ソシャゲ世界って結局中堅勢力が一番良い空気吸ってる   作:しゅないだー

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感想評価などなど本当にありがとうございます、めちゃくちゃモチベが湧いてくるぜ〜!
1章もやっぱ1件1件の感想返しはしんどいんですけど、ランダムQ&Aは変わらずやります!


Q.異能が強化されたけどまだ寿命削るレベルじゃないよね?部位欠損は常に代償払ってる判定?

A.死の危機に瀕したことで出力自体は上がってますがまだ寿命削れるレベルではないよ!
部位欠損は残念ながら単発なので、またなんかやばい時はもう一度切り落としましょう!

それ以上に礼を強化しているのは、気持ちの面で暴力へのストッパーが1つ外れた事ですね。
元々方向性や拡張性はかなりの強能力だったので出力が強化され、それを行使する事を躊躇わなければかなりやれます。





#13「階段を一歩踏み外すような」

 

 

 

 

 和やかな筈の朝食は一転、仕事の話を交えたミーティングへと様変わりした。

 飯食ってる時に仕事の話したくないんだけどな、仕事してる時にご飯かっこんでやろうか。

 なんて言える訳もなく、合成卵で作った目玉焼きの黄身を粛々とつつきながら百花さんの話に耳を傾ける。

 

「異能省から私達には直に依頼が来ているから、動かない訳にはいかないわ」

「うーん、でも人探しは私達には向いてないよぉ?」

 

 悲しい事に彩葉さんの言う通りであった。

 こう言っちゃなんだけど3人とも脳筋寄りな異能であるため、なんと俺が一番そういう捜索やら索敵に向いているという有様。

 

 かく言う俺の異能も、匂いの付いた手掛かりがないと追跡できないし。

 自分の生成物がどこら辺でどうなってるか、くらいまではぼんやりと分かるけど別に感覚を共有している訳でもない。

 こう……空を無数に飛ぶ鳥を生成して1つ1つの視界が俺と共有、とかできたら最高だったのにな。思わず溜息を吐く。

 

「ええ、伊勢屋の方針としては無理のない範囲での捜索。私達は索敵に優れている訳ではないから、基本的には大詰めに呼ばれるだけだと思っていい筈よ」

 

 口元を拭きながら「質問でーす」と春陽が手を上げる。

 

「でもさ、お姉ちゃん。3人いるみたいだけど、どの犯人を探すの?」

 

 グール、コレクター、マザー。

 前世の記憶通りならば、多少の相性はあれども3つとも難易度は殆ど変わらない。

 

「どれでも構わないけれど、一番遭遇する可能性が高いのは"コレクター"でしょうね。何があるか分からないから一人で外出する時はそれ、外しておきなさい」

 

 百花さんはそう言って春陽の耳に付いているピアスを指差した。

 

 伊勢屋春陽専用遺物『びっくり箱(パンドラ)』。

 春陽の異能である"必着配達便(トランスポーター)"を更に強化する物ではあるが、普段の仕事で使う場面は皆無だ。

 負担だって大きいし、そもそも大抵の場合それを使わざるを得ない所まで春陽が追い込まれる事がまずない。

 

「百花ちゃんと私はそもそも使わないもんねぇ」

 

 百花さんと彩葉さんは基本的に遺物を使用しない。

 というのも優れた性能であればあるほど、大抵の遺物にはデメリットが付いて回る。メタ的に言えば一部ステータスの低下、状態異常、使用条件の制限、使用に伴う継続的な()()()()()()などなど。

 

 そんな訳で、そもそも異能自体が戦闘に限りなく特化している二人にとってみれば。

 わざわざリスクを背負うよりもシンプルに自分でぶん殴った方が早い訳だ。

 

 アリス装備の異常な点は、強力な効果をデメリット無しで引き出せる事にあった。そりゃ因幡も欲しがる。

 俺が幸運だったのは因幡が一欠片のリスクも負いたがらない慎重な性格であった事と、彼女が自分の異能に絶対の自信を持っていた事だろう。

 あの状況で更に隠し玉を持たれていたら、と思うと今でもゾッとする。

 

 

 まあ俺だって、半年前は遺物に触る気にもならなかった。

 デメリット背負ってまでわざわざ戦いたくなんてなかったし、何より人を材料にした物なんて使いたくなかった。

 

 

 でも、強くなるには手っ取り早い。

 クロノスタシスは選択の積み重ね。そして選択とは、選ばなかった方を切り捨てるって事でもある。

 強くなる事を選ぶ為なら、俺のそんなちゃちなこだわりなんて切り捨てたって全然構わない。

 

「俺の遺物は元々ケモノ相手にしか使えないですもん。わざわざ人相手に都市の中で持ち歩きませんって」

 

 百花さんにじっと見られている事に気付いて、そう言いながら手を振ってみせる。

 

「それじゃ誰が最初に見つけられるか競争だね。お姉ちゃん達のんびりしてるからあたしが一番かな〜」

 

 久々に総出で挑む仕事に対しても、まるで遠足気分かのように春陽はのんびりと頬杖をついている。

 完全に調子乗ってるな、こいつ。

 

「礼。貴方は春陽と一緒に動きなさい」

「えー!? あたし一人で十分なのに、レイくんと一緒だったら守ってあげなきゃいけないじゃん」

 

 口を尖らせる春陽に「こっちの台詞だバーカ」と言い返しながら、百花さんの表情を窺う。

 

「お目付け役よ、貴方は」

「うす」

 

 春陽は決して弱くない、寧ろ都市の中ではその実力は上位層に位置している。

 単純な戦闘能力こそ上二人には及ばないものの、異能だけで見れば一番汎用性が高いのは彼女だ。

 ただ、春陽はこの都市において致命的な弱点を1つ抱えている。

 そして百花さんが俺と春陽を組ませるのは、その弱点をカバーしろと暗に言っている時だ。

 

「後の不安要素としては……確か"アルトラ"と言ったかしら」

 

 聞き覚えのある横文字ではあったが、素知らぬ顔でウインナーを口に放り込む。

 やっぱり解禁されるならこのくらいのタイミングか。

 

「ああ、最近なんか流行ってるらしいねぇ。異能を強化する薬……だったっけ? 眉唾物だと思ってたんだけど」

「ええ、相手の力量をいつも以上によく推し量ること。不味い時はすぐ撤退しなさい」

 

 都市狂騒曲の構造はシンプル、けれどクロノスタシスの性質をよく表している。

 3つのクエストが複雑に絡み合い、プレイヤーの選択がボスの生死、報酬や今後のストーリー展開など様々な所に影響してくる。

 

 

 ただ最終的に自分の手でけりをつけられるクエストは1つ、とにかくどれかクリアする事を目標にすれば良かった。それ以外は状況に応じたNPCが対処した、という形になる。

 俺の前世は確か"なり損ないの哀歌"をクリアした記憶がある。

 残りの2つは……"遺物狩り"のコレクターを異能省が撃退して、"誰が為に狂う"のマザーを水生会の下位団体『蜉蝣組(かげろうぐみ)』が討伐。

 これすらも人によって様々だったと考えると、つくづく恐ろしいゲームだった。

 

 

 まあ前世(まえ)前世(まえ)今世(いま)今世(いま)。俺は自分にできる事をやるだけだ。

 シンクに突っ込んだ洗い物を手早く片付けると、ソファにだらしなく寝そべっていた春陽に声を掛ける。

 

「じゃ、とりあえず情報収集と行こうぜ。特にやる事もないし」

「お、なんかレイくんやる気じゃん。そんなにあたしと出かけられるの嬉しいんだ?」

 

 にやにやと口角を上げる春陽の顔をじっと見つめる。

 

 半年前のあの日から、たまに夢を見る事があった。

 "銃殺刑"の撃った鉄柱が百花さんの頭蓋を砕く、そんな悪い夢を。

 それは動かなくなった彩葉さんの、春陽の、アリスの姿に変わる時もある。

 その度にベッドから飛び起きて、それはただの夢で誰も欠けていないのだと自分に言い聞かせて、生温い寝汗を拭ってまた眠る。

 

 

 因幡に付けられた傷は身体よりも、寧ろ俺の心に深く残っているのかもしれない。

 

 

 本当にたまたまなんだ、今のこの平和な日常ってやつは。

 それをあの夜に嫌というほど痛感させられた。

 

『Hello,Alice!』の時からそうだけれど。

 もうこの先、誰が死んだっておかしくない。だから俺にできる事は全部やる。まだ残ってる前世の記憶も、異能も使える物は全部使って戦う。

 俺は死なないし、誰も死なせない。

 

 百花さんも、彩葉さんも、春陽も、アリスも。俺が皆を守るんだ。

 

 俺が笑っていられる場所は、ここにしかない気がするから。

 

「残念、俺は歳下には興味ありませーん」

「あー、あたしの事子供扱いしてる! あたしより弱いのに!」

 

 不満そうに俺の肩を叩く春陽を無視してネクタイを結ぶ。

 百花さんみたいに強くなれたら、と形から入ってはみたけれど。これも案外悪くない。

 

 

 

 

 

 

 

「しゃちょー、アリスは?」

「アリスは……留守を任せていいかしら」

「りょうかい!」

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 ぎゃーぎゃーと言い合いながら礼と春陽が騒がしく家を出て行った後の事だった。

 新聞の続きに目を通しながら、コーヒーカップに口を付ける百花の姿は今都市を騒がせる事件など意にも介していないように思える。

 

 そしてうとうととし始めたアリスが、自室で寝息を立て始めた頃。

 見計らったような暫しの沈黙の後、ゆっくりと彩葉が口を開く。

 

「礼ちゃんが春陽のお目付役、ではないでしょ? 逆だよねぇ」

 

 ねえ百花ちゃん、と姉の名を呼ぶ彩葉に彼女は目線で応えた。

 

「心配なのは分かるよ。礼ちゃんは最近頑張り過ぎだもんね」

「……何があっても、二言目には『強くなりたいんですよ』とばかり。あんなに戦う事を忌避していたのに」

 

 そう溜息を吐く百花の瞳に憂いが差す。

 

「でも百花ちゃんも、あの夜の前から嫌がる礼ちゃんによく仕事させてたじゃない」

 

 荷物の運搬、目標の追跡、警備。

 多少のイレギュラーはあれど、普段彼女達が行っている仕事に比べれば、どれも命の危険など無いに等しかった。

 

「私はただ最低限、礼を都市に食い物にされずに済むレベルにはしておきたかっただけ。今のあの子は何と言うか……危ういわ」

「過保護だねぇ」

 

 その言葉に百花が冷たい視線を走らせる。

 

「彩葉。私はまだ、貴女が礼を"例外個体"の討伐に付き合わせた事を許してはいないから」

 

 例外個体。

 ケモノの行動原理は原則として、人を殺しその肉を喰らう。ただそれだけ。

 しかし稀に、人であった頃の未練や習慣に沿うような異常行動を取る個体が発生する。

 そういった"例外"個体は通常のケモノより高いスペックを誇り、その肉体は一級品の遺物となる。いくら取り繕おうとも、ケモノもまた人間だという事をそれは指し示していた。

 

「あれは礼ちゃんが『ケモノ狩りに同行したい』って言うから連れて行ってあげただけだよ。まさかそのたまたま連れて行った1回で大当たりを引くとは思わないよぉ」

 

 百花の言葉にたじろいだ様子もなく、彩葉は真剣な眼差しを相手にぶつけた。

 

「それに私達にはまだ全然及ばないとしても、今の礼ちゃんは見違えたように強くなってるよ。その事は素直に喜んであげるべきじゃない?」

 

 確かにそれは事実だった。事実だったからこそ、百花の胸中には自分でも言語化できない靄が渦を巻いている。

 無理にそれを名付けるとするならば。

 

「……」

 

 黙り込んだ姉に対して彩葉がもう一歩踏み込む。

 

「ねえ、百花ちゃん。礼ちゃんが強くなる事の、何を怖がってるの?」

 

 その言葉に、百花はほんの僅かだが動揺を滲ませた。

 

「……言っている意味がよく分からないわ」

 

 それきり会話は打ち切られ、またいつもの一日が始まる。

 

 

 

 無理にそれを名付けるとするならば、それは"違和感"かもしれない。

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 都市の人通りは心なしかいつもより疎らな気がした。

 やっぱり今朝の新聞が相当響いてるんだろうな。うちの姉さん方くらい強いならまだしも、一般市民の皆様からしてみればやべー殺人鬼が3人も野放しって訳だから。

 逆に人探しにはもってこい、と言えばそれはそう。

 

 

 かと言って、闇雲に探し回ったって見つからない事は分かっている。

 

 

 グールはざっくり言えばケモノへの部分的な変身能力。

 単純な肉体強化系よりも応用が利き、破壊力もある。

 彩葉さんの"六道越(ジェヴォーダン)"に類似しているけど、出力自体はグールの方が低い。けれどある要素(アルトラ)と噛み合ってしまっているせいで、クエストの進め方を間違えれば手が付けられなくなる。

 単純ではあるけれど、それ故に攻略には一番地力が問われるエネミーだろう。

 

 

 

 コレクターは恐らく今後も長い付き合いになる。

 異能省は「複数犯じゃないのか」って思ってるらしいけど、その正体は単独犯。

 複数の遺物を使い分ける事で並の異能力者じゃ到底太刀打ちできないくらいの力を振るう。とにかく遺物ってのは基本的にその性能と引き換えに、何かしらのデメリットが付いてる事が多い。

 使うだけでダメージが入るだとか、一定条件でしか使えないとか。

 けれど遺物狩り(コレクター)の異能は、それらのデメリットを踏み倒して遺物を使用できる。

 ある程度パターンを絞れるとはいえ、何が飛び出してくるか分からないって点ではこいつが一番脅威かもしれない。

 

 

 

 マザーは……よく分からない。少なくとも原作で俺の通ったルートにはあまり関わってこなかった。故に異能もどんな物か、情報が無い。

 ただ聞いた話によると、3つの中で一番後味が悪いとかなんとか。

 まあ人間をあんなぐちゃぐちゃにする時点で、まずまともな奴じゃないだろ。

 

 その3人のボスエネミー、そして2つの要素。

 

『遺物』と『アルトラ(異能強化薬)』。

 

 遺物に関してはこれまでに述べた通り、人間やらケモノやらの遺体を元にした倫理観0の装備品。大した異能を持たない人間でも相性によっては都市の上位層すら屠れる代物だ。

 

 

 それともう1つ、これからの"都市"を揺るがすのがさっき話題に出てたアルトラ。

 本編開始後から流通し始めた異能強化薬なんだけれど、今までにもそういう類の物はあった。でもその大半が使い物にはならない。

 効果が感じられないほど薄い、というのはまだいい方で9割はそもそも効果がない。

 

 そんな折に誰が流し始めたのか知らないが、突如として都市の暗部を中心に少しずつその名を響かせ始めているのが件のアルトラだ。

 これも異能の種類と服薬量によっては、都市の上位層に届き得る。

 

 しかしその代わり、使用には多大なリスクが伴う。

 

 まず感情を抑制する脳機能を破壊するとか何とかで、ただでさえ終わった治安の人々の一線を躊躇無く踏み越えさせる。

 おまけに常習性があるからハマっちゃったらもう終わり。

 

 最後に一番たちが悪いのが、使えば使うほどケモノに近付く点。

 異能はウイルス由来の物だから、それを強化すればするほど体内に蔓延しているウイルスも力を増す。

 臨界点を超えてしまえば、ケモノに堕ちる。

 

 それでも人が力を求めてやまないのは、何故だろうか。

 

 アルトラの流通で都市のパワーバランスが少しずつ崩れ始めていく所から、クロノスタシスの物語は加速していくという訳だ。

 

「春陽、お前絶……ッ対怪しいクスリとかに手を出すなよ。人から貰った物を食べたり飲んだりもしちゃ駄目だからな」

「あたしの事、子供か犬猫だと思ってない?」

 

 そんな下らないじゃれ合いにも似た会話をしていると、いつの間にやら目的地に辿り着いていた。

 ひとまず俺のターゲットは"遺物狩り(コレクター)"。

 となるとまず最初に調べるべきは、やはり遺物についてだろう。

 

 工房。

 唯一遺物を製作できるその店は、都市の大事に際しても変わらず営業していた。

 

「ねえ、レイくん。あたしここで待ってていい? あの人苦手なんだよね……」

 

 もじもじと指を合わせて申し訳なさそうにする春陽の気持ちは痛いほど分かる。

 ふらふらするなよ、と言い含めて1人で工房の扉を開いた。

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

 雑然とした店内の中はいつだって薄暗い。

 香を焚いたような甘ったるい匂いが満ちているその場所は、何故かそこにいるだけで言い様もない不安に駆られる。

 纏わり付くような居心地の悪さはどこか葬儀場のようにも思えた。

 

 ドアベルの音が聞こえたのか、奥の方から1人の女性が出てくる。

 

「あら……いらっしゃいませ」

「どうも」

 

 (ひつぎ) 響子(きょうこ)

 都市のパワーバランスの一端となっている遺物、それを創り出せる唯一の異能『玩具製作者(トラジディメイカー)』の持ち主。

 店の名を取って工房とも呼ばれている。

 

 とある理由で殺しても死なず、そもそも数多の勢力に重宝されている彼女を傷付けようとする馬鹿は早々いない。

 ある意味、都市の誰しもが手を出せない特権階級とも言える。

 あとなんか雰囲気がえっち。

 魔女を思わせるローブのようなゆったりとした藍色のドレス、少し赤みがかった黒の長髪から覗く瞳は宝石を思わせる。

 

「貴方様にはこの間とびきりの遺物をお作りして差し上げましたよね。それともまだご入用ですか? ええ、ええ、良いですとも。次は何を素材に……」

 

 鈴を転がすような声に対して手を大きく振り、今回の用件を伝える。

 

「あー、違う違う。ちょっと話を聞きたいんですけど」

 

 努めて何でもないような調子で軽く話す。

 

「"コレクター"について何か知ってる事があったら、教えてほしいなって」

 

 そう告げた瞬間、露骨に柩さんのテンションが下がった。

 

「はあ、貴方様もそれですか。私は何も知りませんよ」

 

 "も"という事は、俺と同じような事を考えてる奴が何人かいたんだろう。

 

「私は作る事が好きなだけ。どんな使われ方をされようが、それは最早私の興味の外にありますから」

 

 原作の頃から『人の心とかないんか?』『顔と声がいいだけのクズ』『人生ガチエンジョイ勢』などと評されるくらい、この人はびっくりするほど遺物を作る事以外に興味がない。

 人様の遺体をこねこねこねこね、武器だの防具だのに作り変えて生計立ててる時点でまあお察しである。

 

「それはそれとして商売ですからね、アフターフォローも欠かしませんとも。"終わらぬ狩り"(ハンドレス)の調子はどうですか?」

 

 彩葉さんの助力を得て何とか討伐した、一体の例外個体。

 それから作られた遺物の名前を出した時、彼女の瞳に恍惚とした光が宿った。

 

「1回試しに触ってからは使ってないんで、何とも」

 

 原作でもかなりの性能を誇っていたその遺物がどうしても欲しかったから、彩葉さんには悪いけど上手いこと調整して狩りを手伝ってもらった。

 

「そうですか、残念……まあかなりピーキーに仕上げましたからね。それこそ本当に『対"例外個体"』と言っても差し支えないですから」

 

 その言葉通り、並のケモノに対しては本当にオーバーキル。デメリットもそれ相応にあるせいでまず普段使いには向いてない。

 

「それにしてもあの高名な例外個体『狩人』! 今でも思い出すだけであの素材を手に取った時の興奮が、うひひ」

 

 不気味な笑い声を上げながら身体を震わせる様はマジで美人台無し。

 

 まあコレクターの情報が大して手に入らないのは想定内。本当の目的はここから。

 春陽が自分から同行を断ってくれたのは良かった、百花さんにチクられると面倒だし。

 

「じゃ、次のお願い。どんな異能でもいいんで、遺物を1つ融通して欲しいんすよ」

「……素材は?」

 

 基本的に工房は物々交換。

 人であれケモノであれ、素材を渡す事で加工後の遺物を貰えるってのが基本。こちらは貴重な品を得る事ができ、あちらはなんか気持ち良くなれるWin-Winの関係。

 

「店売りもしてますよね? 今度とびきりの材料を持ってくるんで、こう……出世払い的な?」

 

 こんなやり取り、ゲームじゃそうはいかない。

 こいつが貴重な素材から遺物を作る事に快感を覚える変態だと分かっているからこそできる、強気な交渉である。

 

「俺、あの『狩人』を持ってきたんですよ。次はもっと凄いの持ってきちゃおっかな〜」

「はあ、仕方ないですね……」

 

 あくまで仕方無し、というようなスタンスではあるが柩さんの目はずっと先の快楽を思い描いて爛々と輝いている。マジで怖い。

 適当に見繕ってもらった遺物の使い方やどんな人間から作ったかとかいう要らない解説を聞き終え、店を出ようとした時。

 

 ドアノブを捻る寸前、ぽんと肩に手を置かれて後ろから囁かれた。

 

「私、いつでも買取準備はできておりますので。貴方様自身も、貴方様の所にいらっしゃるお姉様方も」

 

 大抵の事は許すけど、その言葉だけは素通りさせない。

 

「俺はともかく、次あの人らの事を遺物にするっつったら本気で怒りますよ」

「あら、怖い」

 

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

 工房を出た瞬間、いつの間にか高く登っていた陽に目が眩む。少し汗ばむくらいの日差しを受けてネクタイくらいは緩める事にした。

 近くをぶらぶらしていたのか、少し遠くにいた春陽は俺を見つけると安心したように笑いながらこっちへ走ってくる。

 

「なんか分かった事あったー?」

「何も。でもやっぱりコレクターについて聞きに来る人は多いらしいよ」

「収穫なし、やっぱレイくんの勘は当てになんないね」

「うるさい」

 

 実を言うと、遺物狩りの出現条件を俺は知っている。百花さんには悪いけど、試してみたい事があった。

 原作のボスに今の俺がどのくらい通用するのか。

 

「レイくんさあ、最近暑くてもずっと長袖だよね。見てるだけで鬱陶しいんだけど」

 

 ネクタイを緩めてもワイシャツの袖を捲らない俺を見て、春陽がぱたぱたと手で顔を扇ぐ。

 

「3年目にしてやっとまともに働く気になったからさ。俺こういうの形から入るタイプなんだよね」

 

 まあ嘘なんだけど。

 袖を捲ってみれば、俺の腕はこの半年の間に付いた傷で見られたもんじゃない。左小指だってないし、傍から見たら水生会の下っ端とかそんな感じ。

 俺は別に全然気にしてないけど、わざわざ見苦しい物を見せびらかしたい訳でもないから半袖を着るのはやめた。

 

「あのね。レイくんがどれだけ頑張ってもさ、どうせあたし達の方がずっと強いんだよ?」

「なんだよ、いきなり」

 

 突然そんな喧嘩を売られ、むっとするより困惑が勝つ。

 

「いいじゃん、別に無理しなくたって。ずっと『事務員がいい、事務員がいい』って言ってたのに。最近のレイくん、変だよ」

 

 俺の顔を見る事もなく、隣を歩きながら春陽は俯いた。

 

「俺は別に無理してない。なんて言うか……自分勝手なだけなんだよ」

 

 俺が怖い物は今も昔も変わらない。独りぼっちになる事が怖い。

 

「春陽達に何かあった時に『ああしておけばよかった、こうしておけばよかった』って後悔したくない。そうなるかもしれない事が本当に怖い」

 

 自分が傷付く分には耐えられる。傷だっていつかは治るし、まあ治らない物も……とりあえず生きてはいられる。

 でも大事な誰かを失えば、それはもう取り返しが付かない。

 

「毎日美味しい飯食って、気持ち良く寝る為にやれる事は全部やっておきたい。それだけなんだよ」

 

 異能省や水生会として罪もない誰かを踏み付けながら生きるよりは、俺はこっちがいい。この生活を守る為なら手段は選ばない。

 

「……覚えてる? 初めて話した時にさ、レイくんが私に言ったこと」

「え、俺なんか言ったっけ? って言うか最初のお前、マジで感じ悪かったからな」

 

 そう言い返した途端、春陽は一瞬だけ何故かとても寂しそうな顔をした。

 次の瞬間にはいつもの調子に戻って俺の額を指で弾いたが。

 

「バーカ。本当だめだめだね、そんなんじゃ全然モテないよ?」

 

 恐らく百花さんは、今回の事件を楽に解決できると思っていない。少なくとも相手を生け捕る事はかなり困難だと判断している。

 

 その根拠は俺と春陽を一緒に組ませた、それだけで事足りる。

 

 基本的に春陽が1人の時にあてがわれる仕事は護衛か捕縛、要するに生け捕り。

 百花さんはあいつ1人に、誰かを殺さなければならない仕事をさせない。自分自身か彩葉さん、半年前からは俺を含めて3人の内の誰かが担当するように必ず調整する。

 

 とにかく今回は、一方的に戦闘を組み立てやすい春陽でさえ命の取り合いを強いられると百花さんは考えている。

 

 俺は相手を殺さずに済むなら、なるべくそうしたい。

 でもそれはあくまで希望であって、殺らなきゃ殺られるなら躊躇いを無くそうできる。

 だからこそ百花さんは、普段の俺の態度を甘えだと非難している訳で。

 

 

 もう大体お分かりだろうけど、この地獄を煮詰めたような都市の中で春陽が抱えているディスアドバンテージは大き過ぎる。

 

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

 それは百花さんからある仕事を回してもらった時の事だった。

 あの夜を経て、とにかく実戦経験を積めるような現場を求めていたから一も二もなく飛び付いたのを覚えている。

 

「今回の仕事は目標の殺害。水生会下位団体からの依頼で、組で管理していた遺物を持ち逃げした構成員の粛清及び遺物の回収ね」

「珍しいすね、こういう直球の仕事回してくれるの。嬉しいですけど」

 

 その頃にはもう少々のチンピラなら余裕で制圧できるようになっていたから、積極的に百花さんに「荷物運び以外もやらせてくださいやらせてください」と売り込んでいた。

 まああまり相手にされなかったけど。

 

「私と彩葉は別件で対応しなければならない事があるから」

「ふーん、でも荒事なら俺より春陽の方が向いてるんじゃないですか? あ、今更譲りませんからね!?」

 

 そう戯けた俺の梯子を外すように、百花さんは静かに呟いた。

 

「貴方はできる(殺せる)と知っているから」

 

 事実ではあった。

『したくない』と『できる』は両立する。ましてやこの御時世、死んだ方がいい人間がいる事もよく理解している。

 綺麗事だけで生き延びられるほど、この都市は優しくない。

 

「……ずっと昔に『私達は皆手を汚している』と言ったと思う。あれは少し嘘が混じっているの」

 

 話すべきか話さざるべきか、迷っているようなそんな声色だった。

 

「私や彩葉と違って、春陽は人を殺せない」

 

 初耳だった。でも確かに本編やイベントストーリーでも春陽が誰かを手に掛けている場面は思い浮かばなかった。

 実際一緒に過ごしたこの数年でも、言われてみればその通りかもしれない。

 

「一種のPTSDのような物だと思うのだけれど。殺意を抱く事自体がトリガーになって……まともに行動できなくなる。他の人間に知られると不味いから、くれぐれも口外しないように」

「そう……なんですか。いや、しませんって」

 

 

 伊勢屋について俺が知っていた事はそう多くない。

 

 両親が暴徒に嬲り殺しにされた事。

 それ以来ずっと3人で暮らしてきた事。

 3人ともめちゃくちゃ強い事。

 

 でも俺が来た当初はなんか家族関係最悪だったし、マジで勘弁してほしかった。

 彩葉さんはなんかふらふら夜遊びする上に俺に対して感じ悪かったし、春陽は仕事以外引き篭もってる上に俺に対して感じ悪かったし。

 

 そりゃ鬱陶しい時も、憎たらしい時もあるけれど。

 今の春陽の屈託無い笑顔が、俺は嫌いじゃない。

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レイくんはさ。あたしの側からいなくなったりしないでよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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