イカロス・シンドローム かくして少女は翼を捨てました 作:虚憂
「いっ……」
背中がずきりと痛む。
幻肢痛という奴だね。
「そろそろ頃合い、ちょうど良い」
何故幻肢痛が起きるのか。
そろそろとは何のことなのか。
色々、考えたいことはあるけれど今は無視。
「やー、初めまして?」
「は? 誰だよ」
「何だこいつ」
「どっから現れた……?」
物陰から飛び出して、目の前の人達に存在を認識させる。
……あ、うん、限界かも。
「戯言も御託も良い。ねぇ君達」
最低限、動機を抑える、いやはや禁断症状でもあるまい……禁断症状か。
まあ事前告知は大事だからね、多分。
私もどうしようもない存在になっちゃったもんだよねぇ。
「 とりあえず、さ。私にボコボコにされて?」
「「「「……は?」」」」
「あはっ」
「あーあ、やっちゃった」
私の足元には複数名のチンピラ……というかゴロツキ? どっちでも良いや、そんな人達が転がっている。
一応言っておくけど、殺してないからね。
結構痛ましいけど。
「……一ヶ月は保つ、よね?」
さてさて、何から説明したものか。
まあ私は以前翼を持っていた、と言うことからかな。
色々あって千切れたんだよね、カヨコ達と知り合ったのもそのくらいだし。
「通報だけして、さっさと逃げよ」
顔は隠してるしカメラの類は全部壊したからバレはしない。
ごめんねほんと、私のせいで。
……原因不明の、破壊衝動と言うべきかな。
それが今の私に潜む欠陥だ。
「タイミングは翼の幻肢痛。ほんっと何が何だか」
まあある意味これ以上ないくらいゲヘナゲヘナしてるって言えるんだけど。
認めたくないよね、認めたら負け。
「人だろうが建物だろうが、目に映るもの全てが気に食わなくなる」
そうやって、どれだけ無謀だろうがぶっ壊そうという衝動に駆られて、抑えられなくなって……と。
「全く、私は何様なんだと言いたくなる」
唯の負け犬の癖に。
「いっ……!」
失った筈の
ないモノの癖に痛みと後遺症だけはちゃんと主張してくるんだから。
私への当てつけだろうか?
……結構痛いから、変なこと考えちゃうのかなぁ、関係あるのかないのかわかんないけどさ。
アビドスからも、アルちゃん達からも早々に離れた私の判断は間違ってなかった。
せめて知り合いには……ってこと、被害者には申し訳ないけどね。
「アッちゃん」
……今の私を、アッちゃんが見たらどう思うかなぁ。
「幽鬼の翼?」
「はい、先生にはお伝えしておこうかと。ご存知でしたか?」
「いや、初耳だね」
「でしたらちょうど良かったです。今のキヴォトスにおける一番の危険人物と言えますから」
「え、そうなの?」
「はい。……どこからともなく現れては、人、建物関係なく全てを壊す災害、それが幽鬼の翼という人物です」
「それって、この前の……」
「いえ、彼女は七囚人とはまた別の枠組みです」
「そうなんだ」
「はい、七囚人とは要するに『矯正局に収容された、特に危険な人物TOP7』……コホン、と言う枠組みですからね」
「そ、そっか」
「むしろ、幽鬼の翼は捕まった経験がない分より危険とも言えるかもしれません」
「……彼女の場合は少し特殊なのですが」
「そうなの?」
「彼女、何故かは不明ですが通報が早いんです、そしてその場に証拠はない」
「どこの誰なのか、何故襲うのか壊すのか」
「……そもそも、本当に幽鬼の翼は存在するのか」
「えっ?」
「おかしいと思われるかもしれませんが、存在すらあやふやなのが幽鬼の翼と言う人物なのです」
「それはまたどうして……」
「……透けてるんです」
「?」
「彼女についての情報は、被害者達からの証言しかないのですが」
「姿形の特徴は全て隠されており、ヘイローからギリギリどこかの生徒であると認識できる程度」
「しかし、これだけは皆口を揃えて言うのです」
「『背中の翼が透けていた』……と」
「「……」」
「申し訳ありません、先生。ですが先生にはお伝えしておかねばならないと思いましたので」
「幽鬼の翼は場所も相手も選びませんから」
「……うん、ありがとう」