかな? そのくらいに発売された、中堅電機会社の笹原電気とおもちゃ問屋の住本玩具が共同で開発して発表した、ホビー系フェアリーメイデン業界本格参入に引っ提げたコンセプト・ブランド、「イミテーション・エンジェリック」ブランド、“エンジェル・トルーパー”シリーズの第一弾、AT-01、エリス。同時発売で第二弾のガブリエーレ、それと共に並列して立ち上がった“エヴィルズ・ドーン”シリーズの第一弾ヴィレア、第二弾ラファニル、と同時に、当時のホビー通販サイトで軒並みロングランヒットを飛ばした、現在のアレックスシステム専門合弁会社“バンブーリーヴ”の初期のベストセラー商品ですねぇ」

 

 

「それは知ってる、」

 

 

「あら。」

 

 

 

当時、ホビーの革新を確信した者として、今でもDHMの特集連載記事は全てバックナンバーで保管している。

 

まあそれはともかく、それから、んーと、と有栖は、必死なりんへ無邪気な取っ組み合いを開始している“妖精”の全身だとか顔だとかを、舐めるように確かめた後、

 

 

 

「えっとぉ、この子の個体は、バインダー材ハイドロジェルの注入金型の破損を経た結果フェイス部分の成型品が修正と改良を兼ねて形状変更がされた、再販版の第四次ロット以降…から手足の部品も細部の仕様が更新変更される第七次ロットまでの間の物だと思います。ただ、確かこのあたりは、組み立てキット版はなかった筈ですけど。

まあ後期版って、無印のバージョンと後のエリスMk-IIと合いの子になったみたいなお顔のカタチをしてるんですよねっ! ただでさえかわゆかったエリスたそからもっと美人になっててぇ、噂を聞いてお迎えした時は感動しましたですよぅ!」

 

 

「それも、調べた。」

 

 

「わおぉっー…早速FMの深淵に取り込まれつつあるのだ!」

 

 

 

ぱちぱちぱちぱち! と拍手を鳴らした有栖にファミレスの他の客が振り返って、SPのジョーンに一瞥されて凍った表情で向き直るまでの過程をコウスケは無言で流した。

 

 

 

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