イカロス・シンドローム かくして少女は翼を捨てました 作:虚憂
私は生まれた時から空が好きだった。
「ふん、ふふふ〜ん♪」
潜在的な羨望? きっかけはわからない。けれど好きだった。
「……てーの、ひら、をー、たいよう、に」
まあ、その頃の私が見つめる空には、太陽なんてものはほとんど映らなかったんだけどね。
とにかく。私は空が好きだった。
「まー、っかーに」
「ユウちゃん」
「ん、どうしたの?」
だからかなぁ。
「……いや」
「ほえ?」
「空を眺めるユウちゃん。いや」
「うえ、そんなこと言われてもなー」
「……」
「……はいはーい、ごめんねアッちゃん」
その頃の私は、今の私からするととても傲慢なのでした。
おしまい。
……まあ終わらないんだけどね、初見さん。
「相変わらず綺麗なとこだ。何にもないけど」
何にもないけど、大事なことだから2回でも3回でも言うよ。
ここ、アビドスの自治区にはぱっと見何もない、と。
砂、残骸、そして空、清々しいね。
「絵を描く分には問題ないけどさー。その、ねえ」
自治区なんだよね、うん。
大昔はマンモス校だったとかいう逸話本当なのこれ。
「いや、土地はあるんだし」
手で景色を切り取っても、切り取っても有り余るほどの広大さだけは、その名残と言えようか。
これが元々砂漠ではないのだとしたら、ね。
「道路……んー、ピンとこないなぁ」
どうしよう、広過ぎてどこを切り取るかが定まらない。
やー、何度描いても、この感覚には慣れませんなぁ。
「つくづく絵描きには向いてないとー……」
景色は映り変わって、まだ生きてる街に近い方。
そう遠くない、そこそこのところには、そこそこの賑わいが見て取れる。弾丸のだけど。
砂漠、道路、廃墟、標識、空、道路、行き倒れ、廃墟、砂漠……ん?
「おろ?」
今私、何を見たって?
手で作った、安っぽいフレームを巻き戻してみる。
「……んー、えっと」
なーんかスーツっぽいのを着てるオブジェクトが、一つ。道路の真ん中にぽつーんと。
あれ、人ですか。
いや、それっぽい何か……あっ、今なんかピクッとした。
「もしもーし、生きてますかー」
「ぁ、うぅあ……ぁ"……」
「おお、生きてる生きてる」
何と言うか、干からびた声をしているけれど、まだ息はあるみたい。
砂漠にこんな軽装備で来るなんてねぇ、自殺志願者かな?
「はい、とりあえず水。死にたくないなら 」
「っ!!」
「と、聞くまでもなかったかー」
乱暴ではないけれど、とても必死に水を受け取る様を見るに。自殺志願者ではなかったっぽい。
ただのお間抜けさんか。
「アビドスはすっごくすごい砂漠だから。今度からは水は常備することをおすすめしとくよ」
「っぷはぁっ!! ……ありがとう。おかげで助かったよ」
「どういたしまして、良い飲みっぷりでしたと」
うーん、話聞いてなさそう。
でもなんか、人柄は良さそうに見えるかも?
……いや、初対面に向かってどんな思考してるんだ私。
「で、お兄さんはどうしてこんなところに? 自殺志願者って訳でもないんでしょ?」
「ああ、それはね……」
ふむ。
へぇ、連邦捜査部シャーレ。アビドスからの救援要請と。
「じゃ、ちょうど良いんじゃない?」
「えっ?」
「私は無関係なんだけど、この時間帯なら、関係ある子がこの道通るからさ」
というか、順当に行けばその子が助けてたよね。余計なことしちゃったかなぁ。
「んー、まだ……あっ、来た来た。おーい」
噂をすれば、何とやら。
件の子が自転車に乗ってきているので、手を振って迎える。
「……ユウキ先輩? 久しぶり」
「お久しぶりシロコちゃん。今は通学途中?」
「ん、そうだけど」
「なら良かった。この人、アビドスのお客さんだって」
「そうなの?」
「そうらしい」
そう言えば理由とか聞いてないけど……私には関係ない話だね。
「んじゃ、お兄さ……おろ?」
お兄さんが仰向けに倒れ込んでいる。
……事切れた?
「……ユウキ先輩、この人寝てる」
「え"っ」
なんて? 寝てる?
この砂漠のど真ん中で。
「いやそれ寝てるって言うか気絶……」
「……どうしよう?」
「シロコちゃんの後ろ……は無理か、意識ないし。んー……」
上手いこと乗せてもどこかで落とす未来が見える。
ほっと一息ついて眠くなったのかな、さっきまでほとんど寝てるようなものだったと思うんだけど。
「……ユウキ先輩がこの人を運んで、私が歩けば解決?」
「あ、そっか」
「ん、皆も私も、朝からユウキ先輩と会える。一石二鳥」
「そんな人をラッキーアイテムみたいに」
まぁ、今更投げ出すつもりもないけどさ。
「じゃあ私の荷物……ってあれ」
「? もう乗せた」
「仕事が早いね?」
「ん、当然」
いつの間に……お兄さんとのあれこれで、ちょっと離れた場所に置いてたんだけどな。
「んー、よい、しょっ……と」
行き倒れのお兄さんを背負う、案外軽いねこの人。
「うん、このくらいならへっちゃらだ。行こっか」
「ん、ペースはユウキ先輩に合わせるから」
「ありがとね〜」
「……今まで、何してたの?」
「ん? えっと 」
のそりのそりと、他愛のない話をしながら歩みを進めていく私とシロコちゃん。
いやはや、ふらふら〜っと気ままに旅してたら、まさか遭難者に出会うことになろうとは。
わからないもんだね、人生って。
「ところで、ユウキ先輩」
「はいはい?
「学校、大丈夫なの? 今、通学時間ギリギリだけど……」
「……」
「先輩?」
「世の中にはね、聞かれない方が幸せって事柄もあるんだよ、シロコちゃん」
「……ん、わかった」
あっはは〜、学校の話はまた今度だよ。
ただのサボりとか言えないし……。
少女はサボりらしい。