入学して一か月が経った。相変わらず勉強は苦手だけれど、始まったばかりだということでかろうじてついていけている。そしてもうすぐ中間テストだ。いよいよ五月も半ばを迎え、ゴールデンウィークも先日終わってしまった。また学校に行って、勉強に精を出さなければならない。
そんなところで僕は、五月病を患ってしまった。学校に行くのが面倒になり、この日は学校をさぼってしまった。まだ入学して一か月しか経っていないし、来週からはテストだというのに何をやっているんだろう。
そう考えながらも僕はベッドの中で布団をかぶりながら、小説を読んでいた。学校をサボって読む本は最高だ、と言いたいところだが、罪悪感が少しある。そのせいであまり集中できずにいた。
僕は小説を勉強机に放ると、仰向けになった。家族には風邪で休むと言ってしまった以上、外に出るわけにはいかない。黙って部屋の中でじっとしているしかないのだ。だから天井を眺めながら羊を数えた。羊が千五百一匹、羊が千五百二匹。そうやってつまらない遊びをしていたところで、インターホンが鳴った。
家族は仕事に出ているので、僕が出るしかない。いくら風邪という建前だとは言え、宅配便の荷物を受け取りに出るくらいはいいだろう。
僕は跳ね起きて、急いではんこを持って玄関に出た。ドアのカギを回して戸を小さく開ける。そこには中村さんの顔があった。
「あれ。田野くん、元気そう」
「な、なんで中村さんが」僕は慌てて顔より下を戸で隠した。パジャマ姿を見られたくなかった。
「わたしたちって、結構近所に住んでるみたいなんだよね。今日先生が重要な書類を配ったから、わたしが代わりに田野くんちまで届けてあげようと思って、わざわざ来たんだよ」
「へぇ、そうなんだ」
中村さんに家がどこか教えたことあっただろうか。疑問が頭を掠めたが、中村さんが家に来てくれるのが嬉しくてどうでもよくなった。
「あげてくれない?」そういって中村さんは、戸を引いて家の中に入ってきた。家族がいないから別にいいのだけれど、まだ出会って一か月の異性の家に入ってくるとは。やけに無防備というか積極的というか。中村さんの考えがよくわからなかった。
とはいえ大事な書類を届けてもらった以上、文句は言えまい。僕はスリッパを用意すると、中村さんを部屋に招いた。
「へぇ、田野くんの部屋、結構きれいなんだね」中村さんは部屋を見回しながら言う。
「そんな見ないでよ」
変なものはなかっただろうか。いかがわしい本などはこのご時世、紙媒体では持っていないが、くしゃくしゃな服などを見られるのはやはり恥ずかしい。こんなこともあろうかと、前もって部屋を片付けておいてよかった。
中村さんはその場にしゃがみ込むと、本棚をまじまじと見ている。
「田野くんって結構本読むんだね」そう言うと、目についた一冊の小説を取り出した。
「わたしこれ読んだことある」
それは「しろいろの街の、その骨の体温の」という作品だった。
「珍しいね。知り合いでそれ読んだ人、初めて見た」
「うん。この作者の人が好きでさ。いろんな作品書いてるけど、中でもこの作品は印象的だったな」中村さんは小説をパラパラめくりながら言った。
その作品をじっと見る中村さんは、なんだか妖艶に見えた。何か意識をしているわけではないだろうけれど、なぜだか僕の目には特別に見えてしまう。それもきっと、その作品の内容のせいかもしれない。
中村さんが下を向いている中、僕はふと彼女の全身を見てみたくなった。
女の子座りをする彼女の短いスカートからは、艶やかな脚が覗いていた。膝はピンク色に染まっていて、毛一つない。僕とは違う、異性の脚だ。
上に目を上げていくと、太ももの付け根のあたりにスカートが挟まっているのに気付いた。スカートを穿いているのだけれど、彼女の下半身の形が浮き出ている。
そしてぐんぐん視線を上げていくと、ワイシャツの山なりになっているところが見えた。大きな双丘で、柔らかそうな胸だ。それから上に目を向けると、鎖骨のあたりが見える。改めて意識したことはなかったが、中村さんは二つボタンを空けているようだ。鎖骨のところに少し汗をかいていて、部屋のライトが反射して艶っぽくなっている。
僕は少し興奮してしまっている。意識しないよう気を付けたつもりだったが、自分の気持ちに抗うことができなかった。
そうして中村さんの顔を見ると、彼女は妖しい微笑を浮かべながら僕のことを見つめていた。
「ち、違う」と急いで否定した。
「違うって、何が?」
「何も見てないよ」
「わたしはまだ、何も言ってないよ」依然として中村さんは微笑を浮かべている。
その表情に僕は、余計に興奮してしまう。息が少し荒くなってしまい、彼女に気付かれてしまいそうなほどだ。
「んふふ」中村さんはやり返すように下の方を見てくる。僕の下半身のほうをだ。
そこで、自分の身体が熱くなっていることに気付いた。下半身のそれはかつてないほど滾っていて、痛みを感じるほどだ。
「痛くない?」
「痛く、ない」僕はごまかそうと思い、体育座りになった。
すると中村さんは「嘘つき」と言って、僕の膝を掴み、脚を開かせてくる。そこにはパジャマ越しに大きくなったそれが見えていた。僕は恥ずかしさのあまり顔を逸らし、目を瞑った。
中村さんは僕のそれを触ってきた。さわさわなでるように触れ、先端の部分をピンポイントで刺激してくる。僕はビクッと身体を震わせ、快感のあまり「くっ」という声が漏れてしまう。
中村さんはズボンを脱がせてくる。僕は抗わず、されるがままにすべてを受け入れた。そして下着姿にされ、少しだけそれを触った後、また下着を脱がせてきた。ついにそれは彼女の目に触れてしまった。
僕は目を開くと、中村さんが息を荒くさせていることに気付いた。それに顔を近づけてくると、いきなり先端の部分を舌で舐めてきた。
あまりの気持ちよさにそれはビクッと動いた。さらなる怒張を繰り返していき、とても赤くなっていた。
「大きいね」と中村さんは言うと、それを口に含みだした。口の中では舌でぐるぐる舐めてきて、水っぽい音が何度も鳴った。口の中で舐めまわされていると、歯にも当たった。少し痛みを感じたが、その快感を上回る気持ちよさに僕は身悶えた。もう耐えられそうになかった。
「待って、もうだめだ」僕は射精感を抱いたため、中村さんを離そうとした。しかし彼女は舐めるのをやめない。
口にそれを含みながら、「出していいよ」と言って、さらなる攻撃を繰り返してくる。そして僕は果ててしまった。
中村さんの口の中に精液が放たれる。口の中に出されたあと、ハムスターのように頬に精液を貯め、舌で味わい始めた。いくらかそうしたあと、ごくんと飲み込んでしまった。
中村さんはそうした行為を終えた後「お茶飲みたいな」と言って、ティッシュで顔に付いた唾液を拭きとっている。僕は急いで下着とズボンを穿くと、リビングに麦茶を取りに行った。
なんだ。なんなんだこれは。中村さんは、僕にフェラチオをしたのか。なぜだ? この好意は、僕だけじゃなかったのだろうか。僕は戸惑いのあまり、コップに注ぐ麦茶を少し零してしまった。
急いで部屋に戻る。中村さんに麦茶を渡すと、彼女はふぅと息をついて、服の乱れを整え始めた。そしてその場を立ち上がると、「じゃあわたし、帰るから」と言って、さっさと帰る準備を始めた。
「待ってよ。さっきのは一体……」と僕は疑問を投げかけた。
それに中村さんは「内緒だからね」と言って、悪戯な笑みを浮かべると、そそくさと部屋を出て行ってしまった。
あんなこと、誰にも話せるわけない。僕は戸惑いながら、中村さんの真意について考え始めた。
翌日、憂鬱な気持ちのまま登校した。中村さんと顔を合わせるのが億劫で、学校に行くのも嫌だった。
教室に入ると、中村さんは「おはよ」と片手を挙げた。それから顔を下に向けて、スマートフォンをいじっている。どうやら反応はそれだけらしい。
なんだ。昨日の出来事は夢だったのか? 現実に起きた話ではなくて、僕が欲求不満だったせいで起きたとてもリアルな夢だというのか。いやまさかそんな。
「中村さん」
「ん?」中村さんはこちらを振り向いた。
「昨日のあれって、実際にあったこと?」
中村さんは「あはは」と笑った。「夢だと思うよ」
「ああそう」
彼女はそう言うが、その答え方はどう考えても本当にあったことだ。そして気にしているのは僕だけ。なんでなんだ。あんなことがあったというのに、どうしていつも通りに振る舞うことができる。中村さんのことがよくわからない。そう思うのだった。