カメラと棒付きアメと   作:クロウズ

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 中学時代に黒狗と呼ばれ喧嘩していた霞黒の一部を載せます。


黒狗ー群れる事が出来なかった狂犬ー

「はぁ、退屈だ………」

 

 

 ベッドに寝転がってそう呟くのは、2ヶ月前に中学3年生となった火野霞黒という少年。肩甲骨の辺りまで伸ばした黒髪はボサボサで、紅色の両目は肉食獣の様に鋭い。まだ幼さの残る14歳のその頰には血が滲んだガーゼが貼られ、左の手首には包帯が巻かれている。

 

 

「……つーか、向こうのは高校だから退学食らったっぽいけど、何で俺まで1週間の謹慎受けなきゃいけないんだよ。今回のは俺は巻き込まれただけだっての……」

 

 

 平日であるにも関わらず家にいるのは、登校拒否や怪我の為の自宅療養ではなく、高校生と喧嘩をした所為の謹慎処分によるものらしい。しかもこうした謹慎処分は今回が初めてではなく、去年から何度もされているのだ。

 

 

「こっちは頰切られて利き手骨折までさせられてんのに……。退学じゃないだけマシだけどさ」

 

 

 彼が通っている中学校はそこそこ有名な学校であり、真面目な生徒が多いことが特徴だ。そんな学校の生徒である彼がこのような問題を起こして謹慎処分で済んでいるのは、学校の懐が広いということだろうか。

 だが、それでも腑に落ちないのだろう、霞黒は苛立ちを隠すことなく力は入れずに何度も部屋の壁を殴る。

 

 

「あーもうイライラする。それもこれも巻き込みやがったあいづっ!?〜〜〜っ!!」

 

 

 無意識の内に力が入っていき、さらに左拳で壁を殴ったようで怪我をしている手首に響き、そこを押さえてベッドの上をゴロゴロ転がる。さらにそのまま落ちて頭を強く打ち、悶える。

 

 

「……こ、このくらいじゃ泣かないぞ………っ」

「ただいまー」

「……ぅ?」

 

 

 玄関から聞こえてきた声に、目尻に溜まってる涙を慌てて拭うと部屋を出て玄関に向かう。今はまだ両親が仕事から帰ってくる時間ではないので、向かった玄関にいたのは2人の少女、隣に住んでいる不知火五十鈴と夢前春瑚だった。霞黒と2人は幼い頃から仲が良く、彼にとってこの2人は妹のようなものだ。

 

 

「おにーさん、ただいまー」

「お帰り春ちゃん、鈴ちゃん」

「ほら、黒兄。今日の分のプリント貰ってきたぞ」

「ありがと。わざわざごめんね鈴ちゃん」

「謝るくらいなら、喧嘩は止めて欲しいんだが」

「今回のは巻き込まれただけなんだってば」

「その割には、嬉々として喧嘩したと聞いたが?」

「あはははは……」

 

 

 五十鈴の向けてくるジト目に笑って誤魔化すと、プリントを受け取って適当にめくっていき、その中から謹慎処分を解く旨の書かれたものを見付けるとホッとする。もしかしたら退学を言い渡されるかと内心怯えていたからだ。

 

 

「良かったな、黒兄」

「おめでとうですよ〜」

「うん、ありがと。…………学校ではどうせ独りだけどねうっ!」

 

 

 ボソッと呟いたようだが2人には聞こえたらしく、五十鈴には足を踏まれ、春瑚には脇腹をつねられる。

 

 

「そんなこと言ったら、めっですよー」

「いくら私達でも怒るからな」

「もう怒っていえごめんなさい何でもないです」

 

 

 1週間自宅から出られなかったことを考えれば学校に行けること自体が嬉しい彼にとっては、独りだということなど苦でもないのだが、先程の発言はそういう問題ではないらしいので2人はお怒りのようだった。

 頰を膨らませて怒っていることをアピールする2人に苦笑し、霞黒は宥めながら明日からのことを考えた。

 

 

 

 

 

 

 そして、霞黒の自宅謹慎が解かれてから数週間が経過したある日。

 

  ざわ・・・   ざわ・・・

 

      ざわ・・・

 

 

 

「……結局、こうなんだよな」

 

 

 窓際の自席で頬杖を突いて窓の外を眺める。昼休みなため教室にいる生徒は少ないが、それでもいる数人の生徒たちは弁当をつつきながら霞黒の方を見てはひそひそと小声で言い合っている。

 

 

「この前の謹慎、また喧嘩してたからだって」

「知ってる知ってる。なんか去年からああなったんだよな」

「今じゃ付近の不良からは黒狗って呼ばれてるらしいよ?」

「あいつの前世、狂犬なんだろな」

 

 

(全部聞こえてるんだよ、言いたいことあるならはっきり言えっての……イライラする)

 

 

 思わず壁を強く殴ると、それだけで全員が押し黙る。その様子にも苛立った霞黒は、舌打ちをすると鞄を持って教室から出て帰宅を始める。廊下を歩いていても、他の生徒はすれ違い様に怯えた声を出し、通り過ぎるとあからさまに安堵の溜め息を吐く。

 

 

(なんでここまで怖がられるかな。お前らには何もしてないだろうが)

 

 

 イライラしたまま校門を出てまっすぐ帰宅はせずに街の方に出て甘いものを買って行きつけの雀荘に向かう。何かの気分転換にはこうして麻雀を打っていた。今日も苛立った気分を卓にぶつけようとしていると、

 

 

「いってーな……どこ見てんだガキ」

「……あぁ、すみません」

 

 

 見るからに柄の悪い2人組の1人とぶつかってしまい、絡まれる始末。ただでさえ機嫌が悪い霞黒にとってこれはさらにストレスが溜まるものだった。謝って通り過ぎようとしても、そうやすやすと行かせてはくれなかった。

 

 

「おいおい、ぶつかってきてそれだけかよ?こっちはすっげーいてーんだぞ?」

「今ので骨に罅が入ってたりしたらどうすんだよ?」

「………うざ」

「ああん?てめぇちょっと来い!」

「……っ」

 

 

 吐き捨てるように呟いた言葉に切れた1人が霞黒の腕を掴み路地裏に連れ込む。どんどん進み袋小路にまで行くと、投げるように手を離し壁際に追い込む。

 霞黒は抜け出せそうな所がないか探すも見当たらず、諦めて不良の2人組に向き直る。

 

 

「さあ、素直に財布出して土下座すりゃあ、許してやるぜ?」

「痛い目に遭いたくなかったらさっさとしな」

「………もし、断ったら?」

「そん時ゃもちろん、痛めつけさせてもらうぜ」

「なら、断ります。お前らみたいな馬鹿に渡す財布なんて持ってなくて」

「っ、このガキぃ………!」

「………っ!」

 

 

 霞黒の言葉に逆上した1人が殴りかかる。殴り飛ばされた霞黒を見て、後ろにいたもう1人が笑う。

 

 

「おいおい、いきなりすぎんだろ」

「クソガキが調子乗りやがって。女みてぇな見た目通り、女みてぇに弱いくせによぉ」

「……がっ、っ…!」

「ぎゃははは、やりすぎんなよ」

 

 

 うずくまる霞黒の背中を踏みつける男にそう言うが、止めることはなく自身も加わる。

 

 

「いった……でも、これで………」

「ああ?何言って…おうっ!?」

「ってぇ…!」

 

 

 2人の足を払ってこかすと、ゆっくり立ち上がって見下ろす。薄暗い路地裏では見え辛いがその目は狂気に満ち、口の端は吊り上がっている。

 

 

「俺が手を出しても、正当防衛になるよな?」

「何ふざけたこどっ!?」

「このガはぐぅ!!」

 

 

 起き上ろうとした男の頭を蹴り上げ、もう1人の男の腹に踵落としを叩きこむ。さらに2人の首を掴むと、爪を突き立てて持ち上げる。片手で持ち上げるには体格差から無理がありそうなものだがやすやすとやってのけ、まとめて壁に叩きつける。

 

 

「こっちはイライラしてんだ、ストレス発散に付き合ってもらうぞ!」

 

 

 新しいおもちゃを前にして喜ぶ子供のように目を輝かせて吠える霞黒に気味悪さを覚えるも、頭に血が上った男2人はそれぞれ鉄パイプとポケットナイフを持ち、襲い掛かる。しかし3人のいる路地裏はそれほど広くないため、2人の持つ得物はどちらも大きく振れば互いを傷つけてしまうため隙が多くなり、もたついているところを突いて、鉄パイプを持った男に体当たりをし、その男を踏み台にしてもう1人に跳びかかり、ポケットナイフを持った腕に噛み付く。

 

 

「いっ、ぎゃぁあああぁぁああ!!?」

「グルルルル……!!」

 

 

 ガリッと音がするほどに犬歯が深く刺さり、あまりの痛みに情けなく悲鳴を上げ必死に振りほどこうとするも、唸りながら食らいついて離さない様は、まさしく狂犬のようだ。

 噛み付いた腕から血がにじみ出てきたところでようやく離すと頭を思い切り殴りつけ、まだ意識があるもう1人へ狙いを変える。噛み付いた時に無理をしたのか、口の端が切れて血が垂れ、僅かに差し込む光に照らされより恐怖を感じさせるものとなった。

 

 

「ひっ、や、やめ……来るな………!」

 

 

 完全に戦意を失くして後退り懇願してくるも、聞く耳持たずと言わんばかりに1歩ずつ距離を詰める。さらに1歩踏み出そうとしたところで動きを止めて振り返り、そのまま止まったかと思うと舌打ちをして路地裏から去って行った。残された2人は数時間後に路地裏から出、数日は黒犬に怯えていたという。

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ……またやっちゃったなー………。これバレたら、さすがに退学かなー」

 

 

 現場から逃げた霞黒は重い足取りで帰宅し、自室のベッドに倒れこむと枕に顔を埋めてそうぼやく。今回は完全にやり過ぎたと自覚しているらしい。もし退学となった場合の事を考えてみるが、何かが思い浮かぶ前に考えることを止め、寝ることにした。

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

「で、結局バレたの?」

「いや、バレてはなかったみたいなんだ。意外なことに」

 

 

 当時の話をし終えて、エレナからアルバムを返してもらう。急に中学の頃の俺の話が聞きたいって言ってきたからアルバムも一緒に見せたけど、何でこの話したんだろ俺。まあ他に話せることが何もないから仕方ないんだけど。

 こんな話でも俺の昔話が聞けて嬉しいのか、エレナは満足そうな顔だ。

 

 

「そんな楽しくなかっただろ?」

「んー?霞黒くんの昔のこと知れたし結構楽しかったわよぉ?」

「わわ、解ったからいちいち抱き付くなっ!」

「も~、照れちゃってぇ。かわいいんだから~♪」

「当たってるから止めろって言ってるんだよ!」

「当ててるって言ったらぁ?」

「わざとかよ!?いいからはーなーせー!!」

「よしよ~し」

「ふにゃっ……やめ…………っ」

 

 

 振りほどこうにもしっかり抱き付いて頭を撫でてくる所為で、力が抜ける。うぅ……こいつの撫で方落ち着く………。やべ、気持ちいい……。話しながら思い出してきた黒い感情が霧散して………くぅ…………。

 

 

 

 

 

 この後眠りについた霞黒の寝顔を写真に収めるなどして堪能したエレナが観測されます。

 

 

 

カンッ




 あてーんしょーん、はろはろ~。何故か書いてしまったクロウズです。
 小ネタはどれを書こうか、本編は次どうしようか悩んでたらいつの間にかこんなお話が出来てしまいました。なんでこんなの出てきちゃったんだろう。
 喧嘩の描写はあれだけです。あれ以上多くしてしまえば文字数が大変なことになりますし、そこまで書くとくどいですしね。喧嘩時は殴る蹴るよりは爪を突き立てたり噛み付く方が多いです。



 うん、これ以上言える言葉がないです。
 ではこの辺で。はらたま~きよたま~。
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