ソシャゲ世界って結局中堅勢力が一番良い空気吸ってる 作:しゅないだー
ランダムQ&Aでーす!
Q.プレイアブルが死ぬって事はテコ入れとか年間行事派生とかないの?
A.あります!
実際ロストしてもユニットとしては使う方法があるので、性能自体はテコ入れや調整される事も勿論あります。
『Hello,Alice!』のような本編に関わってくるイベントだけではなく、過去の時系列をイベントにしたものや学パロIFなど胡乱なイベントもあり、陰鬱な本編の清涼剤にもなっています。水着もあるよ!
多くのプレイヤーからは「走馬灯」やら「胡蝶の夢」やら「でも、そうはならなかった」なんて言われているのは内緒だ!
格が違う。
因幡はまだ何とか動いている道化を盾にしながら、身に付けている装飾品などをケモノに変えて百花さんに向かわせているものの、俺の猟犬すら圧倒できない程度のケモノでは何匹生み出しても一緒だった。
蹴りの一撃、拳の一発でそれらを破壊しながら、あまつさえ飛び散る死肉や骨の破片を正確なコントロールで因幡や道化にぶち当てている。警戒を怠らず、俺達を庇うように守りに徹しながらも傷付いているのは終始相手の方で。
因幡の方が攻勢を掛けているように見えながらも、この場を完全に掌握しているのは百花さんだった。
だが追い詰められながらも、因幡の目はまだ死んでいないのが気に障る。明らかにもう打つ手はない筈なのに、何も諦めていないのが不気味だった。
まだ絶対何かある、それは一種の信頼にも近かったかもしれない。
あいつが俺と同じ転生者なら。そして言葉の通り、水生会なら。
『Hello,Alice!』の死神、"
もう立ち上がるのは無理だと分かっている、足に力が入らない。でも、まだ指は動く。口も動く。心配そうに俺の側を離れないアリスの頭を撫でて笑ってみせる。
「悪いけど、あと1回だけ力貸してくれ。もう少しだけ頑張ってみるから」
こくりと頷くアリスが、そっと俺の手を握った。
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『Hello,Alice!』において、死神と例えられているキャラが1人。
水生会所属の
人差し指と中指を伸ばし、親指を起こす事で拳銃のような形となった手で触れた物を弾丸と定義し発射する異能である。
シンプルが故に、その出力は非常に高い。その辺りに転がっている石ですら必殺の凶器にできると考えれば、いかにその異能が人を殺す事に特化しているか分かるだろう。
ゲーム中では『Hello,Alice!』でのとある生存ルート、その最後の関門とも言える水生会戦で登場する。と言ってもキャラクターとしてではなく、その在り方はギミックに近い。
一定の割合まで相手ボスのHPを削ると、不可避の一撃がパーティーを半壊させる。特に
前もってタンクや回避盾で慎重にヘイトを管理しておかなければ攻め手を潰され、ずるずると長期戦に引きずり込まれる。かと言って生半可なキャラではそもそも受けられない。
ただでさえ初期イベントという事もあり、編成も大して練る事ができないような段階で確実に主力のキャラクターを初見殺しで奪っていく様は正しく死神の言葉に相応しい。
「伊勢屋の長女が来るってのは聞いてないが、まあ元より一発だけの契約だしな。殺れるなら、それもそれで面白い」
荒野の一角で、そうのんびりと男は呟いた。
双眼鏡を覗きながら、涼し気な顔で百花の頭部にその照準を向けた。その手は数mはある鉄柱に添えられている。弾丸と呼ぶには、それはあまりにも似つかわしくなかった。仮にもし、それが銃弾と同じ速度で発射されたならば大型のケモノですら容易に貫通するだろう。
撃ちなさい、と叫ぶ声が聞こえると同時に男は引き金を引く。銃身も、火薬もいらない。男自身が、一つの銃と呼んでもいい。
物理法則を無視して銃弾の如く飛ぶ鉄柱が超高速で撃ち出され、目標へ向けて牙を剥く。空気抵抗なども緻密に計算されたそれは、確かに標的へ届いた。その顛末を見届けた後、男は大きく欠伸する。
「さて、帰るか」
首筋を掻きながら男は都市の方へのんびりと歩を進め、振り返る事はなかった。
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まだ何も終わっていない。
生み出すそばからケモノを潰されながらも、因幡はその言葉で自身を鼓舞し続けていた。まだ自分には奥の手がある。けれどそれを最大限に活かすには、ぎりぎりまでこの怪物を引き付ける必要があった。
手刀の風圧だけで小型のケモノを地にめり込ませ、無力化するような怪物を。
「
因幡の声に呼応して、瀕死の道化が腹部を自らの手で引き裂いた。勢い良く降り掛かる鮮血が、煙幕のように百花の視界を塞ぐ。それは己の命を賭して打ち上げる花火のようでもあった。
粘り気のある血液が僅かに百花の動きを鈍らせる。
「撃ちなさい!」
視覚は奪っている、相手はそもそも攻撃の存在すら認知できない。この状況からは流石の伊勢屋でも避ける事も防ぐ事もできない、確実に屠れる。
目の前の怪物さえ殺せば、後に残っているのは自分で戦う力のない少女に死にかけの男一人。
撃て、という声とほぼ同時に、悲鳴にも似た風切り音が荒野に響く。
唸りを上げて飛んでくる鉄柱が百花の脳髄をぶちまける光景を今か今かと待ち望んでいた、その時。
「────
鮮やかな赤の付いた何かが宙に舞う。剥がれた親指の……爪?
咄嗟に因幡が目を向けた先には口で無理矢理爪を剥がしたのか、親指を赤く染めた礼の姿があった。
爪を何かに変化させようとしているのだろう。だが熊だろうが狼だろうが、どんな屈強な獣を生み出そうともあの鉄柱は容易くそれを貫通して伊勢屋百花に致命傷を与える。
「弾け、
その言葉に呼応して、爪が歪に姿を変える。
それは因幡の目にはアルマジロのようにも、ハリネズミのようにも映った。一目見ただけで分かる、背中に据え付けられた甲羅のような硬い外皮。アルマジロは銃弾すら弾いた記録が残っている。なら、アリスのバフを受けて防弾に特化したそれは。
端から受けるつもりはなく、ただ少しだけ軌道を変える。それが相手の狙いだと気付いた時には、もう遅かった。
「烏丸礼……!」
目の前の怪物の頭部をぶち抜く筈だった鉄柱が、それに弾かれて僅かに軌道を変える。百花の頬を掠めて飛んでいった鉄柱は、轟音と共に遥か後方の岩を砕いて土煙を上げた。
顔にべったりと付いた血を拭った百花の瞳は、月の光を受けて爛々と輝いていた。一度意識させてしまえば、この化け物にもう二の矢は通じない。
恐らく"
詰み。
そんな言葉が、因幡の頭を過ぎった。赤黒く染まった拳が妙にスローモーションで迫る中、「何故?」という言葉が彼女の脳内で何度も繰り返される。
完璧だった。私の方が優れていた。私の方が強かった。私の方がずっと準備していた。
荒野で待ち伏せしていた段階では、確実に彼一人で。目に見える人数差、水生会という巨大なバック。戦わずともアリスを彼が手放すのは自明の理だった筈なのに。
仮に戦ったとしても、異能においてはずっと私の方が優れていた。
私と彼で、何が違った?
「────ッ、君でさえなければ……!」
閃光にも似た衝撃が、因幡の脳を揺らした。
百花さんが因幡の顔面に拳をねじ込む。何かが砕け散る不愉快な音と共に大量の血液を撒き散らしながら、何度も身体を地面に打ち付けつつ数回転してやっと止まった。飛び出した左眼球があまりにも痛々しく、思わず目を瞑りかける。
「あんたの思い通りになる事なんて、ここには何一つねえよ」
ぴくりとも動かない因幡には多分聞こえていないだろうけど、どうしても言ってやりたかったから。
安心したからか、力がどっと抜ける。もうさっきから痛みを通り越して、寒いし眠い。
そんな俺に気が付いたのか、急いで百花さんが駆け寄ってくる。目を開けなさい、と掛けられる声に返事する事すら億劫だった。
でもここまで焦った顔の彼女は初めて見るような気がする、嫌だな。
百花さんは強くて、いつも冷静で、格好良いんだからさ。
寒気と眠気に身を任せるまま、意識を手放した。
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目が覚めたら、そこは見慣れたベッドの上で。なんだか長い夢を見ていたような気がした。
「痛つつつつ……!?」
全身を刺し貫くかのような痛みに身悶えしながらも、これまでの事が現実だったのだと理解する。布団に隠れていた左手を出してみれば、小指が欠けていた。不思議と何の感慨も湧いてこなかった。
「それはそれとして
下らない事を呟きながら窓の外を見る。月明かりが差し込んで少し眩しい。傷の具合からして多分数日は経っているだろう、生きてるだけ儲けものだ。違う、そんな事はどうでもいい。
多分俺の事は百花さんが連れて帰って来たんだろうけど、アリスはどこにいる?百花さんはそもそも異能省に引き渡せって言ってたくらいだし、投げている可能性もある。
身体は痛むが、何とか動かせる。傷付く事を前提にしている異能の副作用か知らないが、人よりも傷の治りは少しだけ早い。何とか布団から這い出して、立ち上がろうとした時。
部屋が暗くて気付かなかったが、ベッドの横に置かれた椅子に誰かが座っていた。
「ん……え、あ、レイくん起きてる!?っていうか、生きてる……?」
今まで座りながら船を漕いでいたのか、少しまだ眠たそうな表情で俺の顔を春陽がぺたぺたと触ってきた。幽霊に見えるかよ、と言いながら手で払い除ける。
「格好付けて出てったのにぼっこぼこにされて。結局お姉ちゃんに助けてもらったんだよね、ぷぷぷ」
何か言い返したいが1から10まで事実なので何も言えない。というかそもそも言い返す気力もろくになかった。
「生きてるだけラッキーだよ、マジで。それよりアリスどこにいるか知らない?あの金髪の女の子だよ」
「本当バカみたい、知らない女の子の為にそんな死にかけちゃって、あはは」
俺の質問に答える事もなく、可笑しそうに笑い続ける春陽にうんざりとする。まあ本当に傍から見ればバカみたいだから何も言い返せないけど。正論で人を殴り続けるのって犯罪に当たるんじゃないか。
「私達より、あの子の方が大事だったんだ?」
一頻り笑い終えた後で、目尻に溜まった雫を拭いながら春陽がそう呟く。
「春陽お前、いくら何でもそんな言い方──」
アリスがどこかで聞いていたら流石に良くないだろう。
らしくない事言うなよ、と窘めようとして目の前の異常に気付く。
「知らない、レイくんなんかどっか行っちゃえば良かったのに。バカ、アホ」
悪態をつきながら、ぽろぽろと涙を溢している。嘘だろ、マジで勘弁してくれ。
「え、ちょ、どうしたんだよ……」
完全に絵面で言えば俺が悪い。けど分からない分からない、俺そんな泣かせるような事したかなあ!?
「……嘘だよ。そんな事思ってないよ。あの子が悪くない事も分かってるもん」
しゃくり上げながらそう呟く春陽に「知ってる知ってる」と言うしかなかった。生意気ではあるけど、別に心の底から腐ってる訳じゃない。それくらい知ってる。
「もう、どこにも行かないでよ。私の知らない所で、いなくなったりしないで」
「……分かったよ、ごめんって」
どうしたものか悩んだ末、子供をあやすように春陽の背中をさする。
嗚咽交じりでベッドに顔を埋める彼女が泣き疲れて眠るまで、ずっとそうしていた。
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椅子に座ったまま眠ってしまった春陽に毛布を掛け、そっと部屋を出る。
ゆっくりと階段を降りるのも一苦労で、年老いたらいずれは常にこんな感じになるのかもしれない。
「おっと、おはよう。でも今寝付いたばかりだから静かに、ね」
明かりを消されたリビングで、寝息を立てているアリスを抱きながらロッキングチェアに腰掛けている彩葉さんの姿を見て胸を撫で下ろす。流石に百花さんも放っておかずに連れて帰ってきてくれたらしい。
「随分男前になったねぇ、春ちゃんを泣かせるなんて」
「揶揄うのやめてください、傷よりあっちの方がよっぽどキツいですよ」
百花さん程ではないけど、彩葉さんも異能の影響で普通の人間よりもずっと感覚が鋭い。恐らくさっきの会話も大体筒抜けだ。
「許してあげてね。礼ちゃんが帰ってきてから3日は経ってるけど、春ちゃんずっと隣にいたんだよ」
「え、そうなんですか」
「そうだよぉ、百花ちゃんが探しに行ってる時もずっと『レイくん死んじゃってたらどうしよう……』ってずっとおろおろしてたんだから」
いつもくすくす笑いながら俺をあの手この手で引っ掛けようとしてくる姿と、その光景が重なり合わず首を傾げる。けどそんなに心配していたのか、と思うとさっきの取り乱し方も少し納得できるような気がした。
「家族が知らない間にいなくなるって、あの子にとってはトラウマだから」
そう遠くを見つめる彩葉さんに、深くは突っ込んで聞けなかった。なんと言っていいか分からず、沈黙がリビングに充満する。
再び口火を切ったのは彩葉さんだった。
「あの時、礼ちゃんを連れ戻しておけば良かったのかなと思ってね。無理矢理にでもそうしてれば、そんなに傷付く事もなかったでしょ?」
いつものようにのんびりとした口調の中に、少しだけ後悔が混じっているような。そんな声色だった。だからという訳ではないけれど。
「こんな事言ったら二人にはぶん殴られそうだから彩葉さんにしか言いませんけど。割と今、悪くない気分っす」
そう言ってにやりと笑ってみせた。強がりも混じってるけど、実際それは本心でもある。ここまで来たからこそ、気付けた事もあった。
「そうだねぇ、言わない方が無難だね。でも良い顔になったんじゃない?」
そう返しながら、彩葉さんも口角を上げている。この人の腹の底も中々読めないな。
「さ、百花ちゃんもお待ちだからね。行ってあげなよ、多分まだ起きてると思うから」
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扉をノックすると、風呂上がりだったのかいつもまとめている髪を下ろした百花さんが顔を覗かせた。特に表情を変える訳でもなく、部屋に入るように促される。
裁判所に出頭する被告人のような気分だった。
「座りなさい」
痛む身体に鞭打ちながら何とか正座の形を取る。百花さんと話す時って何故か正座してばかりなんだよな、そろそろ生き方を見直すべきかもしれない。
「椅子に座れば良いと思うのだけれど?」
不思議そうに首を傾げながら椅子を指差す百花さんに、両手で固辞する。
「いや、このままでお願いします……」
反省の意を全身で示すべく、本当なら五体投地でもしたい所ではある。客観的に見て、俺は住み込みで働かせて頂いている上司の命令を思いっ切り破った挙句、その上司に命を助けてもらったどうしようもない人間な訳で。
「今回は本当に申し訳ございませんでした……如何なる制裁も受けますので……」
まあ、普通に考えてクビ。
「そうね。部屋の荷物をまとめなさい」
だよね、と頷きながら「今までお世話になりました」と頭を下げる。彩葉さんは「やめさせてもらえない」なんて言ってたけど、百花さんは冷徹なリアリストである事だし。
せめてアリスだけでも預かってもらえないかとは思うけど、まず無理だろう。でも異能省が本当に捜索打ち切ってるならどうとでもなるし、どっか働き口探すか〜と次の事を考えていると。
何を勘違いしているのか、という眼差しを百花さんにぶつけられた。
「アリスだったかしら、あの子を引き受けるんでしょう?曲がりなりにも女の子なんだから貴方と同じ部屋というのも可哀想じゃない」
そう言われれば、そうなんだけども。
「え……良いんですか?」
「理由は知らないけれど、異能省も本腰を入れて探す気がないようだから。それに駄目だと言っても、どうせ貴方は見捨てられないんでしょう?」
恐る恐る頷く。ここまで来ると、後が怖い。もうやらかし具合で言えばとっくにスリーアウトな訳で、いつ見捨てられてもおかしくない。思い切って聞いてみるかと、口を開く。
「あの……なんで俺にここまでしてくれるんですか?」
「それは貴方が……私の従業員だから」
そう言った後、珍しく笑いながら百花さんが首を振る。
「簡単なお使いもできないし、従業員からは格下げね。次からは私の……そうね、飼い犬とでもしておきましょうか」
犬っころ扱いかよ、そもそも答えになってないし。
「そう言えば俺の部屋をアリスに明け渡すんですよね。じゃあ俺はどこでこれから暮らせばいいんですか」
「物置が空いてるから、片付けて使ってもいいわ」
犬小屋の方がマシかもしれないな、と思いながらも不承不承頷く。それにしても一度座ると立つのも重労働だ。
気合を入れて立ち上がろうとした時、百花さんが俺の顔を覗き込むように座った。そのまま伸ばされた手が、因幡のケモノに付けられた俺の頬の傷に触れる。
「……痛む?」
「え、あ、はい」
それきり百花さんは何も言わずに、俺の頬の傷を撫でていた。
何だかこそばゆくはあるが、その手がとても温かくて、悪い気はしなかったから。
俺は、自分が思っているよりもずっと。
大事にされていたのかもしれない。
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彩葉さんも部屋に戻ったのだろう、誰もいないリビングで一息つく。廃ビル群の硬いコンクリートの上でずっと過ごしていたからか、使い慣れたソファですら何だかふわふわとして落ち着かない。
「……強かったな」
別に否定も肯定もしない。
あるのは結果だけで、あいつが引いたカードより俺が引いたカードの方がたまたま強かっただけだ。それはそれとして、あいつは明らかに俺よりも強かった。そしてこの世界において強さってのは、選べる選択肢の多さに直結している。
俺が今、アリスを失う事もなく何とか生きて帰れたのは本当に薄氷を踏むような、針の穴に糸を通すような細い可能性を手繰った産物。
山札を切り直してもう一度勝負の席に付けば、俺は死体になっているかもしれない。
「でもやっぱり、ここはゲームじゃないよ」
ゲームじゃないから「もしも」はない。やり直しは利かない。
でも、あそこで俺がもし"
百花さんの頭にあの鉄柱がぶっ刺さって、俺も彼女もアリスもここにいなかったかもしれない。本当にたまたまだ。俺が選ぼうと思って、選べた結末じゃない。
クロノスタシスは選択の積み重ねだ。でも、この世界で何かを選ぶ権利は強者にしかない。
強くなりたい。心の底からそう思った。