デュエル・マスターズ Aoharu Revolution   作:カレーパンパフェ

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エピローグ

「んく、んく…………ぷはぁ! いやぁ、砂漠帰りの麦茶は格別だねぇ」

 

 目の前の女性は心底美味しそうに麦茶を飲み干す。

 そのセリフだけ聞くと日常でのさりげない会話に思えてくるが、その人物の正体が正体なのでまったくそんなことはない。

 

 ――――――仙界一の天才、ミロク。

 

 羽織っていた外套を取り去った彼女の風貌は、一言でいえば機械生命体、だ。

 あざやかなピンクの機体に踊り子のような衣装をまとい、羽衣を首周りにかけている。

 もともとは周囲によくわからない機械的な代物が二つ浮かんでいたが、会議室のスペースを圧迫していたためやむなくしまってもらった。

 

 ウィンから聞いた話によれば、クリーチャー世界における彼女の功績は多岐にわたるそうだ。

 勝太が愛用しているガイハートなどのドラグハートも、原形はミロク由来らしかった。

 だがその頭脳をもってしてもなお救いようがない彼女の欠点が存在する。

 それは強大な力を持つ自らの発明品を、整理せずあちこちにほかってしまうことだ。

 放られた発明品は、争いの火種になることも少なくなく。

 本人に悪意が一切ないだけに余計性質(タチ)が悪い大天才、それがミロクであった。

 

 現在の会議室には、勝太と一部対策委員会メンバー、ジョー、そしてミロクがいた。

 ホシノは現在病院である。アヤネが応急処置はしたものの、大事をとって入院という形になったのだ。

 ノノミはホシノに付き添うといって病院に残った。もちろん勝太やシロコたちもそうしようとしたのだが、ミロクをそのままにしておくわけにはいかないためしぶしぶアビドス高校に戻ってきた次第だ。

 ウィンは事の顛末をヒナに報告しに、邪神に乗ってどこかへ飛んでいった。

 

「…………いろいろと言いたいことはあるけどよ、まずはありがとな。お前が開発したっていう"クロスギア"のおかげで、いろいろと助かってる」

 

「いやぁ、どういたしまして!!! 私の発明品を気に入ってもらえてうれしいよ!」

 

「別に気に入ったわけじゃねぇよ、少なくとも俺は」

 

「俺はめちゃめちゃ気に入ってるよ、ミロク!」

 

 ミロクがあからさまに調子に乗り始めたため、勝太は釘を刺しておく。そしてすかさずジョーのフォローが入る。

 このアビドスを救うために奔走した日々の中で、ミロクの改良版クロスギアは大いに役立っていた。

 ジョーの自衛用の武器となり、ヒナがドルファディロムの攻撃を相殺するのを助け、何よりホシノの脱出に大きく貢献した。

 その功績を考えると今後も生徒たちには使い続けてもらうべきなのだが、いかんせんクロスギアはまだ試作段階らしく、リスクが大きい。

 ジョーの方は勝舞が身をもって安全確認したから百歩譲っていいとしても、全ての生徒にホイホイ持たせていいものではなさそうだった。

 

「でも、最初に先生がそれ持ってきたとき、安全かどうかはわからないって言ってたわよね…………そこのところ、どうにかならないのかな」

 

「それ、私も思う。早く使ってみたいからなんとかしてほしい」

 

 セリカの懸念事項に対し、シロコがさらっととんでもないことを言い放った。

 ヒナがドルファディロムの攻撃を相殺したところは当然シロコも目撃している。クロスギアがあれば自分ももっと強くなれるかも…………と思ったわけだ。

 ぎょっとした顔で対策委員会の他メンバーがシロコの方を見る。

 勝太は振り向くことはなかったが、何言ってんだこいつと言いたげな顔をしていた。

 

「お、アヌb…………じゃ、なくて、えと……」

 

「シロコ。砂狼シロコ」

 

「そうそうシロコちゃんっ! もしよかったら、私の研究に協力して――――――」

 

「ダメに決まってんだろ」「やめといた方がいいんじゃないかな」「ダメに決まってるでしょ!」「やめてください」

 

 一斉に反対されたことで、ミロクの提案は即却下された。

 シロコは少し不満げな表情をしている。

 

「で話戻すけど、安全性に関しては何とも。"神秘"が何なのか本人たちはさっぱりだし、ゲマトリアも解明できてない。原理としては、そこに無理やりクリーチャーの力を混ぜ込む感じだから…………まあ化学反応次第だよね」

 

「なんでそんなあぶねぇもんを…………」

 

「…………だって、そんな甘いこと言ってられないからね」

 

 ミロクの口調は相変わらず軽い。だが、一瞬だけ彼女の目が真剣みを帯びた。

 勝太はいまの発言に含みがあるような気がして、神経をとがらせる……が、再びミロクはおちゃらけた態度に戻ってしまった。

 

「まー安心して、クリーチャーの力を無理やり混ぜ込むより、もっと確実に強くなれる方法があると思うよ~♪」

 

 絶賛研究中、おったのしみに! とミロクは締めくくった。

 シロコとセリカは目を輝かせてそれを聞いている。アヤネはまだ半信半疑だ。

 

「でもその研究をするには、やっぱり生徒たちの観察が必要不可欠っ!でも、クリーチャーってバレるとすーぐ向こうに返そうとするやつがわらわらわらわらわら・・・・・・そ、こ、で! 『シャーレ』を利用させてもらおうってわけ!」

 

「り、利用?」

 

「あー、違う違う! そういう悪党めいたことじゃなくてさぁ! 君って『先生』だから、必然的に生徒ちゃんたちと交流する機会も多いでしょ? つまりさぁ――――――」

 

「待て待て待て待て」

 

 嫌な予感を感じ取った勝太は、思わずミロクの話をさえぎってしまう。

 だが、おそらく勝太以外の誰であっても待ったをかけるだろう。

 いまのミロクの話が本当ならば、勝太の先生としての業務中は彼女が同行する、ということになるからだ。

 

「あ、そういうことだよ。これからよろしくね、勝太くん?」

 

「ふざけんなぁ!!!!!!」

 

 勝太は思わず絶叫してしまった。

 初対面の時も思ったが、こいつと一緒に行動することに対し嫌な予感がしまくりである。

 ウィンから聞いた話だけでもかなりのトラブルメイカーっぽいのに、職務中はミロクと一蓮托生になるわけだ。

 大事なことなのでもう一度言うが、ひっじょぉうに嫌な予感がしている。

 

「俺の相棒枠はカツドンとハムカツ団で埋まってんだよ! そもそも主人公として、お前みたいなやつをレギュラーにしてたまるかぁ!」

 

「でも勝舞くんはオッケーしたけど」

 

「あんのバカ兄貴がああああああああああああ!!!!!!」

 

 何か考えがあるのだろうが、それでも恨み節を吐かずにはいられない。

 初代主人公の後ろ盾というあまりにも強力で凶悪な力を経て、晴れてミロクのシャーレ入りが決定したのであった…………。

 

 みっともなく叫び散らかしたあと、勝太は真っ白になりながら、床に膝をつき明後日の方向を魂が抜けたかのような表情で見つめていた。

 

「…………これ、もう使い物にならないわよね」

 

「先生をこれ呼ばわりはどうかと思うけど…………まあ、そうだね」

 

 そういうわけで、ミロクへの事情聴取は勝太からアヤネへ革命チェンジである。

 

「えーと、ミロクさん、でいいんですかね」

 

「おぉ、さんづけで呼ばれるのなんか新鮮だねぇ! いつもは呼び捨てかつなーんかぞんざいな扱いなんだよね」

 

 それもこれも発明品をほかりっぱなしにする彼女の悪癖がいけないのだが、そこら辺の事情がよくわからないアヤネは大変なんだな、と思うだけにとどまった。

 先生とミロクが話している間、アヤネもいくつか質問を考え付いたのでそれを聞くつもりであった。

 

「まずは、ジェンドルの行方が知りたいです。あなたの機械のなかに吸い込まれていきましたけど…………」

 

「あー、あれ? 適当に『夢幻の無』の中に放り込んだ…………って言ってもわかんないか。気にしなくていいよ、もうキヴォトスに来ることはできないだろうし」

 

 そういうとミロクはこれ見よがしにジェンドルのオーブを取り出し、両手でお手玉をして見せる。

 水晶玉はミロクの手に渡ったため、新たなディスペクターが生み出される心配はなくなった。

 

「正直その解答だと、まだ安心できません。…………あなたが新しくディスペクターを生みだす、ということもありえなくないので」

 

「そりゃまた、痛いとこを突くね。実験に必要だったらやっちゃうかもだし」

 

「え、うそでしょ」

 

 さらっと言ってのけたミロクにセリカがドン引きする。

 聞いた話によれば、ディスペクターとはクリーチャー同士を無理やり合体させたものであるとか。

 そんなクリーチャーの尊厳を踏みにじるような存在を、実験に必要だったら作ってしまうかも、などと言うのだから引いて当然だった。

 何か、決定的に価値観が違う。なんとなくこの場の全員がそう感じていた。

 先ほどはクロスギアのことでミロクに感謝を述べていたジョーだったが、ディスペクターのこととなると話は変わってくる。

 

「ミロク。もし本当にディスペクターを作るつもりなら…………」

 

「わー! ちょっと待ってよ! 確かに私は天才だけど、戦闘は武器だよりで素の実力はそんなっていうか…………あーもうわかったわかった!」

 

 ジョーに険しい目つきで見つめられたミロクは、ギャーギャー喚いた末にテレポート装置を虚空から出現させた。

 その中に水晶玉を適当に放り込んだのである。

 

「ふー、これでよし! 私がディスペクターを作る心配はなくなったよ、ね?」

 

「……あの、扱いがすごく雑だと思うんですけど」

 

 とんでもない力を秘めた代物を、そうやすやすと放棄していいのだろうか。

 ちなみにミロクは今回特にテレポート先を指定していない。

 どことも知れぬ場所にマジで適当に放り込んでいた。

 

「…………まー、大丈夫でしょ! 何か問題あったら回収しに行くから!」

 

「たぶん、問題起きてからじゃ遅い」

 

「まーたシロコ先輩は縁起悪いこと言う……」

 

 こうしてジェンドルの話題はひとまず決着がついた。

 アヤネが投げかけた次の質問は、ゲマトリアに関するものだった。

 黒服とは、ゲマトリアとはなんなのか。

 その答えが目の前の天才から語られるのを期待していたが、しかしてミロクの返答ははっきりしない。

 

「まー、キヴォトスを研究してるろくでもない大人って覚えとけばいいよ、今は。変なやつばっかだから、関わんないのが吉よ、大吉」

 

「じゃあなんであんたは関わってるのよ」

 

「そりゃあもちろん、キヴォトスに関するデータが欲しいからだよ。彼らと話し合ってるといろいろ参考になるんだよねぇ」

 

 一通り話してみたが、やはりアヤネはミロクが信用できない。

 ホシノを狙うような存在と関わりがあるというだけでも、疑うには十分すぎる理由であった。

 そしてそんな彼女が先生と行動を共にする機会が増えるというのも、なかなか受け入れがたい。

 

「先生、先生、しっかりしてください先生っ!!!」

 

「ん…………はっ、俺は……真っ白な灰になってたのか」

 

「おふざけはいいですから! 先生は、本当にミロクさんのことを信用できるんですか?」

 

「いや、まったく」

 

「うえぇ!?」

 

 即答であった。

 ミロクは本気でショックを受けていた。

 しかしてゲマトリアと関わりがあり、キヴォトスや生徒たちを研究したいといい、あげくシャーレに潜り込んでくる。

 怪しくないというには無理がある。

 

「まあ兄貴からOK出てる以上は大丈夫だろ、知らんけど。それに、俺んとこに置いとけば監視できるし」

 

「あー…………勝舞くん、もしかしてそういう目的もあったのかなぁ」

 

「たく、面倒押し付けやがって……。なんか怪しい動きしたら、ボコボコにするからな」

 

「大丈夫だよ! 仙界一の天才の名において、怪しい動きはしないと誓いますっ!!!」

 

「その肩書が既に怪しいんだよ」

 

 こうして、ミロクに対する尋問は終わりを告げる。

 勝太はミロクにシャーレを案内するため、ひとまずアビドスを離れたのだった。

 

******

 

 それからは特に何もなく、平穏な日常が続く。

 

「…………あのさぁ、この書類の量おかしくない?」

 

「愚痴言ってる暇あったら黙ってやれ! 日付変わるまでには終わらせるぞ!」

 

「はーい…………」

 

 シャーレ所属になったため、ミロクは勝太の仕事を手伝うことになった。

 単純に人手が2倍で作業効率2倍、とはならないが、ある程度勝太の負担は軽減された。

 そして先行き不安だったミロクの存在だが、勝太とは意外と話があった。

 勝太は宇宙を旅する傍ら、クリーチャーの研究をしていた。

 そしてミロクはクリーチャー界の研究畑における伝説の存在。

 自らの研究に対して話が弾むのである。

 

「おー? これがクロスギアに代わる新しい発明品の案か。……クリーチャー関連じゃないっぽいし、ちんぷんかんぷんだが」

 

「ふっふっふっ、『ゼノテクアーマー Blue Archive Edition』、完成をお楽しみに!」

 

 ときたま新兵器の進捗を聞きつつ、あっという間に数日が過ぎる。

 アビドスの借金は暴利から解放され、それどころか利率もかなり下がった。借金の額自体は変わらないが、今後は安定した返済が可能で心に余裕が生まれたとのこと。

 ただ、土地の所有権の問題については解決していない。今後の禍根が残ってしまった次第だ。

 だが、悪いことばかりではない。

 そう、今日はホシノの退院日なのだ。

 

~~~~~~

 

「なんか、ぎこちなくね?」

 

「う、うへぇ? そうかなぁ…………あいたたた!!! せ、せんせ、クリーチャーから受けた傷が痛むよぉ」

 

「さすがにウソだろ。タイミング良すぎねぇか?」

 

 アビドス高校の廊下。

 無事退院したホシノと、それを迎えに行った勝太が連れ立って歩いていく。

 空は晴れわたっているが、雲一つないとは言えなかった。

 

「まぁ、気まずいわな」

 

「なーんだ、先生もわかってるじゃん。勝手に1人で突っ走ったあげく、私が離れたことでカイザーやジェンドルに付け入る隙を与えちゃったからさ」

 

 カイザーやジェンドルの侵攻。それが行われるきっかけは、ホシノがアビドスを離れていたことによる生徒会の消滅だった。

 実際は勝太が退部届にサインしていなかったため事なきを得たが、アビドス高校にとって絶体絶命の状況であったことは間違いない。

 意図していなかったとはいえ、ホシノは自分の愛する母校を危険にさらしてしまったのだ。気にするなという方が無理である。

 

「確かに、ホシノがやらかしちまったことは変えらんねぇ。お前が出てって、アビドスが危険になった」

 

「………………うん」

 

「けど、それはもう終わったことだろ?」

 

「いやいや、終わったことって言ったて――――――」

 

 起こしたことが起こしたことだ。

 そう簡単に片づけられても釈然としない、そんな気持ちがホシノにあった。

 勝太はそんなホシノを否定することはしない。ただ、一人で抱え込む必要はない、そう伝えたかった。

 

「規模のでけぇちいせぇは関係ねぇよ。大事なのは『ごめんなさい』だ。なんかやっちまったら謝る、許してもらえなかったら行動で示す、それでいいじゃねぇか」

 

「そんな、簡単なことでいいのかな」

 

「いいんだよ」

 

 頭の上に、ぽんと手のひらが置かれる。

 見上げると、勝太がホシノの頭を優しくなでていた。

 力強くて暖かい、大きな手だった。

 

「は、恥ずかしいよぉ」

 

「いいだろ別に。誰も見てねぇし…………あ」

 

 ふと視線を感じると、扉の隙間から銀色をした耳が顔をのぞかせていた。

 ずるい、というような目をしてこちらを見ている。

 

「…………こりゃ、ホシノの余罪が1個増えちまったかもな」

 

「先生? さすがにこれはおじさんのせいじゃないと思うけどなぁ?」

 

 呆れ顔のホシノが、勝太の方を見て苦笑する。

 が、勝太はいつの間にかホシノの背後に回り、背中に手を当てていた。

 

「ほら、後輩がもう待てないってよ、先輩?」

 

「…………はぁ、その言い方はずるいよぉ先生」

 

 勇気出せよ、と言いたげに勝太がホシノの背中を叩く。

 おずおずと前に踏み出し、扉を開ける。

 目の前に広がるのは、いつもの見知った会議室。

 そして、大好きな後輩たちの笑顔。

 つられて、ホシノも笑顔になる。

 

 ――――――みんな、ただいま!

 

 

 対策委員会編前編、完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

******

 

 Volzeos-Balamordは、意識のないまま、静かにその場に佇んでいる。

 12のカード集めが道半ばに終わり、エネルギーは供給されず。

 使い手が闇にのまれ、それの存在を知る者はいなくなった。

 哀れな合成獣は、誰の目にも届かない異空間で、その果てなき寿命を使い果たすことになるのだろう。

 異空間に干渉できる存在なんて、早々現れるはずはないのだから。

 

******

 

「んー、アビドスのあの子たちは『物語』として十分かなぁ?」

 

 シャーレの、とある一室。

 瞬く間に珍妙な機械群で埋め尽くされたその部屋の中央で、ミロクは一人思案を巡らせる。

 

 ――――――この世界の形は、ひどく歪。

 

 ゲマトリアや、彼らとは異なる知人と知見を共有した結果、ミロクの結論はそこに至った。

 得体のしれない何かがうごめくこの土地に、『学園都市』を上から被せたような、そんな歪な世界。

 

「まあ、その割には機能してるかも? 連邦生徒会長っていう穴を、勝太先生が埋めたのもあるかもねぇ」

 

 ミロクの推測はもう一つ。

 この学園都市は、銃火器が横行する無茶苦茶な環境であっても、軸となっているのは学生たちの学校生活だ。

 そしてそこでは、『物語』が紡がれていく。

 

「神秘にクリーチャーの力を混ぜ込むのは…………それはそれで面白そうだけどスリリングだろうし」

 

 下手に失敗して生徒を害すれば、ミロクはキヴォトスから追放されるかもしれない。

 それだけはなんとしても避けたい。

 こんな不可思議な世界、追い出されるのはあまりにももったいない。

 

「だから、結局あの子たち次第だよねぇ。どれだけ強い『物語』を生み出せるかどうかだ」

 

 ふーっ、と息を吐き伸びをするミロク。

 そこへ、一本通信が入る。

 

『もしもしミロク。ワンコールで出るなんて珍しいのぉ。いつもは研究に夢中で全然通信に出んというのに」

 

「あー、ちょうど一息吐こうとしてたところでさ。…………それで、進展は」

 

『ある程度絞り込めた。――――――トリニティ総合学園じゃ』

 

「うわ、あそこか」

 

 トリニティ総合学園。キヴォトス有数の権力を持つお嬢様学校だ。

 総合学園とある通り、生徒たちはいくつかの派閥に分かれている。それもあって、政治的な対立が後を絶たない。

 過去に禍根も多く、素直にいい学園とは言いづらい場所。

 ミロクは下調べでそのような印象を受けた。

 

「よりによって、強い感情が集まりそうなところにいるねぇ」

 

『強い感情、というなら、多感な学生たちはみんなそうだと思うのじゃが』

 

「――――――負の感情は、効率がいいんだよ」

 

 それから簡単に近況報告。

 シャーレで激務に追われていると話すと、通信相手は心底驚いていた。

 引き続きの調査をお願いし、通信を切る。

 

「この世界に興味があるのも事実。けど、今のところ本命はこっち…………かな」

 

 すでに布石は打った。いざとなれば、全勢力をそこに向けることも可能だ。

 トリニティ総合学園。

 ミロクの探し物は、そこにある。

 ただ、テクノサムライを一斉に出動させるのは、コストが大きくリスクも大きい。その間に本拠地にあいつが来ても困るからだ。

 

「……それなら、先生のお手並み拝見と行こうかな」

 

 ジェンドルを真正面から打倒した彼ならば、ミロクが生み出してしまったあの怪物にも対抗できるかもしれない。

 そのためには、まず彼をトリニティに誘導しなければ。

 そう思ったミロクだったが、勝太を導くことなどする必要はなかった。

 なぜなら、この通信からしばらく経ったある日のこと、トリニティの方から勝太にお呼びがかかったからだ。

 

******

 

 ヒフミから渡された、先日のジェンドル討滅戦に関する報告書。

 それに目を通しながら、桐藤ナギサは思案にふける。

 

「ジェンドルとやら…………数多のクリーチャーを従えるとは、やはり危険な存在でしたか。ですが、それ以上に――――――」

 

 シャーレの先生、切札勝太。

 件のジェンドルを討ち倒し、アビドス高校を救った人物。

 後半部分はナギサにとっては重要度は低い。今回手を貸したのはあくまで、シャーレに対して借りを作るためであったからだ。

 報告書にはカードバトルによりジェンドルを倒したとの記述があるが、気になるのはその前。

 彼もまた、ドラゴンを実体化させたようなのだ。

 ディスペクターと呼ばれる怪物を使役するジェンドルに、ドラゴンで対抗――――――ならまだわかるのだが、なぜデュエル・マスターズで決着をつけたのか。

 ナギサにとっては意味がわからなかったが、とりあえずそこは置いておくことにして。

 

「加えて、ゲマトリア、ミロクとやらともつながりが生まれた…………と」

 

 黒服とミロクの策略により、ジェンドルは異空間へと放逐され、二度と戻ってくることはないそうだ。

 それに関しては安心したナギサだが、こうも思うわけだ。

 強大な力を持つジェンドルを、それ以上の力で叩きのめした切札勝太。

 クリーチャーの世界で名をはせているという、天才ミロク。

 その2名が擁するシャーレが――――――万が一、こちらに牙を剥いたら?

 連邦生徒会から与えられた絶大な権力。

 切札勝太の、クリーチャーを呼び出す力。

 ミロクによる発明品の数々。

 その猛威が、どのような厄災が引き起こすのかも未知数だ。

 

「…………先日の会談では、少々真っすぐすぎるきらいもありましたが」

 

 ナギサが抱いた印象は、自分よりも年下の相手に気を遣い、頭を下げることもいとわない誠意ある大人だ。

 ただ、第一印象だけで信じてしまえるほどナギサは純粋ではない。

 

「やはり、その人となりを見極める必要があるでしょう。トリニティに――――――ミカさんに害がないように」

 

 幸い、シャーレに借りを返してもらうべき場面はすぐに用意できる。

 百合園セイアの殺害事件。それを引き起こした裏切者をあぶりだすために、シャーレに協力を要請する。

 その過程で『先生』が信用に足らないと判断した場合は――――――。

 

「そう考えると、どうしましょうか。裏切者は退学にしてしまえばいいですが、連邦生徒会の息がかかった先生は――――――」

 

 ――――――排除してしまえばいいのです

 

 声が、した。

 優しくやわらかく、まるで聖母のような声だ。

 その声の持ち主が誰なのか、そう疑問に思う間もなく次の声が、響く。

 

 ――――――貴方の親友を、守りたいのでしょう? ならば、ためらうことはありません

 

 声が、心に直接届いて、スッとしみわたっていく。

 疑心暗鬼に陥った、ナギサの心へと、しみわたっていく。

 

 ――――――仇をなす者には制裁を、疑わしき者には罰を。貴方の手で、トリニティを巨悪から救うのです

 

 ――――――手段はいくらでもあります。誰の目にも届かぬように監禁する、流れ弾を装って射殺する…………ああ、クリーチャーとぶつけてもいいかもしれませんね

 

(っ!? そんな、恐ろしいことを…………)

 

 理性が戻ってきて、そして、一瞬で塗りつぶされる。

 セイアが、死んだ。ミカも、危ない。自分も、危ない。

 ならば、こちらも手段は選んでいられない。

 

「……………………そう、ですね。なんで、そんな簡単なことにも、気付かなかったのでしょう、か」

 

 何かがおかしい。何かって何? 否、なにもおかしいことなんてない。

 ゴミが落ちていたらゴミ箱に入れるのと一緒だ。邪魔者がいるなら、掃除すればいいだけのこと。

 すべては、トリニティの安寧のため、そして、ミカを守るために。

 

 ――――――私が(ワタシガ)悪しき者どもに制裁を(アシキモノドモニセイサイヲ)

 

 歪み、堕ちていく。

 

******

 

 ――――――闇のマナが多いな、ここは。しょーじき、あんまりいたくねぇんだが

 

 ――――――はぁ…………真面目にやらんか。作戦が失敗すれば、我らはまとめてお陀仏だぞ

 

 ――――――ちぇ、わーってるよ。気に食わねぇが、やるしかねぇか…………潜入作戦ってやつをな

 

 ひらひらした、慣れない材質の制服に袖を通す。

 生徒の皮を被った何かは、気だるげな感情を無機質な表情の中に隠し、トリニティの門をくぐる。

 

 

 

 To be continued for chapter of EDEN

 

 

 

******

 

 次回っ!

 

「ようこそ! 俺たちのデュエマさいこークラブへ!」

 

 勝太とシロコ、いざゲヘナ学園へ!

 クラブの部室問題を解決せよっ!!!

 

「いつまでも食堂を溜まり場にされたら困るからね…………」

 

「余はそれでも構わぬが」

 

「あんたはタコさんウィンナーが目当てなだけでしょ!」

 

 明かされる愛清フウカの苦労!?

 そしてゲヘナ給食部に、予想だにしない来客が!?

 

「あ、あの、美食研究会という方々を知りませんかっ!」

 

「えーと…………あなた、正気?」

 

 そして、水面下でうごめく陰謀――――――。

 

「タコさんウィンナーの独占を許すなぁ! 行きますわよ野郎どもぉ!!!」

 

「「「「「「うおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」」」

 

 アビスの反逆、目的はまさかのタコさんウィンナー!?

 ゲヘナ学園を舞台に、アビスたちが大騒動を巻き起こす!!!

 

 次回、デュエル・マスターズ アオハルRevolution!

 邪神VS〇〇 ~ソウルフード・オブ・ジ・アビス~ !!!

 

「ドッドドドッカーンと起こしてやるぜ! 俺たちの、青春革命っ!」

 

「お願いだから私を巻き込まないでくださいっ!!!!!!」

 




アビドス前編、完結しました!
ここまでこれたのも皆さんの感想のおかげです、ありがとう!
今回、そしてアビドス編全体の感想を書いていただけると嬉しいです!モチベが上がります!
そして活動報告も更新しました!裏話たくさん書いてますのでぜひ!
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