境界の竜、その仔   作:楼ノ卦

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15.魔術学校キルバイア-2

 

がやがや、と人が集まり、彼らは、テーブルとチェアに腰掛けている。

 

 

私語によって包まれた空間。

その空間には、二種類の人々が居た。

卓を誰かと囲い、食事をする者。

ただ一人、席に座り、黙々と栄養を補給する者。

 

 

今は、午前と午後の狭間。

その授業の合間に存在する時間。

そう、昼食の時間だ。

 

 

ここは、魔術学校キルバイア。

そのカフェテリアである。

 

 

 

僕もまた、そこで食事を摂っていた。

もぐもぐと、よく噛んで、飲み込む。

右手に持っているのは、サンドイッチだ。

鼻腔には、嗅いだことの無いハーブの匂い。

舌には、味わったことのないソース。

 

 

具材の肉は、噛んでみたものの、どんな種類の動物の肉なのか、正直分からない。なんだこれ。

だが、まぁ…いけなくはない。

 

 

 

「ベースは、イギリスの食文化なのだろうけど、要素が違いすぎて最早別物だねコレ……」

 

 

 

パンを具材で挟めば、それはサンドイッチなのだが、あまりにも味わったことのない珍味に、思わず脳がバグりそうだ。

 

 

 

「アルビオンには牛と豚は居ないからね。食事体系が、かなり変わるというのは、無理はないでしょう……まぁ、野生の鶏はいるらしいのだけど」

 

 

 

「豚牛はいないのに、野生の鶏はいるんだ……」

 

 

 

野生……野生か。

逆に、養殖はないのか。なんで?

 

 

 

そう思案する僕の目の前には、1人の女性が座っていた。僕は、相席の2人用の席に座っていたのである。

 

 

目の前の方は、僕の同期だ。

淡い金髪に、薄青い藍玉の瞳。

背丈は高くはないものの、その佇まいは少女のものではなく、ちゃんとした女性。

つまり、美人のお姉さんである。

丸い眼鏡を掛けていた彼女は、僕へと薄く微笑んでいた。

 

 

 

マリア・ヘリオドール。

 

 

地上の魔術学府、時計塔。

その植物科に在籍していたものの、お家騒動の果てに、近日、地下ダンジョンアルビオンへと飛ばされてしまった、悲しき過去を持つお姉さんだ。

 

 

 

ヘリオドール家は、植物を用いる魔術や、黒魔術を得意とする、植物科の魔術師一家であった。結構な名門でもあるらしく、植物科以外の、他学科にもコネがあり、親交がある家だという。

 

 

しかし、その親交の多さ故に、最近はあるいざこざが起こったのだとか。

その落とし所として、家の次女、つまり次期当主のスペアであった彼女が、煌びやかな貴族社会とは真逆の位相に位置する、地下ダンジョンへと島流しにあったらしい。

 

 

 

 

 

この裁量が行われたのは、別に彼女が下手を打ったから、というわけではない。彼女に非はなかったし、彼女自身は、何もしていないという。

 

 

 

 

実際、家に起きたトラブルの詳細と自身の処遇を聞かされたのは、同時だったのだったとか。

曰く、「知らぬ間に、なんか全部決まってた……」らしい。

 

 

 

何も知らされてないマリア・ヘリオドールさん(?歳)。

 

 

 

このように、水曜どうでしょうの大■洋みたいな、本当にそんな感じだったらしい。

 

 

 

 

シンプルにひどい話だ。

何も非がないのに、ダンジョン流しとは。

令嬢と追放と大泉■の合わせ技。

その当事者を見たのは、人生で初めてである。

 

 

散々な境遇であったが、その代わり、私物や私財は、地下に持ち込むことは許されたようだ。そのお陰で、命懸けの発掘作業に従事しなくても生活は出来る、とのこと。

 

 

 

僕と同じように、霊墓アルビオンに来たのは最近らしい。

 

 

 

 

そして、この地で生きる上で必要になる、この地の常識を学ぶために、このキルバイアの門戸を叩いたのだという。

 

 

 

薄幸美人という言葉を擬人化したみたいな、女性である、マリア・ヘリオドール。彼女は、最近まで地上で生活していたため、地上の魔術社会の情報には詳しい。

 

 

 

殆ど地上へと出入りが制限され、情報が断たれている採掘都市マギスフェアにおいて、彼女は、最も地上の魔術事情に通じている人物であるのだ。

 

 

 

彼女と出会ったことは、僕にとって幸運だったかもしれない。なんせ、地上のことで一つ、聞きたいことがあったのだ。

 

 

 

 

 

「ねぇ、マリーさん」

 

 

 

「あら?何かしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マリーさんは、"カルデア"って知ってる?」

 

 

 

カルデア。

人理継続保障機関カルデア。

Fate/Grand Orderにて藤丸立香らが所属する、魔術組織。国連承認機関であり、人類の未来を語る天文台。

 

 

僕が知りたいこと、というのは。

それは、ここがFGO世界であるのか、ということだ。

 

 

 

なんせ、FGO主人公、ただの一般人であるはずの藤丸立香が迷宮の中で、冒険を繰り広げているのだ。そして、アルビオンの社会は、地上と断絶している。つまり、此処ではカルデアにスカウトされる土壌が存在していないのだ。

 

 

 

そんな中、人理焼却事件だの、人理漂白だの、作中における人類史の大事件が起きてしまえば、どんなことが起きるのか。

想像は容易い。

 

 

 

 

そう。カルデアの人々は、人類最後のマスター(主人公)を欠けた状態で、巨悪と戦わなくてはならないのだ。

 

 

 

 

 

 

………ヤバくないか?コレ。

 

 

 

 

 

立香の家のカレンダーを確認したところ、現在は西暦2013年。原作にて、魔神王による陰謀、そして冠位指定(グランド・オーダー)まであと二、三年。

 

 

 

 

もし、それが真実なら。

これからの僕の人生の指針は、大きく変わる。

 

 

 

 

下手したら、「境界を越える」超抜能力を用いて、冠位時間神殿や人理保障天体へ、僕の本体でカチこむことも、想定しなくてはならない。

 

 

 

 

それ故に、この世界にカルデアがあるのか、ないのか。型月世界においてFate世界群と独立したFGO世界なのか、ただのFate世界なのか。

 

 

 

それら二つの世界を分かつ、カルデアの有無は、重要な情報だ。

 

 

 

この問いは、下手をしたら、世界の命運を賭けるような、壮大な戦いへとも、繋がっている。

 

 

 

カルデアという組織は、存在しているのか。

存在していないのか。

どっちなんだ。

 

 

 

「んー?カルデア?それ、何処で聞いたのかしら?」

 

 

 

「今日、魔術学校への登校の最中ですね。路上でちらっと聞いたんです。カルデア……というと、メソポタミアにあるとある地域、そしてそこに住んでいた人々を思い浮かべたのですが。魔術世界だと、『カルデア』という言葉に、他の意味があったりするのかなーって思って」

 

 

 

 

さぁ、どうだ。

 

 

 

 

「そうね。私が知ってる限りだと、心当たりが一つだけあるわ。カルデアっていうのはね。

時計塔天文科の宗家、アニムスフィアが所有する、天文台のことよ」

 

 

 

 

 

「───────」

 

 

 

 

 

 

 

─────カルデアは、存在していたのか。

 

 

 

顔が固まる。

そんな様子を見てちょっとおかしかったのか、彼女は少し笑う。

 

 

 

 

 

「ふふっ。天体科の君主が所有してる天文台、と聞くと、ちょっとおっかなそうに思えるわよね。確かに、普通ならあのハワイの大型観測施設、みたいなのを想定するわ。でも、実体は、山奥にあるほんの細やかな観測所よ。私、行ったことがあるから分かるの」

 

 

 

 

「……山自体が、すごい厄ネタだったりとかは?」

 

 

 

「ナイナイ、と言いたいところだけど。そうは言い切ることができないのが、君主の怖い所ね。でも、私が見る限り、至って普通の山だったわ」

 

 

 

 

普通の山。

しかし、普通の山か。

人理継続保障機関フィニス・カルデア。

そこは、地球上の最南端、西経0度にある南極大陸に建てられた地球最大にして唯一の人理観測所。

 

 

南極大陸、その雪山の地下に作られた地下工房だったはずだ。南極大陸の雪山を、普通の山と呼称するなんて、あり得るのだろうか?

彼女が嘘を吐いているのか、はたまた、この世界のカルデアは、人理保障天球など無い、ささやかな唯の天体観測所なのか。

 

 

それは、わからない。

だが、カルデアは国連の機関だ。国際連盟、つまり、一般に公開されている公的機関の筋から、調べていくのはどうだろうか。

 

 

実は、このマギスフェアには、一部の場所でwifiや、ネット設備を運用することが許されている。管理区画の施設の中に、市民ならPCを時間制で貸し出す場所があった。

 

 

国連直属の機関であるならば、カルデアの名前が、何処かしらインターネット上に載っていたりするのではないだろうか。

 

 

もし、何処にもカルデアの名前がなければ、カルデアは国連機関ではなく、アニムスフィアの所有する、細やかな観測所、ということになるだろう。

 

 

 

よし。次にやることは、決まった。

 

 

 

「なるほど。ありがとうございます、マリーさん。……そういえば、そろそろ時間でしょうか。授業開始まであと5分です。教室に戻りましょう」

 

 

「そうね。教官にどやされたくないもの。戻りましょう、ランスロット君」

 

 

時計塔の講師たちとは、やっぱ全然違うタイプの教員よね、と彼女が苦笑する。

 

 

トレイを片付け、カフェテリアを後にする。

 

 

 

 

そうして授業を受け、今日の課程を終えた後。

 

 

 

 

 

管理区画にて、インターネットを用いてカルデアを調べたが、国連のどのサイトにも、「特務機関カルデア」の文字は、見当たらなかった。

 

 

 

 

 

どうやら此処は、FGO世界ではないらしい。

 

 

 




【tips】
『魔術師一族 ヘリオドール家』
時計塔の植物科に所属しており、派閥は貴族主義。つまりユリフィス、エルメロイ、アニムスフィアとは同一派閥となっている。他の学科にも顔が効いており、広いコネクションを持つ。
とある「戦い」の前哨、時計塔内の策謀合戦の煽りを受け、この世界ではちょっと弱体化。


FGO世界にて、本来存在しない植物科の魔術師「芥ヒナコ」をでっち上げ、カルデアへの移籍を助けたのは、植物科でありながら天体科とも深い親交があったヘリオドール家の助力があったから………なのかもしれない。



ちなみに、「マリア・ヘリオドール」は時計塔のいざこざから逃れるため、現在地上のとある場所にて匿われている。霊墓アルビオンなぞの僻地に、「マリア・ヘリオドール」は存在しない。
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