デュエル・マスターズ Aoharu Revolution   作:カレーパンパフェ

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アビドス史上最大のピンチ!? 私たちの学校を守れっ!!!

 対策委員会の会議は、混沌とした状況にあった。

 理事が話していた「宝物を探す」という目的の真偽、来週までに返済する義務のある3億円、3億円を乗り越えることができたとしても、毎月9000万の利子返済が待っている。

 絶望的な状況下で会議が紛糾する。全員がヒートアップするなか、ホシノはみんなの頭を冷やすために会議を明日まで中断することを宣言したのだった。

 

「解散、解散。一回頭を冷やして、また明日考えようよ~」

 

「そうだな。みんな、今日はいったん解散ってことで。……それと、諦めるにはまだはえぇぞ」

 

 ホシノに続いて発言する勝太。

 無責任に聞こえるかもしれないその言葉は、しかし確かな重みを伴っている。

 

「『もう一週間しかねぇ』じゃなくて、『まだ一週間残ってる』って考えた方がいい。あのロボット野郎が一週間くれたのは勝者の余裕って奴だろうが……余裕ぶってる奴ほどどっかで必ずぼろを出す。俺もカイザーの内情とか探るし、伝手もたどってみる。俺もできる限りのことはするつもりだから、みんなも諦めないでほしいんだ」

 

 具体的な解決策は提示できていないから、ふざけたこと言うな、くらいの反発を覚悟していた勝太。

 しかし予想に反して、対策委員会の面々は勝太の方を見てしっかりとうなづいてくれた。

 彼女たちは何も言わなかったが、勝太の思いは伝わったようだ。

 それは果たして「シャーレの先生」への信頼なのか、それとも「切札勝太」を信頼してくれているのかはわからなかったが、俺の気持ちが伝わったならそれでいい、と勝太は思ったのだった。

 

 ノノミやセリカ、アヤネは帰宅し、部室には勝太とシロコ、ホシノが残された。

 ホシノは大体の事情を察し、遠回しに先生とシロコを帰らせようとした。

 そこでシロコはホシノとの対話を勝太に任せ、帰宅したのだった。

 

「うへぇ、アイコンタクトで意思疎通できるくらいの仲になったなんて……。先生とシロコちゃんがそこまで仲良しになってたなんて、おじさん知らなかったよ」

 

「まあ、もろもろ片付いたらデッキ構築手伝う約束してるしな。それもあって一番会話が多いのはシロコかもしれねぇ」

 

「カードゲームかぁ……。おじさん若い子の趣味にはついていけそうにもないからなぁ」

 

「そうとは言わずにやってみてほしいけどなぁ」

 

 ホシノはその話題をまだ引っ張ろうとしたが、強引に流れを変えて勝太が切り出した。

 机の上に、例の書類を叩きつける。

 

「単刀直入に聞くぞ。ホシノ、これはなんだ?」

 

 名前の欄に小鳥遊ホシノと書かれた、退部・退会届。

 シロコが盗ったのをすでに察していたホシノは特に驚きはせず、「シロコが盗った」という点に論点をすり替えようとしたのだが。

 

「シロコのことは後で叱っとく。いまはお前と話したいんだよ、ホシノ」

 

「うへ~。おじさんと二人っきりで話したいだなんて……。先生も隅に置けないねぇ」

 

「俺妻子持ちだぞ。……じゃなくて」

 

 今までこのように話をはぐらかすことが多かったのだろう、ホシノの処世術は見事なものだった。

 そこで勝太は何も言わず、じーっとホシノを見つめ続けることにした。

 曇りなき真剣な眼。そこからは、本気でホシノを心配する気持ちが読み取れた。

 最初はいつもの調子で照れちゃうよ~とか言っていたホシノだったが、勝太は無反応だ。

 このままはぐらかしても埒が明かないと思ったのか、さすがに勝太に悪いと思ったのか、ホシノは案外すぐに折れた。

 月明りが照らす廊下を2人で歩きながら、ホシノが話し始めた。

 学校のことを砂っぽい、不便、全てがめちゃくちゃ、と評しながらも、勝太はホシノがアビドスを本当に大事に想っているとだと知ることが出来た。

 それから、後輩たちのことも。

 そこから話は変わり、ホシノが2年前からカイザーコーポレーションに勧誘を受けていることを知った。

 勝太が遭遇した理事に加え、「黒服」という謎の存在も関わっているらしい。

 

「……この間、風紀委員長ちゃんたちが来た日があったでしょう? あのときも私は黒服のところに行ってたんだ」

 

「それでアヤネがいくら連絡しても返事がなかったのか」

 

「それについてはアヤネちゃんに申し訳ない気持ちでいっぱいだよ~。…………実はね、あの日、状況が変わったんだ。ジェンドルが、私の前に現れたんだよ」

 

「―――っ!? なんだって!?」

 

 まさかホシノの口からジェンドルの名前が出てくると思わなかった勝太は、驚愕で目を見開いた。

 

「あいつが提示してきたのは――――――私を自分の仲間に引き入れること。キヴォトスを征服するのに、人手が欲しいんだって」

 

 本当は実験体になることを要求されたホシノだったが、さすがにそこは伏せた。

 他人に聞かせるにはあまりにもショッキングなワードだ。

 勝太はホシノの言葉に一瞬間が空いたのが気になったが、とりあえずはスルーした。

 

「見返りは、アビドスの借金の全額返済。それから、あいつのつくる『新世界』とやらでの、他の委員会メンバーの身の安全」

 

「そんな約束、あいつが本気で守ると思ってるのか?」

 

 こちらが油断している隙を狙って、ドルファディロムに攻撃させるような卑劣な奴だ。

 そんな口約束を守るような、誠実なやつとは到底思えない。

 

「それに、仮にその約束が本当だったとしても、シロコたちの気持ちはどうなる?」

 

「…………それは大丈夫だよ。あの子たちは、先生が思ってるほど弱くない。私がいなくなったって、きっと―――」

 

「ふざけんな!!! お前の犠牲の上に成り立った平和を、あいつらが望むと本気で思ってるのかよ!!!」

 

 勝太は思わずホシノを怒鳴りつけてしまった。

 心のどこかでまずいと思ったが、それでもあふれ出てくる言葉は止められない。

 だって、勝太はこの目で見てきたのだ。

 シロコたち後輩が、ホシノをどれだけ慕っているのかを。彼らと交流した期間が短い自分でもそう思うのだ。その信頼はよっぽどのものだろう。

 なんのかんの言って、ホシノの存在は後輩たちの心の支えになっているはずだ。じゃあ、その支えがなくなったら――――――。

 

「……心配かけてごめんね、先生。―――いっときの、気の迷いだったんだ」

 

 ホシノは先生の手から退部届をひったくると、ぐしゃぐしゃに丸めてゴミ箱に投げ捨てた。

 

「これでこの話はおしまい。……余計な心配かけたくないから、みんなには言わなかったんだ」

 

「そっか……。わりぃけど、シロコには伝えるからな、当事者の一人だし。でも、他のみんなには言わねぇよ。約束する」

 

「だいじょーぶだよ、明日私の口からみんなに伝えるから。ノノミちゃんは私が隠しごとしてるって勘づいてるし。いつまでも後輩に心配かけるわけにはいかないからね」

 

 会話が途切れた後、勝太とホシノは黙ったまま廊下を2人で歩き対策委員会の部室へと戻る。

 そこに気まずさは感じられなかったが、ホシノにはまだ言いたいことがあるようだった。

 

「正直、さ。あいつの提案を受けること以外に、解決方法は思いついてないんだけどね」

 

「―――昼間も言ったけど、まだ諦めるなよホシノ」

 

 窓越しに夜空を見上げながら、勝太が静かに、しかしはっきりと言う。

 

「対策委員会のみんなに、ジョーだっている。ジェンドルのことを引き合いに出せば、ウィンやヒナも手伝ってくれるかもしれねぇ。俺たちは、まだ戦える」

 

「だから、諦めないでくれ」

 

 まっすぐに、黄色と青色のオッドアイを見据えて言う。

 ホシノはその目を大きく見開いて。

 そして、照れたように笑って、言った。

 

「うん、ありがとね。先生」

 

~~~~~~

 

 そして、その翌日だった。

 記入済みの退部届と手紙を置いて、ホシノが黙ってアビドスを出て行ったのは。

 一人一人が、悔しさで歯噛みし、ある者は目元に涙をにじませながら手紙を読んでいく。

 手紙には、昔からカイザーのスカウトを受けていたこと、ジェンドルからの要求をのんだこと、借金が全額返済されることが書かれていた。

 ――――――自分はアビドス最後の生徒会だから、私が責任を取る。

 ホシノの確固たる決意だった。

 

 シロコ、ノノミ、セリカ、アヤネ。

 4人の後輩には、学校を守ってほしいこと、敵対したらヘイローを「壊して」ほしいというホシノの望みが書かれていた。

 手紙の中には、勝太にあてて書かれた部分もあった。

 

「先生へ

 実は私、大人が嫌いだったんだ。

 第一印象は、カレーパンのことしか考えてない変な人、だったし。

 でも一度決めたことにはまっすぐぶつかってくとことか、いいところもたくさんあったってわかったんだ。

 先生みたいな大人になら、後輩たちのこと、任せても大丈夫だって思った。

 特にシロコちゃんのことは気にかけてくれると嬉しいな。ちょっと道を踏み外したら、ずかずかそっちに進んで行っちゃいそうだしね。間違った道をあの子が歩かないようにしてほしい。

 それから、「諦めるな」っていってくれてありがとう。そう言ってもらえただけでも、私は嬉しかったんだよ。

 ジェンドルの望む新世界が、どんなものかは知らないけど。

 その世界で、変わり果てた私に会ったとしたら。

 そのときは、よろしくね。」

 

 激しい音を立てて、勝太が机を叩く。

 対策委員会のみんながびっくりして勝太の方を見た。

 しかして勝太は彼女らの想像のさらに上を行った。

 ホシノの手紙をびりびりに破いてゴミ箱に勢いよく叩きつけたのだ。

 

「ちょっ……!」

 

 その声が誰から漏れ出たものかは分からない。

 その続きを発させる暇もなく、勝太は窓を開け、外に向かって勢いよく叫んだ。

 

「こんちきしょうめええええええぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!」

 

 うわぁ!? とかきゃあ!? とか悲鳴が聞こえるが、大声で叫んでいる勝太には届かない。

 たっぷり5,6秒ほど叫んだ勝太は、すっきりしたような表情だ。

 

「お前ら! 先輩に勝手に出ていかれて悔しいか!!! それとも悲しいか!!!」

 

 唐突に質問を吹っ掛けられ、対策委員会の面々は慌ててぶんぶんと首を縦に振った。

 とっさの返答だが気持ちは本当である。

 

「よし、悔しんだり悲しんだりする時間は終わりだ! カイザーとジェンドルをぶっ飛ばして、ホシノを助けるぞ!!!」

 

「で、でも、助けるって言ったってどうすればいいのよっ! 私たちはホシノ先輩がどこに行ったかもわからないじゃない!」

 

 勝太が勢いよく宣言するが、方法が分からないとセリカが反論する。

 しかし勝太は自信満々に答えた。

 

「大丈夫だ。たぶん手がかりは向こうから来てくれるだろ」

 

 勝太がそういうのと、アヤネが市街地、そして校内にカイザーPMCが潜入したことを知らせにきたのは同時だった。

 

******

 

「……どうですか『ホルス』? これが、あなたの選択の結果です」

 

 アビドス砂漠の地下、カイザーPMCの施設にて。

 ジェンドルの水晶玉から投影される映像は、ホシノを困惑させるには十分すぎるものだった。

 

「……なんで? どうして!? どうしてアビドスを、街を攻撃するんだ!!!」

 

 カイザーPMCが、アビドスの街並みを瞬く間に無残な姿へと変えていく。

 ジェンドルをにらみつけるホシノだったが、にらみつけられた当人はやれやれと言いたげな表情になる。

 

「いいですか、まずあなた方の委員会とやらは、連邦生徒会の認可を受けていない。これはいいですか?」

 

「それがどうしたのさ」

 

 対策委員会を発足させてから何度も要請を送ったが、連邦生徒会からの返事は来なかった。

 まあ期待していなかったので残念とも思わなかったのだが、認可がないことこそ最悪な状況がもたらされた原因の一つだったのである。

 

「あなたはアビドス生徒会の最後の一人だそうですね。では生徒会の人間が学校から誰一人いなくなり、不認可の委員会しか存在していなければ…………果たしてそれは『学校』と呼べるのでしょうか?」

 

「え…………」

 

 ホシノは絶句し、そして絶望した。

 自分が離れたことで、アビドスは学校として存在できなくなった。

 その事実を突きつけられて。

 

「学校が消滅してしまえば、借金も消滅します。あなたがいなくなったことで、後輩の方々の苦難は取り除かれましたよ」

 

「ちがう、ちがう、こんなのは」

 

「望んでいない、と。ですが、選択したのはあなたです」

 

 怒りと憎しみと後悔と悲しみでホシノの表情がぐちゃぐちゃになる。

 そんな彼女の前で、ジェンドルは自身の壮大な計画を語り始める。

 

「カイザーがアビドスを占領したら、その隙に乗じてPMCを殲滅し、私がアビドスの新たな校長に就任する」

 

「……なんだって?」

 

「そして、一度は滅びてしまった私の王来学園―――デュエマの強さがすべての学校を復活させるのですっ!!!!!!」

 

「バカげてるっ!!! カードゲームごときですべてが決まる学校なんて!!!!!!」

 

「ああ、その点については、あなたたちとは認識の違いがあるでしょう。しかし私からすれば、デュエマの強さによる優劣は絶対不滅の真理に等しい。デュエマを制する者こそがこの世を支配する者なのです」

 

 これがジェンドルという男である。

 ただひたすらにデュエマの強さを追い求め、その頂点に君臨せんとする者。

 そのためであれば、何人だろうと容赦なく使いつぶし、捨て駒にする。

 悪逆非道な、決して許してはいけない存在であった。

 

「あなたの後輩たちも、私の学園で手厚く保護してあげましょう。安全は約束しますよ……まぁ、多少の()()は必要でしょうが」

 

「私の後輩たちに何をするつもりだっ!!!」

 

 ホシノは今の会話で一番声を荒げた。

 しかし生徒のことを利用価値のある駒としか思っていないジェンドルはそれを聞き流す。

 

「大丈夫ですよ。きっとすぐに、あなたも後輩たちと再会できます。まあそのときあなたがどうなっているかはわかりませんが」

 

「……………ぁ」

 

 思い出した。思い出してしまったのだ。

 ホシノは、この頭のおかしい男の実験台にされるのだと。

 自分は今から何をされるのだろうか。

 ホシノの心に、恐怖が蓄積されていく。

 そこへ、数名のPMCの兵士がやってきた。

 

「ジェンドルさん、小鳥遊ホシノはどうしましょう?」

 

「……とりあえず、適当に拘束しておいてください。拘束器具は用意してあります」

 

「はっ、かしこまりました」

 

 兵士たちに引きずられ、ホシノが施設の奥の暗闇へと消えていく。

 それを確認すると、ジェンドルは水晶玉で別世界への扉を開いた。

 

「おそらく切札勝太たちが小鳥遊ホシノを取り戻しにやってくるでしょう。それに備えて、戦力は多くとっておいた方がいい」

 

 現状、カイザー理事にあるディスペクターを貸しているせいで、ジェンドルの下にはまともな戦力がない。

 ホルスの脱走の可能性も視野に入れるならば、もう2,3体は実体化可能なディスペクターが欲しいところだ。

 

「それに、『Volzeos(ヴォルゼオス)-Balamord(バラモルド)』を復活させるためにも、12のカードは集めておくべきだ」

 

 キヴォトスにたどり着いたとき、ジェンドルの手元からは全てのカードが失われていた。

 真っ先にジェンドルは過去のクリーチャーワールドへ飛び、五龍神を拘束してヴォルゼオスを完成させた。現在ヴォルゼオスは、誰にも見つからない次元の狭間に隠してある。

 そして、ヴォルゼオスを目覚めさせるには伝説の12のカードを再び集める必要があったのだが、ドルファディロムの分裂によりアルカディアスが行方をくらましたことで絶望的となっていた。

 

「鍵となるのはキヴォトスの生徒の『神秘』、『恐怖』、『崇高』……。『ホルス』とは神話の神の名。その神秘が神に由来するものだとすれば?」

 

 ジェンドルの仮説通りであれば、神々の神秘を注ぎこむことで、ディスペクターたちをさらに強くできるかもしれない。

 生徒たちのことを捨て駒、そして実験素材としか考えていないジェンドルだから思いつく、あまりにも恐ろしい実験であった。

 

「『ホルス』の神秘がアルカディアスの代わりとなる可能性……いえ、それはさすがにないでしょう」

 

 一瞬脳内に浮かんだ可能性を自ら即座に否定する。

 もし試すのであれば、天使の神秘を持つ可能性のある生徒の方がいいだろう。

 そんなことを考えながら、ジェンドルは今度こそ過去への扉をくぐった。

 

~~~~~~

 

 

 …………あぁ、そっか。

 

 

 私は、また大人に騙されたんだ。

 

 

 シロコちゃん、ノノミちゃん、セリカちゃん、アヤネちゃん。

 

 

 先生。

 

 

 ユメ先輩。

 

 

 …………ごめん。

 

 

 …………。

 

 

 ………………?

 

 

 なんか、外が騒がしいな……。

 

 

「おい、ネズミが紛れ込んだぞ!」

 

「あれ、ネズミってより―――じゃねぇか?」

 

「んなこたぁどうでもいいんだよ! ジェンドルさんの実験器具が、小動物のいたずらで壊されたとか報告してみろ!!!」

 

「……何されるかわからないな」

 

「そういうことだ! 早く見つけて駆除しろ!!!」

 

 PMCの下っ端たちの会話が、とぎれとぎれに聞こえた。

 

 もしかしたら、先生たちが助けに来てくれたのかな、と期待してしまったけれど。

 

 

 そんなこと期待する資格、私にはないか。

 

 

 もう、いいや。 いつもみたいに、お昼寝しよう。

 

 

 次起きるときは、実験台の上かな…………

 

 

******

 

「……なるほどな、よーくわかったよ。お前の汚ねぇやり口は」

 

 ホシノの退学による、アビドス高校の消滅。

 それを利用してカイザーがアビドス高校を乗っ取り、企業主体の新たな学園を作り上げる。

 理事は自らの計画をべらべらとしゃべってくれた。

 対策委員会の面々の表情が、怒りとやるせなさで歪む。

 たとえPMCを撃退したとしても、学校はない。

 学校があったとしても、借金がある。

 なにより、ホシノがそこにはいない。

 

『なんで、なんで私たちだけ、こんな…………』

 

「――――――さっきも言ったろ、アヤネ。諦めんな」

 

『……でも、諦めるなって言ったって、どうすればいいんですか?』

 

 悲嘆に染まった声で、アヤネがぽつりぽつりと感情を吐露する。

 

『私たちは認可もなにもないただの生徒で、カイザーみたいな大企業に対抗する力もなくて…………それとも、先生が全部どうにかしてくれるって言うんですか』

 

「そんな都合のいい話はねぇ。俺にできるのは、お前らに道を示してやることだけ。そんでもって、その道をお前らが歩くかどうかは、自分で決めないとだめだ」

 

 これまで、自分の道をまっすぐに突き進み、時に折れ、それでも周りに支えられて立ち上がり、勝太はここまで生きてきた。

 だから今度は、自分が生徒たちを支え、奮い立たせてやるのだ。

 

「いいか、大事なのは過去でも、ましてや未来でもねぇ。未来を切り拓くのは『今』のお前たちだ。『今』、頑張って頑張って頑張って頑張って、死力を尽くして頑張る。そうして始めて、俺たちは『運命』をつかみ取れる」

 

『…………運命』

 

「みんなにとっては、すげぇひどいことに聞こえるかもしれねぇけど……最後まで頑張れ。絶望するのは、その後でいいだろ?」

 

 にやりと笑って、勝太が言い放った。

 対策委員会の生徒たちは、真剣なまなざしで勝太の話を聞いていた。

 一方カイザー理事は、勝太のことをあざ笑う。

 

「何かと思えば、大層な精神論だ。そんなものが社会を生きるうえで通用すると思っているのか?」

 

「するさ。その証拠として俺がここに立ってる」

 

「お前は『大人』ですらない大バカ者だ。道を示してやると豪語していたが、どうせ大したものではないのだろう」

 

「ん? 決めつけるのはまだ早いぞ?」

 

 そういうと勝太は、スマホを取り出してある人物に電話をかける。

 スピーカーモードにして、対策委員会や理事にもしっかり聞かせてやることにする。

 

「あ、もしもし兄貴? ちょっと頼みがあってよ」

 

『……何だ? 今月分のカレーパンはもう全部渡し終えたよな?』

 

「そうじゃねぇ!!! いまはシリアスな状況なんだよっ!!! アビドス高校廃校対策委員会の認可の手続きするように、働きかけてくれねぇか!?」

 

『…………わかった。リンに頼んでおこう。シャーレからの要請、といえば優先度はあげてもらえるはずだ』

 

「サンキュー! じゃあもう切るから」

 

 用件を伝え終えると勝太はさっさと電話を切った。

 先ほどまで轟音が鳴り響いていた戦場が、たった一本の電話によって静寂に包まれた。

 

「これでも、大したことないって言えるか?」

 

「貴様っ、連邦生徒会とつながっていたのか!!!」

 

「つながってるっつうか、コネみたいなもんなんだが……まあいっか」

 

「くそ、だが認可が通る前に占領を終えてしまえば・・・・・・!!!」

 

「ああ、それとひっじょーに残念なお知らせなんだが、お前らの計画は最初から破綻してるんだよ」

 

「はっ?」

 

 思わず理事は素っ頓狂な声を上げてしまう。

 後だしで対策委員会の認可がされそうだというのに、まだなにかあるというのか。

 

「これ、ホシノのバカの退部届なんだけどさ、ここみてみ?」

 

「……これは、『顧問のサイン』の欄…………まさかっ!?」

 

「そう! 対策委員会の顧問であるこの俺が、この退部届にサインしていないっ!!! つまり退部届は無効で、ホシノは退学したことになってねぇんだよ!!!」

 

 してやったり、といった表情で宣言すると、勝太はホシノの退部届を一思いに破り捨てた。

 いまやただの紙切れとなったそれが、風にあおられ飛んでいく。

 

「ふざけるなぁ!!! そんな屁理屈が通ると思っているのかぁ!!!」

 

「んなこといったらおめぇのだって屁理屈だよ。在校生まだいるのに学校なくなりましたーとかありえねぇだろ」

 

 怒りの声を勝太に煽り返され、理事の怒りは最高潮だ。

 

「もう十分だ!!! 私のゴリアテと、ジェンドルから借りたディスペクターの力をもって、お前らを粉砕してくれるぅ!!!」

 

 PMCの軍隊の後方から、巨大なロボット兵器"ゴリアテ"が飛来する。

 そして、かすかに感じ取ったディスペクターの影。

 ドキンダムXの背後にミラダンテXIIの時計盤が浮かんだ異様な存在を、勝太は幻視した。

 だとしても、心配はいらない。

 

「俺は道を示したぞ。あとはお前らがそこを突っ走るかどうかだが……」

 

 勝太が後ろを振り返る。

 そこには、覚悟の決まった顔をした、頼もしい生徒たちの姿があった。

 

「シロコ、ノノミ、セリカ、アヤネ」

 

 おっと、大事な相棒を忘れてはいけない。

 カードの中から、丸くて赤いドラゴンが姿を現す。

 

「頼むぜ、カツドン」

 

「カツカツドンドン!」

 

 久々の出番や、任せとき! と息巻いているようだ。

 

(それから、アロナもな)

 

 シッテムの箱の画面に目をやると、スーパーAIがこちらにサムズアップしてきた。

 そしてシッテムの箱を通して、増援の到着と待機を確認する。

 これで準備は整った。

 

「お前ら! あんな小物ロボットさっさと壊して、ホシノを助けに行くぞぉ!!!」

 

 勝太の号令で、戦端は開かれた。

 カイザー理事、そして混成の王との戦いが、幕を開ける。

 

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