デュエル・マスターズ Aoharu Revolution   作:カレーパンパフェ

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すみません、お待たせいたしました。
構想を練ったりはしていたのですが、出力する時間がなかなか取れず……。



そうだ、銀行強盗いこう! 覆面水着とカレーパンマスクっ!!

 勝太とゼーロの死闘、その翌日。

 

「なんだこりゃ……」

 

 兄から渡された分厚い資料を、勝太はげんなりとした表情で読み進めていた。

 難しそうな専門用語や、難解な図などが盛りだくさんだ。

 

「長いっ! 一言で頼む」

 

 書類の束を机にバンッ! と叩きつけ、勝太は兄に無茶な要求をした。

 学者やってるなら論文くらい読むだろうが……と思った勝舞だったが、それは勝太が興味あるから読むだけの話である。

 勝舞が手渡したのはこれからキヴォトスで配備する予定の最新の武装。工業方面に関しては勝太はからっきしだし、ロマンは感じても開発側の実態に興味はないだろうと勝舞は判断した。よって弟の要求に応えてやることにする。

 

「簡単に言うとだな。キヴォトスの生徒がより強大なクリーチャーに対抗できるようにするための武装、名付けて『生徒用クロスギア』だ!」

 

 だせぇしそのまんまネーミングだ……と勝太は心の中で溜め息をつく。

 そんな弟を意に介さず、勝舞は説明を始めた。

 

「現状、小型のクリーチャーは生徒2,3人で追い返すことは可能だ。中型、大型も、戦闘に長けた治安維持組織などが参画すればなんとかなる。だがな、クリーチャーワールドは化け物ぞろいだ」

 

 腕一振りであたり一帯を焼け野原にできてしまう、そんなオーバースペックを持つやばいやつらがあの世界にはわんさかいる。

 クリーチャーの研究を行ってきた勝太からしても、それは要警戒しておくべき事実であった。

 

「キヴォトスの生徒たちの耐久性は目を見張るものがあるが、本物の化け物と相対したとき、どうなるかわからない。そんなときに俺に近づいてきたのが、とある"天才"だった。 彼女は『神秘』に興味があるらしくてな」

 

 勝太は兄が"天才"と口にした瞬間、やや苦い顔をしたのを見た。あのバカ兄貴がげんなりするとか、その"天才"とやらはなにもんなんだ……? とも思ったが、勝舞が口に出さないのであえてスルーした。

 

「で、その『神秘』ってのはなんだ」

 

「その"天才"によると、キヴォトスの生徒には『神秘』と呼ばれる得体のしれないモノが介在しているらしい。その正体がなんなのかはまだわかっていないみたいだが、『神秘』を一時的に強化する術は見つけたんだと」

 

「なんかご都合感がつえぇような……。それはそうと、その『神秘』とやらを増幅させて、生徒に影響はねぇのかよ?」

 

「俺も最初はそう言ったんだが、『だいじょぶだいじょぶー』の一点張りでな……。一応各学園の治安維持組織から有志を募って試してみてもらっているが、現時点では悪影響は出ていない」

 

 兄の言葉を聞いても、勝太はいまいち腑に落ちなかった。

 現時点では影響がなくても、これからどうなるかわからないのだ。

 口振りからするに、勝舞もその"天才"とやらを100%信頼しているわけではないようだった。

 兄が持ち出してきた試供品を手にとって、回しながら全体を見てみる。すると勝太は、薄っぺらいくぼみのようなものを見つけた。そこに何が入るのかなんとなく分かった気がした。

 

「これ、もしかしてカードスロットか?」

 

「そうだ。カードからクリーチャーの力を引き出し、生徒の力に変える。……これもまた危険であることには変わりない。どんな化学反応が起きるかはわからないんだ」

 

 話を聞けば聞くほど、その"天才"とやらがうさん臭く感じる。

 

「というか、これと似たようなのをジョーが持ってたような気がするんだが」

 

「ああ! それか」

 

 ジョーの話題になった途端、勝舞は顔を輝かせる。そういえばこいつ、ルシファーに負けねぇくらいジョーのこと甘やかしてたな、と勝太は思い出した。

 

「キヴォトスを旅したいってジョーが言ったから、人間版を持たせたんだ。当然人間に神秘は流れていないから、カードの力を引き出す機能だけだが……。こちらに関しては安全性は問題ない! 俺が実際にテストしたからな!」

 

 バズーカの反動で吹っ飛んでんだよなぁ…… と勝太はジョーが武器を使った場面を思い出す。

 まぁ安全性に問題ないがないなら持たせておくべきだろう。銃社会のキヴォトスで丸腰はあまりに危険である。

 

 勝太はとりあえずアビドスのメンバー5人分の試供品と、その"天才"とやらが出した多額の報酬金を預かった。

 

「……なんだよ兄貴、まだ話したりねぇのか?」

 

「いや、デメリットの部分で都合が悪くなると、決まってあいつが口にしていたことがあってな……」

 

 その一言を兄から聞いた勝太は、余計に首をひねることになった。

 

 いわく、

 

『この世界って今のところは「青春」確定でしょ? だいじょぶだいじょぶ!』

 と。

 

~~~

 

「……そういうわけだ。一応持ってきたんだけど『却下だよ~』、……だよな」

 

 場所は変わってアビドス高校。

 最近カツドンはでこちゃんのカフェのマスコットと化しているため、勝太一人で訪れることが増えていた。

 

(生徒たちにかわいがられて鼻の下伸ばしてたな、あの野郎)

 

 内心で悪態を吐きながら、勝太は対策委員会の下を訪れた。

 念のためアビドスのみんなに概要を説明して協力してもらおうとしたが、ホシノに即刻却下された。

 得体のしれないやつが作った得体のしれない武器。リスクが高いなんてものではない。報酬自体は2, 3か月分の返済を賄えるものであったが、ホシノは後輩の安全を優先したようだった。

 まあ当然だよな、と勝太も心の中でホシノに同意する。

 なおセリカに関してはもったいない、という感想が表情から読み取れる。マルチに引っかかったときもそうだったが、目先の利益に飛びつかないように教えるべきだろうか?

 

「……まあよっぽどそんなことないと思うけど、やべぇやつがアビドス襲ってきて、どうしてもってなったら使ってくれ。一応置いていくから」

 

「先生、それフラグにしか聞こえない」

 

「シロコ先輩、縁起でもないこと言わないでよ!」

 

 言ってから自分でもフラグっぽく聞こえちまうな、となった勝太だったが、案の定シロコに指摘され、その不謹慎さによりセリカのツッコミがプラスされた。

 

「……まあ、その武器の件は一旦置いておきましょう。それより先生、先日の連中について調べた結果なんですけど」

 

 アビドス高校を襲ってきた謎の集団。

 ゲヘナ学園のはみ出し者たる便利屋68に関してはそれなりに情報が集まった。

 得体のしれないゼーロ、という存在も、ジョーから話を聞くことである程度彼のことを知れた。

 ここからが本題で、彼らが使用していた武器は現在のキヴォトスでは生産が終了している代物だったという。

 そんなものを取り扱っているのは、無法地帯ブラックマーケットくらいのものだと。

 

「……ブラックマーケット、か。兄貴から話は聞いてるよ。生徒会も野放しにしちまうくらいにはやばい場所だって」

 

「先生のお兄さん……確か、連邦生徒会の臨時顧問でしたっけ」

 

「そ。『キヴォトスのことにがっつり干渉するのはやめとく』とか言って、ブラックマーケット自体をどうこうするつもりはないらしいけど」

 

 そこで勝太は言葉を切り、溜め息を吐いた。

 

「レアカードの高額転売とかはざら、ひどいとこだとひっ捕まえたクリーチャーを販売してるところもあるらしくてな……。さすがの兄貴も頭抱えてたよ」

 

「え、あのモンスターたちを売ってるの!?」

 

 勝太の発言に驚くセリカ。

 一瞬自分たちでもできるのでは? とも思ったが、こればっかりは即刻止められそうなので口に出すのはやめておいた。

 

「なるほど、クリーチャーの販売、か」

 

「だめだよシロコちゃーん? クリーチャーさんたちから見たら、ほとんど人身売買と変わんないよ~?」

 

「さすがにライン越えか」

 

 シロコの口からライン越えとかいう言葉が飛び出したので、対策委員会の面々は目を皿にして揃って彼女の方を向いた。

 勝太も内心、銀行強盗とか言い出すやつが何言ってんだ…… とあきれていた。

 

「えーと、話がそれたな。とにかくブラックマーケットに行って、襲ってきたやつらの情報を探るってことだな」

 

「はい、便利屋68もブラックマーケットで何度か騒ぎを起こしているみたいですし……関連があるかもしれません」

 

「それじゃあ決まりだね~。ブラックマーケットにしゅっぱーつ」

 

~~~

 

 ブラックマーケットに到着してから十数分。

 勝太の財布から現金が消えた。

 

「なんだよあのカレーパンの値段! ぼったくりなんてもんじゃねぇぞ!!」

 

「とか言って買ってるよね。文句言うくらいなら買わなきゃいいのに」

 

「こらぁ! 聞こえてるぞセリカぁ!」

 

 金銭とカレーパンを天秤にかけたとき、迷いなくカレーパンを取る男。それが切札勝太である。

 ぎゃあぎゃあ文句を言いながら勝太はカレーパンを貪った。

 2万円強を使い込みたらふく買ったカレーパンは、わずか数秒で勝太の胃袋へと消えていく。

 そして最後の1個を勝太が手に取り、口元へ運ぼうとして―――――― カレーパンのど真ん中を銃弾が突き抜けていった。

 

「どこかから流れ弾が飛んできたみたいですね……」

 

『せ、先生!? 大丈夫ですか! お怪我は!』

 

 ノノミやアヤネが先生への心配を口にする。

 他の3名も、ぷるぷると震えて動かなくなってしまった先生を心配そうに見ている。

 あともう少しずれていたら右手が撃ち抜かれていたであろう状況だ、恐怖で震えているのだろう。

 普通の人間であれば。

 

「……のれ」

 

「え、なんて?」

 

「おのれぇぇぇ!!!! よくも、よくも俺のカレーパンをぉぉ!!」

 

「……うへぇ、すごく怒ってるね」

 

「まさに怒髪天、って感じですね☆」

 

「たかがカレーパンでそんなにおこ『怒るわぁ!!!!』―――うわ、びっくりした! 耳元で叫ばないでよ!」

 

 震えていたのは耐え難い怒りによるものであった。

 カレーパンに害をなすものを、切札勝太はけっして許しはしない。

 

「アヤネ! 流れ弾が来た方向を分析してくれ! 極悪人をぶっ飛ばしにいくぞぉ!」

 

『本来の目的を忘れないでください先生!』

 

 カレーパンのことしか見えなくなっている勝太。アヤネの制止も聞かずに飛び出そうとした、が、その必要はなかった。

 "極悪人"は、盛大な騒ぎを起こしながら向こうからやってきたからだ。

 

「待てごらぁ!! そのキモイ鳥をよこしやがれぇ!!」

 

「キモイ鳥ではありませんペロロ様です! 何度言ったらわかってくれるんですか!」

 

「鳥畜生の名前なんざ知るか! こうなったらお前ごととっ捕まえて、ついでに身代金もいただいてやらぁ!」

 

 一人のトリニティ生が、複数人の不良に追われながら激しい銃撃戦を繰り広げている。

 その手にはおおよそかわいいとはいえない、アイスをくわえた鳥のぬいぐるみが握られていた。

 

「わ、わわわ! 避けてくださぁい!」

 

 ぬいぐるみを持った少女が勢いよくこちらに向かって突っ込んでくる。

 その言葉通りに勝太が彼女を避けた結果、後ろにいたセリカが巻き込まれることになった。

 

「「うわああああ!?」」

 

 悲鳴を上げながら正面衝突してすっ転ぶ二人。

 一応けがをしていないかだけ確認した勝太は、大丈夫そうだと判断して不良たちに向き直った。

 

「てめぇらかぁ! 俺のカレーパンに風穴空けやがったのは!」

 

「は?」

 

「カレーパン? 何言ってんだこいつ」

 

「これをみろぉ! カレーパンがかわいそうだとは思わないのかあ!」

 

 勝太はど真ん中にぽっかり穴が開いたカレーパンを、さも印籠かのように見せつける。

穴からはカレーが零れ落ちてアスファルトに垂れている。当然それを持っている勝太の手はべちゃべちゃであった。

 その場にいる全員が引いた。

 

「な、なんだこいつ、アタマおかしいんじゃねぇの?」

 

「待てよ、カレーパン狂いのツンツン頭……おい、こいつ『シャーレ』とかいうところの大人じゃねぇか?」

 

「なにぃ!? それじゃああいつを捕まえれば、連邦生徒会からも身代金をもらえる可能性が!?」

 

「そうなれば"あれ"を手に入れるよりも、すごい金額が手に入るんじゃ?」

 

 不良たちが妄想を膨らませる。

 たんまりと身代金をいただけば、ブラックマーケットで好きなだけ豪遊できる。いっそのこと、ブラックマーケットごと買い取れるんじゃ?

 

「もういい、尺の無駄」

 

「悪人はお仕置きです~☆」

 

「あ、なんだおめ、うげぇ……!?」

 

 シロコとノノミの手により、不良は一瞬で意識を刈り取られる。

 

「な、やりやがったなおめぇら! その気に何ならこっちも容赦しねぇぞ!」

 

「はっ! わかりやすくて助かるぜ! お前ら、戦闘だぁ!」

 

「え、え、え?」

 

 シッテムの箱を取り出し、勝太は勢いよく戦闘開始を宣言。

 シロコやノノミが嬉々として飛び出し、それに続いてセリカとホシノ、戸惑いながらもトリニティ生のヒフミが続く。

 

「うひひひ、あーっはははは! カレーパンの恨み、はらさでかぁ!!」

 

 キヴォトスに来てから日が浅い勝太。しかし後にも先にも、このときほどノリノリでトチ狂いながら指揮をしたときはなかったという。

 ちなみにアロナが必死にベタベタの手でシッテムの箱を触らないで、と訴えかけていたが、それが勝太の耳に届くことはなかった。

 

~~~

 

「ありがとうございます、おかげで助かりました!」

 

「おう! 俺もカレーパンの恨みを晴らせたし、一石二鳥だぜ!」

 

 騒ぎを起こしてしまった一同は、治安機関に目を付けられるのを避けるため、場所を変えてヒフミと話していた。

 

『先生、カレーパンを撃ち抜いたのが彼女らとは限らないのでは……』

 

 アヤネが何か言っているが、勝太はあえて無視した。

 自分が信じればそれが真実である。カレーパンを撃ったのは彼女らであり、シロコとノノミが成敗してくれた。それでいいではないか。

 

「ところで、ヒフミちゃん……だっけ? トリニティのお嬢様が、こんなところまで何しに来たの?」

 

「あはは……実は、これを探していたんです」

 

 そう言ってヒフミが取り出したのは、先ほどのぬいぐるみだった。

 ペロロ様とやらとアイス屋がコラボした代物らしく、限定生産の代物がブラックマーケットで取引されていたようらしかった。

 

「とてもぬいぐるみのものとは思えない価格で取引されてて、お小遣いがぱぁになっちゃったんですけどね……」

 

「ヒフミちゃんはペロロ様がとっても大好きなんですね!」

 

「そうなんです! ただ、他にもペロロ様好きの方とか、そうじゃないけど欲しい方がいらっしゃったみたいで……ぬいぐるみを見かけた途端、皆さん力ずくで奪おうとしてきて……」

 

 ……これ、そんなに人気なのか?

 キヴォトスの感性はわからんものだ、と思ったが、ノノミを除くアビドス勢も不思議そうな顔をしていたので、勝太は自分の感性が一般寄りなのを再認識することが出来た。

 

 その後、助けた見返りにヒフミをブラックマーケットを案内してもらうことになった勝太とアビドスの生徒たち。

 数時間歩いたがアビドス襲撃事件に関する手がかりはつかめず、たい焼きを食べながら途方に暮れていた。

 そんななか、通りがかった現金輸送車が闇銀行に入っていくのを目撃する。その輸送車は、あろうことかアビドス高校の生徒たちが借金を返しているカイザーローンのものだったのである!

 

「つまり……私たちは、ブラックマーケットの闇銀行に犯罪資金を提供してたっってこと……?」

 

『ま、まだそうと決まったわけじゃないと思います! 証拠もないですし』

 

「そうだ、さっき職員の人がサインしていた集金確認の書類を確認すれば……」

 

 しかしその書類は既に銀行の中。強固なセキュリティを突破するのは無謀だとヒフミは結論づけた……のだが。

 

「いや、方法はある」

 

「せ、先生?」

 

 不敵な笑みを浮かべ、勝太がシロコの肩を叩く。

 

「シロコ、あれ、持ってきてるか?」

 

 言葉はいらない。シロコは無言のサムズアップで応えた。取り出したのは、色とりどりの目出し帽。

 

「あー、そっかぁ…………そっかぁ」

 

「なるほど! その手がありましたか!」

 

「え、嘘でしょ、ほんとにやるの!?」

 

「え、え、え?」

 

『あのー……先生から提案するのって、倫理的にどうなんでしょうか……』

 

 ヒフミを置いてけぼりにして、話は進んでいく。

 全員の顔を見回して、勝太は堂々と宣言した。

 

「行くぞおまえら! 銀行強盗だああああああ!!!!!!」

 

~~~

 

「……まだぁ?」

 

「ちょちょちょ、ちょっと待ってね! すぐに終わらせるから!」

 

 この6時間の間、何度このセリフを聞いただろうか。

 ゼーロの愚痴を聞きながら、カヨコは溜め息を吐いた。

 現在、アルはアビドス襲撃の任務を成功させるために、闇銀行から融資を受けようとしていた、のだが。

 6時間待たされたあげく、融資を受けられるかも怪しいという状況である。

 なお非常勤のゼーロがここにいるのは、カヨコの方から同行を申し出たためだ。

 

『おかね、いるの?』

 

 そういったそばからゼーロが銀行を襲撃したことがあったのだ。

 その場は風紀委員長や、ゲヘナにいる例のクリーチャーが対応したことで事なきを得たが、あの化け物たちに同時に追いかけられるような目には二度と遭いたくない。

 よって今回、お金が足りないとぼやいていたアルの言葉を聞いたゼーロを制止すべく、こうして一緒にいてもらっているというわけだ。

 

「……あの感じだと、融資ダメそうだよねぇ」

 

「どどどどどどうしましょう! 融資を受けられなければ、依頼を達成できないのでは!!!???」

 

「意気込んでる社長には悪いけど、今回の依頼は相当厳しいよ」

 

 先方のデータよりもはるかに強かったアビドス高校。

 そして彼らに力を貸す"切札勝太先生"の存在。

 実力面でも資源面でも対抗できているか怪しいのに、どうすればいいのやら。

 そんな風にカヨコが思案していた時だった。

 

 けたたましく銃声が鳴り響く。

 それを聞きつけた銀行の客が恐れおののき悲鳴を上げる。

 とっさに頭を伏せたカヨコが、物陰から様子をうかがうと……。

 

(あれは……なに……?)

 

 そこにいたのは、面妖としか言えない集団である。

 色とりどりの目出し帽をかぶった個性的な人たちだ。とりわけ中央の人物には否が応でも目を引かれてしまう。なにせそいつは、カレーパンの形をした被り物をしていたのである。

 

「わーっはっはっはっは!! 俺はカレーパンを司る正義の使者、カレーパンマスクである! さぁ、お前らの汚れたカネを、ぜんぶ俺たちによこしやがれぇ!!」

 

 そう叫んだカレーパンマスクとやらは狂気的な行動に出た。

 揚げたてらしく熱そうなカレーパンを、銀行の職員に向けて放ったのだ。

 

「なるほど、ロボットだから口がねぇのか。 カレーパンを食べれないとはかわいそうな奴らめ」

 

「あぢぃ!」

 

 ※このあとカレーパンはカレーパンマスクが一つ残らず美味しくいただきました

 

(まって今のなに?)

 

 眼前を謎のテロップが通り過ぎたような気がして、やっぱり気のせいだったかとカヨコは目をこする。

 

「我らは覆面水着団っ! リーダーファウストの威光の下に、全員ひれ伏せやあ!!!」

 

「え、え、え、ちょっと待ってください! 私がリーダーなんですか!?」

 

 カレーパンマスクはファウストと呼ばれた紙袋を被った少女をリーダーに据えたが、当人は戸惑っている。

 そんな茶番が巻き起こりつつも、しかし彼らの手際はよい。

 監視カメラの位置や警備員の動線、銀行の構造なんかは頭に入っているのだろう。

 というか、どこか見覚えがあるとは思っていたが、やはり彼女らは――――――。

 

(ね、ね、カヨコちゃん。 あの連中、アビドスと先生じゃない?)

 

(やっぱりそうだよね。 何をするつもりなんだろう)

 

(ねねね、狙いは私たちでしょうか!? もしそうなら、この身に代えてもアル様をお守りしなければ!)

 

「……やっつけたほうがいい?」

 

 約2名物騒なのがいるが、カヨコはとりあえず成り行きを見守ることにした。

 なにせ我らが社長はきらきらした目で銀行強盗を見つめており、その場から一歩も動こうとしないからだ。銀行強盗のアウトローっぷりに、心の中で感嘆の声を上げているであろうことは容易に想像できる。

 

「1号! ブツは手に入ったか!」

 

「う、うん。 なんか、余計にいろいろ奪っちゃったけど」

 

「くれたもんはありがたくもらっとけ! んじゃファウストさん! 撤退の命令を!」

 

「え、え、えーと、ご迷惑おかけして申し訳ありません! さようなら!!」

 

 ファウストが律儀に謝り、そそくさと銀行を出ていく。

 彼女に従って、他の構成員もその場を離れていった。

 

(……本当になんだったんだろう)

 

 このあと、アルのせいで彼女らを追いかけることになるとは知らないカヨコは、ただただ困惑の表情を顔に浮かべていたのだった。

 

~~~

 

「疲れましたね……」

 

 独り言ちると、ヒフミは寮の自室のベッドに寝転がる。

 今日は本当にとんでもないことに巻き込まれてしまった。

 こっそり抜け出してペロロ様のぬいぐるみを買いに行っただけだというのに、不良と戦闘になるわ、銀行強盗団のリーダーにされるわ、便利屋というゲヘナの危険人物と関わることになったりとか……。

 

「……でも、少し楽しかったような? ……新しいお友達ができましたし、そのおかげでしょうか?」

 

 アビドスの人たちは無茶苦茶だったが、ヒフミを不良から助けてくれたし、根がいい人であることは間違いない。そして、大変な苦労をしていることも知った。

 できることなら力になってあげたいのだが、普通の学生であるヒフミには到底無理な話であった。

 

「……今度、モモフレンズのグッズでも持っていきましょうか」

 

 それで少しでもアビドスのみんなが癒されてくれればいいな、とヒフミは希望的観測を抱く。少なくともノノミは喜んでくれるはずだ。

 

「……そうだ、ペロロ様」

 

 濃い出来事が多すぎた今日だが、本命を忘れてはならない。

 白くて真ん丸、キョロキョロとしたお目目。美味しそうにアイスを頬張るその様子は、ただでさえかわいいペロロ様の魅力をさらに引き上げていた。

 ただ、妙だったのは、あそこまで値段が吊り上がっていたことだ。いつも通りなら、生産が終了している限定品であってもあそこまでの値段はつかない。それだけこのペロロ様に価値があるということだろうか――――――。

 

「……ん?」

 

 ぬいぐるみを手に取り眺めていたヒフミは、何かかたいものの感触を感じ取った。

 ぬいぐるみの他に手の上には何も乗っていない。つまり。

 

(ぬいぐるみの中に、何か入っている……?)

 

 映画や漫画だと、ぬいぐるみの中に爆弾、あるいは薬物などの危険な代物が仕込まれているという描写は少なくない。

 まさか値段が吊り上がっていたのはそのせい? そしてそれを買ってしまった私は……。

 ヒフミの顔が徐々に青くなる。

 注意深くぬいぐるみを観察すると、乱雑に白い糸で縫われた箇所があった。

 裁縫セットを持ち出し、慎重に糸を解いていく。

 やがてすべての糸が外れ、ヒフミは恐る恐るといった様子でぬいぐるみの中に手を突っ込む。

 ぬいぐるみを傷つけないよう手を奥へ進めると、指が何かに触れた。

 材質はおそらく紙。片面はでこぼこしていて、もう一方は真っ平だ。

 

(……とりあえず、爆弾や薬物とかではないみたいですね)

 

 ヒフミはほっと胸をなでおろした。

 指でつまんだそれを、ゆっくりと綿の中から引き抜いていく。

 中から出てきたのは、金メッキのあしらわれた、一枚のカードで――――――。

 

「うわぁ!?」

 

 突如、カードが輝きを放つ。

 それは一瞬だったが、ヒフミの部屋には劇的な変化があった。

 ヒフミの目の前に、少女が一人立っている。

 

 美しい桃色に輝く髪を大きな花の髪飾りでおさげにしており、後頭部には金毛の髪飾りをつけている。

 そこから目線を下げると首元に大きな鈴をつけているのが目立つ。

 腰回りに白いマントと金色の装飾をまとい、足にはタイツとヒールを身に着けている。

 

 そしてその頭頂部、ヘイローは――――――ない。

 この世界の住民ではないその少女は、開口一番ヒフミを睨みながら告げる。

 

「……まさか、あなたも私を売り飛ばすつもりじゃ……ないわよね?」

 

 ヒフミは首をちぎれんばかりの勢いで横に振り、少女に自分の意思を伝えようとした。

 すると少女の表情は一瞬で代わり、ふふっと笑った。

 

「ごめんごめん、ちょっとカマをかけただけ。 あなたの目的がその子なのはわかってたし」

 

 ペロロ様のぬいぐるみを指差して、少女は言った。

 

「えーと、失礼ですが、お名前をお伺いしても……?」

 

 目の前に立つ明らかに異質な存在に対して、恐る恐るヒフミは尋ねた。

 

「あらごめんなさい、自己紹介がまだだったわね。私は……カードの姿でこの世界にやってきた超獣世界(クリーチャーワールド)の住人。やってきて早々売り飛ばされ、また売られてを繰り返して。そして、あなたに出会った」

 

 流麗な動作で、恭しく礼をした、その少女、もとい、そのドラゴンの名は――――――。

 

「『音卿の精霊龍 ラフルル・ラブ』。 あなたと出会えた奇跡に感謝を」

 




金トレラフルル、相場3万くらいかな……
キヴォトスでもその希少さは健在です
正直ラフルルのタイミングは悩みましたが、ヒフミが購入したぬいぐるみを愛でないはずがないので、アビドス編での登場と相成りました。
ラフルルのキャラはデュエプレのボイスからイメージを膨らませて書いていきます
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