機装少女戦・フェアリーメイデン!~模型の国のプラスチック・プリンセス~ 作:もにもに+マウンテンヘッド
「つまりはですねぇ、」
有栖は四杯目のキャラメルミルクをエリツィンがウォトカを飲む如く、ぐびぐびと飲みながら、
「今の善なるハッカーってねぇ、如何にしてアレックス・システムの新たな人格、未発見…は難しいとしても、未開拓、未踏野の可能性、フィールド、それを見つけだすかに血筋挙げてるんですよ。誰も見つけていない、新たな人格、ペルソナ。
まあ、複数多数種類のを重ねがけや交配したり、植物の遺伝子組み換えのようにする農畜産学的アプローチもあり、
まだまだやれることはたくさんありそうなのです!
ALEXは基幹プログラムの配置フォルダの位置と108以上~無限数の、一つ例をとるならば、代表的な例で十六進数の組み合わせ、そして最後の♂♀その組み合わせか無記入の記号の選択、そしてこれが一番の難敵である…んーと、自由度が高すぎる…種族設定やプロンプト入力のシステムによって、その人格が類出しやすくされる…コウスケさんも知ってる通り! そして、それを見つけて法人なりパトロンに売れば、一生遊んで暮らせる…とまではいきませんけど、それでもある程度の、まとまったお金の現金収入になるのです」
そして目の前の有栖こそが、その現金収入で暮らしている善なるハッカーの一人にこそ違いがなかった。
「りぃんちゃんが代筆してくれるわっちのレポート、すごい人気なんじゃぜ? ALEXの人格発生は、ペルソナが出現してからも中長期的に観察しないと、もっといいところがわからないんだよ。もう発見されたものでも、ひょんな事で性格や思考が分化する“フラグ”が見つかったりね? スーパーコンピューターで総当たり検索が出来ない理由の一つ! だから! 我がアーノルド・栗田家の邸宅の一角にデータセンター同然の実験ラボを構築し! わっちがそこに籠もることによって、全世界のアレックスシステム・ユーザーに恩恵が行き届くのだぁ!」
こいつ、元々がお嬢様だからなぁ、…とコウスケは思ったりもした。が、それよりも、
「それで、なぜそれを俺に告げたんだ?」
「それはですねぇ、あなたの、コウスケさんの妖精ちゃんにも、チャンスはある、ということなのです。“ミッシング・イヴ”になれちゃうかもしれない、チャンスが!」
その有栖の台詞を聞いた浩介の表情は、金曜版新聞のつまらない三文ゴシップ記事を読んでしまったくたびれたサラリーマンの様な顔になって、その“ミッシング・イヴ”という物への自身の所感をそう述べた。
「むぅー! 自分の萎えは誰かの萌え、なのですよぅ!
…浪漫があるじゃないですかっ。存在したと予測されているALEXのマスター・バイナリ、“オールド・ブルー”の同一存在にして、理論上、数京の数十乗分の一の確率で発生するだろう、といわれる、ALEX知性の“プリンセス”。
次なるステージのALEXへと進化するための、やがて訪れる電子生命のカンブリア爆発の、人工的にではなく自然発生で出現するかもしれない、そのすべての母となりうる存在…ー得るだろう体験や経験値のその特殊な環境から、全てのALEXシステムの各種ジャンルの中でも、フェアリーメイデンから出現する確率が最も高い、と考えられているそれ。…ロマンありすぎでしょぅ!?」
「眉唾、ブロウ・イン・スピットル、胡散臭い、雲黒斉」
「うーっ! これだからコウスケさんはぁーーーーーーーーーー!」
じたばたばた! とファミレスの長ベンチの上で暴れ出した有栖を、やはりカレンもジェーンも何もいわない…
そんな有栖が、ふっ、とシラフになった…ーというよりも、正真正銘の正統派・超・美少女へと変化し、それが自分の目の前に現れた…ー
おもわず気持ちが跳ねるコウスケだ。
大きくて……星空ようなキラキラの輝きを宿したその両瞳をコウスケの細まっていた目へと向けて、
「きょう、うれしかったっ」
なんだよ、一体急に、
「だってね? ひさしぶりにコースケさんと、…お兄ちゃんと仲良くできたからっ」
何をいってるんだおまえ、の気分の浩介だ。この金髪のちんちくりんが自分のことを唐突にお兄ちゃん、呼ばわりしている事にではない。
というかむしろ、これが有栖の素面だったりもした。
色々難儀してきて、それでどっぷりオタになってしまってはいたが、出会った当初からしばらくして打ち解けた時、この今の、別人になったかのような有栖から、初めて“お兄ちゃん”と呼ばれた時は、たしかに、天国の絶頂が見えた気がするが…
それはともかく、昨日だって、いや、今日までの毎日だって毎晩二人で夜遊びしてきたじゃあないかねチミぃ。それは一体どーなってるの?
「じゃあ、いつ振りに仲良くできたんだ?」
だから、浩介はそれだけを問うた。
「それはね、」
有栖は、逡巡の光を大きな瞳に巡らせて、
「秘密、だよっ」
それだけであったが、浩介は理解した。
自分の悲しみを、他人にまで背負わせていたのだ、と。
* * *