デュエル・マスターズ Aoharu Revolution   作:カレーパンパフェ

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襲来! 邪幽ジャガイスト!

「んー! おいしいっ! これが人間界の食べ物なのね!」

 

「ほんとはもうちょっとちゃんとした料理を作ってあげたいんだけど‥‥‥ごめんね間に合わせで」

 

 ある日の昼下がり、ゲヘナ学園の食堂に突如現れたのは「龍后幻獣 パティシエ・メイ様」。

 料理、特にスイーツをこよなく愛する天才パティシエである。

 そんな彼女は、現在フウカから差し出されたタコさんウィンナーに舌鼓を打っていた。

 

「いいよいいよ、これも十分美味しいし!それはそれとして、フウカちゃんの本気のお料理も食べてみたいかも!」

 

「また時間取れたときにでもどう? 忙しいし、だいぶ待たせちゃうことにはなりそうだけどね」

 

「ほんとに! ありがとうフウカちゃん!」

 

 二人とも料理好きであり、意気投合は早かった。ちゃっかり今後会う約束まで取り付けている。

 そんな微笑ましい光景を一同は和みながら見ていた、ただし一体を除いて。

 

「くそ、我のタコさんウィンナーが‥‥‥」

 

「はいはい、俺たちはほぼいつでも作ってもらえるだろ。気にしすぎもよくないぞっと」

 

「ずいぶんと食い意地が張ってやがるな、この邪神」

 

「先生に言われたくないと思うよ」

 

「シロコ?」

 

 カレーパンに対する執着がひどい勝太であるため、シロコからのツッコミは真っ当である。しかし勝太は心外だと言わんばかりの顔をしていた。

 自分のことを棚に上げる、ということわざのいい例が眼前にあった。

 

「たしか、シラハマにいるころからそうなんだっけ?」

 

「そうそう、ウィンくんのお父さんが焼いてたのを食べたらハマっちゃったみたいで」

 

「それはいいんですけど、給食部の予算を圧迫するのはやめてほしいですね‥‥‥‥‥‥」

 

 ジュリが苦笑しながら言う。予算を圧迫するほどの消費量とは、一体どのくらいなのだろうか‥‥‥。

 

「はぁ、うちはただでさえ万魔殿から活動経費減らされてるってのに。最初は善意で焼いてあげたんですけど、味を占められるとこっちとしても困るんですよね」

 

「もしかして、割とバカにならない影響出てないか?」

 

 勝太の問いかけに、フウカが無言でうなづく。テーブルの対岸で美味しそうにウィンナーを頬張っていたメイがフォークを止めてしまうくらいには、疲れ切った目をしていた。

 

「あ、いいのいいの気にせず食べて」

 

「そ、そう? まあ、これだけ山盛りだと食べきれないから、そろそろ止めようと思ってたし」

 

 そう言うとメイはタコさんウィンナーの盛られた大皿をジャシンの方へと差し出した。

 瞬く間にジャシンがウィンナーへ飛びつき、貪り始める。

 ウィンはそれに苦笑しつつも、しれっとフォークを取り出してウィンナーをつまみ始めた。

 

「ウィンナーが取られちまったってんなら、こいつはどうだ? カレーパン!」

 

「カレーパン? 人間の世界にもあるのね‥‥‥いただこうかしら」

 

「え、カレーパンは超獣世界にもあるの?」

 

「カレーパンに限らず、共通してる料理は多いかも? タコさんウィンナーは初めてだったけど、ウィンナーとかソーセージはあると思うし」

 

「へぇ‥‥‥クリーチャーも結構文化的なんだね」

 

 風紀委員が暴れるクリーチャーを取り押さえたみたいなニュースや、邪神やアビスの面々しか見ていなかったフウカ。クリーチャーに対して知的なイメージはなかったのだが、認識を改めることとなった。

 

「おい‥‥‥我らに対して不敬なことを考えてないか?」

 

「いや別に」

 

「ふん。タコさんウィンナーに免じて許してやろう」

 

「なにも言ってないんだけど?」

 

 勘が鋭いジャシンに失礼な思考を指摘されたあげく、なんか勝手に納得された。釈然としないフウカである。ウィンたちがゲヘナにやってきてからそれなりに経つが、やはりジャシンのことはよくわからない。傲岸不遜かと思えばやけにウィンには甘いし、掴みどころのない感じであった。

 今度は美味しそうにカレーパンを食べているメイの方を向く。

 会ったばかりだけど、ジャシンと違ってこの子は非常にわかりやすい。ただただ食事を楽しんでいるのが伝わってくるし、初対面のフウカにもフレンドリー。人間に近い姿をしているというのもあり、親しみやすい印象を受ける。

 

「ごちそうさまでした! フウカちゃんに勝太さん、ありがとう!」

 

「お粗末さまでした。どういたしまして」

 

「気にすんな! また食べたくなったら遠慮なく言えよ!」

 

 勝太はどこからともなく追加のカレーパンを取り出し、一口食べる。

 どれだけカレーパン抱えてるんだろう‥‥‥とフウカは怪訝そうな顔をし、メイも若干の困惑を覚えていた。

 そんな表情で見られているとは思っていない勝太は、カレーパンを食べ進めるかたわらシロコの方を見やる。

 

「このカードと‥‥‥あと、ドギラゴンも使いたい」

 

「バトガイ刃斗にドギラゴン‥‥‥となると、モルトDREAMかな?」

 

「確かに勝太先生が使ってるの見ると、ドギラゴンにあこがれちゃうよな!」

 

「バトガイ刃斗を使うならドラグナー一択だが、ドギラゴンには種類があるからな」

 

 さいこークラブの面々と、楽しくデッキ構築をしていた。アビドスからあまり離れたことがないと言っていたので少し心配もしていたが、杞憂だったようだ。早速クラブの雰囲気になじみ、デュエマ談義に花を咲かせていた。

 その様子を見ていた勝太に、ジュリが声をかける。

 

「ああいう風に、普段から楽しそうに話してるんですよ」

 

「確かになんかいい雰囲気だよな。シロコは普段から忙しそうにしてるし、定期的に連れてきてやんねぇと」

 

 アビドスの面々は総じて借金返済に追われている。この間の一件で多少は余裕ができたようだが、それでもまだまだ努力は必要だ。その努力に見合った対価として、ちょっとくらいならデュエマに時間を割いてもバチは当たらないだろう、なにより――――――。

 

「銀行強盗の計画立てるよりかは、よっっっぽど健全な趣味だろうし」

 

「‥‥‥? 銀行強盗、ですか?」

 

「いや、こっちの話だから気にしないでくれ」

 

 なんとなしにつぶやいたのをジュリに聞かれ慌ててごまかす勝太。そのやり取りを聞いていたフウカは、あの子も曲者なんだろうなと内心思ったのだった。

 

「で、普段からああいう様子見せられて、二人はどうなんだ? デュエマ、興味あったりしねぇか?」

 

「す、すごいぐいぐいきますね‥‥‥」

 

「別にいーんじゃないのぉ? 見てるだけで楽しいって人もいるだろうし」

 

 先ほどから隅の方で端末をいじっていたミロクが唐突にやってきて口を開く。

 完全に空気と化してしたので、急に声がして勝太は少し驚いた。

 

「なんだよ。てっきり帰ったのかと思ったぜ」

 

「ジャシンを観察してたんだよ。まあ絆されちゃって、だいぶ意外だったね。それより――――――」

 

 ミロクがメイの方を見やる。

 彼女は、メイの持つ「龍后」という肩書の意味を知っているので、何か厄介ごとを持ち込んでこないかと心配になっているのだ。

 なおゲヘナにはもう一人「龍后」がいるので厄介ごとが起きるのは確定事項ともいえるのだが、それをミロクは知らない。

 

「きみ、どうしてまたキヴォトスに来たの? 迷い込んだって感じでもなさそうだし。まさかとは思うけど、大王の命令だったりとか」

 

「あ、そんなんじゃないよ。確かに人間との交流を増やして大王様がお喜びになることもなくはないと思うけど‥‥‥それはドラゴンの布教ができたときだろうし」

 

 ドラゴンの布教ってなんだ‥‥‥と勝太と給食部の二人は思ったが、メイが特に触れることもなく話を進めたのでスルーせざるを得なかった。

 

「私としてはただ美味しいお料理を作って、みんなを喜ばせてあげられればそれでいいんだけど‥‥‥。 お店のオーナーである以上、販路とかも確立して利益を出さないといけないのよね」

 

 嫁ぐことになれば引退も視野に入るし、なるべくお金周りは潤沢にしておきたい。それが料理人ではなく、オーナーとしてのメイの目論見であった。

 

「そりゃまた、世知辛いな」

 

「そこでキヴォトスに目を付けたの。最近デュエル・マスターズが輸入された未知の世界‥‥‥超獣世界(クリーチャーワールド)の料理、きっと興味を持ってもらえるはず!」

 

「てことは、メイちゃんはキヴォトスにお店を出そうとしてるの?」

 

「その通り! グラン・メゾン・ドゥ・メイ様のキヴォトス出張店! 話題性も抜群なはず!」

 

「だからここに来た時、料理を出してほしいって言ってたのか」

 

 フウカがタコさんウィンナーを差し出したのは、メイが料理を要求してきたからである。どうも不良たちの抗争に巻き込まれたらしかったので、そこで体力を使ってお腹がすいたのかな、と勝手に解釈していた。実際は人間の食の好みを探ろうとしていたわけである。

 

「でも、メイちゃんはなんでゲヘナにきたの? 悪いこと言わないから、お店出すならぜっっったいにトリニティとかの方がいいと思うよ」

 

 ゲヘナ学園は、キヴォトス随一のマンモス校。それだけに収益も見込めるとは思うが、いかんせん治安が悪い。何か騒ぎに巻き込まれてお店に被害が出たら大変だ。それに「グランメゾン」というのは、こっちでは超高級なフランス料理店を意味する。だったらなおさら、お嬢様志向のトリニティとかに出店する方がいいだろう。

 考えれば考えるほどゲヘナには向いてない気がするのだが、メイの返答は不本意だが納得のいくものであった。

 

「それは、ゲヘナ学園には食事に詳しい部活動があるって聞いて‥‥‥」

 

 メイ様がそう言ってから、フウカが頭を抱えて大きな溜め息を吐くまで一秒もかからなかった。

 十中八九、あのイカレたテロリスト集団のことだろう。完全に頭から抜け落ちていた、いや、そうであってほしくなかったから無意識に考えていなかったのだろう。

 テーブルにカードを広げデュエマ談義していた面々も、ぎょっとした表情でこちらを向いた。

 ピンと来てないのは勝太とミロク、メイの三名である。

 

「先生、美食研究会知らないの? 私でも知ってるくらいなのに」

 

「いや、知らねぇな‥‥‥美味しいカレーパンのある店とか知ってんのかな」

 

「それはまあ、知ってるかもしれないんですけど‥‥‥美食研究会っていうのは、美味しい食事のためなら手段を選ばないテロリスト集団なんです」

 

「て、テロリスト!?」

 

「それこそフウカ先輩も、何回も何回もさらわれたりして」

 

「誘拐が日常茶飯事か‥‥‥終わってんな」

 

 改めてキヴォトスの治安の異常さを思い知らされる勝太。食事のためにテロまで起こすとは見上げた根性だが、それはそれとして普通に説教もの、というか逮捕ものである。

 なお勝太もカレーパンのためには比較的手段を選ばない方ではあるので、あんまり人のことは言えずもやもやしていた。

 

「‥‥‥それだけなら、まだいいんですけどね。ハルナ――――――美食研の会長なんですけど、あいつの舌は本物の美食家のそれなんです。だからメイちゃんの判断は間違ってないと思うよ」

 

 先ほどメイと話していたときとは打って変わり、露骨にフウカのテンションが下がっていた。一応腐れ縁ゆえにハルナの連絡先は持っているフウカだが、やはり若干のためらいは生まれる。

 

「ふ、フウカちゃん? だ、大丈夫?」

 

「いや、大丈夫、大丈夫だから」

 

 おどおどとした様子でメイが聞いてきたが、フウカは安心させるように返事を返す。

 

「ちょっと‥‥‥待ってね‥‥‥‥‥‥いま、あいつらを‥‥‥‥‥‥呼ぶ、から」

 

 メイに優しくしてあげたいという思いやりと、あいつらを呼んだら確実に面倒なことになるという憂鬱感で板挟みになるフウカであった。ギリギリのところで天秤が思いやりに傾き、死んだ目をしながら件の相手をコールした。

 

「もしもし、ハルナ?」

 

『あら、フウカさんからお声がけいただくとは、嬉しい限りです』

 

「いや、用があるのは私じゃないんだけど‥‥‥‥‥‥待って、何この音」

 

 電話の向こうから聞こえてきたのは爆発音。

 

『実は風紀委員会に追われていまして‥‥‥しかし素晴らしい食材を手に入れましたので、いまお迎えに――――――』

 

 フウカは電話を切った。

 やはりあいつらはろくなことしない。メイには絶対に会わせないようがいいと思ったのだった。

 

「ごめんメイちゃん。ちょっとハルナ、いま取り込み中みたいで」

 

「声ひきつってるぞっと」

 

 デリカシーのない発言をするウィンの方を軽くにらむと、フウカは再度溜め息を吐いた。

 

「もしかして、そのハルナって人とフウカちゃん仲が悪いのかな? 連絡先だけ教えてくれれば、私一人で――――――」

 

「それこそやめた方がいいと思う!」

 

 あいつらのいるところに行こうものなら、どんな面倒ごとに巻き込まれるか気が気でない。それなら、向こうがテロをやってない間にこちらから呼ぶ方がまだましである。そう考えたフウカは全力でメイを制止した。

 

「まあ大丈夫。近いうちに会えると思うよ。たぶん檻の中とかだろうからシチュエーションは最悪だろうけど」

 

「そ、そうなんだ、へぇ‥‥‥」

 

 ここまでくると、さすがのメイも触れてはいけない話題なのだと察して口を閉じた。そうしてどうにか話題を変えようと頭を巡らせていると‥‥‥。

 

「っ?」

 

 ぞわっと、全身の毛が逆立つような感覚。思わずイスから立ち上がってあたりを見回してみるが、何もない。

 

「め、メイちゃん? どうかしたの?」

 

「いや、なんでもない、と思う。ただ、なんか怖いものが近くにいる気がして」

 

「はあ、大方我の眷属だろう。タコさんウィンナーにつられてやってきたか?」

 

 歯切れが悪そうに話すメイに対し、自分の見解を述べるジャシン。

 しかし直後に起こった出来事は、ジャシンにとっても想定外の出来事であった。

 

 フウカの影から、鋭いかぎ爪を持つ竜の手が姿を現す。そしてそのまま、彼女を鷲掴みにした。

 

「‥‥‥‥‥‥え?」

 

 あまりにわけのわからない状況に全員の思考が硬直する。そしてその隙を、竜は見逃さなかった。

 

「うわああああああ!!!!!!??????」

 

「フウカーーー!!!???」

 

 フウカの体が宙に浮く。

 そのままあたりのテーブルを粉砕しつつ飛び上がる。

 翼の羽ばたきが爆風を生み、壁がひび割れ調理器具が散乱する。

 その勢いのまま、竜は食堂の天井をぶち抜き大空へと舞い上がった。

 

「しょ、食堂が――――――!!!」

 

 自分の身より、先に食堂の崩壊っぷりを嘆くフウカ。

 ツッコミどころではあったが、そんな悠長にしている暇などない。

 勝太たちが見上げた先にいたのは、漆黒のドラゴン。

 

「ジャガイスト、貴様か!」

 

「みなさま、ごきげんようですわ♪」

 

 宙ではばたくジャガイストは器用にカーテシーを行い挨拶する。

 ただしその口調や礼儀作法は形だけのものであり、相手に対する敬いなどというものは全く感じられない。

 

「おいてめぇ! ジャガイモだかなんだかしらねぇが、フウカを離しやがれ!」

 

「はぁ? 人間風情が、私をイモ扱いなどと‥‥‥ふざけんじゃねぇですわ」

 

 見せしめのつもりか、ジャガイストは口から怪光線を照射! 勝太を狙ったその一撃は今度は上から食堂の天井をぶち抜く。それは瞬く間に着弾、勝太の身が本来ならば丸焦げになる。しかし、標的にされた勝太は無傷であった!

 

「‥‥‥ほう、私の一撃を防ぐとは」

 

「おー、すげぇなシッテムの箱。バリアの機能までついてるのか」

 

『ふっふーん、先生の安全はこのスーパーアロナちゃんに任せてください!』

 

 よほどのことがない限り、勝太の安全はアロナによって保障されている。

 画面の向こうでアロナが自慢げな表情をしていた。

 

「我が出るまでもないか。興味深いな、その匣とやら」

 

「あ、邪神もそう思うんだ。ぜひとも研究したいとこなんだけどさー、あれ"先生"にしか起動できないみたいなんだよねぇ」

 

「二人とものんきすぎるぞっと‥‥‥」

 

 危うく先生どころか、余波で自分たちまで重傷を負いかねないところだったのだ。何事もなかったかのように会話する二体を見て、やっぱ感性が違うんだなこいつらはと一同は思うのだった。

 

「ちょっと名前を間違えただけで攻撃してくるなんて‥‥‥。先生、きっとあいつ沸点が低い。冷静さを失った状態ならチャンスはある」

 

「‥‥‥‥‥‥安心しろウィン。こっちにも怖いのがいるぞ」

 

 唐突に現れたドラゴンを前にしても、シロコは肝が据わっていた。冷静にジャガイストを観察し、隙を伺っている。どこぞの戦闘民族かよ、と勝太は思うのだった。

 

「ジャガイスト! なんでフウカを狙う!」

 

「別に、ただの嫌がらせですわ? たこさんうぃんなーとやらがそこのクソ邪神の好物だと聞いたので。この子の腕の一本二本折ってやれば、ジャシンに一泡吹かせ――――――」

 

 ウィンが瞬く間に前に出て、カードをかざす。

 主の承認により、ジャシンが一時的にその力を解放した。愛により至った、至高の魂の領域へと。

 

「ふんっ!」

 

「だぼぁ!?」

 

 片翼をはためかせ超速でジャガイストに接近したジャシンは、その顔面を思いっきり殴打。空中でバランスを崩したジャガイストは、たまらずフウカを拘束していた手を放してしまう。

 

「いやあああああああああ!!!???」

 

「ちょっ、あぶねぇ! っとととおとと、うしっ」

 

 フウカの落下地点を予測しようと勝太はカニ歩きで左右にばたばたと動く。無事フウカは勝太の腕の中にすっぽりと落ちてきた。

 

「あ、ありがとうございます‥‥‥」

 

「よしよし、怖かったな。もう大丈夫だ」

 

「あ、いえ、泣いてるのはあいつが怖かったからじゃなくて‥‥‥」

 

 宙にぶっ飛ぶとか重傷負いそうな危機的状況とかには、美食研に幾度となく誘拐されているせいで非常に不本意ながら少しずつ順応できてしまっている。

 彼女の脳内は食堂の修繕費用のことで埋め尽くされていたのであった。

 

「もう一度、お前の立場をわからせてやる必要がありそうだな‥‥‥ウィン!」

 

「あんまり街とか壊さないでよ? 怒られるの俺なんだから」

 

「保証はできんな」

 

 にやりと笑いながら、ジャシンはジャガイストに向けてラリアットを放つ!しかしジャガイストはこれを牙で噛み衝撃を殺すことで受け止める。

 

「ようやく私と戦う気になりましたのね!? あはははははは!!!」

 

 ジャガイストはアビスの眷属。当然ジャシンが至高に至ったことで彼女も進化を迎えている。体色が炎のような鮮やかなオレンジと、仄暗いブルーグリーンに染まっていき、「ジャジーガイスト」の力が解放された。

 

「戦う? 勘違いするなよ。これは調教、そして蹂躙だ」

 

******

 

「しっかしまあこっぴどくやられたな‥‥‥」

 

 勝太が周囲を見回す。

 天井に大穴、ところどころ穴の空いた壁、塗装の剥がれた床‥‥‥‥‥‥

 状況は悲惨極まりないものであった。

 

「‥‥‥‥‥‥せない」

 

「ん?」

 

「許せなぁい!!!!!!」

 

 食堂半壊というキャパオーバーな出来事がきっかけとなり、フウカの感情が爆発した。

 

「毎日毎日大量の給食作るのはいいよ? 好きでやってるんだもん。でも誘拐されたりバカみたいな量のウィンナー焼かされたりするのは違うでしょうが! 挙句の果てに食堂ぼろぼろにされて!!!」

 

「お、おちつけって、そうだ、食堂の修理費用、シャーレの経費で落としとくから――――――」

 

「それはありがたく頂戴しますけど! ぐぬぬぬぬぬぬ‥‥‥‥‥‥」

 

「お、おぉ」

 

「終わりだ‥‥‥またあの議長に言いがかりつけられて予算減らされるんだ‥‥‥」

 

 すべてを諦めたような消え入り声でフウカが嘆く。

 そんな彼女の肩を、ぽんと叩く人影があった。メイである。

 

「わかる、わかるよフウカちゃん。私も頑張って建てたお店が踏みつぶされるとか、燃やされるとか、よくあったし」

 

「メイちゃん‥‥‥」

 

「殴りに行こう、あのクソトカゲ」

 

「え?」

 

 同情してくれているのか、と思ったフウカだったが、蓋を開けてみればとんでもない提案が飛び出してきた。

 

「私たちが力を貸すよ。泣き寝入りでいいの?」

 

 思えば、ハルナしかりマコトしかり、理不尽に対して報いたことは少なかったとフウカは思う。しかし無理もない。戦闘に関して自分はからっきしだし、言葉で責めてもあいつらの心が動くことはない。

 正直な話、ジャシンがジャガイストをぶん殴ってくれればある程度はすっきりできるんだけどなぁ、とフウカは考えていた。

 しかし本人がそう思っていても、周りのやる気が段違いであった。

 

「メイ、よく言った!」

 

「うわ、びっくりした‥‥‥先生?」

 

「ジャガイストをぶん殴りに行くんだろ? 俺も手伝う!」

 

 ニッコリと笑って勝太がサムズアップ。

 その後ろには、同じようにサムズアップしているシロコや、デュエマさいこークラブの面々もいる。

 

「でも、私たちだけじゃジャガイストは倒せないですよね‥‥‥? それこそヒナ委員長とかを呼んでこないと‥‥‥」

 

「ちょっと待ってジュリ。なんで倒しに行く前提なの」

 

「そりゃジュリの不安はもっともだよ。俺がコイツ使って指揮したとしても限度ありそうだし」

 

「先生も! 話を聞いて!?」

 

 シッテムの匣をいじりながら、ジュリのごもっともな疑問に答える勝太。

 今回彼が指揮可能な生徒はシロコ、フウカ、ジュリのみ。ぶっちゃけ真正面からジャガイストに挑むには不安な戦力なので、別の手段を使うつもりだった。

 

「ヒナを呼ぶってのもありだが、それは最終手段だ。代わりに使うのは‥‥‥‥‥‥こいつだ!」

 

「え、デュエマ?」

 

 勝太が腰のケースからデッキを取り出し言う。

 ジャガイストに対抗する手段は、まさかのカードゲーム。

 フウカもジュリも困惑しかなかった。

 当然キヴォトスでは、カードゲームでクリーチャーをなぎ倒すなんて発想は得られないからである。

 

「いや‥‥‥‥‥‥え、ジャガイストってクリーチャーでしょ? デュエマできるの?」

 

「それはできると思うぞっと」

 

「できるだろうね」

 

「できると思う」

 

「できるんじゃない?」

 

「なんでこうも意見が一致するの!?」

 

 そういう世界で生きてきたからである。

 それ以上でもそれ以下でもなかった。

 

「で、でも先輩はデッキ持ってないですよ?」

 

「そうそう、だからここはジャシンに任せて――――――」

 

「あ、デッキなら私が持ってるよ」

 

「メイちゃんっ!?」

 

 まさかの角度から外堀が埋められた。

 にこにこしながらデッキを差し出してくるメイに対し、フウカの作り笑いは若干ひきつってしまった。

 

「えと、でも私ルールとかもなんとなくしかわからなくて――――――」

 

「ウガタン」

 

「ああ、俺たちのやることは決まったな」

 

 いそいそとカードボックスを取り出しながら、ウィンとウガタがキラキラした目でフウカのデッキを見ている。

 

「じゃあ、先輩がお二人からレクチャーを受けるなら、トラックの運転は私がしないとですね!」

 

「トラック?」

 

「ジャシンさんとあのドラゴンさん、結構遠くまで行っちゃってますから」

 

「どれどれ‥‥‥? おー、ほんとだ」

 

 窓の外を見てみれば、既にジャシンとジャガイストは肉眼でぎりぎり見えるくらいのところで戦っていた。

 というか位置的にばりばりの市街地だ。被害が拡大していないといいのだが。

 

「ていうか、ジュリはなんでやる気なの‥‥‥」

 

「だって、私たちの食堂をこんなになるまで壊したんですよ! さすがに許せません!」

 

「それは、そうだけど‥‥‥」

 

 あの美食研ですらここまではやらない。いちいち壁をぶち抜かれるのも大概だが、今回は被害のレベルが違い過ぎだ。

 

「じゃあ、私たちが護衛役だ」

 

「そうだね。シロコちゃん、だっけ。よろしく!」

 

 ジャシンとジャガイストの戦闘の余波から、戦えない面々を守る大事な役割はシロコとカレンの担当だ。

 

「で、ミロクは」

 

「は?」

 

「空気読めよ。みんながそれぞれの役割を発表してるだろ」

 

「いや、勝太くんはどうなのさ」

 

「俺? シロコとカレンの指揮」

 

「ふーん」

 

 そうしてミロクは手元の端末をいじり始めた。

 こいつに空気を読むという機能はないらしかった。

 

「で、どうするフウカ?」

 

「はぁ‥‥‥わかりました。ジュリや他のみんながやる気満々なのに、当事者が黙ってるわけにも行かないものね」

 

 半ばやけくそだったが、それでもフウカは逆襲を選択したのだった。

 

「そうと決まれば早く行かないと! ジャシンくんに先を越されちゃうぞっと!」

 

 大量のカードが詰まった箱を両脇に抱え、どこかわくわくしているようにも感じられる声でウィンが言う。

 

「うっしゃあ! 行くぞお前ら、あのクソドラゴンに一発ぶちかましに行くぜぇ!」

 

「先生‥‥‥本当に大丈夫なんですよね?」

 

「‥‥‥たぶんな!」

 

「ねぇ!? ほんとに大丈夫なんですかこんな悪ノリみたいな雰囲気で行って!!!!」

 

 かくして、根拠のない自信と一抹の不安とともに、フウカと勝太たちの逆襲が始まるっ!!

 果たして、好き勝手やっているジャガイストに一泡吹かせることはできるのかっ!!

 次回、フウカの初デュエマが幕を開けるっ!

 

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