デュエル・マスターズ Aoharu Revolution 作:カレーパンパフェ
不快に思う方もいるかもしれませんが、ご理解ください。
―――時は少し遡る。
「………………んぅ?」
外から鳴ってくる爆音と、実験室そのものを大きく揺らす振動のおかげでホシノは目を覚ました。
その身体は依然として拘束されたままである。
ほどなくして完全に意識が覚醒したホシノは、かすかに聞こえてくる音と現在進行形で体感している振動から、外で大規模な戦闘が起こっているとあたりをつけた。
「……音はかすかにしか聞こえてこない。もしかして、防音壁なのかも。でも、揺れとかははっきり伝わってくる」
揺れの大きさからして、大規模な兵器を複数投入しているにちがいない。
そんな兵器を所持しているような組織だが、ホシノはPMCしか思いつかなかった。
では仮にPMCが戦闘をしているとしよう。その場合、相対している人物または組織はなんなのか。
「……もしかして、ジェンドル?」
ホシノは囚われの身となる前の会話を思い出す。
ジェンドルは勢いづいているカイザーPMCの隙をつき、彼らを殲滅するつもりだと言っていた。
そしてカイザーに代わり自分がアビドス高校の実権を握り、好みの様相の学園へと作り替える――――――。
「っ、ほんっとうにばかげてる」
思い出しただけでもはらわたが煮えくり返るような気持ちがこみあげてくる。
しかし、怒りは冷静な判断の邪魔になるだけだ。ホシノは軽く深呼吸して気持ちを落ち着けた。
真っ先に頭に思い浮かんだのは、後輩たちのことだ。
学園を占領したら、ジェンドルはシロコたちに「教育」を施すつもりであると語っていた。
どう考えてもろくでもないであろう教育が為されることは、絶対に阻止しなければならない。
「さしずめ、ジェンドルがPMCに対して怪物たちを使い攻撃、PMCは怪物たちに対抗するために総力戦をするしかない……ってところかな?」
ホシノの思う怪物たちとはディスペクターのことである。
確かにディスペクターが出てきたのなら、カイザーは兵器をフル投入して立ち向かう必要が出てくるだろう。
仮にそれが本当だったとして、だ。
理想なのはお互いに潰しあい共倒れしてくれることだが、そんな都合よく行くはずはあるまい。
「……どっちが勝つにしても、アビドスに未来はない」
カイザーが勝てば、彼らはアビドス自治区を自らの支配地へと変貌させ、企業主体の新たな学園を誕生させる。
ジェンドルが勝てば、彼は自分の理想の学園を作り、後輩たちに危害を加えるだろう。無論、現在彼の実験体という立場になってしまっているホシノ自身も無事では済まないだろう。
かくなるうえは、勝った方に奇襲を仕掛け、一発ぶち込んでやるしかない。
それくらいしかホシノは思いつかなかった。
そしてそれを実行に移すには――――――。
「……どさくさに紛れて、脱出できたりしないかな」
当然、この地下施設の中には監視役のPMC兵がいるだろう。
しかし仮に戦闘が起きているならば、兵士たちもそちらに注目せざるをえないはずだ。
PMCの侵攻、ジェンドルの襲来によって後輩たちが危険にさらされている可能性のある今、ホシノにここにとどまる理由はなかった。
「たとえ借金がなくなるとしても、それで高校自体がなくなるなら意味がない」
あそこは、先輩が、後輩が、そしてホシノ自身もすべてをかけて守りたいと思える、そんな思い出の場所だ。
そこを潰し、新しい学園に作り替えるなど、言語道断であった。
後輩たちを助け、あの男の野望を食い止めるためにも、ホシノは脱出を決意したのである。
試しに、腕に軽く力を込めてみる。
しかしホシノの肢体を縛る糸のような何かはびくともしなかった。ゆらゆらと力をいなすその様子は、ホシノをあざ笑っているかのようである。
「縛られてる側が自力で破るのは無理……か? でも、外からの助けなんて期待できないし」
ホシノがどうこうしてダメであれば、外部から衝撃をくわえるしかないだろう。
端と端をしっかり固定し、ピンッと張った状態で切断すればいけるはずだ。
しかしホシノにはそのような芸当を行う手段はない。
――――――このまま黙って縛られていることしかできないのだろうか。
失意の底に沈みそうになるホシノ。
その時であった。
プツン、と小気味言い音を立てて、ホシノを縛っていたものが次々とバラバラになっていった。
拘束具がすべて解かれ、急に自由の身になったことにホシノは戸惑いを隠せない。
しばらくぶりに両の足を地面につけたホシノは、あたりをきょろきょろと見まわし自分を解放した人物を探す。
しかし、いくら周囲を探そうとも見つからない。
「ちゃうちゃう!!!」
ふと、妙な声がホシノの耳に入る。
明らかに人間の声ではない。それを裏付ける一つの理由として、その声はホシノの足元から聞こえた、というのが挙げられる。
ホシノは弾かれたように首を下に向ける。
「は?」
ホシノは驚き目を丸くする。あまりにも自分の理解が追い付いていなさすぎる。
とりあえず、足元にいたそれを手のひらに乗せ、自分の目線と同じ高さまで持ってくる。
そうして始めて、ホシノは自分の身に起こった信じがたい出来事を受け入れることに決めた。
――――――自分は、ハムスターに助けられたにちがいない、と。
「ちゃうちゃう、ちゃーう!」
自慢げに胸だか腹だかに手を当てて、オレンジに近しい体毛の小動物がエッヘンと言いたげな様子でホシノの手のひらに収まっている。
額にはアルファベットの「V」のような黄色いマーク、腹には赤い丸のマークがついている。
なんでハムスターがこんなところにいるのか、についてだが、通風口などいくらでも入って来れる場所はあるだろう。そういえばPMCの兵士が小動物が侵入した、みたいなことを騒いで言っていたような覚えがある。
いやいや、彼らの侵入経路自体はどうでもいいのだ。重要なのは、なぜハムスターがホシノを助けることが出来たのか、ついでにいうならなんで助けてくれたのか、を突き止めることである。
未だに状況が飲み込めていないが、ホシノは一縷の望みをかけてハムスターに質問した。
「えーと、その、君が私を助けてくれた、で合ってる?」
「ちゃうちゃう!!!」
「え、違うの?」
反射的にホシノは聞き返してしまったが、すぐに「ちゃう」が「違う」ではなく、「ちゃう」という鳴き声なのだと理解する。
「ちゃうちゃうちゃう!!!」
「あはは、ごめんごめん。君が助けてくれたんだよね、ありがとう」
今度は本当に違う違う! とハムスターが言っているような気がして、なんだかおかしな気分になる。
くすりと笑ったホシノはこの愛くるしいハムスターをなでてやりたくなったが、ぐっとこらえて次の質問を投げかけた。
「ねぇ、ハムスターさんはここのこと詳しいの?」
ハムスターは鳴き声ではなく、首を縦に振ることで質問に答えた。
自分の鳴き声を「違う」と誤解されたのが堪えたらしい。
賢い子だな、とホシノは思ったのだった。
「それなら、武器がたくさんあるところ、分かったりするかな。もしかしたら、私の武器もあるかもしれないの」
ホシノが言っているのは武器貯蔵庫のことだ。兵士が駐在している以上、どこかには存在するだろう。
ホシノの愛用しているショットガンと盾、とりわけ盾についてはそれはそれは丁寧に手入れをしている。
さすがに処分されずにどこかに保管されているはずだと踏んでいるのだが。
武器のことを尋ねられたハムスターは、なにやら誇らしげな表情をしている。
もしかして、武器貯蔵庫の場所が分かるのか。
なんて賢い子なんだ、とホシノは思ったが、実際に起きたことは想像の斜め上を行っていた。
「ボース……ぜぇ、ぜぇ、ボース、ボース!!!」「ヤーム、ヤーム、……はぁ、はぁ」
新たに現れた2匹のハムスターが、ホシノの銃を運んできたのである。
驚きの感情が許容量をオーバーし、さすがのホシノも空いた口が塞がらない。
1匹はモヒカンのようなヘアスタイルに茶色っぽい体毛の太っちょ。
もう1匹は右目側を隠すように一筋まとまった毛が降りており、背には刀を背負っていた。
(……ん? 刀?)
拘束具の切断面には、鋭い刃物でスパッと切ったような形跡があった。最初に会ったハムスターは刃物を持っていなかったため不思議だったが、どうやら拘束具を破壊したのはこの子らしい。
なるほどな、と納得しかけてホシノは脳内でそんな自分に待ったをかけた。ハムスターが刀を振って拘束具を破壊する。どこにも納得できる要素はない。すべてがおかしいだろう、と。
それを言うなら目の前の状況も大概である。
人間が持つにしてもずしりと重たいショットガンを、ハムスター2匹だけでひきずっているのだ。どう考えてもハムスターの限界を超えている。
かなりしんどそうな表情で引きずってきていたが、当然である。
「ちょ、もういいから! あとは私が自分で持つから!!!」
なおもホシノの下へ銃を運んで来ようとする2匹のハムスターを、彼女は必死に止めるのだった。
~~~~~~
武器貯蔵庫の場所は実験室からかなり近かった。
ハムスター2匹が銃を運んでこれるような距離なのだ、さもありなん。
今ではすっかり手になじんだ大きな盾も、そこに置いてあった。
ずしりと重いはずのそれを軽々と持ち上げると、ホシノは盾を瞬時に展開。ほどなくして、ホシノ一人ならすっぽり覆ってしまえる長い盾が完成した。
ハムスター3匹は目をキラキラさせて盾の変形を見ていた。
「おぉ? この盾のかっこよさに気付くとは、君たちなかなか見どころがあるねぇ」
小さな友人に話しかけつつ、ホシノは弾薬や弾数をチェックする。予想通り全て抜かれていたものの、ここは武器貯蔵庫のためなんなく現地調達できた。
念のため銃に取り付けておいた
あの日、先生が持ってきたクロスギア、という名前の代物だ。
クリーチャーと戦闘になったときに備えて、箱の中から一つくすねていたのである。
危険だから、と使用実験を拒んだホシノだったが、あくまでそれは後輩に限った話だ。自分の身が危険にさらされるには何の問題もない。
(こんなこと後輩ちゃんたちに言おうものなら、めちゃくちゃ怒られるんだろうなぁ)
とホシノは思うのだった。そう思うならやるなという話ではあるのだが、現状そうも言っていられない。
「とりあえず出口を探さないとね…………ん、どうしたの?」
見ると、ハムスターたちは何やら必死そうに手足を動かしている。
何やら方向を示しているようなので出口なのかと思ったが、そう聞いてみると彼らは首を横に振った。
出口ではないが、ホシノについてきてもらいたいところがあるらしい。
手足が短いため分かりづらいが、土下座までしてくるくらいだ。
(どうしようかな。一刻も早くシロコちゃんたちの様子を見に行きたい、けど、こんな必死な子を放っておくわけにも……)
数秒悩んだ末、ホシノが下した決断はハムスターたちの頼みを聞く、であった。
下手したら命の恩人、もとい恩ハムスターかもしれない存在だ。そんな子たちの頼みを断るほどホシノは外道ではない。出口だって、そのついでに探せばいいのだ。
「わかったよ。行きたいところがあるなら、私をそこまで案内してくれないかな」
そうホシノが言うと、ハムスターたちは各々鳴き声を上げた。目に涙を浮かべている者もいる。
泣くほど感謝されているのか、なんだか大げさに感じるホシノである。
物音を立てないようにして武器貯蔵庫を出ながら、銃と盾を構える。
ハムスターたちが示す方向へ慎重に進んでいると。
「……おぃ……理事……呼びだ……」「まじか……ゲヘ……トリニ……」
通路の奥の方で、兵士たちの会話が断片的にだが聞こえてくる。
ホシノの脳内補完が正しければ、カイザーと戦闘を繰り広げているのは、ゲヘナやトリニティの勢力、ということになるが。
ホシノの頭に浮かんだのはヒナやヒフミである。しかし彼女らにカイザーと戦う理由なんてあるはずもない。ゲヘナの方はジェンドルを警戒しているようだったからミリ単位くらいの可能性はあるかもしれないが、トリニティの方は完全に謎だ。
(どっちにしろ、警戒しておくに越したことはないね)
キヴォトスの中でも強大な2校がアビドスを取り巻く問題に関わってくるとなると、ホシノとしてもだいぶやりづらくなる。
ヒナやヒフミとちょーっと関わりを持っただけなのに、なんでこんなことになるのやら。ホシノは溜め息を吐いたのだった。
「ちゃうちゃう?」
「ああ、大丈夫だよ」
なんだか心配しているような視線を向けられたような気がして、ホシノはハムスターたちを安心させようと笑って見せた。
不幸中の幸いというべきか、地上で大きな戦闘が起こっているのは本当のようだ。
地下の兵士たちも前線に駆り出されており、監視の目は格段に緩くなっていた。
そうしてホシノは、ハムスターたちの目的地へと難なくたどり着くことが出来たのだが。
「なに、これ」
そこに広がる光景は、ホシノの理解を軽々と超えていった。
目の前の部屋に置かれているのは、大量の試験用チューブだ。
その中に浮かんでいるのは、これまた無数のカードたち。
よく観察してみると試験管には電流が流れているようで、水のような何かがバチバチと音を立て、ボコボコと泡を浮かべている。
だが、それを気にしてはいられなかった。
幻聴だろうか?
ホシノに訴えかけてくる、無数の何かの声。
怒り、悲しみ、憎しみ、苦しみ。
ガンガンと、ホシノの脳内に直接訴えかけてくるように、響いている。
負の感情にまみれた数多の呻き声。
一体、どこからやってきているのだろうか?
「ちゃうちゃう!!!」「ボスボス!!!」「ヤムヤム!!!」
ハムスターの鳴き声で、ホシノは思案から覚める。
みるとハムスターたちは器用に管を上り、ある一つのチューブの下へと集まっていた。
ホシノも駆け足でそこへと向かう。
チューブの中に浮かんでいたのは、例外なく1枚のカードだ。
赤と緑の枠がきれいで、箔も押してある。カードの中央は、金色の剣をくわえた青い鎧のドラゴンが陣取っていた。
『ぎゃおお…………ぎゃおおおおおお!!!!!!』
「っ!?」
驚いたホシノは思わずホシノは後ろに飛びずさってしまう。
(いまの、もしかして……)
おそるおそる、ホシノは先ほどのチューブの下へ戻り、耳を傾ける。
やはりだ。
苦悶に満ちた、何かの鳴き声。怪獣? 恐竜? いやおそらくは、ドラゴンの鳴き声だろう。
「……まさか」
先ほどから聞こえていた声は、幻聴などではない。
閉じ込められたクリーチャーたちの、声だったのだ。
「…………そっか。君たちは、この子たちを助けてほしかったんだね」
ハムスター3匹は力強くうなづいた。
彼らの目的は理解したが、部屋は地下の方へと長く伸びている。
これらすべてにカードが収まっており、拷問じみた行いを受けているとしたらかなりおぞましい。
そしてこんな大量のカードたちを助けるにはどうすればいいのやら。とりあえず電流が流れているようではうかつにチューブを触れもしないので、近くにあった電源らしきスイッチを切る。
すると途端に部屋中の電気が暗転する。カードたちの声も落ち着きを取り戻していった。
「ちゃうちゃう、ちゃーうっ!!!!!!」
ハムスターが大声で叫び始める。
他の2匹も同様に鳴き声を上げていた。
一体何をやっているのだろうかとホシノは思ったが、すぐあとにそれは呼びかけだったのだと理解した。
部屋のあちこちから、ガラスが割れ、液体が流れ出る音が響き渡る。
そう、カードたちが自らガラスを突き破ったのだ。
「うそぉ」
もう今日はずっと驚きっぱなしだった。
なぜ自分はこんな奇想天外なことに巻き込まれているのか。
なぜ、というとジェンドルやカイザーがホシノを騙し、地下施設に閉じ込めたからである。
(……機会があれば一発ぶち込んでやろう)
混乱するホシノは、やり場のない感情を弾丸に込めて黒幕たちにぶつけてやろうと思った。
完全に八つ当たりだが、奴らが元凶なので問題あるまい。
ガラスから出てきたカードたちは次々に集まって束となり、ホシノの手元に収まった。
これにてハムスターたちの依頼は達成……ということでいいのだろうか。
ちらりと依頼主の方を見ると、これまた泣きながら騒いでいる。
また泣きながら感謝されているのだろうか、とホシノは苦笑した。
(用も済んだし、あとは脱出するだけだね)
そう考えたホシノは振り返ろうとして――――――。
「――――――やってくれましたね、『ホルス』ぅ!!!!!!」
声に怒りをにじませ、鬼のような形相をしたジェンドルが、部屋の出口に立ちふさがっていたのだ。
******
ジェンドルは切札勝太がキヴォトスにやってきたことを察知してから、彼との対決に備えるべく、万全を尽くしていたつもりであった。
まずは彼のデッキを奪い、力を削ぐ。それにより、優秀な合成元を大量に入手することにも成功する。
なんたる幸運か、そこで12のカードのうちの『ガイアール・カイザー』を手に入れることもできた。
『カツキング』らしきカードもあったが、伝説のカードとはまた別もののようだった。
ガイアールはすぐさまガイゼキアールに合成し自由を奪う。その他のカードに関しては、念には念を込めて電気を流した実験装置に閉じ込め抵抗する気力を奪うことにした。
(もとより12のカードにも数えられていない雑兵ばかりです。ディスペクターにするのは後回しでも問題ないでしょう)
彼が手に入れたカードを知る者からしたらとんでもない発言だが、ジェンドルの認識はその程度である。
彼にとって、ヴォルゼオス復活に必要な12のカードは道具、その他は都合のいい駒どまりだ。
優秀な実験体になるであろう『ホルス』に目を付け、キヴォトスの機械どもと手を組む。
脳みそは大したことなかったが、権力は大きく「大人のやり方」も熟知している。駒および隠れ蓑にするにはちょうどよかった。
キヴォトスでの活動の傍ら、ジェンドルは戦力をかき集めていく。
部下など持ってもどうせ使えないだけなので、今回はジェンドル一人で決着をつける算段だった。
手始めにアルカディアスとバロム、ドキンダムXとミラダンテXIIを手に入れ、2体の王を合成。
契約の証としてディスペクターをせがんできた能無しにはドキンダンテを与えておいた。
そうしてジェンドルは自ら動いた。
ドルファディロムをけしかけ、切札親子を消そうとしたのである。
正直なところ、ジェンドル自身も上手くいくとは思っていなかった。ほんの腕試し程度のつもりだったのだ。
キヴォトスにおける切札家の力がどの程度なのか、確認しておきたい、というのが本当の目的だった。
――――――だが、結果はあのざまである。
次元の狭間に作った拠点に逃げ帰ったのち、ジェンドルは激しく狼狽した。
「バカな、バカなバカなバカな!!!!!! 私が、あのような青二才ごときにっ!!!!!!」
ドルファディロムの攻撃は、角の生えたキヴォトスの生徒に正面から押されこまれた。
その後勝負を挑んできた彼女は、あろうことがデュエマで、ジェンドルを叩きのめしてしまったのである。
しかも、ドラゴンの引き立て役程度の認識しか抱いていなかった、ファイアー・バードのデッキで、だ。
かつてないほど、それこそ切札ジョーに大敗したときに並ぶ屈辱をジェンドルは味わったのだ。
そしてこの敗北により状況は悪化した。
ドルファディロムを奪われたジェンドルは、ヴォルゼオスを復活させる手立てを失ってしまったのである。
「……アルカディアスとバロムが既にキヴォトスを離れたことは、なんとなくわかりますが……正確な位置の特定は難しい」
部下という手足がなくなったことで、ジェンドルは融通が利かなくなっていた。
かつて12のカードがあった場所にそのまま散らばっているわけではないため、探すのにも時間がかかるのである。
仕方なくジェンドルはアルカディアスを諦め、他の12のカードを探すことに力を尽くした。
その途中カイザー理事が敗北したため、貸していたドキンダンテを回収する。
そうしてカードが集まってきたと思ったら…………またもキヴォトスの原住民にしてやられたわけだ。
******
ホシノの脳内に全力で警報が響き渡る。
部屋に入った時から薄々察してはいたが、やはりここはジェンドルの実験施設のうちの一つだったのである。
カードたちを奪われた彼の怒りはすさまじいものになっていそうだ。
その証拠に、冷静な紳士の仮面は剥がれ、怒りに顔をゆがませた悪鬼がそこに立っていた。
「はははははは、はははははははははははは!!!!!! キヴォトスの皆様には感服いたしましたよ、ここまで私をコケにしてくれるとはなぁ!!!!!!」
激情のままに、ジェンドルはディスペクターを呼び出す。
『勝利王』と『魔刻王』、闇の炎で破壊をもたらし、血濡れの勝利をもたらす存在。
「やれ、ガイゼキアール!!!!!!」
その名を呼ばれたディスペクターは、上半身の爪と下半身の鎌から4連の斬撃を繰り出す。
その攻撃に対し、ホシノは右でも左でもなく、前に飛び込んだ。
ハムスターたちとカードを抱えながら、盾と銃を軽く放り投げつつ、すぐさま体を丸めて前転する。
ホシノを狙っていた斬撃は全てはずれ、実験室の壁を破壊する。
背後で響いた爆音と同時に、ホシノはかがめていた身体を戻すと銃と盾をキャッチ。すぐさまジェンドルの頭に狙いを定めて引き金を引いた。
しかして放たれた銃弾は爆風に煽られ軌道が逸れる。軽く舌打ちをすると同時にスライディング。ガイゼキアールの股下をすり抜ける。
「生意気なっ!」
再びガイゼキアールは斬撃を放つ。
避けるか逃げるかでホシノは逃げを選択。盾を構えるのを諦めて全力で走った。
結果、軽く身をよじったホシノの脇腹を血と炎でできた鎌が掠めていく。
制服が破れ、ホシノの肌が露わになった。見ると切り傷ができており、血が垂れている。
「くっ、この程度……!」
その刹那。
三度放たれる斬撃。
反射的にホシノは盾を構える。
展開したバリアは数秒ともたなかったが、時間は稼いだ。
斬撃本体の峰に当たる部分をこちらも盾本体で受け止めるが、その勢いは殺せずホシノが後方へ吹き飛ぶ。
「あっ」
受け身をとったその時、ホシノの手からカードが滑り落ちた。
すぐさまつかみとりにかかるが、握りしめていたカードの大半は宙に舞う。
一瞬の迷い。
その時ホシノの頬を小さな手が叩く。
「ちゃうっ!!! ちゃうちゃう!!!」
ハムスターは、ホシノの後方を指差していた。
(カードは諦めて逃げろ……っていうのは、私の都合のいい解釈かな)
自嘲しつつ、ホシノは吹き飛ばされてきた方とは逆に走る。
時折髪を引っ張られる。引っ張られた方向に走る。
斬撃はバリアで威力を殺し盾で受け止め、飛ぶ拳撃と飛ぶ槍撃は身をよじってかわし、爆撃は身をかがめスライディング。
すべてを避けきれるわけではない。
打撲、擦り傷、切り傷、やけど。すっかり制服はぼろぼろになり、肌にもいくらか傷がつく。
軽症で済んでいるのが奇跡である攻撃を、床を蹴り、壁を走り、宙を舞い、ホシノは全身全霊でかわし続ける。
クロスギアはあるものの、攻めには打って出ない。なぜならハムスターたちや残ったカードを守る必要があるからだ。
斬撃、盾。拳、回避。爆撃、回避。槍、打撲。拳、回避。爆撃、やけど。斬撃、盾、拳、回避、拳、回避、槍、回避、爆撃、回避、擦り傷、斬撃切り傷拳回避爆撃やけど擦り傷斬撃盾爆撃回避拳打撲――――――。
「……っ!!!!!!」
ハムスターたちが示した出口で待ち構えていたのは、龍のような頭にサイバーチックな大口の鎧をまとうクリーチャー。体のつなぎ目からは電流がバチバチと発生している。
「ちゃう!」「ボス!」「ヤム!」
仲間を救ってくれた恩人のピンチに、ハムスターたちは力を合わせた。
ホシノの手の中からカードを引っ張り出し、それをパス。それをさらにパスすると、銃身部分に先回りしていた一匹がそれをクロスギアにセットする。
「これは」
クロスギアが『ホルス』の神秘を活性化させ、ホシノのヘイローが光を放つ。
そしてホシノのショットガンは、金色に輝く銃剣と呼べるようなものに変貌を遂げた。
「いちか、ばちか!!!!!!」
瞬間、英雄の力を込めた一撃が放たれる。それは眼前の"王"が力任せに放った拳と交錯し、そして――――――。
轟音が響き、施設の地上部分が大きな爆発を起こす。
ホシノの身体が、宙を舞った。
~~~~~~
――――――ああ、きれいだな
眼前に広がるのは、煌々と輝く太陽。
そして、青々とした空だ。
――――――こんな天気のいい日にお昼寝したら、すごく気持ちよかっただろうに、もったいない。
ハムスターたちとカードを抱えて、背中から砂漠へと落ちていく。
――――――さすがにここから落ちたら、ただじゃすまないよね。
――――――全身骨折? いや、もしかしたらヘイローが砕けちゃうかも。
――――――まあ、でも。
――――――先輩のところに行けるなら、それでもいいかな。
――――――ごめんね。シロコちゃん、ノノミちゃん、セリカちゃん、アヤネちゃん…………先生。
自らの運命を、受け入れて。
少女は、ゆっくりと目を閉じようとする。
そこに、待ったをかける声があった。
「ホシノおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
上から降ってきたなにかが、ホシノに覆いかぶさる。
暖かくて大きなそれは、ホシノを抱きかかえて自らを下にする態勢をとった。
「……先生?」
******
それはまさに一瞬の出来事だった。
地中から飛び出してきた、ディスペクターたち。勝太は直感で察した。あいつらは、かつて自分とともに戦った切札たちである、と。
ジェンドルに対する怒りがこみ上げ、咆哮を上げようとしたその瞬間。
眼前を、何かが通り過ぎて行ったのだ。
「…………ホシノ先輩っ!!!!!!」
アヤネの悲痛な叫びと、勝太が動いたのは同時だった。
「父ちゃん!!!」「勝太先生!!!」
ジョーとウィンが制止したころには既に遅い。
勝太は迷わずヘリから飛び降りた。
「ホシノおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
当然ながら、ホシノより勝太の方が体重は重い。
落下するホシノに追いつくと、勝太は彼女の小さな体を抱きかかえる。
「………………先生?」
ホシノの声は弱々しかった。
制服はぼろぼろ、体のいたるところに傷跡があり非常に痛ましい。
「ああ、助けに来た!」
「……でも、このままじゃ先生が」
そう、このままでは勝太は地面に激突してお陀仏だ。
ホシノは助けられるかもしれないが、自分が死ねばでこちゃんやジョーを悲しませることになる。
「それはねぇ!!! ホシノを助けて俺も生き残るっ!!!!!!」
この、絶体絶命な状況。
生きるか死ぬか、張った張ったの一大事。
そんな状況で、勝太は、不敵に笑うのだ。
逆境に立たされてこそ、勝太は燃える。
取り出したのは、兄から渡された「大人のカード」。
『正直、これが何かは俺もわからん。ただ、代償の代わりにとてつもない奇跡を起こすことが出来る、らしい』
『なんだよそれ。あやふやっつーか……。まあ、いざって時の切り札にさせてもらおうかねぇ』
その"いざってとき"は思ったより早かったが。
今こそ、一か八かで一発逆転だ!!!!!!
「行くぜぇ!!!!!! ひっくり返したれやああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
勝太が大人のカードに念じた、その瞬間。
アビドス砂漠を、青白い炎が照らす。
勝太の熱血さに呼応し、その炎は熱く熱く燃え上がる!!!
彼の額に浮かぶは、ビクトリーの「V」!!!
『勝太ぁ!!!』
声のした方を見る。
かつての戦友、ハムカツが差し出すのは1枚のカード。
ハムカツの存在に驚き、くしゃりと顔をゆがめる勝太。しかしその面持ちはすぐに真剣なものに変わり――――――。
「こいよ!!! 相棒ぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
カードが、光輝く。
紅のマント、それは勇気の証。
蒼き鎧、それは正義の証。
黄金の剣、それは、勝利の証!
勝太とともに戦いを繰り広げた、相棒クリーチャーのうちの1体!!!
蒼き団長 ドギラゴン
ドギラゴンはその背に勝太とホシノ、ハムカツたちを乗せると、大きな地響きと砂ぼこりを立てて砂漠に降り立った。
「ありがとな、ドギラゴン!」
『気にするな、相棒! それと、礼ならそこの嬢ちゃんに言うんだな!』
相棒にそう諭されると、勝太はホシノの方を見る。
ハムカツ、ボスカツ、カツえもんの誰にも、また、カードにも傷一つない。
ホシノが守ってくれたのだと、勝太は解釈した。
「この子たち……、先生の仲間だったんだ」
「ああ、助けてくれてありがとな、ホシノ」
「で、でも、全員は助けられなくて…………」
「それはお前のせいじゃねぇ。――――――あいつのせいだよ」
眼下、忌々し気にこちらをにらみつけるジェンドルと目が合う。
勝太も同様に睨み返してやった。
(ドギラゴンがホシノに助けられた、っつうことは、やっぱあのディスペクターの正体は…………)
勝太の怒りが、再燃する。
現在ディスペクターたちは邪神及びゼーロと交戦している。しかし自分の切り札が間接的に痛めつけられているということもあり、あまりいい気はしない。
(そんでもって、ホシノをここまで追いつめた。…………ジェンドル)
額の炎が激しさを増す。
そうこうしているうちに、対策委員会のメンバーが駆け寄ってきた。
「ホシノ先輩っ!!!!!!」
「先輩っ!? うそ、なにこれ、ひどいけが……!!!!!!」
シロコやセリカが叫ぶように声を上げ、ホシノの下へ。
ノノミは何も言わなかった。悲痛そうな面持ちで、目に涙を浮かべながらホシノを見ている。
そうこうしているうちにヘリが着陸し、アヤネが救急箱を持ってやってきた。
「先輩、いま応急処置をしますから、動かないで――――――」
「いや、アヤネちゃん。まだ、だめ」
ふらふらとホシノが立ち上がる。
「私は、先生の戦いを見届け、なくちゃ。アビドスの未来を、見届け、ないと」
自分は、残された唯一のアビドス生徒会の人間だから。
勝太が勝てば、一筋の光明が差し込み。
ジェンドルが勝てば、空をも覆うような真っ暗闇だ。
どちらが勝とうとも、その行く末を見届ける。
「それが、私の責任、だから――――――」
「そんな責任、一人で取る必要なんてありませんっ!!!」
叫んだのは、ノノミだった。
目じりに大粒の涙をためて、ホシノの手を、震える両手で握りながら。
それでも、声は毅然としていて。
「先輩が逃げ出してくるまでに、何があったのかはわかりません。でも、これだけぼろぼろになって…………頑張ったのは十分伝わるんです。だから――――――」
「一人で、抱え込まないでください。――――――アビドスの未来は、ホシノ先輩だけのものじゃない。私たち、対策委員会5人のものですから」
ホシノははっとした。
でも自分はアビドス最後の生徒会で、とか、でも退部届出したし、とか、言い訳はいくつか思いつく。でも、やっぱり。
「うへぇ~…………後輩に泣かれちゃ、おじさんも、折れる、しか、ない、よねぇ…………みん、な。おね、がい…ね」
ホシノの身体から力が抜ける。
安心と疲労で眠ってしまったようだ。
すぐさまアヤネが消毒液や包帯、ガーゼを取り出し処置を行う。
「いやぁ、やっぱ青春っていいよな。俺も中学の頃が懐かしくなってくるぜ。…………お前はどうだ? ジェンドル」
アビドスを巻き込んだ一連の騒動、その元凶を勝太は見据える。
「切札の血筋……どこまでいっても、私の邪魔をするか……!」
「ふざけんな。俺とこいつらの青春を邪魔してんのはお前だろうが」
「青春? 青春だと? 馬鹿馬鹿しい。そんなもの、デュエマの強さに比べればゴミにも等しい!!!」
邪神とゼーロ、両名と戦っていたディスペクターたちがカードになり、デッキの中に入っていく。
それを確認すると、ジェンドルは不敵に笑う。
「……そうかよ。会話する気がねぇってんなら、とっとと始めようぜ」
威勢のいい鳴き声を上げて、ハムカツたちがくるくると回転しながら宙へ。
そしてそれぞれがカードとなり、勝太の手元に収まる。
それから、ハムカツ団の団長たるドギラゴンも、勝太のデッキへと入ってゆく。
「俺のデッキを盗んで、相棒たちを苦しめディスペクターにした……そして、ホシノをあんなにも傷つけた」
明確な怒りを声にまとわせ、勝太が言い放つ。
「覚悟しろよ、お前は、俺がぜってぇぶん殴る」