デュエル・マスターズ Aoharu Revolution   作:カレーパンパフェ

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怪しさ満点!? 担任勝太と補習授業部っ!

 

 時は、勝太が―――と会話した不思議な夢を見た前日に遡る。

 

******

 

「先生、意外とマナーいいんだね」

 

「初対面なのに失礼じゃね?」

 

 トリニティ総合学園、学園の荘厳な景色を見渡せるそのテラスにて。とある生徒たちに呼び出された勝太は、高そうなケーキに舌鼓を打っていた。

 前回訪問したときはホシノの身の安全がかかっていたためいつもの格好にシャーレの白外套を羽織っただけだったが、今回はしっかりスーツを着込んでいる。慣れない格好をしているため歯がゆい思いをする勝太だったが、こんな豪奢な場所に呼び出されて正装で来ないのもなんだか失礼な気がしたのだ。

 勝太と同じテーブルを囲むのは二人の生徒。

 一人目は桐藤ナギサ。ホシノ救出の依頼をしに行ったときに会話はしたものの、それきりだ。時間をかけてしっかりと話をするのは今日が初めてである。もう一人は勝太も初対面。ナギサと同じくティーパーティーのホストの一人、聖園ミカだ。丁寧で落ち着いた雰囲気のナギサとは対照的に、ミカはあまり落ち着きがなくおしゃべりだ。その割には仲が良い様子なので、相性というのは分からないものである。

 いまはアイスブレイクということで、テーブルに並べられた色とりどりのスイーツを食べているところだ。その最中に飛び出したのがミカのあの発言である。

「ミカさん。客人に対してそのような発言をするのは失礼ですよ」

 

「いや、いいって。意外な目で見られることくらい俺もわかってるよ‥‥‥それはそれとして失礼なのはナギサに同意だ」

 

「えぇ~途中ではしご外してくるのはずるじゃん」

 

 擁護されていたと思ったら突如文句を言われて不満げなミカ。その様子に勝太はわりぃわりぃと両手を合わせて平謝り。ナギサは呆れたようにため息を吐いて、それからティーカップに口をつけた。

 ナギサからしたら、切羽詰まる事案なのでなるたけ早く本題に行きたかったのだが。ミカが提案したアイスブレイクに勝太が乗っかってしまったため仲良くお茶会をすることになっている。一応招待した側なので強硬な態度をとるのも失礼かと思い、このような空気になったわけだ。

 内心苦々しく思っているナギサをよそに、勝太とミカの話は弾んでいく。

 

「先生って、いいウワサも悪いウワサもたくさんあるけど、全部ほんとなの?」

 

「‥‥‥例えば?」

 

「そうだねぇ‥‥‥生徒の足を――――――」

 

「断じて違うっ!!!」

 

 初対面であるにも関わらず、二人の間では話が盛り上がっているようだ――――――なんだか話題がおかしいような気もするが。雲行きが怪しくなりそうなので、ここらが頃合いだろうと思いナギサが本題を切り出した。

 

「‥‥‥そろそろ、本題に移らせていただいてもよろしいでしょうか」

 

「えー。ナギちゃんのケチ。せっかく先生と楽しくおしゃべりしてたのに」

 

「それは会談が終わった後にいくらでもどうぞ」

 

「これが終わったら? 私だってホストだし、山積みの仕事があるんだよ? シャーレの先生だって忙しいだろうし、今度お話できるのはいつになるか分かんない」

 

「おしゃべりよりこちらの要件の方が大事ですのでっ!」

 

 ひゅっ、と音が鳴ったかと思うと、気付けばミカの口にはナギサの特製ロールケーキがぶち込まれていた。なめらかなクリームにふわふわのスポンジと贅沢な一品。しかし高頻度でこれをぶち込まれていては、さすがに誰でも飽きてくる。現にミカは特段美味しいといった感じの表情ではなく、「んー! んー!」と呻きながら懸命に口を動かしている。

 

「こほん‥‥‥お見苦しいところをお見せしました。本題に入りましょう」

 

「あ、はい」

 

 これは怒らせてはダメなやつだ、と勝太は悟った。普段は清楚そうな面をしながら、ふとした瞬間に強硬な手段を取るその姿はでこちゃんと似ている。嘘だ。でこちゃんほど豪胆ではないだろう。ナギサに失礼かもしれない。すると、目が笑っていない愛妻の顔が脳内に浮かんできたので、慌てて勝太はその考えを打ち消した。

 で、肝心の本題である。

 正直面倒ごとは後回しにしてもう少しアイスブレイクの時間に浸っていたかったのだが、ナギサからの心証が悪くなるのはごめんであった。しばらくナギサとミカから説明を受ける勝太。依頼内容は、成績が悪い生徒たちへの授業を行い、追試験に合格させてほしい、というものだった。

 

「補習授業部ねぇ‥‥‥」

 

「そうそう! 落第しそうな子たちを、先生に助けてほしいんだ♪」

 

「復活はえぇな」

 

 ロールケーキを食べきり早くも復活したミカが勝太に期待のこもった目を向ける。「先生」としては非常に真っ当な業務ではあるのだが、なんせシャーレに入ってからそんなものは一度もやったことがない。たいていが書類仕事との格闘、まれに近所の人助け。アビドスや百鬼夜行、レッドウィンターのような要件はごくまれであり、かついま挙げたいずれも勉強とは程遠い項目ばかりであった。

 ぶっちゃけ、中学時代の勝太の成績は超がつくほど悪い。そんな自分が教師をやることになったのだから、不思議なものである。とはいえ誰かに教えるなんて経験は当然ながらしたことないため、当たって砕けろ的なスタンスを取ることになるわけで。

 

「言っちゃなんだけど、俺に任せていいのか?」

 

「ええ、そこに異論はありませんとも。わざわざシャーレの手を借りるまでもない案件なのは私たちも重々承知していますが‥‥‥」

 

「いまはエデン条約のことでみんな忙しくて人手も足りてないの。そんなときにシャーレの存在を知ったんだよね! この人ならきっと面倒ごとでも引き受けてくれるって!」

 

「はっきり面倒ごとって言いやがったな!?」

 

 あまりにもあけすけにミカが言い放ったため、傍から見れば大げさに思えるほどに勝太は驚いてしまう。またナギサの目が険しくなりミカを一瞬睨みつけるが、嘆息しつつすぐさま軌道修正を図る。

 

「ミカさんの言う通り、面倒ごとを押し付けているというのは事実です。ですが私たちも手が離せない状況なので‥‥‥ぜひとも先生の力をお借りしたく」

 

「ま、依頼された瞬間から引き受ける気満々だったけどな! 生徒を助けるのが先生の仕事だろ? 任せとけって!」

 

「やったー! ありがとう先生!」

 

 ミカが無邪気に喜び、ナギサも安堵の笑みを浮かべる。

 ぶっちゃけ不安がないわけではないが、そんなものはやってみなければわからない。それに大事な生徒の頼みだ、むげにすることは勝太にはできなかった。なのでもとより断る気などなかったのだが、仮に断ろうとしても断れない理由があった。

 

「あーそうだ。アビドスの件の借りについては、これでチャラでいいか?」

 

「あぁ‥‥‥そうですね。そのような形で構いません」

 

「え、なに? 何の話? 私だけ置いてけぼりなんてひどいよー」

 

 ホシノ救出の時、勝太はトリニティの兵力を一部借りていた。ヒフミ――――――もといファウストを旗印に駆け付けてくれた軍隊は、カイザーPMCとの戦いに大きく貢献してくれたのだ。そういうわけで勝太はナギサに大きな借りができたわけだが、今回の依頼を引き受けることでそれを返した形になるのである。

 

「貸し借りがあるまんまだと、きもちわりぃしな」

 

「その点については私も同意です。では、こちらを」

 

 勝太はナギサから名簿を受け取った。そこには四人の生徒の名前が書かれているのだが‥‥‥。

 ある一人の生徒の名前が目に留まり、目を皿にしつつ素っ頓狂な声を上げて勝太は驚いた。

 

「あ?」

 

「先生、どうかしたの?」

 

「いや、知ってる名前があったもんだから‥‥‥とにかく、まずはこいつらに会ってくるよ」

 

「はい、追試験の日程や合宿場所については、おいおい連絡しますので」

 

「了解、そこんとこよろしくな!」

 

 そうして勝太はテラスを出て行った。その背中を見送る二人は、勝太を値踏みするような目で見ていたのだった。

 その片方、桐藤ナギサの胸中は表面上で見せた余裕とは異なり穏やかではない。

 

(表面上は気さくそうな方ですが‥‥‥なにせあの連邦生徒会長が指名した人間。警戒するにこしたことはありません)

 

 先生には伝えなかった、とある事件の影響でナギサに巣くった疑心暗鬼の種。それは日を経るごとに成長していき、強固な根を心の中に張り巡らせていた。そして、それを肯定する声が、ナギサの中で鳴り響く。

 

『ええ、それでよいのです。大切な学園と、もっと大切なあの子を守るためならば‥‥‥全てを疑い、徹底的に罰するべきなのです。そうでしょう?』

 

 疑心暗鬼に陥っているはずなのに、その声は脳に染み渡るかのようにすっとナギサの中に入ってくる。あまりにも矛盾したその状況に、しかしナギサ当人はなにも感じていなかったのだ。

 ――――――ずっと側にいた幼馴染は、すぐに気付いた違和感だというのに。

 

******

 

 そして勝太は、顧問として補習授業を行うことになる生徒たちのもとへ――――――は、まだ行かなかった。

 実は勝太、ティーパーティーからだけでなく、別の人物とも会談の約束を取り付けていたのだった。生徒たちに会う前に、まずはそちらを済ませておく必要がある。

 

「‥‥‥にしたって、遠いな」

 

 トリニティ総合学園は、様々な分派の学校が統一されてできた過去を持つ。それだけに敷地がとてつもなく広い。現在勝太が向かっているのは、ティーパーティのテラスとは反対の方向にある場所だった。そりゃ遠いわけである。

 そうしてたどり着いたのは、敷地の一角に突如として現れたプレハブ。急ごしらえで作られたそれは、しかして頑丈なつくりとなっておりチープさを感じさせない。そこは、異界から来た者たちが滞在する場所になっていた。

 「おじゃましまーす」と一言断った勝太は、応接間へと足を運ぶ。そこで勝太が行うことになったのは‥‥‥。

 

――――――

 

「ドギラゴン剣でとどめだぁ!」

 

「甘い! ホーリーグレイスの能力を発動!」

 

――――――

 

「今度はこちらから行くぞ! ボルシャック・ヴォルジャアクで攻撃!」

 

「ドギラゴンでブロックだ!」

 

 激しく熱かりしカードバトルであったぁ!

 会談前のアイスブレイクというにはあまりにも熱すぎるその戦いはぁ、両者、一歩も譲らずっ!

 ――――――しばらくして、決着がついた。

 熱中しすぎて、勝太と対戦相手は双方ともに汗をかいている。

 

「いやぁ‥‥‥つえぇなお前。久々にやばいと思ったぜ」

 

「あなたこそ、漫画雑誌やアニメなどで拝見したそのまま‥‥‥熱く、愛のあるデュエマでした」

 

 おみごと、と勝太を褒めたたえる対戦相手の少年。愛? と勝太は怪訝な表情をしたものの、自分が褒めてもらっていることは十分に伝わってきたので問いただすのはやめておいた。向こうが手を差し出してきたので、勝太はそれをがっちりと握り握手を交わす。

 勝太と渡り合えるほどにデュエマの腕が高い、件の人物。長く伸ばした髪に切れ長な瞳、なにより威風堂々としつつも優雅さが垣間見えるその立ち居振る舞い。正直、勝太以上に大人の風格が感じられる。

 元居た世界では大企業の社長を務め、マイハマ最強のデュエリストとの呼び声も高かった人物。プリンス・カイザであった。ウィンからの紹介で勝太も名前だけは聞いていたものの、実際に会うのはこれが初めて。にしてもウィンのライバルというだけあり、デュエマの腕は相当であった。

 

「‥‥‥そんな丁寧な言葉遣いじゃなくても気にしないぞ?」

 

「いや、慣れ親しんだキャラクターと言えど、今のあなたは『先生』だ。敬語を使わない方が不自然というものでしょう」

 

「そうか? まあそれでカイザがすっきりすんならそれでいいや」

 

 勝太とてさして呼ばれ方にこだわりはない。カイザがそういう風に接したいのであれば、別に好きにさせておけばいいとは思う。とはいえ実生活でそういう風に丁寧に接されたことが少ないので、勝太としては少々こそばゆいのが本音であった。生徒からの敬語にすらまだ慣れないくらいなのだ。コンテンツ越しの一方的とはいえ、元の世界での自分を知る人物にまで丁寧に接されると、逆にこちらが緊張してしまう。

 そんなこんなでアイスブレイクも済んだところで、ナギサの時とは打って変わり勝太の方から話題を切り出した。この呼び出しの際に言いつけられたことがあったからだ。

 

「それで、話ってなんだ? わざわざ誰にも言わずに黙ってこいっていうくらいなんだし、重要なことなんだろ?」

 

 ティーパーティーの居所からはかなり離れた場所。求められたのは密会。その連絡すらカイザから直接ではなく、ウィンを経由しての通達だった。これでなにもありません、ただデュエマしたかっただけです、なんて理由だったらソファから転げ落ちてひっくり返るくらい呆れ驚くだろう。まあそんなわけないだろうし、実際ちゃんとした用件があったのだが。

 

「ええ‥‥‥実は私、元の世界では社長をやっていたということもあり、学園運営の相談役に選ばれることが多々あり」

 

 キヴォトスにおける学園の運営は、勝太たちの世界での国家を動かすに等しい行為だ。それと比べると企業なんて霞んで見えるかもしれないが、大勢の人数を的確に配置し動かすというノウハウは活かせよう。そういう意味合いもあって、ときたまティーパーティーのメンバーから相談を受けることもあるカイザであった。

 

「その過程で、補習授業部を設立しその担当をシャーレに任せる、という情報を仕入れたわけなんですが‥‥‥少々不審な点が多く」

 

 カイザが提示したのは、トリニティの学校新聞だ。日本のものとは少し雰囲気の違う海外風で、勝太にとってはもの珍しい代物だ。しかし、重要なのはそこではない。一面にでかでかと載っている巨大温泉と巨大ドリルをスルーし、カイザは一枚めくった先の記事を示した。勝太がその見出しを声に出して読む。

 

「なになに、『五月病ならぬ七月病流行か。しぼむ活気、下がる成績』‥‥‥」

 

 カイザに聞くと、七月病というのは実際に挙げられることもある症状なのだとか。新年度から蓄積した疲れが現れ、精神や身体に影響が出る。そして日常生活のパフォーマンスが落ちていくのだ。

 最近トリニティではやる気が出ない、気分が落ち込むなどメンタル面、体のだるさなどの身体面の症状を訴える生徒が極端に増加、救護騎士団が大忙しだという。その騎士団内にも同様の症状を訴える者が現れ、てんやわんやな状況らしい。

 

「トリニティ内に活気がない。エデン条約前で学内に緊張が走っている、という考え方もなくはないですが、ピリピリしているのは上層部くらいです。むしろ反ゲヘナの生徒が悪い意味で生き生きとしだすと考えられるので、やはり不自然でしょう」

 

「まあ年頃の学生なんだし、気分が落ち込むことくらいあるだろ。俺もときたまホームシックになったりしたぜ?」

 

「それはそうなんですが‥‥‥特に気になるのはここです」

 

 カイザが見出しのとある部分を指でなぞった。「成績が低下」のところを指され、勝太が顎に手を当て考え込む。七月病で体調が悪いから、テストが振るわなかった。いかにも言い訳に使えそうな文言だし、この記事も成績低下の遠因に七月病があると言いたいのだろう。しかし、それがなんだというのか。

 

「んー‥‥‥わかんねぇ。ヒントくれ」

 

「連想ゲームのようなものです。成績が悪い生徒には、しなければならないことがありますよね」

 

「そりゃあもちろん追試だろ‥‥‥あ」

 

 勝太が納得したように手をポンと叩き――――――かけて、その手を引っ込める。カイザが言いたいことはわかったものの、その考えに勝太は懐疑的になったからだ。

 

「成績低下は、学園全体で影響が出てる。だから補習授業部が四人だけで済んでるのがおかしいって言いたいのか? ‥‥‥さすがに飛躍しすぎじゃね? 落第寸前の生徒がそう何人もいてたまるっかっての」

 

「そう思って仲間に調べてもらったところ、複数人の生徒の成績が不自然に上がった証拠を発見しました」

 

「‥‥‥まじで?」

 

「本当です」

 

 先ほど七月病はいかにも成績不振の言い訳に使えそうだとは思ったが、いいわけではなく本当に無事で済まなかった生徒もいたらしい。しかしその生徒たちはテスト結果が良かったことにされ、落第の危機を免れている。にもかかわらず、補習授業部には生徒が四人。

 

「気を付けてください、先生。その四人はおそらく意図的に選ばれた者たちでしょう。ナギサが提案した補習授業部の設立には‥‥‥なにか裏がある」

 

「この四人になにが‥‥‥いや、待てよ」

 

 名簿の名前と顔写真を改めて確認していく勝太。そのうちの一人、阿慈谷ヒフミに関して思い当たる節があり、勝太の額に脂汗が浮かぶ。そんな勝太の様子に対し、今度はカイザが懐疑的な表情をすることになった。

 

「‥‥‥どんなささいなことでも構いません、なにか手がかりになるようなことがあれば、遠慮なくどうぞ」

 

「全責任は俺が取るから、ヒフミのことは許してやってくれ‥‥‥」

 

 カイザの真剣なまなざしに観念した勝太は、いつぞやの闇銀行襲撃事件のリーダーとしてファウスト――――――もといヒフミを祭り上げたことを語ったのだった。それを聞いたカイザは、しかし顔色一つ変えずに「なるほど」とつぶやいた。

 

「とりあえず、名簿の四人のことはこちらでも調べ上げておきますが‥‥‥阿慈谷ヒフミは頻繁にブラックマーケットに出入りしていた可能性があり、強盗事件の主犯としても扱われている、と」

 

「煽ったのは俺とアビドスのやつらだからよ‥‥‥」

 

「こちらが阿慈谷ヒフミをどうこうしようという意図はありません。そういうのは正義実現委員会の仕事です――――――ので、彼女をかばいたいのであれば、そのあたりの組織に悟られないようにすることですね」

 

「お、おう、わかった。ありがとな」

 

 冷や汗をかいていたが、カイザにヒフミを断罪する意図はないとわかり安堵した勝太であった。しかし、ヒフミが選ばれた原因は本当に過去の犯罪歴なのだろうか。

 

「確定ではありませんが、そう推測するのが自然ですね。その四人は問題行動を起こした生徒の集まりかもしれない」

 

「でも、さっき言ってた『正義実現委員会』のやつも入ってるぞ。詳しくは知らねぇけど、問題行動とは真逆の風紀委員みたいな感じだろ、どうせ」

 

「ええ、その認識で間違いないかと。しかし、ふむ‥‥‥」

 

 勝太の指摘はカイザの推測の確実性を崩すものだった。勢力争いが盛んなトリニティのことだ。委員会内で何か問題が起こっていれば、ティーパーティからの糾弾が飛んでいるに違いないし、カイザのもとにそのような情報は届いていない。

 

「やっぱ、直接会って確認するのが一番手っ取り早いだろ」

 

「それもそうですね。俯瞰してみているだけでは何も始まらない。当人と接触することで見えてくるものもあるでしょう‥‥‥。何かあれば、連絡をお願いします」

 

 カイザの言葉に笑って返事をして、勝太は応接間を出ようとする。とその時、カイザが思い出したかのように言葉を続けた。

 

「そうだ、万が一補習授業部の面々が一次試験に落ち、合宿が始まったらそこへ何人か助っ人を手配する予定ですので」

 

「お? そうなのか、楽しみだな!」

 

 果たして誰が来るのだろうか。先ほど言っていたカイザの仲間か、初めて出会う生徒か、もしくは顔なじみの可能性だってある。面倒ごとの予感がして少しだけ嫌な気分になっていた勝太だったが、期待感によってまた前を向き直すのだった。

 

 応接間の扉が音を立てて閉まる。

 一人残されたカイザは、確実性が薄いとある事項について思案していた。このように多数の生徒が心身不調に見舞われるなど、偶然にしては出来過ぎだ。

 思い当たることがある。母が、そしてそれを継いだカイザが研究していたことだ。マナを過度に吸い取られた生物は心身に異常をきたす。それが闇のマナであれば、なおさら。かつてあれが顕現したとき、学園の生徒たちの闇のマナは吸い取られ、体調不良や意識不明などの症状を訴える生徒たちが続出したのだ。

 トリニティで起きているそれは軽度なものだ。しかし異常事態であるのもまた事実。一度心の中に芽生えた可能性は、カイザの中から消えてはくれなかった。

 

「‥‥‥COMPLEX」

 

 そのつぶやきは、誰の耳に届くこともなかった。 

 

******

 

 今度こそ勝太は補習授業を受けることになる生徒たちに会いにいくことにした。初対面の生徒も多いが、まずは顔なじみかつ連絡先も持っているヒフミに会いに行くことにする。

 

「やっぱ、俺の知ってる阿慈谷ヒフミだったな‥‥‥」

 

「あの、これはやむを得ない事情がありまして‥‥‥うぅ」

 

 知り合いが落第寸前とか、聞いていて気持ちがいいものではない。同姓同名の人物とかで間違いであってほしかったのだが、連絡した段階でもう確信犯だった。かまをかけたところ、メッセージが明らかに挙動不審だったからである。

 で、いま対面に立っているヒフミも挙動不審だ。どう説明したらいいのか迷っているようで、両手を握り合わせながら身をよじらせている。

 が、そんな彼女の代わりに、「やむを得ない事情」とやらを説明してくれた人物―――と言っていいのかわからない―――がいた。

 

『やむを得ないわけがないでしょう、ヒフミの大バカ』

 

「ら、ラフルルちゃん!?」

 

 カード状態のまま、勝太とヒフミの脳内に直接語り掛けてきた声。ブラックマーケットのペロロぬいぐるみに縫い込まれており、たまたまヒフミが救い出したクリーチャー、ラフルルである。

 

『彼女、あろうことかテストをサボって、鳥のクリーチャー‥‥‥ではなくペロロのゲリラ公演に行ったんですよ? これのどこが「やむを得ない事情」なもんですか』

 

「う、うぅ‥‥‥」

 

 友人に思いっきり正論パンチをかまされ、ヒフミが背中を丸めてさらに落ち込む。何やってんだこいつはと勝太も思ったが、そういえば‥‥‥と昔のことを思い出しヒフミを励まさんとする。

 

「まあまあ、お前にとってペロロってのは、テストサボるくらい熱くなれるもんなんだろ? 一回サボったくらい気にすんな! 俺も昔、先着順の限定カレーパンのために授業サボったりしたこともあったし」

 

「せ、先生‥‥‥! わかってくれますか!!!」

 

『それが仮にも「先生」の肩書を持つ者の言葉ですか!? あとヒフミ、調子に乗るなっ!!!』

 

 肯定してもらえたことに感動するヒフミだったが、そんなこと許さないと言わんばかりのラフルルの怒声にびくっとなり姿勢を正す。頭の中に直接響くので余計にびっくりするのだ。やっぱまずいこと言ったか、と勝太も一応姿勢を正しておいた。実体化はしていないはずなのに、ラフルルがこちらに冷ややかな視線を向けているのが感じられた。

 

『これが部長だと、補習授業部の先行きも不安になりますね』

 

「ラフルル、思ったより手厳しいな」

 

『私、曲がったことは大嫌いなので。ヒフミは私の恩人かつ大切な友人ですが、それとこれとは話が別です』

 

「‥‥‥わかった、ヒフミには俺がきっちり言いつけておくから、勘弁してやってくれ」

 

『さきほどの言動を見てそれを信じろと?』

 

 ラフルルの鋭い言葉が勝太に突き刺さる。生徒に悪ノリしないで、大人らしくちゃんと叱っておくべきだった‥‥‥と勝太は自らの行いを反省した。それが正しい選択の場合もあるだろうが、少なくともいまではなかったようだ。

 

「ていうかヒフミ、お前部長なのか」

 

「は、はい‥‥‥ナギサ様に頼まれまして」

 

「そっか‥‥‥まあなにはともあれ、即落第とかじゃなくてこういう機会があったのはよかったな」

 

「そ、それはそうですね‥‥‥担当が先生だったのもよかったです」

 

 勝太の方もヒフミの方も、全員が全員初対面だと気まずい。そういう意味でも顔見知りがいるのは安心感があった。

 話が一段落したので、勝太はヒフミとともに残りのメンバーに会いに行くことにした。

 そうしてたどり着いた先は、なぜか正義実現委員会の教室だった。

 

「正義実現委員会って、風紀委員会みたいなもんだよな」

 

「そうですね。学園内の治安維持活動を行っています」

 

「じゃあよ、なんでこんなとこに残りのメンバーがいるんだ?」

 

「わかりません‥‥‥」

 

 先ほどのカイザの推測が頭によぎる。補習授業部の生徒は、問題児で構成されているのではないか、という仮説だ。

 「いや、まさかな」と「でも、場所が場所だよな」という思考を反復横跳びする勝太。そんな彼を、じーっと見つめる生徒が一人。黒い制服に身を包んだ、ピンク髪の小柄な少女だ。頭の腰のあたりにはそれぞれ一対の黒い羽根が生えている。

 

「‥‥‥ん? どうした、こっちをじーっと見て」

 

「ふぇ!? いや、その、だ、黙ったまま突っ立ってるから、何かおかしなことを考えるんじゃないのか!? って思って!!!」

 

「は?」

 

「ここで悪事を働こうったって無駄よ! このあたしがとっちめてやるんだから!」

 

「待て待て待て待て! 一旦落ち着けって!」

 

 超高速で早とちり―――どころではない妄想を展開し、勝太をこらしめようとする少女。慌てて勝太は補習授業部の名簿を見せ、人探しに来たと伝えた。すると少女―――コハルには鼻で笑われてしまう。

 

「はっ、正義実現委員会に人探しなんて依頼しようってわけ? ボランティア団体かなにかと勘違いしてるの?」

 

 プライドが高そうなクソガキだな‥‥‥中学生時代の俺だったら、間違いなく取っ組み合いのけんかを仕掛けていただろう。そう冷静に考えながら、しかし目の前のコハルが鼻につく勝太である。ああ、元気があっていいなぁ、と温かくこういう生徒の様子を見守れるほど勝太は聖人ではない。先生になったとて、言葉を選びつつも言いたいことは言っておきたい性分だった。そうして勝太はコハルに反論しようとして―――ヒフミが口をはさむ。

 

「いえ、人探しっていうのは、その‥‥‥ここに、捕まってると聞いて」

 

「‥‥‥え‥‥‥まさか!?」

 

 思い当たる節があるようで、コハルが慌てふためく。このちょっとした騒ぎを聞きつけたようで、件の人物が姿を現したのだが‥‥‥。

 

「もしかして私をお探しでしたか?」

 

 その姿を見て、コハルはひどく赤面する。勝太とヒフミはそれどころではなくて、思考がフリーズした。だってその人物は、室内であるにも関わらずスクール水着を着用していたのだから。あらためて、勝太は室内を見渡す。壁もある、床もある、天井があって窓もある。ここはプールじゃない。教室だ。

 もはや自分が間違っているのかと一瞬錯覚した勝太だが、正常な判断力を取り戻す。そして、開口一番叫んだ。

 

「変態じゃねぇかぁ!」

 

「あらあら、初対面なのに手厳しいですね」

 

「手厳しいとかじゃねぇよ!? お前あれか!? まさかそのカッコでそこらじゅう歩き回って捕まったとかじゃねぇよな!?」

 

「はい♪」

 

「はいじゃねぇよ!!!」

 

 担当生徒の二人目は、痴女でした。こう書くとあまりにもありえないことすぎるが、残念ながらそれが事実であった。現実逃避するように名簿を確認すると、彼女の名前は浦和ハナコであることがわかった。こっちの写真ではちゃんと制服を着ていた。

 衝撃的な展開に頭がついていかず、ヒフミはその場に固まっていた。ハナコはコハルのことをひとしきりからかったあと、耳まで真っ赤っかにした彼女に再び牢屋まで押し込まれたのだった。

 

「はあ、はあ、はあ……。あの変態、死刑にしてやるぅ‥‥‥」

 

「いや、さすがに死刑にゃならねぇだろ」

 

「エッチなのは駄目! 死刑!」

 

「なんなんだこいつは」

 

 犯罪者を蔑むような態度をとるならかろうじて納得はいくのだが、蓋を開けてみればこの有様だ。勝太はコハルのことがよくわからなかった。

 

「で、でもハナコさんが着ていたのは学校指定の水着ですよね? それなら一応校則違反はしていないのでは」

 

「いやダメに決まってんだろ!? ヒフミまで何言ってんだ!」

 

 まさかこいつもそっち側なのか、いやそうに違いない。なんせペロロのためにテストはサボるわ闇市に出入りするわと、やっていることはかなりやばいのだ。バレていないだけで、バレたら即投獄なのでは? いっそ通報してお灸を据えた方がいいのでは‥‥‥。

 ヒフミのことを理解してしまったことで、カイザとの会談での思考から高速手のひら回転を決める勝太であった。

 

「あ、えーと! とりあえずハナコさんに会うのは難しそうですし、次は白洲アズサさんに――――――」

 

「白洲アズサを、現行犯で確保しました!」

 

「うそぉ!?」

 

 場を仕切り直そうと発言したヒフミに乗っかろうとした勝太。しかし悲しいかな、教室に戻ってきたハスミとマシロの報告により、白洲アズサとやらも犯罪者であることが確定してしまった。

 

「あ、マシロにハスミ先輩」

 

「コハルさん、お疲れ様です‥‥‥おや、そこにいるのは」

 

「勝太先生?」

 

「は、ハスミ! それにマシロ! 助けてくれ! この学園にはやばい奴しかいないのか!?」

 

「ちょっ、落ち着いてください先生!」

 

 確実にまともであることがわかっている二人に遭遇し、勝太は内心めちゃめちゃ安堵した。その勢いのあまりみっともない言動をとってしまった。二人に縋りつくくらいの勢いで駆け寄ろうとして―――。

 

「‥‥‥シュー、‥‥‥シュー」

 

 ガスマスク姿の変態と目が合った。

 

「えーと、先生。 先に言っておきますが、清く正しく勉学に励んでいる生徒の方が大多数ですよ」

 

「そして、このような平和を乱す生徒をこらしめるのが、我々正義実現委員会の仕事です。ですので安心してくださいね、先生」

 

「安心できるかぁ! どういう星の下でこいつらが集まるんだよ!」

 

 ペロロの変態に水着の変態、挙句の果てにガスマスクの変態。

 こいつらが輪になって集まる補習授業部は、一体どんな凶星のもとに誕生したのだろうか。

 

「えーと、その‥‥‥アズサさんは、どうしてこんなことに」

 

「生徒に対する暴力行為を行ったあげく、武器貯蔵庫に籠城。三時間にわたって抵抗をつづけ、多数の被害をもたらしました」

 

「ガチもんのテロリストじゃねぇかよ」

 

 おそるおそる尋ねたヒフミに対し、マシロが律儀に回答を行ってくれた。回答してくれなくてよかったのに、と勝太は思った。テロリストと一緒に補習授業とか、命がいくつあっても足りる気がしなかった。

 深く、深くため息を吐いたあと、勝太はハスミに話しかける。

 

「ハスミ‥‥‥そこの二人の犯罪者に補習授業してくれって、ナギサから頼まれてんだ」

 

「ナギサ様から‥‥‥詳しく聞かせていただけますか」

 

 そうして勝太はハスミに経緯を説明。シャーレがティーパーティから受けた依頼であるというのも相まって、ハスミに勝太の申し出を断る理由などなかった。晴れてアズサとハナコの二人は釈放となり、補習授業を受けることができるようになったのだ。代わりに勝太の胃痛は加速した。

 

「できればお手伝いしたかったのですが‥‥‥」

 

「まあ仕方ねぇよ。最近知ったんだけど、副委員長なんだろハスミ。そっちの仕事も多いし無理は言えねぇ」

 

「そうよ! ハスミ先輩はあんたなんかに構ってる暇ないんだから」

 

「あ、後輩の教育はしっかりやっといてくれな。『先生』として俺も叱るときは叱るようにするけど」

 

「‥‥‥‥‥‥わかりました」

 

 ハスミがちらりとコハルの方を見やる。見つめられた方はきょとんとしている。自分が人を不快にしているという自覚がないようだ。これは性質の悪い奴だぞ、と勝太は内心頭を抱えた。

 まあこの子のことはいつか関わるときにでも。一旦一区切りついたため、最後のメンバーを確認しようと名簿をチェックした勝太だったが‥‥‥。

 

「それにしても、凶悪犯に変態でしょ? しかもバカ! あはは、補習授業部だなんて、なんてかわいそうなんだろ!」

 

「えーと‥‥‥コハル」

 

「は? なによあんた。なんであたしの名前知ってるわけ?」

 

「いま知った。この名簿に書いてあるからな」

 

 ジト目の勝太が名簿が書かれた紙をコハルに叩きつける。なんでこんなものを‥‥‥と不思議そうに受け取ったコハルは‥‥‥一瞬で理由を悟った。悟ったと言えど、認めはしなかったのだが。

 

「え、なんで!? なんでよぉ!? やだやだやだやだ!!! なんであたしがあんなやつらなんかと補習を受けなきゃいけないのよっ!!!」

 

「当たり前だろうが! 一年のくせに二年のテストを受けるバカがいるかぁ!!!!!!」

 

 小動物のようにコハルが震え上がる。それでも言い返そうとするコハルだったが、勝太がまくしたてる方が早い。

 

「それ以前に! お前三連続で赤点で留年目前だからな!? 人に威張り散らかす前に自分のこと何とかしろ! な!?」

 

 コハルがやばいのは三連続赤点にも関わらず危機感がまったくないことだ。こんなところ(正義実現委員会)で油を売っている場合ではない。今すぐに補習授業を受けさせて成績を上げてやらないと、コハルの学生生活が終わる。そういうことで、勝太は本気でコハルを叱って見せた。

 正論パンチを連打され、コハルが黙りこくる。なんなら目元を腫らして泣きそうであった。やりすぎたかな‥‥‥と反省する勝太。反省こそすれど後悔はしていない。これもコハルのためだ。

 

「ハスミ、後輩借りてくぞ」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 こうして補習授業部のメンバーはそろった。ひとくせもふたくせもあるような面子であり、気が重い。それでも一度受けた頼み事だ、絶対に完遂しなければならないのである。

 

(‥‥‥気が重ぇ)

 

 カイザが派遣してくれる助っ人とやらと、この負担を分かち合えることを祈ろう。柄にもなく弱気になってしまった勝太なのであった。

 ちなみにカイザの推測である「補習授業部は問題児のみで構成されている」説だが、コハルが正真正銘成績不振だったため、勝太のなかでの信憑性は薄まっていくことになる。

 

(‥‥‥まあ、一年が二年のテストを受けるのはある意味問題児だけどな)

 




書いてる間こっちまで胃痛がしてました
根は良い子ばっかだけやってることやばいんだよな補習授業部のやつら
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