デュエル・マスターズ Aoharu Revolution 作:カレーパンパフェ
「……お待ちしておりました、切札勝太先生」
「てめぇがホシノの言ってた『黒服』か」
確かに彼女の言う通り、奇妙な風貌の男だ。
スーツを着込んでいるさまは実に人間っぽいが、黒い肌と目のような白い光のせいでさすがに人外感が勝つ。
それでいて雰囲気は落ち着いた余裕のある大人といった感じなので頭がおかしくなりそうだ。
「それで、わざわざ俺を呼び出して一体何の用だよ?」
「あなた方には時間がないようですので、手短に済ませましょう。――――――小鳥遊ホシノのことについてです」
ホシノの名前が出たことで、両者の間に緊張が走る。
黒服は自身の椅子に座ると、机を挟んだ対面に着席するよう勝太に促した。
「私たちの正体や目的は気になるでしょうが、そこは割愛させていただきます。今は、あの男からホシノを取り戻す方策を立てねばなりません」
「……お前もホシノを狙ってんだろ? なのに俺たちに協力するのか」
「ええ、あのような男の手に渡るよりはましです」
本当はその神秘を研究分析したかったのですが、と黒服は名残惜しそうに語る。
生徒を研究するとかほざいている時点で信用ならないが、今は猫の手でも借りたい状況だ。
「具体的にどのように協力するか、ですが…………ホシノの居場所をお伝えしましょう。彼女はアビドス砂漠のPMC基地のどこかにいるはずです」
「…………根拠は?」
「そこくらいしか、まともな実験場所がないからですよ」
「生徒を実験する場所なんかない方がいいに決まってんだろ」
根拠としては薄い。
そもそもジェンドルは世界の壁を越えられるのだ。現に奴は、クリーチャーワールドに赴きディスペクターにするクリーチャーを集めているようだった。
「確かにその可能性は否定できません。ですが生徒の『神秘』がキヴォトスを離れたときどうなるのか、それについては未知数です。確実に『神秘』絡みの実験をしたいのであれば、キヴォトスに留まるのが得策かと」
「はぁ…………しんぴしんぴ言われてもなんのこっちゃって感じだが…………とりあえずホシノの場所を教えてくれたのはサンキューな。でもよ――――――」
椅子から立ち上がると、勝太は部屋の出口へ向かう。
そして部屋を出る直前、黒服の方へ向き直り言う。
「今後、もしお前がホシノを勧誘したりさらったりすることがあったら、その時は容赦しねぇぞ」
「……ご心配なく。少なくとも私には、あなたと敵対する意志はございませんから」
黒服はそう言うが、どこまで信用できるか怪しいものだ。
勝太は何も言わずに部屋を出ていき、大きな音を立てて扉が閉まる。
一人部屋に残された黒服は、先ほどの勝太の様子を脳内に思い浮かべていた。
「風のウワサですが、あなたもクリーチャー研究の第一任者であるとか。しかしながら、あなたは彼女たちを"研究対象"ではなく、"生徒"として見ているのですね……」
その思考が黒服には理解できない。
なぜせっかくの心理を探求機会を放棄してしまったのか実に不思議だが、それは黒服の与ることではなかった。
「その点については、今後ゆっくり彼と話し合うとしましょう。……いまはともかく、ジェンドルを止めなければなりません」
奴のやろうとしていることは、最終的にこの学園都市の崩壊につながる。
学園都市が"デュエマ都市"に変化した場合何が起こるのか興味がないと言えばうそになるが、それを試すのにはまだこの学園都市のことを知らなすぎる。
キヴォトスを研究したいゲマトリアからしても、ジェンドルは邪魔な存在なのだ。
「ですから、お願いしますよ先生。奴を打倒し、キヴォトスから追い出してください」
******
「だーかーらー!!! ヒナに会わせてくれって言ってんだよっ!!!」
「うるさいっ!!! 委員長は忙しいんだ、お前みたいなバカに構ってる暇ないんだよ」
「俺がバカならお前は大バカだろう! 崩れた交差点に落っこちてたの覚えてるからな!」
「はぁ!? なんでそんなこと覚えてんの、さっさと忘れてくれる!?」
「ヒナを呼んできてくれたら忘れてやるよ!」
「それとこれとは話が違うでしょ!?」
争いは同レベルのもの同士でしか発生しないとはよく言ったものである。
学者をやっているはずのバカ1と、戦闘IQは高いが搦め手に弱すぎるバカ2がゲヘナ学園で熾烈な争いを繰り広げていた。
「あー、うっざ。わかったわかった会わせてあげる。私の足舐めたらね」
「は? 何言ってんだお前」
「だから、私の足を舐めたら委員長に会わせてあげる」
勝太はイオリをガチの狂人だと認識した。
絶対にできないだろう、と言いたげな表情でニタニタ笑っているが、それはそうである。
常識的な人間なら、普通人を帰らせる口実として足を舐めろ、とか言わないだろう。
そして勝太は自分以上の狂人(と認定した相手)が現れた場合ツッコミに回るタイプの人間であった。
「……それ、結構やばくね?」
「は? お前みたいな考えなしのバカにはお似合いでしょ?」
「いや、俺も実感ねぇんだが、シャーレってかなり権力やばいらしいぞ。そこの職員に足舐めさせるとか……外交問題で済むのか?」
「……………………いや、じゃあ、お前が舐めずに帰ればいいでしょ」
イオリの顔から血の気が引いていくのを勝太は見逃さない。
「いやぁ、でもしょうがねぇなぁ?」
「え、まさか、ほんとに!?」
「だってぇ、お前の足舐めねぇとぉ、ヒナに会えないんだもんなぁ?」
「ちょやめろ靴を脱がすな!?」
ここからは勝太が折れるか、それともイオリが折れるか、意地と意地の勝負だ。
そしてこの勝負、生理的嫌悪感がすごいが、勝太がイオリの足を舐めれば自動的に勝太の勝利となる。勝太が失うものもでかいが、イオリもイオリで汚名を背負うことになるからだ。
そこまでしてヒナに会えないなら、シャーレの名前で風紀委員会に抗議文でも何でも出せばいい。ホシノ救出に関して切羽詰まった状況ではあるものの、勝太の発想は非常にあくどいものであった。権力を盾に生徒に屈服を迫る。字面からしたらカイザーと何ら変わらない悪い大人のやる行いそのものだ。
意地の悪い笑みを浮かべながら、勝太がカレーパンを取り出した。
「な、なんで今カレーパンが出てくるんだ!?」
「いや、お前の足のお供に食べようかと」
「はぁ!?」
足のお供にカレーパンという生きていれば絶対に耳にしないような組み合わせの爆誕である。
しかし我慢した方がいい場所ならともかく、勝太の食事は常にカレーパンとともにある。
それはイオリの足を味わうときでも例外ではない。
一方イオリは、自分の足が唾液だけでなく、カレーとパンの油まみれになりかねないこの状況に戦慄していた。
しかし言ってしまった手前、プライドがイオリに退くということを許さない。
「…………仕方ねぇ、お互いの意地がかかったナイスファイトだった。俺の負けだ」
「おいちょっと待てお前!?」
「いただきます」
ここまでやっても折れないとは、なんたるプライドの高さたるや。
勝太は心の中でイオリに敬意を払い、その足へと顔を近づけ――――――。
「…………なんだか楽しそうね」
「「あ」」
声のした方に、勝太とイオリが同時に首を向ける。
そこにはなにがなんだか分からないといった様子のヒナがいた。
すかさず勝太はイオリの足から手を放すと、ヒナの下へ即座に移動し釈明を始める。
「いやさ、おたくの風紀委員がひでぇんだよ。ヒナに会いたいなら自分の足を舐めろ~とか言ってさ」
「お、お前ぇ!? ヒナ委員長違うって!!! こいつの言ってることは嘘!!! ぜーんぶ真っ赤な嘘だから!!!」
「…………状況証拠的に、信じるしかないのだけれど。いや、私も信じたくないわよそんなこと」
ヒナからしたら、足を舐めさせようとする部下と、その提案を受け入れた教師という変態どもの争いに巻き込まれた形になる。
端的に言って、非常に不愉快だ。
「いや、確かに俺はあいつの提案を受け入れた。でもそうしないといけないくらい切羽詰まってたんだ」
勝太の顔つきが真剣になり、ヒナの表情も変わる。
その場に膝を下ろすと、勝太はヒナに向かって深々と土下座をした。
「頼む。ジェンドルを倒してホシノを助けるために、お前らの力が必要なんだ。俺とアビドスに協力してくれないか」
「…………あなたは生徒のために、そうやって跪ける人間なのね」
ジェンドルとの戦いのときもそうだったが、勝太は自分の生徒のために命を懸ける覚悟がある。
その時点で、ある程度の信頼は約束されたようなものである。
「顔を上げて、先生。話を聞くわ、私に何をしてほしいの?」
「まじか、やったぜ!!! ありがとな、いやーさすがはヒナ委員長!!! 話が分かるぜ」
勝太はヒナの手を掴むとぶんぶん振り、精一杯の感謝を示した。
話が分かるぜ、の部分でイオリの方を見るのも忘れない。
ヒナは大人の男性に手を握られ一瞬ドキッとしたものの、おべっかじみた言葉が飛び出したのですぐに冷静になった。
「持ち上げても何も出ないわよ。それとイオリ、あとで反省文ね」
「えぇ!!!???」
こうして、キヴォトスで最もくだらない勝負は勝太が勝利を収めることとなった。
風紀委員会からの協力を取り付けることに成功したのである。
******
「えーと、先生。……本当に直接ナギサ様にお会いするんですか?」
「ああ。時間がねぇとはいえ、顔も見せずに手貸してください、は印象悪いだろ」
ゲヘナ学園での交渉が一段落してから、勝太はすぐさまトリニティ総合学園へと足を運んだ。
本来ならヒフミ一人でティーパーティーのナギサに嘆願をしに行く予定だったのだが、勝太も一緒に行くと言って聞かなかったのである。
その理由は先ほど勝太も自分で言っていた通り、顔を見せてお願いすることで相手に誠意を伝えるためであった。
「そのナギサって、どんなやつなんだ?」
「優雅で、穏やかで、とても気品のある方ですよ。一般の生徒にも分け隔てなく接していまして、参加者を募って定期的にお茶会も開いているんです」
「…………お茶会、か」
勝太が露骨にげんなりする。
ああいう堅苦しい場はあまり好きではない。勝太の好みはどんちゃん騒ぎのカレーパンパーティである。
義兄兼友人との付き合いでそういうところに顔を出す場面もなくはなかったが、肩身の狭い思いをしたものである。
「せ、先生? もしかして、緊張していらっしゃったり?」
「いや、その、ナギサってテーブルマナーに厳しかったりするか?」
「だ、大丈夫ですよ!」
今日は正式な会談ではないのだから、気を張る必要はないとヒフミはいうが、ホシノ奪還にかけられる戦力の増減に関わるのである。
気は抜けない。
とはいえ少しばかり肩に力が入りすぎていたかもしれない。
しばらくヒフミとしゃべりながら緊張をほぐしていると、やがてティーパーティーのテラスへとたどり着いた。
「失礼します。ナギサ様、シャーレの先生をお連れしました」
少し間が空いて、入室を許可する声が聞こえた。
ヒフミと連れ立って勝太が入室する。
トリニティの景色が一望できる壮観な場所だ。
そこに設置されたティーテーブルについているのが、現ティーパーティーホストたる桐藤ナギサであった。
「ようこそお越しくださいました、先生。まずはお座りください、お席を用意しておりますので」
ヒフミも同様に促され、二人は席に着いた。
テーブルにはいかにも高そうなお菓子がずらりと並んでいる。
「ささやかながら用意させていただいたものです。お口に合うといいのですが……」
「ありがとな。でも……せっかく用意してくれたとこわりぃんだけど、おやつタイムやってる暇はねぇんだ」
周囲にいたティーパーティーの生徒がざわりとしたのを勝太は感じ取った。
きっとなんて失礼なやつなんだとでも思われているのだろうが、とにかく今は時間が惜しい。
現状を簡潔にまとめた報告書を勝太はナギサに提出した。シャーレ印の正式な書類である。
ナギサは書類を手に取り軽く目を通し始める。
しばらくして、ナギサは報告書をテーブルに置くと、勝太を見据えて口を開いた。
「……確かに、そのジェンドルという男、野放しにしておけばアビドスだけでなく我が校、引いてはキヴォトス全体に被害が及ぶ可能性がある。カイザーPMCの動きも無視できませんね」
それに加え、ナギサの気がかりはもう一つ。
アビドスの件にはゲヘナ学園の生徒も関わっている。エデン条約間近のこのタイミングで、ゲヘナ学園がシャーレと友好関係を結ぼうとしている――――――そう受け取ることもできるとナギサは考えた。
活動実績がないせいでシャーレの情報はほとんどないものの、連邦生徒会長が作った絶大な権力を持つ組織であるということは知っていた。ゲヘナだけがシャーレと友好的であった場合、トリニティ側が不利になるということも想定できる。だからこそ、トリニティもシャーレに恩を売っておく必要があるとナギサは考えたのであった。
「先日いただいたヒフミさんからいただいたシャーレに関する報告書、拝見しました。学園の分け隔てなく、全ての生徒の助けになる、と。その言葉に嘘はありませんね?」
「もちろんだ」
「…………そうですか。では構いません。野外実習という名目で、L118式の榴弾砲をお貸ししましょう。指揮については―――ヒフミさんにお願いしましょうか」
「うぇえ!?」
素っ頓狂な声を出してヒフミは驚く。
話はまとまり、勝太はお菓子の入った袋を片手にテラスを後にした。マナー的に大丈夫か? とも思ったが、せっかくナギサが用意してくれたお菓子だ。彼女も許可をくれたので遠慮なく持って帰ることにした。
「ナギサ様が聞き入れてくれてよかったですね!」
「んー、そうだな」
確かにヒフミの言う通りナギサはこちらの支援要請に応えてくれた。
しかしそれと「シャーレ」が、そして「切札勝太」がナギサからの信頼を勝ち取れたかは別である。
先ほども暗に借りは返せよ、と言われたわけである。信頼するかどうかはその借りを返すとき次第、といったところか
大きな校舎からやっと外に出ることが出来た勝太はこのままアビドスへ戻ろうとしたのだが、何かを思い出したヒフミが彼を呼び止める。
「あ、そうだ先生、学生寮の私の部屋まで来ていただけませんか?」
「え? いや、それいろいろとまずくね?」
女子生徒と部屋で二人きりとか事案と思われても仕方ないようなシチュだ。
なによりでこちゃんにボコボコにされるのは確定である。
「うっ、それはそうなんですけど、人前では話せないというか……。ホシノさんを取り戻すのにもきっと役に立ってくれますからっ!!!」
「んまぁ、そういうことなら」
煮え切らない表情のまま勝太は学生寮へと足を運ぶ。
やはり大人の男性ということで周囲の生徒からは物珍しい目で見られた。
できる限り人目を避け、勝太はヒフミの部屋へとたどり着く。
「ただいまー」
「あ、ヒフミ、お帰りなさい。そして、隣のあなたは始めまして、ですね」
大きな花の髪飾りでピンクの髪をツインテールにまとめた少女がそこにいた。
その頭上にヘイローはない。
そして勝太は目の前の少女がどういう存在なのか、肌で感じ取った。
「く、クリーチャー? なんで、ヒフミが」
「あはは……実は、かくかくしかじかで」
あの日ブラックマーケットから調達したぬいぐるみの中に、ラフルルのカードが仕込まれていたのだと。
ぬいぐるみの価格が妙に高騰していたのはそれが原因だったらしい。
「で、なんでぬいぐるみの中に入れられる羽目に?」
「お恥ずかしながら、キヴォトスに流れてきたときに気を失ってしまったみたいで……気付いたら」
クリーチャーワールドでは別世界へつながる扉が開いてしまうこともなくはない。なんたる不運か、ラフルルはそれに巻き込まれてしまったらしい。
おまけにカードの状態でキヴォトスに流れ着いたので、不良たちに好き勝手売買されてしまったのだとか。
自分の正体が露見すると騒ぎになるため耐え忍ぶしかなく、そんな折にヒフミにぬいぐるみごと拾われた、という経緯であった。
ナギサのところから持ち帰ったお菓子をつまみながら、しばし3人で会話を交わす。
どうやらラフルルは勝太のことを知っているようだった。
「あなたの奥方とは、なにかと関連付けられることが多いので……間接的に勝太殿のことも存じ上げた次第です」
勝太は、この間でこちゃんが「閃光のヒロイン」なるカードを自慢してきたことを思い出した。
よく考えると名前に「るる」が入っているのは共通だし、ウィンの世界とかそこらへんで紐づけられることが多いのだろう。
「あー、なんか腑に落ちたわ。それと、そんな堅苦しい喋り方じゃなくても大丈夫だから」
「あ、ほんとですか? では、勝太くんとか?」
「それはそれで距離縮めすぎじゃね?」
「でも、そこがラフルルちゃんのいいところだと思います。私も最初は萎縮しちゃったんですけど、結構フランクだったのですぐに仲良くなれたんですよ!」
「……ヒフミにはほんとに感謝してます。私を助けてくれたのはおろか、お小遣いを割いて食べ物を買ってくれたりもしたんですよ」
ストレートに感謝を伝えるラフルルに対し、ヒフミは照れたような笑みを返す。
話が一段落したところで、勝太はラフルルに対し本題を切り出した。
「で、お前もジェンドルとの戦いに加勢してくれるって話だけど」
「相違はありません。特に、ドキンダンテ。奴の相手は私に任せていただけますか?」
「そっか、お前的にはアレぜってぇ許せねぇよな」
「はい。私の敬愛するミラダンテ様を、よりにもよってあの悪鬼と融合するとは……! 勝太さんの言う通り、ぜっっったいに許してはなりません。ジェンドル、でしたか? 万死に値します」
ラフルルの背後から激しい怒りの炎が見えるような気がして、勝太とヒフミは目をこする。
当然炎なんて出ていなかったが、静かな口調とは裏腹に激怒しているのが見て取れた。
「さいわい、私の能力があればドキンダンテの力をある程度は封殺できます。他のクリーチャーの対処はお任せすることになってしまいますが……」
「そこはぶっつけ本番だけどなんとかするわ。でもさすがに色が合わねぇな」
ラフルルラブの文明は光と水。
一方現在、勝太のデッキは水闇火のアウトレイジデッキであった。
ラフルルと噛み合うのは熱血の物語くらいであるし、そもそもデッキの文明が合わなさすぎである。
「しゃーねぇ、時間ないけどデッキ組みなおすか。でこちゃんのカドショカフェにならそれなりにカードは揃ってるだろ」
そうと決まれば急がねばならない。
ホシノ奪還作戦の詳細を詰めなければならないというのに、そこにデッキ構築を考える時間まで必要になったのだから。
あと、このまま女子生徒の部屋に長居し続けると倫理的にやばいという理由もなくはなかった。
「んじゃあ、俺はそろそろ行くわ。この後の作戦、よろしくな!」
「はいっ! 先生、頑張ってください!」
「あなたに、『奇跡』が降り注がんことを」
ヒフミとラフルルに見送られながら、勝太は慌ただしくトリニティ総合学園を後にした。
ちなみにヒフミの部屋に行ったことについて女の勘で察したでこちゃん。彼女にちゃんと事情を説明したうえで、それでも一発お見舞いされたのはご愛嬌である。
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そして息つく暇もなく、作戦は決行される。
シャーレのヘリの中には、勝太とアヤネ、そしてジョーとウィンがいた。
爆風と轟音でヘリがぐらつく中、ジョーとウィンの中学生コンビは懸命に勝太のデッキを考えている。
本人は対策委員会の指揮をとる必要があったため、デッキ作成にリソースを割く余裕がない。そこで息子のジョー、そして勝太と同じくデュエマバカのウィンにデッキ作成を一任したというわけである。
憧れの父親からデッキを任されたジョー。自分にとって物語の登場人物だった相手のデッキを組むという奇跡を体感しているウィン。
二人はとんでもない熱量を感じさせながら、ときには議論をかわしつつカードたちとにらめっこをしていた。
勝太は真剣な表情でタブレットの画面を見つめる。
シッテムの箱を用いて戦場全体を俯瞰していた。
タブレットを見つめる勝太の表情は真剣そのものだ。
北からやってくることが予想されていたPMCの大隊は、ヒナたち風紀委員会が止めてくれる。
ヒフミたちトリニティの生徒が支援射撃をしてくれているおかげで兵力差は徐々に徐々に縮まっていた。
突き進むシロコたちの後方には、マナで作った偽ヘイローを頭上に浮かべるラフルルが立つ。お淑やかな印象だったが、それに反してとんでもなく強い。そもそもクリーチャーなので銃は効き目が薄く、正面からPMC兵を徒手空拳で蹴散らしていく。
最後の最後に立ちはだかった大勢の兵士たちは、颯爽と現れた便利屋が引き受けてくれた。
「理事は先ほど現れましたが……まだジェンドルが出てきてませんね」
「この場にはいない、ってのが一番助かるんだけどな」
正直この作戦はかなり急ごしらえだ。
集められるだけの戦力を集めて、一気にぶっぱなす。
自分らしいっちゃ自分らしいと勝太は思ったが、いささか早計だったかとも自問自答する。
が、それは一瞬で終わった。
「いーや、考えるのはやめだ。ごり押しだろうがなんだろうが、ホシノを助けねぇと」
「普段の私ならこの作戦には反対ですけど……ホシノ先輩の安否がかかってる以上、正面突破でもなんでも大丈夫です!!!」
「だよな。このままディスペクターがでなけりゃいいんだが」
現状、ディスペクターが出てきたら待機してもらっている邪神とゼーロに抑えてもらう算段だ。
ただしジェンドル本人が出てきた場合、勝太がデュエマで決着をつけねばならない。
時間のないなかで行われるデッキ構築は、いかにジョーとウィンであったとしても限界がある。
まあそれを気合とデュエ魂でどうにかするのが勝太の仕事ではあるのだが、デッキ強度の違いはやはり勝敗に直結する。
指揮も落ち着いたので、二人にデッキがどんな感じか聞いてみよう――――――そう思った矢先だった。
砂の音と岩盤の破砕音、機械の壊れる音が混ざり合った歪な音がアビドス砂漠に鳴り響く。
どうやら、砂漠の地下から何か巨大なものが飛び出てきたらしかった。
「先生っ!!! 現れました、ディスペクターですっ!!!」
「来やがったなぁ!!! 早速邪神とゼーロを、よん、で…………」
威勢の良かった勝太の言葉が突然止まる。
眼前に広がる景色に、勝太は絶句していた。
何事かと覗き込んだジョーも目を見開く。
ウィンも思わず額に手を当てると、心底しんどそうに、目の前のディスペクターの名前をつぶやいた。
「ガイゼキアール、ガイアトムシックス、デッドNEXT…………」
ガイアール・カイザー。ガイギンガ。モルトNEXT。
そう、そこにいたのは、変わり果てた勝太の切札たちだった。