デュエル・マスターズ Aoharu Revolution   作:カレーパンパフェ

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決意と未来

「……ジェンドル?」

 

 ホシノにはその名前に聞き覚えがなかった。

 アビドスに入学してから早3年、その間カイザーPMCはしつこくホシノに対する交渉を続けてきた。

 黒服以外に有力な協力者がいたのなら、この3年間で姿を現していないはずがない。

 それに、あの黒服の雰囲気から察するに彼もジェンドルとは初対面だとわかる。

 

「お前は何者だ、ジェンドルとやら」

 

 普段は落ち着いた雰囲気の黒服が、発言の端々にいら立ちをにじませながらジェンドルと対峙する。

 

「落ち着いてください『黒服』さん。私とあなたは同志です。私はあの『ホルス』を実験材料にしたいのですよ」

 

「え」

 

 実験材料。

 そう称されたホシノはショックを受ける。

 が、それも一瞬だ。再び銃を握る手に力を込めた。

 

「さて、『ホルス』。手短にいいましょう。私の実験台になりなさい」

 

「それではいそうですかってなると思ってるの? 私はいなくなるわけにはいかないんだ!!!」

 

「ええ、ええそうでしょう。後輩たちのことが心配でしょうから。ですから、私は『黒服』さんよりももっといい条件を提示してあげましょう――――――借金を全額、こちらで負担します」

 

 ホシノは目を丸くしてジェンドルを見つめた。

 借金の、全額返済。

 自分がいなくなるだけで、あの子たちは借金地獄から解放される。さすがのホシノも、一瞬心が揺らいだ。

 そう、揺らいだだけだ。

 確固たる意志をもって、ホシノはジェンドルに言い放つ。

 

「断る。金額を倍にしようがいっしょだよ」

 

「…………ほぅ」

 

「借金をどうにかしたとしても、アビドスには砂漠化の問題がある。アビドス領に活気を取り戻す手段も考えなくちゃならない。さっきも言ったけど、私はここを離れるわけにはいかないんだよ」

 

 黙ってホシノの言葉を聞いていたジェンドルだったが、なにか納得した様子でうなづいた。

 

「なるほど、さすがは『大人』という肩書になんの価値もないキヴォトスだ。目先の利益に飛びつかず先を見据えているとは、あなたはずいぶん利口なようですね」

 

「褒められてもうれしくないよ」

 

 確かにホシノも、キヴォトスの「大人」は信用ならないと思っている。カイザーは言わずもがな、周りの大人も助けてくれずに離れていった。

 ――――――先生は、どうだろうか。

 そんな思考が頭に浮かんだが、すぐに切り捨てる。

 

「少なくとも、目の前に一番信用ならなくて汚い『大人』たちが勢ぞろい。『大人』に価値がないなら、あなたたちもそうだよね?」

 

「おやおや、これは手厳しい」

 

 さきほどのジェンドルの発言に反論するホシノだったが、彼に効いた様子はなく軽く受け流されてしまう。

 そして、ホシノにとって最悪ともいえる一手を放ったのだ。

 

「では、汚い『大人』らしい手段を取るとしましょう。――――――かわいいかわいいあなたの後輩が、無事に学園に帰れるといいですね?」

 

「……っ!?」

 

 反射的に、ホシノは引き金を引いていた。

 愛用するショットガンの弾が、卑怯な大人に向かって真っすぐ飛んで行き――――――。

 

「っ……」

 

「おやおや、あなたもいきなり発砲する猿なのですか? さきほどは冷静に判断していただけに、残念です」

 

 ジェンドルが右手に持つオーブが輝き、発生した次元の狭間に銃弾が吸い込まれる。

 彼はそのままオーブを使って、とある風景をその場に投影した。

 

「これは、シロコちゃんたちに、便利屋? ゲヘナの風紀委員まで……」

 

「…………おい、どうしたジェンドル」

 

 投影が終わってから、ジェンドルはぴくりとも動かない。その様子が気になり理事は声をかける。

 否、彼は眉間にしわを寄せ、こめかみがぴくぴくと動いている。

 ジェンドルは投影された風景のある一点を見つめていた。

 

「…………切札ジョー……切札ジョーオオオオオオォォォォォォ!!!!!!!!!」

 

 恨みと怨嗟のこもった絶叫。ホシノはおろか、カイザーや黒服ですら耳をふさいでいた。

 

「私の完璧な計画を邪魔した存在…………まさかあいつもキヴォトスに来ているとは」

 

「……ジョーくんが、ジェンドルと知り合い?」

 

 否、ジェンドルの態度から察するに、敵対関係にあったのだろう。

 しばらくして、彼は息を整えながら激昂状態から戻ってきた。そして冷静に状況を分析する。

 

(私のもとに水晶玉が戻ってきたということは、あのデッキケースが消滅したということか? それはつまり、彼がモモキングはおろか、ジョーカーズを失ったということ……)

 

 ジェンドルがディスペクターを生み出す力の源であり、次元を操ることすらできる水晶玉。

 かつての戦いで水晶玉をデッキーに吸収されたジェンドルは、それが決定打となり次元のはざまに吸い込まれることになったのだった。

 しかし彼がキヴォトスに流れ着いたとき、その手には水晶玉が握られていた。デッキ―がキヴォトスに居ないことが因果を揺るがしたと考えるジェンドルだったが、真相は闇の中だ。

 

(しかし…………やはりか)

 

 未来を見る力を行使したものの、やはり切札ジョーに関することは予測できない。それどころか、その場にはもう一人、未来を予測することができない変数がいた。

 

(切札勝太……切札ジョーの父親にして、最終禁断から世界を救った英雄)

 

「切札の血筋……どこまでいっても私の邪魔をするか!」

 

 苛立ちを露わにするジェンドル。

 彼はまたもオーブを使用して次元の穴を開いた。

 

「『ホルス』。さきほども言った通り、私はあなたの後輩、それから先生と切札ジョーを痛めつけに行きます。――――――今のうちに実験体になる覚悟を決めておいたほうがよろしいかと」

 

「っ待てぇ!!!!!!」

 

 ホシノは背を向けたジェンドルに再び発砲。

 しかし彼は次元の狭間に消えていき、銃弾は虚しく空を切る。

 

「っ!!!」

 

 ホシノは周囲のカイザーPMCを突き飛ばし、全速力で建物を出て行った。

 たとえ銃が効かなくとも、ホシノはいかねばならない。

 ――――――先輩は、後輩を守るものなのだから。

 

 ホシノを見届けたあと、理事は兵隊に撤退の準備をするよう伝えた。

 彼は自信満々といった様子で黒服を挑発する。

 

「……さて、黒服。我々との手が切られたいま、お前はどうするつもりだ?」

 

「あまり舐めないでいただきたい。あなた方と手を組んでいたのは、"小鳥遊ホシノをアビドスから引き離す"、その目的が一致したからに過ぎない。少々面倒ですが、私も舞台に上がるとしましょう」

 

 遠回しな言い方にうんざりとした様子の理事は、黙って部屋を出て行った。

 それを確認すると、黒服は一人呟いた。

 

「そちらが手を組む相手を変えるというのなら……こちらもそうするまでです」

 

******

 

『……では続いて、私たちの学園に無断で侵入したことに対する賠償の件ですが』

 

『それについては、後ほど日を改めて協議するというのはいかがでしょうか』

 

 便利屋の処遇が決まったことで、次なる論点は賠償へとスイッチした。

 アヤネとアコが舌戦を繰り広げているが、勝太にとってはなんのことかちんぷんかんぷんである。

 学生がするような会話じゃねぇだろ…………と思いつつ、学生が自治やってんだからしょうがねぇか、となった勝太である。

 

(……暇だな、ジョーでも誘ってデュエマするか)

 

 そう思い、息子に声をかけようとした勝太だったが――――――。

 

 突如視界が土煙に染まる。

 

「な、なんだぁ!?」

 

 驚いた勝太が煙を払うと、その目には粉々になったアスファルトが映った。

 

『せ、先生!? 大丈夫ですか先生!?』

 

『あ、アロナ? 一体何が起こって』

 

『攻撃されたんですよ! 私のバリアが間に合ったからよかったですけど……』

 

 襲撃された? 誰に?

 頭を切り替え、勝太は現状把握に努める。

 真っ先に確認したのは、息子のジョーだ。

 そのジョーは、まるでお化けを見ているかのように驚愕で目を丸くしていた。

 ジョーが見つめていた方向には――――――。

 

「…………久しぶりですねぇ!!! 切札ジョー!!!」

 

「…………ジェンドル…………なんで…………?」

 

 信じられないものを目撃し、ジョーはショックで呆然となる。

 一方、他の生徒たちは、ジェンドルの背後に立つそれを見ていた。

 ――――――光と闇、天使と悪魔。相反する二つの存在を無理やり連結した、醜悪なる存在――――――ドルファディロム。

 その6対の腕に、破壊と創造のエネルギーを溜めこんでいる。

 

「発言する時間も与えません。消えなさい」

 

 聖魔連結王が、そのエネルギーを解放した。

 放たれた"ドルファディロム砲"は、周りの建物を巻き込みながら勝太たちの方へ向かってゆく。

 とっさに勝太は、"大人のカード"を切ろうとして――――――その眼前を、一筋の燃え盛る光が通り過ぎた。

 

「イシュ・ボシェテ」

 

 閃光、轟音。

 激しい風が四方八方に吹き荒れ、耐えきれず勝太は目を瞑る。

 やがて風が収まった時、そこに立っていたのは――――――。

 

「……全員無事ね。装備は爆風でいくらかダメになったでしょうけど……命に代えるものではないわ」

 

『……ヒナ委員長? ……なぜ? それに、そのヘイローは……』

 

 空崎ヒナ。

 圧倒的な実力を持つ、ゲヘナ学園風紀委員会委員長。

 そのヘイローは黒くとげとげしく、差し色の紫が淡く光る何とも禍々しいモノだったが。

 現在の彼女のヘイローは苛烈な炎に包まれている。よく見ると、その炎の意匠は彼女の愛銃、デストロイヤーにも現れていた。

 ほどなくして、ヘイローも愛銃も元に戻る。

 

『まさか委員長、あのクロスギアとやらを使ったのですか!? あのような得体のしれないものを!?』

 

「そうしないとあの攻撃は相殺できなかった。仕方ない」

 

 心配で思わず声をかけるアコに対し、自分の身の安全など意に介さないヒナは淡々と応える。

 突然のヒナの登場に誰もが驚いているが、一番驚いているのはジェンドルだ。

 

「……ドルファディロムの攻撃が、相殺されただと……?」

 

「呆然としているところ悪いようだけど」

 

 目の前の敵と見定めた男に向かって、ヒナは宣言する。

 

「あなたに――――――真のデュエルを申し込む」

 

「「はぁ!!??」」

 

 勝太とジョーが即座に反応し、ヒナの下へと全力で走る。

 だがそれより、ヒナが天に向けて銃を撃つのが早かった。

 クロスギアが起動し、ヒナとジェンドル、ドルファディロムの周りにバリアが張られていく。

 勝舞が"天才"にリクエストした、戦いの余波から周囲を守るための機能だったが、まさか簡易的な真のデュエルの舞台にされるとは勝舞も思っていなかっただろう。

 

「まずいよ父ちゃん!」

 

「わりぃジョー! 置いてく!!!」

 

 ジョーに合わせて走っていた勝太だったが、そこから数段ギアを上げジョーを突き放す。

 そのまま今にも地に触れそうなバリアの境界に向けて、顔面からスライディングを決めた。

 

「おりゃさああああああ!!!!!!」

 

 間一髪、勝太はバリアの中に滑り込んだ。

 全身ぼろぼろだが、さしたる問題ではない。

 いきなり滑り込んできた大人に、さすがのヒナも驚いた。

 

「あなたは……?」

 

「おい!!! 真のデュエルなんか今すぐやめろ!!!」

 

 勝太は思わずヒナの肩を掴み、がくがくと揺らしてしまう。

 

「おいお前! 俺がやる! 自分の生徒に命かけさせるわけにはいかねぇ!!!」

 

「ははは……はははははは!!! 切札勝太よ! 残念ですが、一度宣言した真のデュエルからは逃げられないのです!」

 

「な……」

 

「そこで自分の生徒がドルファディロムに八つ裂きにされるところを、指をくわえてみていなさい!」

 

 デュエマの相手が切札親子のどちらかであれば、ジェンドルも苦戦を強いられただろう。

 しかし目の前にいるのはキヴォトスの原住民であり取るに足らない存在。

 ドルファディロム砲を相殺した力は気になるものの、デュエマでの対決であれば圧倒的にジェンドルが優位であると確信していた。

 

「……こんちきしょうめ」

 

 間に合わなかったことを後悔し、勝太が思わず膝をついた。

 自分が守るべき生徒に、命を懸け闘いをさせることになるとは、早くも先生失格だ。

 そう思っている勝太に、ヒナが声をかけた。

 

「まずは、ありがとう。代わってくれようとしてくれて……優しいのね」

 

 ヒナが口の端に笑みをにじませる。

 彼女は上着を脱ぎ、勝太の横に置いた。

 

「あなた、切札勝太よね? 噂によると、連坊捜査部シャーレの先生……。ねぇ、このクロスギアがなんで作られたか、切札勝舞から聞いてないの?」

 

 デストロイヤーに装着したクロスギアを指で示しながらヒナは勝太に尋ねた。

 

「それは、生徒がクリーチャーと戦えるようにって」

 

「そう――――――私たちも戦う」

 

 はっとして、勝太が目を見開く。

 

「あなたにとって、生徒は守るべき存在なのかもしれない。でもあなたたちは別の世界から来た人間で、いつまでキヴォトスにいられるかはわからないでしょう?」

 

「そうなったとき、まだクリーチャーがキヴォトスに残っていたら――――――そう考えると、あなたたちのお世話になってばかりではいけない」

 

 その身を勝太の方からジェンドルへと向け、力強い口調でヒナは、先生に言うと同時に、自分に言い聞かせるように言った。

 

「私たちも、自分たちの世界を守る。あなたたちと一緒に戦う」

 

 そのためのクロスギアだ。

 デッキに関しては、真のデュエルに使うこともあるだろうけど。

 新しくできた友人と楽しむのが主だ。

 あれだけの啖呵を切ったが、やはり怖いものは怖い。

 その恐怖を、デッキを固く握りしめることで振り払う。

 

『…………おい、ツノガキ』

 

 デッキから、声がする。

 

『妾を戦場に駆り出すのだ。敗北しようものなら、切り刻んで火鍋にするぞ』

 

 いつものうざったらしい声が聞こえて、肩の力が抜ける。

 このクリーチャーと出会ってからの月日は長くはないが、扱い方はもうわかっていた。

 

「はいはい、わかってるわよ、"女王サマ"」

 

 勝算はあるから安心して、とできる限り気休めになりそうな言葉を勝太に向けながら、フィールドにデッキを置き、ヒナがジェンドルを見据える。

 ジェンドルもまた、愕然とした様子でヒナを見ていた。このデュエルの未来を観測したところ、想定外の結果になった。

 ――――――未来が、見えない。

 

「あなたは、何者なのですか……」

 

「未来が見えない理由が知りたい? ジェンドル」

 

 ヒナの口から自分の名前が飛び出し、記憶を漁るジェンドル。しかし彼が分からないのは当然だ。

 ヒナの知識は、一方的なものなのだから。

 

「あなたは、過去に生きたクリーチャーしかディスペクターにしない。時を渡る力は自在なはずなのに、あなたは『未来』を見ないから、『未来』で生まれたこの子たちのことは予測できない。それが勝算になる」

 

「しかし、キヴォトスにデュエマが流通し始めたのはここ最近のこと。たとえ未来が見えなくとも、デュエマの強さを求めてきた私はにわかの猿などに負けませんよ」

 

 ジェンドルは、デュエマの強さを全ての価値基準とする男だ。

 だから、強い。

 一方のヒナは最近デュエマを始めたばかりである。それでも、友人たちから戦略を学んだり、寝る前に一人回しをしてみたり。決して戦いに使うためではなく、友人たちとの楽しいひと時のために、ヒナはデュエマを学んだ。

 時間も練度も敵わなくても、少なからず、デュエマに対する想いはヒナも持っている。

 だから、負ける気なんてなかった。

 

(それに、あの子も言ってたからね)

 

「逆転こそが、デュエマの醍醐味だって」

 

 

 

 

 




切札家の物語は、とある世界では漫画やアニメとして親しまれています。
ヒナちゃんが勝太やジェンドルのことを知っているのは、その世界の子から聞いたからです。

また、ヒナちゃんのデッキの予想とか書き込んでいただけると作者がそれ見てにやつけます。
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