境界の竜、その仔   作:楼ノ卦

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07.呑み込まれそうな、迷宮を切り裂いて

 

 

 

僕達は今、森林を歩いていた。

藤丸立香……彼女がケルピーから逃れる為に走った、逃走経路を辿っている。

 

 

 

 

「お、見つけた……けど、やっぱダメだよね」

 

 

 

 

我々の眼前にあったのは、かつて転移ポータル"であった"ものであった。その空間の裂け目は僅かな時間で、ただのあやふやな空間と化していた。

 

 

 

 

 

「使えたら、結構なショートカットになったのになぁ。でも、しょうがないよね。私が転移して来た瞬間にはもう解れちゃってたし」

 

「これが……転移ポータル?」

 

「だったモノだったけどね。アルビオンには、稀に、こういう空間の裂け目が生まれるの」

 

「確か──人理テクスチャ上では、アルビオンの空間があやふやなモノとして扱われるが故に、生じる通路───だっけ。ごめん、合ってた?」

 

「そうそう。それで合ってるよ。ここは、45層に続く経路でね。私たちのチームが居た場所に繋がってる」

 

 

 

 

現在居る区画は、マナの濃度を鑑みるに、おそらく70層付近。「大魔術回路」の中層………と彼女は言っていた。となると、通ることが出来れば10kmのショートカットか。

 

 

 

 

「……はぁ。しょうがない。ちょっと迂回したルートを取ろ─────」

 

 

 

 

ふと、直感が耳元に囁いた。それはまるで、運営者によって更新されたプログラムのようであった。「この動作をしろ」というプログラム。不自然な導線が頭の中でいきなり組み上がり、その導線に従って、身体が動く。意思と、本能のブレンドで、身体が勝手に動く。直感に従い、両手をそのあやふやな空間に突っ込む。空間が、歪んだ。

 

 

 

 

「ちょっと?!」

 

 

 

 

そのまま両手を、両扉を開くように動かす。

 

 

 

空間の歪みが、収束し、変貌する。

 

 

 

あやふやな空間は、いつの間にか、立派な、空間の裂け目になっていた。

 

 

 

「うぉ……何してんだ僕───って、あれ?

………もしかして、転移ポータル直った?」

 

「────ちょっといいかな、ランスロット?私の後ろ5mに離れてもらってもいいかな。10秒間、顔は私に向けないように。このポータル、危険かもしれないから、ちょっと調べさせてもらうよ」

 

「おっ……うん。了解です」

 

 

 

 

思わず、怯んでしまった。

距離を取って、急いで後ろを向く。

 

 

 

 

「………空間補正値が、再調整されている?まるで、マスターキーを使用した後の鍵穴みたい。

これは、霊的干渉能力が強引に……?いや、それじゃ、こんな精密な空間操作は出来ないはず。パラメータは、もっとぐちゃぐちゃになってないと可笑しい。ということは……この世界そのものが、忖度してる?それじゃコレは…………いや、違うか。わかんないな……」

 

「ごめん……10秒経った?」

 

「あっ、経ってるね。ごめん、戻って来て!」

 

「了解です」

 

 

 

 

彼女の居る背後に駆け寄る。

彼女は、振り返って、調査の成果を報告してくれた。

 

 

 

 

「確かめたところ、これ、ちゃんと地下45層に繋がってたよ」

 

「おぉ、よかった」

 

「でも、さっき君は何をしたの?ポータル。再定義することなんて、一体、どんな魔法を?」

 

 

魔術師がそんな容易に魔法とか言っていいのか?

魔術使いにはそういう感覚がないのだろうか。

しかし、彼女からの問いかけに関しては、正直言って僕も分からない。

直感としか言いようがない。

 

 

 

 

「いや、それが正直僕も、分からなくて。

 『あ、なんか出来るかもしれない』っていう直感が頭に閃いて。その衝動通りに動いてたら、いつの間にかポータルが直ってたんだ」

 

 

 

本当にわかんない。直感としか言いようがない。そもそも、なぜ直感に我が身を投げ出して、行動してしまったのかの、僕は説明が全く出来ない。

 

 

 

……もしかして、原因は、僕の竜としての特性、アルビオンの仔にあるのだろうか。しかし、機能制限された頭脳体ではその答えが出せない。

 

 

 

 

「本人でも、分からないか。妖精の神秘。恐るべしだね」

 

 

 

 

僕たちは、ポータルの中へと、足を進めた。

 

 

 

 

 

 

騙してるようで、立香には本当に申し訳ない。

いや……完全に騙してるのか。余計に、申し訳ない。でも、あの"藤丸立香"なら、全てを明かしても良いのではないか、と思ってしまう。

こんな怪物である自分を、受け入れて貰えるのではないか。そんな思念が、頭を過ぎる。

 

 

 

 

反英霊、悪鬼、神霊、精霊、怪物、そして竜。

数多の超存在と縁を結んだ人類最後のマスター。

 

 

 

「平均的な能力を持つ、何処にでも居る誰か」でありながら、世界を一度救い、そして全てを失い、全てを取り戻そうとする者。カルデアのマスター。

 

 

 

 

しかし、彼女は本当にあの藤丸立香なのだろうか。確かに、「何処にでも居る誰か」とは言った。しかし、それは比喩的な表現であって、どの空間にも物理的に偏在しているという意味ではないだろう。

 

 

 

日本人の平均的な家庭で平均的な暮らしをしている筈の彼女が、こんなロンドンの地の底の果てで、なぜ迷宮探索者なんてことをしているのだろうか。

 

 

 

 

疑問は、溢れるように湧いてくる。

しかし、疑問を頭の中に渦巻かせながらも、迷宮での進軍を続ける。

 

 

 

 

彼女と共に、迷宮を練り歩く。

アルビオンの風景は、少しの移動をするだけで、異様な速度で、様変わりしていた。

 

 

 

ただの洞窟だと思ったら、雷が"横に"落ちてくる嵐の丘。そこから更に、移動すれば、溶岩の流れる熱火山のような場所に辿り着く。ウニのように細く鋭い金属で覆われた暗い大地に来たと思えば、重力が逆さまになった異空間、そして、アマゾンじみた熱帯雨林。階層のジャンクションに着く度に、アルビオンの姿は大きく変化した。

 

 

 

 

意外に思うかもしれないが、原生生物と遭遇する数は少ない。恐らく、彼女がそういうルートを取ってくれているのだろう。または、彼女の索敵作業の賜物かもしれない。

 

 

 

「plag set」

 

 

 

一工程の、魔術を紡ぐ。

彼女は索敵の際、甲に赤い刻印の入った籠手らしきモノから幽霊、ゴーストを召喚して、使役していた。

 

 

 

どうしても、その姿は、英霊のマスターとしての彼女が、どうしても、チラつく。右手の甲の刻印が、令呪じみていて、気になってしょうがない。思わず、僕は口を開いた。

 

 

 

 

「ねぇ、立香ってさ。専門の魔術は降霊術なの?」

 

「うん、まぁ降霊というか、召喚というか。

 礼装の触媒に封じた霊を、そのまま使役してるって感じ。私、パスのラインは、降霊術師にしては恐ろしく短いの。だから、降霊術師にしては、落伍者もいい所なんだけど、召喚したモノを使役する際その反動が小さいっていうか。使い魔を使役する適性はあったらしいんだ」

 

 

 

才能の無い新世代の魔術師である、彼女が持つ、誇れるモノの一つだという。

 

 

使い魔、特に自分よりも強大な存在を使役する際、その存在規模の差異が大き過ぎると、術者のアイデンティティが、ゴリゴリと削られていく。

 

 

 

故に、強力な使い魔を使役するには、『どんな欲望にも流されづらい、軽くて重い芯』が求められる。

 

 

魔術の才はてんでダメな藤丸立香。

しかし、ある種の召喚術の適性が、彼女にはあるらしい。「青」の魔法使いが、かつてそう言っていた。

 

 

 

 

世界は違っても、彼女の天性の資質は変わらない、ということか。

 

 

 

 

「……そういえば、立香は新世代の魔術師なんだよね。さっきから、ずっと礼装を回してるけど、これって自前の魔術回路で運用出来るのかい?」

 

「あー、うん。実は、無理。自前の魔力じゃ、霊の並行使役なんて使ったら、すぐガス欠になっちゃう」

 

 

 

 

斥候が終わり、霊が帰還してくる。一体の霊が、立香の親指へと戻る。ということは、立香の使役する霊は、この一体だけなのだろうか。しかし、戦力がゴースト一体とは、ちょっと心細いな。

 

 

 

 

……そう思っていたのは、束の間であった。

霊が、立香の指に帰った後。僕らの前の路地の角から、一体の霊がひょっと、顔を出してきた。

そのままもう一体の霊は、立香の人差し指に、収束していった。

 

 

 

「並行使役で、ガス欠ね…………僕の目には、もう一体霊が居るように見えるんだけど」

 

 

 

 

 

「気のせいじゃない?」

 

「その礼装に、複数体居るの?」

 

「居ないけど?」

 

 

 

と言った瞬間。洞窟の角から、もう三体の霊が帰ってきた。三体の霊。まじか。計5体である。

 

僕は、久しぶりの人間との会話だから、相手との距離感について、慎重になっていた。

それ故に、ある意味人生初の他者である、彼女の仕草の洞察に努めていた。

 

共に過ごしたのは、1日程度であるが、彼女の振る舞いや雰囲気については、ある程度理解している。故に、今の「複数の霊の存在を認めない」ような、彼女のふざけた振る舞いが、理解できた。

 

彼女、僕に(じゃ)れているのである。

では、戯れているのなら、その戯れに報いなければならない。

 

 

実在を否定する彼女に向けて、見間違いでないことを証明するために、大袈裟に指を霊に指し、霊の数を数える。彼女が隠そうとしている薄っぺらな欺瞞を、剥がしてやるのだ。

 

 

「一体、二体───」

 

「わー!指で数えるのはなし!

……ってウソウソ。

ごめん。冗談だって。」

 

 

指を折って、霊を数えるのをやめる。

 

 

 

「じゃあ、これはどういうカラクリなんだい?」

 

 

 

こほん、と咳払いをし、その問いに彼女は答えてくれた。

 

 

 

「生来のメイン回路だけじゃ、この礼装の運用は難しいんだけどね。私の運用する魔術回路はね、皆が使ってる擬似神経だけじゃないんだ」

 

 

 

 

そういって立香は、意味深な笑みを浮かべ、瞼を閉じた片目に、指を軽くトントン、と叩く。

 

 

 

 

 

まさか。

 

 

 

「えっ……嘘。もしかして……え。嘘、魔眼?」

 

「ぴんぽん。当たり。」

 

「ええええええええええ?!」

 

 

 

 

 

 

はぁ?!嘘だろ……?

 

 

 

 

 

 

「……確かに魔眼って、結構珍しいけど。

そこまで驚く?」

 

 

 

そんなに私、魔眼持ってないように見えてた?と、ちょっと口を尖らせる藤丸立香さん。

 

 

 

いや、ばちくそに驚きました。

まさか、藤丸立香が、魔眼を保持していたなんて。馬鹿な。そんなデータ、僕には無いぞ。

 

 

 

 

 

魔眼には、独立した魔術回路としての機能がある。故に、魔眼保持者は、魔力を生み出す際、自身の体内回路だけでなく、魔眼の回路を上乗せで用いる事ができる。

 

 

 

 

 

故に、魔眼は低ランクのものでも、魔術社会では、一種のステータスとして機能するのだ。

 

 

 

 

藤丸立香がFGO世界でも、魔眼を持っていたら、作中で積極的に運用しているだろう。

 

 

 

原作とは、違う要素がいきなり生えて来た。

なにが『世界は違っても、彼女の天性の資質は変わらない、ということか』、だ。

 

 

 

えぇい!戯け!

肉体形質からして全く違うではないか!

 

 

 

「ごめん、ごめん。不快にしてしまったね。申し訳ない。魔眼を持ってる人は、実は人生で初めてだったからさ」

 

「……その前に、なんだけどさ。そもそも私って、ランスロットにとっては、ある意味、人生で会った初めて会った人間じゃん?

あの邂逅こそが、一番のビックリな筈だと思うんだけど。なんで、このタイミングで驚いてるの……?」

 

「それはそうですね……」

 

 

 

 

そうだね……返す言葉もございません。 

 

 

 

 

「でも、魔眼ってワクワクしない?人体とは独立した異能。ただの身体機能な筈なのに、そこに人智を超えた、固有能力があるんだよ?正直、めっちゃカッコいいと思うな」

 

「あぁ、そういうこと。ランスロット、魔眼が好きなんだね」

 

「そうなのかも。ほら、僕が使える手札って、基本的に単純な身体能力しかないでしょ?そういう身からするとさ、その身体機能に、超能力とか、術式を備えてるってのは少し憧れるんだよね」

 

 

 

そうなのだ。

ブレスだのバブル光線だの、飛翔形態変化だのしてる中で、僕はただ、殴る蹴るしか出来ない悲しきモンスターなのだ。そう設計した自分が原因ではあるのだが。しかし、周りがかっこいい事してると、自分を客観視した時、ちょっとスンッとなってしまうのは、男の子としてしょうがないだろう。

 

 

殴る蹴るしか出来ない、文字通りの強いだけの馬鹿。それが僕なのだ。

 

 

 

 

「……でも、その類の能力によって、苦悩している人が居るってことも、知識では知ってる。その人にとっては、心無い軽率な言葉だったかもしれない」

 

 

 

 

肥大化した超能力、異能は、常識で生きることを阻害する。直死の魔眼。泡影の魔眼。

未来や過去の情報などを強制的に浮かび上がらせる過去視、未来視の異能は、現在進行形で「生きる」ことすら、困難となる。

その異能で苦しむ者たちにとって、今の僕の発言は、デリカシーの無い話であったはずだ。

 

 

「……でも、目の前で憧れてるって言われて、私は悪い気はしなかったよ?」

 

「ありがとう、立香。そう言ってくれて助かるよ」

 

 

センシティブな話題に、フォローありがとう立香。こういう所に、彼女のコミュニケーション能力の高さを感じてしまう。

 

 

 

「ふふ、どういたしまして。私は、特に気になんなかったから大丈夫です。あ、そうだ。

ここでまた、クイズなんだけど」

 

「ほぅ……?」

 

「私の魔眼ってさ、ちゃんと異能が付いてるやつなんだけど。私の魔眼、何の魔眼だと思う?」

 

「え?教えてくれるの?」

 

「勿論、正解すればね。魔術師とかなら、隠蔽とかすべきなんだろうけど、ほら。

私は魔術使いだし。それに、君とは今、即興とは言え、同じチームの仲間なんだから。

知る権利はあると思うよ?」 

 

 

おぉ……!

 

 

「じゃあ……そうだね。炎焼の魔眼、とか?」

 

「メジャーなやつだね。でも、残念。不正解です。それに、炎焼の魔眼持ってたら火属性弱点のケルピーにもっと有意に動けてたと思うよ」

 

 

 

マジレス一閃。

まさに正論……!

 

 

 

「安易過ぎたか……ええっと、そうだね……ちょっと考えるよ」

 

「おっけー」

 

 

 

うむ。そう言えば、さっき僕がいきなりポータルの残滓を切り裂き始めた時、態々視界から退くように、指示していたのを思い出す。

 

 

 

 

『───ちょっといいかな、ランスロット?私の後ろ5mに離れてもらってもいいかな。10秒間、顔は、私に向けないように。このポータル、危険かもしれないから、ちょっと調べさせてもらうよ』

 

 

 

 

もしかして、この調べていた時、魔眼を使っていたのではないか。私が行った行為と、その空間の裂け目自体を彼女は観測していたとしたとしたら。それは、"過去"を観測する行為、とも言えるのではないか。つまり、それは。

 

 

 

 

「───もしかして、過去視かい?」

 

 

「普通に不正解」

 

 

「嘘でしょ……?」

 

 

真面目に考えたんだけどな。

えぇっと、後は何があるだろうか。

うーん……

えっと……

 

 

「あ、残念。時間切れだね〜」

 

「え、このクイズ時間制限あったんだ…」

 

 

知らん……そんなの。

あぁ、ちょっと残念だ。彼女の魔眼が、どんなものなのか、興味があったのに。

 

 

「でも、せっかく参戦してくれた参加者が、手土産なしで終わるだなんて、主催者の面子が立たない。……そう思いませんか?」

 

「主催者の面子が関わるような大規模なクイズ大会だったかなコレ」

 

「可哀想なそんなランスロット君。

しかし、そんな彼に、なんと主催者から、救いの手が舞い降ります。主催者の寛大なる慈悲によって、なんと!」

 

「なんと?」

 

 

 

「なんとですよ?────たらららら、たん!

私の魔眼の正体を、教えちゃいまーす!ぶんぶんぱらりらーっ!」

 

「なぁ立香、君なんかテンションおかしくないか!?」

 

「ランスロット……知らないの?クイズにテンションの上がらない人間はいないよ?」

 

 

 

 

悪かったね!

人間じゃないからな!

 

 

 

 

でも、魔眼の正体って結局教えてくれるんだ……逆に、知って欲しかったのかな?

これから、まだマギスフェアへの道のりは、続くのだ。幾つかの日数も跨ぐような、冒険になるだろう。これからのことを考えると、互いの能力についての情報共有は、しておいた方がいい。

 

ちくしょうBBちゃんみたなムーブしやかって……!

 

 

 

「じゃあ、どんな魔眼なんだ……?」

 

「じゃかじゃかじゃかじゃか、じゃん!

私の魔眼。果たして、その正体は─────」

 

 

 

多分、過去視ではないとしたら、物理干渉型のモノではなく、観測系の魔眼だろう。

というと、シンプルに、魔力探知とかだったか?それとも、ヴィィの透視の魔眼の系譜、なんてモノとかもあり得るかも。

果たして、どんなものなんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────────妖精眼、です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────なんて?

 

 

 

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