ソシャゲ世界って結局中堅勢力が一番良い空気吸ってる 作:しゅないだー
#1 「終わった世界ではじめまして」
打ちっぱなしのコンクリートに正座してると膝が痛くなるんだよなあ。
何が悲しくて齢19にもなって、正座で叱られるなんて情けない羽目にならなければならないのか。深く考えると涙が出ちゃいそうなので上を向く。
「駄目だよお姉ちゃん、そんなに詰めたらレイくん泣いちゃうじゃん。ああかわいそう、いい子いい子してあげよっか?」
馬鹿にしたようにぽんぽんと頭を撫でてくる手を払い除ける事もできない。
だって上司だから。
「……ふむ、そういう意図はなかったのだけれど。失敗には説明責任が付いて回るものでしょう」
抑揚のない平坦な声に「そういう意図はなくとも俺は泣きそうなんですよ」なんて言う事もできない。
だって上司だから。
「
和服に身を包んだ女性がのんびりとそう宣うのに「そんな物が流行ってたまりますか」と異を唱える事もできない。
だって上司だから。
特殊な性癖をお持ちの方ならば見目麗しい女性3人の前で正座させられているこの状況もご褒美になるんだろうけども、あいにくそういった物は持ち合わせていなかった。
それにしてもポストアポカリプス物のソシャゲ世界で、パワハラってどこに訴えればいいんだろうか。
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4年前に突如落ちてきた隕石群によって、世界は一変した。
衝突によって失われた人命、生活基盤。そしてそれ以上に人々の営みを否応なく変えたのが『異能』。
隕石に付着していたウイルスは、人の中に眠っていた力と底知れない欲望を引き出した。
崩壊後の世界、様々な目的で動く異能力者達がひしめき合う『都市』で"
これがあらすじ。
崩壊した政府の残党が『秩序ある世界の再構築』を掲げ、隕石衝突前のような世界を目指す"
異能を犯罪に使おうとする者を取り締まったり治安維持の役割も果たしている……と言えば聞こえはいいけど、非道な人体実験とか良くない噂も目白押し。
偉そうだし、まあろくでもないと言って差し支えない。
隕石の衝突によってもたらされた異能をいち早く利用し、崩壊後の日本の裏社会を牛耳った"
一言で言うと倫理観が終わっているヤクザで、まあろくでもない。異能省は一応建前って物があるが、こっちはもう殺す犯す奪うなどなどやりたい放題な訳で。
その2大勢力を筆頭に他にも隕石を信仰するカルトだとか、異能を疫病だとして"治療"しようとする連中だとか、全体的に倫理観が終わっているろくでもない人達が選り取りみどり。
まともな人間は探せばいるけど、大体ろくでもない奴らの食い物。
こういう奴らが登場人物。
俺の転生した世界はそんな素敵なソシャゲ、異能ポストアポカリプスSRPG『クロノスタシス』。通称クロスタであった。
星の数ほどあるソシャゲだが、もし転生したくないランキングが存在するならばかなり上位に位置づけられると思われる。
R15指定は伊達や酔狂ではない。女子供もバンバン死ぬこんな殺伐とした世界観が一般ウケするかと思いきやどっこい、セルランでは常に上位に食い込んでいた。
というのも、癖のある設定ながら多くの人を惹き付けていたのが、既存のソシャゲと一線を画す自由度。
AIだか何だかを活用した、主人公の些細な選択でストーリーが大きく分岐するマルチストーリーシステムは「一つとして同じ物語はない」と開発陣が豪語するだけあって網羅する事は不可能に近い。
異能省に肩入れしてもいいし、水生会の手先として無辜の市民を甚振ってもいい。展開次第では『都市』に数多存在する中小勢力に所属する事だってできる。
そんな代物がリアルタイムで更新され続けるソシャゲに備わったものだから、そりゃまあ凄い事になる。
あるプレイヤーのデータでは異能省が日本復興を遂げ、別のプレイヤーのデータでは水生会によって某世紀末漫画のような有様に、と従来のソシャゲでは考えられない仕様になっている。なんなら並の据え置きゲーでもこうはいかない。
それに加えて、場合によってはガチャで当たる、いわゆるプレイアブルキャラすら死ぬシビアなメインストーリーは良くも悪くも話題を呼んだ。流石にプレイヤーが意図的にそういう選択を取らなければまず起こらないが、それはそれとして売上とか炎上とか怖くないのか。
一応救済措置のようなものもあったけども。
まあそういった狂気すら感じる画期的なシステムと殺伐とした世界観が若者を中心に大ウケ。美少女から顔の良い男、イケてるおじさんおばさん、人語を解す動物まで多種多様なキャラが容赦無く死ぬこのゲームは一躍社会現象とまでなった。
いや本当に面白かったし、一切先の読めないストーリー展開には本当に自身が『都市』の住人になったような没入感があった。あったが、実際そうなりたいと願った事は一度もない。
以上が15歳の誕生日に蘇った、俺の前世のクロスタについての記憶である。
隕石群衝突の緊急速報にあわあわしている最中、いきなりそんな厄い記憶が蘇った俺の心情を察してほしい。なんせこれからの展開が大体読めている訳だから。
衝突によってインフラはめちゃくちゃにぶっ壊れ、そんな中で隕石に付着していたウイルスで未曾有のパンデミック、感染した人間は『異能』に目覚めるかそのまま死ぬかの2択である。
なんならウイルスに適応できずに死んだ人間がほとんどなので今残っているのは……多分元の2割3割程度じゃないかと思う。
そして異能に目覚めたとて、その先に待っているのは一部の強者達が支配する弱肉強食の世界。
ここまで生き延びるのすら本当に、本当に大変だった。
最初に誰が呼んだか、『都市』。
多くの陣営が身を寄せ合い微妙なパワーバランスで成り立っているこの街は、恐らくこの日本で唯一まだ文明の灯が残っている地な訳で。
都市から少し離れれば異能に目覚めたはいいもののウイルスに侵食され、人の姿と理性を保てなくなった人間──"ケモノ"が餌を求め彷徨っている。
要するにイカれてしまった人間を処理するのに人殺しだと体裁が悪いから、"狩り"だとか"害獣駆除"って建前でさせて頂いているワケ。
たとえ周囲を化け物がうろうろしていても、化け物よりもイカれた連中が住んでようとも"人間"として生きたいなら『都市』を離れる事はできない。
トウキョウもオオサカも、崩壊後の世界では単に懐かしい地名でしかないのだ。
ただでさえクソ治安なのに加え、ソシャゲのデイリー周回かと言いたくなるほど頻発するケモノの襲撃イベント。いや実際ゲームではマジでデイリー周回でケモノ狩りやってたんだけど。
そんな訳で強くなければそもそも食い物にされるこの都市で、所属する勢力というものは非常に重要だ。
小規模のしょうもない所に入ってもそのうち何かしらの抗争で潰されてお先真っ暗、かといって異能省や水生会みたいなデカい所に行ってもなんかの被検体か鉄砲玉にされるのがオチ。
そんな訳で隕石群衝突後のマジで終わっていた1年間を地べたを這いずり回り、泥水を啜り草とか食べつつ、異能を駆使して何とか辿り着いたこの『都市』で俺が「ここで働かせてください!」と絶叫したのは。
実の姉妹たった3人ながら、この人外ひしめき合う『都市』で確固たる存在感を持っている中堅勢力。
対価さえ支払えば結果を出す家族経営の民間軍事会社、"伊勢屋"の名前を知らない者はいない。『都市』での政治には一切関与せず、ただ純粋な武力としてある彼女達に手を出す者は皆無であった。
というのがまあトレーラーで、ゲームとしては三姉妹全員がプレイアブルとして実装されており、ユニットとして一度期間限定イベントのメインを張った事もあるという立ち位置の良さ。
それに加えてその成り立ちからか、このクソ倫理観世界の中でも比較的思想がマシ。
その民間軍事会社『伊勢屋』が俺の就職先。住み込み三食付き、ボーナス有り。
強くて可愛いお姉ちゃんが3人もいるだけでハッピーこの上ないのに、俺は事務員としてこのイカれたポストアポカリプス世界でのんびりスローライフを送る未来を約束されたという訳だ。勝ったな、がはは!
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椅子に座ったまま、スーツに身を包んだ女性は困ったように首を傾げた。少しずれた眼鏡を直す仕草こそ可愛らしいが、表情が一切変わらないのでめちゃくちゃ不気味である。
「そんなに難しい仕事だったかしら……
長女、
180cm弱の長身を包む仕事のできるOL然としたパンツスーツにアンダーリムの黒縁眼鏡はいかにも後方支援職といった風体だが、その実ゴリゴリのフィジカルアタッカー。
この台詞が嫌味でなく素なのだから恐ろしい、出来ない人の気持ちを分かって欲しいものだ。
「ただの荷物配達、最低ランクの仕事って言うから俺は受けたんですよ!? なのに受取人がヤク中でまさかキマったまま襲い掛かってくるとは思わないでしょ、銃まで突き付けられたんですって!」
伊勢屋では依頼された仕事の内容に応じてランク分けされ、適切な人員が派遣される。大規模な抗争に傭兵として呼ばれる時は社長を始めとした三姉妹が出勤するという訳だ。
今回のようなケチな仕事で駆り出されるのは下っ端の俺であり、そしてそのケチな仕事で失敗するクソザコナメクジも俺である。
「うちに持ち込まれる案件ってつまりそういう事でしょう。まあいいわ、依頼人には後で"戦闘有"のオプション料金を請求しておくから」
「出禁にしてくださいよそいつ! 詐欺だ詐欺!」
このまま押し切れそうな流れになってきたので、強めた語気と共に正座を崩して立ち上がろうとする。
「それで代金は回収できなかったんでしょう、肝心の荷物は?」
「んなもんないですよ、邪魔になるんで投げ捨てて全力で逃げましたから。いやあ怖かった、俺の命があって良かったですね」
立てた片膝を戻してまた正座する。残業は嫌だ残業は嫌だ残業は嫌だ。
「……残業ね。代金の取り立て、不可能であれば荷物の回収。
「ギーッ! そもそも俺さあ、現場じゃなくて事務として入ったんですけど!」
「それは貴方が勝手に言ってるだけでしょう」
声にならない威嚇とも慟哭ともつかない叫び声を上げながらも、俺は最後の抵抗に出た。
「じゃあ逆に聞きますけど、これで撃たれてたらどうしろって言うんですか? 人って銃で撃たれたら死んじゃうんですよ、お三方は知らないかもしれないけど」
異能力者と言えど銃で撃たれれば死ぬし、刀で斬られれば死ぬ。並の異能なんかより1丁の拳銃の方がよっぽど恐ろしい。
並の異能であれば。
「避けて殴る、それだけの話だと思うのだけれど?」
「一旦受けてからねぇ、斬れば良いんだよ」
「あたし銃とか効かないし〜」
概ね俺の選択は間違っていなかった。この殺伐とした世界で衣食住に困らない、なんと素晴らしい事か。人体実験に参加させられる事もないし、ヤクザの鉄砲玉にもならなくて済んでいる。
惜しむらくは彼女達が、俺の想像を遥かに超えてドの付く武闘派であり上澄みだったという事だ。
いや本当に、ソシャゲってこういう中堅勢力みたいなのが一番良い空気吸えると思ってたんですよ。