デュエル・マスターズ Aoharu Revolution 作:カレーパンパフェ
周年で盛り上がっているところだと存じますが、どうかこっちも気にかけてやってください
ようこそ! ゲヘナデュエマさいこークラブ!
「‥‥‥どこもかしこも、火薬のにおいしかしない」
ゲヘナ、とある路地裏の一角。
ついさっきまで不良が抗争していたらしい場所で、少女は服についた粉塵をパンパンと払った。服が汚れるのは本人の職業柄だいぶ死活問題なのだが、幸いなことに替えは用意してあった。
「それにしても、キヴォトスってこんな野蛮なところなんだ‥‥‥クリーチャーワールドにも引けを取らないかも?」
こっちに来て早々いさかいに巻き込まれ、少女はご立腹といった様子だ。なおその背後には、頭に大きなたんこぶを作った生徒が何人か倒れていた。カツアゲに遭いそうになったから仕方なく返り討ちにしただけなのだが、悪いことをしたなぁと少女は思うのだった。
そんなことより、少女はわざわざこっちに来た目的があるのだ。その目的は、異世界のグルメ。
「クンクン‥‥‥ん、焼き料理っぽいにおい、かも?」
火薬のにおいと砂ぼこりまみれの中で、少女は鼻をひくつかせその匂いをかぎ分ける。今度はケンカに巻き込まれないよう、早足でその場所を目指した。
******
ヨーロッパ風の石造りの建物が立ち並ぶ大通り。
そんな雰囲気に似つかわしくない自転車がそこを通り過ぎていく。
操縦するのは銀髪に狼耳が映える美少女―――シロコである。
そして"先生"でありながら2人乗りとかいう危険運転をかます大人が、シロコの肩をしっかりつかみながらサドルのかなり後ろの方に腰を据えている。我らが主人公、切札勝太である。
高校生が運転する自転車に大人が乗せてもらっているというかなり情けない状況なのだが、キヴォトス的にはこれで正解であった。
ハンドルを握りながらぼーっと街並みを眺めていたシロコは、おもむろに口を開く。
「‥‥‥‥‥‥ゲヘナは治安が悪いって聞いてたけど、ケンカとか特に起きてないね」
「そりゃ、治安悪いっつっても四六時中じゃないだろ。あとなんで残念そうなんだシロコさんよ」
「ん、ゲヘナ学園にアビドスの名を広めるチャンス。ゲヘナの不良を鎮圧して、私の力を示すの」
「そんな名の広め方したら間違いなくアヤネに怒られるぞお前。俺も全力で止めるからな」
相変わらずバーサーカー思考なシロコを勝太がげんなりした様子でたしなめる。
しかし、自転車と並走するバカは乗り気であった。
「いいじゃんいいじゃん、かましちゃいなよアヌ‥‥‥シロコちゃん! もしよかったら、僕の新発明を――――――」
「おめぇはゼノテクアーマーの実験したいだけだろうが!」
「あと、いい加減名前覚えて。す、な、お、お、か、み、シ、ロ、コ」
「あーはいはい、ごめんごめん」
反省してないのが丸わかりであるミロクに、シロコがじとりとした目を向ける。アヌビスとかいう意味不明な呼び名をされるのにうんざりしていた。ホシノのこともホルスと呼んでいたし、なんでそう呼ぶのか不思議なものである。ミロクによると、黒服がそう呼んでいたからそう呼んでいるようだ。だったら勝太がシロコと呼んでいるのだからこれからはシロコと呼んでもらいたいものである。
"天才"ミロクが同僚の日常にもだいぶ慣れてきたものの、こいつの人の心がない一面には未だに、そしてたぶんこの先も慣れることはないだろう。
「で、勝太くんほんとに行くの? 闇の王候補のとこ」
「闇の王候補じゃねぇよ、ウィン」
「あー、またやっちった、ごめんごめん。それにしても、ウィンくんのとこってことは‥‥‥うへぇ邪神かぁ‥‥‥めんどくさー」
「じゃあなんでついてきたんだよ、事務所で書類整理するか研究するかしてればよかっただろ」
「いやいやいやいや、せっかく生徒ちゃんたちを間近で観察できる機会、逃すわけないでしょっ!」
興奮した様子で話すミロク。とはいえその興奮は「貴重な実験サンプルの観察」の比重が高めであるはずなので、勝太は何とも言えない気持ちになる。
「この世の生きとし生けるものすべては僕の実験対象だ、ミーロミロミロ!!!」みたいなタイプではなかっただけましだと考えるべきなのだろうか。
こいつが生徒やウィンの前で何かやらかさないか心配である。
で、なぜウィンのところに向かっているのかというと。
今日も今日とてシャーレの業務に励む勝太。
ゲヘナ学園にジェンドルの一件について報告書を提出しに来たのである。
それ自体はつつがなく終わった―――約一名キャンキャンうるさいのがいたが―――ので、先延ばしにしていたもう一つの予定を片付けることにした。
シロコを連れてきているのもそのためだ。
「楽しみだね、デュエマさいこークラブ」
「おう、キヴォトスにも本格的にデュエマしてるところがあるなんてな‥‥‥まぁウィンのおかげだけど」
デュエマさいこークラブ。
その名の通り、さいっこーにデュエマを楽しむための部活動である。
元の世界でウィンが設立した部活動で、小規模ながら楽しく自由に活動していたそうだ。
キヴォトスにやってきて臨時の学籍などのごちゃごちゃした問題が片付いた後、ウィンがいの一番に行ったのが部活動の設立だった。
だが、ゲヘナ学園に出張したデュエマさいこークラブには、一つ大きな問題があった。
「まさか、部室がないとは思わなかった」
「元の世界でも、使われてねぇボロ倉庫改造して部室にしてたらしいからな‥‥‥」
ゲヘナ学園の特徴、それはキヴォトス随一のマンモス校と言われるレベルの生徒数の多さである。
それに比例して部活動もそれなりに多い‥‥‥のだが、治安が治安、安全な部室は限られている。
当初、ウィンは元の世界でしたのと同じように空き家や廃墟を改造して部室にしようとしたのだが、不良グループのたまり場だったり、遠くの方で起きた爆発の衝撃波で崩れそうになったり、地下に源泉があるらしかったり―――。
とまあ楽しんでデュエマするどころではない環境の悪さだったのだ。
まがりなりにも部室が存在した元の世界とは違い、こちらではその部室すらない。そんな状況下で部員集めに着手できるはずもなく、現在部員数は4名だ。これでも元の世界の部員数より多い、という事実に勝太は耳を疑った。
先日、ウィンと始めて出会ったときのこと、勝太はデュエマさいこークラブの顧問に誘われた。
もちろんデュエマバカの勝太は即座に快諾。
さらにデュエマに興味のあったシロコが加入を希望した。
それで勝太とシロコは、もろもろが片付いたあとにクラブを訪れる約束をしたのである。
ジェンドルの件の後始末や、アビドスにかかりきりだった間に溜まっていたその他の雑務を処理するのに結構時間がかかってしまったが、ようやく時間をとることができた。
「私のドラゴンデッキ、完成するといいな」
「まあ集めなきゃいけないカードが多すぎるけどな。つってもデッキ組むヒントくらいはもらえんじゃね?」
しばらく自転車をひた走らせていると、目的の建物が見えてきた。
ゲヘナ学園の食堂である。
「私、駐輪場探してくる」
「オッケー、んじゃまた後でな」
自転車を留めに行ったシロコと別れ、勝太とミロクは食堂のドアを開ける。
「食堂か‥‥‥‥‥‥大将、やって――――――」
「おいフウカぁ! タコさんウィンナーはまだかぁ!」
「まだだって言ってるでしょ。 こっちは給食の仕上げで忙しいの」
「あ、フウカちゃん、もしよかったら私が―――」
「やめて! ごめんだけどぜっっったいにやめて!」
「…‥‥‥‥うるさい。満足に本も読めやしない」
「ジャシンくん静かに待ってなよ! タコさんウィンナー分けてあげないぞっと!」
「あわわわ‥‥‥みなさん落ち着いてくださーい!!!」
パタン。
勝太は扉をそっと閉めた。
小粋なボケを挟みつつ颯爽と現れるつもりが、それどころではない。
なんというか、ずいぶんと癖のありそうなメンバーだな、という印象だった。
「‥‥‥‥‥‥入んないの?」
「いや、入る入る」
ミロクに促され再びドアを開く。
さっきとは打って変わって、食堂の中は静かだった。
約一名、カードの中で喚いているやつがいるのはおいておく。
勝太の方を見ると、デュエマさいこークラブの部長は気まずそうに乾いた笑い声を発したのだった。
「えーと、先生。とりあえず、デュエマさいこークラブへようこそ!!!」
とりあえず邪神だけなんとかしとけば、このクラブは平穏なんだな。勝太はそう結論付けた。
***
「『切札勝太』‥‥‥っと。 よし、書類にサインしたぞ」
「やったーーー!!!」
ウィンは思わず歓喜の声を上げてガッツポーズ。
一同それを微笑ましそうな目で見る中、ゴーグルをかけマントを羽織った部員が口を開く。
「まあとにかく、これであの議長は黙らせられるんじゃないか? 顧問を用意しろとかいう無茶な要求にもちゃんと応えたわけだし」
「たぶん、無理だと思うよ。あの議長言ってることめちゃくちゃだもん。どうせすぐに難癖つけてくるよ」
「えぇ…………勘弁してほしいんだぞっと」
なにやらクラブには込み入った事情がある様子。
そのあたりはおいおい聞くとして、まずは顧問として、誰がクラブに所属しているのか把握しておかなければ。
「とりあえず、まずは部員の顔と名前は一致するようにしときたいな。というわけで、名前呼んだら返事してくれるか」
ウィンから渡された名簿に目を通しながら、勝太は部員たちの名前と顔を頭に叩きこんでいった。
さいこークラブ部長、斬札ウィン。
深淵を統べる邪神に選ばれた闇文明使いだが、底抜けに明るい性格からは闇っぽい要素はあまり感じられない。
穿田見。
長考の果てに最適な勝利プランを導き出すのが得意のようだ。愛称はウガタンらしく、勝太もそう呼ぶことにした。
本能寺カレン。
驚くべきことに忍者の一族出身らしい。いつか彼女の忍術を見てみたいものだ。
以上3名が、元の世界でさいこークラブに所属していた生徒だ。
部員数は少なく、様々ないざこざに巻き込まれながらも、楽しくデュエマに励んでいたらしかった。
そしてキヴォトスに出張したデュエマさいこークラブは、新たに一名部員を迎えたのだ。
それが、あの風紀委員長空崎ヒナである。
ファイアー・バードのデッキを手に入れた後、彼女はクラブの門をたたいた。
その多忙さゆえに顔を出す機会は極端に少ないが、来たときは楽し気にデッキをぶん回している。
扱いとしては未だ仮入部だが、本人は正式入部に前向きらしかった。
ちなみに入部はしていないものの、万魔殿のメンバーが二人よくクラブに来ているらしい。デュエマに興味津々な丹花イブキと、その保護者的立ち位置の棗イロハ。どうもヒナによれば、マコトがデュエマさいこークラブに強く当たっているのはイブキが通っているからと、ヒナが入ってるかららしい。難癖付けられる理由がまったく分からない勝太である。
以上ゲヘナデュエマさいこークラブ、現部員は四名。ここにシロコが加われば五名となり、そこそこの規模と言えそうだ。
もう一度名簿に目を通した勝太に、一つ気になることができた。
「んじゃあ、あそこで厨房に立ってる二人は部員じゃないってことか?」
「はい、私たちは給食部です」
「給食‥‥‥カレーパン、出たりするか?」
「いや、そんな手間かかるもの作れませんよ‥‥‥」
唐突な勝太の質問に、給食部部長、愛清フウカが呆れたように答える。その横では牛牧ジュリが困ったように笑っていた。
「あはは‥‥‥私たちは一日に5000人分の給食を作ってますから」
「揚げ物はよっぽど余裕あるときじゃないとできませんし、カレーは作ってもわざわざパンには詰めませんよ」
「そっかぁ‥‥‥‥‥‥」
「先生、露骨に残念そう」
肩を大きく落とした勝太がしょぼくれているのは誰の目にも明らかであった。
「そんなにカレーパンがお好きなんですか?」
「あったりまえよ! 一日三食食べても足りねぇくらいだ! カレーパンは俺の人生そのものっ! 俺、イズ、カレーパンとは言っても過言ではないっ!」
「‥‥‥一日三食カレーパンって、栄養バランスどうなってるんですか?」
「‥‥‥? 別に何も問題ねぇだろ」
「いや、大ありですよ」
ずっと揚げ物ばかり食べ続けるとか、生活習慣病まっしぐらである。
フウカの感想はごもっともなのだが、しかして目の前の男にはそんな常識など通用しないのであった。
「しかし一日5000食か‥‥‥カレーパンで良けりゃ俺も手伝えると思うけど、どうだ?」
「え、でもご迷惑じゃないですか?」
「いいのいいの、書類仕事とかは全部このポンコツロボットに押し付けりゃいいし」
「――――――はぁ!? いまボクのことポンコツって言ったぁ!? 仙界一の大天才であるこのボクをぉ!?」
「ツッコむとこそこかよ。じゃあ、天才なら書類仕事くらい一瞬で終わるよな?」
「そんなことしてる暇ないし! ボクはゼノテクアーマーの研究で忙しいのっ!!!」
「んなこと言ったら、俺だってキヴォトスのパン屋巡りするのに忙しいわ!」
互いに自分の要求を突きとおすことしか考えておらず、妥協とか譲り合いとかいう言葉は一切見当たらない。なんてくだらない会話なのだろうかと、当事者を除く全員が思っていた。
「そんな風に言い争いになるくらいなら結構ですから」
やれやれと言った様子で言いながら、フウカが焼きあがった山盛りのタコさんウィンナーを机の上に置く。その瞬間、といっていいだろう。とんでもない速さでジャシンがカードから飛び出し、タコさんウィンナーを貪り始める。
「ちょっ、待てよジャシンくん! 俺も食べるんだぞっと!」
「ウィンよ、貴様が出遅れたのが悪いのだぞ!」
「二人とも、ほんとにタコさんウィンナーが好きですよね」
ジュリはニコニコしながら眺めているが、ウガタとカレンは苦笑い。フウカに至ってはあからさまに溜め息を吐いてみせた。
「ジャシンが来てから、何回タコさんウィンナーを焼いたことか‥‥‥」
「‥‥‥ドンマイ」
フウカの心中を察し、勝太が彼女の肩をポンと叩いて慰める。
と、その時、食堂のドアが再び開いた。シロコが自転車を留めて戻ってきたのだろう。
それは半分正解で、半分間違いだった。
「よ、シロコ。ずいぶんと遅かったじゃねぇか」
「道に迷ってたこの子と一緒だったから」
「ん? 連れがいるのか」
シロコに連れ立って、人影がもう一つ食堂に現れる。
きらびやかな装飾のついたオレンジ色のエプロンドレス。クリームのように真っ白できれいな髪を二つに分けて結んでいる。宝石のような青い瞳、その上には一対の兎の耳があった。
「やっと、やっと見つけた! まともなご飯にありつけそうなところ!」
疲労を漂わす声で、兎耳の少女は興奮して目を輝かせる。
「そこの二本ヅノのあなたたち‥‥‥もしかしてこの食堂のスタッフかしら?」
「スタッフだなんて、ここはそんな大層なものじゃないんだけど‥‥‥」
得体のしれない人物に突然見当違いなことを言われフウカが困惑する。しかしその少女はフウカの様子を意に介さず、自己紹介を行った。
「私はメイ。食を通じて、キヴォトスの人たちと交流をしたいと思ってるの。どうかお見知りおきを!」
******
ほぼ同時刻、深淵にて。
アビスたちが集会を開いていた。
「邪神サマばかりずるくないか?」
「確かに、あの大量のタコさんウィンナーは魅力的だ‥‥‥」
「ちょっとくらい分けてもらってもいいのでは」
「邪神サマがそんなことをなさるとお思いで?」
一同は一斉に首を横に振った。
「こうなったら、一瞬だけ反旗を翻して‥‥‥」
「バカ言え! 俺たちが邪神サマにかなうわけないだろう!」
「じゃあ、あの角の生えたガキをさらってくるのはどうだ?」
「何言ってんだ!? あいつは邪神サマの専属タコさんウィンナー料理人と化してる! そんなやつをさらってみろ‥‥‥」
一同は一斉に顔を青ざめさせた。
フウカからしたらとんでもない風評被害である。
と、その時だった。
「なにやら楽しそうなお話をしていらっしゃいますわね♪」
「ひぃ!?」
半ばふざけたように愚痴をこぼしていたアビスたちが、おそるおそるといった様子で後ろを振り返る。
邪幽、ジャガイスト。
邪神すらも手を焼く、獰猛なるアビスドラゴンが一柱。
「たこさんうぃんなーとやらは存じ上げませんが‥‥‥なるほどなるほど――――――」
鋭い牙をむき出しにして、ジャガイストが嗤う。
「あの娘をさらえば、クソ邪神と対決する機会が生まれる、と。そのような理解でよろしくて?」