「そうか、ヒルドルブは無事だったか」
「しかしザクは自爆されてしまった」
「いやいい。ヒルドルブの実戦データも取れたし、君達も無事だった」
ニューヤークに戻った俺をガルマは自ら出迎えた。
ガルマはどうにもヒルドルブを気にかけており、そんな描写が史実にあったかと俺は考えていた。
「ヒルドルブは僕が召致したんだ」
「あれは過去に不採用にされたと聞くが」
「それはジオンが戦争を始める前の話だ。今、地上侵攻をしているジオンには、モビルスーツという巨大な歩兵がいるが、その巨大な歩兵の進撃を支える巨大な砲兵が存在しないんだ」
なるほど確かにそれは納得がいく話だ。
史実においてヒルドルブはマゼラアタックという安価な戦車が開発された事も失敗作の烙印を押されるキッカケになっているのだが、そもそもマゼラアタックとヒルドルブではできる事に差がありすぎて比較対象にするには不適切なのだ。
当然、地球侵攻を考えていなかった当時、ヒルドルブは弩級戦車としての運用を想定しており、それならばマゼラアタックを数揃えれば十分だというのも頷ける。
ところがマゼラアタックはモビルスーツと運用するには、どうも足並みが揃わない兵器であった。
砲塔が動かないマゼラアタックを主力戦車として扱うには、連邦の主力である61式戦車には敵わず、またモビルスーツの支援兵器として扱うには、今度は足が遅すぎたのだ。
ジオンはガルマの言う通り、砲兵の役割をモビルスーツサイズでこなせる兵器がなかった。
「ヅダに砲を乗っけるのではだめなのか?」
「それではモビルスーツの機動性を削ぐ事になる。あくまでモビルスーツは歩兵の拡大版に過ぎない」
「餅は餅屋という事か」
「ああ。国力がないジオンだからこそ生産ラインは極力減らすべきだし、High-Low構想は前世代から行われてきたものだ。ヒルドルブはHighに属しながら退役戦艦の主砲を流用できるから、無駄がない」
ヅダのバリエーション機が出ないのはそういう理由だったかと納得した。
ザクと異なりある程度地上でも機動力を発揮できるヅダだからこそ、F型以降のバリエーションが中々出なかった訳で、それに加えてどうもジオンの上層部が史実よりも仕事をしているらしい。
無駄にモビルスーツの種類があるジオン軍の上も上であるガルマからHigh-Lowの話が出たのは驚きだが。
しかしいくらヅダがザクより優れた性能を持っているとしても、連邦の生産力でザクを作られては一たまりもない。
なにせ史実のジムですら、数か月もない中で数千も量産していたという説があるほどだ。
「だが連邦はザクを12機も纏めて運用していた。中隊規模だぞ?」
「ああ、ドズル中将もその話には驚いていた。僕が君を出迎えたのはそれに関する話もあったからなんだ」
「話?」
「君は非公式とはいえ初のモビルスーツ対モビルスーツの戦闘をしたパイロットになった。君の意見を開発部は欲しいってことさ」
そうか。ORIGINの鉄騎兵中隊との戦闘を除けば、モビルスーツ同士の初戦闘はこの場と捉える事もできるのか。
納得した俺を見たガルマは、その足をモビルスーツ格納庫へと向ける。
「つい先日、君宛てに試作モビルスーツが届いたんだ。これを使ったデータが開発部は欲しいらしい」
「試作モビルスーツ?」
この時期だ。順当にいくなら史実におけるグフに相当するモビルスーツだろうが……どうもグフの話は聞いたことがない。
史実のグフ採用時期は諸説あるが、一説には開戦当初から正式採用はされており、第三次降下作戦には投入されていたというのもある。
ところが俺は今のところグフというモビルスーツの噂は聞いたことすらない。
「それがこれだ」
格納庫に立ち整備兵による各種チェックを受けていたのは
「MS-04G 陸戦型ヅダだ」
「え、新型ってヅダなんですか」
「ヅダだが?」
まさかのここに来てヅダ。いや、またもやヅダ。
グフはジオニック製だから怪しいなと思っていたが、またヅダ。
「噂ではこのヅダは、更なる新型モビルスーツを研究する上での副産物らしい」
「副産物?」
「あの足を見てくれ。大型のレッグカバーが装備されているだろう?あれの下には大型のジェットエンジンが装備されている」
ガルマの今の説明でピンときた。
コイツはドムだ。ドムの試作機がグフをすっ飛ばしてワープ開発されてきたんだ。
「宇宙用の各部小型スラスターをオミットし、バックパックの大型ノズルスラスターも小型化。その分のエネルギーを脚部スラスターに回してる」
「ジャンプできる分はあるのか」
「もちろん。だが脚部スラスターはジャンプだけじゃない。連続稼働は30分と短いが、高速ホバー移動を実現している」
やはり。元々ツィマッドはヅダ以外にもモビルスーツを出している会社だ。
例えば水陸両用モビルスーツの元祖であるゴッグはツィマッド産だし、ドムはヅダに用いられたエンジンを改良してホバーを実現している。
史実ではそのエンジンの開発・改良に手こずってドムの開発が遅れたという話だったはずだ。
「それにしても詳しいな」
「当たり前さ。現場の兵士からの要求性能を纏めてドズル中将に提出したのは僕だからな」
何?これは初耳だ。
史実においてガルマ・ザビがモビルスーツ開発に携わっていたという話は無かったはず。
いや、ある意味で言えば、俺が士官学校で未来の兵器の構想を話しまくっていたのが変な方向に作用したのか?
「そ、それはすごいな……もしかしてヒルドルブも?」
「ああ。既に603の技術士官から受け取った評価報告書と改良案を開発部に送ってある」
同期であり上司であるガルマが優秀なのは、まあこちらとしては願ったり叶ったりなのだが、どうにも違和感が凄い。
確かにシミュレーションゲームなどで、ガルマが覚醒してジオンを率いるというIFルートはあるにはあるのだが、しかしながらガルマに対しての『甘さが抜けない“坊や”』という評価もまた多い。
”迷いの無いシャア”という最強シャアルートがあるのと同じように、このガルマは”甘さの無いガルマ”というルートを謎に辿っているのかもしれない。
「ソロモンで調整された陸戦型ヅダを3機送ってもらった。君はこれを受領し、少し遠出をしてもらいたい」
「遠出?」
「ああ。近々オデッサから進軍した部隊が北京にある連邦軍拠点を攻撃するらしい」
「この新型のテストを兼ねてそれに参加しろと?」
「マ・クベ大佐から苦言を呈されてしまってね。エースを遊ばせておくなと」
マ・クベの言うことも分かる。
北米戦線はかなり安定した戦線になってきている。
ガルマが行った、都市復興をはじめとする融和政策は現地民にも受け入れられ始めているし、何より中南米という細い道は、補給が細いジオンが連邦軍の侵攻を抑えるのに適していた。
キャリフォルニアベースも似たような状態な以上、俺はのんびりするぐらいしかやる事がなかった。
「そういうことならお任せください。ガルマ大佐」
「よせ……生きて帰ってくれよ」
宇宙世紀0079年5月22日
俺は、キャリフォルニアベースで鹵獲した連邦軍潜水艦を、モビルスーツ潜水母艦に改造したユーコンに乗艦し、北米を発った。
既に俺が知る一年戦争の歴史からは大きくずれている事に気づくのは、この後すぐの事であった。
≪≫
グランが北米を経った後のニューヤーク。その司令室では、モニターと会談をするガルマの姿があった。
相手はソロモンにいるドズル・ザビ中将。お互いに表情は険しかった。
「で、どうだったんですかドズル兄さん」
『ジオニックは黒だ。主力機コンペで敗けた分の負債を返そうと、連邦にザクのテスト機を3機渡していた』
「3機?グランが接敵したのは12機いた。それ以前に集積所で撃破したのを含めればもっとだ!」
『落ち着け……連邦はザクの量産に成功したのは間違いなさそうだな』
ドズルは諜報部を用いて産業スパイ紛いの事をした結果、渡った3機のザクのデータすら手元にあった。
だがその何れもが北米にいたザクとは見た目も何もかも違っていた。
連邦はザクをテスト機から改良して戦場に出している。
「ドズル兄さん。連邦がザクの量産程度で満足すると思いますか?」
『いや、ないだろうな。どこかでモビルスーツの開発と研究を行っているはずだ』
「やはりジャブローでしょうか」
『ジャブローでもしてるだろうが、宇宙空間でのテストは地球じゃあできん。宇宙でもしているはずだ』
ドズルの頭にあるのはルナツー。もしくはその近辺のコロニーである。
ルナツー近辺のコロニーサイドは2つ。サイド6とサイド7だ。
『コロニーは中立だが……』
「ジオンは恨みを買ってますからね」
『そうだ。案外中立コロニーの方が可能性があるかもしれん』
既に幾つものサイドを潰し、コロニー落としという禁忌の作戦すら行ったジオンは、地球市民だけでなくスペースノイドからも恨みを買っている。
それを痛いほど思い知っていたガルマは、幾度となくドズルに相談をしており、それを聞いていたドズルもまた、ジオンがスペースノイドからも刺される可能性を見ていた。
『サイド7にシャア、サイド6にサイクロプス隊を派遣する』
「キシリア姉さんとギレン兄さんには?」
『いや、俺はキシリアが今回のザク流出に絡んでると踏んでる。それに
コロニー落としを計画し、毒ガスまで使うように言ったのはギレンだ。それを実行したドズルはあの大量殺人を悔いており、またギレンが南極条約が無ければ第二次ブリティッシュ作戦を行おうとしていたのも知っていた。
そしてキシリアに対しても疑念を持っていた。これはジオニック社がザビ家と深い仲であることに起因しており、特に月面の工場と関わりを持ちやすく、またギレンに政治的対抗心を燃やしているキシリアに対してドズルは不信感を募らせていたためだ。
ガルマもその事は知っていて今の質問をしていた。
ザビ家は既に3つに分裂しそうになっていたのだ。
『ともかくだ。お前は地上の連邦とマ・クベの動向に気を配れ』
「分かってます」
『何か必要な物資があれば俺に言え。キシリアがマ・クベに融通を利かせてるように、俺も本国に掛け合ってやれるんだからな』
「ドズル兄さんにそう言ってもらえれば安心ですよ」
ギレン派、キシリア派という二つの派閥に加え、地上では既にガルマ派という派閥が自然と兵士と現地民の中で出来上がりつつあったが、それをガルマもドズルもまだ知らない。
ガルマは既に政治・軍事両面でジオンを引っ張り上げる器へと成長しつつあった。
陸戦型ヅダについて
本作独自の機体ですが、特性としてはドムと陸戦高機動型ザクを足して2で割った感じです
ヅダが正式採用されたことで、土星エンジン研究の予算が下りてドムの開発が早まってます