ソシャゲ世界って結局中堅勢力が一番良い空気吸ってる 作:しゅないだー
前話に引き続きランダムでQ&Aです!感想には全部目通してます、美味しい……美味しい……
Q.クローン技術ってどんな具合?仮にレイのクローンがあったとしてその臓器を代償に使えるの?義肢や血液パックなんかは?
A.クローン技術自体は使えますが、後のお話の中で出てくる理由によって遺伝子元と全く同じ異能に目覚める事はありません。
レイに関しては義肢の類は代償として不可、クローン臓器に関してはそのままでは不可。
仮にレイが自らの臓器を代償として喪失、その後にクローン臓器を移植、定着後であればまた代償として使えるぞ!コスパは悪いな!
血液パックなどに関してはレイから直接採血したものであれば使えます、ただ代償の質は鮮度などにも左右されるので管理方法に困るかも。
髪の毛なんかは代償としては低コストだけれどその分切った時に小袋に入れておけばいいだけなので楽ですね。
多分、クビ。
というか衝動的に飛び出してきちゃったけど、春陽達はちゃんとご飯を食べているだろうか。放っておいたらあの三姉妹好きな物しか食べないから、ちゃんとまともな物も食べていますように。
「ほし、ってきれいなんだね。はじめてちゃんと見たかも」
「こっちの方は光ってる建物なんかないからさ、よく見えるんだろ」
都市の外れ、崩壊しかけのビル群の一棟でぼんやりと夜空を見つめていた。幸いな事に今の季節は寒くも暑くもない、野宿してもとりあえず問題なし。ちょっとここは血生臭過ぎるけど。
ガキ一人背負い込んで、職なし家なし未来なし。というより世話になったのにこんな形で抜けてしまった事にずきずきと胸が痛む。
後先考えないからこんな事になるんだよな、と手で顔を覆っている俺に気を遣ったのかぽんぽんとアリスが頭を撫でてくる。
「……ごめんなさい」
「俺さ、ビビりの癖にすぐカッとなるんだよ。だからこれも自業自得だし、ビビりだからいざってなったら君置いて逃げるかもな」
だから謝る必要も気にする必要もない、って言いたかったのに。
隣で膝を抱えながら「うん、いいよ」なんて目を伏せて言われるもんだから。もう自己嫌悪しかねえよ、マジで。
切り替えよう。
俺だってまるっきり勝算がないままで事を起こそうとした訳じゃない。
これでも自分でプレイした時には異能省からは逃げ切っていた、まずはそこまで辿り着く。
そもそもこのイベントのバッドエンド率が高いのはクロスタにおいて初イベントだった、というのも大きい。要するに、プレイヤー連中が舐めて掛かってたって訳だ。難易度自体はこれからのイベントや本編に比べれば、まだ易しい方だと言える。
まず、アリスに掛けられた懸賞金自体はさほど高くない。理由は明白、必死になっていると思われたくないから。
ここまで逃げる途中で見た異能省の貼り紙から察するに、今回は『職員の身内が家出して行方不明』というシナリオでやっていくらしい。
俺が群鼠で煙に巻いたあいつらは、自分のミスを叱責されたくなくて報告を怠ったようで非常に好都合だ。
まあうちの社長くらい分かってる人なら怪しむだろうけど、そういう奴らはそもそも端金で異能省の面倒臭そうなネタに首を突っ込みに来ない。
そこを弁えずに律儀に探す、言うなれば御しやすい馬鹿を使って都市に隠れたアリスを炙り出すのが奴らの狙いだろう。
そしてアリス自体には、実はそこまで価値がない事も大きい。
自律して動く"成功した"
特にアリスはイレギュラーでこそあるが、単純な戦力として見れば失敗作。無理に取り返さなければいずれ牙を剥く、という訳でもない。
1週間。
1週間耐え凌げば、異能省はアリスを取り戻すリターンと事を大きくし過ぎるリスクを天秤に掛け、追手を撤退させる。
時間を掛け過ぎる事で水生会や他の有力勢力に怪しまれ、アリスを無理矢理奪取された挙句に
そう割り切れるのは偏に、『都市』で何の後ろ盾もない少女が1週間もまともなままで生き延びられる筈がないという確信があるから。プラントで食料が生産されているとはいえ、ここではちゃんと経済が回っている。一文無しの女の子が辿る末路なんて良くて衰弱死、悪けりゃ薬漬けにされてロリコン趣味の変態共に使い捨てされて終わる。
それに俺が辿り着いた、アリスを死なせてしまったエンドで最後に綴られた意味深な一文。
"アリスはまた作れるから"。
これから考えるに多分……そこまで全力を以てアリスを絶対に捕獲しなきゃって訳じゃないと思うんだよな。そもそもこれの位置付け、世界観を示すチュートリアルだし。
とにかくそこまで行ってたのに、俺は最後の最後で水生会に絡まれてしまった訳で。本当にあいつら頭おかしいんだよ。
しかしこれ1週間耐え切ってもその後がしんどいな、百花さん達が出戻り許してくれる訳もないし。
「悩んでても仕方ないし飯食おう。悪いね、こんな物しかなくて」
有事の為にいつも持ち歩いている味気無い携帯食料を半分に割る。気持ち大きい方をアリスに渡して、もそもそと口に含む。口中の水分を一気に奪うそれは齧っていると何だか物悲しくなってくる。味も薄いしさあ。
「あまくておいしいね」
隣でそう笑う彼女は、本当に心の底からそう思っているようで。
今までどんな物食わされてきたんだ、と考えてげんなりとする。
「もっと美味い物、山程あるよ。上手いこと片付いたら食べに行くか」
「うん」
都市のずっと外れにある廃ビル群、通称『共同墓地』。
都市では火葬場なんてものがないから、死体の処理はどの勢力でも悩ましい問題になっている。一瞬で炭化させられるくらい火力の高い火炎系統の異能力者がいるなら困る事はないけど、中々そうもいかない。
だから大半の奴らは高い金払って『葬儀屋』に頼むか、もしくはこの共同墓地に死体を捨てに来る。
罰当たりな誰かが最初に捨てて以降、何となくで積み重なっていった死体の山。でもこれにもそれなりに合理的な理由があるんだよな。まあ、それというのも。
ケモノ。
ウイルスに身も心も侵食され切った、人間の成れの果て。
異能ってのはウイルスによって齎された力だから、理性こそ失ってても並の人間なんかより遥かに脅威だ。なんせ歯止めが効かない訳だから。
思考も何もないまま、目に入る物を食い散らかす。好物は屍肉。
死体を喰らいにくるケモノがここに溜まるお陰で、逆に奴らが都市の中心部まで入り込むのを防いでいるという役割もある。
かと言ってずっと放置してれば、そのうち共同墓地を越えてこちら側まで来る可能性があるから定期的に各勢力が持ち回りで掃討している。それにケモノから得られる素材が異能省の研究に使われるとか何とかで結構高値で買い取ってもらえたりもするし、ゲーム内でもレイドイベントとして実装されていたくらいだ。
まあうちの
まずは1週間逃げ切るにあたって、この共同墓地を選んだのは彩葉さんの動向を聞いてたってのが大きい。共同墓地にはケモノが溜まるが、それ故にまともな人間は殆ど近付かない。異能省の連中だってわざわざこんな所を探さない。
でも彩葉さんがこの辺りのケモノを根こそぎ狩ってるんなら、ここは限りなく安全な潜伏場所と言える。そして何もしていなくても微かに匂い立つ血生臭さ、恐らく狩りが終わった後だ。
しかしこうも定期的に狩ってる筈なのに、一体何処から湧いてくるのかたまに不思議になる。
悍ましい話だが、ケモノ同士で交尾してるんじゃないかって説もある。実際人が変異したケモノってのはどこか人間の面影を残しているものだけれど。
最近結構いるらしいんだよな、明らかに人の範疇を越えた──。
「ねえ、あれ、なに?」
ぼーっとそんな事を考えていると、アリスに袖を引かれた。
皮が剥がれ落ち、筋肉が露出した顔は表情などない筈なのに何処か笑っているようにも見えた。最早それが人間ではない事を示すかの如く、それは四つ足でこちらに近付いていた。ひたり、ひたりと音を立てながら。
身体から幾本も突き出した触手は漏斗のような奇妙な形をしながらも、悪臭を放つ粘液を滴らせている。
ケモノだ。
彩葉さんが狩り残したのか新たにやってきたのか、いやそんな事はどうだっていい。
「やべえ、逃げ────」
アリスを抱き抱えて走り出そうとした時。触手がケモノの後方に集まり、
次の瞬間。
強烈な破裂音と共に、異常な速度で壁に叩き付けられた。気付いた時には壁際にがっちりとケモノが俺を抑え込んでいる、何が起こったか考える余裕なんてない。
「ごほ、げ、痛ッ……てえ!?もげるもげるもげる!!」
「ひっ、やだ、やだやだやぁ!!」
牙のように鋭く尖った犬歯がみしりと音を立てて、咄嗟に差し込んだ俺の左腕に食い込んでいる。右腕は恐怖で泣き叫びながら暴れるアリスを抑えておくのに忙しい。この一匹以外にもケモノがいるかもしれない、下手に逸れられたらそれこそどうにもできなくなる。
「大丈夫!大丈夫だから……!」
脂汗を垂らしながら、顎の辺りに全力を込めて蹴りを入れる。
ぶちり、と嫌な音がした。バランスを崩したのか、相手が後方に少しよろけた隙を縫って壁際から脱出する。
ケモノの口から垂れ下がっているのは、多分俺の腕の肉。噛み千切られたそれが、さっきまで自分の一部分だったとは到底思いたくなかった。
もう痛みもクソもない、ただ訳も分からないくらい左腕と頭が熱い。
「
良い感じの名前が思い付かない、もうこの際適当で良い。感覚のない左腕を何とか上げて、そのまま後ろの壁に思い切り叩き付けた。アリスのバフがあるならいけるはず、イメージするのは即効性のある一撃。馬鹿が、誰を食ったか分からせてやる。
くちゃくちゃ、と音を立てながら俺の肉を嚥下しつつ再び突進してくるケモノへ叫んだ。
「
腹部から喉元を裂くように、瞬間的に急成長した青竹がケモノの身体から飛び出す。それはまるでその異形の身体を串刺しにするかの如く、床と天井にめり込んだ。
ぴくぴくと痙攣しながら身を捩らせども、もはや身体の自由が利かなくなったケモノを見てどさりと腰を下ろす。
「あー……血が勿体無い。元々どんなもんか知らねえけど、空気を貯めて噴出する高速移動とかそんな感じの異能かな」
ケモノの形状や能力は、元の人間の異能によって左右される。恐ろしい事に、大概の異能はケモノと化した時の方が強力。まあウイルスの力が増してるって考えればそれはそうなんだけど。
「こ、これ、いたくないの?」
「いやめちゃくちゃ痛いけど。ちょっとこっち持っててくれる?」
服を引き裂き、おっかなびっくりのアリスの手を借りながら簡易包帯として左腕に巻き付ける。しばらく使い物にならねえなこれ。
この異能で良かった点を唯一上げるなら、痛みに多少耐性が付いた所だと思う。
異音に気付いてふと視線をやると、触手が俺の方を向いていた。今更何ができるんだよ、磔にされてる癖に。送風機代わりにでもなってくれるんだろうか、まあちょっと汗かいちゃったから丁度良いや。そんなアホな事を考えていた時、ある可能性に思い至る。
空気を吐くなら、当然吸う事もできるんじゃねえの?
そう気付いた瞬間、身体が宙に浮いた。
咄嗟にアリスを突き飛ばしたはいいものの、そのせいで僅かに反応が遅れ、懐に忍ばせていたナイフを取り落としてしまう。伸ばされた触手は俺の喉に絡まり、瞬時に収縮する。
「ぐ、が、本当……に……俺、進歩、な……!」
このままじゃ絞め殺される。代償、自傷、探さない、と。
ままならない呼吸が思考の選択肢を刈り取るように狭めていく。なんで俺の異能ってこう面倒臭え、ぱっとやってどーんみたいなので良かったのに……!
「ケモノとやる時はねぇ」
朦朧とする意識の中、声がした。
「首を落とすか」
頭上を何かが掠める。それと同時に、ケモノが俺を取り落とす。地面に這い蹲ったまま咳き込む俺のすぐ近くに、何かがべちゃりと音を立てて落ちた。霞む視界に映ったのは、ケモノの生首。思わず「ひぃ」なんて声を上げながら飛び退った。
「頭部を完全に破壊する。何回も教えたのに、もう」
声の主はそのまま雪駄で、転がるケモノの頭を踏み砕く。
「……彩葉さん〜!」
息も絶え絶えになりながら、思わずほっとして声の主に縋り付く。
彼女が振り抜いた左腕は、巨大な鎌のような歪な形をしていた。
異能『
伊勢屋彩葉の持つ、自身の肉体を部分的に人ならざるものに変化させる異能力。
その靭やかな手は大鎌に、人形のような端正な顔は獣を彷彿とさせる異形の
ゲーム中では癖があるものの長射程、高い攻撃力、そしてそれ以上に特徴的なケモノ特攻で一定の地位を獲得していたトリッキーなアタッカー。
そのグロテスクでありながらも荘厳な造形美は、特殊な性癖をお持ちの方々に大変ウケが良かった。
まあ素で彩葉さん可愛いし。
「それにしてもこんな所まで来て、どうしたの。自殺するにしてももっと良い場所があるよぉ」
ふふふと微笑む彼女に「洒落になってないです」と言いながらも、どう説明しようかと顔が暗くなる。
まあ、取り繕っても仕方ないか。ここに至るまでの経緯を掻い摘んで話す。
たまたまアリスと出会った事。アリスが異能省に追われている事。百花さんに異能省に引き渡せと言われた事。それブッチしてここに潜んだ事。
「ふむふむ、なるほど。つまり礼ちゃんは百花ちゃんの言いつけを破った。つまり私達3人より、この子を選んだって事だねぇ」
「ぐ、それは……その……こう……」
ろくろを回しながら何とか弁解しようとしたけど何も思い付かない、誰かのせいにしたいが間違いなく自分のせい。がっくりと項垂れながら「すみません……」と呟くので精一杯だった。
「でもねぇ。私も、百花ちゃんも、春ちゃんも。礼ちゃんのそういう所、嫌いじゃないよ?」
「ははは、またまた。裏切り者っすよ、俺」
いや、本当に。めちゃくちゃ怒ってるだろうなあ、二人とも。
「礼ちゃんは臆病なのに短気で、思慮も浅いけど」
「悪口しか言ってないですよね?」
「本当の事だよぉ」
もうフィジカルだけでなくメンタルもぼこぼこであった。
「でも助けちゃったんでしょ、その子。百花ちゃんのお気には召さなかったみたいだけど、私は礼ちゃんのとっても良い所だと思うな」
そんな風に言われるなんて思ってもみなかったから、どうも居心地が悪い。
「強くあるだけなら誰でもできる。でも優しいままでいるって難しいんだぁ、擦り切れちゃうから。私みたいに」
彩葉さんは、ゲーム内でも三姉妹の中で深堀りされる事がなかった。だからこの人がどんな物を抱えているのか、俺も知らない。
「だから君は、私達にとって……そうだね」
そう言うと顎に手を添えて、少し考えた後で。
「外付けの人間性、かな」
だから礼ちゃんはそのままでいてね、と。
彩葉さんはそう笑った。
「アリスちゃんは、礼ちゃんの事どう思う?」
「すき」
「そっか〜」
慈しむようにアリスの頬を撫でた後、彩葉さんは俺の目をじっと見つめた。
「礼ちゃん。どうにかなると思ったから、今こうしてるんでしょ?」
こくりと頷く。
「助けが必要だったらすぐに呼ぶんだよ。百花ちゃんなんてきっとすぐ飛んでくるから」
「……はい」
余ってた食料と水置いてったげるね、と彼女は言いながら。
「私は百花ちゃんが一番だからこれ以上の手助けはできない。けど、応援してるね」
そう言い残して席を立つ彩葉さんを呼び止める。これは自分なりの覚悟でもあった。
「あの。百花さんに『辞めます』って言っといてもらえませんか。俺がしくじった時、迷惑掛けるのも嫌なんで」
「それはお断りだねぇ」
ぴしゃりと一蹴される、これでも結構覚悟して言ったのに。
「大事な事は、自分の口から言わなくちゃ。そもそも辞めさせてもらえないよぉ。こんな勝手な事して、何年タダ働きかな?」
悪戯っぽく微笑みながら投げられたその言葉に、どこか救われたような気がした。
「そりゃそうすね」
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「こんなガキが異能省の最重要機密、ね。俺じゃなきゃ笑い飛ばしてるぞ、しかも生け捕りじゃなくて"死体"が欲しいって……」
そう言いながら、男はアリスの顔が印刷された張り紙を無造作に机の上に投げ捨てた。この時世には不釣り合いな豪華絢爛な調度品が、男の地位を物語っている。
「お前、個人的に俺の預りってだけで水生会とは何の関係もないからな。兵隊だってそんなに貸せねえ、まあ木偶……10匹って所だな」
相対する女を一言で表すならば、"黒"だった。
黒髪、黒目。仕立てこそ良いものの、モノトーンでまとめられたシンプルな衣服はその特徴も相まって女の印象を蜃気楼のようにぼやかす。
男の目には、覗き込めば転がり落ちてしまいそうな印象を受ける、暗く塗り潰されたような瞳だけが映っている。
「あら、貸して頂いても私の異能は使い切りですよ?」
「どうせ無駄飯食らいの集まりだ、元々要らねえ。でも原価が掛かってるしな、成果で返せ」
男は神経質そうに机を指で叩く。
「で、いつ動く。
「うーん……多少の誤差はあるでしょうが、まあ1週間という所ですね。誰か分からないですけれど、アリスを匿っている人がいるみたいですし。でも私の予想が正しければ、1週間で動き始めますよ」
のんびりとした口調で話す女に苛立ちを隠そうともせず、舌打ちした。
「ふわふわとした予言じみた事ばっか言いやがって。小競り合いとは言えど、異能省と戦るかもしれないのに緊張感ねえよなァ?」
「本当に怖い人達が出てくるのはこれからですよ、今はまだ肩慣らし。役者が揃うにはまだ少し、早過ぎます」
女は笑いながら呟く。
だってこんなの、ただの"チュートリアル"ですもの。