ソシャゲ世界って結局中堅勢力が一番良い空気吸ってる   作:しゅないだー

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お待たせしました、いやお待たせし過ぎたと言っていいかもしれません。
ぼちぼち1章やっていきます、お付き合い頂ける方は引き続きよろしくお願いしまーす!
感想をもらえるとめちゃくちゃ喜ぶぞ!


1章『都市狂騒曲』
#11 「リスタート」


 

 

 

 

 まだ午前中だっていうのに本当にクソ暑い。じっとりと首筋を流れる汗を拭って溜息を吐く。

 隕石群衝突前から異常気象って騒がれてたけど、毎年毎年こうだともうそれが普通なんじゃないかって気すら起きてくる。

 

 

 特に今俺が歩いている"闇市"はその人口密度も相まって、本当にサウナか何かって感じ。

 構えられた店や立ち並ぶ露店に売られているのは、危ない武器からヤベーお薬まで多種多様な品物。

 崩壊前の倫理観以外は何でも揃ってる"都市"の心臓。ろくでもない物を売る奴、それを買う奴でこの都市は成り立ってるってワケ。

 

「おい、どこに目付けてんだ!」

「なんだお前、殺すぞ」

 

 突然近くで飛び交う罵倒に思わず背筋が伸びる。ケモノと喧嘩は都市の華、とは誰が言ったんだったか。

 闇市ではいつも大小問わず何かしらの揉め事が起きてるけど、皆喧嘩ばっかり飽きないんだろうか。やれ釣り銭が足りないだの、やれ肩がぶつかっただの、しょうもない事でどうにも喧嘩っ早くて嫌になる。

 

 

 騒ぎに視線をやってみれば、筋骨隆々の男二人が胸倉掴み合って荒っぽい言葉を吐いてるし。ああ嫌だ、もう見てるだけであまりにも暑苦しくて見苦しい。

 まあ「殺す」やら「死にてえのか」やらそんな安い脅し文句を悠長に言ってられる時点でただの小競り合い、でも万が一巻き込まれたら洒落にならない。

 

 

 今俺の手にあるのは都市の外にある集落、あの『農園』から仕入れられたイチゴな訳で。こっちには不定期にしか流れてこないから買えない時はマジで買えない。

 

 プラントで生産された食糧には毒が含まれている、といった過激な思想を崩壊前からお持ちの方々で構成されたグループなんだけど、作る野菜や果物が本当に美味い。

 

 危険を顧みず、都市と農園のルートを繋ぐ商人がいるくらいには需要がある。特に日本人って食事にこだわり凄いしさあ、その分お高いけど。

 春陽に至っては「レイくんさあ、あたしに野菜を食べさせようと思うなら『農園』のじゃないとお断りだよーん」とかバカな事言ってるし。

 

 

 まあ端的に言うと、今買ったばかりのパック1つ分のイチゴでさえ俺の給料半月分に相当する。いや本当に天然物ってそれだけの価値はあるんだって。そのまま食べてもいいけどジャムにでもしてやろうかな、なんてスキップでもしちゃいそうな心持ちだった。

 

 

 喧嘩の余波で飛んできた瓦礫が、気分るんるんで俺が腕から提げていた袋に直撃し、数m先へ吹っ飛ばすまでは。

 

「俺の給料半月分ーッ!」

 

 叫びながら振り返れば小競り合いは殴り合いにランクアップしていた。

 どちらも身体強化系の異能なんでしょう、拳が相手に命中する度に歓声と共に空気が震える様はまるで賭け闘技場のよう。

 

「おい、兄ちゃんはどっちに賭ける!? タンクトップの方が今オッズ高えぞ!」

「今俺が傷付いてるの見て分かんないすかねえ!?」

 

 知らねえおっさんが興奮した様子で急造の賭場やりながら、膝から崩れ落ちている俺に話しかけてくるし。

 治安が悪いんだよ、どいつもこいつも。というかどうしてくれんだよ、俺の貴重な楽しみを。

 ぷつん、と何かが切れる音がした。

 

「弁償しろよ! 俺の! 給料!」

 

 恐らくお陀仏であろうイチゴの事を思いながら、ナイフで指に傷を付ける。零れ落ちる血液が猟犬(ハウンド)へと姿を変えた。

 こんな事をしてもイチゴは帰ってこないが、俺の気持ちが少しは晴れる。復讐ってのは自分の為にやるものだから。

 

 

 ああ、今日も"都市"はクソみたいに平和だ。

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

 

「百花さーん、聞いてくださいよ! 今日さあ、農園から流れてきたイチゴが売ってたんで思わず買っちゃったんですけど途中で……うおっ」

 

 服に付いた埃を払いながらドアを開く。直後、もう少し帰るのを遅らせれば良かったと悔やんだ。

 だって買い出しを終えて事務所に戻ったら、知らないおっさんが百花さんに土下座してた訳で。地面にめり込むんじゃないかってくらいに。

 

 パンツスーツのクールな美人相手に中年男性が這い蹲ってる姿はこう……傍から見たら特殊な性癖満たす為のお店だよ、これ。

 絶対見ちゃいけないやつじゃん、なんて思いながらも横目で男を観察する。

 

 お世辞にも綺麗とは言えない(ほつ)れたシャツ、ストレスからか荒れた肌。身なりから察するに、異能省や水生会に日雇いで雇われている労働者層だろう。

 少なくとも、うち(伊勢屋)のお客様としては見ないタイプ。寝不足なのか血走った目からはなんか切羽詰まったものを感じる。

 

「あ、じゃあその、ごゆっくりどうぞ〜」

 

 やっべえ物見ちゃったな、関わりたくないから何も気付かない振りで部屋に戻ろうとする。

 痴話喧嘩だろうか、全く百花さんも隅に置けないんだから。

 

「……礼。待ちなさい」

「ですよね」

 

 諦めて荷物をキッチンに置き、ケトルのスイッチを入れた。

 アリスは自分の部屋にいるとして、他の2人は多分巻き込まれるのを嫌がって出かけたんだろう。

 

「彩葉さんと春陽はどこ行ったんですか?」

「知らないわ」

「本当に協調性のない姉妹すねえ」

 

 憎まれ口を叩きながら百花さんにコーヒーを出しつつ、ちらりと彼女の顔色を窺う。目線で目の前の相手を"客"扱いするな、と釘を刺してきた。

 

「どうか、どうかお願いします……!」

 

 改めておじさんからの土下座を俺も受けるが、そんな物受け取ってもどうしようもない。

 話を伺うに、一人娘が突然いなくなったという事らしい。

 誰に、何処に連れ去られたかも分からなければ身代金がどうだこうだという話もない。

 そりゃ隕石衝突前なら迷子とか家出って所だろうけど、生憎な事にここは"都市"な訳で。

 

「先立った妻の忘れ形見なんです。あの子がいないと、私は……」

 

 娘さん自身を目的として拉致、まあ小銭稼ぎで変態に売り飛ばすか異能目当てで"遺物(アーティファクト)"にするかの二択。

 多いんだよな、こういうの。まあ恐らく水生会の下位団体、それも下の下って所かな。

 

「俺達より異能省に言った方が……まあ……うーん……」

 

 丁度本編が始まるくらいの頃から異能省は目に見えて歪んでいく。なんの事はない、どんな組織にでもある変遷だ。

 崇高な理念は年月を経るにつれて錆び付き、末端の方から腐り落ちていくってやつ。

 

 都市全体の治安維持やそれなりに地位のある人間の依頼ならともかく、単なる一労働者を自らの命を危険に晒して助けてやろうなんて殊勝な人間は殆ど見なくなってしまった。死んでしまった、と言い換えてもいい。

 これでも都市発足当初は信頼を勝ち得る為に、文字通り命懸けで戦ってたんだけどな。

 

「異能省にも相談したんですが、軽くあしらわれて」

 

 そりゃそう。大抵の事は、この『都市』においては自己責任。弱い奴が悪い。

 

「お気の毒だとは思うけれど、貴方のようなケースは都市には腐るほどある」

 

 そもそも生きているかも怪しいわ、と冷徹に言い放つ姿は若い女性ながら都市の荒くれ達と対等以上に渡り合ってきた手腕を感じさせる。

 

「それに貴方がどれほど身を粉にして働いていようと、私達を動かす対価にはならない」

 

 伊勢屋は対価さえ払われれば、どんな依頼でも受ける。

 俺が三姉妹に「バニーガールぴょんぴょん祭りを開催して下さい!!」って頼んでも多分開催してくれる。何払えばいいか想像も付かないけど。30回くらいぶち殺されたら足りるかな。

 

 まあ裏を返せば、それに見合う物を用意できなければ彼女達は動かない。

 ここでは力とは資源であり、決して安売りするものではないのだ。慈善事業じゃあるまいし。

 

 そう、"伊勢屋"は慈善事業ではない。だから百花さんはこの話を受ける筈がない、受けられない。

 男はもう見るからに肩を落として意気消沈って感じ、それを受けて百花さんが扉を手で示す。

 

「礼。外までお見送りを」

 

 だから伊勢屋としての話は終わり。

 

 

 

 

 なのでこれは、単なる"俺"の暇潰し。

 

「ねえ、おじさん。ぶっちゃけこれ、どれくらい出せます?」

「は、はい……?」

「だからこれっすよ、これ」

 

 そう言いながら親指と人差し指で輪っかを作ってみせる。

 困惑したような表情を浮かべながらも男が差し出してきたビビるくらい薄い財布を手に取って、中身を検めた。うーん、案の定しけてんなあ。

 

「百花さーん。実は俺、今日20歳の誕生日なんですよ。おじさんから貰ったこの小遣いで酒買ってくるんで一緒に飲みません?」

 

 へらへらと笑いながら百花さんの方に向き直った。

 その言葉に彼女の眉がぴくりと上がる。やっべ、怒ってるな。

 でも今更引き下がる気分でもない。

 

「……貴方ね」

「伊勢屋は受けないんですよね。それで俺も今日は仕事を言い付けられてる訳でもない、ってなったらちょっと手持ち無沙汰で退屈しちゃうからな〜」

 

 呆れたように溜息を吐くと、彼女は席を立って自室へと戻っていった。あーあ、絶対後でお叱り確定。

 でも昔の百花さんだったらそもそも話を聞かずにこの人叩き出してただろうに。何だかんだで丸くなってるんだろうか。

 

「じゃ、お話しましょうよ」

 

 未だ床に正座したままの男に椅子を勧めた後、簡易的な地図を広げる。

 都市の事を一つの生き物と例える人もいるくらい、日々その様相は変わる。

 都市の外れにある廃ビル群は手付かずの所もあるけど、箇所によっては増築や改築を繰り返し迷宮(ダンジョン)のようになってる所すらある。

 それに場合によっては、街中でも戦闘で地形その物が変化する事だってあるし。

 

「娘さんの行動範囲としては自宅周辺、この辺りね。何か娘さんの私物持ってません? 匂いが付いてたらなおいいんだけど」

 

 そう聞くと、男は家の周辺に落ちていたという髪留めを取り出した。それを手に取って確かめる、まあいけるでしょ。

 

「それと娘さんの異能、教えてもらっていいすか」

「えっと、ハトの言葉が理解できます」

 

 はと、ハト、鳩。

 

「鳥の鳩? それだけ? 他の鳥は?」

「全部の鳥に試した訳じゃないですが、とりあえずハトだけ……です。カラスは駄目だったらしいので」

 

 なるほどね、と腕を組みながら考える。思ったより事態は悪くなさそうだ。

 1つだけ約束してもらっていいすか、と指を1本立てる。

 

「俺、というか『伊勢屋に助けてもらった』なんて吹聴するのは無しね。見ての通りうちの社長は俺が動くのも嫌らしいんで、御理解頂けましたらお家で待っててくださいよ」

 

 そう言って席を立つ俺の手を、慌てた様子で男が握り締める。

 

「む、娘を助けてくれるんですか」

「生きてたらね……あ、そんな泣きそうな顔しないでほしいんすけど。俺の見立てが合ってりゃ8割くらいの確率で生きてますから」

 

 不安そうに何度も振り返りながら去る男を事務所から見送って、伸びをする。

 大した稼ぎにはならないだろうけど、一度聞いてしまった物をそのまま聞こえなかったふりができるほど俺は大人じゃない。

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

 

「百花さーん、俺行きますからねー! 頑張れ頑張れって応援して下さいよ」

 

 百花さんの部屋の扉をノックして声を掛けたが返事はない。流石にふざけ過ぎたかな。

 

「昼飯作ってるんで、温めて食べてくださいね。生きてたイチゴで作ったジャムをデザートに添えてるんで2人には内緒ですよ」

「……ええ」

 

 うむ、返事があった。

 

 

 

 

 

 次にやる事は、人探しの準備。

 何だかんだでだだっ広く入り組んだ都市の中から一人の子供を見つけるのは、砂漠の中に落ちた米粒1つを見つけ出すようなものだ。

 

 こういう時は自分の異能の汎用性に感謝だけれど、でもこのままじゃまだ見つけ出すには足りない。

 元自室、今はアリスの部屋の扉を軽く叩く。

 程なくして出てきた彼女は、さっきまで読んでいたのか色褪せた文庫本を片手に携えていた。表情から察するにもう大体の事情は理解しているらしい。大方盗み聞きしてたな。

 

「お兄ちゃん、お人好しさんだね。しゃちょー怒ってたよ」

「俺は女の子が可哀想な目に遭ってるのを放っておけないの」

 

 まあそりゃ百花さん(しゃちょー)が怒るのも無理はない。目の前で一従業員が堂々と副業してたら、そりゃねえ。

 

「男の子とかおじさんだったら、助けなかったの?」

「そりゃそうだよ」

 

 それを聞いた瞬間、アリスが可笑しそうに吹き出した。

 

「嘘つき」

 

 そう言いながら彼女が伸ばした手に触れ、ナイフで手首に傷を作る。

 

「……いたそ〜」

 

 アリスはそう目を背けるが、もう慣れ親しんだ痛みだ。

 今回イメージするのは犬。持続時間と嗅覚にとりわけ優れたやつ、別にこいつ自体は戦えなくていい、言うなれば探知用だから。サイズだって手のひらに乗るくらいで丁度いい。

 アリスのバフを受けて特化したそれは、大したリソースを割かなくても1日は余裕で保つ(・・・・・・・・)

 

「お代はね、クッキー焼いてくれたらいいよ」

「はいはい、帰ってからね」

 

 アリスも随分と子供らしい主張をしてくれるようになった。

 俺はそれが、本当に嬉しい。

 

「それでねそれでね、前食べたりんごが入ってるやつだとアリスもっと嬉しいかも」

「無理無理、今俺金ないもん」

 

 手のひらサイズの小型犬を肩に乗せ、ぶーぶー言うアリスに送り出されながら事務所を出た。日差しはまだ高い。夕飯までには帰らなきゃだし、帰らせてあげなきゃな。

 

 

 

 

 

 

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