境界の竜、その仔   作:楼ノ卦

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04.遭遇、邂逅、或いは運命

 

 

 

その後、泉の水を使わせてもらって、少し水浴びをした後、あの洞窟からは離脱した。

多少のハプニングはあったが、十分な精神的休息を満喫することが出来たと言えるだろう。

 

 

 

現在は、ちょうどクライミングを再開した所だ。

 

 

 

洞窟に入ってみて分かったが、あの手の洞窟は、アルビオンに生息する怪物たちの縄張りとなってるらしい。

 

 

 

あの穴群は、アレだ。ボス部屋みたいなものだ。おそらく、あの穴たちには、通常よりも強力な怪物が待ち構えているのだ。

 

 

 

あのヤドカリのウォーターカッターの威力は、驚異的であった。この調子のまま、強力な力を持った敵と考えなしで遭遇してると、いつかは足を掬われるかもしれない。

 

 

 

洞穴には、あまり近づかない方がよいだろう。

 

 

 

 

 

ただ、洞窟のことで、一つ思い出したことがある。衣類の問題だ。

 

 

 

 

僕が今向かっているのは、霊墓アルビオンにおける、魔術師たちの前哨基地であり、彼らの住まう都市。マギスフェアだ。

 

 

 

マギスフェアは、魔術世界における鉱脈。

世界で最も利益を生み出す大鉱脈なのである。

 

 

 

 

利益を生み出すということは、必然的に資本も人も集まってくる。資本と人が集まる場には、街が生まれる。マギスフェアは、地下にはあるものの、一角の立派な都市だ。

 

 

 

そんな都市に足を運ぶのだ。

全裸のままでは、お縄につく羽目になるだろう。

 

 

 

どうしよう。人の営みに混じりたい!という心持ちでここまで来たのに、このままでは、刑務所の壁を見続ける羽目になってしまう。

 

 

 

 

全裸になった時に十全に効果を発揮する全裸魔術なんです!って言い訳したら見逃してくれないかな。流石に駄目かな。

でもありそうだよな、裸を要素に使った魔術。……ただ、実在しても「せめて家か迷宮の中でやれ。路上でやるなよ」って結局は捕まりそうではある。まさに正論。

 

 

 

どうしよう。

せめて、恥部は隠すモノが欲しいな。

流石に性器丸出しは不味い。恥ずかしい。

くそ。葉っぱと蔓さえあれば、簡易的な下着ぐらいは作れそうなのに。

 

 

 

まだ、ドラゴンに生まれ変わってから、マトモな植物を見ていない。

 

 

 

じゃあ、動物の毛皮とかどうだろうか。

また新しく、例のボス部屋群まで赴いて、獣型の幻想種を狩れば、手に入りそうなモノではないだろうか。

 

 

……いや、駄目だ。獣の毛皮を鞣す作業が出来ない。僕前世は、二十一世紀の一般人であり、残念ながら毛皮職人ではない。

現代っ子の僕には、動物の解体なんて無理だ。

理科の授業で習ったカエルの臓器解剖すらも怪しい所である。

 

 

 

うーん、どうしよう。道端の人の衣服の追い剥ぎは、流石に論外ではあるが、本当に困っているのは確かだ。

 

 

 

だが、問題は衣服だけではない。

 

 

 

食事と住居だ。

 

 

 

そう、人間、生きる上では衣食住、この三つが不可欠であるという。

 

 

 

 

僕は、躯体の仕組み的な理由で、食事を必要とはしない。マギスフェアの料理、出来るなら食べてみたいものだが………それは趣味だ。

生活の余裕がない状況では、それは我慢である。

 

 

 

となると、最低でも衣と住は確保したい。

 

 

 

 

ホームレスは流石に……と主張したいが、今の僕は戸籍も身分証も無い、そもそも人間ですらない浮浪者だ。住居のツテなんて、無い。

 

 

 

 

衣住のためには、金銭が不可欠であるが、それすらもない。都市に入ってしまえば、完璧に浮浪者扱いとなるだろう。

 

 

 

 

マギスフェア、福祉とか機能したりしてるのだろうか。実際、僕は恥ずかしいことに、発掘都市マギスフェアについて、あまり知らない。

 

分かってるのは、

①迷宮発掘者たちが、発掘の為に建てた都市であること

 

②発掘物を売買したり、地上へと運搬してること

 

③任期を終えなければ、発掘者は地上へと戻れないこと

 

④マギスフェア固有の文化はあるものの、地上がロンドンなので、イギリスの文化が基盤になっていること

 

 

 

 

このくらいである。

 

 

 

ちなみにここで発掘された物品は、地上では非常に高値で取り引きされる貴重品だ。何しろ、地上では絶対に手に入れることの出来ない一品である。

 

 

 

実際、この手の物品が五つ程揃えば、お屋敷一軒建てられる程の価値はあるという。

 

 

 

じゃあ、それを直接手に入れる発掘者の懐はかなりウハウハなのではないだろうか?ちょっと頑張れば、人生を遊んで暮らせる大金が手に入るのでないか?残念なことに、そんな美味い話は無い。

 

 

 

 

発掘物を売却する際は、地上に下す専用の業者のような人達が、発掘物を買い取るという取り決めがされている。しかし、彼らは発掘者から物品をぼったくり価格で買い取っているため、採掘従業者はそこまでの稼ぎは得ることが出来ないという。哀れである。

 

 

 

仕事の都合上、魔獣の類とエンカウントする羽目になるため、死亡率も高い。0の桁が幾つか消えるほど、報酬をピンハネをされた上で、命の危険と隣り合わせの仕事。発掘者たちは搾取されているのだ。

 

 

 

死亡率が高く、過酷な仕事に身を窶した上で、手に入るのは、ほんの僅かな報酬。そして、一度身を堕としてしまえば、ほぼ脱出不能の地獄。

 

 

 

原作において「現代世界における奴隷制と呼称される最悪な労働」と称された仕事。それが霊墓アルビオンの発掘業務だ。

 

 

 

しかし、そのような過酷な環境もあって、マギスフェアには、地上よりも優秀な魔術使いが多いという。腕っぷしに自信のある連中は、割と居心地が悪くないのかもしれない。

 

 

 

業務内容は具体的には知らないが、もし僕のこの腕っぷしが役に立つなら、採掘者の一員になることを視野に入れるべきだろう。

 

 

 

しかし、職を手にする前に問われることがある。それは、経歴についてだ。

 

 

 

僕は正規のルートでこの街に来ていない上に、星の坑道から這い上がってきた化け物である。

 

 

 

経歴が全く不明の上、魔術師ですらない人外なのである。人間にとっては恐怖以外の何物でもない。

 

 

 

生計を立てるためには、人は仕事をしなくてはならない。社会で生きる以上、それは、僕も同じだ。しかし、人間として生きた記録が社会に存在しない僕が、履歴書に何が書けるというのかだろうか。住所も無い、郵便番号も無い、電話番号も無い、名前すら無い。辛うじて書けるのは、生年月日くらいだろうか?

 

 

 

「……なんで君此処アルビオンにいるんだい?」と確実に問い詰められるだろう。下手したら、密輸業者と判断されて、処断される可能性もある。

 

 

 

だが、この異色の経歴を説明する術が一つないことでもない。それは、「妖精による神隠しに遭った」と主張することだ。

 

 

 

 

この霊墓アルビオン、人類の最高到達点である古き心臓エリアよりも下の区域は、「妖精域」と区分されている。この妖精域は、未だ人間の及ばぬ生物、妖精達が生息しているという。人智を超えた神秘を保持する汎人類史の妖精たち。彼らは、「取り替え子」や、「神隠し」と言ったカタチで、人を自身の領域まで攫ってくるケースが存在する。

 

 

 

特に、「神隠し」に遭った者には、その後遺症として、妖精から、何かしらのギフトを授けられるといったことがある。このギフト、貰って嬉しいハッピーな代物ではない。それは、脳機能障害や、社会に適合不能なほど肥大化した異能など、本人にとって不幸なカタチで発現することが殆どだそうだ。

 

 

 

なんとも、迷惑な話である。

しかも、妖精による「神隠し」は、時空を超越することもあるという。

まるであの浦島太郎のように、だ。

実際、原作キャラクターのうちの一人に、妖精による「神隠し」で、異能を授けられた上で、タイムスリップを体験した者もいる。

 

 

 

だが、待って欲しい。

この事象を上手く利用すれば、僕の身分もでっち上げることが出来るのではないだろうか?

一度振り返ってみて欲しい。

 

 

 

・妖精域の"方"から来ました

【登攀経路は、妖精域に相当する区域を一応、通過している】

 

・記憶障害のせいで、自分の経歴が分かりません。実際、魔術知識も怪しいです

【実際はただの知識不足】

 

 

・戸籍は無いのは、違う時空から漂流してきたからです

【前人未到の地から這い上がって来た人外で且つ、転生者】

 

・人間社会では使い道の無い、異常なフィジカルを持ちます。魔術とか使わないで、魔獣とかシンプルに素手で殺せます。

多分……妖精からの祝福だと思います(棒)

【自分で身体機能をシンプルに強く設定しただけ】

 

 

 

 

なんということだ。

自分の不審点の全てが「神隠し」に遭ったから、で説明がついてしまうのである。

 

説明が付くだけで、信頼を得られるかは別の話ではあるが。

人と関わる際は、「妖精に攫われたものの、現実世界に戻ってこれたが、記憶障害を患った者」として振る舞うことにしよう。  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先ほどの洞窟から踵を返してから、しばらく時間が経過した。ロッククライミングの道中では、洞穴は幾つか見受けられた。

しかし、先程立てた方針より、侵入はしていない。触らぬ神に、祟りなしだ。

 

 

侵入しないようにしていたのだが……

 

 

 

現在。

 

 

 

 

僕は、洞窟内を全力で疾走していた。

 

 

 

 

何故だ?!

 

 

 

 

先程、洞窟は入らないように決めたというのに、只今の僕は、自身の決めた意思と、真逆の行為をしている。なんで?

 

 

 

洞窟には入るべきではない、という意見は今も曲がってはいない。

でも、身体の本能が、自分の身体を無理矢理動かしてしまっているようだ。自分の脳みそでは、止まれと念じてるのに、自分の意思が何故か暴走を続ける。

 

 

 

意思とは、自己から生じるものだ。

だが、その意思自体が、何故か暴走し、自己のレールから外れている。

 

 

 

なんだこれは。

 

 

 

自分が、自分でないものによって焚き付けられている違和感。

 

 

 

 

この違和感を自覚して、なんとなく、理解した。

 

 

 

 

 

 

僕は今、誰かから操られている。

 

 

 

 

いや、正確には、引っ張られている、誘導されているというのが正しいのだろうか。

 

 

 

 

どうやら、ある座標に向けて、僕は向かっているらしい。何者からかの呼び声だ。

 

 

 

 

魔術師だろうか?

否。腐っても、この躯体は、アルビオンの後継機の分け身だ。この躯体の前には、現代の魔術は通用しない。

 

 

 

となると、魅了とかの魔術ではない。

となると、幻想種?

洞窟のヌシの異能だろうか。

 

 

 

 

 

洞窟を抜け出す。

しかし、その先はまだ行き止まりでは無かった。

 

 

 

洞窟の先には、大規模な森林が広がっていた。

まだ道が続いている……?

この感じ。

もしかして、この森林、地下迷宮本体まで繋がっているな。

 

 

 

 

泉の洞窟は、「虚無の穴」から続く、行き止まりの区画であった。つまり、迷宮そのものではない、ボーナスエリア、番外エリアみたいなものだ。

 

 

しかし、この森林はおそらく、オマケでなく、迷宮の正規エリアだ。おそらく、迷宮入口から、最下層まで繋がっている。

 

 

 

 

 

森林を駆け抜ける。

 

 

 

近くから、破壊音が聞こえた。

 

 

 

おそらく、発掘等によるものではない。

これは、戦闘の産物だろう。

 

 

 

 

座標に向かっていくにつれて、音が近づいてくる。

 

 

 

 

木々を抜け出したその先。

 

 

 

その先には、水辺が広がっていた。

奇しくも、前の洞窟と同じように。

 

 

 

 

そこには、動物の死骸、へたりこむ人影、そしてその目の前には、青い馬のような生き物が立っていた。

 

 

 

 

 

その馬には、魚の鰭に似た尾が一つ。

青の身体は、全身がまるで魚鱗で覆われているような風貌。

 

 

 

 

 

 

間違いない。アレは、水の怪、ケルピーだ。

 

 

 

ケルピーは、人肉、特に少女の肉を好んで喰らう獰猛な魔獣であるという。

 

 

 

現に、あの怪物は、その口を大きく開けて、その口を、今まさに、人影へと伸ばそうとしてきた。ケルピーは、食事の際、獲物を自身の生息地である、水辺を引き込んで、食い殺すのだ。

 

僕は今、人が食い殺されるであろう現場に立ち会っていた。

 

目の前で、僕の第一発見人間が、殺されようとしている。目の前で、突っ立って、その一部始終を見続けるか?

 

 

 

否。

 

 

人が食い殺されるのを、みすみす見逃すワケにはいかない。

 

 

 

でなければ。

人間性を再確認するために、態々ここまでやって来た意味が、分からなくなる───!

 

 

 

 

ここまで全力疾走を続けた足は、まだ止めない。さらに加速しながら、ケルピー目掛けて僕の身体をぶつける。

 

 

 

 

「───?!」

 

 

 

 

ケルピーが、砲弾じみた速度で衝突した物体によって、吹き飛ばされる。

 

 

 

その吹き飛ばした砲弾も、只では済まなかった。僕の身体にも、その反動が掛かる。

 

 

 

 

 

が、その吹き飛びそうな身体を、四肢を地面に突き刺すように接地させ、反動を殺す。

 

 

 

そして、背後に居るであろう人影へと、顔は振り返らず、それに向けて、僕は口を開いた。

 

 

 

 

「ねぇ、君!」

 

 

 

 

「────」

 

 

 

 

「おい、君!」

 

 

 

 

 

「────」

 

 

 

 

「聞こえてるか、君!」

 

 

 

 

「は、───はい!」

 

 

 

 

「アレ、倒してもいいかい!」

 

 

 

 

 

 

「───、お願いします!」

 

 

 

 

 

「了解!」

 

 

 

 

 

了承は取れた。

もしも、あのケルピーがペットか何かで、倒した後にクレームが入ったらどうしよう、って心配は懸念だったみたいだ。 

 

 

 

 

よし。疾走を再開する。

 

 

 

 

吹き飛ばされたケルピーは、どうやら大岩に叩きつけられていたらしい。岩には、クレーターが出来ていた。

 

 

 

 

「■■■■■■!!」

 

 

 

 

 

不意に衝突して来た僕を見て、怒りを孕んだ狂声を轟かせる。

 

 

 

ケルピーは生きていた。僕の体当たりを受けて、ケルピーは生存していた。

 

 

 

 

普通の馬であれば、ぶつかった瞬間に血煙と化しても良いほどの衝撃が、先程の衝突にはあった。それを食らっても尚、大地に立てるその頑健さは、脅威に値する。

 

 

 

Fate作中において、サーヴァントの猛攻に追従し得たほどの、耐久性。

 

 

 

僕は、その頑健さのカラクリを知っている。

 

 

 

生得領域、即ち、魔の水膜。

ダイラタンシー流体を魔術的に成立させた生態機能だ。

 

 

 

ダイラタンシー流体とは、力が加わる際、体積を変化させて、固体のような性質を見せる流体のこと。

 

 

 

つまり、あのケルピーは、物理的攻撃を受けた際、その身体を、攻撃に相応しい防御性能へと変化させることが出来るのだ。

 

 

 

つまり、攻撃手段が、物理攻撃しかない者にとっての天敵である。

 

 

 

 

攻撃手段が、物理攻撃しかない者。

うん。僕のことだ。

生憎、僕には、身体能力を用いた物理的な暴力しか、切る手札は無い。

 

 

 

アイツとの相性は、最悪だ。

 

 

 

 

でも。

 

 

 

 

 

知らない人影に、自信満々で、「倒していいか?」なんて言ってしまったんだ。

 

 

 

 

「───ああ、倒し切れなかったら、すっごくカッコ悪い」

 

 

人の見てる前で、見得を切ったのだ。

やっつける以外の他の選択肢なぞ、存在しない───!

 

 

 

 

 

ケルピーが、お返しと言わんばかりに、水めいた魔力を帯びて、こちらに突撃してきた。

鉄筋コンクリートの壁を紙屑のように粉々にする突撃。

 

その突撃を、僕は両手を以って、正面から受け止める。

 

 

 

 

「よいしょお!」

 

 

 

 

そのまま地面にケルピーを叩きつける。

そのまま首を掴み。地面に固定する。

水怪は、ジャジャ馬もかくやの暴れっぷりを見せる。だが、防御力は高くとも、脅力はこちらが遥かに上回っている!

僕の拘束からは、逃れられない。

 

 

 

 

拳を握る。

空いた片手を、生命核の位置する胴体に向けて、叩き付ける。

 

 

 

「■■■■■!」

 

 

 

ケルピーが悲鳴を上げた。

拳を叩き付ける。

 

 

 

「■■■■■!」

 

 

 

駄目だ。

拳を叩き付ける。

 

 

 

「■■■■!」

 

 

 

ケルピーは殺せない。

拳を叩き付ける。

 

 

 

「■■■!」

 

 

 

慣性運動を防ぐその身体に、打撃は通用しない。拳を叩き付ける。

 

 

 

「■■■…!」

 

 

 

その水怪を殺すには、殺すに相応しい手段が必要になるだろう。

拳を叩き付ける。

 

 

 

「■■…!」

 

 

 

例えば、超高熱の炎弾や、荒れ狂う暴風の一閃などの、神秘による一撃が挙げられる。

拳を叩き付ける。

 

 

 

「■…!」

 

 

 

物理攻撃ならば、ただの慣性運動ではない、回転する銃弾などが有効だろう。しかし、銃弾は魔力が乗りにくいため、幻想種たる水怪には通用しない。

 

 

 

 

それがどうした。

何回も、何回も、ケルピーの胴体部に拳を叩き付ける。

 

 

 

何回も何回も叩き付ける。

 

 

 

だってそうだろう。

 

 

物理的に、衝撃に強かったとしても。

残念ながら、"神秘"では、僕の方が上だ。

 

 

 

 

遂に、拳がケルピーの胴体部を貫く。

ケルピーの、核ともいう部位を貫いたのである。ケルピーは、沈黙。

僕の勝利だ。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふぅ……。

速攻でなんとか、カタが付いた。

実はケルピー、「水の鳥」という有翼の飛翔形態を持っている。

そう、このケルピー、空を飛べるのだ。

もし、接近戦の分が悪いことを悟られたら、そのまま空の上に居座られ、一方的に攻撃されていた。

 

 

 

僕の持ち得る攻撃手段は、殴る蹴るのみ。

対空攻撃手段なんて、持ち合わせていない。

 

 

 

拘束して、そのままスムーズに殴殺できたのは、運が良かったのかもしれない。突撃してくれて助かった。

 

 

 

まぁ……蹄を交えた突撃は、ケルピーの代表的な攻撃手段だ。不意打ちで、得体の知らないヤツが、自分の得意な突撃を仕掛けて来たのだ。

「いきなり突撃してきたオマエに、本当の突撃ってモンを見せてやる」と、ケルピーは、そんな心持ちとなったのではないだろうか。

 

 

 

ケルピーの突撃は、ある種の意趣返しだったのかもしれない。

 

 

 

 

 

それはともあれ、勝利したのだ。

さっきの人影の居た場所まで戻って、仕留めたことを報告しに行こう。

 

 

 

 

 

駆け足で、あの人影の居た場所に駆け寄る。

 

 

 

 

駆け寄りながら、勝利の報告をする。

 

 

 

 

「おーい!ケルピー、なんとか倒せ───」

 

 

 

 

 

足の躍動、そして声がふと、停止する。

 

 

 

 

 

ケルピーに襲われていた、あの人はまだ、しゃがみ込んだままであった。

 

 

 

 

ケルピーに襲われていたのは、若い女性であった。若い女性、と言うのは正確じゃないかも。

ティーン中頃の、少女と呼んだ方が正しい。

茶色の外套を羽織っている少女だ。

アルビオンの探索者らしい服装であった。

 

 

 

 

 

 

驚いたのは、容姿だ。

 

 

 

 

明るい橙色の髪。

黄色の瞳。

右手の甲のグローブに刻印された、赤い紋様。

 

 

 

 

 

見覚えのある顔であった。

前世では、ほぼ、毎日顔を合わせてたと言っても過言ではない。

 

 

 

 

 

な、なんで、君はそこに居るんだ────?!

 

 

 

 

 

 

Fate/Grand Orderの女性版主人公。

 

 

 

 

 

 

藤丸立香が、僕の目の前に座り込んでいた。

 

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