イカロス・シンドローム  かくして少女は翼を捨てました   作:虚憂

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漆黒の追跡者(ストーカー)

「ですので、屍ユウキさん。私どもと『契約』を    

 

「結構です」

 

 今し方爆発した私の学び舎を背景にして、絵を描く。

 何回目、何十回目かなこのやりとり、貴方もしつこいよねぇほんと。

 

「……何故?」

 

「何故って、何がさ」

 

「貴女はまだ、未練を遺している筈では? それにこの『契約』は貴女側にデメリットはほとんどない筈です」

 

「デメリット……いやまぁ意図しないデメリットってのはほとんど無いんだろうけどさ、聞いた感じ」

 

 だから胡散臭いよね、ぶっちゃけ。

 

「貴方はこのキヴォトスにおいてもかなり不気味な見た目してるからねぇ、信じ切れないのかも?」

 

「ご冗談を。貴方に他人を信頼するという選択肢はないでしょう」

 

「ひどっ。これでも交友関係は広いし信用はされてて、信用してるんだけどなぁ人を」

 

「それは誰も、貴方の過去に触れないからでは?」

 

「……さぁて、ね。というか、それを言い始めたら貴方も私と同類でしょ、あの人    

 

 ……今でも……否。

 未だに忘れることのない赤の貴婦人。

 ()()()とっての、恐怖そのもの。

 

「マダムから、私を匿ってるんだからさ」

 

「……クックック」

 

 もう2年以上は前になるのかな。

 私が翼を……(ユメ)を、明確に失ったあの日。

 地を這いずって、息も絶え絶えだった私に、この存在は手を差し伸べたんだ。

 

「何で?」

 

「……何故、とは?」

 

「あの日、私は■■としての役割と……神秘だっけ? を失った」

 

「明確には失ったのではなく、■■としての力……権能を表面上振るえなくなっただけ、というのが私の見解ではありますがね」

 

「そこはどうでもいいの、結果的に弱くなってるんだから私は」

 

 ■■……まぁそこに未練がある訳でもないんだけどさぁ、なくなったらなくなったで不便さはあるよね。

 

「それで良いのです。貴女の真価はこの後にこそ訪れる」

 

「ほんとかなぁ」

 

「ええ、実際貴方は、貴方の理想を未だに追い求めている」

 

「……」

 

「絵描きの仕事というのも、理想への未練から生じたものでしょう?」

 

 いや否定はしないんだけど。

 ……こうもしつこく言われると、ねぇ。

 

「……まぁ、今は良いでしょう」

 

 思い返していたら、どうやら黒い人は諦めたみたい。

 

「って何置いて行こうとしてるのさ、要らないって言ったよね?」

 

「保険というものですよ。マエストロは貴方のことをかなり気に入っていますからね」

 

「どういうこと?」

 

「予測可能な原因で失いたくない、ということです」

 

    原因不明の衝動に悩まされているのでしょう?」

 

「っ……貴方に言ったっけ」

 

「クックック……貴女という貴重なサンプルの変化を見逃す筈がないでしょう、当然把握していますよ」

 

「ちょっときもい」

 

「おやおや、貴女にしては直球ですね。私も少々傷付きました」

 

 流石に嘘でしょその言い草は。

 相変わらず調子狂うなぁこの人。

 

「……それは、いざという時に飲むと良いでしょう」

 

「『契約』のあれこれじゃないのこれ」

 

「貴女の為の特別なお試し用、ということです。それは私どもの提示したものに時間制限を付けたものです」

 

「過去1嬉しくない特別扱いをどうもありがとう」

 

 これが、ねぇ。

 

「制限の為に少々改悪を施しましたが……貴女であれば、問題は早々ないでしょうね」

 

「ま、貰えるものは貰っとくけど。これにお返しは期待しないでよ」

 

「ええ、わかっています。……では」

 

「マエストロさんにはよろしく言っといて〜」

 

 去っていく黒い人を傍目に、空を見上げる。

 ……どうしようかなぁ。

 

「未練があるのが、一番苦しいんだよねぇ」

 

 


 

 

「おっはよー! 元気かいヴェリタス諸君!」

 

「うあ"っ……お、おはようユウキ先輩……あんまり大きい声出さないで……」

 

「あ、ごめんねハレちゃん」

 

 この目元に隈を作ってるぷりちー? なのが小鈎ハレちゃん。

 通称カフェイン薬中、そろそろ致死量超えてそう。

 

「んー、今日はハレちゃんだけなんだね」

 

「うん……私が残るって言ったから」

 

「おろ? そうなんだ」

 

 ハレちゃんが言うには、ハッカーへの偏見が酷いところからの云々だそうで。

 電子系には疎いのと、眠気のせいか言葉をほとんど紡げていないので聴き取れない。

 まぁハレちゃんが嫌いなとこへの対処してたってことだよね、うん。

 

「まあお疲れ様。朝ごはん、何か食べたいものある?」

 

「……おみそしる……」

 

「おっけー、任せといて」

 

 勿論ヴェリタスには……っていうかミレニアムサイエンススクール全体で見ても調理器具は全くと言って良いほどないんだけど。

 私の部室は特別枠、普段使わないから色々調理器具とか置いてるんだよね〜。

 

 おまけにヴェリタスからそう遠くもない場所にあるからね、ご飯を作ってお裾分け〜ってのはもはや定番の流れなのである。

 ハレちゃんはその被害者の1人。

 

「ふんふんふふ〜ん」

 

 材料はあらかじめ色々買って来ているので問題なし。

 

「さて、ささっと作っちゃいましょう」

 

 そう言えば、料理を教えたあの子はまだ料理してくれてるのかな?

 ここの生徒って、衣食住そっちのけにする子が多いからなぁ、正直あんまり期待してない自分がいる。

 

 


 

 

「はふぅ……家庭の味……ごちそうさまでした」

 

「あはは、お粗末さまでした」

 

 結局、ハレちゃん以外の面々はまだ来ておらず。

 多めに作ったお味噌汁やその他は、ハレちゃんの胃袋に半分ほど収納されることとなっちゃった。

 

「相変わらずよく食べるねぇ」

 

「む……ユウキ先輩のご飯が美味しすぎるのがいけない、わたしはわるくない」

 

 よく食べる、と言う言葉に反応したのかちょっと顔を赤くするハレちゃん、乙女してるねぇ。

 

「ふふ、嬉しい非難ありがと、また食べたくなったら言ってね?」

 

「……毎日食べたい」

 

「おろ、予想以上に人気だね」

 

「私の為に毎日お味噌汁を作って、ユウキ先輩」

 

「それはちょっと厳しいかなぁ」

 

 いやぁ、私基本旅する人間だからね。

 たまーに帰ってきて、こうやって料理してるけど。

 

「……色んな意味で、残念」

 

「?」

 

「それより今回はユウキ先輩、いつまでいるの?」

 

「今回はそれなりに滞在するつもりだよ」

 

「そうなんだ」

 

「うん、セミナーにどやされたから」

 

「あー……」

 

 ちなみに発信源はユウカちゃん。

 リオとかノアちゃんは許してくれるんだけどね、ユウカちゃんはね、うん。

 しっかり者だよねぇほんと。

 

「……出席日数、だよね?」

 

「うん、流石に足りないから〜って」

 

「私が誤魔化そ……いや、やっぱりダメ。ちゃんと出席しよう、ユウキ先輩」

 

「おろ、ハレちゃんにまで咎められちゃった。ちゃんと出席しなきゃだねぇ」

 

「……そうすればもっと……」

 

「はえ?」

 

「なんでもない」

 

 ぐむむ……と眠たげに唸っているハレちゃん。

 もうそろそろ眠たいんじゃないかな。




生塩ノアさんはユウキに脳を焼却されました、南無三。
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