デュエル・マスターズ Aoharu Revolution 作:カレーパンパフェ
「……いつになく真剣な顔だな」
「おう、白黒つけときたいことがあってな」
ここ最近板についてきた書類整理をしながら、勝太は兄に問いかけた。
いつになく真剣な口調で電話をされたため、勝舞もすぐにシャーレにやってきたのだった。
「前に言ってたよな。『キヴォトスのことには過度に干渉する気はない』って」
「ああ」
「こないだブラックマーケットを見てきたんだよ。ひでぇ有様だった。そりゃ、あそこで必死に生きてる奴らのことを否定したりはしねぇよ。一つの都市みたいになってたし」
そこまで言うと、勝太はやるせなさから溜め息を吐き、続ける。
「でも、あいつらはまだ学生なんだよな……。あんな場所で生きていかなきゃいけない、なんてことはねぇ。リンたちだって万能じゃないんだろうし、手が行き届かねぇとこもあるだろうさ。だからよ……」
静かに、確かな力を声に込めて言う。
「俺たち大人が何とかしてやるべきじゃねぇのか? 俺だけじゃ到底無理だ。兄貴からも、リンたちに働きかけて――――――」
「……すまん、それは無理だ」
心底申し訳なさそうに、しかし毅然とした態度で勝舞は言った。
「少し話が逸れたと感じるかもしれないが聞いてくれ、いいか、俺とお前には決定的な立場の違いがある」
「……なんだよ、違いって」
「『先生』であるか否かだ」
その言葉に含まれる意味を、勝太は完全には読み取ることができなかった。確かにキヴォトスに来てから、人間の大人は見たことない。「先生」と呼ばれる人間は勝太だけだった。
「厳密にいえば、『シッテムの箱』に選ばれたかどうか、だな。……それ以外の大人は、たまたま紛れ込んだノイズに過ぎない。彼らを教え導くことが出来ないわけではないが……ブラックマーケットを解体し、そこに住む生徒たちに快適な生活を与えるというのは、あまりにも大規模な改変だ。それはおそらく、お前にしか、もとい、『シャーレ』にしかできないことだろう」
勝太は絶句した。
今のところ「先生」になって大変だったことといえば、慣れない書類仕事と、年頃の女子生徒の対応くらいだ。
それが、ブラックマーケットの環境を改善しようとしたらいきなり重い話である。
「……軽はずみな気持ちで受けちまったけど、『先生』ってのは存外重いものなのかもしれないな。ジョーを育てたこともあるし、できると思ったんだけどな」
さすがに覚悟が足りなかったかと、珍しく勝太は自省したのだった。
「……とはいえ、今のは俺の推測に過ぎん。ただ、あの"天才"とも見解が一致した以上、無視はできん。……よほどのことがない限り、俺が自分から動くことはないだろう、すまない」
「……いや、話してくれてサンキューな。兄貴には兄貴なりの考えがあんのはわかったよ」
「全くサポートできない、というわけじゃない。リンたち連邦生徒会から助けを求められたら手助けするし、お前や生徒からの救援要請にも応える。その点は心配するな!」
重苦しい雰囲気を打ち消すかのように、勝舞からは歯が見えるにこりとした笑顔とサムズアップが放たれる。
勝太は苦笑し、はいはい助かるぜーと軽く返しながら書類仕事を再開する――――――ところで電話が鳴った。
「はいもしもしー、こちらシャーレで……アヤネか、どした?……は?はあぁぁぁぁぁぁ!!!???」
アヤネからの電話の内容を聞いて勝太は心臓が飛び出るかと思うくらいには驚いた。
すぐ行く! とだけ言い残して電話を切り、急いで荷物をまとめる。
「お、どうした? 急な仕事が入ったのか?」
「それどころじゃねぇ! ラーメン屋が爆発した!」
「……ん? ラーメン?」
困惑する勝舞を残し、勝太はオフィスを飛び出して1階のカフェに駆け込んだ。
女子生徒に頭を撫でられ、デレデレしているカツドンを横からかっさらう。
「わりぃ! ちょっと急用なんだ!」
「カツ!? カツカツカツ!!! ドンドンドンドン!!!!!!」
せっかくべっぴんさんと戯れとったのになにするんや! とかのたまうカツドンを一発殴って黙らせ、今度はでこちゃんのもとへ。
「でこちゃあん!!! 緊急事態だ、アビドスまで"あれ"頼む!」
「わかったわ! まっかせなさい!」
店員不在の立札を置くと、るるは勝太より先にカフェを飛び出していく。
やがて外からメキメキメキという音が聞こえ、周囲がざわつき始める。
外に出ると、そこにいたのは木を一本へし折りながらも何食わぬ顔をして立つるるの姿があった。
野次馬に来た生徒が、衝撃的な光景に白目を剥いて絶句する。
カツドンを抱えたまま、勝太は折れた木にまたがった。
「父ちゃん? そんなに急いでどうしたの?」
「柴関ラーメンが爆発した! わかったら早く乗れ!」
「柴関ラーメンが……!? そんなこと聞いたら、行くしかないよ!」
でこちゃんから昼食のカレーパンをもらいでかけようとしていたジョーだったが、ラーメン屋の爆発を知りアビドスへ行くことを決めた。
「ところで父ちゃん。俺たちが木にまたがってるのって、まさか……」
「ああ、そのまさかだ」
腹くくれよ、とだけ言い残して、勝太はジョーを胸の中に収めながら木の幹を両の手でつかむ。
ジョーも父親にならってしっかりと幹をつかんだ。
「んぅ…………えぇーい!!!」
かわいらしい掛け声とは裏腹に、起きた出来事は想像を絶するものであった。
腕に力を込めたるるが、片腕で勝太ごと木を投げ飛ばしたのである。
「「ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」」
2人の悲鳴が瞬く間に遠ざかり、やがて聞こえなくなる。
目撃していた生徒は、のちにクロノススクールからの取材を受けた時に語った。
あれは人間がやっていい技じゃない、と。
キヴォトス人が言うのだから相当であった。
~~~~~~
同時刻、アビドス市街地にて。
戦況は混迷を極めていた。
ことの始まりは、ハルカが早とちりで柴関ラーメンを爆破したのに由来する。
怒りに燃えるアビドスは便利屋と戦闘を開始、そしてそのさなか、便利屋を捕まえに来たゲヘナ学園風紀委員会が現れるのだった……。
「イオリ、あの方たちはどうします?」
「ん? あぁ、アビドス、だっけ。そんなやつら、私たちの公務を妨害するなら全員敵だ」
「……事情を説明するのが先だと思うのですが」
小隊を率いている、銀鏡イオリと火宮チナツはそんな会話をかわす。
『……風紀委員会との戦闘に突入すれば、政治的紛争に発展しかねません。一番穏便な策は、便利屋を彼女らに引き渡すことでしょうけど』
「そんなことするわけないでしょ! 柴関を爆破したツケは払ってもらわないと!!!」
「それに、他校の領地で許可なく戦術的行動をとることは、アビドスに対する権利の侵害です。ここで引くわけにはいきません! 」
「結論は出たね。風紀委員会を阻止しよう」
セリカ、ノノミ、そしてシロコは意見が一致したため臨戦態勢に入る。
3人の判断を聞き、アヤネも決意してサポートの準備を始めた。
「……アビドスの生徒たちが臨戦態勢に突入しました」
「面倒だな。まあ、邪魔するやつらは全員叩き潰すけど」
対策委員会が、風紀委員の小隊との距離を詰めていく。
イオリは仏頂面のまま体勢を整え、チナツは半ば諦めたかのように溜め息を吐いた。
そして小隊が発砲し、戦端が開かれる――――――とはならなかった。
『待ってください! 上空から何かが接近しています!』
「まさか、ミサイルですか!? 風紀委員会はそこまでして便利屋を?」
『いえ、違います、これは…………え?』
飛来してきたものの正体を確認したアヤネは、思考がフリーズし素っ頓狂な声を出す。
その様子から何やらやばそうな気配を感じたアビドスの面々は、互いに顔を見合わせたあと示し合わせたかのように全力で後退した。
「今更逃げようったって遅いぞ!覚悟しろ!」
対岸の空気を察せないイオリは、いつものように敵陣に突っ込もうとして――――――。
「「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!!!!!!!!!」」
「ええええええええええええ!!!???」
突如現れた大木の墜落に巻き込まれる形となった。
ドゴーンというけたたましい爆音を立てて、交差点の真ん中に木の幹が突き刺さる。
その場にいた全員の表情が驚愕に染まるなか、ただ一人アヤネは道路の修繕費のことを考えて絶望していた。
やがて煙が晴れると同時に、木から人影が飛び降りてくる。
「カレーパンマスク兼シャーレの先生! 切札勝太!」
「さすらいの絵描き! 切札ジョー!」
「「切札親子、ここに参ジョー!!!!!!」」
ふっ、決まった………… と言わんばかりにやりとしながら、一昔前のヒーロー番組にありそうなポーズをとってバカ2人が降り立った。
呆れと困惑で全員声も出ないなか、勝太は見知った顔を見つけた。
「……ん? チナツじゃねぇか!!! おーい!!!!!!」
ぶんぶんと手を振りながら勝太が接近してくる。
え、チナツさんあのバカっぽいのと知り合いなんすか・・・・・・? 的な視線が突き刺さるのをチナツは感じてしまった。
しかし知り合いからの好意的なあいさつをむげにはできない。
「…………先生、その、こんな形でまたお会いすることになるとは」
「あー待て待て言わなくてもわかる。おかしいことやってる自覚はあるから安心してくれ。常人は木使って空から降って来ねぇよ」
じゃああのノリノリでやってたポーズはなんなのか、あれは常人でもやるのか、という無駄な思考をチナツはばっさり切り捨てた。
「いやー、まさかアビドスで会うとは思わなかったぜ! これなんだ? みんな同じ委員会のやつらか? あいさつとかした方が…………」
「あの、私から言うのもなんですけど、世間話をしている状況ではないかと」
「ん? ……そうだ、柴関!!!」
本来の目的を思い出してラーメン屋があった方を振り返る。
木っ端みじんになった柴関の残骸を目撃し、さすがの勝太もおしゃべりをやめた。
「そんな、ひどい……。誰がこんなことを!」
「便利屋のやつらよ! あいつらが柴関を……!!!」
「アルちゃんたちが…………? どうして」
ジョーからしたら、アウトローとか言ってはいるけど、根っからの悪人じゃなくて普通に気のいい人たちだな、くらいの認識だったのである。あのゼーロが大人しく彼らと過ごしているところからもそれが言えた。なんならカードを強奪してくるウサギ団の方がひどいまである。
しかし、アルたちはなぜ柴関を爆破したのか? 彼女たちのねらいはアビドスであり、柴関には何の恨みもないはずだ。むしろ恩しかないだろう。
「ま、本人たちに聞くしかねぇだろ。わざとなら説教するまでだ」
からっとした口調で勝太が言い放った。
「ちょっ、先生っ!!! あんたねぇ……」
「落ち着けよセリカ。決めつけるのはまだ早いぞ、誤解があるかもしれねぇ」
「ぐぬぬぅ……でも……」
「いや、先生の言う通りだと思う。私たちを狙ってるのに、いないタイミングで爆破するなんておかしい。間違えたんじゃないかな」
「シロコ先輩まで!? いやでも、そう言われてみると……そんな気が……?」
煮え切らない様子のセリカだが、結果的に自分のアルバイト先を潰されたのだ、無理もない。
勝太はそう納得すると、風紀委員会に向けて向き直った。
「まあそういうわけだ。俺らはアルたちに用があるもんでな、たいそうな人数で来たとこわりぃけどまた今度にしてくんないか」
「…………認めるかそんなもぉおん!!!!!!」
交差点に空いた大穴の方から声がした。
見ると、大木と穴の隙間から誰かがはい出てきているではないか。
「い、イオリ!? 交差点の崩落に巻き込まれていたのですか……」
「気付くのが遅いよチナツ!!!」
同僚に気付かれていなかったことにショックを受けるイオリ。
彼女はそのまま穴からはい出ると、勝太の方へ怒りながらずかずかと歩いてきた。
「こんなめちゃくちゃな登場の仕方したやつが"先生"とかバカにしてるのか!? お前の指図なんか受けない! 便利屋は私たちの獲物だ!」
道路の崩落に巻き込まれたこともあり、イオリは勝太に敵意むき出しである。
まさに一触即発。ピリピリとした空気が流れるなか、先に沈黙を破ったのは勝太だった!
「イオリ、だっけか。確かにお前の言い分もわかる。アルたちはゲヘナの生徒で校則違反者だもんな。だったら――――――」
徐に勝太は腰に手を伸ばす。
そこにあるのはもちろん、デッキケースだ!
「デュエマで勝負だぁ!!!!!!」
沈黙。
風が一筋、ヒュオオー、と鳴りながら吹きそうな雰囲気である。
しかし勝太は大真面目であった。なんせ今まで、問題ごとはデュエマで解決してきたのだから。
「誰でもいい、風紀委員会の方が勝ったらアルたちを連れてけ。俺が勝ったら、アルたちの処遇は俺とアビドスで決めるっ!!」
「チナツ、こいつ撃っていい?」
「……だめです」
おちょくられていると感じてさらに怒りを増したイオリは一周回って冷静になった。
発砲するか問われたものの、チナツはさすがに制止した。 相手がキヴォトス人なら一発くらいよかったかな、と思ったが、よりによって勝太先生だったためである。
「……父ちゃん、いまはクロスオーバー小説なんだよ。しかもキヴォトスに俺たちがお邪魔してるわけだから、デュエマで決着つけるなんてまかり通らないんだよ……」
年下の子供に言い聞かせるような口調で、ジョーは父親に語って聞かせた。
さすがの勝太も冷え切った空気を感じ取り、彼の頬を脂汗が伝った。
「……………………デュエマで勝負だぁ!!!!!!」
「2回言った! 撤回しづらくて2回言った!」
主人公たるもの、ここで退くわけにはいかなかった。
久しぶりに大人げない意地を張っているが、こっちにだってプライドがあるのである。
「なんだこいつ。さいこークラブなんかよりよっぽどのデュエマバカじゃん」
「後に退けなくなっただけだと思いますが」
的外れなイオリの感想にチナツがツッコミをいれる。
戦況は完全に停滞した。勝太やジョーが生身のために、下手に爆撃できないのが主な理由であった。
「おいそこのデュエマバカ。普通の人はデッキを持ち歩いたりしないんだよ。カードゲームって屋内で座ってやるものだろ、普通」
目を真ん丸に見開きながら勝太は驚愕した。相手がデッキを持っていない可能性などみじんも考えていなかったからだ。
さすがはキヴォトス、自分たちの常識がことごとく通用しない。
勝太は変な形でキヴォトスへの評価を上方修正することになった。
ちなみにアニメ中学生編の初回で本人もデッキ持ってない事件を起こしたのだが、そんなことは忘れていた勝太である。
「……しゃあねぇから銃撃戦で決めるか。ほら対策委員会、指揮するから位置についてー」
「そんなしぶしぶ見たいな感じにされても士気上がらないわよ」
セリカの冷静な指摘が痛い。
とりあえず身の安全を確保するため、ジョーを連れ後ろに下がろうとしたのだが。
『そんなにデュエマがしたいのであれば、私がお相手しましょうか?』
風紀委員会側からそんな声がする。
通信を飛ばしてきた人物は、風紀委員会行政官、天雨アコであった。
「あ、アコちゃん!? 何を言って…………」
『よく考えてみてください。このままアビドスの生徒たちとの戦闘に突入し、無駄に弾薬を消費するより……カードゲームで1回勝つ方が効率的だとは思いませんか?』
「そう言われるとそんな気がするような……? しかしアコ行政官、デッキお持ちでしたっけ」
「…………委員長が始められたので、私も用意しました。ええ、ええ仕方なく」
「……あの人、まるでデッキを用意したのが悔しくてたまらないみたいな言い方するね」
ジョーの推測は正解である。
敬愛する委員長があのバカどもとつるむようになり、あまつさえデュエマまで始めてしまったのがアコからしたら大問題であった。
しかしヒナが息抜きの手段および趣味、そして委員会以外の居場所を見つけられたのだと思うと嬉しくもあり……。
「えーと、お前いろいろと苦労してんだな」
『…………はっ、ええ、ええ、お見苦しいところをお見せしました。確かあなたは「シャーレの先生」でしたか』
ぐぬぬと言いたげな顔をしながら歯を食いしばりデッキを握りしめていたアコであったが、勝太からの労いを受け我に返った。
「とにかく、そっちに話がわかるやつがいて助かったぜ。んじゃあ早速……」
『待ってください』
「ん?」
意気揚々とデッキをシャッフルし始める勝太。
しかしアコからの横やりが入った。
『そちらの希望を通したのです。こちらの要求も聞いていただかなければ』
「便利屋の引き渡し以外に、何かあるっていうのかよ」
『ええ…………この際ですから単刀直入に申し上げます』
そう前置きしてアコは告げた。
『私が勝った場合……先生には風紀委員会と一緒に来ていただきます』
アビドス側から驚きの声が漏れる。
いわく、トリニティとエデン条約の調整中である今、不確定要素であるシャーレの存在は風紀委員会にとって心配事のうちの一つである。
そのため、条約締結まではシャーレを囲おうという狙いがアコにはあったのだった。
「…………やっぱりね。私たちをとらえに来たわけじゃなかったんだ」
『あら……そういえば、便利屋にはあなたもいたんでしたね、カヨコさん』
ムツキとカヨコ、それからアルが連れ立って現れた。
ほどなくして風紀委員会の方から悲鳴と爆音が聞こえた。
ハルカが暴れだしたのである。
「……まったく、こちらはもう銃撃戦をする気はなかったというのに」
避けられたはずの被害が起こり、アコは溜め息を吐いた。
「言っておくけど、あんたなんかがシャーレの先生に勝つのは無理だよ。この人ゼーロに勝ってるし」
さすがのアコにも動揺が走った。
時折便利屋に入り浸るようになってから、ゼーロのことは要警戒対象としてできる限り調べてあった。
直観的でありながら卓越したデュエマの腕を誇る、と情報にあったため、そんな存在に勝ったらしい先生のことも警戒せねばならなくなった。
『……はぁ、厄介なことになりましたね』
「アコ……とか言ったか? 俺は負けねぇよ」
自信満々に勝太は笑う。
「お前になくて俺にあるもの……、見せてやるよ! 一戦一戦全力な、激しく熱かりしデュエリストの魂ってやつをなぁ!!!」
切札勝太 VS 天雨アコ
デュエマ、スタート!
そんなわけで始まった勝太とアコのデュエマ!
先攻、アコは呪文でマナを加速。
一方の勝太はテスタ・ロッサを出し手札を交換する。
先に動いたのはアコだった!
『…………私のターン。『ヨビニオン・マルル』を召喚! そして、『ヨビニオン』を発動します!』
「あ? よびにおん?」
初耳の単語に勝太は困惑する。
******
「とここでこの俺、タコアザラシのゲンが説明しよう」
「ヨビニオンを持つクリーチャーが召喚されたとき、山札をめくり、それよりコストが小さいクリーチャーをタダでバトルゾーンに出すことが出来る」
「この能力をうまく使えば、好きなクリーチャーを確実に呼び出すことが出来ますよ!」
「その通り、例えば『ヨビニオン・マルル』はコスト4。デッキの中のコスト3以下のクリーチャーを1種類にしておけば、そいつを確定で持ってこれるってわけだ」
「以上、コトリとゲンさんの解説コーナーでしたっ!」
早くも意気投合したコトリとゲンさん!
解説コーナーの未来は安泰だ!
***
『ヨビニオンにより、『天災 デドダム』をバトルゾーンへ! デドダムの効果により、山札の上から3枚を手札、マナ、墓地へ。さらにマルルの効果でもう1つマナを溜めます』
「へぇ! こんな便利なカードがあったのか、すげぇな!」
これだけマナの数で大差をつけたのに、勝太は余裕そうだ。
『ずいぶんと余裕ですね?』
「マナに差があるくらいで動じねぇよ。というか俺からしたら、ガチ初心者っぽいお前がそんなに余裕そうなのが不安だよ」
『それはそうかもしれません。ですがプレイングを間違えなければ、勝利の可能性は極めて高いかと』
「ほぉ? 面白れぇじゃん。やれるものならやってみろよ」
『そちらこそ、初心者だからと舐めておいででは? ジャイアントキリング、という言葉をご存じで?』
見え見えの挑発をする勝太だが、負けじとアコも煽り返す。
しかし額に青筋が浮き始めたのはアコだけだ。
勝太の方は全く動じていなかった。
「…………アコちゃん沸点低いからなぁ」
「ちゃんと勝ってくれるといいのですが」
イオリやチナツは、アコが分が悪そうな勝負に出たため気が気ではない。
特にチナツに至っては勝太のデュエルを一度見ているため、余計アコのことが心配であった。
煽りにイラつきながらも思考を巡らせるアコ。
あれだけ余裕なら次のターンに大きく動いてくると思ったが、予想に反して勝太はミュートを召喚。
したのはまたも手札交換だけであった。
「せ、先生!? ほんとに大丈夫なんでしょうね……」
「先生には余裕があります。きっと勝算があるんでしょう」
「……でも、さすがに手札事故を疑う」
アビドスのメンバーが口々に言う。
そんななかアヤネは、こちらも自信満々なジョーと会話していた。
「だいじょーぶだよ。父ちゃんバカっぽいけど、デュエマのことに関しては頭まわるんだから」
『……たしかに、ゼーロさんと戦ったときもそうでしたけど』
そして、アコのターンが回ってきた。
『では、チェックメイトといきましょう。呪文!『ロスト・Re:ソウル』!』
不気味な骸骨頭の死神が現れ、勝太に向かって鎌を振り下ろす。
しかしその狙いは、勝太の手札だ。鎌に刈り取られたカードは、静かに墓地へと落ちていく。
これで相手のリソースは刈りつくした。あとはゆっくりと詰めていけばいい。
そう考えるアコだったが――――――。
『……この状況、明らかに私が優勢のはずですが……』
「いいや、まだ勝負はわかんねぇよ」
そう言うと、勝太は
捨てられたときにバトルゾーンに出せるクリーチャーである!
さらに
「俺のターン! まずはキャロルを破壊して、手札を捨てる! これにより、
『しゃあ、俺の出番だぜぇ!!!!!!』
勝太の相棒、カツキングが新たな姿で登場する!
「さらに呪文!『
ドォロドロドロドロドロ、ドロオォォォ―――!!!!!!
「しゃあ、来たぜぇ!
「ななな、なぜぇ!?」
マナチャージもしてない状況下で、トップで引いたドローカードから7コストの化け物が飛び出てきた。
クロスファイアは、墓地にクリーチャーが6体以上いればタダで召喚できるのだ!
「そんなカードをいま!? このタイミングで!?」
「なぜ、と聞かれたら答えなきゃな。それはなぁ……」
「そ、それは……?」
「俺が! 切札勝太が! この小説の! 主人公だからだぁ!!!!!!」
「はああああああ!!!???」
意味不明な理屈に対して、怒りと困惑がないまぜになった叫びをアコがあげる。
「しゃあ! 一斉攻撃ぃ!!」
カツキング、クロスファイア、テスタロッサの3連撃!
これによりアコのシールドはすべて吹き飛んでしまった。
「トリガー……それか、G・ストライク…………あ」
間の抜けた声を上げて、アコがへたり込んだ。それが答えである。
「ミュートでとどめだぁ!!!」
「いやああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
~~~~~~
「はーっはっはっは!!! 見たか、これが!!! 主人公だ!!!」
『さっきからしつこいですね!!! もう十分わかりましたともあなたの主人公補正とやらは!!!』
「……アコちゃんまたキレてる」
自信たっぷりだったのに普通に負け、さらには煽られまくったせいでアコは怒り散らかしていた。
誰の目から見ても、先生を甘く見た結果だとわかるため逆切れしているようにしか見えなかった。さすがのアコ本人もしばらくして気付くのであった。
『…………まあ、私が先生のことを甘く見ていたのは確かに事実です。今回は私の負けですね』
「にひひっ、次に俺とデュエマするときまでにもっと腕磨いとけよ?」
『は? 誰があなたなんかと――――――』
「おぉ? いいのか? 風紀委員会の行政官サマが、こんな大人に負けっぱなしでよう?」
勝太は久しぶりに調子に乗っていた。アコや風紀委員会と友好関係を結ぶ、という打算もあったが、そんなことよりも煽られたアコのリアクションが面白いのが理由である。
『ええ、ええいいでしょう!!! 次に会ったときは完膚なきまでに叩き潰します!!!』
「いいや、次も俺がかぁつ!!!」
そのやり取りを、他の面々は呆れ顔で見つめていた。
私たちは一体何を見せられているのだろうか…………。
そんな思考をその場にいるほぼ全員がしていたのである。
「……でアコちゃんどうするの。大人しく帰るのか、約束破って進軍するのか」
四方に待機させておいた軍勢を使えば、アビドスと便利屋を一網打尽にし、先生を捕縛することは可能だろう。
しかしその結果シャーレからの心証が悪くなれば、風紀委員会ひいてはゲヘナ学園が不利な立場に追い込まれる可能性すらある。なにせシャーレは、あの連邦生徒会長が組織し、強い権力を有しているのだから。半永久的に先生を拘束していれば問題はないが、現実味がない。
『…………さすがの私も、そこまで性格は悪くありませんよ。全隊に帰還の準備をするように伝えてください』
それを聞き、対策委員会と便利屋は安堵の表情を浮かべた。
「……そういえばアヤネちゃん。今更かもしれませんけど、ホシノ先輩とは連絡つながりましたか?」
「いえ……いつもならこんなにつながらないことはないんですけど……」
~~~~~~
「――――――あなたに、決して拒めないであろう提案をひとつ」
そう前置きして、目の前の得体のしれない存在――――――ホシノは「黒服」と呼んでいる――――――は、書類を一束目の前に置く。
「…………私がお前たちの側につけば、借金の半分を負担する、ねぇ。そんな提案、私が受けると思ってるの?」
私がいなくなったら、アビドスは――――――対策委員会のみんなはどうなる?
アビドス生徒会最後の一員として、ホシノには学校を守る義務がある。
カイザーPMCに加入するなんて選択肢は存在しないのだ。
「こちらとしては破格の条件を提示したつもりでしたが……まことに残念です。ですがもし気が変わったら――――――」
「そんなことはありえないよ。じゃあね」
アビドス入学当初から、黒服はホシノのことを何度も勧誘してきた。
単にホシノの兵力を求めているのか、それとも何か別の狙いがあるのか。
(まああいつの誘いに乗ることなんてないから、私には知る由もないね)
そう考えながら、ホシノは踵を返してその場を去ろうとした、その時だった。
交渉の場に、予期せぬゲストが現れたのは。
「おやおや、だめですよ黒服さん。そのようなまどろっこしいやり方では」
「…………誰です?」
帰ろうとしていたホシノは、部屋にやってきたその男と真正面から向き合う形となった。
なんとも奇妙な風貌だ。
白と黒、ツートンカラーのタキシードを着こみ、黒い髪は逆立っている。
しかしなにより目を引くのは、その皮膚の色。紫と緑が混在した異様なものであった。
「…………ごめん。私この部屋を出るから、『黒服』さんとごゆっくり――――――」
「いえ、用があるのはあなたにですよ、『暁のホルス』さん」
「……っ!?」
嫌な予感がして足早に立ち去ろうとしたホシノだったが、立ちふさがったタキシード男に彼の狙いは自分だと告げられる。
彼と目が合ったホシノは、その赤い瞳に何か異様な執着のようなものを感じ取った。
「…………ごあいにくですが、現在ホシノさんとの交渉は私とカイザーPMCが行っておりまして。お引き取りいただければ幸いなのですが」
「失礼ながら、先ほどの密談を拝聴しましたが……交渉は上手くいっていないようですね?」
「…………」
タキシード男からの指摘に、痛いところを突かれた黒服は押し黙る。
調子づいた男は、身振り手振りを交えながら雄弁に語り始める。
「交渉などということをしているからダメなのです! いつの時代であっても、『弱肉強食』こそが絶対の原則! ――――――欲しいモノは、力で奪えばいいのですよ」
その場の空気が冷えるような、奇妙な感覚。
否、ホシノの肌に鳥肌が立っているだけだ。
「そもそもこのキヴォトス自体、なんでも銃撃戦で解決しようとする猿ばかり…………。まさに『弱肉強食』ではありませんか?」
「……それで私を拉致しようって? とんだ暴論だね」
盾と銃を構え、ホシノは男から距離を取る。
そのまま後ろ脚で勢いをつけ、窓を突き破って飛び降り脱出を――――――。
「――――――しようとしていたのですか。素晴らしい判断力です」
「え」
次に取ろうとしていた行動を言い当てられ、ホシノの思考が一瞬フリーズする。
男はその隙を見逃さず、
ホシノの背後は塞がれてしまった。
「…………どういうことですか、理事」
「なぁに、簡単な話だ黒服。君の提示した条件より、彼の提示した利益の方が、我々にとって都合が良かったというだけのこと」
「……何だと?」
部屋に現れたカイザー理事は、遠回しに黒服との協力関係の解消を宣言する。
そして、新たなる取引相手を呆然としているホシノたちに紹介するのだった。
「紹介しよう。我々の新たな協力者――――――ジェンドル殿だ」